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デザイン構想論: モーフォロジー -カタストロフィー理論を応用した戦争と平和のアルゴリズム-

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現代社会においてデザインは極めて繁栄し様々な「造形」 があふれている。自然界にある造形物から,工業製品空 間建築物まで極めて多くのものがある。それらはすべて 「造形」を持っている。そうした様々な「造形」に対する 人間が抱くイメージは個人個人で異なる場合が多い。時に は正反対のイメージを抱く人もいるだろう。製品等の評価 においても同様で,ある製品に対するイメージは人によっ て違う。中でも,製品のスタイリング,つまり製品の「造 形」は人間の視覚に直接訴えかけてくるものであり,イメ ージの評価に占める部分は大きいであろう。 しかし,製品のスタイリングなどの形態の創造に関わる 分野では,デザイナーの職人的な能力が求められ,その能 力をシステム化することは極めて困難である。形態の創造 は一般的には人間の直感的な能力に頼るものが多く,理論 的な説明も困難である。 デザインの「機能」に関する研究は,ヒューマンインタ ーフェースやアフォーダンス理論に代表される認知科学や, 工学的アプローチにより近年めざましい発展を遂げている。 しかし機能以外の重要な要素であるスタイリングに関する 研究は,それほど進んでいないように感じる。近年のデザ インにおいても,スタイリングは昔ながらにデザイナーの 勘に頼っている部分が大きいと考えざるを得ない。 では,形態の視覚的要素に関して何の研究もされていな いかというと断言は難しい。心理学という研究分野が始ま った頃から,多くの研究者が形態に関する調査研究を行っ てきた。また近年では大脳生理学においても,形態と認知 の関係性は盛んに研究されているようだ。それでも形態と 人の認知の全体像が科学的な認証性を得るまでには至って いない。形態の視覚的認知要素の解明は容易なことではな いであろう。また,形態を語る際,形態を認識している人 の精神活動も包括して考えなければ研究は成立しにくいで あろう。そこでここでは形態の認識に関して,イメージか らのアプローチと経験からくるアプローチにより,部分的 にでも理論的な説明が可能ではないかと考え,記述を試み る。

1.カタチの分類 図 1図 2

形を表現する英語には,Form と Shapeの 2つの言葉 があるが,Shapeはある特定の個別的な形を指し,広義 の形体一般を指す場合には Form を用いる。簡単に言え ば, Shapeは単位となる形, 基本形であり, Form は Shapeが 2つ以上ある形態を指す。 我々の身の回りには,様々な形が存在する。木の葉や石 ころのような自然界の形,球,玉錐などの幾何学形体もあ れば,偶然できた模様などの形や,雲などの形の定まって いない形,動物のように滑らかな曲線を持つ形など,形の 世界は多様である。これらの形を分類すると図 1のように なる。形は大きく分けると自然界の作り出した自然の形と, 人間界の作り出した人工の形に分類できる。 またもう一方では,自然界に見られる形や人間がつくり うるあらゆる形, つまり実際に存在する形, 現実形体 (RealForm)と,幾何学で扱う円や楕円のように直接的に は知覚できないイメージの形である理念的形体(Ideal Form)という 2つの関係で分類することもできる(図 2)。 図 1:形の分類法 学苑 No.840(71)~(80)(201010)

デザイン構想論:モーフォロジー

 カタストロフィー理論を応用した戦争と平和のアルゴリズム

藤 澤 忠 盛

〔デザインノート〕

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あるいは形を定形と非定形とに分ける方法もある。幾何 学形体のように数的な秩序を持ち,再現性のある形を定形 とし,偶発的に生じた形やなめらかな曲線の有機的形体の ように数学的な規則性を持たない形を非定形とする分類で ある。 アートやデザインの世界では形が最終的な表現形式であ った。幾何学形体は定量的に量れる形体であるから,美術 やデザインからのアプローチよりも,ユークリッド幾何学 や微分積分を用いた数学としての研究が先行している。 ルネッサンス以降,美術や装飾にとっての形体はその副産 物としての視覚化にすぎなかったという歴史的経緯がある。 近代以降,デザインの世界においては科学技術による機 械生産への技術的依存と合理主義的思想をバックボーンと して,幾何学形体への傾斜を強め,その造形美をデザイン 分野に取り入れる試みが展開してきた。 キュービックスタイルはモダニズムという国際様式を 生み,工芸家具織物のモチーフ,グラフィックデザ イン,タイポグラフィのデザインはバウハウススタイル と呼ばれ,幾何学形体で埋め尽くされている。 本稿では形を理念的と現実的に分類し,さらに前者を定 形と非定形に分け,後者を自然物と人工物に分ける。 「造形」は,人工物,自然物,幾何学形体,想像上のも のまで,あくまで多岐に亘る。

