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栄養素に基づく代替レシピ推薦手法の提案

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DEIM Forum 2016 E2-4

栄養素に基づく嗜好ラベル付きレシピ推薦システムの提案

玉田 雄基

佐藤 哲司

††

筑波大学図書館情報メディア研究科

〒 305–0006 茨城県つくば市春日 1 丁目 2 号

††

筑波大学図書館情報メディア系

〒 305–0006 茨城県つくば市春日 1 丁目 2 号

E-mail:

†{

tamada,satoh

}

@ce.slis.tsukuba.ac.jp

あらまし

本研究では健康的な生活習慣を実現するために,栄養素のバランスと嗜好を考慮した食事レシピの推薦を

行うレシピ推薦システムを提案した. 提案手法では,食材から得られる栄養素によって食事レシピに栄養素を付与し,

食事レシピに多次元の特徴量を持たせた.また,食事レシピの味を決定している調味料を使用し,機械学習手法であ

るナイーブベイズ推定(N BC)を用いて食事レシピに嗜好ラベルを付与し,レシピ推薦にユーザの嗜好を加味できる

ように設計し,システムの評価をおこなった.

キーワード

レシピ推薦,Web 情報システム,情報推薦

1.

1. 1 近年,メタボリックシンドロームや糖尿病などを中心とした 健康問題が深刻化している.これらの病気は,動脈硬化を介し て脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが増加すること知られている. これらの病気は長年の生活習慣が深く関与しており,病気を予 防,改善するには,食習慣や運動習慣を継続的に改善していく ことが必要である. なかでも食習慣は,我々の生活にとても密着しているもので あり,健康的な生活を送るためには日々の食習慣の管理が重要 で,栄養素バランスが整った献立が大切となる.しかし,一般 的に人々が生活の中でバランスの良い献立を考え,健康的な食 習慣を長く続けるためには,専門的な知識と膨大なレシピの中 から適合するものを選出する労力が必要である.その上,自身 の嗜好やカロリーなど考慮する要因が多く存在しており,健康 的な食習慣を続けることは簡単ではない. 現在,Webサイトやレシピ本などで数多くのレシピや献立 が公開されている.例を挙げると,大手企業が運営するレシピ 大百科(注 1)や楽天レシピ(注2),ユーザ投稿型のレシピ検索SNS であるCOOKPAD(注 3)などにより,膨大な数のレシピがイン ターネット上に掲載されている.それらのレシピには,「ヘル シー」「あったかい」等の様々なタグやジャンルが付与されて 提供されることが多い.また,レシピを検索し詳細を閲覧した 際,そのレシピを閲覧した人が次に見たレシピや,カテゴリ・ タグが同じレシピを推薦してくれる機能があるサイトもある. 一方で,そのように推薦されたレシピがユーザにとって有益で はない場合も少なくない. 1. 2 本研究の目的 本研究では,健康的な生活習慣を実現するために,栄養素の (注1):http://park.ajinomoto.co.jp (注2):http://recipe.rakuten.co.jp (注3):http://cookpad.com バランスと嗜好を考慮した食事レシピの推薦を行う,健康支援 システムを提案する.本研究では,食材から得られる栄養素に よって食事レシピに栄養素を付与し,食事レシピに多次元の特 徴量を持たせた.また,食事レシピの味を決定している調味料 を使用し,機械学習手法であるベイジアンフィルタ(NBC)を 用いて食事レシピに嗜好カテゴリを付与した.これにより健康 支援システムでは,ユーザが摂取すべき栄養素を不足なく,か つ嗜好性によりストレスが少なく継続的に続けられる食事レシ ピを推薦する. 1. 3 本論文の構成 本論文の構成は次の通りである.第2章では,関連研究に ついて概観し,本研究の位置づけを示す.第3章では,食事レ シピを提案するための推薦手法について説明する.第4章で, Webサイトで公開されている献立を用いて,提案手法の有用性 について評価し,5章で考察する.第6章で本論文のまとめと, 今後の課題について述べる.

2.

