新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発
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(2) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での 援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発 本 田 真 大*. Development of Social Skills Training Targeted on Expression and Reading Skills for Help-Seeking Intention Under the Risk of COVID-19. 要 約 本研究の目的は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)下において実施可能なソーシャルスキル教 育として,援助要請意図の表明・読解スキルトレーニングを開発すること,ならびにCOVID-19に対す るスティグマを探索的に検討することである。マスクを着用しソーシャルディスタンスを保ち,短時間 の2人組の練習に限定された状況下で援助要請意図の表明と読解の練習を行った。中学生77名のデータ の分析の結果,意思伝達スキルの向上が認められたが,被援助志向性には変容が見られなかった。また, COVID-19に対するスティグマが探索的に検討された結果,5つのカテゴリーが得られ,今後の研究上 の課題が議論された。. 問題と目的. や布等」を各自に必要な持ち物と定めて指導する こと,基本的な感染症対策として「感染源を断つ. 1.新型コロナウイルス感染症が与える学校への. こと,感染経路を断つこと,抵抗力を高めること」. 影響. を実施すること,集団感染のリスクを高める3つ. 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19). の条件である「換気の悪い密閉空間,多数が集ま. の影響により,2019年度末から2020年度にかけて. る密集場所,間近で会話や発生をする密接場面」. 学校は臨時休校になる等,例年と異なる動きと. をできる限り避けること,重症化のリスクの高い. なった。2020年3月に全国の国公私立の小・中・. 児童生徒等への対応,等について具体的に定めら. 高等学校等に臨時休業を要請し,分散登校を取り. れている。また,各教科における「感染症対策を. 入れながら,2020年6月頃より学校再開となった. 講じてもなお感染のリスクが高い学習活動」とし. ものの, 「学校の新しい生活様式」 (文部科学省,. て,「『児童生徒が長時間,近距離で対面形式とな. 2020a)の下での学校生活を送ることとなった。. るグループワーク等』及び『近距離で一斉に大き. 学校の新しい生活様式(文部科学省,2020a). な声で話す活動』」が挙げられている。. では, 感染症対策として 「清潔なハンカチ・ティッ. これらの点を踏まえると,従来は新年度に実施. シュ,マスク,マスクを置く際の清潔なビニール. されてきたようなソーシャルスキル教育等のグ. *. Masahiro HONDA:北海道教育大学函館校. キーワード:新型コロナウイルス感染症,ソーシャルスキル教育,援助要請に焦点を当てたカウンセリング, 中学生. 29.
(3) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). ループワークを伴う予防的・開発的教育相談は実. として,相手が表出した「行い」の背後にある「思. 施が困難となっていると言えよう。. い」を読解するスキルを学習するソーシャルスキ ル教育のプログラムを作成することとする。これ. 2.COVID-19に関する心理教育. らの測定には東海林・安達・高橋・三船(2012). 学校再開の時期と重なって,様々な心理教育の. の中学生用コミュニケーション基礎スキル尺度の. 資料が作成され公開されている。例えば国立成育. 下位尺度から,「他者理解スキル」と「意思伝達. 医療研究センター(2020)はCOVID-19影響下に. スキル」を用いる。. おけるメンタルヘルスに関する知識の提供を行う. 第二に,学校適応感である。ソーシャルスキル. 資料を作成,公開している。. 教育の効果を検証する研究において,ソーシャル. 学校の新しい生活様式の下では従来のソーシャ. スキルの学習と遂行の効果として学校適応感が検. ルスキル教育等は実施が難しいが,COVID-19の. 討されることが多い(例えば,本田・大島・新井,. 影響がいつまで続くか予測が難しく,これまでに. 2009)。本研究においても先行研究を踏まえて,. 研究・開発されてきたソーシャルスキル教育等を. 