2.形体と形態

辞書的に言うと,形体は,物事のかたち。単に外形の意。 また,人間のからだつきを指すこともある。形態は,ある 組織だった物事の外から見たかたち。組み立てられている 個々のものごとのありさま。心理学的には部分からは導く ことのできない有機的に複合したまとまりを指す。例えば 球や立体などのプリミティブなものは形体にあたり,生物 などの多くの要素を持つモノの形は形態にあたるであろう。 本稿では,概念的な単語として,「形体」は形そのもので あり不変的,「形態」は複雑に構成された変化的な形と捉 えている。

3.形とカタチ

「造形」について論じやすくするため,形とカタチの 2 つの表記を分け,若干違った意味を持たせることにしたい。 形は,例えばギザのピラミッドの形,メーカーごとのテレ ビの形,富士山の形,と言う際の形。つまり形は建築物や 製品,山などを具体的に示す形であり,その構造,機能や 用途,あるいはつくられ方,周囲の状況などと結びついた ものである。製品,建築物,彫刻のいずれにせよそれぞれ 具体的な形を持ちその形によってこれを見るものに一つの 総合的なイメージを与える。例えばピラミッドならば砂漠 の中に聳え立つ巨大な山のような建造物,風化してごつご つとした岩から成る四角錘がその形であろうし,ただの小 さな四角錘はピラミッドの迫力は持たず,人々の記憶には イメージされないであろう。もしピラミッドを知らない人 が小さな四角錘を見ても,巨大な石造のピラミッドを思い 浮かべることはないであろう。 次にカタカナのカタチは漢字の形に比べて抽象的な意味 を持つ。大きさや向きも持たない幾何学的なカタチという ことにする。野球のボールも地球も球形であるが,そうし た球のような具体的な内容を持たない抽象的なカタチをカ タカナのカタチで表すことにする。ピラミッドの例で言え ば,単なる四角錐で向きも大きさも考えないような概念が, カタカナのカタチということになる。この四角錘のかたち は,壁や天井の小さな突起や装飾でもよい,上下に連なっ てもよく,大小まぜこぜでちらばっていてもよい,そうし た具体的なものすべてに結びつくような四角錘のカタチで あり,そうした具体的なものから離れた抽象的なカタチで ある。カタチの代表的なものには,球や立方体,三角柱な ど,幾何学的な名称がついているが,実際には名称がない ようなカタチであったり,イメージの中にあるカタチはカ タカナのカタチとする。さらにここでは「形体」と「形態」 という言葉も織り交ぜ,適宜その場や状況に応じた使い分 けを行いたい。 図 2:形体を理念と実態で分類する