関 連 研 究

2. 1 栄養素に関連する研究 食事レシピは食材・調味料から構成されている.例をあげれ ば,豚肉はたんぱく質やビタミンB1を多く含んでいる,キャベ ツならビタミンCとKを多く含んでいるなど,それら食材が, 個々に特徴的な栄養素を有している.このように,食事レシピ の栄養素に関係した研究がいつか行われている.三野ら[4]は, 健康管理の中でもダイエットに注目し,ダイエットを支援する ことを目標として研究を行なっている.ユーザのスケジュール に合わせてカロリーを調整する夕食のレシピを選択,選択され たレシピ群に対して線形計画法を用い,タンパク質,脂質,炭 水化物,塩分の栄養バランスが良く,野菜摂取量が多いレシピ を推薦する.苅米ら[1]は,食事レシピの栄養素に注目し,献 立検索を行うことができる料理検索システムを提案した.この 料理検索システムでは,ユーザが検索を行なった料理に対して, 1日に摂取すべき食品の分量に関する目安である「食品群別摂 取量」を満たせる献立を提案する.藤井ら[9]は,糖尿病や高

(2)

血圧症の患者や食物アレルギーを持った患者が手軽に,食材に 気をつけた食事を摂取することができる料理推薦システムを開 発した.栄養情報を活用し,「肌荒れを治したい」,「活力が欲し い」等のユーザの欲求を満たすことを目的したものには,岩上 ら,[2]の研究がある.これは,独自のクローラーで収集した食 材の情報を用い,ユーザの欲求を満たすことができる栄養素の データベースを作成する.そして,ユーザの欲求にマッチング する食材を使用している食事レシピを推薦するシステムとなっ ている.これらの栄養素に関連する研究は,栄養素を用いて, ユーザの健康を継続的にプロデュース,支援することを目的と しているのではなく,ダイエットや肌荒れの治療,アレルギー による代替食材の発見等のユーザのやりたいことベースを入力 としている.そのため,食事レシピを単発として検索,支援す る手法としては有効ではあるが,継続性には少し疑問がのこる. 2. 2 食事の嗜好に関係する研究 食事は生活に必要な栄養素摂取するだけが目的ではなく,食 事をすることで,ストレス解消やコミュニケーションを取りや すくなることが知られている.このように食事には娯楽的側面 があり,ユーザが好きな食事レシピを選択することができるよ う,食事の嗜好に関係する研究も行われている.その中でも, 本研究にも関係する,嗜好に応じて食事レシピを分類する研究 をいくつか紹介する.千葉ら[6]は,食事レシピに生理学的に 定められている基本味である,「甘味」,「酸味」,「塩味」,「苦味」, 「うま味」の5分類に分別し,スコア付けした.スコア付け手 法は,クックパッドの食事レシピから抜き出した材料に,甘い, 酸っぱい等の単語がどの程度の頻度で出現するかを計算し,材 料の味の決定影響度を算出する.その結果を用いて,食事レシ ピにスコアの付与を行なった.中川ら[8]は,食材の好き嫌い を考慮した料理検索システムを提案した.ユーザの調理履歴を 利用し,食材に好き嫌いのラベリングを行う.ユーザが調理し たレシピに含まれる食材は,ユーザが好きな食材または使用を 避ける必要がない食材と仮定し,好きな食材スコアを付与する. 一方で,ユーザが閲覧したが調理は行わなかったレシピに含ま れる食材は,嫌いな食材または使用を避ける食材であると仮定 し,嫌いな食材スコアを付与する.このように,付与した好き 嫌い食材スコアを利用して食事レシピのスコアを算出し,スコ アが高い食事レシピをユーザに提案する. 2. 3 食事と運動に着目した研究 健康的な生活を支援するためには,食習慣だけではなく,運 動習慣も改善する必要がある.日本では「健康づくりのための 運動基準」と 「健康づくりのための運動指針」が策定されて いる.これでは,運動(スポーツ活動を含む)だけでなく,生活 の中で実施される通勤や家事などの生活活動を含めた「中強度 (3 METs)以上の身体活動の総量を増加させる」ことが生活 習慣病予防のための目標として特に奨励されており,研究もい くつか行われている.松繁ら[5]は健康および体力の維持を図 りながら減量することを目的とし,栄養処方と運動処方を同時 に行うシステムを提案した.食品を家庭に配達することにより 摂取エネルギー量を管理し,同時に日常生活の中で体力に応じ た運動を処方し,実験を行った.食事と運動を正確に管理し, 健康的な食生活,運動習慣を続けることで,体重減少等に優位 な結果を出していた.しかし,食事を宅配する,毎日運動を行 わせるなど,健康増進に少し興味が有る程度のライトユーザが 行うことは困難なシステムであり,一般的に利用される健康支 援システムとは言い難い.また,今津ら[3]は肥満の予防,改 善のため,食事や運動といったユーザのアクティビティの入力 と体重変化に基づきいた継続性の高い健康支援システムを提案 した.この研究は,ユーザの継続性を最優先に考え,脈拍計や 血圧計などのデバイスを体に直接装着する,食事内容や運動内 容の詳細を入力してもらうといったユーザの労力が高い方法を 避け,体重とモバイル端末でのアクティビティの簡単な記入の みで健康支援を行った. 2. 4 本研究の位置づけ これまでに,食事レシピの栄養素を対象に有益なレシピを ユーザに提案する研究は数多くなされているが,本研究では, 人々の生活に必要である栄養素を不足なく摂取ことを目的とし ていることに特徴がある.また,2. 1節でも紹介した苅米ら[1] の研究は本研究と類似しているが,栄養素摂取の基準を食品群 にとっている.本研究では,食品群より細分化された基準を採 用しているため,必要な栄養素を厳密に摂取することが可能で あると言える.食事の嗜好に関しては,食事レシピの食材を利 用し,ユーザの調理履歴を用いた嗜好推定,ランキング手法を 応用した嗜好推定が多いが,本研究では,食材ではなく,食事 レシピに使用されている調味料を使用し,食事レシピに嗜好ラ ベルを付与し,ユーザに提示する.

