アスペルガー障害生徒の「問題」行動に対する援助アプローチ : ルール制御に基づいた代替行動の指導
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(2) 自由遊び場面における行動観察について分析し. であり、且つルールの中に「行なってはいけな. 評価を行った。. いこと」だけでなく「何をすべきか」という代. 3.結果. 替行動を明示することが、ルール制御が効果を. 1)プレ・トレーニング:[表情]・[表情+言語]・. 発揮するために重要である。この呈示法により. [表情+動作]課題にそれぞれ誤答があったが、. ルールが対象生徒に内在化し、行動の自己コン. 再トレーニング後、全課題できるようになった。. トロールが可能になったと考えられる。また指. 2)指導1:トレーニング前、「ごめんね!」課. 導IIの話しかけ方は、「問題」行動の代替行動と. 題では、パソコン・シミュレーションテストと. してだけでなく日常生活スキルとしても汎用性. もに誤反応が100%だったが、再トレーニング. があると考えられた。さらに、刺激を適切に弁. 後、正反応が100%に達した。「その他」課題で. 別できることは般化にも大きな影響を及ぼす。. は、トレーニング前は正反応が100%であった. 特に、指導1における「謝罪」という行為は対. が、トレーニング後のパソコンテストでは「ご. 人関係を維持する上で重要な機能を持つため、. めんね!」と言わなくてもよい時に言ってしま. 日常の刺激の中から遂行条件を弁別する訓練が. うという行動が見られた。再トレーニング後、. 必要であることが示唆された。. 正反応が100%に達した。. 一方、ルールにより全ての「問題」行動を制. 3)指導II:確認テストでは全課題において正. 御することができなかった理由として、ルール. 答であった。ルールで呈示した「話しかけ方」. における結果事象を明示しなかったこと、「問. 以外の代替行動についても適切に選択すること. 題」行動に対する過去の周囲との関わり方が影. ができた。行動的リハーサルにおいても、ルー. 響している可能性があることの2点が考えられ. ルで呈示した「適切な話しかけ方」に基づいた. た。また、本研究の問題点として、訓練場面で. 行動をとることができた。. は[抱きつく]などの対象となる女子が不在で. 4)般化の評価:連絡帳から、「問題」とされた. あるため、「問題」行動が生起する状況を得られ. [抱きつく][手をにぎる]という行動は生起し. なかったこと,代替行動が般化したかどうが確. なくなり、[好きと言う]という行動が依然とし. 認できなかったこと,ルールによる結果事象の. て生起していることが報告された。また、母親. 経験が十分でなかったこと,の3点が挙げられ. に「楽しかった」と報告する行動が見られるよ. た。そして本事例の「問題」行動は、行動分析. うになった。自由遊び場面では、自分から話し. における「直後小強化を選択する」ことを指す. かけた回数や他者と一緒に遊んだ時間が増加し. 衝動性と関連が深いと考えられ、衝動性をより. た。. ょく抑制するためには、即時に結果を経験でき. 4.考察 本研究は、問題を把i心するためにアセスメン. るように意図的に指導していくことが必要であ ると考えられた。. トを重視したこと、日常場面を想定しやすいよ. 今後の課題として、アスペルガー障害児・者. うに状況を具体的に設定したことが先行研究の. のルール制御に基づいた代替行動の指導の事例. 相違点として指摘できる。. を増やすとともに、対人関係全般を改善する方. 次にルール制御に基づいた代替行動の指導の. 法を検討していくことが挙げられる。. 有効性について考察を行った。まず、ルールの. 主任指導教官 今塩屋隼男. 呈示法について、視覚的に呈示することが有効. 指導教官 宇野宏幸.
(3) 平成13年度. 学イ立論文. アスペルガー障害生徒の「問題」行動に対する援助アプローチ ∼ルール制御に基づいた代替行動の指導∼. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科障害児教育専攻. MOO1061 星 潤子.
(4) 目. 次. 第1章 序論 1.アスペルガー障害について ・・・・・・・・・…. 1. 2.アスペルガー障害の社会的障害 ・・・・・・・…. 3. 3.社会的障害の改善を試みた先行研究. ・・・・・…. 4. 4.ルールを用いた支援について ・・・・・・・・…. 6. 5.本研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・…. 8. 第2章 方法 9. 1.対象 2。介入期間および指導場所 ・・・・・・・・・・…. 3.アセスメント ・・・…. .’.’●’’”●”. 4.デザインおよび手続き ・・・・・・・… ●●” 5.プレ・トレーニング ・・・・・・… ’・.●’● 6σ指i導1. ・ ・・ ・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …. 7.手旨導II …. 。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ …. 10 11 17 17 19. 23. 第3章 結果 1.プレ・トレーニングの結果 ・・・・・・・・・…. 2.指導1の結果 ・・・… ●●uu●’●●。● 3。指導IIの結果 ・・・・・…. ’・’’”.’.’. 4.般化の評価 ・・・・・・・・… o’●●”o’ 1)自由遊び場面での行動観察 ・・・・… .’” 2)連絡帳の記録 ・・・・… ●”●.’’’”. 26 28 30 31 31 32.
(5) 第4章 考察 1.結果の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・…. 34. 2.本研究とSSTを用いた先行研究との相違点 ・・… 1)アセスメントの重視 ・・・・・・・・・・・… 2)アセスメントに基づいた. 35 35. 具体的な状況の設定 ・・・・… 3.ルール制御に基づいた. 36. 代替行動の指導法について ・… 37 1)ルールの呈示法の工夫 ・・・・・・・・・・… 37 2)汎用性について ・・・・・・・・・・・・・… 39 3)般化と刺激の弁別の関係 ・・・・・・・・・… 40 4.本研究の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・… 42 1)ルールがすべての「問題」行動を. 制御しなかった理由 ・・・… 42 2)本研究の問題点 ・・・・・・・・・・・・・…. 3)今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・… 要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 引用文献 資料. *[表情+言語]課題. *パソコンによるテスト課題 *シミュレーションによるテスト課題 謝辞. 44 45 46.
(6) 第1章. 序論. 1.アスペルガー障害について アスペルガー障害は、1944年Aspergerによって、社会的・言語的・ 認知的思考の能力に特異性のある「自閉的精神病質」として報告された 障害である(Attwoodθ’∂■,1998)。. 1981年、Wingは自閉症の診断基準を部分的に満たす児童が、厳密な 自閉症の数倍存在することを見出した。その中で言語障害の非常に軽微. なグループがAspergerの症例と一致していることに気づき、このグル ープに「アスペルガー障害」という用語を用いた(杉山,2000b)。その 後、Kannerの症例「早期幼年自閉症」(1943)と比較されるようになり、. この症例に対する関心が増大した(立森,1999)。現在、アスペルガー障. 害はICD・10(1992)やDSM・IV(1994)にその診断基準が定義されてお り、広汎性発達障害のひとつに位置づけられている。. アスペルガー障害は、非言語的コミュニケーションの質的障害、限定 的または固定的興味や行動を特徴としている(DSM−IV)。アスペルガー. 障害の診断基準では、知的能力は平均以上(IQ:70以上)で、特に言 語性IQが高く、自閉症に比べコミュニケーションの障害が軽微である と記されている。また、認知発達や言語発達に大きな遅れがないこと、 生活習慣技能、(社会的相互作用以外の)適応行動、および環境への興味 も年齢相応であることなどの特徴が挙げられている(中根,1998)。これ. らの特徴は、自閉症との相違点としても明確に定義されている。. しかし、アスペルガー障害にも自閉症の3つの主症状、社会的相互作 用、コミュニケーション、想像力およびそれに基づく行動のそれぞれに. 発達的な障害が見られることから、Wing(1981)は自閉症スペクトル のひとつとして報告している(神尾,2000)。このようにアスペルガー障. 害は、自閉症の診断基準と重なる特徴を持っており、幼年期に「自閉的. 1.