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4.幾何学的な形体と基本形

幾何学的な形体 我々の生活の中で一番単純な形とは何であろう。おそら くほとんどの人は丸や三角,四角を思い浮かべる。これは 2次元的な話で,3次元,つまり立体となった場合では, 球や立方体を思い浮かべるであろう。しかし,これらの形 は我々の生活の中で,球という製品,立方体という製品と して存在しているわけではない。我々の身の回りの生活用 品や製品は,何らかの機能を持っている。イスは座るとい う機能,テーブルは物を置き,テレビは見るなど,それぞ れが形と機能を持つ。イスには四角や丸があるが,四角や 丸という形が座るという機能を持つのではない。四角や丸 がそのような形の材料となり,イスとなってはじめて,座 るという機能を持つことになる。 バウハウス以降,デザインの世界において幾何学形体を モチーフとしたデザインが盛んとなった。機械工業生産方 式に適合した機能主導型の製品開発が盛んになるが,ここ では,機能を徹底的に追求していくと,ルイスサリバン の「形体は機能に従う」(Form followsfunction)の言葉ど おり形体は美しくなると信じられていた。そのため,装飾 は否定され,形状はシンプルになり,必然的に単純な幾何 学形体になった。バウハウスが求めた製品はどれも装飾を 否定した幾何学形体に傾斜し,グロピウスが「3つの形」 とよんだ球円錐立方体によるモダニズムが支配的にな った。このことは現代のデザインにも大きな影響を及ぼし ている。現在の我々の生活の中にも工業製品や建築物に幾 何学形体を多く見ることは事実である。形の印象を知る上 で,機能を持つ製品やモノをあつかった場合,どうしても その機能に関しての印象も含まれてくる。しかし,理念的 な形体に関して言えば,デッサン用の石膏などでない限り, 機能を持つことはない。機能という事象がないために,形 そのものについての印象のみを感じ取ることができる。 球錐柱 このデザインノートでは幾何学的な形体を球錐柱に 分けて考える。幾何学形体の中でも球は,数学的に最も単 純な要素から構成されており,どの方向からも釣り合った 形である。また,球を何らかの材料で実現させ形,塊とす るとこれを単体とした場合,一定の方向に連続してくっつ けていくとそれが細長い線となり,その線が平行に並べば 板となる。この考えは,平面構成の点線面の考え方に 似ている。この塊線板は連続した循環関係にあり,厳 密には区分されない。本稿では基本となる形体を,球錐 柱を中心に置き,幾何学的な形体を分類していく。 球は幾何学形体の中でももっとも単純な要素からなり, 釣り合った形体である。あまりにも完全すぎて基本的な立 体と呼ぶには不適格であると唱える説もある。 実際の製品では,転がるものとしての機能を持つものが ほとんどである。錐は,自然のもの,例えば木の大まかな 外観などや芸術作品におけるシンボル的な役割を持つ。ま た,錐は現在の製造方法では最もつくりにくく,有用性の 少ない形という理由から工業デザインに見ることの最も少 ない種類だと考えられる。逆に柱,特に立方体は各種の組 み合わせや変形などにより,工業デザインに多く見られる 形体要素の一つである。 基本形 塊の基本形は,古来から数学的に,宗教的に芸術的にそ れぞれの立場からいくつかのものが考えられている。例え ば,プラトーは数学的な正多面体として,正四面体,正六 面体,正八面体,正十二面体,正二十面体の 5つを挙げて いる。 東洋の宗教においては天地万物を構成する五大要素とし て,地水火風空をあげ,その形をいわゆる五輪の形として いる。 セザンヌは概略「自然は円錐体,球体,円筒体として取 り扱わねばならぬ。そのすべてが透視法に従い物体を面の 前後左右か,中心の一点に集中せねばならぬ。広さを示す 水平の平行線は一種の自然の区画で,われわれの面前に全 知全能永遠の神が展開したすばらしい光景と言っても差し 支えはない。この水平線に交差する鉛直線は深みを加える。 自然は拡がりよりも深みにおいて見られるべきもので(後 略)」と述べている。 前節では幾何学的な形体を大きく球錐柱と分類した。 これをさらに分類していくと,球は,球のみであるが,錐 は円錐三角錐四角錘に分けることができる。また,柱 は円柱三角柱立方体に分けられる。以上の 7つの形体 を基本形と認識したい。

5.基本形からイメージ形体へ

球,円柱,円錐,角柱などの幾何学的形体は,完璧な姿 をしていて形の基本形と考えられるが,人間に例えるなら ば全知全能の人物で,神か仏に近いものである。一切を清 算して仏になったようなもので,完全過ぎてかえって人間 味や,生身の面白さがないとも思える。成仏形とも呼ぶべ き形である。このような形体に何らかの操作を加えること で基本形よりも生命力のあるフォルムが生まれることもあ る。 例えば我々の身辺にもあるものの中で最も単純な形体は 何だろう。凹凸の多い不規則な形を次第に単純化していく

