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幼児期及び児童期前期における実行機能と敏捷性との関係

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幼児期及び児童期前期における実行機能と敏捷性との関係

2021

兵庫教育大学大学院

連合学校教育学研究科

学校教育実践学専攻

(兵庫教育大学)

青山 翔

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目 次

序章 幼児・児童の体力低下の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第 1 章 本研究の問題と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 第 1 節 調整力に関する先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 第 2 節 実行機能に関する先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第 3 節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 第 2 章 児童期前期における実行機能と敏捷性との関係(研究Ⅰ)・・・・・・・・・・12 第 1 節 背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 第 2 節 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 第 3 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 第 4 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 第 3 章 幼児期における実行機能が敏捷性と総合的運動能力に与える影響(研究Ⅱ)・・22 第 1 節 背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 第 2 節 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 第 3 節 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 第 4 節 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第 1 節 各章のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 第 2 節 本研究の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 第 3 節 本研究の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 第 4 節 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

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2 幼児・児童の体力低下は長期に渡って問題視されている。体力という言葉は研究者により その定義に多少の違いが見られる。猪飼(1969)によると,体力は身体的要素と精神的要素 を含み,身体的要素は行動体力と防衛体力に分類され,更に行動体力は体格や姿勢を含む形 態と筋力,敏捷性,平衡性,持久性,柔軟性を含む機能とに分類される。また,文部省(1969) は,調整力を行動体力に含まれる因子として位置づけており,敏捷性,平衡性,巧緻性を調 整力の下位因子としている。 日本の公立小学校において,1964 年以降から毎年継続して筋力,敏捷性,平衡性,巧緻 性,持久性,柔軟性等の体力調査が行われてきた(文部科学省,2016)。現行で行われてい る体力調査は新体力テストと呼ばれ,握力,上体起こし,長座体前屈,反復横跳び,20m シ ャトルラン,50m 走,立ち幅跳び,ソフトボール投げの下位検査で構成されている(文部科 学省,1998)。その体力調査結果の報告によると,1964 年から 1975 年までは,体格の向上 とともに体力が向上傾向を示していた。しかし,1990 年代以降では 20 年間にわたって体力 の低下傾向が続いている。また,体力低下の年次推移を詳しく分析すると,小学校低学年で の低下が全ての測定項目で伺える(春日,2009)。 幼児期の子どもを対象とした継続して毎年全国的に行われている体力に関する調査は実 施されていないが,全国規模の調査研究は MKS 幼児運動能力検査(松田, 1961)を使用して いくつか行われている。MKS 幼児運動能力検査は,4, 5, 6 歳の子どもを対象とし,25m 走, 立ち幅跳び,ボール投げ,体支持持続時間,両足連続跳び越し,捕球の 6 種目の下位検査で 構成されている。測定の結果は,全国標準によって各種目とも 1~5 点の 5 段階で評価され る(松田・近藤, 1965)。森ら(2010)は,この MKS 幼児運動能力検査による幼児期の子ど もの体力についての時代推移を概観している。その結果から,1986 年から約 10 年間で男児, 女児ともに体力の低下を示しており,1997 年以後は低い水準のままで推移していることを 報告している。3 歳から 5 歳までの幼児を対象に,走る,跳ぶ,投げる等の基本的な動きの 動作を得点化したうえで 1985 年と 2007 年の結果を比較した研究では,2007 年の 5 歳児の 動作得点の総合点は 1985 年の 3 歳児の動作得点の総合点に相当することが報告された(中 村ら,2011)。即ち,幼児期の子どもの運動能力は明らかに低下しているといえる。このよ うに,子どもの体力低下は幼児期の頃から既に始まっていることが分かる。 体力は,人間のあらゆる活動の源であり,健康な生活を営む上でも,また物事に取り組む 意欲や気力といった精神面においても深く関わっている(山下ら,2014)。子どもの体力低 下は,肥満児の増加に繋がり,将来的には,糖尿病,高血圧,動脈硬化等の生活習慣病の要

