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鍵盤ハーモニカの指導への試み ―教員への研修を通して―

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Academic year: 2021

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鍵盤ハーモニカの指導への試み

―教員への研修を通して―

新井 恵美

*

宇都宮大学教育学部

* 本稿は、小・中学校等の教員を対象とした、教員免許状更新講習における鍵盤ハーモニカに関する講座に ついての初年度の実践報告である。 キーワード:鍵盤ハーモニカ、演奏、指導 1.はじめに 小学校、特に低学年の音楽科においては、器楽で 鍵盤ハーモニカを用いることが非常に多くなってい る。そうであるにもかかわらず、鍵盤ハーモニカの ワークショップや児童の前で演奏などに関わってい く中で、現場の教員は鍵盤ハーモニカのことについ てあまり知らないのではないかという印象を抱くよ うになった。そのことを確認するため、また、現場 の教員に鍵盤ハーモニカについて理解してもらい、 教育楽器として認識されることの多いこの楽器が、 魅力ある楽器であることを知ってもらうことを目的 とし、教員対象に鍵盤ハーモニカに関する研修を行 いたいと、かねてより考えていた。そこで、教員免 許状更新講習において鍵盤ハーモニカの講座を何年 か継続して行うことで、多くの教員に伝えることが できるのではないかと考えた。本稿は、その初年度 の実践報告である。 2.実施の概要 講習は、2016 年 7 月 9 日(土)と 8 月 10 日(水) の 2 回実施した。2 回とも、同内容の講座である。 本講習は実技を伴う関係上、各回の定員を 20 名と した。そうすることで、受講生にじっくり時間をか けて鍵盤ハーモニカと向き合い、相互に考えを話し 合うことが可能となるようにした。 受講生は、小学校教員が大部分で、幼稚園、中学 校、特別支援学校の教員が数名ずつであった。 講習の持ち時間である6時間を、前半は全体での 時間、後半は個人やグループでの時間と分けること とした。前半では、受講生の疑問や悩みを共有し、 受講生相互に話し合ったりしながら、それらの解決 を図る糸口をみつけ、後半では、個人やグループで 考え、受講前と比べて異なる視点を持ちながら1曲 を仕上げていくことができるのではないかと考えた ためである。 (1)前半 まず、さまざまな鍵盤ハーモニカを受講生に見て もらった。小学校では主に 32 鍵のアルト音域の楽 器を使用している。受講生には、それか、それより 鍵盤数の多い楽器を持参してもらった。筆者は、あ る特定のメーカーの機種を持ってくる受講生がほと んどであろうと予想していたが、受講生の持ってき た楽器は想像していたより多彩であった。それらを 取り上げて楽器の構造や音色の違いなどを説明し た。また、筆者が持参した、ソプラノやバスといっ た音域の異なる楽器を紹介し、様々な音域で合奏を することが可能な楽器であることを説明した。音域 の異なる楽器でも、メーカーが共通していれば唄口 は共通であるため、学校に数台常備しておけばよく、 特に、バス音域の楽器は、合奏の低音を支えるのに 有効であることを伝えると、受講生は興味津々で あった。そして、通常とは異なる色で構成されてい る鍵盤を持つ楽器を紹介した。授業で大学生にこの † Emi ARAI*: Attempts to Teach Keyboard

Harmonica Keywords: Keyboard Harmonica, Performance, Guidance * School of Education, Utsunomiya University (連絡先:[email protected]) 宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第3号 2017年8月1日