3.

栄養素に基づくレシピ推薦システムの提案

本章ではまず,提案システムの概要図ついて説明する.次に, 食事レシピへの栄養素の付与方法,ナイーブベイズ分類器によ る嗜好ラベルの付与方法について記述する.そして最後にユー ザに推薦する食事レシピの選定方法について述べる. 3. 1 提案システムの概要 本研究では,食事を摂取する際の栄養素の着目する.人間は 男性,女性で差はあるが1日に摂取すべき栄養素とその推奨量 が日本人の食事摂取基準(注 4)で定められている.しかし,この 基準を継続的に満たしていくことは,調理技術,調理時間の確 保や栄養素への深い理解など様々な要素が絡んでおり,とても 困難であると考えられる. 本研究で提案する生活支援システムの概要について,図1に 示す.まず,データベースに入れる食事レシピには2つの処理 を加える.1つめでは,食事レシピを構成する食材が持ってい る栄養素によって,食事レシピの栄養素を決定する.2つめで は,ユーザの嗜好を反映するため,味を決定する調味料をナ イーブベイズ分類器にかけることで,各食事レシピにラベリン グを行う.ナイーブベイズ分類器はベイズの定理を応用し,分 類するクラスの尤度を決定する教師あり学習モデルである.こ れらにより,栄養素を持ち,嗜好ジャンルを持つ食事レシピを 生成する. (注4):http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/syokujikijyun.html

(3)