(7) 傾向」がみられると診断されたものが、後にアスペルガー障害と診断さ れる可能性もある(Wing,1981)ことからも、自閉症とアスペルガー障 害には共通する部分が多いことが分かる。. Tablel DSM一四によるアスペルガー障害の診断基準 A人との関わり方に質的に欠陥があり、次のうち少なくとも2項目に現れる 1.人との関わり方を調整する、視線の接触、表情、姿勢、身ぶりなど、多様な非言語的表現を用 いることが著しく欠けている。 2.発達レベルに相応した友人関係を作り上げることができない。 3.楽しみ、興味、できたことなどを、ほかの人と自然に共有しようとしない(例えば、興味のあ るものを他人に見せたり、もってきたり、指さししたりしない)。 4.人と社会的・感情的なやりとりを交わす関係に欠ける。 B 狭く限られた反復的・固定的な行動・興味・活動パターンがあ.り、次の少なくとも1項目に現れ る. 1.一つまたはいくつかの固定した狭い範囲に没頭する形で何かに興味を持ち、その熱中度、また は興味の対象が普通ではない。. 2.明らかに柔軟性を欠いた、ある一定の、有用性のない生活上の決まりや儀式的行動への固執。 3.いつも決まった形で繰り返される習癖的な身体の動き(例えば、手をパタパタさせたり指をひ ねる、全身の複雑な動き)。. 4.ものの一部、またはもの自体に、いつまでも没頭する。 C その行動の偏りのため、その人の活動する社会的・職業的・その他の重要な領域で、臨床的に問 題となるまでの支障が生じている。 D 言語には、臨床的に問題となるまでの全般的な遅れはない(例えば、2歳までに単語を話したり、. 3歳までに意志を伝える語句を用いる)。 E 認知的発達に、つまり年齢相応の身辺処理技能や適応的行動(人との関わりを除き)、また小児 期の周囲に対する興味のもち方に臨床的に問題となるまでの遅れはない。. F その他の広汎性発達障害や精神分裂病の基準には当てはまらない. (APAアメリカ精神医学会,1994). 2.
(8) 2.アスペルガー障害の社会的障害 これまでアスペルガー障害の診断基準を定義してきたGillbe■gθ’∂■. (1989)やSzatmaτiθ’aZ(1989)は、両者ともに「社会性の問題」を 重点的に述べている(Attwoodθ’aZ,1998)。アスペルガー障害児・者は、. 視線や身振り、表情などの対人関係を調節する非言語的表現を読み取る ことが困難であり(Tantamθ6 aえ,1993)、同時にこれらを用いたコミュ. ニケーションにも、不器用さやぎこちなさがあることが指摘されている (Tantam,1988)。この非言語的コミュニケーションの質的障害は、社 会性の問題を反映するものであるとして重要視されている(Attwoodθ’ θZ,1998)。非言語的コミュニケーションの具体的な障害としては、周囲. の状況を適切に判断して行動できないために、相互的なやりとりにおい て一方的に話してしまう(中根,1998)、他者の気持ちを推察したり、他. 者の立場に立って考えることが苦手である(Wing,1981)という特徴が 挙げられる。. 一方、言語的コミュニケーションに関しては、非常に流暢で大人のよ うな話し方をする(:Frith,1996)などの特徴が目立つ(石坂,1999)。し. かし、言語面での発達の遅れはないか、または軽微であるため、その障 害が問題視されることが少なく(舳松ら,1998)、診断が遅れたり周囲の 理解が得られにくい場合が多い(杉山,2000a)。. Priorθ’∂Z(1998)は、他の広汎性発達障害児に比べてアスペルガー 障害児には、「他者を意識する」「対人的やりとりのあるゲームに興味を 示す」「友達を欲しいと思うが、うまく作れない」などの対人的な関わり. 方の特徴がより多く見られることを報告している。これは他者との関わ りを求める一方で、対人的な関係を築くことが難しいという特徴を意味 している。これらの障害のために彼らは、他者の誤解を招いたり自分勝 手であると思われてしまうことがあり、時に対人的なトラブルを起こす 一要因になると考えられる(中根,1998)。. 3.
(9) 良好な対人関係を築くためには、人との関わりを求める動機づけがあ ることと、非言語的コミュニケーションおよび言語的コミュニケーショ. ンの両スキルの社会的に適切な遂行が必要不可欠である。これまでに述 べてきたように、アスペルガー障害児・者は、人との関係を持つことに 動機づけられている。また、相手の言語的表現を理解したり、表出言語 を用いた言語的コミュニケーションの障害は比較的軽微である。そして、. 表情理解・表出などの非言語的コミュニケーションスキルをある程度獲 得することは可能である(Volkmerθ’2Z,1995)と指摘されている。し かし、彼らが対人関係に問題を持つ(石坂,1999)のは、これらのスキル. を社会的に、且つ上手に使用することに限界があるためと考えられる。. 3.社会的障害の改善を試みた先行研究 アスペルガー障害児・者の社会的障害を改善するために、先行研究で. は、社会的スキルトレーニング(以下、SST)やロール・プレイを用い た訓練が行われてきた。以下に先行研究を概観してみる。. 舳松ら(1998)は、アスペルガー障害の24歳の男性に対し、SSTに よる対人関係の改善を試みている。この研究におけるSSTでは、「基本 会話技能」(東大生活技術訓練研究会)を用いて、話し方の手順や感想の. 言い方などを訓練した。その結果、会話のやりとりの仕方が上達し、会 話スキルに改善が見られた。さらにロール・プレイを体験した感想を言 うようになったことで、表情からは伝わらなかった男性の気持ちが伝わ るようになり、メンバーは話しかけやすくなったと報告している。. 石井ら(1995)は、適切な判断(思考)力の育成を目的として、29 歳のアスペルガー障害者にカードゲームを取り入れた行動療法を行って いる。その結果、対象者はゲームスキルを獲得し、その中で他者との関 わりができるようになったことが報告されている。 4.
(10) また、8∼12歳のアスペルガー障害児の集団を対象としたMarriage θ♂∂Z(1995)の研究では、ロール・プレイを用いて会話の始め方・終. わり方などの練習や、ビデオやゲームを用いた対人的スキルの訓練を行 った。さらに訓練したことを宿題として家庭に持ち帰り、般化を促すと いう工夫もされている。その結果、アイコンタクトができるようになっ たり、他者と関わろうとする姿勢が見られるようになったと報告してい る。. 星野(1999)は、SSTを1年継続したアスペルガー障害の症例(21 歳男性)を報告している。対象者は、SSTを通じて、自分に共感性や優 しさが欠けていたことに気づき、さらに「自分の下手な対人関係を改革 したい」と思い、生徒会の副会長に立候補するまでになった。Vol:kmerθ’. θZ(1995)は、他者と会話する際の非言語的コミュニケーション(視線. を合わせるなど)や、他者の非言語的メッセージ(相手の不機嫌そうな 怒った表情など)の理解など、アスペルガー障害児・者が苦手としてい. る対人的スキルは、SSTによって獲得可能になることを報告している。 Mesibov(1984)は、自閉症者に対して社会的スキルを教える方法とし ては、SSTやロール・プレイが最も効果的であると指摘しており、一定 の効果を上げてきている。. しかし、これらの先行研究から、佐藤ら(1986)がSSTの重要な指 標であると指摘している、日常生活への般化に問題があると考えられる。. 舳松ら(1998)の研究では、会話スキルや対人関係に改善がみられたの は、ロール・プレイを行ったメンバー間のみであり、日常場面における 場に合った適切な行動の獲得には到らなかった。石井ら(1995)は、対 人関係におけるスキルの改善が、就労スキルの獲得や集団参加への導入 として大きな意義を有していることを指摘しているが、実際に訓練で獲 得したスキルが日常的な対人関係にどのようは変化をもたらしたかにつ いては報告がなされていない。さらに、Marriageθ’∂Z(1995)の研究. でも、グループで学んだ対人的スキルが家庭や学校場面に般化しなかっ 5.