開発したソーシャルスキル教育が学校適応感に与. いつ頃に学校で実施できるかどうか分からないの. える効果を検証することとし,大久保(2005)の. が現状である。とはいえ,子どもが有する人間関. 青年用学校適応感尺度の下位尺度である「居心地. 係づくりへのニーズや学級集団に抱く不安等はこ. の良さの感覚」を用いる。. れまで同様にあり続けると思われる。. 第三に,スティグマである。スティグマとは「望. そこで本研究では,学校の新しい生活様式の下. ましくないとか汚らわしいとして他人の蔑視と不. で実施可能なソーシャルスキル教育を開発しその. 信を受けるような属性」と定義され(中根・吉岡・. 効果を検証する。. 中根,2010),差別や偏見と深く関わる概念である。 COVID-19の感染者に対しても差別や偏見が持た. 3.COVID-19による学校生活への影響. れ得ることとその予防が重要であることが指摘さ. COVID-19は健康管理等の生活習慣の変容を迫. れている(日本赤十字社,2020a)。そして,文部. るものであり,生徒の健康面に大きな影響を与え. 科学省(2020b)による「新型コロナウイルス感. ている。また,生徒の学習面,進路面への影響と. 染症に対応した小学校,中学校,高等学校及び特. しては,臨時休校中の学習機会の保障や進学・就. 別支援学校における教育活動の再開等に関するQ. 職を控えた生徒への影響が予想される。本研究で. &A」の問23「感染者,濃厚接触者等に対する偏. は心理面,社会面への影響の点から生徒の学校生. 見や差別について,どのように対応すればよい. 活の質の向上に資する実践研究を行う。. か。」では,適切な知識を基にした発達段階に応. COVID-19が心理面,社会面に与える影響を考. じた指導などを通じて偏見や差別が生じないよう. える上で,本研究では4つの心理変数を検討する。 配慮することが求められている。 第一に,ソーシャルスキルである。学校の新しい. スティグマには2種類あり,パブリックスティ. 生活様式の下でも相川・佐藤(2006)等が取り上. グマ(社会にあるスティグマ)を低減するための. げている従来のソーシャルスキル(上手な聴き方, 方法には,心理援助の専門家やメンタルヘルス あたたかい言葉かけ等)は重要であるが,基本的. サービスの提供者が主要なメディアなどに出てく. にマスクをしているために非言語面の読み取りが. る心理療法や患者の不正確な情報に異を唱えるこ. 難しくなっていると考えられる。つまり,COVID-. と,心理療法に関する正確な情報を教育すること,. 19影響下におけるソーシャルスキルとして,マス. 心の病などのある当事者と直接対面すること,の. クをしている相手の感情や考えをできるだけ読み. 3つがある(Corrigan & Penn,1999)。そして,. 取ること(読解)と,マスクをしていても自己の. セルフスティグマ(自分自身が受ける)を低減す. 感情や考えをよりよく伝えること(表出)が重要. る方法として,スティグマを上手く管理するため. となる。そこで本研究では,マスクをしている相. に必要なスキルを得るための認知行動的方略の有. 手の感情や考えを「思い」 , 相手の言動を「行い」. 効性が示されている(Vogel & Wade,2009)。 30.
(4) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発. 本研究はあくまでソーシャルスキルの向上を主な. ことが助けてもらいにくくなる可能性がある(本. 目的とした実践研究であり,これらの要素を扱わ. 田,2020)。そのような中,COVID-19と関わる. ないが,COVID-19に関するスティグマの低減は. かもしれない体調不良等の悩み,及びCOVID-19. 重要な課題であることに鑑み,スティグマの内容. と直接関連しない学校生活上の悩みを抱えたとき. を探索的に検討する。. に自ら相談しやすいことは学校の新しい生活様式. スティグマの測定方法は複数考えられる。まず, の下で重要なことであると言えよう。そこで本研 本実践実施時にはCOVID-19及びその感染者等に. 究では前述の「行い」の背後にある「思い」に共. 対するスティグマを直接測定する尺度は開発され. 感するソーシャルスキル教育を開発するにあたっ. ていなかった。次に,精神障害者に対する差別や. て,助けてほしいという意図である援助要請意図. 偏見の研究で用いられる社会的距離を尋ねる尺度. を「思い」としたプログラムを作成する。つまり,. (例えば,中根他,2010)を基にCOVID-19感染. ソーシャルスキル教育のリハーサル・フィード. 者の架空事例を示して回答を求める形式も考えら. バックの中で自身の援助要請意図を表出すること. れたが,親族等に感染者がいるかもしれない生徒. と,相手の援助要請意図を読解することの両方を. に「隣に引っ越してきて欲しくない」等の項目に. 反復練習することで,ソーシャルスキルの学習の. 