山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌26巻2013
当院におけるEGFR遺
伝子変異陽性症例の治療状況の検討
山梨 県立中央病院 呼 吸器 内科 齊木雅史 、本 多隆行 、曽我美佑介 、深澤 一裕 、宮下義啓 要 旨:EGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 肺 癌 の 化 学 療 法 にお け るEGFR-TK【 の 有 用 性 は 多 くの報 告 で 示 され て い る。 当院 にお け るEGFR遺 伝 子 変 異 陽性 肺 癌 患 者 の 治 療 につ い て 検 討 を行 っ た。 患 者 背 景 は 年 齢 中央 値 が69歳 で 、 性 別 は 男性22例(44%)、 女 性28例(56%)で 、PSは 0-2が41例(82%)で3-4が9例(18%)で あ っ た。組 織 型 は48例(96%)が 腺 癌 で 、EGFR遺 伝 子 変 異 剖 立はExon 19 deletionとExon 21 pointmutationが それ ぞ れ25例(50%)、
23例(46%)で あ っ た。 生 存 に寄 与す る と考 え られ る因 子 に つ い て 単 変 量 解 析 を行 っ た と こ ろPSO-2、EGFR-TKI投 与 の 有 無 、EGFR遺 伝 子 変 異 剖 立に つ い て 有 意 差 が検 出 され た。 この3つ の 項 目に つ い て 多 変 量 解 析 を行 っ た と ころPSO-2の み に有 意 差 が 認 め られ た。 フ ァ ー ス トライ ン にEGFR-TKIを 用 い た 場 合、 プ ラ チナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 に移 行 で きた 症 例 は 全 体 の17%で あ っ た。 移 行 で き な か っ た理 由 と して 、 高 齢 ・PS不 良 で あ る こ と、 内 服 が 簡 便 で あ る な ど患 者 の 希 望 、EGFR-TKI中 止 後 の 急 激 な悪 化 が 挙 げ られ た。 キー ワー ド:肺 癌 、EGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 、EGFR-TKI は じめ に 上 皮 成 長 因 子 受 容 体(EGFR)遺 伝 子 変 異 陽 性 肺 癌 の 化 学 療 法 に お け るEGFRチ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 剤(EGFR・TK【)と プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 の 有 用 性 は 多 く の 臨 床 試 験 に よ り証 明 され 、 進 行 期 非 小 細 胞 肺 癌 の 一 次 治 療 の 選 択 肢 で あ る1)。 特 にEGFR-TKIは プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 と比 較 して 有 意 に 無 増 悪 生 存 期 間(PFS)を 延 長 す る こ とが 示 され て お り2)3)、EGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 肺 癌 の 治 療 に お い てEGFR-TKIは 極 め て 重 要 な 役割 を 果 た して い る。 今 回 我 々 は 当 院 にお け る 進 行 期(UICC 第7版 でStage皿B、rv)お よび 術 後 再発 のEGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 肺 癌症 例 に つ い て 患 者 背 景 や 治 療 内 容 を レ トロ ス ペ ク テ ィ ブ に検 討 した の で 報 告 す る。 対 象 と方 法 対 象 は2009年1月 か ら2012年5月 の 期 間 に 当院 でEGFR遺 伝 子 変 異 解 析 を し た 進 行 期 も し くは 術 後 再 発 の 症 例 。 手術 検 体 も しく は 気 管 支 内 視 鏡 検 査 の 生 検 検 体 、 気 管 支 洗 浄 液 の い ず れ か を ダ イ レ ク トシ ー ク エ ン ス 法 で 分 析 した 結 果 を採 用 した。 そ の 中 で3GFR遺 伝 子 変 異 陽 性 症 例 を抽 出 して 、 患 者 背 景 や 治 療 内 容 に つ い て レ ト ロ スペ クテ ィブ に 検 討 した。 さ ら に 、 当院 の 症 例 に お け る予 後 因 子 を 分 析 した 。 生 存 に 寄 与 す る と考 え られ る因 子 に つ い て 生 存 率 をGeneralized Wilcoxon法 で 単 変 量解 析 し、有 意 差 を 認 め た 項 目 に つ い てCox比 例 ハ ザ ー ドモ デ ル を 用 い て 多 変 量 解 析 を行 っ た 。 解 析 ソフ ト はStatview5.0を 使 用 した 。
