進化の伝統と進化の失踪 : 「リア王」のフール考
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(2) 甲南女子大学大学 院論 集第 2号. 42. 文学 ・文化研究編 (2004年 3月. ). 王 自身 に向 か って も,「 お い らだ った ら身 上全 部娘 ど. 便法 と考 え られ る よ うになった。 ウエ ルズ フ ォー ドは また,こ の ような 「悪 口雑言 の. もに くれてや って も,帽 子 だ け は とっ と くね。馬鹿 さ. 特権」 へ の もうひ とつの源流 と して 「霊 感 を受 け た狂 人」 及 び そ の 言葉一一 「透視 に よる予言」 へ の ,古 代. 加減 の証拠 に さ。 さ,お い らの を とっ と きな」 (1.4.. か ら続 く一 種 の 畏 敬 の 念 に つ い て 言 及 して い る が (Wdsford 79),こ う した信 仰 が結 びつ くこ とに よっ. るのか」 (1.4.145)と 怒 る リア に対 して ,次 の よ う. 107)と ,鶏 冠帽 を差 し出 し,「 わ しを阿呆呼 ばわ りす に答 える。. て ,道 化 師 たちの言葉 は,い つそ うそ の特権性 を増 し. ほかの肩書 きはみ んな人に譲 っちまったんだか. て い った とい えるだ ろ う。. ら,残 ってるのは,持 って生 まれたその肩書 きだ. 後 になる と,前 述 した道化 の奇形性一一 異形 は ,斑 模様 の 道化服 ,鈴 付 き鶏冠 帽 ,錫 杖 とい った「異 装」. けさ。……王冠 をまっ二つ に割 って両方 とも くれ. に変化 して い くが ,こ の よ うな形 の 道化師 たちは ,ロ ーマ 時代 か ら 19世 紀 の ロ シア に至 る まで ,広 く王侯. てやったお前 さんはてめえの阿呆なロバ しょいこ. 貴 族 の 身辺 に抱 え られ る こ とにな った とい わ れ て い. 黄金の冠 くれちまって裸 になった,そ の薬罐頭 の. る。. おつ むには知恵がなか ったんだ。 (1.4.146-60). んで,ぬ かるみ渡 る羽 目になったってことだよ。. 「わ た しに斑 の 着物 を くだ さい。風 の よ うな 自由 を. この ような道化 の辛辣 な言葉 に対 し,王 は「なんと. 与 え て くだ さい」 (2.7.58-59)一 ―『お 気 に召 す ま ま』 の ジ ェ イクイ ズ (Jaques)は ,こ うい って 道化 の. 酷 い苦 々 しいこ とを言 うのだ. 自由な身分 を羨 ま しが るが ,道 化 の 「悪 口御免」 の境. 応 じるのみである。. !」. (1.4.H2,133)と. Dragon"の 怒 り」 (1.1。 121)を もつ リアは,「 “. 遇 の背後 には,こ の よ うな長 い 歴 史 の流 れが 存在 して. ,. い た。 そ して シェ イクス ピアは ,か れ らの 自由 の特権. 恐 ろ しい専制君主 であ り,コ ー デ リア (Cordelia)の. を loO%自 己 の劇作 の 中 に活用 した一一 とい う こ とが. 勘 当 を諌 め よ う と した忠 臣ケ ン トに対 しては,「 黙. で きるだろ う。. れ,ケ ン ト !」 「 もう言 うな,い の ちがないぞ」 (1.1.. 『 リア王 』 一 幕 四場 で は,そ れ まで の 追従 の 仮 面 を. 120,153)と ,た ちまち国外追放処分 に して しまうよ. か な ぐ りす て た ゴ ネ リル (Gone五 1)が ,「 この 悪 口御. うな暴君であった。 しか し,道 化 の言葉 だけは,い か. 免 の道化 だ けで はあ りませ ん。 /お 付 きの 家来 た ち は. にそれが 自分 にとって苦 い ものであ って も,た とえ不. み んな無礼 の しほ うだ い…… 目にあ まる乱暴狼藉 , も. 承不承 であ って も受け入れてい く。 convention"を 利用 した シェイ そ して,こ う した “. うが まんが で きませ ん」 (1。. 