(11) たと記している。また、Mesibov(1984)は、ロール・プレイはやや抽 象的なところもあるため、状況が複雑化した時にそのスキルが発揮でき. るかどうかについては疑問視している。このように、SSTを用いた訓練 は日常生活への般化やフォローアップに問題があると指摘されている (佐藤ら,1993)。. また先行研究では、「対人的な関わり方に問題がある」というアスペル ガー障害児(Marriageθ’∂Z,1995)や、「話し方が不自然である」とい. うアスペルガー障害者(舳松ら,1998)を対象としている。このような対. 象児・者の標的となる行動は具体性に欠けると考えられ、その対象児・. 者の有する問題についてアセスメントを十分に行っていないことも問題 であると考えられる。. 4.ルールを用いた支援について 自閉症児・者の社会的行動の問題を改善する方法として、ルール制御. に基づいた代替行動を指導するというアプローチがある(Hodgdonθ‘ ∂Z,1995)。ここでのルールとは、行動随伴性を記述した言語刺激のこと. で、[状況一行動一結果]の一連の流れを言語化したものを示す(杉山 ら,1995)。このようなルールに従った行動が維持されるようになった場 合、ルール制御に基づいた行動という(太田ら,1988)。例えば、「職場に. 行ったら挨拶をしよう」というルールを言語刺激として教示することに より、訓練室で獲得された挨拶行動が職場でも用いられるようになると いうことがある(杉山ら,1995)。. 先行研究から、ルールを教えることは自閉症児・者の社会的行動の障 害を改善するために有効であることが示唆されている。VanMeterθ’∂Z (1997)は、自閉症児のコミュニケーション能力や社会性について、健. 常児や知的障害児とそれぞれを比較している。その結果、電話番号や住. 6.
(12) 所、アルファベットなどの記憶の項目や、学校や社会の規則、適切な食 事マナーなどのルールの項目について、自閉症群は両比較群よりも好成 績であった。このことから、VanMeterθ’ヨZは、自閉症児は定められた. 言語刺激に基づいたスキルやルール制御に基づいた行動を獲得しやすい と結論づけている。この点については、Aspezgerも「アスベルガー障害 児は、客観的に決められたルールがあると、葛藤なく行動する」と記述 している(飛松ら,1998)ことからも、その有効性がうかがえる。. ところで、ルール制御に基づいた代替行動の指導とは、何らかの状況 に対処するための行動が社会的・教育的に受け入れられない場合に、そ れに代わる行動をルールに基づいて指導することである。太田ら(1988). は、ルールに基づいた新たな行動を獲得することにより、対人関係にお ける問題を改善できると示唆している。. ルール制御に基づいた代替行動のメリットとして、次の3点が挙げら れる。①前述した挨拶行動の例のように、ルールに基づいた行動を系統 的に身につけることができれば、訓練場面と日常環境との間に共通のル ールを設けることによって、般化を成立させることが可能である(杉山 ら,1995)。②他者がいなくても、自己に内在するルールで行動をコント ロールできるため、自己の行動抑制が可能となる(太田ら,1988)。③応. 用性のあるルールを教示することで、特定のある状況だけでなく、様々 な状況において獲得した行動が汎用される(Hodgdon,1995)。. このルール制御に基づいた代替行動の指導は、これまで行われてきた. SSTやロール・プレイとは次のような相違点がある。 Greshamは社会 的スキルを「一定の状況下で、重要な社会的結果を予測するのに役立つ 諸行動」であると定義している(小林,1990)。そして、SSTとは、一定. の状況における行動の獲得を促す方法として適用されている。言い換え れば、ある「場」に適した行動のトレーニング効果が発揮されるために は、自閉症児・者を取り巻く状況が整うことが必要であると考えられる。. 一方、ルール制御に基づいた代替行動の指導は、行動を促す「ルール」. 7.
(13) が自己に内在化することが期待されるので、周囲の状況(例;相手が違 うこと、場所が違うこと、他者が大勢いることなど)に影響を受けるこ となく、行動がコントロールされる可能性が高いと想定される。. 以上の点から、ルール制御に基づいた代替行動は、先行研究における 般化や維持の問題を解消できるのではないかと考えられる。. 5.本研究の目的 ルール制御に基づいた代替行動の指導をアスペルガー障害児・者に行 ったという研究は、これまでに報告されていない。. 本事例にルール制御に基づいた代替行動の指導を適用するのは、般化 を成立させることが可能なのではないか、様々な状況において行動が汎 用されるのではないか、行動を自己コントロールすることが可能なので はないか、というメリットが考えられるためである。. さらに、ルールは一般に先行言語刺激であり、その刺激が「言語」と して機能するためには、対象者がすでに言語レパートリーを持っていな ければならないことが前提となる(小野,2001)。本研究の対象生徒は言 語理解が可能であるため、ルールについての理解もできると推測される。. また、対象生徒の「問題」行動の起きる状況は多いので、ひとつひと つの状況に対する対処法を教授するよりも、「問題」の起きる状況をまと めて教示する方が効果的なのではないかと考えた。「問題」行動は、「抱. きつく」など将来社会生活を送っていく上で支障をきたす行動であるた め、環境操作により周囲の理解を求めることも大事であるが、自己コン トロール可能な行動を獲得しておくことも必要であろう。. 以上より本研究では、対人場面において「問題」行動を繰り返すアス ペルガー障害生徒に対し、ルール制御に基づいた代替行動の指導を行い、 その有効性について検討することを目的とする。. 8.
(14) 第2章. 方法. 1.対象 1)対象生徒の概要. 対象は、中学1年生の男子Aくん、介入時12歳(小学校6年生) であった。小学校5年生の時、大学病院にてアスペルガー障害の診 断を受けた。介入時より通常学級に在i籍していた。WISC−IIIによる. 知能検査の結果は:FIQ:93、 vlQ:96、 PIQ:90(cA:11−8)で. あった。S・M社会生活能力検査では、社会生活年齢:10歳6ヶ月、 社会生活指数::85(CA:12−3)であった。領域別の社会生活年齢. は、身辺自立11−6、移動13以上、作業10−2、意志交換9−10、. 集団参加10−2、自己統制10−11であった。 2)生育歴 出生時の体重は2,802gであった。36週で出生し、肺の力が弱い ということで1日保育器に入ったが、それ以外は特に異常は見られ. なかった。首のすわりは3ヶ月、独語、倒語はともに12ヶ淫すき で、人見知りはなかった。3歳児検診で「少し発達が遅れている」 と言われ、「こまめに話しかけるように」というアドバイスを受け た。. 幼年期から電車が好きで、3歳頃には「さくら」「はやぶさ」な どの電車の名前を覚えていた。また、ミニカーを並べて遊ぶことも 多かった。幼稚園の先生からは、「話がまとまらない」「落ち着きが. ない」「相手の目を見ない」という指摘を受けた。幼稚園の勧めに. より5∼7歳の間、月に1∼2回福祉法人の通所訓練施設に母親と通 った。対人関係では、友達と関わりたいという様子はあったが、ひ とりで身体を使って遊ぶことを好んでいた。比較的おとなしい子と. 9.