一方,システムを使用するユーザは,摂取した食事レシピの 栄養素の情報を保持する.これによりユーザに必要な栄養素や その摂取量を知ることが可能となる.保持した栄養素情報と ユーザがどのような嗜好ジャンルの食事をしたいか,という情 報をデータベース側に引き渡すことで,システムは特徴量を再 計算しユーザのニーズに最適化した食事レシピを推薦する. 図 1 提案システムの概要 3. 2 食事レシピ構成食材に基づく栄養素付与方法 提案システムは,ユーザが1日に摂取すべき栄養素とその推 奨量に基づき食事レシピを提案する.そのため,推薦する食事 レシピに栄養素を付与し,ユーザが摂取した栄養素量を計算す る必要がある.食事レシピというものは,数多くの食材・食品 から構成されており,各々の食材が様々な栄養素を内在してい る.本研究では,日本食品標準成分表(注5)に記述されている 食品,栄養素量を参考に栄養素計25カラムを食事レシピ付与 した. 3. 2. 1 食材使用量記載の変更 食事レシピに栄養素量を付与するためには,日本食品標準成 分表に記述されている食材ごとの栄養素を用いる.日本食品標 準成分表では,食材100gあたりの栄養素量を表記しているた め,レシピの構成食材の使用量をグラム単位で使用する必要が あるのだが,レシピサイトで記載している食材の使用量は,表 1のように,助動詞で記述してあるものが数多くある.また, 白菜のように同じ食材であるのに,異なった助動詞で表現され ている場合もある.このような表記の揺れを解消し,グラム単 位に統一するため,本研究では中岡ら[7]が行った研究で使用 されている,食材表記対応表を用いて単位の統一を行った. 表 1 食材使用量の例 食材名 使用量 白菜 1 枚 白菜 1 房 オレンジ 1 個 にんじん 1 本 レタス 1 玉 3. 2. 2 レシピ分量の変換 前節において,使用している食材の単位をグラム表記に変換 することで,日本食品標準成分表に記述されている食材の栄養 素を参照することが可能となった.しかし,レシピサイトに記 載しているレシピの分量は,統一されていない. 一例として,大手食品企業AJINOMOTOが運営をする「レ (注5):www.mext.go.jp/b menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002.htm シピ大百科」におけるレシピの分量の散布を,図2に示す.本 研究では,単一のユーザがシステムを使用することを想定して いるため,分量が2人前や4人前のレシピに対して一様に栄養 素を付与すると,異常に高位な値を持つレシピデータになって しまう.そのため,全レシピを1人前に正規化し,栄養素の付 与を行う. 図 2 レシピの分量の散布 3. 3 ナイーブベイズ分類器による嗜好ラベル付与方法 食事レシピに使用されている調味料をナイーブベイズ分類器 の入力とし,嗜好ラベルを付与する.ナイーブベイズ分類器と は,ベイズ推定と呼ばれる観測事象から,推定したい事柄を確 率的に推定する統計的手法を応用し,データを分類したり判別 する機械学習手法の一つである. ナイーブベイズ分類器のグラフィカルモデルを図3に示す. 文書(文書中の単語の出現確率)を入力とし,ラベルの確率を計 算し,それを各文書に付与する.本研究では,レシピの味を決 定する調味料を入力とし,嗜好ラベルの確率を計算する. 図 3 ナイーブベイズ分類器 テキストdoclabeliである確率を決定する式はベイズの定 理を応用した以下の式で表せる。 P (labeli|doc) =

P (labeli)P (doc|labeli)

P (doc) ∝ P (labeli)P (doc|labeli)

(1) この確率を計算するためには,右辺の事前確率P (labeli)と尤 度P (doc|labeli)が必要となる.P (doc)はすべてのラベルで共 通の分母となるため,無視することができる.また,P (labeli) は教師データの各ラベルの文書数の総文書数に占める割合を表 している.P (doc|labeli)はラベルlabeliが与えられたときにテ キストdocが生成される確率のことであり,単語間の出現確率 に独立性があると仮定すると,以下の式のように計算できる.

(4)

P (doc|labeli) = nj=0 P (wordj|labeli) (2) 式 2 を 計 算 す る た め に は ,単 語 の 条 件 付 き 確 率 P (wordj|labeli)を求める必要があり,ラベルの中でその単 語がどれくらいでてきやすいかを表す.これは,教師データの ラベルlabeliに単語wordj が出てきた回数を,ラベルlabeli の全単語数で除算することで求められる.T (cat, word)をラベ ルlabeliに単語wordが出てきた回数,V を教師データ中の全 単語集合とすれば,以下の式で表すことができる. P (wordj|labeli) = T (labeli, wordj) ∑

word′∈VT (labeli, word′) (3) 以上,式1,式2,式3から,最終的に分類するラベルの確 率は以下の式で算出することができる.

P (labeli|doc) =

P (labeli)T (labeli, wordj) ∑

word′∈V T (labeli, word′)

(4) 本研究では,分類するlabeliは「和食」,「洋食」,「中華」,「コ リアン」,「エスニック」の5カテゴリ,入力テキストdocは食 事レシピの使用調味料として行った.このラベリングにより食 事レシピを大別し,ユーザの嗜好を反映する要因として使用す る.食事レシピとラベルの対応関係の例を図4に示す. 図 4 食事レシピとラベルの対応例 3. 4 理想栄養素量の計算方法 本研究のシステムでは,ユーザが1日に摂取すべき栄養素と その推奨量に基づき食事レシピを提案する.ユーザに必要な栄 養素を算出するため,過去2食に渡ってユーザが摂取した栄養 素をシステムは保持する.それを本研究では,ユーザ栄養素量 と定義する. 提案システムが,ユーザに推薦する食事レシピを選定するフ ローを図5に示す. 図 5 理想栄養素の計算 (1) 食事を摂取した際,ユーザ栄養素量を再計算する. (2) ユーザが1日に摂取すべき栄養素の推奨量Vrefから, ユーザ栄養素量Vuserを減算することで,推薦する食事レシピ に必要な栄養素量Videalを計算する.(式5)

