• 検索結果がありません。

小銭の大問題 (巻頭エッセイ)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小銭の大問題 (巻頭エッセイ)"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

小銭の大問題 (巻頭エッセイ)

著者

黒田 明伸

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

215

ページ

1-1

発行年

2013-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003639

(2)

1

アジ研ワールド・トレンド No.215 (2013. 8)

エ ッ セ イ

アジ研ワールド・トレンド 2013 8

くろだ あきのぶ/北海道生。京都大学卒。2002年より東京大学東洋文化研究所教授 中国を中心とした世界貨幣史を研究し『貨幣システムの世界史』(岩波)等を著す。 貨幣間の補完性理論で知られフランス・ドイツで客員教授。International Journal of Asian Studies(ケンブリッジ大学出版会)編集長。   大きなボールと小さなボール二種類を混ぜて 透明な箱に入れて上下に揺する。そうすると大 きなボールが上へ小さなボールが下へと集まる のが目にみえてわかる。なぜ大小のボールが分 離するのかを数理的に説明するのは容易ではな い よ う だ が、 経 験 的 に は 納 得 で き る で あ ろ う。 実は通貨の流通において相似した現象がおこっ ているのである。もちろん物理的な大小ではな く額面の大小のことである。   中世以来の二四〇ペンス=一ポンドの通貨制 度を現行の一〇〇ペンス=一ポンドに切り替え る前の一九六八年、必要な新硬貨の量を推定す るため英国王立鋳造局はバークレーなどの銀行 に依頼して支店カウンターで受領する硬貨の発 行年についてのサンプル調査をした。すると平 均して毎年一〇〇枚に二枚の割合で硬貨が銀行 経由の流通経路からはずれているという予期せ ぬ結果が現れた。興味深いのは還流頻度が額面 により大きな差があったことである。二シリン グ六ペンス硬貨が〇・九枚なのに対し最小額面 の半ペンス硬貨は三・七枚の割合で消失してい た。五年経過すると一〇〇枚の二シリング六ペ ンス硬貨の場合は九五・六枚流通しつづけてい るのに半ペンス硬貨の方は八二・八枚しか働い ていないということになる。硬貨を銀行と家計 との間を上下運動する粒子だと考えると、低位 額面通貨は高位額面通貨ほど上行せずより沈積 する傾向が強いということになる。   現在の取引全体において現金決済はごく一部 にすぎないし、さらに現金取引のなかでも硬貨 によるものは非常に小さい割合にすぎない。 如 じょ 上 じょう のことなど所詮は「小銭」の小問題であると みるむきもあろう。だが取引総額を基準に物事 の重要性を測るこの視角には大きな見落としが ある。それは使用頻度の問題である。一〇〇円 硬貨を一〇〇回使うのと一万円札を一度使うの とは取引総量としては同じ一万円である。人々 が財・サービスを日常生活において購買する 営 えい 為 い において媒介機能を果たしているのは一〇〇 円硬貨の方である。   現金で決済するということは取引において最 大の自由度を行使することである。どれを、ど れだけ、だれから、いつ、買うか(売るか)を 最 小 の 制 約 で 決 め る こ と が で き る の で あ る か ら。小銭を不断に使うということは、日常生活 を頻繁な最小制約取引で構成していることだと いうことができる。ひいきにしている八百屋の 帳面へ記入してもらって月末にまとめ払いとい う取引であれば硬貨需要は激減する。しかしそ れは得意先以外と売買する可能性を放棄してし まうことである。   それならば硬貨をたくさん供給してやればよ いのだろうか。問題は通貨、ことに小額面通貨 は、上記のように沈積しやすく回収がむずかし いことにある。日常取引における自由度が高い ほど通貨への依存が高いが、通貨依存度が高い ほど通貨不足に悩むということになる。銀行制 度がポンプの役割を果たさないとさらに深刻化 する。小銭は実は大きな問題をかかえている。

黒 田 明 伸

小銭の大問題

参照

関連したドキュメント

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

1 Library, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization (3-2-2 Wakaba Mihama-ku Chiba-shi, Chiba 261-8545). 情報管理 56(1), 043-048,

発表者,題名,発表・発行掲載誌名,発表・発行年月 ○Shinji Tokunaga, Toshiyuki Araki: “Wallerian degeneration slow mouse neurons are protected against cell death

雑誌名年月日巻・号記事名執筆者内容 風俗画報189012.10女力士無記名興行

題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む) Hiroyuki Kubo, Yasushi Ishibashi, Akinobu Maejima, Shigeo Morishima, "Synthesizing Facial

Dugong Status Reports and Action Plans for Countries and Territories..