(15) 気が合い、一緒に遊ぶこともあった。特に顕著な問題は見られなか った。. 小学校に入学後は、他者にしつこく接するところが見られるよう. になった。1年の運動会の時は、「人からものをもらってはいけな い」という言葉に固執し、友達同士でお茶の交換をしている女児に 対し、「もらっちゃだめだよ!」としつこく言い、先生に注意を受 けたことがあった。. 小学校5年時、学校での不適応、特に対人関係において同様のト ラブルが頻発するようになったため、T大学附属病院を受診した。 そこで諸検査(MRI、 CT、染色体検査)を行った結果に異常はな く、「アスペルガー障害」の診断を受けた。6年時には、引越しの ため転校した。. 対人関係では、太っている人に「太っているね」と言ったり、あ る特定の女子には「かわいい」「好き」と言う発言が見られた。小. 学校2年時、女児に対し「好き」などと発言し、担任教師に注意を 受けたことがあった。このころから社会的な付き合いにおいてトラ ブル起こすことが目立ってきた。. 中学校では通常学級に在籍し、部活動にも参加しているが、対象 生徒は、周囲からの疎外感を感じており、「友達がほしい」と口に していた。. 2.介入期間および指導場所 介入期間は、2000年10月から2001年11月までであった。指 導は、H大学附属発達心理臨床研究センター内の療法室にて実施し た。. 10.
(16) 3.アセスメント はじめに本事例の有している「問題」行動について、アセスメン トを行った。まず、母親、学校の担任からの聞き取りによる情報か ら、[抱きつく][手をにぎる][「好き」と言う][「かわいい」と言. う]という行動が問題視されていることが分かった。そのような相. 手が嫌がるような行動を何度も繰り返し行ってしまうことが対人 関係に支障をきたし、他者からの評価を低くしている一つの要因で あると考えられた。そこで、この「問題」行動がなぜ生起するのか を調べるために、アセスメント①、②、③を実施した。. 1)アセスメント① 相手の感情を理解するとき、我々は表情を重要な手がかりのひと つとしている(笹屋,1997)。そこでアセスメント①では、Aくんが. 表情を手がかりに感情を推測することができるかどうかを確認し た。. Aくんが、表情弁別と表情表出が可能かどうかを確認するため、 [うれしい/かなしい/おこっている/ふつう]の4表情について、 男女各1表情[男女×4(表情)=8(枚)]の写真による表情が、. どのような表情をしているかを質問した。その結果、4表情とも同. 定が可能であった。また表情表出についても、4表情ともに表出可 能であった。. 2)アセスメント② Gnepp磁2■(1983)は、他者感情を推測するためには、状況が 重要な情報源として機能することを指摘しており、発達とともに表. 情と状況の両手がかりから他者感情を推測する能力を獲得してい くと述べている。. 11.
(17) Aくんの「問題」行動は、表情と状況が矛盾している際の他者の 感情を、どちらか一方のみを手がかりにして推測していることに起 因するのではないかと考え、アセスメント②では「表情一状況の矛 盾エピソード課題」(笹屋,1997)を行った。笹屋の研究で用いられ. たもの4種類と、Aくんの実例に即したもの5種類、それぞれ一致 課題と矛盾課題を行った。課題を提示後、Table 2のような教示を 行った。. Table2 アセスメント②の教示 質問1:「Xさんは、どのような顔をしていますか?」 質問2:「Xさんは、どうしてそのような顔をしていると思いますか?」. アセスメント②の結果を、Table 3に示した。質問2の[理由] については、統合的な処理を行ったものを正答とした。その結果、. 笹屋の分類によると、Aくんは[統合型]であることが分かった。 [統合型]とは、状況と表情が矛盾している場合、状況と表情のど ちらか一方の手がかりを無視するのではなく、両手がかりの矛盾を. 解消するように説明づけているものである。笹屋の研究では、健常. 児では女子で10∼12歳、男子で12∼13歳になる頃には、ほぼ統 合的な処理が可能になるとしている。Aくんの年齢を考慮すると、. Aくんは健常児と同じように矛盾課題について統合的な処理がで きることが分かった。. 12.
(18) Table3 アセスメント②の結果 反応. 課題. 状況. 表情. 質問て. 誕生日にケーキをもらった. 嬉しい. 嬉しい. 誕生日だから嬉しい. ゚しい*. ゚しい. ?ノ嫌いな具が入っている. 嬉しい. 嬉しい. 食べられる. ゚しい*. ゚しい. Dきじゃない/歯にしみる. アイスをもらった. 明日の遠足が中止になった. 自転車が壊れた. 「回りブランコ上手だね!」と. セわれた 「かっこいいね!」と言われた. 「かわいいね!」と言われた. 「その洋服かわいいね!」と. セわれた 「足速いね!」と言われた. 嬉しい*. 嬉しい. 質問2(理由). 嫌いなことをする. ゚しい. しくない. 嬉しい*. 嬉しい. 自転車に乗るのが嫌い. ゚しい. ゚しい. ィ母さんに怒られる. 嬉しい. 嬉しい. 誉められた. ゚しい*. ゚しい. ッじ事を言われてつまらない. yしみにしていた. 嬉しい. すごく嬉しい. 嬉しい. ゚しい*. ゚しそう. セわれることに飽きた. 嬉しい. 嬉しい. ゚しい*. ゚しい. 嬉しい. ゚しい* 嬉しい. ゚しい*. 嬉しい. ツまらない 嬉しい. ツまらない. 嬉しいから キき飽きた/嫌いな人に言われた 嬉しいから. 「つも言われてつまらない 久しぶりに/初めて言われた. 「つも言われてつまらない 注)*印は矛盾課題を示す. 3)アセスメント③ Aくんの言動に対して相手が嫌な反応をした時、Aくんは相手の 気持ちをどのように推察しているのかを確認するため、アセスメン ト③ではAくんの言動に対する相手の感情と、なぜそのような感情. 13.
(19) を持つのかという理由を確認した。. 課題を嬉しい反応をすることが推測される言動と、嫌がる反応を. することが推測される言動の2パターン設定した。各6課題、計 12課題を行った。アセスメント③の教示をTable 4に示した。. Table4 アセスメント③の教示 質問1:「Xさん(くん)は、どのような気持ちだと思いますか?このカー ドの中から選んでください。」 質問2:「どうしてそのような気持ちだと思いますか?」. 質問1では、嫌な反応をしている時の感情として、5つの感情カ ード[嬉しい/悲しい/怒っている/恥ずかしい/恐い]から選択. することとした。また、質問2に対しては、口頭で自由回答するこ ととした。課題の分類をTable 5に、アセスメント③の課題および 結果をTable 6に示した。. τable5 アセスメント③の課題の分類 課題 a. 内容. 言動はAくんのものとし、自分自身の言動に対して相手がど フような感情をもつと思うかを問うものとした。. b. 言動は相手のものとし、Aくんがそれに対してどのよう ネ感情をもつと思うかを問うものとした。. アセスメント③の結果、例えば「かっこいいね!」と言われるこ. と(positive課題;b−1)についてAくんは嬉しいと思うため、他 者が「かわいいね!」と言われて嫌な反応をする理由(positive課 題;a−1)が分からないと回答している。このように自分が言われ て嬉しいことを相手に対して言ってあげることについて、なぜ相手 14.
