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言語の有標性と言語習得

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Academic year: 2021

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(1)言語の有標性と言語習得. 山岡俊比古 1言語の有標性 言語はあらゆるレベルにおいて対をなす項目を持つが,この中に,対比関係が単 純ではなく,対比項目に対する評価値が異なっているものが含まれる。つまり,項 目が対等の資格で対比関係を保持しているのではなく,一方が他方に依存する関係 を持つ場合がある。これを一般化して述べると, AとBが対をなし, AがBの基準 となり, BはAとの関連においてのみ存在する関係である。この場合, Aを無標と 呼び, Bを有標と呼ぶ。 有標・無標の区別は,一般的に,親近怪,変異性,複雑性の三つの面における対 比として現れる(Moravcsik&Wirth 1986: 2)。親近性は,分布の幅や頻度として 捉えることができる。変異性は,各項目が持つ下位区分の豊富さとして現れる。複 雑性は,形式上の複雑性を意味する。この三つの面から見ると,無標形は,より広 く分布し,より入念に下位区分され,より単純な形式を持つのに対し,有標形は, 分布が限定され,下位区分に乏しく,形式が複雑なものとなる。 有標性理論は,プラ-グ学派の音韻論における二項対立の記述に端を発するもの であるが,現在では,言語のあらゆるレベルに適用され,二項対立だけでなく,多 数の項目間にわたるスケールとしても把握されている。また,普遍文法理論におい ては,核心部分と周辺部分の対比を中核として,有標性が最も核心部から最も周辺 部へ0たる一つのスケールとして把捉できるとしている(Chomsky 1986:147)。さ らに,有標性は,個別言語内の現象としてだけでなく,個別言語間的な普遍的現象 としても認められる。 有標性理論の展開に伴い,現代における有標性の概念は多面的となり,その定義 にさまざまな基準が用いられる。このような基準として,以下の六つを挙げること ができる。 (1)最適性:言語類型論の立場から見た場合に,ある項目ないしは特徴の存在が, 別の項目ないしは特徴の存在を合意することがある。この場合,合意される側 が無標となり,合意する側が有標となる。 (2)分布の幅:個別言語内の関連する項目間において,分布の広いものは無標で, 分布が限定されているものは有標である。 (3)合併性:二つの関連する範噂に関し,より多くの下位区分を持っている方が 無標であり,下位区分が少ないものが有標となる。 (4)非限定性:意味的な基準において,ある要素が特定的で限定的な意味を持ち,.

(2) 10. 対応する要素が非限定的な意味をもつ場合,前者が有標で,後者が無標となる。 (5)単純性:ある要素が,対応する要素に比べて,複雑な形式を取っている場合, 有標となり,対応する要素は無標となる。 (6)プロトタイプ性:ある範噂に所属する構成員のうちで,その範境の最適の例, つまりプロトタイプとして把握されるものがあり,同時に,あまり典型的では ないと判断されるものがある。この場合,プロタイプが無標となり,この典型 から離れるほど有標となる(Battistella 1990:26-44) さらに,普遍文法理論における,次のような有標性の基準を加えることができる。 (7)情報量:ある項目の習得において,これが最小限の肯定情報で可能な場合と, より積極的な肯定情報が必要となる場合がある。普遍文法による有標性の定義 によると,前者が無標となり,後者が有標となる。 2有標性の起源 上で挙げた基準の大半は,有標性そのものを定義づけるというより,有標性を分 析し,発見するためのものであることに注意しなければならない。有標性そのもの の統一的な定義はまだ可能ではなく,むしろ, 「我々が有標と無標の概念を完壁に 定義づけられないという事実は,我々が動詞の概念を完壁に定義づけられない事実 と同様に,何ら驚くに足りない」と言われる(Battistella1990:45)。 有標性が簡単に定義づけられないのは,プラーグ学派の音韻論の分析に始まった この概念が拡大され,様々に適用されたことが一つの原因であろう.しかし,これ は有標性の概念が拡散されたり,曲解されたということではない。むしろ,有標性 を決定する何らかのメカニズムがあり,これが言語の様々なレベルに様々な現れ方 をすることの結果と見た方が良いであろう。 有標性の現れ方の多様性を確認するた釧こ,以下の現象を取り上げて議論する. (1)子音の有声/無声 無声子音は無標で,有声子音は有標である。これは,発音上のエネルギー の多少によるもので,要するに,無声子音は有声子音よりも発音しやすいの である(Lee 1988:215)。この有標性は,我々の発音器官の構造的特性によっ て決定されている。 (生物学的決定) (2)名詞の単数形/複数形 名詞の単数形(例:cat)は,複数形(例:cats)よりも構造的に簡単である。 単数形は無標で,複数形は有標である。この場合の有標性は,構造的な依存 関係を反映した複雑性によって決定されている。 (構造依存的決定) (3)関係節の接近度階層 各言語における関係節構造は,関係節化を受ける名詞句がその関係節の中 で果たす文法的役割に応じて,次のような含意的な階層に配列されている。.