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3 因ともなりうることが示唆されており(山下ら,2014; 杉原・河邉,2018),社会全体とし て無視できない大きな問題である。 幼児の体力低下の問題に関わる先行的な検討・取り組みがいくつか行われている。杉原ら (2011)は,幼児の体力について MKS 幼児運動能力検査を使用して全国調査を実施した際, 4 歳から 6 歳の幼児を対象として,投げる,蹴る,登る等の全 37 の運動パターン観察項目 の評定点を合計し,その合計点で 4,5,6 歳児それぞれについて高得点群・中得点群・低得点 群の 3 群に分けて体力を比較している。その結果,どの年齢においても高得点群・中得点 群・低得点群の順で有意に MKS 幼児運動能力検査 6 種目の合計点が高かったことから,多 くの運動パターンを経験している幼児ほど体力が高いことを示唆している。また,運動指導 をしていない園,運動指導頻度が高い園,運動指導頻度が低い園の 3 群それぞれにおいて, MKS 幼児運動能力検査 6 種目の合計点を比較したところ,運動指導をしていない園,運動指 導頻度が低い園,運動指導頻度が高い園の順で有意に合計点が高かったことが報告されて いる(杉原ら,2010)。この報告結果が得られた要因として,杉原ら(2010)は,特定の運 動種目に限定された運動指導に偏ることにより,同じような運動ばかりが繰り返され,体力 の発達にほとんど貢献していない可能性や,運動が一斉指導の形で指導されているため,子 どもは説明を聞いたり順番を待ったりしている時間が長く,実際に体を動かしている時間 が短くなっている可能性をあげている。 吉田ら(2015)は,幼児自身によって運動遊びが決定される傾向が高い園に属する群,指 導者によって決定される傾向が高い園に属する群,両群の中間的な傾向を示す群を比較し たところ,幼児自身が運動遊びを決定する傾向の高い園に属する群において,出現する運動 パターンが多く,その出現頻度も高かったことを報告している。 これらの先行研究を総合すると,幼児の体力を高めるためには,幼児にできるだけ多様な 運動パターンを経験させることや,教師主導の運動指導よりも,できるだけ幼児の自己決定 を尊重し,遊びの中で運動を経験させることが重要であると理解できる。このような知見に 基づき,幼児期の子どもの体力向上を意図して,幼児期に習得が期待される基本的な動きに ついて示した幼児期運動指針(文部科学省,2012)が告示されている。その中では,幼児期 は生涯にわたって必要な多くの運動の基となる多様な動きを幅広く獲得する非常に大切な 時期であることから,園においては,多様な動きが経験できるように様々な遊びを取り入れ ることが推奨されている。また,遊びとしての運動は,大人が一方的に幼児にさせるのでは なく,幼児が自分たちの興味や関心に基づいて進んで行うことが大切であるため,幼児が自

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4 分達で考え,工夫し,挑戦できるような指導が求められると述べられている。 上記の先行的な検討・取り組みからも分かるように,日本の幼児教育では,子どもの自由 な活動である遊びによる運動が重視されてきた歴史がある。しかし,一方で,幼児教育の関 係者から,遊ばせているだけでは子どもの体力は向上しないという批判や,幼児の自発的な 活動に保育者が手を出してはいけないと捉えられ,運動指導や体育指導が敬遠される傾向 が続いていた(田中,2009; 杉原・河邉,2018)。幼児教育において,子どもの自主性を尊 重するあまり子どものその場の興味に左右され,保育者の意図や指導性の低い放任保育に なりがちで,こと運動指導においては教育的な効果が期待できないのではないかといった 疑問の声も上がっている(田中,2009)。幼児・児童の体力は 2010 年代に入ってからも依然 として低い水準にとどまっているのが現状であり(杉原・河邉,2018),子どもの体力と関 連する事柄について科学的な分析をふまえた更なる検討を行い,子どもの体力向上に関わ る意図性のある取り組みについて明らかにしていくことが期待されている。 体力と関連する事柄について,近年,欧米諸国を中心に,体力と高次の認知的制御及び行 動制御に必要とされる実行機能(Duncan, 1986)という認知機能との関連性が注目されてい るが,日本においてはほとんど研究されていない。体力と実行機能との関連性において検討 する場合には,認知的要求の高い複雑な体力と実行機能との関連性について検討すること が妥当であると言われている(Diamond, 2015; Van der Fels et al, 2015)。なぜならば, 複雑な運動を行う際には,その運動内容に合わせて個々の身体部分を調整することに苦労 し,認知的な努力が求められ(Best, 2010; Haibach et al., 2011),実行機能が要求され ると考えられるからである(Diamond, 2015)。認知的要求の高い複雑な体力としては敏捷 性,平衡性,巧緻性を下位因子とする調整力があげられる(文部省, 1969; 高井, 2007)。 調整力は,神経機能と密接な関係があり,複雑な運動を行ううえで重要な能力である(出村 ら,2011; Rigoli et al., 2012)。また,調整力は,就学前後の時期の発達が顕著であり, この時期の体力において最も重要な能力であると言われている(出村ら,2011)。そこで, 本研究では,就学前後の子どもを対象として,調整力と実行機能との関連性について科学的 な分析をふまえた検討を行うことに着眼点をおいた。

