第4章 考察
も変化があったと考えられる。自由遊び場面では、自発的に関わり を持とうとする姿勢が見られ、遊びを共有する時間が増加したとい う結果が得られた。
2.本研究とSSTを用いた先行研究との
相違点
1)アセスメントの重視
先行研究での標的スキルは、会話の手順、話しかけ方など、基本 的ではあるが広範囲なものであった。Aくんは、対人的な関わりの 中でトラブルを起こすという問題があることについては、先行研究 の対象児・者と同様であった。しかし、「問題」行動が起きる状況 が多く、すべての「問題」行動について介入するには状況が煩雑で あった。そこで具体的に問題点を明らかにするため、Aくんに対す るアセスメントを重点的に行った。
まず、「問題」となる行動はどのような行動で、どのような状況 のときに起こるのかを把握するため、母親や学校の担任からの聞き 取り調査を行った。その結果、特に問題視されていた4つの行動を 選定し、これらを標的行動とした。また、Aくんは日頃から友達を 欲しがっており、Aくん自身が他者から受けて嫌な言動は人には行 わないというところが見られた。また、注目喚起のための「問題」
行動でもないと考えられた。これらの「問題」行動は、気に入って いる、または好きな女子生徒に対して起こることが多く、「問題」
行動の起こる状況についても明らかにされた。
さらに、このような「問題」行動の繰り返しにつながっている原 因として、①表情を読みとることを苦手としているのではないか、
なのではないか、③相手が自分の予想と異なる反応をしたとき、そ の時の相手の感情やその理由を推測することが苦手なのではない か、という3回忌原因を仮定した。そこで、これらを中心に「問題」
行動の原因を明らかにするためのアセスメントを行った。
その結果、表情や状況を把握することはできるが、Aくん自身が されて嬉しいことに対して、相手が嫌な反応をすると、その理由が 明確に理解されないため、混乱が生じ、「問題」行動の繰り返しに つながっていたということが示唆された。:Fig.1で示した 「問題」
行動が生起する流れ は、アセスメントの結果明らかになったもの で、「問題」行動の原因を把握し、適切な指導法を考える上で大き な役割を果たしたと考えられる。このようなアセスメントを重点的 に行うことは、問題を理解・整理し、指導につなげていく上で、非 常に重要であると考えられる。
2)アセスメントに基づいた具体的な状況の設定
SSTは、対人関係や日常生活における一定の状況下で、適切な行 動を行うための訓練である。これまで行われたSSTでは、対人的 スキル、または生活スキルを生かす場としての「状況」を設定し、
訓練が行われてきた。先行研究では、会話の手順や話しかけ方など の、基本的な会話技能を獲得することを目的とし、「唐突な話しか け方であった」(舳松ら,1998)など、対象者のぎこちなさや不自然 さがある言動を標的行動としている。また、この標的行動は広範囲 に渡る状況で起こるものであり、具体的な言語や行動(例;突然「政 治についてどう思いますか?」と問いかける話しかけ方や、望まし くない特定の単語など)についての選定は行っていない。また、「話 をする」という状況が作られた中で、話しかけるスキルを身につけ るというものであった。しかし、日常における「状況」は非常に多 様で、「話をする」ことのできる状況はどのようなものか、具体的
な説明は行っていない。
そこで本研究では、「状況」を具体的に設定して指導を行った。
中でも指導1におけるシミュレーションテストでは、学校で起こり 得る状況と場面を詳細に設定し、口頭で説明した後、それを台詞と ともに台本カードに示した。場面は、数学の時間(台本⑤)、掃除 の時間(台本⑥)、休み時間(台本⑭)など、Aくんが学校場面で 経験するものを想定した。(*台本については、資料を参照のこと)
Aくんは、設定された場面について疑問を投げかけたりコメント したりしており、興味を持って聞いていたと考えられる。このよう に、訓練場面と日常場面に共通のルールを設ける(杉山ら,1995)
だけでなく、共通の状況を設定し、対象者が日常場面を想定しやす いように配慮することも重要であると考えられる。
3.ルール制御に基づいた代替行動の 指導法について
1)ルールの呈示法の工夫