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とだんだんと球に近づいてくる。球円柱円錐立方体 などが簡単な形として挙げられるが,中でも球は数学的に 最も単純な要素から構成されている。だがあまりにも単純, 完璧なために,造形的にはそれはどの方向にも釣り合って 動きの止まった形となっている。このような単純ではある が単調な形に何らかの操作を加えると,そこにあたかも生 命力を持つような力動感が生まれる。操作が単純で,適切 な場合,その結果は力強く明快なものになる。 立体を見たとき,力のれる形をしているとか,重量感 があるとか,あるいは,複雑なばかりで何が何だかよくわ からないとか言うのは,「我々の心の中にある明確な形を した基本形と目の前に見えている形とを直感的に比較し, その違いや,どういう力の働きでそういうことになったか を瞬間的に判断するため」ではなかろうか。大きな木が倒 れているのを見ると,まず,本来あるべき木の姿を思い浮 かべ,それに対してどんな力がどのように働いてそのよう になったかを考えたり,また,その時の物凄さを想像して みるということになるであろう。アルンハイムの言葉をか りて言うならば,「正常な身構えからのずれに内在する緊 張」(tension inherent in the deviation from the normal attitude)を感じ取ったことになろう。 A 最も簡単な球形は前後左右あらゆる方向に等距離で 釣り合いの状態にあり,特にある方向への動きという 感じがなく,静止した単調感を持っている。 B 物体に外から力が働くと,物体内部には外力に応じ た応力が生まれる。このような形を見ると我々は無意 識のうちに原型の球形と比較し,どのような力を受け てこうなったか,また内部でどのような変形運動を起 こしたか,今どのような抵抗をしているかなどを色々 想像し,力に対する感情を引き起こすように思われる。 C 物の形が単純で適確な操作の結果生まれた場合は見 る人に明快で力強い感じを与えるが,やたらにいじり まわした複雑な形のものは混乱を生じ,力の方向も全 体的に相殺され,その結果,力が弱められて,かえっ て単調な感じになる。細かい絨毯模様や,壁紙模様に このような例が見られる。顔中に色々の模様をつけた ピエロがどれも似ているように思われるのもこの例で ある。 D 複雑にしすぎて力の弱まったものは,不要の部分を 省略し,もう一度基本形に近づけ,一つのねらいを強 調する。 E 緻密な計算,計画のもとに出来上がった単純な形体 は強い抵抗力を示すフォルムとなる。

6.イメージの定義

イメージという言葉は意外にも曖昧な言葉で,人によっ てはまるで反対の意味に使ったりする。例えば,イメージ を雰囲気と同じような意味に使い,形のないものであると 主張する人もいる。私の考えではイメージという言葉を 「いくつかの記憶を一つにまとめた偽の実物であって,記 憶された情報に矛盾しないもの」と定義してみる。イメー ジはまた,形の記憶あるいは形の創造に関するものであり, モノの形の記憶を頭の中のカタチとして,統一的かつ心情 的に捉えたものである。イメージは,形や色や曖昧な記憶 であると同時に,造形の創造において積極的に形の具体化 を導くものである。またイメージは形についてのばらばら な記憶の集まりではなく,統一的な概念でもある。全体的 なイメージが一瞬にして思い浮かぶものである。部分につ いてのイメージもあるが,例外的であろう。例えば,黄色 い絵とか,荒いタッチと言うだけでは,ゴッホのひまわり の絵のイメージは思い浮かばない。ゴッホのひまわりの絵 図 3:高山正喜久「立体構成の基礎」より

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という総合的な捉え方が部分に先行する。イメージは形の 記憶そのものではない。イメージは形の記憶によって支え られている何かである。形の記憶が頼りないため,そのイ メージも曖昧になりやすい。またイメージは,色や感触, 音などに支えられている場合もある。 イメージはいくつかの記憶に支えられているが,その集 合ではない。その記憶として残された各断片に矛盾しない ように,頭の中に思い浮かべられる。言ってみれば偽の実 物である。実物と同じように全体的な存在であるが,その 情報量は少ない。 モノの形は,我々の頭の中に保存されて簡略化されて, イメージという情報になる。この情報は,元のモノ自体の ごく一部の特徴を捉えたにすぎないものであり,元の形の 情報をすべて含んでいるのではない。その特徴の捉え方の 理論は,識別の目的に十分なだけの情報を拾うようになっ ている。ただし,この識別は記憶の断片に照らし合わせて 識別されるのではない。黄色い色調と,荒々しいタッチと ひまわりの花によって,ゴッホのひまわりが識別されるの ではない。個々の記憶の断片のセットを統一したイメージ によって総合的に識別されるのである。逆に言えば,記憶 の断片もこのイメージに沿って選別され,保存される。 頭の中のカタチは,時に頼りない記憶にすぎないが,自 分自身の記憶として主体的に捉えれば,感情のこもったイ メージという記憶になる。例えば出会った人の顔が思い出 せないのは,その形の記憶が頼りないからである。わずか な特徴だけしか残っておらず,全体的に統一されたイメー ジが思い浮かべられなくなっていると言ってもよい。 もう一度その人に会うと,わずかに残された情報が忘れ て思い出せなくなった情報に合致することを確認して,瞬 間的に顔の全体像が回復でき,再びイメージという統一さ れた情報として記憶される。そして,この記憶の過程にお いて,イメージは 2つの特性を持つ。一つはイメージの保 守性と修正であり,もう一つはイメージの刷り込みとも言 える定着性である。