(20) が嫌な反応をするのか理解できていないことが分かった。また、自 分が相手から受けて嫌なことは、実行しないという行動傾向が確認 された。. Table6 アセスメント③の結果 No.. Positiveな言動. 感情カード. 理由. a−1. 「かわいいね!」. 恥ずかしい. 何でか分からない. a−2. 「走るの速いね!」. 恥ずかしい. 急に言われたから. a−3. 「その洋服、きれいだね!」. 恥ずかしい. 急に言われたから. b−1. 「かっこいいね!」. 嬉しい. 「やめて」って言わない。自分なら嬉しい。. b−2. 「高いいね!」. 嬉しい. 自分は嬉しいから、「やめて」って言うの ェ分からない。. b−3. 「回りブランコ上手だね!」. 自分は嬉しいから、「やめて」って言うの. 嬉しい. ェ分からない。 No.. Negat i veな言動. 感情カード. 理由. a−1. 「字、汚いね!」. 悲しい. 言わないでって思うから. a−2. 「その髪型、似合わないね!」. 悲しい. 時間とお金をかけたのに…. 怒っている. 気にしていることを言われたから. a−3. 「そんな問題もできないの?」. b−1. 「あっち行って!」. 悲しい. 分からない. b−2. 「女みたいだね!」. 恥ずかしい. 周りに人がいるから. b−3. 「やめて!」. (ない). (複雑な気持ち). 4)アセスメントのまとめと指導の方向性 アセスメントの結果、Aくんは他者の気持ちを表情や状況から推 測することはできるが、それにも関わらず相手の嫌がるような行動 を繰り返し行ってしまうというところに、「問題」行動の特徴があ. 15.
(21) ると考えられた。このことは、Aくんが相手の感情の理解を高めて いく指導に加えて、彼が繰り返し示してしまう「問題」行動を自分 でコントロールできることが必要であると考えた。「問題」行動が 生起する流れを:Fig.1に示した。相手の女の子が、 Aくんの「抱き. つく」という行動に対し「やめてよ!」と反応することは、Aくん. にとって嫌悪刺激になっていると考えられた。ところが一方で、A くんにとって「抱きつく」という行動は「嬉しい」という強化刺激 となり、これが相手からの嫌悪的な反応よりも刺激価値が高いため、 「問題」行動の繰り返しにつながっていると考えられた。. Aくんにとって強化刺激. 好きな女の⇒( 抱きつく一)[/嬉しい・. 抱きつかれる[⇒やめてよ・ Aくんにとって蕨悪獣激. Fig.1 「問題」行動が生起する流れ そこでこのようなAくんの「問題」行動に対し、ルール制御に基 づいた代替行動の指導を行うことを計画した。日常には様々な刺激 があり、常に環境が一定しているとは限らない。しかし、ルールは 自己に内在し、環境に影響を受けることが少なく、日常においても トレーニング効果が現れやすいと想定された。. 16.
(22) 4.デザインおよび手続き 指導は、以下のデザインに基づいて行った。. 1.プレ・トレーニング. 2.指導1 1)プレ・テスト. 2)ルール1の呈示 3)ポスト・テスト. 3.指導2 1)ルール2の呈示 2)確認テスト. 3)行動的リハーサル. 5.プレ・トレーニング 1)目的. Aくんは、自分の言動に対して相手がnegativeな反応を示して も、その言動を繰り返して行ってしまうという「問題」行動を有し. ていた。これに関して、相手がpositiveに反応するかnegativeに 反応するかを区別することができれば、negativeな反応に対処する ことが可能であった。言い換えれば、相手がpositiveな反応を示し たら「問題」にはならないと考えられた。. そこで相手がどのような反応をしているのかを理解しているこ とが必要であるため、プレ・トレーニングでは、相手の反応として の[表情]・[言語]・[動作]について、[positive/neutral/negative]. な反応を弁別できるかどうかのテストおよび訓練を行った。. 17.
(23) 2)課題と手続き 課題は、[表情]・[言語]・[動作]を[表情]・[表情+言語]・[表. 情+動作]のカテゴリーにランダムに組み合わせて作成した。 positive課題とnegative課題は各2回ずつ行ったため、課題数は positiveが8(4×2試行)、 neutralが4(4×1試行)、 negative が16(8×2試行)であった。[表情]・[表情+言語]については. パソコンを使用し、[表情+動作]については8mmビデオを用い て課題を呈示した。. (1)[表情]. “100Training Games”(:Kroehnert,1991)より転載された40 の表情(Attwoodθ’∂Z,1998)について、7名の評定者(大学生). に[positive/neutral/negative]の3つの刺激パターンに分類し. てもらった。そこで各刺激パターンに分類された課題の中で、評定. 数が多い順に課題として決定した。例えば、Xという表情を [positive]に分類した評定者が多かった場合、 Xを[positive]. 課題とした。これらを一部修正して使用した。 (2)[言語]. Aくんが日常よく使うことばを参考に分かりやすい言語を使用 した。パソコン画面の吹き出しの中に文字が出てくるように作成し た。. (3)[動作]. 刺激パターン[positive/neutral/negative]を[動作]と一致. させた[表情]を組み合わせ、成人男女各1名のモデルによる[動. 作]ビデオを作成した。この[動作]ビデオは10名(大学生)に. 評定してもらい、10名中8名以上が一致して分類した刺激パター ンを正答とした。. 18.
(24) 6.手旨導1 1)目的 自分の言動に対し相手が嫌な(negativeな)反応をしたら、「ご めんね!」と言えるようになることを目的とした。. 2)課題と手続き (1)パソコンによるテスト パソコンに、状況を視覚的に示した画面が呈示されるテストを行 った。このテストは、ルールを知識として理解しているかを確認す. るためのものである。一課題につきそれぞれ相手が[positive/ negative]な反応をするパターンを作成した。例えば、Aくんが「か わいいね!!」と言ったら、相手が「嬉しそうな反応をした!」と「嫌. な反応をした!」という2つの反応パターンがあるものであった。. 課題数は11であった。 (2)シミュレーションによるテスト. 実際場面を想定し、3種類の反応パターン[positive/negative 一/negative+]を設定した台本を作成した。negative課題につい. ては、相手がnegativeな言動をしても謝らなくてもよい場合があ ることを考慮し、謝ったほうがよい課題[negative+]と謝らなく てよい課題[negative一]を作成した。課題の分類はTable 7に示. した。課題数はそれぞれpositiveが5、negative一が5、negative +が4であった。. 19.
(25) Table7 シミュレーション課題の分類 課題の分類. 刺激パターン. 「ごめんね!」課題. 「その他」課題. negatjve+. 内容 相手がnegativeな言動をし、. 「ごめんね!」と言うもの. positive. 相手がpositlveな言動をするもの. negative一. 相手がnegatjveな言動をし、. 「ごめんね!」と言わな. ュてもよいもの. (3)プレ・テスト. :Fig.2のようなパソコン画面を呈示した。[9]でAくんがど のように反応するかを質問した。. Fig.2 プレ・テストのルール課題. a)具体例に基づいたパソコンによるテスト :Fig.3のようなパソコン画面を呈示した。[9]でAくんがどの ように反応するかを質問した。. 20.
(26) 「仲幽くしょうね」と. ・識犠・な(三). 言って抱きついた隔. ◎( Fig.3 パソコンによるテスト課題. b)具体例に基づいたシミュレーションによるテスト 場面と状況を設定し、台本を用意した。Bの役を指導者が演じ、. Aの役をAくんが演じた。空欄のところになったら、相手の言動 に対し、どのような反応をするかをテストした。シミュレーショ ンによるテスト課題の例をTable 8に示した。. Table8 シミュレーションによるテスト課題 台本⑤. 囲数学の時間。今日は、コンパスを持ってくることになっている。 囲 Aの後ろの席の友達Bくん(さん)は、コンパスを忘れてしまった。 A:次、何の授業だったっけ? B:数学だよ。. A:そっか。あ、今日、コンパス持ってくるんだよね? B:あっ!忘れてきた∼! A:じゃあ、かしてあげるよ。一緒に使おうよ。 B:(笑顔で)うん、助かるよ。. 21.