4。. 198-201)と , リア糾. 弾 の 第 一 声 を上 げ るが ,こ のマ クベ ス夫 人以上 に邪悪. クス ピァは,「 真心 を国にのぼ らせ る こ とがで きず」. な性格 を もつ (Bradley 310)と い われ る ゴ ネ リルで さ. (1。. え,“ all― licensed"と い う道 化 の 特 権 に は,一 日置 い. すすべ を知 らなかった」 (1.1.223-24)コ ーデ リアの. て い る こ とが 窺 える。 (下 線筆者. ヽ を見抜 くことがで きず,姉 娘 たちの美辞麗句 亡 真実 の′. ). 同 じ一 幕 四場 で ,フ ールは登場 す るや い なや ,変 装 して リアに仕 え ようとす るケ ン ト (Kent)に 対 して. ,. ヽ にもないこ とをなめ らかに言 い まわ 1.90-91)「 ′ 亡. に惑 わされて,王 国 を分割付 与 して しまったリアが. ,. いかに物事 を表面的 にとらえ,正 しく「見 る」 ことが. 自分 の 道化 の帽子 (鶏 冠帽 )を 受 け取 る よ うに と差 し. で きていなか ったか,い かに うつ ろいやす い権力 を過. 出す。. 信 し,傲 慢 に思 い上がっていたか,要 するにいかに愚 かであったか とい うことを,歯 に衣着せぬフールの言. なぜ って ,落 ち 目のや つ の肩 を もつ か らさ。風 向. 葉 を借 りて,徹 底的 に風刺 し批判 していったのだ とい. き次 第 に愛想 わ らい がで きな い よ う じゃ,風 に当. うことがで きるだろう。. ってす ぐ風邪 ひい ちやうよ。 …… だ って ,こ の男 Ⅱ .ヴ ァ イ ス の 末 裔 と して の 道 化. ヽ な らず は二 人 の娘 を追 い 出 して ,三 番 目の には′ 亡 も祝福 を与 えた ってい うんだ よ。 そんなや つ につ い て い くんな ら,こ の阿呆 の 帽子 かぶ らな きゃだ めだ。. (1.4.97-99). 前章 で述 べ た よ うに,シ ェ イクス ピアの道化 は,過 去 の宮廷道化 師 の伝統 か ら多 くの もの を受 け継 い で い る。. フールは この よ うに, リアの愚行 を皮 肉 り,次 に. ,. しか し,そ れだけで はない 。 シェイクス ピアの道化.
(3) 鈴木. は「大 の混 血 児」 で あ って ,中 世 の 愚人祭 や愚人 劇. ,. を及 ぼす」 (野 島 192)こ ととなった。. あ る い は ブ ラ ン ト (sebastian Brandt)の 『愚 人 船』. f)や ,. sθ ん (Nα r″ ん. 43. 豊子 三道化 の伝統 と道化 の失踪. エ ラ ス ム ス (Dcsidcrius Erasmus). の 『痴 愚神 礼 賛』 (ν θrjα ιEれ θ θ J“ )と い つ た 愚 人 “ “ 文学 ,民 間 に流布 した 『諧誰笑話集』等 ,多 くの もの か らその血脈 を引 き継 い で い る。 この章 で は,そ の 中で も,か れの道 化 ともっ とも濃. では,い かなる意味 で 『 リア王』 のフールは,そ の 「ヴアイス性」 を示 してい るとい えるのだろうか。 冷酷 な ゴネリルの許 を去 ったリアは,そ れ以上 に冷 ややかな リー ガン (Regan)に 追 い立 て られ,身 一つ で,フ ールだけを道連れに,嵐 の吹 きす さぶ荒野 をさ まようことになる。. い血縁 関係 にあ る もの ,シ ェ イクス ピアの道 化 の 「直. こう して,い ちばん慈 しんでいた コーデ リアを軽率. 接 の祖」 ともい うべ き,道 徳劇 (Morality Play)の ヴ. にも追放 して しまった自責 の思 い と信頼 を裏切 った姉. ァイス (Vice)と フール の 関係 につい て考 えてみ た い. 娘 たちへ の憤怒 で, リアはほとんど狂乱状態 に陥 り. と思 う。. つい に三幕四場 では,ほ んものの狂気 に陥 って しまう. ,. (Miracle. のだが,そ の間一貫 してフールは王の辛辣な批判者で. Play)に 続 い て発達 した中世英 国劇 の一 つ で あ り,人. あ ることを止めてい ない。