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6 第 1 節 調整力に関する先行研究 子どもにおける体力の重要な要素は何かという議論の中で,これまで多くの研究者が調 整力という体力の構成要素の重要性をあげている(出村ら,2011; 杉原・河邉,2018)。調 整力は,神経系の発達を基盤として,4~6 歳の幼児期から児童期前期にかけての発達が著 しく,この調整力を土台として後の専門的運動技能の発達に繋がっていくと言われている (高井,2007)。春日(2009)は,幼稚園の年少児を対象として,3 年間の体力の測定に基づ く縦断的推移を調査した結果,幼児期において,調整力の発達が著しいことを報告している。 調整力という言葉は,長い年月をかけて様々な研究・検討を経て定義されてきた(出村ら, 2011)。調整力は,下位因子として敏捷性,平衡性,巧緻性から成り,神経系が関係するこ とが想定されてきたが,この定義は明確に位置づけられなかった。調整力を,敏捷性,平衡 性,巧緻性に加えて予測性や緩衝性等の要素も含めて考えるなど,調整力は研究者ごとに捉 え方が異なる(高井,2008; 出村ら,2011)。本研究では,多くの研究者が調整力として認 めている敏捷性,平衡性,巧緻性の能力を含んだ体力の総称として捉える。調整力は,迅速 かつ正確でバランスのとれた運動反応をもたらす敏捷性,平衡性,巧緻性の能力を含む体力 (出村ら,2011; Rigoli et al., 2012)という定義に基づいて議論していく。敏捷性は, 空間内の体全体の位置を迅速に変化させる能力であり,平衡性は,静止または移動中に全身 の姿勢を維持する能力である(出村ら,2011; Singh, 2013)。巧緻性は,腕や脚など体の多 くの小さな動きを全体的な動きと調和させ,体を制御する能力である(出村ら,2011; Bernstein et al., 2014)。 調整力に関する国内外の先行研究を概観すると,調整力の測定課題は研究者により様々 であり一様ではなかった。しかしながら,幼児を対象とした調整力課題においては,ある程 度の共通性が見られるようであった。幼児の場合,敏捷性は反復横跳び,両足連続跳び越し の課題で測定され,平衡性は片足立ちや平均台歩行の課題で測定され,巧緻性は跳び越しく ぐり,ボール投げ課題で測定されてきた(出村ら,2011)。 就学前後の子どもの運動指導においては,調整力を高めることを中心に考えることが重 要であり,高い調整力を身につけておくことによって,将来様々なスポーツを行った際に, スムーズに上達して高いレベルに達するための基礎が形成される(杉原・河邉,2018)。し たがって,就学前後の子どもの体力を高めるためには,調整力の向上について検討すること が必要と考えられる。文部科学省(2005)も,初等教育段階の子どもたちにおいては,調整 力をいかに育むのかが重要であることから,調整力の習得を学びの中で位置づけていくこ