(27) (4)ルールの呈示 ルールの呈示にはパソコンを用いた。Mic■osoft社のPower:Piont. を使用し、Aくんが自分でクリックして画面を操作できるように作 成した。またAくんの反応の分析については、訓練場面を録画した. VTRに基づいて行った。 ルールは:Fig.4および:Fig.5に示した。Aくんがパソコンをクリ. ックし、ひとつずつ確認できるように設定した。. iiii㈱. 轟. 國. 井 田. / \. 矯誤 kgノ. Fig.4 ワレー)レ1−1. 1灘鞍懸i灘灘. そのかわり…. 纏熱③ Fig.5 ワレーノレ1−2. (5)ポスト・テスト. プレ・テストと同様の課題を行った。できなかった課題について は、再度見えるところにあるホワイトボードに掲示したルールを確 認させることを再トレーニングとした。. 22.
(28) 7.. 手旨導II. 1)目的 a)抱きつく,b)手をにぎる, c)「好き」と言う,d)「かわ. いい」と言う,という4つの行動は、相手と関わりたいという表現 であることが想定されたので、それと同様の働きをする代替行動を 獲得することを目的とした。. 2)課題と手続き (1)ルールの呈示. 撒灘摯撒鱗葛. 瞬◎簸. 「カ㈱歴覧」ご早う. 暴. 「碗」ご盲う という行動はやめよう. そのかわり…. .⑰. Fig.6 リレーワレ2−1. 適切嬢諺塗懸儲. ①相手のことを聞く ・「きのう、何のテレビ. 1:::轡三〉. みた?」. ・rOOって知ってる?」. ◎i;§§:1茎:!::擁》. ・【物を見せてもよい】. ②自分の好きな話をする ・電車の話 ・きのう見たテレビの話 i肩を軽くたたくii. ・【物を見せてもよい】 闘・「見て見て!」. Fig.7 ワレーワレ2−2. 23.
(29) (2)話題の確認 相手に話したいこと、聞きたいことをAくんから提案してもらい、 Table 9のような話題が挙げられた。. Table9 話題の内容 話したいこと. 聞きたいこと. ・食べ物の話. ・好きな食べ物は何?. E恐い話. Eどこの国に行ったことがある?. E前の学校の話. E北海道いったことある?. (3)パソコンによる確認テスト 標的行動と代替行動をランダム1に組み合わせ、代替行動を3つの. 選択肢から選ぶ課題を作成した。課題数は12であった。課題の一 部を:Fig.8に示した。Aくんが回答後、クリヅクして正答が分かる. ように設定した。応用できるようにするため、ルールで呈示した話 しかけ方のほかに、[「ちょっと聞いて!」と言って話しかける][手. まねきをして話しかける]という選択肢も正答とした。. 馳転のごきゼこうし制帽? 』 :響=噴邑」‘婁ろ. ユニ にぎもア. 。融輕く鳩陀鰍瀞隔. Fig.8 確認テストの課題例. 24.
(30) (3)行動的リハーサル ルールで提示した話しかけ方のリハーサルを行った。訓練室に女. 子学生3∼4名を後ろ向きにランダムに配置し、後ろからAくんが 話しかけるという状況を設定した。話のパターンを、. ①話しかけた後、自分の好きな話をする ②話しかけた後、相手のことを聞く. とし、1回目は4試行、2回目は3試行行った。 (4)般化の評価. 般化は、以下の2つについて分析し、評価を行った。. ①自由遊び場面における、Aくんの行動観察 a)他者と一緒に遊んだ時間. b)Aくんが他者に話しかけた回数. ②母親と学校の担任との連絡帳 自由遊び場面における行動観察からは、10分間の内、a)他者 と一緒に遊んだ時間、b)Aくんが他者に話しかけた回数をカウン トした。行動観察は指導前、指導後に2回ずつ行い、ビデオによる 分析を行った。母親と学校の担任との連絡帳からは、学校場面で「問. 題」行動が起こった回数と、Aくんが「楽しかった」「嬉しかった」 と母親に報告した出来事を取りあげた。連絡帳はアセスメント終了 後から記入を依頼した。. 25.
(31) 第3章. 結果. 1.プレ・トレーニングの結果 プレ・トレーニングの結果は、Table9、Table11に示した。誤課 題については、再度口頭で確認することを訓練とし、訓練後の結果 をTable10、 Table12に示した。. 1)[表情]・[表情+言語]による弁別課題の結果. Table9 [表情]・[表情+言語]による弁別課題の結果 POSITIVεな表情. 正答数/課題数. 歯喜び. 2/2 1/2 1/2 0/2. 「あはははっ」 「ありがとう!」 「やった∼!」 「ルンルン♪」. 1/1 1/1 1/1 1/1. 「はあ… 。」. 喜び 大満足. 上機嫌. NEUTRALな表情 無表情① 無表情② 無表情③ 無表情④. +言語. 正答数/課題数. +言語 「うん。」. 「へえ… 。」 「・・…。」. NEGATIVEな表情 正答数/課題数 嫌悪 激怒 苛立ち 失望 怒り. 拒否 困惑 迷い. 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2. 正答数/課題数. 2/2 2/2 2/2 1/2 正答数/課題数. 1/1 1/1 1/1 1/1. +言語. 正答数/課題数. 「きらいっ。」. 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 2/2 1/2. 「やめてっ!」 「うるさいなあ。」 「ぐすん… 。」. 「きらいっ!」 「やめてっ!」 「うるさいなあ。」 「・・… 。」. Table10 [表情]・’[表情+言語]による弁別課題の訓練後の結果 POSIτ1VEな表情 喜び 大満足. 上機嫌. 旺GAτIVEな表情 迷い. +言語. 正答数/課題数. 2/2 2/2 2/2. 「ありがとう!」 「やった∼!」 「ルンルン♪」. +言語. 2/2 2/2 2/2. 正答数/課題数. 2/2. 「・・… 。」. 2/2. 正答数/課題数. 正答数/課題数. 26.
(32) [表情]のpositiveな課題において、誤答が目立つ結果となった。. これは、表情だけでは気持ちを読みとることが難しいことの現れで あると考えられる。また、[表情+言語]課題では、positiveな課 題の「上機嫌」と、negativeな課題の「迷い」で誤答が見られた。 誤答については再度訓練した結果、全課題正答となった。 2)[表情+動作]による弁別課題の結果 Table11 [表情+動作]による弁別課題の結果 正答数/課題数. S川LE. 2/2 2/2 2/2 2/2. 拍手をする ガヅヅポーズをする 頭をポリポリかく 飛び跳ねる. ANGRY. 正答数/課題数. 1/2 2/2 2/2. プイと横を向く 向こうに行ってしまう 下を向く. CRY. 正答数/課題数. 2/2 2/2 2/2. プイと横を向く 向こうに行ってしまう 下を向く. Table12 [表情+動作]による弁別課題の訓練後の結果 ANGRY. 正答数/課題数. 2/2. プイと横を向く. 表情が「SMILE」「CRY」の課題は全て正答であった。「怒った表. 情で、プイと横を向く」の課題については正答数が1/2であった が、再度訓練した結果、正答となった。. 27.