Tablel:Baseline characteristics of the patients (n=50)
Characteristic Percentage of the patients
Age - yr (median-range)
Sex- no (%) male / female
Smoking status - no (%)
Never smoked
Previous or current smoked
Unknown
ECOG performance status - no (%)
0
1
2
3-4
Pathological diagnosis - no (%)
Ad / Sq / NSCLC
Clinical stage - no (%)
BIB / N / relapse
Type of EGFR mutation —
no (%)
19 deletion/ 21 point / other
69 (48-89)
22 (44)/ 28(56)
20 (40)
23 (46)
7 (14)
24 (48)
8 (16)
9 (18)
9 (18)
48 (96) / 1 (2) / 1(2)
4 (8) / 35(70) / 11(22)
25(50) / 23(46) / 3(4)*
*1症 例exon18mutationと19deletionを 両 方 検 出 結 果 患 者 背 景 をTable1に 示 ⇒㌔EGFR-TKI を使 用 した症 例 は43例 で そ の ほ とん どが Gefitinibを 選 択 して い た。EGFR-TKIを 使 用 しな か っ た 症 例 は7例 あ り、1例 は細 胞 障 害 性 抗 癌 剤 に て 化 学 療 法 中 で 、 EGFR-TK[を ま だ 使 用 して い な か っ た。他 の6例 はEGFR-TKIが 使 用 不 可 能 で あ っ た 症 例 で あ り、そ の 理 由 と して はPS不 良 が2例 、認 知症 の た め 内 服 継 続 困 難 と予想 され た 症 例 が1例 、問 質 性 肺 炎 を 有 して い た 症 例 が3例 で あ っ た 。 ま た 、EGFR-TK正 を 有 害 事 象 の た め 中 止 した 症 例 は7例 で4 例 が 間 質 性 肺 炎 、2例 が肝 機 能 障 害 、1例 が 皮 膚 障 害 が 原 因 で あ っ た 。EGFR-TK【 投 与 中 に 多 く 見 られ た 有 害 事 象 と して は 皮 膚 障 害 、肝 機 能 障 害 、 食 思 不振 が 見 られ た(Table2)。EGFR-TKIの 治 療 効 果 に つ い て は 奏 功 率(RR)と 病 勢 制 御 率(DCR) が そ れ ぞ れ71%と85%で あ り、PFSは8.0 ヶ 月 、 生 存 期 間 中 央 値(MST)は21.3ヶ 月 で あ っ た。 次 に セ カ ン ドラ イ ン 以 降 の 後 治 療 に つ い て 当院 で の 状 況 を 検 討 した 。 フ ァー ス ト ラ イ ン に プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 を 施 行 した 症 例 は8例 で 、全 例 セ カ ン ド ラ イ ン にEGFR-TK【 を使 用 して い た 。 一一 方 で フ ァー ス トラ イ ン にGefitinibを 選 択 した 症 例 は35例 で 、 セ カ ン ドラ イ ン以 降 治 療 を行 わ な か っ た 症 例 が16例(45%)、 Erlotmibへ 移 行 した 症 例 が8例(24%)、 プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 を 行 っ た症 例 は6例(17%)、 細 胞 障 害 性 抗 癌 剤 単 剤 が5例(14%)で あ っ た。 一3一山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌26巻2013 Table2:AdverseeventsofEGFR-TKl Percentageofthepatients CessationofEGFR-TKI-no(%} lLD LiverdVsfunction Skinrash AdverseeventofEGFR-TKI-no(%} ILD liverdVsfunction skinrash anorexla diarrhea BonemarrowsupPression Total7(16) 4(9) 2(5》 1(2)