回答を求めることは心理的な負担が高すぎると思. みでなく被援助志向性を高める(援助要請への期. われる。一方,スティグマと関連する心の病に関. 待感を高め抵抗感を低める)ことができると期待. する否定的認識尺度を作成した八鍬・水野 (2011). される。本研究ではその効果を本田・新井・石隈. では,尺度作成にあたって心の病が想定される架. (2011)の友人に対する被援助志向性尺度を用い. 空事例を提示し,どのような印象を持つかを自由. て検証する。. 記 述 法 で 尋 ね て い る。 本 研 究 で は 八 鍬・ 水 野. 以上より本研究ではCOVID-19下において実施. (2011)の方法を参考に,生徒に侵襲的になりす. 可能なソーシャルスキル教育として,援助要請意. ぎないように配慮して自由記述法によって. 図の表明・読解スキルトレーニングを開発するこ. COVID-19に対する印象を尋ね,得られた記述の. とを目的とする。さらに,COVID-19に対するス. 中からスティグマに関する内容を抽出し分析する. ティグマの内容を探索的に検討することを第二の. こととする。. 目的とする。. 第四に,援助要請である。援助要請とは「情動. 方 法. 的または行動的問題を解決する目的でメンタルヘ ルスサービスや他のフォーマルまたはインフォー マルなサポート資源に援助を求めること」と定義. 1.介入対象者. され(Srebnik, Cause, & Baydar, 1996) ,近年で. 北海道の公立中学校1校の全校生徒87名(1年. は援助要請に焦点を当てたカウンセリングとして. 生男子19名,女子10名,2年生男子11名,女子15. 研究知見の実践への応用が試みられている(本. 名,3年生男子17名,女子15名)が対象とされた。. 田・水野,2017) 。 精神疾患等の心の病に関する研究では,パブ. 2.介入時期. リックスティグマはセルフスティグマとして内面. 2020年6月~7月に実施された。2020年度は. 化され(Vogel, Bitman, Hammer, & Wade, 2013) , COVID-19の影響で4月はほぼ臨時休校,5月下 自分が当事者になった時に相談しにくくなると指. 旬頃より分散登校を開始し,6月から本格的な学. 摘されている。COVID-19の場合においても同様. 校再開となった。また,学校の新しい生活様式(文. に,援助要請の心理はスティグマと関連する可能. 部科学省,2020b)の下で,原則的に学校内でマ. 性がある。. スクを着用すること,生徒間にできるだけ2メー. また,基本的にマスクをして対人的な距離を保. トル(最低1メートル)の間隔を開けること,グ. つ学校生活においては,従来であれば困ったとき. ループワークは短時間に限定して実施すること,. に周囲の人(教師など)が気づいて助けてくれた. などが求められていた。 31.
(5) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 3.質問紙の構成と実施方法. ることについて,どのように考えますか? 『新. 学級担任に依頼し,学級ごとに集団で実施され. 型コロナウイルス感染症に感染することは, 』に. た。フェイスシートで学年は,性別,年齢につい. 続く文章を自由に考えて作り,文章を完成させて. て尋ねた後,以下の質問への回答を求めた。. ください。」であり,「新型コロナウイルス感染症. 質問紙のフェイスシートには上記の内容に加え. に感染することは, 。」という記述. て,倫理的配慮として質問すべてに対して拒否権. 欄を5つ設けた。. があること,拒否しても不利益がないこと,途中 で回答をやめてもよいこと,を明記した。学級担. 4.介入プログラムの概要. 任には調査の手続きを書いた資料を渡し,それに. 本研究ではマスクをした相手が表出した言動. 沿った説明をするように依頼した。具体的には,. (「行い」)からその背後にある意図や感情(「思い」),. フェイスシートを読みあげること,質問紙回収後. 特に助けてほしい気持ち(援助要請意図)を読解. は生徒の見ている前で封筒に入れて厳封すると事. する活動を考案した。. 前に説明することなどであった。なお,調査実施. 実践の環境として,学級単位(学年で1学級の. と結果の発表については調査対象校の学校長に許. ため,学年単位でもある)でソーシャルスキルを. 可を得た。. 実施し,机の位置が横一列に並ばないように交互. ⑴ ソーシャルスキル. にずらして教卓の方を向いて授業を受ける形態と. 東海林他(2012)の中学生用コミュニケーショ. した。そして,リハーサル・フィードバックの時. ン基礎スキル尺度の下位尺度から, 「他者理解ス. 間には近くの2人組で机・椅子を移動せずに体の. キル」 ( 「私は,相手のさりげない行動から相手の. みを相手に向ける(教卓を前とすると,一人は斜. 