(33) 2.指導1の結果 1)具体例に基づいたパソコンによるテストの結果. Pre−test. Post−test after re−training. Post−test. コ. ー. 100. め. ん 正80 ね. 反. 一. 率. ! 応60. ■正反応(%). d刃》一2−20. y誤反応(%). 課 死40 題 一20. phase. 0 100. 茎. ヨ. そ 正80. の. 反. ■正反応(%). 聾奎60 課禽40 題. 嚮?ス応(96). )20. phase. 0 Fig.9具体例に基づいたパソコンによるテストの結果. プレ・テストでは、誤反応が100%であった。トレーニング(ル ールの呈示)を行った結果、「ごめんね!」課題では、誤反応が25%. に減少し、正反応が75%に増加した。「その他」課題においては、 正反応が100%であったが、トレーニング後、誤反応が25%増加し、 正反応は75%であった。「その他」課題での誤反応は[「ごめんね!」. と言わなくてよい時に言った]ということであるが、これはトレー 28.
(34) ニングによって、いつ「ごめんね!」と言うのか、混乱が生じたた めであると考えられた。その後、ルールを再確認し、両課題ともに 正反応率が100%に達した。. 2)具体例に基づいたシミュレーションによるテストの結果. Pre−test. Post−test. Post−test after re−trainin9. コ. ー. 100. め. ん 正80 ね. 反. 1 応60 一 率. 匿正反応(%). 咽刀〉一z−20. }誤反応(%). 課 死40 題 一20. phase. 0 100 ヨ. そ. 正80. の. 反. 他. 応60. 一. 率. 課 題. (40 %. ■正反応(%). l誤反応(%). )20. phase. 0 Fig−0. 具体例に基づいたシミュレーションによるテストの結果. プレ・テストでは、誤反応が100%であった。トレーニングを行 った結果、「ごめんね!」課題における誤反応は28.6%に減少した。. その後、ルールを再確認し、正反応は100%に達した。「その他」 課題についてはトレーニング前後ともに正答率100%であった。 29.
(35) 3.指導IIの結果 1)確認テストの結果 Table13 確認テストの結果 正答数/課題数. 代替行動 1.「ねえねえ」と話しかける. 2/2. 2.「ちょっと聞いて!」と話しかける. 2/2. 3.肩を軽くたたいて話しかける. 2/2. 4.手まねきをして話しかける. 2/2. 5.「ねえねえ」と言って話しかける. 2/2. 6.「ちょっと聞いて!」と話しかける. 2/2. 7.肩を軽くたたいて話しかける. 2/2. 8.手まねきをして話しかける. 2/2. 9.「ねえねえ」と言って軽く肩をたたく. 2/2. 10.「○○ちゃん!」と言って肩を軽くたたく. 2/2. 11.「ねえねえ、○○ちゃん!」と言って話しかける. 2/2. 12.「ねえねえ、○○ちゃん!」と言って肩をたたく. 2/2. 全課題とも2試行ずつ行った結果、正答率は100%であった。ル ールで呈示した「話しかけ方」以外の代替行動についても、適切に 選択することができた。. 2)行動的リハーサルの結果 リハーサルを二回行ったが、ルールで呈示した「適切な話しかけ 方」に基づいて話をすることができた。[①話しかけた後、自分の. 好きな話をする]リハーサルでは、Aくんが選んだ話題は3つであ. 30.
(36) つたが、話しかける相手が4名だったため異なる内容の話題を持ち かけるなど、工夫した行動が見られた。. 4.般化の評価 1)自由場面での行動観察. 指導前1指導前2. 指導後1 指導後2. ロー緒に遊ん. だ時間. 10. 1・囚 I套講し 司. 条. 9 8. 刃. \. 》. 8毒. 哩. 一. 酷. 藩 6. 2. 回 寒. 一. ミ 4. 6詮. z o. 輿 4 鼎. Σ. 愛. 2§. 黍2 皿 0. 0. Fig.11 自由場面における行動観察の結果. 行動観察をした結果、一緒に遊んだ時間、自分から話しかけた時 間ともに増加した。トレーニング前は話しかけに応じて会話をする というパターンが多く、その話題について独り言のように話しつづ ける様子も見られた。遊びではひとりでセラピーボールで遊んだり、. ボールを投げて遊ぶなど、相互的な遊びを好んで選んでも、自分か ら遊びの誘いや話しかけを行うことはほとんどなかった。しかしト 31.
(37) レーニングを行った結果、指導後2では自分から「ちょっと見てて ね!」と声をかけるようになり、同じ遊具で遊ぶという行動が見ら れるようになった。自分が好きな車の遊びや、見てほしいものをア ピールし、それについて「これ、どう思う?」や「おもしろい?」 など、相手の様子をたずねる場面も見られた。. 2)連絡帳の記録 指導の流れと連絡帳の記録による学校場面での変化を:Fig.12に 示した。. (1)連絡帳の記録:学校場面での「問題」行動の報告の有無. 指導1の前に、2回「問題」行動の報告があったが、これはとも に[抱きつく]行動であった。指導II終了後に報告された「問題」 行動は、[「好き」と言う]という行動であった。指導1の前に報告. された「問題」行動と、指導II終了後の「問題」行動は、異なるも のであったことを留意しなければならない。. (2)連絡帳の記録:Aくんが「楽しかった」「嬉しかった」と報 告した出来事の有無 指導IIが終了し、学校では行事(体育会や文化祭)が行われてい た時期に、「友達と一緒に自転車で遊んで楽しかった」などと話し. ていたことが母親より報告された。母親によると、Aくんが友人関 係で「楽しかった!」と自ら話をするのは初めてであったという。 また、文化祭で展示した絵画を誰かにほめられたことを、母親に報 告した。. 32.
(38) 自. 自. 由. 由. 場 面. 場 面. で. で. の. の. @観 @察. ↓↓回. 指導の流れ. , 抱 つぐ. 抱きつぐll. l. r・シミュレーションの一スト. 画. 蓼 il. { ↓↓. 回. アセスメント①②③. ?. P:パソコンのテスト. 観 察. @. ● 一 ■ 一 ● o ℃ 一 , 一 〇 一 曜 一 ,. …. = 「 巳. 連絡帳の記録. @. l. l. l. l. u妊きノと言う. 騨. .哺.一.一.一.一.一.一.曜.一.旧1一.一.o.一. @. 「問題」行動の報告の有無. …. 8 o. @. @ @. 連絡帳の記録 Aくんが「楽しかった」. l. 剛力’. 学校場面での 器. …・一・一・一8r・・隔・曜・一・一・一・一.傳・一・一・一・一・司9一。一・一・一・o・一・一・一・一・o。. l. @. l. l. I. @o − P. :. 1 ,. l ■. l. I. o. ,. 量. 1. ,. ■. l. l. ; 1. 9. l. 畢. l. l. □ 士しかったこ. l. 國オ’. 「嬉しかった」と思った. 暉 一. ,. @● 騨 「 曜 胃 一 甲. 出来事の有無. 2001/11. 2001/4. Fig.12 指導の流れと連絡帳の記録による学校場面での変化.