Videal= Vref − Vuser (5)

(3) Videalと食事レシピが持つ栄養素量V (R)の類似度を 計算し,類似度が高い食事レシピを選定し,推薦する. 3. 5 食事レシピの選定方法 ユーザが実際に摂取する食事レシピを推薦するため,3. 4節で 計算したVidealと,ある食事レシピRiが持つ栄養素量V (Ri) との類似度を計算する.まずはじめに,VidealV (Ri)の差分 栄養素量D(Ri)を計算する.式は以下で与えられる. D(Ri) = Videal− V (Ri) (6) 差分栄養素量D(Ri)はベクトル量である.本研究ではこの 値を使用し,類似度を算出する.類似度をスコア化するために, ベクトル量をスカラ量に変換したい.そのためには,絶対値で ある|D(Ri)|を計算すれば良い.D(Ri)は理想栄養素量との 減算であるため,絶対値|D(Ri)|がより0に近いものが,類似 度が高い食事レシピであると言える.しかし,ナイーブにこの 手法を行うと1つ大きな問題が発生する.その問題とは,各栄 養素が必要とする量に大きな隔たりがあるということである. ある栄養素Aの摂取量は1000mgであるのに対し,栄養素B の摂取量は6mgであるという状況が起こりうる.大きな値と 小さな値が混在するVidealに対して,各栄養素に対し同様に減 算を行い,その絶対値によってスコア化してしまうと,計算が 摂取量の大きな値に偏ってしまい,小さな値は無視されてしま う恐れがある.そのため本研究では,栄養素摂取量の大きな値 も小さな値も同様に扱うため,式6で計算した,差分栄養素量 D(Ri)を正規化して利用する.ここで,n種類の栄養素を表す ためにn次元に拡張した基本ベクトルをe1,e2,...,enとす ると,式6は以下のように変形できる. D(Ri) = Videal− V (Ri) = (Videal1− V (Ri)1)e1+ ... + (Videaln− V (Ri)n)en = d1e1+ ... + dnen (7) 式7で表したベクトルの係数であるd1,d2,...,dnを,理 想栄養素ベクトルVidealが対応する係数で除算したものを,差 分栄養素量D(Ri)を正規化したものと定義する.式は以下で 与えられる. Dnor(Ri) = d1 Videal1 e1+ d2 Videal2 e2+ ... + dn Videaln en (8) 式8を計算することにより,正規化された差分栄養素量 Dnor(Ri)の各値は,Videalとどれだけ離れているかを比率で 表現することができる.これにより,栄養素摂取量の小さな値

(5)

も無視されることなくスコアの計算を行うことができる. レシピの類似度はスカラ量で表し,順位づけを行う. 最終的 なスコアScore(Ri)の式は以下で与えられる. Score(Ri) =| Dnor(Ri)| (9)

4.

