Title
災害対応記録を活用した公助支援システムの開発
Author(s)
石田 智行
Citation
福岡工業大学総合研究機構研究所所報 第2巻 P91-P94
Issue Date
2020-2
URI
http://hdl.handle.net/11478/1488
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
Publisher
福岡工業大学 機関リポジトリ
FITREPO
災害対応記録を活用した公助支援システムの開発
石田 智行(情報工学部情報通信工学科)
Development of a Public Assistance System using Disaster Response Records
Tomoyuki ISHIDA (Department of Information and Communication Engineering, Faculty of Information Engineering)
Abstract
Various natural disasters such as earthquakes, typhoons, and heavy rains occur every year in Japan. When a natural disaster occurs, each local government establishes disaster response headquarters and makes efforts for disaster response. However, since a large amount of information is gathered at the disaster response headquarters, it is difficult to quickly organize and share these pieces of information. Therefore, we developed a public assistance system to support quick disaster response by utilizing past disaster response records. The public assistance system supports a quick grasp of past disaster response information by using a full text retrieving engine.
Keywords:Public Assistance, Information Sharing, Disaster Response Headquarters, Full Text Retrieving Engine, Morphological Analysis
1. はじめに 東日本大震災における津波被害や御嶽山の火山噴火,毎 年甚大な被害をもたらしている豪雨被害などに代表される ように,日本は世界有数の自然災害発生大国である.2013 年 11 月には「首都直下地震対策特別措置法」が制定され, 「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別 措置法」が改正されるなど,激甚災害のための自助・共助・ 公助による地域防災力強化が最重要課題とされている.東 日本大震災においては,電力,情報通信,携帯電話が利用 できず災害情報の収集や応急対応は困難をきわめた.また 全国的な人口減少と高齢化の加速とともに住民の防災力が 低下し,安心・安全の確保や高齢者の医療,介護,見守り 支援の問題も深刻な課題となっている.このため,最新技 術を駆使した災害予測・予防・対応と情報共有による「レ ジリエント(被害を最小限にとどめると共に被害からいち 早く立ち直り元の生活を取り戻す)」な防災・減災技術が注 目されている. 2. 従来研究 従来研究として,筆者は災害時に住民から寄せられる各 種情報をリアルタイムに災害項目別に整理し登録する災害 情報登録システムを構築した.また,災害対策本部で共有 されるべき情報をWeb-GIS を介して可視化する災害情報共 有システムを構築した(1) (2).このシステムでは,フレーム型 情報抽出技術やパターンマッチ情報抽出技術により,電子 化された災害情報から住民に伝達すべき情報を自動で抽出 し,各自治体が保有する情報伝達ツールに応じたフォーマ ットで自動的に伝達情報を作成する機能を開発した.さら に,本システムを介して一斉に各情報伝達ツールから住民 に災害情報を発信する機能を開発した.共通プラットフォ ームの開発により,住民に対して多様なメディアや情報伝 達ツールから災害情報を迅速に伝達することを可能にし た.また,筆者は災害情報可視化システムを開発した(3) (4) (5). このシステムは,災害対策本部に設置された大型ディスプ レイ上で動的に可視化された災害情報登録システムからの 災害情報を共有するためのシステムである.このシステム では,自動抽出された災害情報の可視化機能のほかに,本 部内の職員が手元で見ているスマートフォン上の外部コン テンツを Bluetooth 通信によりワンフリックで大型ディス プレイ上に動的に可視化できる機能を実装した. 3. 目的 本研究では,毎年発生する自然災害における過去の災害 対応記録や各地域防災計画等を自動で整理・分析すること により,現在発生している災害もしくは発生が懸念される 災害に応じて,過去の各種災害情報を迅速に取得する公助 支援システムを構築する.本システムの構築により,災害 対策本部におけるさまざまな意思決定を支援するものであ る. 4. 全文検索の仕組み 本システムでは,過去に発生した自然災害における災害 名や各部署による災害対応,地域防災計画などの各種災害 情報をデータベースに蓄積することにより,これらの情報 を迅速に災害対策本部に対して提示するものである.本シ