(3) ll. SU>DO>IO>OBL>GEN>OCOMP (SU-主語,D0-直接目的語,10間接目的語,OBL-斜格,GEN-所有格,OCOMP-前置詞目的語) (Keenan & Comrie 1977:66) ここでは, SUが最も無標で, OCOMPが最も有標であると把握される。 この配列は,各構造の間の構造的な依存関係では説明できず,それぞれの構 造を処理する際の心理言語的な難易度(つまり接近度)によって説明される。 (処理的決定) (4)接辞的代名詞構文 フランス語の接辞はSOVの語順をとる(例'. Jet'aime)c一方,フラン ス語の基本語順はSVOである。フランス語におけるSOVの語順は,接辞 を持つ文だけに限定されている。フランス語話者は, sovを有標とし, SVOを無標として把握する。これは,二つの語順の分布状況を基にした判 断である。 (分布的決定) (5)語桑的意味 「長い」と「短い」は対立語であるが,対等ではない。例えば,橋の長さ を尋ねるときに「長い」を使うが, 「短い」は使わない。また, 「長さ」は一 般的に長さを意味するが, 「短さ」にはそのような意味はない。さらに, 「例 えば,紐はいくら長くなっても紐のままあるが,短くなれば最終的には無に 帰す」 (Clark &Clark 1977: 533)。言うまでもなく, 「長い」が無標で, 「短 い」は有標となる。 同類の対立語の対において同様の現象が確認できる。しかも,これはすべ ての言語に当てはまる普遍的現象である(Greenberg 1966: Clark & Clark 1977二533に引用) 。この場合の有標性は,消極的な意味を持つものよりも 積極的な意味を持つものの方を好むとする,人間の先天的な認知傾向によっ て決定されている。 (積極認知的決定) (6)プロトタイプ ある概念範境に所属する構成員は,同等の資格でその範噂に所属している のではない。各構成員は,それぞれその範噂を示す典型性において異なって いる。例えば,アメリカ人の大学生にいくつかの野菜の名前を与えて,野菜 として同定できる時間の速さを測定すると,以下のような階層が現れる。 Carrot>Asparagus> Celery>Onion>Parsley>Pickle (Rosch 1973 : 133). この階層は,人参が野菜の最適の例として把握されており,以下この階層 に沿って典型性が減じ,ピクルスが最も野菜らしくないものとして把握され ていることを示す。この場合,プロトタイプとしての人参が最も無標であり, ピクルスが最も有標となる。.