7.イメージの保守性と定着性

形のイメージには,2つの面白い側面がある。その一つ はイメージの保守性という性質であり,この性質は我々の 自由な造形能力の邪魔をしている。もう一つの性質はイメ ージの定着性であり,文化とか地方性といったことの基盤 になっている性質である。またイメージは通常では大変頼 りないものであるが,造形の制作過程において,重要な機 能を果たしている。イメージ抜きで制作することは難しい。 コンピューターが芸術的創造について人間にかなわないの は,この統一的なイメージの操作ができないことである。

8.イメージの修正

形についての記憶は,他の記憶,例えば,人の名前,音 楽,文章などに比べると,記憶の保存性がよい。 昔知っていた人の顔はなかなか忘れないものである。人 間が形を識別する能力にすぐれているのはこの形の記憶の 保存性によって支えられている。 形は記憶されると,その情報は速やかに整理されて,い くつかの特徴という数少ない情報に縮小されて保存される。 その記憶は固定的であり,変化しようとしない。頭の中だ けでそのイメージを変えることはできないのである。とこ ろが,この形のイメージは再度その物事に出会った時,不 思議な反応を示す。古いイメージの補強とも言えるような イメージを修正する反応が,ほとんど無抵抗に無意識のう ちに行われてしまう。何度も同じものを見ていると,その 形は強く記憶され,忘れにくくなる。同じデザインを数多 く見ていると,何かという時にそのデザインが他に先駆け て出てくることはある。知らず知らずのうちにありきたり のデザインになってしまうことは多い。絵を描く場合でも, ついつい自分の描き慣れたパターンになってしまったり, 周りの人と同じようなものを描いてしまうことはある。我々 の形の記憶力は固定的であり,識別に便利にできていると 同時に変形とか創造的な造形には向かない性質を持ってい るのである。この固定性と矛盾するように思えることだが, 記憶は非常に簡単に修正を受け入れる。若い時に出会った 人に,年を経て出会うと当然その人の面影は変化している。 しわが多くなったり,白髪が生えていたり,時には同一人 物か疑うほど変わってしまう人もいるだろう。それが同一 人物とだと認識した途端に,記憶の修正が行われる。その 修正はほとんど無意識のうちに抵抗なく行われるので,我々 はそれが修正されたことに気づかない。そうなると写真で もない限り,若い時の顔は浮かんでこない。この修正は実 物を見ることによって起こる。

9.イメージの定着

外国の美術館などで,日本の美術品に出会った時に,我々 はその形や色に日本の文化を感じる。中国の美術品などで, 日本のものに似たものがあっても,我々は直感的に日本的 なものを識別し,他の国のものには感じない特別なものを 感じる。この場合,識別が正しいかそうでないかは問題で はない。この日本的なものへの特別な反応は,愛国心や, ホームシックというような意味ではなく,子どもの頃から 長い間親しんできた形そのものに特別な反応が起こるので はないか。形の刷り込みと言ってよいであろう。 このように,形の記憶というものは,ただ記憶されたり,