実験と評価

評価実験では,提案手法がどれだけ元レシピを代替すること ができたのかを栄養素量の再現率,相対誤差量で評価する.提 案手法が有効に機能することを分析するため,レシピ代替の1 つの手法であるエネルギーによる代替手法と比較する.また, 本研究で食事レシピに付与した嗜好ラベルの有用性を検証する ために,被験者実験も行った. 4. 1 データセット 4. 1. 1 データセット:食事レシピ推薦データ レシピ推薦のため,2012年8月時点で味の素株式会社がWeb 上で公開していた,レシピ大百科(注 6)のレシピデータを使用す る.評価に使用するレシピ総数は,9520件であった. 4. 1. 2 データセット:評価用レシピデータ 提案手法を評価するためのデータセットして,栄養バランス を考えて構築された,1週間の献立レシピデータを使用する. こちらも味の素株式会社がWeb上で公開している,パルゼロ 友の会(注 7)に記載されている「 1600kcalの献立1週間」(注8) 栄養素量の記載があるレシピを使用した. 4. 2 実 験 方 法 4. 2. 1 嗜好ラベルの評価 提案手法で嗜好を反映するため,食事レシピに付与した嗜好 ラベルが正確に嗜好を推定できているかを評価する.4. 1. 1節 で説明したレシピデータ9520件の中からランダムに抽出した 100件のレシピデータセットに対し,5名の実験者によって人 手判定を行った.実験者には,各食事レシピに「和風」「洋風」 「中華」「韓国風」「エスニック」という5つの嗜好ラベルの中 から正しいと思うラベルを1位から3位までの順位で付与する こととした.ただし,レシピによっては2位,3位までラベル 付けをおこなうことが難しいものがあった場合は,2位までの ラベル付けで良いこととした.5名の実験者はいずれもつくば 市在住の大学生,大学院生である. 評価方法としては,5名の実験者がラベル付けしたデータと 提案手法で推定した嗜好ラベルデータとの一致度,κ係数に よって評価する. 4. 2. 2 レシピ推薦の評価 提案手法の有効性について検証するため,本論文では,4. 1. 2 節で説明した,栄養士が構築した1週間の献立に使用されてい るレシピ(元レシピ)をどれだけ代替することができたのかを各 栄養素量の再現率(Recall),誤差量(difference)で評価する. それぞれの計算方法について以下に示す. (注6):http://park.ajinomoto.co.jp (注7):http://www.ajinomoto.co.jp/lcr/palzero/index.html (注8):http://www.ajinomoto.co.jp/lcr/palzero/menu/recipe0112.htmll Recalli= ∑n j=1提案手法によって代替されたレシピjの栄養素in j=1元レシピjの栄養素i (10) Diff erencei= 100∗ ( 提案手法によって代替されたレシピの栄養素i 元レシピの栄養素i − 1.0) (11) 4. 3 実 験 結 果 4. 3. 1 嗜好ラベル判定実験結果 提案手法の嗜好ラベルを評価するため,まずは5人の実験 者が食事レシピに付けた嗜好ラベル1位に対して,一致度と κ係数を算出したものを表2,表3に示す.実験者AE間 の一致度は0.640.84,k係数は0.460.77の間で推移し た.一致率の平均は0.73,k係数は0.59となり,十分な一致 (substantial)を示した. 表 2 実験者間の一致率 A B C D E A - 0.71 0.71 0.64 0.75 B 0.71 - 0.7 0.69 0.84 C 0.71 0.7 - 0.76 0.74 D 0.64 0.69 0.76 - 0.73 E 0.75 0.84 0.74 0.73 -平均 0.70 0.74 0.73 0.70 0.77 表 3 実験者間の k 係数 A B C D E A - 0.58 0.56 0.46 0.63 B 0.58 - 0.55 0.53 0.77 C 0.56 0.55 - 0.61 0.60 D 0.46 0.53 0.61 - 0.59 E 0.63 0.77 0.60 0.59 -平均 0.56 0.61 0.58 0.55 0.65 提案手法によってレシピに付けた嗜好ラベルと各実験者AEがレシピに付けた嗜好ラベル1位との一致度,k係数を 算出した結果を表4に示す.一致度は0.550.60程度,k係 数は0.350.44程度の間で推移した.平均値は,一致度: 0.5780219776,k係数:0.3997443032となり,実験者間での平 均結果より大きく値を下げた. 表 4 提案手法と実験者嗜好ラベル 1 位との一致度と k 係数 A - 提案 B - 提案 C - 提案 D - 提案 E - 提案 一致度 0.56 0.60 0.58 0.55 0.59 k 係数 0.38 0.44 0.40 0.36 0.42 次に実験者AEが各レシピに付けた嗜好ラベルを集計し, 正解嗜好ラベルセットを作成した.レシピrに対して正解とな るラベル集合ALrは, ALr={label|maxUscore(r, label)} (12) とする.ここで,maxU score(r, label)は実験者がレシピr

(6)