「お供 は道化 一 人です。あ. 間 の生 き方 を,寓 意 形 式 (allegory)で 濠1化 した一 種. れは引 き裂かれた王 の心 の痛 みを和 らげようと懸命 に. の教訓劇 で あ る。. 冗談 を飛 ば してお ります」 (3.1.16-17)と い うの. 道徳濠1は. ,神 秘劇 (MyStery Play),奇 跡劇. 初期 の道徳劇 では,具 体 的 な場所 や人物 は ま った く. は,荒 野 での リアの消虐、 を伝 えるある紳士 の言葉であ. 登場 せ ず ,寓 意人物 で あ る「人間」(Everyman,Mankind. るが,こ の言葉 とは裏腹 に,フ ールの鋭 い風刺 の言葉. な どと呼 ばれ る)を 中 に して ,七 大徳 (謙 遜 ,忍 耐. は,逆 にリアの引 き裂かれた心 を苛み,む しろリアを. ,. 愛徳 な ど)や 七大罪 (高 慢 ,憤 怒 ,嫉 妬 な ど)が 霊魂. 狂気 に追 いやる作用 をしていたとい えるのではないだ. 争 奪 戦 (psycomachia)を 繰 り広 げ る とい うのが 基 本. ろ うか。「ああ,こ の胸 が痛 む. 的 パ ター ンで あ った。. て苦 い,辛 辣な道化 だ. しか し,1500年 頃 よ り道徳 劇 が 世俗 化 す る に つ れ. !」. !」. (1.4。. 112)「 なん. (1.4。. 133)「 おお,天 よ. 43-44)こ のフールの言葉 に反応するリアの苦 しげ. て ,こ の七 大罪 の寓意 は しだ い にヴ ァイス とい う単 一. 5。. の役 に収飲 して い き,ヴ ァイスが 人間 の誘惑者 ,善 の. な叫びが,何 よ りもそれを物語 っている。. 敵対者 ,悪 の策謀者 とい う重要 な役 割 を担 うこ ととな った。 また ,寓 意体系 の弛緩 とともに,寓 意 の活躍す る場 面が しだ い に傍筋化 し, もっぱ ら娯楽提供 の場 となっ. !. おれ を気違 い に して くれるな,気 違 い にだけは」 (1.. このように,ま った く逆説的な意味 においてではあ るが, リアの忠実な道化 フールは,王 を狂気へ と追 い や り,王 を道化 と化す 「教唆者」 としての役割 を果た してい る。. て い くと,ヴ ァイス は物語 の本筋 と,娯 楽場面 の両方. そ して,さ らに逆説的な意味 において,王 は狂気 に. に関係 す る唯 一 の 人物 とな り,七 大罪 の血 を引 く人 間. 陥 り,「 フール」 とな りはてた時,は じめて人間 らし. の誘惑者 とい う役割 と同時 に,笑 いの提供者 とい う役. い感情 を抱 き,道 化 の叡知 をもって語 り始 めるように. 目を負 わ ざる をえな くな った。そ して劇 世 界 の 道 徳. なる。. 性 ,寓 意性が後退す れ ばす るほ ど,か れの笑 いの提供 者 と しての道 化性 が強 く前面 に押 し出 されて い くよ う. 三幕工場 ,嵐 の場 で, リアはずぶぬれになって震え てい るフール に気付 き,「 どう した,寒 いのか ?」 (3.. になる。. 2.68)と 尋 ね,「 わ しは心 の片隅で,お まえをあわれ. この よ う に して ヴ アイス には,単 に人 間 を善悪 の葛 藤 に巻 き込 む奸智 のオ だけで はな くユ ーモ ア,風 刺 の. と思 うようになったぞ」 (3.2.72-73)と 語 りかけて い るが,さ らに三幕四場 では. 才 ,機 知 な どが 求 め られ ,こ の役 は芸達者 な座長格 の ものが 受 け持 つ ことが 多 くな った。 そ して ,こ の複合 した役 域 の 中 か ら,「 ヴ ァイスーー 道化」 の 系 譜 が生. 裸 同然 の貧 しく惨 め な者 たち よ,ど こ にい よ う と ,. まれ ,そ れ はやが て シェイクス ピアの「悪 役」―― リ. 激 しくたたきつ けるこの無情 な嵐 に耐えなが ら. チ ャ ー ド三 世 (King Richard Ⅲ),イ ア ゴ ウ (IagO). 頭 を入れる家 もな く,空 腹 をかかえて. フ ォルス タ ッフ (Falstaff), フ 等一一一と,「 道化」 ― ェス テ ,フ ー ル等―― へ と通 じる道 を 開 き,「 ヴ ァイ. 穴 だ らけの檻複 は風 の通 り放題 ,そ んな姿 で一. スの もつ 二 面性 は,シ ェ イクス ピアの劇 に複雑 な作用. どうやって こんな嵐 の時 を凌 いでい くのか ?. ,. ,. 体. ,.