石田 智行 ステムは,日時や災害区分,災害対応フェーズによるパラ メータを用いた検索機能を提供するほか,入力した検索キ ーワードに近似するテキスト情報を抽出する全文検索機能 を実装した.全文検索機能の実現により,あらかじめ全て の文書データを走査し,索引データを構築することで高速 な情報検索を実現するものである. 全文検索の実現においては,索引データを事前に構築し ておく必要がある.本研究で取り扱う過去の災害対応記録 や地域防災計画などのテキスト情報にはインデクシングを 行う際に不必要な情報が多く含まれているため,検索を実 行した際のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす可能性が あることから,テキスト情報の標準化,形態素への分類, 文字種の統一,数値の置換,ストップワードの除去を前処 理として行った. 〈2・1〉 テキスト情報の標準化 本研究で構築した公助支援システムのプロトタイプはレ スポンシブデザインを採用することで,タブレットやスマ ートフォンなどのモバイル端末およびWindows OS や Mac OS を搭載したコンピュータ端末においても,システムのデ ザインを崩すことなく利用することが可能となっている. 一方で,ユーザが利用する端末によっては採用されている ファイルシステムが異なるため,アプリケーションサーバ がユーザから受け取ったテキスト情報に違いが生じる場合 がある.ここで例を挙げると,“ぼうさい”という単語を PDF ファイルからコピーし,本システムの入力項目にペー ストすると,Windows OS では“ぼうさい”と認識される ものの,Mac OS においては“ほ゛うさい”と,濁点が一つ の文字として認識される.そのため,本研究ではJavaScript が提供するnormalize()を利用することにより,入力された テキストデータに標準化処理を施した.また,端末の文字 コードの違いにより,データベースへ格納されるテキスト 情報が文字化けする可能性もある.そこで,本研究では Python が提供する unicode()を使用することにより,全て のテキスト情報を,データベースに格納される前にUTF-8 に変換する処理を施した. 〈2・2〉 形態素への分割 標準化されたテキストデータは自然言語によって構成さ れているため,機械が文章内容を理解することはできない ことから,形態素解析により文章内容を機械が判読できる 形式に分割する必要がある.本研究においては,Mecab(6) を用いて,自然言語で記述された過去の災害対応記録や地 域防災計画のテキスト情報を形態素解析によって形態素へ と分割した.Mecab を用いて“災害対策本部を設置した。” というテキスト情報を形態素解析すると表 1 のような結果 となる.一方で,表 1 から“災害対策本部”という単語が “災害”,“対策”,“本部”に分割されてしまうため,“災害 対策本部”に関する情報が分割された各単語の情報に埋も れてしまう.そこで,本研究では,mecab-ipadic-neologd を 用 い る こ と に よ り , こ の 問 題 を 解 決 し た . mecab-ipadic-neologd を用いた形態素解析の結果を表 2 に 示す. 表1 Mecab を用いた形態素解析の結果 Table 1. Results of Morphological Analysis
using Mecab. 災害 名詞,一般,*,*,*,*,災害,サイガイ,サイガイ 対策 名詞,サ変接続,*,*,*,*,対策,タイサク,タイサク 本部 名詞,一般,*,*,*,*,本部,ホンブ,ホンブ を 助詞,格助詞,一般,*,*,*,を,ヲ,ヲ 設置 名詞,サ変接続,*,*,*,*,設置,セッチ,セッチ し 動詞,自立,*,*,サ変・スル,連用形,する,シ,シ た 助動詞,*,*,*,特殊・タ,基本形,た,タ,タ 。 記号,句点,*,*,*,*,。,。,。 表2 mecab-ipadic-neologd を用いた形態素解析の結果 Table 2. Results of Morphological Analysis
