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特集にあたって (特集 アジアの障害者立法 -- 国連障害者権利条約への対応)

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特集にあたって (特集 アジアの障害者立法 -- 国

連障害者権利条約への対応)

著者

小林 昌之

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

181

ページ

2-3

発行年

2010-10

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004395

(2)

  二〇〇六年一二月の国連障害者 権利条約の採択により、障害者に 関する規範的な人権基準が明確化 し、障害者の権利主張に新たな法 的根拠がもたらされた。 本条約は、 障害者の人権および基本的自由の 完全な享有ならびに障害者の完全 な参加を促進することは、社会の 人間・社会・経済開発ならびに貧 困の根絶の著しい前進をもたらす ものであると認め、持続可能な開 発戦略の不可分の一部として障害 問題の主流化が重要であることを 強調している。 アジアでは一九八一年の国際障 害者年など国際的な動向を契機と し て 障 害 者 立 法 が 整 備 さ れ て き た。しかし、従来その多くは障害 の医学モデルに立脚し、障害者個 人に対する福祉サービスやリハビ リテーションを提供することを主 な 内 容 と し て い た。 し た が っ て、 これら諸国が障害者権利条約との 整合性を保つためには一種のパラ ダイム転換が必要となる。本特集 では、アジア各国の障害者立法の 発展状況を紹介しながら、それら が障害者権利条約のめざす障害者 の権利確立の方向に向かっている のか考察する。

●立法措置による人権確保

  条約は締約国の義務として﹁障 害を理由とするいかなる差別もな しに、すべての障害者のあらゆる 人権および基本的自由を完全に実 現 す る こ と を 確 保 し、 促 進 す る ﹂ ために、 すべての適切な立法措置、 行政措置その他の措置をとること が明記されている。また、平等お よび非差別を確保するために﹁障 害を理由とするあらゆる差別を禁 止するものとし、いかなる理由に よる差別に対しても平等のかつ効 果 的 な 法 的 保 護 を 障 害 者 に 保 障 ﹂ し、かつ﹁平等を促進し、差別を 撤廃することを目的として、合理 的配慮が提供されることを確保す るためのすべての適当な措置をと る﹂ ことを締約国に要求している。 立法措置による障害者の人権確保 は障害者権利条約の枠組みの核心 部分であり、条約は締約国に、障 害を理由とする差別を禁止する法 律の制定を求め、さらに非差別が 社会で実質的に確保されるよう合 理的配慮の提供や罰則などによる 保証を求めている。   アジア太平洋地域ではこれまで 国連の動きに呼応して障害者立法 の整備をはかる国があったが、従 来 こ れ ら は 義 務 的 で は な か っ た。 障害者権利条約の成立前において も制定過程の議論が国内法制に影 響を及ぼしてきたが、障害者権利 条約は締約国の義務として立法措 置を求めており、条約に沿った法 整備の実施が期待されている。二 〇一〇年六月末現在、障害者権利 条 約 に 署 名 し た 国 は 一 四 五 カ 国、 批准した国は八七カ国である。ア ジ ア 地 域 で は、 バ ン グ ラ デ シ ュ、 中国、 インド、 ラオス、 モンゴル、 ネパール、フィリピン、韓国、タ イの九カ国がすでに批准を済ませ ている︵表 1︶

●障害者法の制定状況

  各 国 の 法 律 は そ の 歴 史、 文 化、 発展段階および法制度によって異 なっており、各国の障害者立法も 障害概念のとらえ方やその目的に よ っ て 異 な る。 こ れ ら は、 憲 法、 刑法、民事法・差別禁止法あるい は社会福祉立法など様々な形式で 制定され、規定の内容も障害給付 型立法、行動計画型立法、権利に 基づく立法などに分類できる︵参 考文献①︶ 。   アジア地域での障害者立法の状 況を概観すると、中国は二〇〇八 年に障害者保障法を改正し、タイ も既存のリハビリテーション法を 廃止して二〇〇七年に障害者の生 活の質の向上および開発に関する 法律 ︵障害者のエンパワメント法︶ を制定している。また、韓国は既 存の障碍者福祉法に加え、二〇〇 七年に障害者差別禁止および権利 救済に関する法律を制定した。さ らに、マレーシアは二〇〇八年に 障害者法を、カンボジアは二〇〇 九年に障害者の権利保護・促進法 を、ベトナムは二〇一〇年に障害 者法を新たに制定している。一方 で、ほかの諸国に先んじて英米法 系の伝統を受け継いで差別禁止法 を制定していたインドでも改正議 論が展開され、フィリピンでも条 約批准が実効性を確保するための 足がかりとなることが期待されて いる。

アジアの障害者立法

|国連障害者権利条約への対応

特集にあたって

アジ研ワールド・トレンド No.181 (2010. 10)