(4) 12. 一般的に,この有標性は,概念範噂を決定づける様々な特性を各構成員がど の程度まで持つかによって決定される。上の例で言えば,人参は野菜を決定づ ける特性のすべてを持っており,ピクルスはその特性の数が最も少ない。 この有標性は,概念範時の構造的安定性と順応的適用性の両方を求める, 我々の認知の仕組みを反映している(Geeraerts 1985: Taylor 1989 :53-54 に引用)0 (認知的決定) 以上のように,有標性の決定要因は多様である。しかし,重要なこととして,い ずれの決定要因も,言語を使用するものとして見る立場から導き出されていること を指摘しなければならない。音声に関わる生物学的決定要因は,その典型である。 関係節の接近度に関わる処理的決定,接辞的代名詞構文の分布的決定,語嚢的意味 に関わる積極認知的決定,プロトタイプにおける認知的決定は,いずれも言語使用 に指向する見通しの中で行われており,その判断はまさに認知的である。 名詞の単数形/複数形に関わる構造依存的決定も,使うべきものとしての言語の 構造が為せるものである。論理的に言って,同じ名詞の単数形と複数形をまったく 異なった語で表すことは可能であり,また,個体としての犬と,族としての犬を異 なった語で表すことも可能である。これは可能であるばかりでなく,違ったものは 異なった語で表すという言語の一つの原理を反映するものでもある。しかし,そう ならないのは,言語の使用における認知的経済性の原理が作用しているからである。 有標性は,言語の体系そのものが生み出すものではなく,言語使用に作用する原 理から導き出されるものである。体系そのものに有標性が見られるにしても,それ は言語使用に関わる有標性の反映であると見るべきであろう。言語使用ないしはそ の処理は,認知作用のプロセスである。認知作用の効率性を確保するためには,認 知の基準となるものが求められるはずである。言語の有標性は,認知作用のこのよ うな原理が,言語の処理において作用し,そこに様々な形で現れるものであろう。 普遍文法理論による有標性は,性格を異にしている。すでに述べたように,この 有標性は言語習得の論理的問題から導き出されている。この間題は,いわゆる刺激 の貧困性,とりわけその中でも,直接的否定情報の欠如を理論的基盤とする。上で 述べた有標性の様々なタイプが,すべて経験的に導き出されているのに対し,普遍 文法の有標性は論理の帰着による理論的構築物である。したがって,普遍文法によ る有標性は,言語使用に関わる認知との関連性を持っていない。 有標性の原理は言語の普遍性の一つであるが,一般的に言って,普遍性を追求す る二つのアプローチのうち,言語類型論に基づく研究においては,普遍性の確認の みならず,その導因に対しても興味を持つのに対し,普遍文法による研究アプロー チでは,生得性を想定すること以外,普遍性の導因に対しては無関心である (Comrie 1989 :ト2, 23)。. 3有標性と第1言語習得 言語の有標性と第1言語習得の関係は単純である。第1言語習得においては,無.

(5) 13. 標形が有標形に先立って習得される。無標形は認知的な基準となるものであること に加え,ほとんどの場合,無標形は有標形よりも生じる頻度が高く,分布の幅も広 く,構造的にも単純であるとoう事実が,無標形の習得をより促進することになる. 言語習得は範噂的に行われるのではなく,個別項日ごとになされるとするのが現 在の考え方であるが,このことが無標形と有標形の習得順位の決定に関係を持つこ とがあるO一般的に,無標形は有標形よりも頻度が高いが,有標形の方が高い頻度 を持つ場合がある。例えば,授与動詞の多くはその補部として, [NP+PP]の構 造と[NP+NP]の構造をとる。この場合,前者が無標で,後者が有標となる。一 般的に,授与動詞の二つの構造の理解テストを子供に対して行うと,無標形の方が 成績がよい。これは有標性理論の予測する通りである。しかし,動詞giveに関し ては,有標形がかなり早い時期に子供の発話に現れる。このことは,この動詞の有 標な補部構造が,子供を取り巻く言語世界の中でかなり高い頻度で現れることの反 映である(Goodluck 1991 : 152-3)。 授与動詞の補部構造に関しては,普遍文法で言うパラメータ値設定に関わる有標 性の原理が作用すると言われている。もし,学習者がgiveなどの動詞の用法から, すべての授与(的)動詞が二つの補部構造をとると仮定したとすると, donateや explainなどの有標構造を許さない動詞に関して間違いを犯すことになる。普遍文 法理論では,言語の習得は肯定情報だけで行われ,否定情報は与えられないと考え る。したがって,有標構造を許容しないこのような動詞に関して作られた間違った 規則を,学習者が廃棄することは論理的に不可能となる。 このような一つの言語習得の論理的問題を解決するために提案されたものが,部 分集合原理と言われる学習原理である。一般的に,この原理は次のように定式化さ れる。ある規則によって生み出される文の集合が,他の規則によって許容される文 の集合の真部分集合となるとき,規則の採択に関して学習者は保守的にこれを行い, 真部分集合に当たる情報を与えられたときには,これに見合う規則のみを採択し, 上位集合を許す規則の採択は,あくまでそのことを許す肯定情報が与えられるまで 控える。この場合,部分集合に該当する規則は無標で,より積極的な情報を要求す る上位集合の規則は有標である。 部分集合原理は,普遍文法そのものではなく,普遍文法理論に付随する学習原理 として位置づけられる.つまり,この原理は,普遍文法とは異なったモデュールの 機能である。第1言語習得は,この学習原理に従い,学習者は論理的に修復不可能 な過般的規則の形成を避けて行われることになる。 この考え方は,言語習得は肯定情報のみを基にして行われるとする前提が生み出 す言語習得の論理的問題に対する論理的帰着であり,その正否はあくまで経験的に 検証すべきものである。現在のところ,第1言語習得はまさに部分集合原理に従っ て行われることが検証されている事例もあるが,その検証は,理論構築ほど熱心に は行われていないと思われる。授与(的)動詞に関して,学習者が部分集合原理に 違反して,過般的な発話をすることが確認されていることにも注意しなければなら ない(Bowerman 1987)。.