対して,第1位に指定した嗜好ラベルlabelの値を集計したも のの最大値とする.結果は表5に示す.一致度:0.648351648, k係数:0.494180997となり,実験者間での平均結果よりは値 を下げたが,中程度の一致率が見られた. 表 5 提案手法と正解ラベルとの一致度と k 係数 正解ラベル - 提案 一致度 0.65 k 係数 0.49 最後に提案手法によってレシピに付けた嗜好ラベルが,各実 験者AEがレシピに付けた嗜好ラベル1位または2位との 一致度を算出した結果を6に示す.実験者が各レシピにつけた 嗜好ラベル1位または2位まで拡張を行うと,十分に高い一致 率が見られた. 表 6 提案手法と実験者嗜好ラベル 1 位または 2 位との一致度 A - 提案 B - 提案 C - 提案 D - 提案 E - 提案 一致度 0.71 0.71 0.69 - 0.7 4. 3. 2 レシピ推薦の再現率 提案手法を用いて再現率を評価した.評価結果を以下に示す. これらはパルゼロ友の会の1週間の献立レシピデータ(4. 1. 1章 参照)を,本提案手法で推薦された食事レシピで代替した結果 である.表7から見て取れるように,エネルギーと脂質,カル シウムではALL(すべてのジャンルを合わせたレシピの集合), 和風,洋風,中華,韓国風のすべての値で0.80を超える,高い 再現率を実現した. 表 7 再 現 率 エネルギー たんぱく質 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄分 平均 ALL 0.98 0.74 0.93 0.93 0.91 0.92 0.84 和風 0.94 0.74 0.88 0.84 0.86 0.87 0.85 洋風 0.93 0.66 0.88 0.90 0.84 0.76 0.82 中華 0.94 0.75 0.88 0.88 0.89 0.79 0.85 韓国風 0.91 0.69 0.87 0.85 0.87 0.82 0.82 図 6 エネルギーの再現率 図 7 たんぱく質の再現率 図 8 脂質の再現率 図 9 炭水化物の再現率 図 10 カルシウムの再現率 図 11 鉄分の再現率

5.

5. 1 提案手法による嗜好ラベル推定に関する考察 表4より,各実験者間と提案手法の一致率,k係数は大きい とは言えなかった.しかし,実験者B,実験者Eとの値が高 く,実験者A,実験者Dは低い値をとるという関係は,表2, 表3の関係と同じであり,提案手法が嗜好を推定できていない とも言い難かった.そのため,実験者AEが各レシピに付 けた嗜好ラベルから正解嗜好ラベルセット作成し,提案手法と の関係を調べた.その結果が表5であり,一致度:0.65k係 数:0.49となり,表4の結果より大きく値を上げた.以上のこ とから,提案手法は人手判定ほどの正確性を示すことはできな いが,システムで大量のレシピの嗜好を判定するには,十分に 納得できるラベル付けができると考えられる. 提案手法が正確に正解嗜好ラベルを推定した例を,表8に示 す.主食材が同じじゃがいもである,じゃがいもと玉ねぎのみ そ汁とポテトのニョッキ風というレシピを使用調味料の違いに よってしっかりとラベル分けできていることがわかる.

(7)

表 8 提案手法が嗜好を推定した例 レシピ名 正解ラベル 判定ラベル 使用調味料 じゃがいもと玉ねぎのみそ汁 和風 和風 ほんだし,みそ ポテトのニョッキ風 洋風 洋風 バター,牛乳,小麦粉 上海風焼きそば 中華 中華 豆板醤,味の素,こしょう,ごま油 表 9 提案手法が嗜好を推定した例 レシピ名 正解ラベル 判定ラベル 使用調味料 参鶏湯 韓国風 中華 酒,丸鶏がら,こしょう ビーフンのカレー炒め 洋風 エスニック しょうゆ,カレー粉,砂糖,ごま油 ゆで卵ときゅうりのカレーマリネ エスニック 中華 酢,カレー粉,オリーブオイル 一方で提案手法が間違えた正解嗜好ラベルを推定した例を, 表9に示す.参鶏湯(サムゲタン)に正解嗜好ラベルとして付 与されているのは韓国風であり,提案手法で推定した嗜好ラベ ルでは中華となった.サムゲタンは代表的な韓国料理として広 く知られているが,薬膳料理とも言われており(注 9),薬膳(や くぜん)とは中医学理論に基づいて食材,中薬と組合せた料理 であるため,推定結果が必ずしも間違いではないと言えるだろ う.また,ビーフンのカレー炒めに正解嗜好ラベルとして付与 されているのは洋風であり,提案手法で推定した嗜好ラベルで はエスニックである.しかしゆで卵ときゅうりのカレーマリネ は正解ラベルとしてエスニックとして付与されており,カレー 粉を使用したレシピは洋風,エスニックのどちらに分類される かは難易度の高い問題であったようである. 5. 2 提案手法の再現率に関する考察 表7に示す再現率では,正解として与えられた評価用の1週 間レシピの栄養素を示している.多くの栄養素で0.8以上の値 を出すことができ,特にエネルギーでは,すべてが0.9を超え る値を出しており,非常に高い再現率を示すことができた.ま た平均再現率では,すべてのレシピを使用して再現したALL の嗜好ジャンルが和風や中華といった嗜好ジャンルの方が高い 値を出した.そのため,今回評価した再現率というものは,シ ステムの継続性を評価する指標として有用であり,その観点か ら考えると,本提案手法は長期間にわたって栄養素の再現率の 信頼性が高いという結果となった.