伝えたいことがわかります」など) , 「意思伝達ス. め後ろを向き,もう一人は斜め前を向く態勢にな. キル」 ( 「私は,相手に自分の気持ちをきちんと伝. る)ようにした。. えるのが得意です」など) ,を用いた。項目数を. インストラクションでは,まずCOVID-19に関. 考慮し, 「他者理解スキル」は4項目すべてを使. する心理教育として,COVID-19の影響で私たち. 用し, 「意思伝達スキル」は8項目の中から因子. の生活が大きく変わったこと,いつもと違う生活. 負荷量が高い方から4項目を使用した。本尺度は. の中ではいつもと違う気持ちや考えが出てくるこ. 3件法(1: 「はい」 , 2: 「どちらでもない」 , 3:. ともあることを伝えた。そして,マスクをしてい. 「いいえ」 )で回答が求められるが,他の使用し. ると表情が分かりにくくなり,他者の発言や行為. た尺度は質問項目に当てはまるほど数値が高くな. である「行い」の奥の考えや感情(「思い」)に気. るように設計されており,回答の誤りを減らすた. づきにくくなること,そのため「行い」のみで相. めに,3件法(1: 「いいえ」 ,2: 「どちらでも. 手を決めつけてしまいがちになること( 「こんな. ない」 ,3: 「はい」 )として回答を求めた。. ことをする人はきっと〇〇に違いない」等)がな. ⑵ 学校適応感. いか,振り返って考えてもらった。その上で,マ. 青年用学校への適応感尺度(大久保,2005)の. スクをしたり距離が離れていたりしても,身近な. 下位尺度である「居心地の良さの感覚」を使用し. 他者の「思い」を分かろうとすることが大切であ. た。11項目5件法( 「1:全然当てはまらない」. ることと,特に相手の感情や助けてほしい気持ち. ~「5:非常によく当てはまる」 )で回答が求め. に気づき思いやることを大切にしたいと伝え,本. られた。. 時のターゲット・スキルを「助けてほしい気持ち. ⑶ 被援助志向性. に共感するスキル」として紹介した。. 本田他(2011)の友人に対する被援助志向性尺. モデリングでは担任教師に教卓の前に立っても. 度を用いた。13項目4件法( 「1:当てはまらな. らい, 「怒り(イライラ)」, 「不安(ドキドキ)」, 「悲. い」~「4:当てはまる」 )で回答が求められた。. しみ(シクシク) 」の3つの感情のいずれか1つ. ⑷ COVID-19に関する態度. (「思い」)を込めて「大丈夫です」と言ってもらっ. 教示文は「新型コロナウイルス感染症に感染す. た(「行い」)。そして,生徒は3つの感情のどれだっ 32.
(6) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発. 結 果. たと思うかを挙手して回答し,教師から正答を伝 えた。このやり取りを2試行実施した後,今度は 「嬉しさ, 」 「感謝」 , 「安心」の3つの感情のいず. 欠損値のあるデータを除いた77名(1年生男子. れか1つ( 「思い」 )を込めて「大丈夫です」と発. 19名,女子7名,2年生男子9名,女子13名,3. 言することを2試行実施した。これらの合計4試. 年生男子17名,女子12名)を分析対象者とした。. 行により,同じ発言でも込められた感情が異なる こと,そして感情を読み取る際のポイント(マス. 1.分析に用いる尺度の信頼性. クで隠れていない部分を見る,声のトーンを意識. 本研究で使用した尺度は,先行研究において本. して聞く,等)を意識できるようにした。. 研究よりも多くの人数で因子分析が行われ,因子. リハーサル・フィードバックでは,あらかじめ. 構造と信頼性,妥当性が検討されている。そのた. 指定した2人組で役割を交代しながら練習(リ. め本研究ではこれらの尺度については先行研究で. ハーサル)と答え合わせ,感想の共有(フィード. 明らかにされた因子構造で下位尺度を構成した。. バック)を行った。発言内容は「心配しないで」 ,. また,信頼性は内的整合性の点から検討し,事前 調査のデータを用いてα 係数を算出した。. 「困ってないよ」 「大丈夫です」 , 「発言しない(無 , 言でうなずく) 」の4つであり, これらの「行い」. その結果,中学生用ソーシャルスキル尺度の「他 者理解スキル」はα =.82, 「意思伝達スキル」は. に込める「思い」として, 「一人でもう少し頑張 りたい」 , 「本当は助けてほしい」 , 「何の問題もな. α =.75であり,十分な値が得られた。青年用学 校適応感尺度の「居心地の良さの感覚」はα =.94. い」の3つから選択した。これらは援助要請意図 を適切に読み取ることを目的とした選択肢であっ. であった。友人に対する被援助志向性尺度の「被 た。この過程では適宜, 「正解してもしなくても, 援助に対する期待感」はα =.87, 「被援助に対す 伝えようと表現すること,分かろうと考えること る抵抗感」はα =.79であり,すべての尺度にお 自体が重要である」点を強調して伝えた。. いて十分な値が得られた。. 