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7 とが求められるとしている。 しかし,調整力を含む幼児・児童の体力は依然として低い水準で推移しており(杉原・河 邉,2018),調整力を向上させるための具体的な指導方法については全くといってよいほど 確立されていないのが実態である(斎藤ら,1992)。したがって,調整力に影響を与えてい る具体的な要素について科学的な分析をふまえて明らかにしたうえで,調整力の発達を促 進する意図的な支援に関する知見が求められている。また,就学前後の子どもの調整力はそ の後の運動能力を予測すると言われている(Barnett et al., 2009)ものの,就学前後の子 どもの総合的な運動能力を予測する調整力の具体的な要素についても明確になっていない。 第 2 節 実行機能に関する先行研究 実行機能とは,高次の認知的制御及び行動制御に関わり,目標の達成を実現する能力であ る(Duncan, 1986)。実行機能に関する研究は,前頭葉損傷患者の症例から始まったと言わ れており,前頭葉損傷患者は,言語,記憶,知覚能力といった認知機能には障害が見られな いが,実行機能に関わる感情の制御や行動の計画及びその実行に困難を示す(森口,2008)。 その後,実行機能は健常な成人や子どもを対象として研究が行われてきた。Miyake et al (2000)は,実行機能の構成概念として,抑制機能,切り替え,更新の 3 要素が互いに相関し ながらも区別しうる重要な要素であることを報告している。この報告によると,抑制機能は 優勢的,自動的な反応を文脈に応じて抑制する能力であり,切り替えは注意の視点を切り替 え,次の課題のルールに対して認知的な構えをするために必要な能力であり,更新はワーキ ングメモリ(以下 WM と略す)に保持されている情報を更新し,確認する能力である。抑制 機能は,Stroop 課題, Go/Nogo 課題, フランカー課題等で測定され,切り替えは,Number-Letter 課題,DCCS 課題等で測定され,WM は視覚的 WM と聴覚的 WM に分類され, 視覚的 WM は手の動作課題等の形や絵を記憶することが要求される課題で測定され,聴覚的 WM は逆唱 課題で測定される。また,実行機能の概念を含んでおり,実行機能が社会的な適応行動とし てあらわれた能力はセルフレギュレーション(Self Regulation 以下 SR と略す)と呼ばれ ており(McClelland & Cameron, 2011),就学前後の子どもの SR は,HTKS 課題(McClelland et al., 2014)で測定される。

多くの研究が示すところによると,実行機能は 3 歳から 5 歳にかけて著しい発達を見せ る(Anderson et al., 2001; Anderson, 2002; Zelazo & Muller, 2002)。事実,この時期 を扱う研究は非常に多く,実行機能と関連する事柄として,特に,実行機能と学業成績との

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関連性について様々な議論がされてきた。例えば,幼児期の抑制機能課題の成績は,小学校 入学時の算数の成績を予測すること(Blair & Razza,2007),幼児期の実行機能が就学後の 算数や読み書きの能力に関する学力テストの結果と関連性があること(Neunschwander et al., 2012)が知られている。幼児期の実行機能が小学校入学後の読解力と関係しているこ と(Guajardo & Cartwright, 2016)や,抑制機能が小学校低学年の算数や言語の能力と関 係していることが明らかになっている(Blair, 2002)。また,実行機能の能力の低さは,子 どもたちが就学前期から小学校への複雑な環境の変化についていけず,様々な問題行動を とることに繋がると考えられている(Denham et al.,2003)。 これまで実行機能は学業成績との関連性ばかりが考慮されてきたが,近年,実行機能と体 力との関連性についても,欧米諸国を中心に少しずつ議論されてきている。特に,就学前後 の子どもを対象とした研究においては,体力の中でも調整力と実行機能との関連性につい て検討されている。Rosey et al(2010)は,3 歳から 4 歳の子どもを対象として,Stroop 課題及び Go/Nogo 課題を用いて抑制機能を測定し,片足立ち課題を用いて平衡性を測定し, ボール投げ課題を用いて巧緻性を測定した。その結果,抑制機能が高いほど平衡性や巧緻性 が高いことを報告している。Niederer et al (2011)は,平均年齢 5.2 歳の子どもを対象と して,提示された絵を記憶する課題を用いて視覚的 WM を測定し,両足連続跳び越しにより 敏捷性を測定し,平均台歩行の課題を用いて平衡性を測定した。その結果,視覚的 WM が高 いほど敏捷性や平衡性が高いことを明らかにした。Maurer & Roebers (2019)は,5 歳から 6 歳の子どもを対象に,フランカー課題を用いて抑制機能を測定し,提示された絵を記憶す る課題を用いて視覚的 WM を測定し,反復横跳びを用いて敏捷性を測定し,片足立ち課題を 用いて平衡性を測定した。その結果,抑制機能が高いほど敏捷性が高く,視覚的 WM が高い ほど敏捷性及び平衡性が高いことを報告している。また,4 歳から 11 歳の子どもを対象と して,逆唱課題を使用して聴覚的 WM を測定し,反復横跳びを使用して敏捷性を測定した結 果,聴覚的 WM の能力が高いほど,敏捷性の能力が高いことを示した研究も見られる(Davis et al., 2011)。 このように,就学前後の様々な時期の子どもを対象として,抑制機能と敏捷性,平衡性, 巧緻性との関連性,視覚的 WM と敏捷性及び平衡性との関連性,聴覚的 WM と敏捷性との関 連性等実行機能と調整力のそれぞれの一部の能力との関連性については明らかになってい る。しかし,実行機能が要求される調整力の具体的な要素については不明な点が多く(Van der Fels et al., 2015),実行機能及び調整力の発達が著しい幼児期から児童期前期にか