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薄れたり,識別に利用されているわけではない。時間とと もに,その人の中に定着し,気持ちになじんでいく。その 人の価値観や好みといったものと融合する。 また,はじめて見た絵画などで,最初は異様に感じるだ けであり,その価値がわからなかったものが,しばらくし てみるとそのよさがわかってくるようなことを経験した人 もいるだろう。 このような心の中での形のイメージの定着は,短期間に 起こりにくく,よく言われるように新しいものは受け入れ られにくいのである。新しいものは徐々に受け入れられ, その人の価値観の中に融合していく。イメージの定着とい う現象が起こるのである。このような定着が多くの人に起 こった場合,それが時代性とか地方性とかを発祥する一つ の基盤となっており,また特定の作品の偶像化への一つの 要因ともなる。

10.評価に関して

我々が実際のモノを評価する際には,スタイリングのよ うな形態的要素のほかに,機能,ブランド,性能,価値な どが複雑に絡み合い最終的な評価がなされる。このような 複雑な思考の結果であるモノの評価は,人間の思考システ ムの構造がほとんどわかっていないために,どの要素がど の程度関わっているのか判断することは大変難しい。実際 店頭などで製品を評価する場合,たいていは性能など機能 面の要素を確かめない(確かめられない)で評価することが 多い。しかし我々は製品のスタイリングに魅了され,他の 要素が目に入らないほど感動を受けることがある。このこ とは,モノのカタチが人間に大きな印象を与えることを示 す。機能を持つ製品やモノを扱った場合,形の印象にはそ の機能についての印象が含まれてくる。しかし,理念的な 幾何学形体に関して言えば,そこに機能という事象がない ために,形の印象を知るうえで形そのものについての印象 のみを感じ取ることができる。つまりこれはイメージ研究 における二重コード理論にオーバーラップさせて考えるこ とと等しい。機能性という複雑さを持たないために,言語 的な事象を扱うことに特化した言語システムよりも,視覚 的な事象を扱うことに特化したイメージシステムの方が, 情報処理の段階では優位に働くと考えられる。

11.グラフから構築するモーフォロジー

人類は動物から進化を遂げ,文明文化を築き上げ,巣 から居住空間へと移り変わった。住むための基本的なシェ ルターであったと考えられる建築物もその後,例えば五重 塔のような宗教建築では極めてまれな建築造形を持つもの をつくり,そうした建築物は見るものに感銘を与えてきた。 近代に入りインターナショナルスタイルと呼ばれる国際様 式が主流になり,おおむねの建築造形(様式)は決定した かのように思われる。その後現代建築へと発展した今,様々 な造形美を持つ建築物が数多く登場することになる。設計 する際設計者は多くの主張や造形(様式)に対する思いや そのデザイン性を設計物として構築することで訴えかける が,その主張の部分には作者の経験や独自のニュアンスが 込められていることが極めて多く,一般的にその主張は理 解し受け止めることが難しいと感じられることが多いと言 われてきた。例えば建築造形に限らずプロダクトデザイン (カーデザイン)のジャンルでは流線型をベースに工業化 生産性を追求し,同時にもしくは前後して作家の主張する 部分(個性感性独自性)をデザインするようだ。このよ うに,ある設計ノートのようなレベルの,生成するプロセ スに関して論じることは元来難しいと考えられている。 例えばベルボトムはなぜあのような造形になっていると 思うかと本学の学生に問うてみると,歩きやすいから? と か,なんとなく流行だから,という答えが返ってくる。だが ベルボトムは歩きやすい構造ではない。このデザインが生ま れた背景には,戦時中の制限されたデザインへの反動が反映 されている。戦時下はファッション性より,合理的機能的 なデザインが要求された。これに対し,裾広がりの構造的 特徴を持ち,決して機能的とは言い難いベルボトムは自由 を象徴し,戦後の平和表現も込められている。デザインプ ロセスにこうした設計者のニュアンスが込められた事例は, 特に現代アートのようなジャンルでは事欠かないであろう。 近年ではコンピューターゲームが発展し,そのゲームを エキサイティングにしたり,ある種のルールを構築するこ とがゲーム自身をさらに高度にし,人々に面白いと感じさ せ,爆発的にユーザーを獲得してきた。例えば野球やサッ カーなどのゲームは,ゲームの魅力要素であるプレーヤー (選手)の投球力打率などの数値を実在の選手を元にデ ータ化して解析を行い,グラフィカルに再構築することで ゲームの面白みを高めてきたのである。本研究の到達点は, ゲーム理論やそのアルゴリズムを応用してデザインプロセ スにおける概念を「形態」にすることで,デザイン性に関 して高度で独創的なレベルでの形態を構築することであり, そのグラフから造形化された形態に関して視覚的効果を利 用し「主張するデザイン性」の理解度の向上(イメージの 保守性を超えた新たなイメージの定着性の向上)を図る。また 空間造形を中心とした造形物に関しての基礎的な研究を行 いながら,デザインの生成過程の研究も盛り込むことで, より独創的で高度な研究への発展を期している。