最後にCOVID-19の心理教育として, 「新型コ ロナウイルスの3つの顔を知ろう~負のスパイラ. 2.ソーシャルスキル教育の効果. ルを断ち切るために~」 (日本赤十字社,2020a) ,. ⑴ 各心理変数への効果. 「ウイルスの次にやってくるもの」 (日本赤十字社, 学年ごとの分析では各学年の人数が非常に小さ 2020b)を紹介し,COVID-19には3つの感染症. くなるため,本研究では学年を分けずに分析を. があると言われていること,差別をしてしまう心. 行った。. 理,差別をすることで自分が当事者になった時に. 各尺度得点を用いて対応のある t 検定を実施し. 脅威に感じやすくなることを伝えた。さらに,本. た(Table 1)。その結果,ソーシャルスキルの意. 田(2020)及び介入の内容と関連づけて説明し,. 思伝達スキルに有意な上昇が確認され( t (76)=2.07,. 差別をすることで自分が当事者になった時に差別. p<.05) ,他者理解スキル( t (76)=1.87, p<.10)と. されることを恐れ,相談しにくくなること,差別. 青年用学校適応感尺度の居心地の良さの感覚に有. を減らすためには本時で学習した「行い」の奥に. 意傾向( t (76)=1.88, p<.10)が確認され,いずれ. ある「思い」を分かろうとする(共感する)こと. の尺度も事前よりも事後において得点が向上する. が重要であることを伝えた。そして活動を振り返. 傾向が示された。. り,2人組で活動の感想を伝えた。. 被援助志向性の下位尺度である被援助に対する. 以上を50分の授業1回で実施し,ホームワーク. 期待感,被援助に対する抵抗感には有意な得点の. は設定しなかった。. 変化は認められなかった。. 5.倫理的配慮. 3.COVID-19に対するスティグマに関する探索 的検討. 本研究の実施に当たって,北海道教育大学研究 倫理委員会の承認を得た(北教大研倫2020062002) 。 33. 自由記述は事前調査において合計267件,事後.
(7) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 調査において合計237件得られた。これらの記述. 得られた。事前調査,事後調査ともにスティグマ. の中からスティグマに該当する記述を抽出した。. に関する記述内容を抽出し,類似した記述内容を. 抽出した記述内容をTable 2,Table 3に示した。. 分類した結果, 「被差別」, 「孤立」, 「拒絶」, 「陰口・. スティグマに関する記述は事前調査において合. 悪口」,「自己責任」の5つのカテゴリーに分類さ. 計34件(総記述数に占める割合は13.91%) ,事後. れた。. 調査では37件(総記述数に占める割合は15.61%) Table 1 各尺度得点を従属変数とした対応のあるt検定(N=77) 事 前. 事 後. t値 (df). 2.16. 2.25. 1.87†. (.63). (.58). (76). 1.90. 2.02. 2.07*. (.62). (.68). (76). 3.88. 4.01. 1.88†. (.86). (.84). (76). 2.83. 2,80. .60. (.80). (.82). (76). 1.91. 1.87. .72. (.66). (.73). ソーシャルスキル 他者理解スキル 意思伝達スキル 学校適応感 居心地の良さの感覚 被援助志向性 被援助に対する期待感 被援助に対する抵抗感. (76) †. p< .10, *p< .05.. Table 2 事前調査におけるCOVID-19に対するスティグマに関する記述内容の分類(全34件) カテゴリー. 件数. 割合. 記述内容の例. 被差別. 15. 35.71. 差別される,悪者みたいになる,周りの人達から変な目で見られる. 孤 立. 8. 19.05. 友人から距離を取られる,誰にも相手にされなくなる,治っても避けられる かもしれない. 拒 絶. 5. 11.90. いじめられる,周りから嫌われるかも. 陰口・悪口. 4. 9.52. 悪口を言われる,ウイルス扱いされる,うわさされる,菌扱いされそう. 自己責任. 2. 4.76. 自業自得,自分の責任だ. Table 3 事後調査におけるCOVID-19に対するスティグマに関する記述内容の分類(全37件) カテゴリー. 件数. 割合. 記述内容の例. 被差別. 21. 56.76. 差別される,相手から「汚い」と言われる,周りも差別を受ける. 孤 立. 8. 21.62. 避けられる,治っても周りの人達から距離を置かれそう. 拒 絶. 5. 13.51. 人間関係が悪くなる,相手から嫌われる,いじめられる. 陰口・悪口. 3. 8.11. 悪口を言われる,馬鹿にされる,何か言われる. 自己責任. 0. 0.00. -. 34.