(4) 文学 。文化研究編 (2004年 3月. 44. (3.4.28-32). ). で は,そ の フールが ,な ぜ 劇 の半 ばで とつ じょ「消 滅」 して しまわなければな らなか ったのだろ うか。 本. と,惨 め な者 た ち を思 い や る心 を もつ 。 そ して 四幕 六. 章 にお い ては,こ の 「道化 の失踪」 とい う問題 と,そ. 場 に至 って ,野 の 花 で 身 を飾 って 登場 す る リア は ,ま. れ に関連 して しば しば論議 され る,コ ー デ リア とフー. った く道 化 の 言 葉 そ の もの で 語 りは じめ る 。. ルの “ dOubling"(「 一 人 三 役」)説 に つ い て 考 え て み た い と思 う。. 艦 複 を身 に ま とえ ば ,さ さ い な悪 事 も透 け て 見 え. あ りなが ら,舞 台 の上 で顔 を合 わせ るこ とは一 度 もな. る。 法 服 や毛 皮 の上 衣 な ら何 で も隠せ る 。 罪 に金 の 鎧 を着 せ れ ば. コー デ リア とフール は,共 にこの作 品 の重要人物 で. 追 われた後 で あ り (一 幕 四場 か ら三 幕六場 )コ ー デ リ. ,. どん な鋭 い 正 義 の 裁 きの 槍 先 も折 れ て ,無 傷 で い. アが 再登場す るの はその後 (四 幕 四場 )で あ る。 この ように二 人が 同 じ場面 に登 場 せ ず ,い わばすれ. られ る 。 鎧 が 檻 複 な ら,小 人 の 藁 しベ ー 本 で も刺 し貫 け る。. い 。 フール の登場す るのは,コ ー デ リアが フラ ンスヘ. (4.6.162-65). ちが い であ る こ と,両 者 の登場 と退場 の 間 にはほぼ等 しい 時 間が 置 かれて い るこ と. (ク. オ ー ト版 で は ,そ れ. dOubling" ぞ れ 357行 と 356行 で あ る)等 が ,こ の “. 忍耐す るんだ ,わ れわれ はみ んな泣 きなが ら この 世 に生 まれて きた ・・・ ・・. しか し,コ ー デ リア とフール の つ なが りは,こ の よ. 生 まれ落 ちる と,わ れわれ は泣 き叫 ぶ. うな劇 の上 演 に際 してのみの問題 と して ,つ ま り,単. ,. 阿呆 ばか りの この大舞台 に引 き出 された のが 悲 し くて。. 説 の 主要 な根拠 となって い る。 (stroup 172)". (4.6.176-81). に劇 の機能的 な面か らのみ とらえるので はな く, もっ と劇 の意味 的 な もの , もっ と内面 的 なつ なが リーー と して考 える こ とがで きるので はないだろ うか 。. 傍筋 で リアとパ ラレルの運命 を辿 るグロス ターは. ,. 美 と崇高 の 象徴 とも考 え られ る コー デ リア と,愚 か. リー ガン夫妻 に目玉 を くり抜 かれた後 ,「 目が見 えて. 者 で 道化 の フール,こ の一 見 か け離 れた存在 にみ える. い た ときには,蹟 い た ものだ。今 は よ く物が見 える. 二 人 の 間 には,実 は さまざまな共通点が見 出 され る。. ……」 (4.1.19)と 述懐するが, リアもまた,理 性 を. まず ,二 人はつ ね に リアの 身近 にあ り, リアが もっ. 失 った ときは じめて世の な りゆ きを明 らかに見る こと. とも愛 しく思 つていた存在 で あ った。そ して二 人 は と. がで きるようになった。