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●パラダイムの転換

  条約に合わせてアジア各国の障 害者立法も障害の医学モデルから 社会モデルへと転換し、障害者を 福祉・保護の客体ではなく権利の 主体として、非差別を確保するた めの法律に転換していくことが期 待されている。実際、対象国を含 めアジアの国々は少なからず障害 者権利条約の成立に前向きに取り 組み、同時に国内の障害者立法が それとの整合性が保たれるよう制 定、改正作業を行ってきた。しか し、条約との整合性をはかってき たと主張する国においても、その 整合性は表面にとどまり、実際に パラダイムの転換を果たした国は まだ限られている。 例えば、中国では障害者保障法 の改正を担当した事務局レベルで は、障害の医学モデルから社会モ デルへの転換が意識され、障害者 権利条約を後ろ盾に障害者の権利 が強調されていたものの、改正後 の同法はなお個人の能力を問題に しており、国家のサービスや給付 などによる扶助を中心に据えてい る。したがって、中国の障害認識 は社会モデルへ完全に転換したと も、権利に基づくアプローチを採 用したともいえない。マレーシア も障害者権利条約を参照する形で 障害者法を制定したものの、核心 部 分 で あ る 差 別 禁 止 は 除 外 さ れ、 日本の障害者基本法に倣って障害 行政の枠組みと宣言的に権利を規 定する法律を制定したにとどまっ て い る 。 ま た 、カ ン ボ ジ ア に お い て も医学モデルに立脚したインペア メントそのものを障害と捉え、障 害者が直面する不利益の根拠を社 会に求める社会モデルが広範な理 解 と 支 持 を 得 る に 至 っ て は い な い 。

●権利確立への展望

  障 害 者 の 権 利 確 立 の た め に は、 条約で示された諸権利が裁判規範 性を有する形で各国の憲法や障害 者 立 法 で 明 文 化 さ れ る と と も に、 それを実現するための実効性ある 権 利 救 済 制 度 の 整 備 が 必 要 と な る。この点、本特集の対象国にお いては、司法的救済、準司法的救 済のほか、司法へのアクセスを保 障するための何らかの制度的工夫 を施した国が見られた。また、例 えば中国では、障害者保障法の規 定 の 裁 判 規 範 性 は 乏 し い も の の、 司法へのアクセスのための法律扶 助のほか、障害者が直面する法律 問題を行政や社会の力を借りて多 面的に解決するメカニズムを構築 することが目指されており、障害 者の権利擁護を模索するほかのア ジア諸国にも示唆を与える。アジ ア各国の知見の共有は障害者の権 利確立に資するものであり、いっ そうの研究を必要としている。 ︵ こ ば や し   ま さ ゆ き / ア ジ ア 経 済 研究所法・制度研究グループ︶ ︽参考文献︾ ① Byrnes, Andrew [2009] Disability Discriminat ion Law and the Asia P acific Reg ion: Prog ress and

Challenges in the Light of the United

Nat ions Con vent ion on the Rights of P ersons w ith Disabilit ies (Backg round P

aper for Expert Group

Meet ing on the Harmonizat ion of Nat ional Leg islat ions w ith the Con vent ion on the Rights of P ersons w ith Disabilit ies in Asia and the P

acific, 8-10 June 2009, Bangkok)

[付記]   本 特 集 の も と に な っ た 研 究 成 果 は、 小 林 昌 之 編﹃ ア ジ ア 諸 国 の 障 害 者 法 ︱ 法 的 権 利 の 確 立 と 課 題 ﹄︵ ア ジア経済研究所︶ として出版された。 あ わ せ て ご 参 照 い た だ け れ ば 幸 い で ある。 表1 アジア地域の障害者権利条約締結状況と障害者立法 国 名 条約1) 障害者立法 改正 日本 ○ 1970 障害者基本法 2004年改正 韓国 ◎ 2007 障害者差別禁止・権利救済法 北朝鮮 2003 障害者保護法 モンゴル ◎ 1995 障害者社会保障法 1998年改正 中国 ◎ 1990 障害者保障法 2008年改正 香港2) ◎ 1995 障害差別条例(Chapter 487) 台湾 2007 身心障害者権益保障法 2009年改正 ベトナム ○ 2010 障害者法 カンボジア ○ 2009 障害者の権利保護・促進法 ラオス ◎ (2007年草案:障害者の権利に関する政令) タイ ◎ 2007 障害者の生活の質の向上・開発法 フィリピン ◎ 1992 障害者のマグナカルタ(共和国法第7277条) 2007年改正 マレーシア ○ 2008 障害者法 シンガポール インドネシア ○ 1997 障害者法 ブルネイ ○ ミャンマー 1958 障害者リハビリテーション・雇用法 バングラデシュ ◎ 2001 障害福祉法 インド ◎ 1995 障害者(均等機会・権利保護・完全参加)法 ネパール ◎ 1982 障害者保護福祉法 スリランカ ○ 1996 障害者権利保護法 パキスタン ○ 1981 障害者(雇用・リハビリテーション)令 (出所)筆者作成。 (注) 1)◎は批准、○は署名を示す。    2)中国の障害者権利条約批准により香港へも適用される。 アジ研ワールド・トレンド No.181 (2010. 10)

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アジアの障害者立法

―国連障害者権利条約への対応

参照

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