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楽器を紹介すると、「教える時に大変そうだから、 購入するときに保護者にきちんと指示したい。」と いったコメントが多く聞かれるが、ここでは、多く の受講生が興味を持ち、子どもも興味を持ってくれ るのではないかと思ったようである。休憩時間に、 子どもに見せたいとのことで、これらの楽器の写真 を撮る受講生も少なくなかった。そして、教育用目 的ではなく作られている、マイク内蔵のライブ使用 可能な楽器の紹介をしたり、番外編として、かつて 使用されていたOHP用鍵盤ハーモニカや、鍵盤ハー モニカから応用されてできた鍵盤笛を紹介したりし た。前者については、筆者の演奏も聴いてもらい、 教育用とは違った楽器の可能性を感じてもらうよう にした。後者については、教育用として鍵盤ハーモ ニカもいろいろ工夫されてきたことを知ってもらう ことを目的とした。 次に、鍵盤ハーモニカの音の出る仕組みを理解し てもらうために、分解した鍵盤ハーモニカ、真ん中 から切断した鍵盤ハーモニカを見てもらいながら説 明を行った。楽器は使用していると音高が変化する ことがあるが、その対応として、調律の仕方や、リー ド自体の交換について解説した。今回は時間の関係 上、実際に調律する場面を見せたりすることはでき なかったが、そのような方法があるということを 知ってもらうことは意義のあることと考え、説明の みにとどめた。 それから、教材として選曲した数曲を、全員で吹 いた。選曲にあたっては、鍵盤ハーモニカのパート を1 ~ 4程度のものとし、全員で同じ旋律を吹いて 共通の課題を解決したり、さまざまなパートの重な りを感じたりすることができるようにした。事前ア ンケートから、音楽があまり得意でない教員が受講 することが分かったので、すぐに楽器で演奏するの ではなく、ピアノ伴奏に合わせて、ドレミでリズム 読み(可能な人は歌う)をする時間を設けることに した。また、演奏にあたっては、タンギングを使っ て演奏するか、あるいは鍵盤から指を離すことで音 を切って演奏するかといった奏法のことや、吹く時 の息の量の調節のことなどを考えながら、様々な可 能性を試してもらうことをねらいとして、同じ曲を 何度か実施した。その際に出てくる疑問や子供に指 導している時の悩みを共有し、意見を出し合ったり、 実際にやってみることで確認し合ったりして、指導 の可能性を広げることができるよう配慮した。 (2)後半 後半は、前半で演奏した楽曲から 1 曲を選択し、 個人またはグループで深めていく活動を設定した。 グループ活動の時には筆者が机間指導を行い、それ ぞれがしたい表現につなげることができるような技 法を助言したり、意見や感想を共有したりする場の 設定をしたりした。ピアノ伴奏が付されている曲を 選択した場合は、伴奏を担当するTAの学生との相 談も積極的にしてもらった。同じ楽曲を選択しても、 楽譜に書かれている強弱やアーティキュレーション に忠実に表現したいというグループもあれば、ヴィ ブラート(音量の揺れ)を付けたいということで、 息の量を変化させたり、クラヴィコードのそれのよ うに鍵盤を押したまま左右に揺らしたり、空いてい る手でお腹を押したりと、試行錯誤するグループも 見られた。後者のグループは、最終的にはヴィブラー トをかけない形を完成形としたが、それは試行錯誤 の結果であり、大変に意義のあることであると考え る。こういったことは子どもへの指導にも役立つの ではなかろうか。 最後に、それぞれのグループあるいは個人の成果 を発表する機会を設けた。これは、本講習の試験の 意味合いも持つものである。発表する際には、どの ようなことを考えながら表現を深めていったかを口 頭で発表した上で演奏に移ってもらい、聴いている 受講生もその考えを共有できるよう配慮した。発表 を聴きながら、簡単な試験とともに、各グループの 演奏に関する感想や、本講習全体に関する感想など を書いてもらって、講習を閉じた。 3.受講生の声 講習を終えて、受講生から得られた感想を抽出し、 列挙する。 (1)楽器に関すること ・カラフルな鍵盤のものや、音の高さが違うもの(ソ プラノやバス)も子供たちに紹介したい。 ・鍵盤ハーモニカがこんなに奥の深い素敵な楽器で あることを改めて知った。 ・鍵盤ハーモニカの歴史を知れてよかった。 ・鍵盤ハーモニカは低音が強くなってしまうという 特徴を知れた。 ・鍵盤ハーモニカの手入れの仕方を今まで知らな かったので、学べてよかった。