そ して,四 幕七場で,コ ーデ. もに 「真 実 を語 る もの」 と して も共 通 性 を も って い. リアに再会 したときには,こ の 「頭 の天辺 か ら足 の爪. た。 コー デ リアは寡黙 で控 え 目で心優 しい女性 であ っ. 先 まで紛 れ もな き国王」 (4.6.107)で あ つた リア. たが ,「 最善 をつ くしなが ら/最 悪 を招 い たの は,私. は,「 わ しはまことに愚 かな,た わい もない老人 にす. 達が初 めてで は あ りませ ん。 …… わた しひ と りな ら. ぎない……」 と,(4.7.60)彼 女 の前 に脆 き,非 道な 仕打 ちへ の許 しを求める謙虚 な人物 へ と再生 して い. 気 ま ぐれな運命 の女神 の しかめ面 な どに らみ返 してや. た。. え られた ときの言葉 に見 られ る よ うに,強 い精神 を も. ,. ります もの を。 」 (5。 3.3-6)と い う,リ ア と共 に捕 ら. 以上見て きた よ うに,ヴ ァイスの血 を引 くフール. ち,ま た ,冒 頭 の場 で も見 られ た よ うに,偽 善 や追従. は,皮 肉にもリアを狂気 に導 いていった。 しか し,狂. を嫌 い ,真 実 を語 つて , しか もそれ をつ らぬ く毅然 と. 人 とな り,「 フール」 と化 した王 は,逆 に愚者の叡知. ヽ したノ を持 ってい た。 亡. と言葉 を身 に付 けて語 る。 まさにエ ラスムスの痴愚神. そ して ,そ の コー デ リアが 「真 実 を持 参 金 」 (1.1.. の世界 を街 彿 させ る,こ の賢 と愚 の大逆転劇 の舞台. 107)と して リアの も とを追 わ れ て か らは,「 悪 口御. で,こ うしたフールの機能 は,重 要な役割 を果 た して. 免」 の特権 を もつ 道化 の フール だ けが ,同 じように真. い るとい えるだろう。. 実 を語 り,リ アの 誤 りを指摘 して い く。「真 実 ってや つ は ,お もてへ 鞭 で 叩 き出 され る野 良大。内 で は奥方. Ⅲ.道 化の失踪一一 コーデリアの「影」一一. って名 の雌大 が ,炉 端 でぬ くぬ く臭気 を出 して い るの に」 (1.4。. 前章 で見 て きた よ うに,フ ール は この作 品 の意味 に 係 わる重 要 な働 きを して い る。. 109-H)と 皮 肉た っぷ りに フールはい う。. 彼 の語 り回 は,コ ー デ リアの よ うな直裁 な もので はな い が ,比 喩 ,逆 説 ,風 刺等 が入 り混 じった道化 の言葉.
(5) 鈴木 豊子 :道 化 の伝統 と道化 の失踪. を用 いて,リ アに問題 を投 げかけ,そ の誤 りを指摘. ちる真珠」 (4.3.22)と まで形容 され る コー デ リア の. し,鏡 のように彼 の愚行 を写 し出 してい く。. 光輝 く美 をよ り聖化 す るため ,彼 女 を佃1面 か ら支 える. このように二人は「真実 の子」 であ る点 で も一致 し てい るが,同 時 に大げ さなお世辞 を連ねる ことは しな かったけれ ども,心 か らリアを思 っていた とい う点 で. のであったともいえるのではないだろ 「影の存在」 う か. 。. この ように,フ ール を「コーデ リアの影」 ととらえ るとき,三 幕六場 でのフールの「消滅」 は,あ る意味. も一致 してい た。 フール は,変 装 して リアに仕 えるケ ン トに,「 でっ. でこの劇 の要請 した必然 であるともい える。すでに王. かい車輪 が山か ら転げ落ちるときは手 を離す んだね. は 自己の愚 を悟 り,狂 って「フール」 と化 し自ら道化. つかまってい ちゃ頸 をや られる。けれ どそのでっかい のが 山 を登 る ときは,引 き上 げて もらうんだね」 (2.. の言葉 を語 りは じめてい る。そ して,フ ールの「光」 で あ り,分 身で もある コー デ リアは,リ ア救 出 のた. 4.69-72)と い うが,自 分 はけっ して落ちぶれた リア. め,兵 を率 いてフラ ンス を発ち, ドー ヴアー に上陸 し. を見捨てようとは しない。 