本研究ではルールをパソコン画面上に呈示し、その後も訓練場面 に掲示することで、ルールの定着を図った。ルール呈示後も指導期 間が終了するまで4回パソコンによる確認を行った。パソコンでの ルール確認が2回目以降になると、対象生徒は「もう分かった」と 反応するようになり、一度の呈示でルールを記憶していたと考えら
れる。
この視覚的手がかりに関して、自閉症児・者は、一過性の情報を 順に処理することを苦手としているが、非一過性の刺激の理解を要 する課題(視覚的課題)については、非常に得意としていることが
る(Hodgdon,1995)。また、 Hurlburtθ aZ(1994)は、アスペル ガー障害者の体験記述をサンプリングした結果から、彼らの内的体 験は、視覚的イメージ優位で表現されていたと述べている。また、
清水(1994)は、自閉症児に対し「調理行動」や「買い物行動」に 対する、手順カードの有効性を指摘している。以上のことから、ル ールを視覚的に呈示することの有効性が示唆される。
本研究では、以上のような有効性を支持する結果を得た。ルール を視覚的に呈示することで、対象生徒の自己に内在するようになり、
訓練場面でのシミュレーションテストやリハーサルにおいて、ルー ル制御に基づいた代替行動を生起させることが可能であった。さら
にルールが視覚的イメージとして自己に内在していれば、いつでも 思い出すことができ、行動の自己コントロールへの道具立てとなる
可能性が高い(H:odgdon,1995)。
本研究は一事例であり、本生徒にはルールを視覚的に呈示するこ とが有効であるという結果が得られた。他のアスペルガー障害児・
者にも同様の効果がもたらされるかどうかについては不確実であ るが、視覚的プロンプトを用いることの有効性は先行研究において も指摘されている(清水,1994)ため、その効果は期待できるので はないかと考えられる。
次に代替行動の意義について考察する。ルール制御が効果を発揮 するためには、Malott&Garciaは、ルールに「やってはいけない こと」について指示するだけでなく、「何をすべきか」についても 明示しなければならないと指摘している(McComs&Proga■,
1998)。すなわち、ルールの中に望ましくない行動を特定するだけ でなく、代わりとなる適切な行動(代替行動)を特定することが重 要であると考えられる。本研究では、これまでの他者への関わり方 のひとつであった「問題」行動をやめるように指導することは、対 象生徒に大きな 心理的負担 を与える場合があることを考慮し、
その前段階として「問題」行動を起こした場合に相手が嫌な反応を したら、「ごめんね!」と言う代替行動を獲得するというステップ を踏むこととした。代替行動は、「問題」行動が生起しないように するだけでなく、対象生徒の 心理的負担 を軽減する機能も果た
していると考えられる。
また適切な行動(本研究では代替行動)を獲得するために、指導 IIでは行動的リハーサルを行った。このようなリハーサルやモデリ ング、教示などの行動的スキル訓練は、個人が特定の刺激事態で特 定の適切行動をする可能性を高めるためには有効であることが指
摘されており(Le:Francoisθ θZ,1988)、本研究でもそれを示唆す る結果となった。
2)汎用性について
ルール制御に基づいた行動は、行動の随伴性が経験されていない 状況でも適切な行動が起こりやすくなる。例えば「図書館では静か
にする」というルールが内在していれば、それらの状況で結果を経 験しなくても、他の類似の状況(例えば、病院や書店)にもルール が応用される可能性が高い(McComs&Proga■,1998)。これは新
しい行動を獲得することを目的とした場合においても同様である。
つまり、訓練場面において身につけたルールが内在していれば、訓 練場面で経験した状況と類似の日常場面においてもその行動は可 能になると考えられる。
指導1での「問題」行動は、Aくんにとってはpositiveな行動で あった。従って「問題」行動に限らず、好意の意味での働きかけに 対して相手が嫌な反応をしたら、「ごめんね!」と言う行動が生起 する可能性があると考えられる。このように獲得した行動が汎用さ れることは、ルール制御に基づいた代替行動のメリットとして考え