(8) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発. 考 察. 学校適応感の一側面である居心地の良さの感覚 にも向上する傾向が見られた。この結果が得られ. 本研究の目的はCOVID-19下において実施可能. たのは,本実践が生徒の人間関係形成のニーズに. なソーシャルスキル教育として,援助要請意図の. 応えることができたためであると思われる。本田. 表明・読解スキルトレーニングを開発すること,. 他(2009)が生徒と教師を対象としたニーズ調査. そして,COVID-19に対するスティグマの内容を. を踏まえてソーシャルスキル教育で取り上げる内. 探索的に検討することの二つであった。分析の結. 容を決定し効果を示しているように,ソーシャル. 果,他者理解スキル,意思伝達スキルは向上する. スキル教育において参加者のニーズは効果に影響. 可能性が示され,さらに学級の居心地の良さの感. する要因である可能性が指摘できる。本研究実施. 覚が向上する可能性が明らかにされたものの,被. 年度の学校再開が6月冒頭であり,本研究は7月. 援助志向性には変容が見られなかった。また,. に実施されたため,1年生(新入生)にとっては. COVID-19に対する印象を自由記述で尋ねたとこ. 進学後1ヶ月,2,3年生は進級後1ヶ月という. ろ,スティグマに関する5つのカテゴリーが得ら. 時期である。また,学校再開後も従来の学校生活. れた。. を送ることが難しく,生徒同士の人間関係を深め ることに影響した可能性がある。このような時期 にソーシャルスキル教育を実施できたことにより,. 1.新型コロナウイルス感染症影響下でのソー. 測定はしていないものの,生徒の人間関係形成に. シャルスキル教育の効果 ソーシャルスキル教育の効果検証において,. 関するニーズにある程度応えることができたと思. ソーシャルスキルの測定はプログラムで取り上げ. われる。. た個別のスキルを測定する研究と(例えば,藤枝, 被援助志向性には向上が認められなかった。被 2011) ,複数回のプログラムを実施して総体とし. 援助志向性の変容を試みた先行研究においても,. てのソーシャルスキルを測定する研究(例えば,. 本研究と同様に被援助志向性の変容は十分には確. 小林・渡辺,2017),それらの両方を測定する研. 認されておらず(例えば,本田,2015;本田・新. 究(例えば,藤枝・相川,2001)に大別される。. 井,石隈,2020),被援助志向性を直接向上させ. 本研究は前者の測定方法を採用し,マスクをして. るような介入方法の開発が必要かもしれない。ま. いるために表情が読み取りにくくなることに着目. た,本研究では介入実施の約1週間後に質問紙調. し,相手の考えや気持ちの読解スキルと,マスク. 査を実施しており,学習したソーシャルスキルの. をしていても伝わりやすい表出スキルを練習した。 遂行による効果を検証するにはより長期間の間隔 本研究で使用したソーシャルスキル尺度はこれら. を開けた調査を行う方が効果を検証しやすいかも. の読解(他者理解スキル)と表出(意思伝達スキ. しれない。今後の援助要請に焦点を当てたカウン. ル)に直接関連するものであったために向上が見. セリング(本田・水野,2017)を構築する上で,. られやすかったと考えられる。ただし,他者理解. 被援助志向性の変容可能性を検討することも研究. スキルは有意傾向であった。. 上の課題と言えよう。. ソーシャルスキル教育においては参加者のニー ズを踏まえることで動機づけを高め得ると指摘さ. 2.中学生のCOVID-19に対するスティグマ. れている(本田他,2009) 。実施方法として担任. 本 研 究 に よ り, 我 が 国 の 中 学 生 が 抱 き 得 る. 教師と生徒の関係性を生かしたモデリングを実施. COVID-19に対するスティグマには「被差別」, 「孤. した点,リハーサルとフィードバックを短時間か. 立」,「拒絶」,「陰口・悪口」,「自己責任」という. つ2人組で実施するという制約の中で,クイズの. 5つのカテゴリーがあることが示された。しかし,. ように実施し答え合わせを行う点は,活動への楽. 本研究の知見ははあくまで自由記述法によって探. しさを高めることで参加への動機づけを高め,ひ. 索的に検討したに留まる点に留意が必要である。. いてはソーシャルスキルの向上に寄与したと思わ. 本研究では回答者への負担が相対的に低いと判断. れる。. し,COVID-19に対する印象を自由記述で求めた。 35.