using mecab-ipadic-neologd. 災害対策本部 名詞,固有名詞,組織,*,*,*,災害対策本部, サイガイタイサクホンブ,サイガイタイサクホンブ 設置 名詞,サ変接続,*,*,*,*,設置,セッチ,セッチ し 動詞,自立,*,*,サ変・スル,連用形,する,シ,シ た 助動詞,*,*,*,特殊・タ,基本形,た,タ,タ を 助詞,格助詞,一般,*,*,*,を,ヲ,ヲ 。 記号,句点,*,*,*,*,。,。,。 〈2・3〉 文字種の統一 形態素解析した名詞の中には,カタカナの全角・半角文 字,アルファベットの大文字・小文字などさまざまな文字 種が存在する.機械が単語を判別するうえで,これらの情 報は別の意味を持つ単語として解釈される可能性がある. そのため,データを登録する前に文字種の統一を行う必要 があることから,本研究ではアルファベット文字を小文字 に,カタカナは全角文字に変換を行うこととした(例:XYZ サイガイタイサクホンブ => xyz サイガイタイサクホンブ). 〈2・4〉 数値の置換 次に,過去の災害対応情報や地域防災計画の文章中に “2019 年 8 月 22 日”といったような情報が含まれていた 場合,この情報を“0 年 0 月 0 日”に置換する数値の置換処 理を実行する.これは,テキスト情報に日付や価格,数量 などの数値情報が多く含まれる一方で,自然言語の処理に は役に立たない場合が多いためである.数値の置換処理を 行うことにより,語彙数の削減が可能になるとともに,入 力キーワードに近い情報の抽出が可能となる.本公助支援 システムで取り扱う過去の災害対応記録においても,避難
所への避難者数や負傷者数,降水量など多くの数値情報が 用いられる.そのため,本システムでの情報検索時に災害 対策業務の本質的な検索結果の抽出を阻害することのない よう,数値の置換処理を行うものである.一方で,災害対 策本部業務においては災害対応記録の日時や災害対応の重 要度など重要な数値情報も含まれることから,テキストデ ータを登録するフィールドとは別のフィールドを定義する ことで重要な数値情報の置換は行わないものとする.なお, 数値の置換処理においては正規表現(Phython の sub())を 用いた. 〈2・5〉 ストップワードの除去 自然言語を処理するうえで一般的に有用ではない単語の ことをストップワードという.日本語における助詞や助動 詞などの機能語は文章における出現頻度が高い一方で,ユ ーザの検索ワードとして利用されることはない.このスト ップワードを検索対象として登録した場合,検索エンジン の計算量や実行速度に影響を及ぼす可能性があるため除去 する必要がある.本研究においては,ストップワードを除 去するために,SlothLib(7)が提供する辞書を用いた.表3 に SlothLib が提供するストップワードの一例を示す. 表3 ストップワードの例
Table 3. Example of Stop Word
あそこ がい さまざま 年 各 あたり かく さらい 月 第 あちら かたち さん 日 方 あっち かやの しかた 時 何 あと から しよう 分 的 あな がら すか 秒 度 あなた きた ずつ 週 文 あれ くせ すね 火 者 〈2・6〉 全文検索とインデクシング 全文検索を実行するために生成された単語群をオリジナ ルデータへの参照を示しながら索引データとして登録する 必要がある.これを転置インデックスといい,その概要を 図1 に示す. 転置インデックスに登録される単語群は検索 エンジンに登録するデータの前処理により得られた形態素 となる.索引データが構築された際の検索処理は次の手順 で実行される. ① ユーザが入力した検索キーワード(Query)を受け取 った検索エンジンは転置インデックスを参照し,キー ワードが含まれる文書への参照データを取得する. ② 得られたデータを用いることでデータベース内の文書 を参照し,キーワードに該当するデータを抽出する. 図1 転置インデックスの作成 Fig. 1. Generate Inverted Index . 〈2・7〉 スコアリング 本研究では,入力されたキーワードに対して適切な過去 の災害対応記録を抽出するため,全文検索で抽出した文書 にスコアリング処理を適用した.入力されたキーワードと 文書の内容の類似度を算出するスコアリングにおいて,本 研究では Elasticsearch API が提供するスコアリングの計 算式を採用した. 〈2・8〉 フレーズ検索 これまで述べた検索エンジンに登録するデータの前処理 によって,公助支援システムはユーザが入力したキーワー ドに対する適切な過去の災害対応記録を抽出する.しかし ながら,この前処理のままでは,検索エンジンは“災害対 策本部”のほかに,“災害”,“対策”,“本部”,“災”,“害”, “対”,“策”,“本”,“部”が含まれる文書も抽出してしま う.そのため,本研究では,Elasticsearch API に搭載され る Phrase Search を利用することでこの問題を解決した. 順次走査検索・逐次検索,全文検索,フレーズ検索を導入 した全文検索の違いを表4 に示す. 表4 検索方法の違い
Table 4. Difference in Retrieval Method
検索処理 ‘災害対策本部’で一致する文書を全件 検索し抽出する.スコアリングはされな い 順次走査検索・ 逐次検索 ‘災害対策本部’, ‘災害’, ‘対策’, ‘本 部’, ‘災’, ‘害’, ‘対’, ‘策’, ‘本’, ‘部’ のいずれかに一致する文書を抽 出し,類似度でスコアリングする 全文検索 ‘災害対策本部’ に一致する文書のう ち,フレーズの順序が一致する(文書中 に“災害対策本部”と並んでいる)文書 のみを抽出し,類似度でスコアリングす る 全 文 検 索 with フレーズ検索 ‘災害対策本部’で一致する文書を全件 検索し抽出する.スコアリングはされな い