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(2)演奏に関すること ・鍵盤ハーモニカの演奏の幅の広さを知った。 ・表現方法もいろいろあっていいんだと分かった。 ・タンギングもその場面場面に合わせて選ぶ必要が あると思った。 (3)指導に関すること ・子ども一人ひとりの思い、弾き方、吹き方を認め てあげることが大切だと思った。 ・高学年になると鍵盤ハーモニカから遠ざかってし まいがちだが、今日演奏した曲はぜひ授業に取り 入れたい。 ・鍵盤ハーモニカって面白いなと思えるような指導 をしたい。 ・中学校でも鍵盤ハーモニカを取り入れてもよいの ではないかと思った。 ・今回のことを参考に、指導法を工夫したい。 (4)その他 ・階名読みや練習の時間も取っていただき、不安も 解消された。 ・後半の活動で先生方と情報交換できてよかった。 ・自分で演奏してみて、子どもたちの気持ちが分 かった。 4.成果と課題 今回の講習を終えて、講師である筆者からの視点 での成果と課題を挙げる。 予想していたとおり、鍵盤ハーモニカという楽器 のことについて、知っていることはそれほど多くな いことがわかった。音域の異なる楽器のことや音の 出る仕組み、手入れの仕方がその代表的なものであ る。通常用いられているアルト音域の楽器に加え、 ソプラノやバス音域の楽器を用いれば、合奏の高音 部や低音部の広がりが生まれ、より豊かな器楽の授 業が可能となる。演奏している楽器がどのような仕 組みで音が出ているのかを知ることは大変重要なこ とである。それに、楽器構造から興味を持つ子ども も少なくない。手入れの仕方がわかれば、楽器を長 持ちさせることができるし、音が狂ったままの楽器 を使用することもなくなる。このように、楽器につ いての理解が深まれば、授業での活用の幅も広がり、 安全に正しく楽器を扱うことが可能となる。楽器を 大切に使うことを指導する際にも役立つと考える。 また、鍵盤ハーモニカの指導はしていても、実際 に吹くことはほとんどしていないことがわかった。 講習の途中で「疲れた」、「頭がくらくらする」など の声が聞かれた。6 時間講座とはいえ、6 時間ずっ と吹いているわけではない。そう長くはない楽曲を、 説明や議論を交えながら吹く形なので、実質吹いた 時間は2時間程度であろう。それでもそのような声 が聞かれるのは、鍵盤ハーモニカを吹くことに慣れ ていないことの証左である。慣れていないがゆえ、 息のコントロールが分からず、知らず知らずのうち に吹き込み過ぎている可能性もあろう。指導するか らには、吹くこともぜひ行ってほしいものである。 それから、日頃吹いていないこととも関連するが、 鍵盤ハーモニカを吹く技能面の知識も乏しいことが わかった。例えば、教科書や教師用指導書に、「タ ンギングをする」と書いてあるから、演奏する際に タンギングをするよう指導している、というケース が多いことが明らかになった。タンギングは、管楽 器の技術として定着しており、第3学年から用いら れるリコーダーでも必ず指導する。その前段階とし て考えている場合も少なくない。リコーダーでは不 可能であるが、鍵盤ハーモニカは鍵盤を指で押し直 すことによって、音を切ることも可能である。また、 スタッカートを演奏する際も、タンギングを用いる か用いないかによって、音の響き方が大きく異なる。 そこで、同じ楽曲での、タンギングを用いた演奏と 用いない演奏を筆者が行い、その効果の違いを聴き 比べてもらった。鍵盤ハーモニカにおけるタンギン グは、鍵盤を押すタイミングとずれることも多く、 慣れるまでは困難な場合も多い。曲想や場面に応じ て、取り入れる楽曲や時期を考える必要があろう。 このようなことを口頭で伝えたり、実感させる機 会となったことは大変意義があったと考えている。 課題としては、前述したとおり、鍵盤ハーモニカ について、楽器のこと、演奏のことをあまり知らな い教員が多いことがわかったので、今回の教員免許 状更新講習に限らず、さまざまな所で研修やワーク ショップを行う必要性を感じたことである。また、 鍵盤ハーモニカに関する著書を出版し、多くの教員 にこの楽器のことについて知ってもらい、指導に生 かしてもらいたいと考えている。 5.結語 昭和 45 年の教科書に初めて登場し、今や、小学

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校の音楽科授業には欠かせない存在となっている鍵 盤ハーモニカ。双璧ともいうべきリコーダーと比べ ると、楽器の歴史も 50 年程度と浅く、楽器にもさ まざまな改良が重ねられて現在に至っている。その 過程で、持ち方などにも変化が見られ、「正しい」 とするものが何なのかが確定していない部分も多 い。逆に言えば、それだけ可能性に広がりのある楽 器であるともいえる。今後、楽器に関する研究、演 奏に関する研究、指導に関する研究を蓄積し、豊か な音楽科授業の構築の一助となるようにしたい。そ して、今回の講習も含め、研究の成果が、小学校だ けで終えてしまう楽器ではなく、中学校でも、そし て、生涯にわたって鍵盤ハーモニカを愛好する人を 育てることができるようになることを期待する。 平成29年3月31日 受理

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