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12.グラフの基本的な特色と本研究における関係性

図 4にはボールが 30個撒き散らされている。ランダム に撒き散らされていると数を数えるのが大変だが,直線的 に並べてある場合,カウントミスは少なくなる。 しかしながら正方形に並べると 5×6=30というように 単純に計算することができ,また直感的にも数値を把握し やすくなる。このように複雑なものを並べ替えて単純にし, さらに規律に準じて並べ替えると高度で複雑なものが生ま れ,人間がグラフを認知し造形をより深いレベルで理解す ることになる。グラフ造形が人間に視覚的に与える強い理 解度(グラフが造形から発する造形の特色)を応用することで 造形美とそのデザイン性との関係を明確にし,新たなる造 形美を構築することも可能であろう。 グラフ:数量の時間変化や大小関係,割合などを,視覚的に 表現した図。統計グラフ。日常的にはこの意味で使われるこ とが多い。数学における対応,もしくはその特別な場合であ る写像や関数を特徴付ける集合。日常的には平面上や空間上 で視覚化できるものを指す場合が多い。

13.グラフ理論

例えば電車の乗り換え案内図を考える際には,駅(ノー ド)がどのように路線(エッジ)で結ばれているかが問題 であって,線路が具体的にどのような曲線を描いているか は本質的な問題でないことが多い。事実,乗り換え案内図 を書く場合には,駅間の距離や微妙な配置,路線の形状と いったものは,地理的な実際のそれとは異なって描かれる ことが多い。電車で移動する人を対象とした乗り換え案内 においては,駅と駅の「つながり方」が主に重要なのであ る。 このように,「つながり方」に着目して抽象化された 「点とそれを結ぶ線」の概念がグラフであり,グラフが持 つ様々な性質を探求するのがグラフ理論である。このグラ フ理論をモーフォロジー(造形理論)をつくる基礎とし, 様々なグラフに対する基礎的な研究を行ったうえで,デザ インにおけるグラフ的造形の基礎を構築したい。

14.学術的な特色独創的な点,及び予想される

結果と意義

男と女の関係はある日出会った時から始まる。恋愛のシ ミュレーションをグラフにすることも可能であり,それを 以下に示す(図 5)。 恋愛のカタストロフィー解説:ある日,男と女は出会い, パートナーとしての好意的な印象を感じながら,2人の交友 関係を深めていく。そうすることにより愛が深まるというよ うなグラフに書き表すことが可能である。しかしながら徐々 に 2人の関係性が進んでいくと相手のいやな部分が見えてき たりして 2人の関係性が悪くなり,愛の深さが極端に下がり 破局(別れ)を迎える。 図 4:グラフ造形によって視覚での理解度を高める 図 5:恋愛のカタストロフィーのシミュレーション 図 6:投機のグラフ化

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この破局の理論を応用し株などの投機をグラフ化したり (図 6),男と女を国と国に置き換えることにより戦争(最 大破局)を表現することも可能であろう。今回この破局の 理論をベースに戦争をグラフ化し形態に応用することが本 研究の最大の特色と意義となる。 また個人的なレベルの恋愛とは異なり,戦争に関しては 多くの歴史認識の分析研究が盛んに行われており,一個人 的な恋愛よりデータ分析が比較的容易であろうと考えられ る。 元来モーフォロジー(造形理論)は法規や動線計画,ゾ ーニングやそれらを機能的に支える建築構造で用いられる 理論であり,それ以外の意匠の部分では作家の好み,経験 やアート的印象によって形成されることが非常に多かった。 ここではグラフを形態に応用することで意匠という概念が 幾何学的造形美の主体になる可能性を探る。 図 7の①から⑥に示したように戦争のグラフ化を図り, グラフから戦争の成り立ちや国と国の関係性,印象,貿易 や相互の文化理解度をグラフ化し,最終的には破局(戦争) が起こることを,人はグラフによって視覚的に体験できる。 破局したグラフの部分(特異点:図 8)はビジュアル的にも 破局を表現しているため,戦争的な造形を表現する。この ように,トポロジー的なレベルで数値解析されたグラフを 形態に応用することで,形態の主張する意図が一般化し, 理解される。こうしたトポロジカルレベルで作成されたグ ラフの形態への応用は示唆に富み,今後極めて先駆的な意 味を持つと考える。これが本研究の革新的で独創的な着眼 点である。