(6) IE!. 4有標性と第2言語習得 第2言語習得における有標性の作用は,学習者の母語と目標言語の関係において 複雑な様相を呈す。ここでは,有標性は,目標言語項目の習得の難易度,母語から の転移,否定情報の役割などの観点から議論される。以下で,先行研究のいくつか を概観し,第2言語習得における有標性の作用の多面性を確認する。 まず,言語項目の難易度を取り上げるChomsky (1964)以来beeasy Vの構 造は注目されているが, C.Chomsky(1969)の研究によると,第1言語習得におい て,例えば, Thedolliseasytoseeのような文の正しい解釈が7-8才でもできな いことがある。しかし,この文型は,次のように,主語の名詞および動詞の意味的 な特性によって次のような難易度の階層を生み出す。 (1) Thisbook iseasy to read. (2) She is easy to deal with. (3) He is easy to understand. (4) Jack is easy to please.. Yamaoka(1988)の分析によれば,この難易度の階層は,文意の透明性によって 決定されている。この透明性の判断によると, (1)が最も無標となり, (4)が最も有標 となる。日本人英語学習者を被験者とした実験において,習得がこの有標性の階層 に従って進むことが明らかとなった。 また,英語前置詞onの用法も,個々のonが持つ意味特性の束という観点から, 次のような, (1)のタイプを最も無標とし, (6)のタイプを最も有標とするプロトタイ プ構造を持つと考えることができる。 (1) The book is on仇e desk. (2) Look at血epicture on the wall. (3) Heputhishat on thepeg. 4 There areseveral bats on仇e roofofthe cave. (5) There are three apples on the branch. (6) The dog is on the leash.. 日本人英語学習者を被験者とした実験で(Yamaoka 1995,印刷中),おおむね習 得がこの階層構造に沿って行われることが確認された。 第2言語習得における有標性の原理は,母語からの転移に関わって作用すること がある。 Selinkeretal.(1975)とZobl(1980)の研究によると,フランス語を母語 とする英語学習者は,母語の接辞的代名詞の構文を英語に転移して, /themseeの ような間違いを犯すことがない。これは,学習者が母語の接辞的代名詞の構造を有 標と捉えているために,転移の対象から除外された結果である。語が持つ意味の転 移可能性に関しても,同様の現象が確認されている。一般的に,語の核となる意味.