G1/G2/G3/G4
0/0/0/4(9}/0
10(23)/2(5)/7(16)/0
1(2)/6(14)/8(19)/0
2(5)/5(12)/5(12)/0
0/4(9)/2(5)/0
2(5)/3(7)/6(14}/1(2)
Table3:Univariateanalysis(生 存 率 分 析;Nニ49GeneralizedWilcoxontest) P-value Sex Age PS stage .J EGFR-TKI投 与 EGFR-TKI投 与 順 序 Mutationsite Brainmeta Bonemeta Malignantpleuraleffusion Skinrash Smoking Platinumdoublets CYtotoxicagents≧31ine Male/Female <70/70≧ 0-2/3,4 皿B/1▽/Relapse 有/無 lst/2"d以 降 19del/21point/other Positive/Negative Positive/Negative Positive/Negative Positive/Negative B.1≦400/B.1>400 Positive/Negative Positive/Negative 0.2192 0.2439 0.0036 0.5505 0.0045 0.0367 <0.0001 0.3275 0.7065 0.3800 0.5083 0.4653 0.3218 0.1614 次 に 予 後 因 子 につ い て 分 析 した。 原 発 巣 に 対 して 放 射 線 化 学 療 法 を 施 行 した1例 を 除 い た49例 に つ い てTable3に 示 す 項 目に つ い てGeneralizedWilcoxon法 を 用 い て 生 存 率 に つ い て 単 変 量 解 析 を行 っ た。 有 意 差 を 検 出 した の はPSO-2(p=0.0036)、 EGFR-TKI投 与 の 有 無(p=0.0045)、 EGFR-TKI投 与 順 序(p=0.0367)、EGFR 遺 伝 子 変 異 部 位(pく0.0001)で あ っ た 。 EGFR-TK【 投 与 の 有 無 とEGFR-TKI投 与 順 序 は 強 い 相 関 を 認 め た の で 、EGFR-TKI 投 与 順 序 を 除 外 した3項 目に つ きCox比 例 ハ ザ ー ドモ デ ル を 用 い て 多 変 量 解 析 を 行 っ た と こ ろ 有 意 差 を 検 出 し た の はPSO-2 の み で あ っ た(Table4;pニ0,0194)。考 察 EGFR遺 伝 子 変 異 陽 性 例 に お け る EGFR-TK[の 有 用 性 は 多 く報 告 され て お り、初 回 治 療 に お い てRRが70%前 後 、PFS が9ヶ 月 前 後 と報 告 され て い る の3㌔高齢 者 に お い て も 同 等 の 効 果 が 期 待 で き る と さ れ の、 従 来 は 化 学 療 法 の 適 応 とな ら な か っ たPS不 良 症 例 に 対 して もRRは66%、PFS が6.5ヶ 月 と良 好 な 治 療 効 果 が 得 られ た と され て い る5)。 当 院 で の 治 療 成 績 はRRとDCRが そ れ ぞ れ71%と85%で あ り、PFSは8.0ヶ 月 、 MSTは21.3ヶ 月 で あ っ た 。PFS、MST は 既 報 よ りや や 劣 る結 果 と な っ た が 、 そ の 理 由 と して 当院 の 解 析 で はPS不 良(3-4) が 影 響 した と考 え られ た。 しか し 当院 で の 多 変 量 解 析 の 結 果 か らはEGFR・TKI投 与 の 有 無 は 予 後 因 子 に 影 響 しな い とい う既 報 と異 な る 結 果 で あ っ た。 当院 で のEGFR-TKI非 投 与 群 は7例 で あ り、 そ の7例 に つ い て 検 討 した 。1例 が EGFR-TK正 未 投 与 な が ら、長 期 生 存 を得 て い た 症 例 で あ っ た。 症 例 は76歳 男 性 、 術 後 再 発 症 例 で 術 後2年 の フ ォ ロー ア ップ CTに て脳 転 移 が 発 見 され た。 転 移 性 脳 腫 瘍 に つ い て は 放 射 線 療 法 が 施 行 され た が 、 頭 蓋 外 に は 再 発 お よ び 転 移 は な く化 学 療 法 は 未 施 行 で あ っ た 。