(9) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). そのためスティグマを直接尋ねたわけではない。. める方法として有用かもしれない。. 自由記述であったためにスティグマを有している. そして,本研究では学校再開の約1ヶ月後とい. 生徒が記述しなかった可能性も考えられるため,. う時期に実施され,統制群との比較はないものの,. 今後スティグマの低減を主なねらいとする心理教. 介入前後でソーシャルスキルと学校適応感が向上. 育を実施する際には,本研究で得られた5つのカ. する傾向が確認された。この結果より,本研究で. テゴリーを参考にしつつ,COVID-19に対するス. 開発されたソーシャルスキル教育は新学期の人間. ティグマを測定する方法を検討する必要があろう。 関係づくりにも実施できるものであると言えよう。 なお,本研究ではCOVID-19の適切な知識の提 供とスティグマの低減を主な目的としたものでは. 5.本研究の限界と課題. なかった。今後の研究においてスティグマの低減. 第一に,本研究では援助要請意図の表出・読解. を目的とするためにはCorrigan & Penn(1999). スキルをターゲット・スキルとしたものの,これ. やVogel & Wade(2009)が示すようなスティグ. らを測定する尺度がなかったため,先行研究の中. マの低減方法を十分取り入れる必要があろう。. で信頼性と妥当性が支持され,かつ本研究で開発 したソーシャルスキル教育と関連すると考えられ. 3.学校の新しい生活様式の下でのソーシャルス. た尺度を使用した。今後は援助要請意図の表出・. キル教育の実施方法. 読解に関するソーシャルスキルを測定する方法を. 本研究により,学校の新しい生活様式の下で実. 吟味し,さらに効果を検証する必要があろう。. 施可能なソーシャルスキル教育の特徴がいくつか. 第二に,本研究では統制群を設定することがで. 示された。具体的には,実施環境として生徒間の. きなかった。COVID-19影響下という学校危機に. 座席を離し,移動せずに2人組の練習を行うこと, あり,どの学校においても統制群のためのデータ マスクをすること,グループワークを短時間で実. 収集が困難であったとはいえ,実践の効果を厳密. 施する必要があるため,リハーサルとフィード. に検証する上で統制群の設定は不可欠である。. バックを短いやり取りで反復する方法にしたこと, 第三に,本研究ではスティグマの測定方法に限 である。特にマスクを着用する点については,従. 界があった。今後は回答者への負担の少ない,. 来のソーシャルスキル教育のプログラムを実施す. COVID-19に関するスティグマを測定する方法を. るのではなく,マスクを着用することによるコ. 作成し研究に用いることが課題である。. ミュニケーション上の難しさを「行い」の背後に. 引用文献. ある「思い」の理解にあると捉え,マスクをして いるからこそ必要なソーシャルスキルを提案でき た点に意義がある。. 相川充・佐藤正二(編)(2006).実践!ソーシャ ルスキル教育 中学校 図書文化. 4.実践への提言. Corrigan, P., W. & Penn, D., L. (1999). Lessons from. 本研究で開発されたソーシャルスキル教育は学. social psychology on discrediting psychiatric. 校の新しい生活様式の下で実施可能な方法であり,. stigma. The American Psychologist, 54, 765-. その必要性は十分に高いと考えられる。さらに,. 776.. 援助要請意図の表出スキルと読解スキルという,. 藤枝静暁(2011) .夏休みと冬休みにおける児童. 援助要請に焦点を当てたカウンセリング(本田・. を対象とした家庭でのソーシャルスキル・ト. 水野,2017)においても新たな介入方法である。. レーニングの実践研究,44,313-322.. COVID-19と文脈は異なるが,学校には自殺予防. 藤枝静暁・相川充(2001).小学校における学級. 教育の中で「SOSの出し方に関する教育」が期待. 単位の社会的スキル訓練の効果に関する実験的. されており(厚生労働省,2017) ,生徒の助けて. 検討 教育心理学研究,49,371-381.. ほしい気持ちの表出を促すのみでなく,学級集団. 本田真大(2015) .高校生を対象とした集団社会. の中で援助要請意図を読解するスキルも同時に高. 的スキル訓練(ソーシャルスキル教育)が被援 36.