6.

と め

本論文では,継続的に健康的な生活習慣を実現するために, 栄養素のバランスと嗜好を考慮した食事レシピの推薦を行う レシピ推薦システムを提案した. 提案手法では,食材から得ら れる栄養素によって食事レシピに栄養素を付与し,食事レシピ に多次元の特徴量を持たせた.また,食事レシピの味を決定し ている調味料を使用し,機械学習手法であるナイーブベイズ分 類器を用いて食事レシピに嗜好ラベルを付与し,レシピ推薦に ユーザの嗜好を加味できるように設計した.この2点に提案手 法の特徴がある. 提案手法の有効性を評価するため,2つの評価実験をおこなっ た.1つ目は,ユーザの食事の嗜好を反映するための嗜好ラベ ルが正確にレシピに付与できているかを判定する利用者実験を おこなった.2つ目は,レシピ推薦システムを評価するために, Web上で公開している献立をどの程度再現できるかを実験し (注9):https://ja.wikipedia.org/wiki/サムゲタン た.その結果,栄養素の再現率の平均は0.80を超えており,1 週間という期間では推薦の再現率が高く,継続的に食生活を改 善できることがわかった.今後の課題は,レシピの栄養素付与 の精度向上をすることにより,システムの栄養素誤差量の向上 を目指すことである.

本研究は,JSPS科研費25540159の助成を受けたものです. ここに記して謝意を示します. [1] 苅米志穂乃, 藤井敦. 栄養素等摂取バランスを考慮した料理レシ ピ検索システム. 電子情報通信学会論文誌, Vol. J92-D, No. 7, pp. 975–983, 2009. [2] 岩上将史, 安藤哲志, 伊藤孝行, 田中雅章. 栄養情報を活用した目 的思考料理推薦システムの試作. 電子情報通信学会技術研究報告. AI, 人工知能と知識処理, Vol. 110, No. 212, pp. 7–12, 2010. [3] 今津眞也, 水本旭洋, 孫為華, 柴田直樹, 安本慶一, 伊藤実. ユー ザのアクティビティと体重変化履歴に基づいた継続性の高い健 康支援手法の提案. 研究報告モバイルコンピューティングとユビ キタス通信(MBL), Vol. 57, No. 5, 2011. [4] 三野陽子, 小林一郎. ダイエットのための柔軟なレシピ推薦. 知 能と情報, Vol. 24, No. 1, pp. 616–626, 2012. [5] 松繁かな子, 石井恵子, 大田賛行. 栄養と運動の統合システム

「ness」による減量効果. Technical report, 九州大学, 1996.

[6] 千葉祐輔, 本田真望, 大島邦夫. 味の嗜好に応じたレシピの検索. 第 70 回全国大会講演論文集. 一般社団法人情報処理学会, 2008. [7] 中岡義貴, 佐藤哲二. 定番度に基づくレシピ推薦システムの提案. マルチメディア, 分散, 協調とモバイル (DICOMO2013) シンポ ジウム, 2013. [8] 中川明莉沙, 上田真由美, 高畑麻理, 中島伸介. 好き嫌いラベル付 き食材分量を考慮したレシピスコア算出方式. DEIM2012 第 7 回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム. 一般社団 法人情報処理学会, 2012. [9] 藤井宏平, 伊藤行生, 高木正則, 山田敬三, 佐々木淳. 食事制約条 件を考慮した料理推薦システムの開発. 第 74 回全国大会講演論 文集, 2012.

表 8 提案手法が嗜好を推定した例 レシピ名 正解ラベル 判定ラベル 使用調味料 じゃがいもと玉ねぎのみそ汁 和風 和風 ほんだし,みそ ポテトのニョッキ風 洋風 洋風 バター,牛乳,小麦粉 上海風焼きそば 中華 中華 豆板醤,味の素,こしょう,ごま油 表 9 提案手法が嗜好を推定した例 レシピ名 正解ラベル 判定ラベル 使用調味料 参鶏湯 韓国風 中華 酒,丸鶏がら,こしょう ビーフンのカレー炒め 洋風 エスニック しょうゆ,カレー粉,砂糖,ごま油 ゆで卵ときゅうりのカレーマリネ エスニック 中華 酢,カ

参照

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