このフールの心意気 は,そ. て い る一一 フー ルは そ の役割 を終 えた。「悪 口御 免」. のす ぐ後 で うた ううたにも示 されてい る。. のフールは 「御役御免」 とな り,も はや,彼 の「出 る. ,. 幕」 はない。 そ して,こ のフール消滅に際 してシェイクス ピアが. 名不Jを 求めて仕 え,う わべ だけの者 は 雨が降 り始 めると荷物 をまとめ. 用 い た方法 は,「 ヴアイスの伝統 に則 つて彼 を消 し去. 嵐 の中 に人を置 き去 りにす る。. る」 とい うものであ った。. で もおい らは残 ろ うよ。愚かな者 は踏み留 まり (2.4.75-80). 前章 で述 べ た よ うに,フ ールは. (コ. ー デ リア と同. 様 )生 身の人間 とい うよ りも,ヴ ァイスの伝統 を色濃 く残 した寓意的人物 として描 かれてい る。. そ して ,フ ー ルは,第 三 幕 の嵐 の場面 で も,雨 に打. もしフールにヴアイスの要素が強 く残 っているとす. たれ ,寒 さに震 えなが らも,た だひ と り王 につ き従 っ. るならば,そ の退場形式がヴァイスのそれに似通 つて. て い く。前章 で も述 べ た よ うに,こ の フール の姿 は. いて もおか しくはない。 ヴァイスは,ふ つ うその役 の. ,. リアが初 めて 人 に同情 し人間 らしい感情 を もつ 人物 に. 性格上 ,劇 の半 ばで退場す ることが多 いが,ク ッシュ. 変貌す る契機 となって い る。. マ ン (Lo W.Cushman)の 研究 によると,彼 の退場 は. また,コ ー デ リア も,四 幕 七 場 で 父 に再会 した時. ,. 大別 して,(1)た だ何 とな く退場 して しまう,(2)観. お まえにはそれだけの理 由が ある……」 (4.7.72-75). 客 に別れの挨拶 をして退場する,(3)牢 屋 ,刑 場等 に 引かれてゆ く,(4)悪 魔 に連れ去 られる,の 四つ に分. とい う王 の 言葉 に対 し,「 理 由な どご ざい ませ ん。 ご. 類す ることがで きるとい う。 (Cushman 120). 「お まえが 毒 を飲 め とい うな らわ しは飲 むぞ 。 /… …. No cause,no cause."(4.7.75)と ざい ませ ん。 」“. ,. したが ってシェイクス ピアは,も はやその「使命」. 慈愛 にみ ちた言葉 で リア を許 し,大 らか な愛 で ,彼 の. を終 えたフール を,ヴ ァイス退場 の (1)の 形式 によ. ヽと身体 を癒 して い く。 亡 傷 つい た′. って,あ るい は,「 お い らは昼 にな った ら,寝 床 に入. この よ うにフー ル と コー デ リアは,つ ね に リアの 身. ろ う」 とい う彼 の言葉 を観客 へ の挨拶 と見 なす な ら. ヽ か ら愛 し く思 っていた存在 で あ り 亡 近 にあ つて王が′. ば,退 場 (2)の 形式 を用 い て,い さぎよ く舞台か ら. 同時 に彼 らも心 か らリアの こ とを思 っていた こ と,ま. 消 し去 って しまった一― とい うことがで きるのではな. た ,た とえ そ の 話 し方 は 異 な って い て も,真 実 を語. いだろ うか。. ,. り,見 せ か け の偽善 を嫌 い ,現 世的 な利益 だ け を求 め る生 き方 を拒 絶 し, ともに リアを再生 へ と導 く大 きな. 結. び. 力 となった こ と等 の 共通点 を持 っていた。 フール は コー デ リアの長 い不在 の 間 ,つ ね に リアに. 「シェイクス ピアが,悲 濠1で 道化 をどの よ うに扱 う. 付 き添 い ,彼 女 の心 を,コ ー デ リアの語 り得 ぬ 道化 の. かを見 るとき,彼 の芸術 の根 が どんなに深 く,且 つ広. 言葉 で語 り,王 の愚 か さ と誤 りを鋭 く易Jっ て彼 を自己. く及 んでい るか とい うこと,そ して同時に,こ の最大. 認識 に導 く役割 を果 た した。 ある意味 で は フール は. の詩人でさえも,暗 示 に富 む詩的象徴 を与えて くれ る. ,. 真実 と愛 と勇気 の象徴 ともい える コー デ リアの純化 さ れた透 明 な美 ,そ の涙が 「 ダイヤモ ン ドか らこぼれ落. 周囲の環境 か ら, どんなに多 くの恩恵 を受けてい るか とい う こ とを,改 め て 認 識 せ ず に は い られ な い」.