(10) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発. 000004520_3.pdf(2020年8月26日). 助志向性に与える影響 学校臨床心理学研究 (北海道教育大学大学院研究紀要) ,13,25-34.. 文部科学省(2020b) .新型コロナウイルス感染. 本田真大(2020) . 「助けて」が言える, 「助けて」. 症に対応した小学校,中学校,高等学校及び特. が届く社会をめざして―援助要請の心理学から. 別支援学校等における教育活動の再開等に関す. 創り出す未来― 金子書房note. るQ&A(令和2年4月23日時点). Retrieved from https://www.note.kanekoshobo.. Retrieved from https://www.mext.go.jp/. co.jp/n/n9dbc32b21f74?magazine_key=. content/20200423-mxt_kouhou01000006270_1.pdf (2020年8月26日). mcaf2e75df502 (2020年8月26日) 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2011) .中学. 中根允文・吉岡久美子・中根秀之(2010) .心の. 生の友人,教師,家族に対する被援助志向性尺. バリアフリーを目指して―日本人にとってのう. 度の作成 カウンセリング研究,44,254-263.. つ病,統合失調症― 勁草書房. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀(2020) .援助. 日本赤十字社(2020a).新型コロナウイルスの3. 要請の機能性の向上を目標とした行動的介入の. つの顔を知ろう!―負のスパイラルを断ち切る. 試み―援助要請スキルトレーニングの効果検証. ために― Retrieved from http://www.jrc.or.jp/activity/. ― 学校臨床心理学研究(北海道教育大学大学. saigai/news/200326_006124.html(2020年8月26. 院研究紀要) ,17,11-21.. 日). 本田真大・水野治久(2017) .援助要請に焦点を. 日本赤十字社(2020b) .ウイルスの次にやって. 当てたカウンセリングに関する理論的検討 カ. くるもの. ウンセリング研究,50,23-31. 本田真大・大島由之・新井邦二郎(2009) .不適. Retrieved from https://www.youtube.com/. 応状態にある中学生に対する学級単位の集団社. watch?v=rbNuikVDrN4&feature=emb_title. 会的スキル訓練の効果―ターゲット・スキルの. (2020年8月26日). .青年の学校への適応感とそ 自己評定,教師評定,仲間評定を用いた検討― 大久保智生(2005) の規定要因―青年用適応感尺度の作成と学校別. 教育心理学研究,57,336-348.. の検討― 教育心理学研究,53,307-319.. 小林朋子・渡辺弥生 (2017) .ソーシャルスキル・. 東 海 林 渉・ 安 達 知 郎・ 高 橋 恵 子・ 三 船 奈 緒 子. トレーニングが中学生のレジリエンスに与える 影響について 教育心理学研究,65,295-304.. (2012) .中学生用コミュニケーション基礎ス キル尺度の作成 教育心理学研究,60,137-152.. 国立成育医療研究センター(2020) .新型コロナ. Srebnik, D., Cause, A. M., & Baydar, N. (1996).. ウイルスと子どものストレスについて. Help-seeking pathways for children and. URL http://www.ncchd.go.jp/news/2020/. adolescents. Journal of Emotional and. 20200 410.html(2020年8月26日閲覧). Behavioral Disorders, 4, 210-220.. 厚生労働省(2017).自殺総合対策大綱―誰も自. Vogel, D., L., Bitman, R., L., Hammer, J., H., &. 殺に追い込まれることのない社会の実現を目指. Wade, N., G. (2013). Brief report: Is stigma. して― Retrieved from https://www.mhlw.go.jp/. internalized? The longitudinal Impact of public. file/06-Seisakujou hou-12200000Shakaiengoky. stigma on self-stigma. Journal of Counseling Psychology, 60, 311-316.. okushougaihokenfukushibu/0000172329.pdf. Vogel, D., L. & Wade, N., G. (2009) Stigma and. (2020年8月26日). help-seeking. The Psychologist, 22, 20-23.. 文部科学省(2020a) .学校における新型コロナウ イルス感染症に関する衛生管理マニュアル―. 八鍬真理子・水野治久(2011).大学生の情動コ. 「学校の新しい生活様式」―(2020.8.6 Ver.3). ンピテンス,心の病に関する否定的認識が大学. Retrieved from https://www.mext.go.jp/. 生のカウンセラーに対する援助不安に及ぼす影 響 カウンセリング研究,44,148-157.. content/ 20200806-mxt_kouhou0137.
(11) 学校臨床心理学研究 第18号(2020年度). 付 記 本研究にご協力頂きました先生方ならびに生徒 の皆様に深く感謝申し上げます。. 38.
(12) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)影響下での援助要請意図の表出・読解スキルトレーニングの開発. SUMMARY Development of Social Skills Training Targeted on Expression and Reading Skills for Help-Seeking Intention Under the Risk of COVID-19 Masahiro HONDA (Department of Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education) The purpose of this study is to develop social skills training targeted on expression and reading skills for help-seeking intention under the risk of COVID-19. Participants were 87 junior high school students. They were asked to complete a questionnaire. As the result, the skill of “behavioral expression” was promoted, but help-seeking preference was not significant. Furthermore, five categories about stigma of COVID-19 were exploratory revealed. The necessity of scales for stigma and intervention of reducing stigma was discussed.. Key words : COVID-19, social skills education, help-seeking focused counseling, junior high school student. 39.
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