(7) 15. は転移の対象となるが,周辺的で有標であると判断される意味は,転移の対象から外 される(Kellerman 1978)。このような有標性の作用は,心理言語的有標性と呼ばれる。 また,ドイツ語は語末の位置で有声/無声の対立を持たないのに対し,英語はこ の位置でこの対立を維持する。ドイツ語を母語とする英語学習者は,英語の語末に おける有声/無声の対立の学習に困難を示すのに対し,英語を母語とするドイツ語 学習者は,ドイツ語の語末のパターンを学習するのに困難を示さない.この現象は, 有声/無声の対立が語のどの位置で維持されるかということに関して,言語類型論 の立場から導かれた有標性の階層によって説明される。この階層は,普遍的で含意 的なもので,次のように示される。. 含意的階層語頭>語中>語末 有標性無標有標(Eckman 1977 : 322) これによると,語末で有声/無声の対立を維持するのは,言語類型論的に有標で あり,逆に,この位置でこの対立を維持しないことが無標となる。したがって,莱 語を学習するドイツ語母語話者は有標形を学習することになり,ドイツ語を学習す る英語母語話者は無標形を学習することになる。これによって上記の違いが現れる ことになるのである。 この類型論に基づく学習困難性の予測は,有標性差異仮説として,次のように定 式化されている。 (1)母語と異なっている目標言語の領域があり,それが母語よりも有標である場 合には,その領域の学習は難しい。 (2)母語よりも有標である目標言語の領域において示される学習困難性の相対的 度合いは,有標性の相対的度合いを反映する。 (3)母語と異なっている目標言語の領域であっても,それが母語よりも有標でな い場合には,その学習は困難でない(Eckman1977:321) 類型論に基づく有標性差異仮説が,学習者の母語からの転移を目標言語との対比 において説明するものであるのに対し,既に上で述べた心理言語的有標性は,学習 者の母語の中において把握される有標性によって,転移現象を説明するものである。 この点において二つの有標性理論は立場を異にしているが,その有標性の把握は, 認知作用としての同一のメカニズムによって行われていると考えることができる。 以上のことから,有標性の原理は第2言語習得において多面的に作用しており, 目標言語項目の学習難易度や母語からの転移の可能性を決定しているということが できる。 普遍文法理論による有標性の原理に関しては,少なくとも,部分集合原理の作用 について,これが第2言語習得には機能しないと言われている。このことに関して は,普遍文法の有標性が,一般的な認知作用としてではなく,論理的結論としての.

(8) 16. 生得的な言語モデュールの枠内で考案されていることを考え合わせなければならない。 5まとめ 言語の有標性が,言語の使用と言語の習得という見通しを持ったときに考えうる 概念であることは重要である。この点からして,有標性が様々な現れ方をする第2 言語習得は,有標性理論にとっての格好の研究の場となる。特に,言語入力の質と 量をコントロールすることが可能な,教室における第2言語習得は,より重要で決 定的な役割を帯びることになる。 含意的な階層構造をなす目標言語の項目の群において,有標構造の意図的教授が, 無標構造の自動的学習をもたらすという,いわゆる教授の投射効果の発見とか,部 分集合原理に関わるパラメータが持つ値に関し,有標値に絡む否定情報の意図的教 授の必須性とその効果の確認などは,言語教室においてのみ可能な実験研究の例と して,異彩を放つもので,教室における第2言語学習が有標性理論の発展において 持つ,固有で絶対必要的な役割を象徴するものとなっている。 一般的に,第2言語習得研究は,学としての内的基準を十分に具備するにいたっ ているが,他分野への貢献という外的な基準においては,まだ十分でないことが指 摘されている(Gass 1993)。この不備を補い,第2言語習得研究の学としての外的 基準を積極的に打ち出すためには,多くのことがなされなければならない。 この観点において,言語の有標性に基づく第2言語習得研究は,最も有望な可能 性を持つ研究分野であり,教室における第2言語習得は,そのための優れた研究の 場を提供するものとして認識しなければならない。 ここでは,これまでに着手されたものも含め,少なくとも以下のような研究視点 が考えられる。 (1)有標性理論に基づく言語項目の教授順序 (2)有標性理論に基づく教授の投射効果 (3)有標性理論に基づく転移現象 (4)普遍文法理論における有標性理論に基づく否定情報効果 このような視点の研究を積み重ねることによって,有標性理論そのものの深化と 洗練化を図ることが期待でき,より一般的に,言語に関わる人間の認知作用の根本 的メカニズムの一つについて理解を深めることができると思われる。 参考文献 Battistella, E. L. 1990. Markedness: The Evaluative Siφerstructure of Language. Albany: State University of New York Press. Bowerman, M. 1987. Why dont children end up with an overly general grammar? In B. MacWhinney (ed), Mechanisnぴof Lang,喝e Acquisition. Hillsdale. NT: Lawrence Erlbaum..

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