(6) 甲南女子大学大学 院論 集第 2号. 46. 文学 ・文化研 究編 (2004年 3月. ). (Welsford 269)と ウエ ル ズ フ ォー ドが述 べ て い る よ うに,シ ェ イクス ピアは,過 去 の宮廷道化 の伝統 ,エ ラ スムスの痴愚神 の精神 ,民 衆劇 の ヴ アイス等 ,様 々 な血脈 を引 き継 い だ独 自の道化 を創造 し,そ の 自由な 立 場 と精神 を自己 の作 品 の 中 に活用 して きた。. 注 1)Agncs Lathan,cd。 ,Asン 4θ. “. Ljた. 。Arden Shakespeare。. r′. (London:Routledge,1993). 2)Kenneth Muir,ed。 ,κ j′ gL`α ro Arden Shakespeare。. (Lon―. don:Mcthuen,1981)以 下 この テキ ス トか らの引用 は. ,. そ の 後 に幕 ,場 ,行 数 を入 れ て 示 す。 なお 引 用 の 和 訳. 中で も 『 リア王』 の フール は,こ れ らの伝統 を loo. %活 用 しなが ら,「 愛 と苦悩 が 同義語 で あ る と きに. は 小 田 島雄 志 訳 『 リア王 』 白水 社 1983,野 島秀 勝 訳 『 リア王 』岩 波 書 店 2000,を 参 考 に させ て い た だ い. ,. 愛 を選 び」 (Welsford 266),現 世的利益 のみ に生 きる 生 き方 を拒 否す る コー デ リアの精神 につ なが る こ とに よって ,他 の代表 的道化 をさらに越 える存在 になって い る とい えるだろ う。 そ して ,前 章 で も見 て きた よ うに,シ ェ イクス ピア は,そ の フール を, リアが 「愚 の なか の賢 ,狂 の なか の 明察」 とい う逆説 的悟 達 を遂 げ ,コ ー デ リアが王救. た。 r`),Brander Matthews(Sん αた ι―. 3)Alois Brandl(Sttα ルψ. `α. Ψ ″ αS α P′ αy"rigttr), Janet Spens(E′ jzα わ ακ `θ `Й D燿 α)等 は “ douЫ ing"説 を唱 えて い るが ,woJ.Law― “ rence(Pr`― R`∫ ′ οκrjθ ′ Sttg`Srだ たs)や AIwin Thalcr (“. Doubling in Shakespeare,"五 Lo S.)は. ,当 時 の上 演. 習慣 や ,役 柄上 の 問題 か ら,こ の説 に批判 的 で あ る。. 4)ユ ング的 な解釈 に よる と,「 王 の 限 りな い 絶対性 の 影 の 存 在 と して ,道 化 が生 まれ た ,つ ま り王 は 自 ら を完. 出 の ため フラ ンス か ら帰還 した と き,「 道 化 の 掟」 を. 全 に光 り輝 く存 在 とす るた め に,そ の 影 の 部 分 を切 り. 用 い て ,非 情 に も舞 台 か ら放逐 した。. 離 して道 化 とい う人格 を作 りだ した」 (河 合. しか し, さらに驚 くべ きこ とには,こ の追放 された フール は ,幕 切 れ ,ま った く思 い もかけない所 に復活 す る一一 綸 られた コー デ リア を抱 い て舞台 に よろめ き Ncver,never,ncvcr, 出 た瀕死 の リアの 唇 の上 に一― “ ncver,never!"(5。. 3.307)と い う,「 恐 ら く世界 の不条. 理 に対 して人間が放 ち得 る最高 の詩」 (野 島. 386)を. 