15.最終的な成果

造形のみならず幾何学,ファッション,プロダクトなど 様々なデザイン性に関する造形論を調査分析し,その後 グラフ理論やゲーム理論を応用し,選択した「戦争」を数 値化する。最終的には戦争の破局の理論を構築し形態に応 用する。またその形態が主張する破局の造形を意匠的な観 点から考察し,設計デザインすることでこれまで明らか にしにくかった意匠(主張するデザイン性:図 9)の部分で グラフ的な観点から理論的に論じられる可能性が開ける (イメージの評価)。調査分析された結果を用いて設計 デザインすることによって極めて実務的レベルでの提案を 追求することも可能であろう。 図 7の⑦,⑧もまたカタストロフィーセオリーから構築 した戦争形態のグラフを平面的,およびパース的なアング ルで見ているものである。本稿での紹介は以上に留める。 カタストロフィー理論:フランスの数学者で 1958年のフィ ールズ賞の受賞者であるルネトムが発表した理論。力学系 (すなわち微分方程式と解曲面の幾何学)における,特異点(すな わち,不動点,周期軌道もしくは微分方程式が定義されない点など, 周囲と様相の異なる点)の構造安定性の研究。パラメーターが 変化するとき,特異点の数や周りの状況が変わらないことを 構造安定性と呼ぶ。構造安定性の分析は,社会科学,生物な どを含む諸分野での不連続な変化を説明するために応用でき ると期待された。カタストロフィーとは,用語としては突然 の「大変動」「大惨事」,悲劇的「終末」などの意。 ○図 7~9は次頁以降に掲載 参考文献他: アルンハイムR著 1974「視覚的思考創造心理学の世界」 美術出版社 アルンハイムR著 1973「芸術心理学のために」ダヴィッド社 アルンハイムR著 1987「芸術心理学」地湧社 北村晴朗著 1982「心像表象の心理」誠信書房 坂野登 1990「無意識の脳心理学」青木書店 ジョンリウォルド編 1967「セザンヌの手紙」筑摩書房 水島恵一著 1988「イメージ心理学」大日本図書 高山正喜久著 1965「立体構成の基礎」美術出版社 仲谷洋平,藤本浩一編著 1993「美と造形の心理学」北大路書房 二木宏明著 1984「脳と心理学」朝倉書店 MWアイゼンク編 1998「認知心理学事典」新曜社 島田良一編著 1995「かたちに見る造形の構成」鹿島出版会 三井秀樹著 1996「美の構成学」中央公論社 ミシェルドゥニ著 1989「イメージの心理学 心象論のすべて」 勁草書房 森典彦編 1993「左脳デザイニング デザインの科学的方法を探 る」海文堂出版

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⑤ ⑦ ⑧ 図 7:戦争のグラフ化 上記図はある戦争を順次解析しグラフ化したもの。 グラフ造形によって視覚での戦争の理解度を高めることが可能。 ① ④ ③ ② ⑥

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(ふじさわ ただもり 環境デザイン学科) 図 8:データからグラフ化したものの断面図 図 9:グラフ造形を建築ダイアグラムに置き換え,本研究の将来的な終着点である平和博物館(リアルもしくは バーチャル)の基礎となるものである。この博物館の最大の特色は複雑な戦争平和プロセスをカタストロフ ィーを起点としたグラフ化により視認性を高め,戦争と平和のプロセスを簡単に理解できることを目的として いる。人類史上繰り返されてきた戦争と平和の歴史を分析し,体験することで理解を深め,いつの日か戦争の ない世界を構築するための一つの手法として提案をする。戦後 65年間戦争が起きていない日本を一つの誇り と思う。

参照

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