石田 智行 5. プロトタイプシステム 公助支援システムのダッシュボード画面を図 2 に示す. データベースに格納されている情報を一元管理する機能を 有するダッシュボード画面では,登録されたデータが表形 式で表示される.表示されている各データに対して,編集・ 削除を行うほか,情報登録機能やダッシュボードへの遷移 が可能となっている. 図2 ダッシュボード画面 Fig. 2. Dashboard Screen .
過去の災害対応記録や地域防災計画から情報を検索する
際は,図 3 に示す検索欄にキーワードを入力する.検索が
実行されると入力されたキーワードをクエリとした全文検 索が実行され,検索結果が表示される.
図3 キーワード検索 Fig. 3. Keyword Retrieval .
例えば,“避難所”というキーワードで検索を実行した場 合,図 4 に示すように表形式で検索結果が表示される.こ の情報には,“日時”,“災害区分”,“重要度”,“本文と自治 体名”が含まれる.また,図 5 に示すように地図形式でも 検索結果が表示される. 図4 表形式による検索結果
Fig. 4. Retrieval Results in Tabular Format.
図5 地図形式による検索結果 Fig. 5. Retrieval Results in Map Format.
6. まとめ 本研究では,自治体が持つ過去の災害対応記録や地域防 災計画などの各種災害情報を蓄積することで,過去の各種 災害情報等を迅速に取得し,災害対策本部の意思決定を支 援する公助支援システムを構築した. 謝辞 本研究は本学情報科学研究所の平成30 年度新任教員スタ ートアップ支援研究費により実施したものである (令和元年9 月 15 日受付) 文 献
(1) T.Ishida, K.Takahagi, M.Iyobe, K.Sugita, N.Uchida, Y.Shibata : "Construction of a Disaster Information Common Platform", IT CoNvergence PRActice (INPRA), Vol.3, No.4, September 2015, pp.1-18.
(2) T.Ishida, K.Takahagi, A.Sakuraba, N.Uchida, Y.Shibata : "The Real-time Disaster Damage Information Sharing System for Information Acquiring in Large-scale Natural Disaster", Journal of Internet Services and Information Security (JISIS), Vol.4, No.3, November 2014, pp.40-58.
(3) T.Ishida, Y.Hirohara, N.Kukimoto, Y.Shibata : "Implementation of a decision support system using an interactive large-scale high-resolution display", Journal of Artificial Life and Robotics, Volume 22, Issue 3, July 2017, pp.385-390.
(4) T.Ishida, Y.Hirohara, N.Uchida, Y.Shibata : "Implementation of an Integrated Disaster Information Cloud System for Disaster Control", Journal of Internet Services and Information Security (JISIS), Vol.7, No.4, November 2017, pp.1-20.
(5) T.Ishida, Y.Hirohara, N.Uchida, Y.Shibata : "Implementation of a Community-Based Disaster Prevention Information System", Proc. of the 20th Springer International Conference on Network-Based Information Systems, August 2017, pp.625-634. (6) Mecab : "Mecab", http://taku910.github.io/mecab/, (情報閲覧日:
2019 年 9 月 15 日)
(7) SlothLib : “SlothLib”, http://www.dl.kuis.kyoto-u.ac.jp/slothlib/, (情報閲覧日:2019 年 9 月 15 日)