発 して事 切 れ る直前 , リアは 叫 ぶ ,「 か わ い そ うに. ,. わ しの “ f001"は. ,綸 られて しもうた !」. “ And my poor. メbθ ′iS hanged!" (5。 3.304) この “ f001"と い う言葉 が コー デ リア を指 す もの で あ るのか ,そ れ ともフー ル を示唆 した もので あ つたの か ,今 も論議 は絶 えない 。. 引 用 文 献. Bradlcy,A.Co S力 αた θαr`α ′ rragι む 。London: Macmillan, `ψ. 1951.. Cushrnan,Lo W。 助 jε α′ “. Lj′ ι. ′rι ““. 考 えるな らば,こ の言葉 が単 に フールのみ ,あ る い は コー デ リアのみ を指す もので な い こ とは明 らかであ る と思 える。 なぜ な ら「 フールは コー デ リアであ り,コ ー デ リは 『 フール』 で もあ った」 のだか ら。 この 終 幕 にお い て ,あ え て “ fod"と い う言 葉 を 「復 活」 させ た シェ イク ス ピアは ,お そ ら くこの 言 葉 に,い い尽 くせぬ 思 い を託 して い たのではない だろ う か 。 まるで道徳劇 の舞 台 を思 わせ なが ら, しか し善 も また多 く死 に絶 えて い かねばな らな い ,さ なが ら世 界 の崩壊 を予 感 させ る よ うな恐 ろ しい ドラマ の終末 にお い て ,そ れがかす か な希望の光 を求 めた もので あ った のか ,あ るいは凍 りつい た絶望 の 炎 を意味す る もので あ るのか ,そ のい ず れ に して も。. ソ αれグ ′ 力 j′. `I)θ. Bψ ″. /写. `ヽ. Sん α たι ψ. rι. 力 θ ιjκ ′. `I勁. g′ jsん Drα ― れ. o New York: The Hu―. `α. rrlanities Press,1970.. “ Cordelia and the Fool'', Sん αたι Jρ. Stroup, Thomas B. 0′ arrθ り'12,1961.. Welsford, Enido Zた. ` Foθ. ′r. jα ttr,s Sθ θ ′ακグ Lj′. New York: Doubleday Anchor, 1961.. `rarソ. r` `α. 氏JjS′ θη. .. 河 合 隼 雄 『影 の 現 象 学 』 講 談 社 ,1993。 野 島秀勝 『 ロマ ンス ,悲 濠1,道 化 の 死 』 南 雲 堂 ,1986。. しか し,今 まで述 べ て きた こ とを前提 として考 える な らば,つ ま り,フ ール を「 コー デ リアの影」 として. 189)と. され る。. 参 考 文 献. Goldsrnith, R.H."ア. j∫. ` Fθ Michigan Univ.Press, 1963。. Kaiser,Walter.P“ お. `パ. Jρ. `α. げ. θJ∫ :4 Sttα たθ 《 ρ. r`。. Michigan:. `α. E“ S“. Fθ ′ ケ′. S Rα bι Jα Js Sん α ルー. “ rθ ・Carnbridge,Masso Harvard UP,1963.. 岩 崎 宗 治 『 シ ェ イ ク ス ピ ア の イ コ ノ ロ ジ ー』 三 省 堂. ,. 1994。. ウ イ リア ム ・ ウ イ ル フ ォー ド著 ,高 山 宏 訳 『道化 と笏杖』 昌文 社 ,1983。 本 方 庸 助 『英 国 劇 の 苗 床 ,IagOの 祖 先 』 あ ぽ ろ ん 社. ,. 1967。. 高橋 康也 『道化 の文学』 中央公論社 ,1989。 鳥 居 忠 信 他 訳 『 イ ギ リ ス 道 徳 劇 集』 リ ー ベ ル 出 版. ,. 1993。. 中橋 一夫 『道化 の宿命』研究社 ,1959。 ル ネ ッサ ンス研究所編 『ル ネ ッサ ンス における道化文 学』 荒竹出版 ,1983。.
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