術 後 約5年 で 徐 々 に 全 身 状 態 悪 化 し、他 施 設 へ 移 動 とな っ た た め 打 ち切 りと な っ た 。 再 発 後 化 学 療 法 を 施 行 せ ず1292日 の 生 存 が 確 認 され た 稀 な症 例 と考 え られ た。 参 考 と して この1例 を 除 い た48例 に つ い て 同 じ3項 目で の 多 変 量 解 析 を行 う とEGFR・TK【 投 与 の 有 無 で 有 意 差 が 検 出 され た(p=0.0003)。 ま た 、 近 年 フ ァ ー ス ト ラ イ ン に EGFR・TK【 を 用 い た 症 例 の 後 治 療 に つ い て 注 目が集 ま っ て い る。 本 邦 か らの 第 皿 相 試 験 で は フ ァ ー ス トライ ン にEGFR-TKI を 用 い た 場 合 プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 へ の 移 行 率 は 約60%程 度 で あ る2)3)。 当 院 で は フ ァー ス トラ イ ン にGefitmibを 使 用 した 症 例 は35例 で 、 そ の うち6例 (17%)の み が セ カ ン ドライ ン 以 降 で プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 を 施 行 で き た。 後 治 療 に プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 を施 行 で き な か っ た29例 に つ い て 理 由 を 検 討 した と こ ろ 、 高 齢 ・PSの 悪 化 が 18例(62%)、 内服 は 簡 便 で あ る と い う患 者 の 希 望 でGefitmibを 継 続 した も し くは Erlotmibに 変 更 した の が9例(31%)、 EGFR-TK【 中 止 後 に 急 速 に 悪 化 した の が2 例(7%)で あ っ た 。 既 報 で はEGFR-TKIと プ ラ チ ナ 併用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 との 間 にPFSで は 有 意 差 を 認 め た が 、OSで は 認 め な か っ た2)3)。 MitsudomiT.ら の 報 告7)で は プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 群 で 後 治 療 と し て 91%にEGFR-TKIが 使 用 され て い た こ と が 両 群 のOSに 有 意 差 を認 め な か った 理 由 と考 察 して い る。 ま た 、 治 療 内 容 別 のos 解 析 と してEGFR・TKI投 与 例 の うち プ ラ チ ナ 併 用 細 胞 障 害 性 化 学 療 法 の 有 無 で は OSに 有 意 差 を認 め ず 、 逆 に プ ラ チ ナ 併 用 Table4:Multivariateanalysis(Cox比 例 ハ ザ ー ド 解 析;Nニ49)
Point Estimation 95% Confidence Interval P value
PS 3.444 1.221-9.712 0.0194
TK侑 無 1.175 0.308-4.477 0.8136
Mutation site 0.992 0.670-1.471 O.9692
山 梨 肺 癌 研 究 会 会 誌26巻2013 細胞 障害性 化学療 法のみ でEGFR-TKI非 投 与例 ではOSが 有意に短 か った と報告 し てい る。 当院の解析 で もプ ラチナ 併用細胞 障 害 性 化 学療 法 の有 無 で は有 意 差 を認 め なか った。EGFR遺 伝 子変異 陽性肺 癌症例 におい てEGFR-TKIが 投 与 され ない こと は 明 ら か に 不 利 益 と 考 え ら れ る 。 EGFR-TKIの 投 与機 会 を逸 しない よ うに 症 例 に応 じて 注意 深 く検 討 す る必 要 が あ る。 結語 当院 での過去4年 間のEGFR遺 伝子 変 異 陽性 肺癌症 例 につい て検 討 した。 当院 で の症 例 は多変 量解 析の結 果か らPSが 予 後 因子 となった。しか しEGFR遺 伝 子変異 陽 性肺 癌 に対す るEGFR-TKIの 投 与は極 め て重要 と考 え られ た。 引用 文献 1)日本肺 癌学 会編 「肺 癌診療 ガイ ドライ ン 2012年 版IV期 非小 細胞肺癌 の1次 治療」