(39) 第4章. 考察. 1.結果の概要 本研究は、アスペルガー障害生徒の「問題」行動に対し、ルール 制御に基づいた代替行動の指導を行ったものである。. 指導1では、[Aくんの言動に対して相手が嫌な反応をしたら、 「ごめんね!」と言おう]というルールを呈示し、これまでの[怒 る][落ち込む]などという行動に対する代替行動を指導した。そ の結果、訓練場面で行ったパソコンテスト、シミュレーションテス トにおいて「ごめんね!」と反応する場面を選択し、「ごめんね!」 と言うことができるようになった。. また、Aくんの[抱きつく]などの好意を伝えるための行動に対 し、指導IIでは[好意を伝えたいと思ったら、「ねえねえ…」など と話しかけよう!]というルールを呈示し、「問題」行動に代わる 適切な関わり方を指導した。その結果、訓練場面で行った確認テス トでは[「○○さん!」と言って話しかける]などの代替行動を選. 択できるようになった。さらに行動的リハーサルにおいても、適切. な話しかけ方に続けてAくんが自ら提案した話題を提供すること ができるようになった。. 指導の般化への効果については、母親や学校の担任による連絡帳 と、自由遊び場面の観察から評価を行った。訓練場面では「ごめん ね!」と言うことができたが、学校場面においても「ごめんね!」 と言うことができたかどうかについて、連絡帳から報告されること はなかった。学校場面では、「問題」行動とされた[抱きつく][手 をにぎる]という行動は生起しなくなり、[「好き」と言う]という. 行動は、依然として生起していることが報告された。また、母親に 「楽しかった」と報告する行動が見られるようになり、対人関係に 34.
(40) も変化があったと考えられる。自由遊び場面では、自発的に関わり を持とうとする姿勢が見られ、遊びを共有する時間が増加したとい う結果が得られた。. 2.本研究とSSTを用いた先行研究との 相違点 1)アセスメントの重視 先行研究での標的スキルは、会話の手順、話しかけ方など、基本. 的ではあるが広範囲なものであった。Aくんは、対人的な関わりの 中でトラブルを起こすという問題があることについては、先行研究 の対象児・者と同様であった。しかし、「問題」行動が起きる状況 が多く、すべての「問題」行動について介入するには状況が煩雑で. あった。そこで具体的に問題点を明らかにするため、Aくんに対す るアセスメントを重点的に行った。. まず、「問題」となる行動はどのような行動で、どのような状況 のときに起こるのかを把握するため、母親や学校の担任からの聞き. 取り調査を行った。その結果、特に問題視されていた4つの行動を 選定し、これらを標的行動とした。また、Aくんは日頃から友達を 欲しがっており、Aくん自身が他者から受けて嫌な言動は人には行 わないというところが見られた。また、注目喚起のための「問題」. 行動でもないと考えられた。これらの「問題」行動は、気に入って いる、または好きな女子生徒に対して起こることが多く、「問題」 行動の起こる状況についても明らかにされた。. さらに、このような「問題」行動の繰り返しにつながっている原 因として、①表情を読みとることを苦手としているのではないか、 ②表情と状況が矛盾しているとき、その理由を推測することが苦手 35.
(41) なのではないか、③相手が自分の予想と異なる反応をしたとき、そ. の時の相手の感情やその理由を推測することが苦手なのではない か、という3回忌原因を仮定した。そこで、これらを中心に「問題」 行動の原因を明らかにするためのアセスメントを行った。. その結果、表情や状況を把握することはできるが、Aくん自身が されて嬉しいことに対して、相手が嫌な反応をすると、その理由が 明確に理解されないため、混乱が生じ、「問題」行動の繰り返しに つながっていたということが示唆された。:Fig.1で示した“「問題」. 行動が生起する流れ”は、アセスメントの結果明らかになったもの で、「問題」行動の原因を把握し、適切な指導法を考える上で大き な役割を果たしたと考えられる。このようなアセスメントを重点的 に行うことは、問題を理解・整理し、指導につなげていく上で、非 常に重要であると考えられる。. 2)アセスメントに基づいた具体的な状況の設定 SSTは、対人関係や日常生活における一定の状況下で、適切な行. 動を行うための訓練である。これまで行われたSSTでは、対人的 スキル、または生活スキルを生かす場としての「状況」を設定し、 訓練が行われてきた。先行研究では、会話の手順や話しかけ方など の、基本的な会話技能を獲得することを目的とし、「唐突な話しか け方であった」(舳松ら,1998)など、対象者のぎこちなさや不自然. さがある言動を標的行動としている。また、この標的行動は広範囲 に渡る状況で起こるものであり、具体的な言語や行動(例;突然「政. 治についてどう思いますか?」と問いかける話しかけ方や、望まし くない特定の単語など)についての選定は行っていない。また、「話. をする」という状況が作られた中で、話しかけるスキルを身につけ るというものであった。しかし、日常における「状況」は非常に多. 様で、「話をする」ことのできる状況はどのようなものか、具体的 36.
(42) な説明は行っていない。. そこで本研究では、「状況」を具体的に設定して指導を行った。. 中でも指導1におけるシミュレーションテストでは、学校で起こり 得る状況と場面を詳細に設定し、口頭で説明した後、それを台詞と ともに台本カードに示した。場面は、数学の時間(台本⑤)、掃除. の時間(台本⑥)、休み時間(台本⑭)など、Aくんが学校場面で 経験するものを想定した。(*台本については、資料を参照のこと). Aくんは、設定された場面について疑問を投げかけたりコメント したりしており、興味を持って聞いていたと考えられる。このよう に、訓練場面と日常場面に共通のルールを設ける(杉山ら,1995). だけでなく、共通の状況を設定し、対象者が日常場面を想定しやす いように配慮することも重要であると考えられる。. 3.ルール制御に基づいた代替行動の 指導法について 1)ルールの呈示法の工夫 本研究ではルールをパソコン画面上に呈示し、その後も訓練場面 に掲示することで、ルールの定着を図った。ルール呈示後も指導期. 間が終了するまで4回パソコンによる確認を行った。パソコンでの ルール確認が2回目以降になると、対象生徒は「もう分かった」と 反応するようになり、一度の呈示でルールを記憶していたと考えら れる。. この視覚的手がかりに関して、自閉症児・者は、一過性の情報を 順に処理することを苦手としているが、非一過性の刺激の理解を要 する課題(視覚的課題)については、非常に得意としていることが. Schuler(1995)やPrizantθ‘∂Z(1987)によって報告されてい 37.
(43) る(Hodgdon,1995)。また、 Hurlburtθ’aZ(1994)は、アスペル. ガー障害者の体験記述をサンプリングした結果から、彼らの内的体 験は、視覚的イメージ優位で表現されていたと述べている。また、 清水(1994)は、自閉症児に対し「調理行動」や「買い物行動」に 対する、手順カードの有効性を指摘している。以上のことから、ル ールを視覚的に呈示することの有効性が示唆される。 本研究では、以上のような有効性を支持する結果を得た。ルール を視覚的に呈示することで、対象生徒の自己に内在するようになり、. 訓練場面でのシミュレーションテストやリハーサルにおいて、ルー ル制御に基づいた代替行動を生起させることが可能であった。さら にルールが視覚的イメージとして自己に内在していれば、いつでも 思い出すことができ、行動の自己コントロールへの道具立てとなる 可能性が高い(H:odgdon,1995)。. 本研究は一事例であり、本生徒にはルールを視覚的に呈示するこ とが有効であるという結果が得られた。他のアスペルガー障害児・. 者にも同様の効果がもたらされるかどうかについては不確実であ るが、視覚的プロンプトを用いることの有効性は先行研究において も指摘されている(清水,1994)ため、その効果は期待できるので はないかと考えられる。. 次に代替行動の意義について考察する。ルール制御が効果を発揮. するためには、Malott&Garciaは、ルールに「やってはいけない こと」について指示するだけでなく、「何をすべきか」についても. 明示しなければならないと指摘している(McComs&Proga■, 1998)。すなわち、ルールの中に望ましくない行動を特定するだけ. でなく、代わりとなる適切な行動(代替行動)を特定することが重 要であると考えられる。本研究では、これまでの他者への関わり方 のひとつであった「問題」行動をやめるように指導することは、対 象生徒に大きな“心理的負担”を与える場合があることを考慮し、 38.
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