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9 けての子どもの実行機能の要素が調整力の要素に対してそれぞれどのように,またどの程 度影響を与えているのかということについては明確になっていない。調整力は神経系及び 筋骨格系の調和を含んだ複雑な運動を行ううえで重要な体力である(Rigoli et al., 2012)。 複雑な運動を行う際には,その運動内容に合わせて個々の身体各部を調整することに苦労 するために認知的な努力が必要となり(Best, 2010),とりわけ,実行機能が求められる (Diamond, 2015)。したがって,調整力に対して実行機能が影響を与えていることが想定さ れる。 第 3 節 本研究の目的 実行機能は高次の認知的制御及び行動制御に必要とされる能力である(Duncan, 1986)と いう定義に則り,本研究では,実行機能の中でも先行研究において調整力の一部の要素との 関連性が報告されてきた優勢的,自動的な反応を文脈に応じて抑制する能力である抑制機 能と, WM に保持されている情報を更新し,確認する能力である更新の能力(Miyake et al., 2000)から視覚的 WM と聴覚的 WM それぞれの能力を取り上げる。また,調整力は迅速かつ正 確でバランスのとれた運動反応をもたらす敏捷性,平衡性,巧緻性等の能力を含んだ体力 (出村ら,2011; Rigoli et al., 2012)という定義に則り,空間内の体全体の位置を迅速 に変化させる能力である敏捷性,静止中に全身の姿勢を維持する能力である平衡性(出村ら, 2011; Singh, 2013),腕や脚など体の多くの小さな動きを全体的な動きと調和させ,体を制 御する能力である巧緻性(出村ら,2011; Bernstein et al., 2014)の能力を取り上げる。 以上のことをふまえて,本研究では,実行機能と調整力の発達の臨界期が重なる幼児期及 び児童期前期の子どもを対象として,実行機能の要素が調整力の要素に対してどのように, またどの程度影響を与えているのかということについて,幼児期,児童期前期それぞれの発 達段階における影響の違いを含めて明らかにすることを目的とした。複雑な運動を行うう えで重要な体力である調整力に対して,自身の体を意図的に制御するために必要な抑制機 能や複雑な運動の内容を記憶するうえで求められる WM は重要な役割を担っていると予想さ れる。 本研究により,これまでの先行研究で明確にされていなかった幼児期から児童期前期に かけての子どもの調整力の要素に影響を与えている実行機能の具体的な要素について明ら かになることが期待される。また,就学前後の子どもの体力において重要視される調整力と 実行機能との関係性について科学的な分析に基づき明らかにすることで,子どもの体力の

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発達に対する意図的な支援についての新たな知見に繫がることが期待される。

本研究の目的を達成するために,まず,研究Ⅰでは,就学前後の子どもの調整力の中でも 特に取り上げられることが多かった敏捷性と実行機能の要素との関連性についての先行研 究(Davis et al., 2011; Niederer et al., 2011; Maurer & Roebers, 2019)をふまえて, 児童期前期の子どもを対象として,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM の 敏捷性に対する影響について明らかにする。敏捷性は,運動の順序を正しく記憶することや, 身体の動きを制御し,次の動きに素早く切り替える能力が要求される(Niederer et al., 2011)ことから,実行機能に含まれる抑制機能や WM が敏捷性に対して影響を与えているこ とが予想される。また,実行機能の概念を含んでおり,実行機能が社会的な適応行動として あらわれた能力であると定義される SR(McClelland & Cameron, 2011)は,自分自身の行 動を制御するうえで重要な役割を担っている(Blair & Diamond, 2008; McClelland & Cameron, 2011)。SR が実行機能の行動面の能力を表している(McClelland & Cameron, 2011) のであれば,身体の動きを制御するうで重要な敏捷性(Niederer et al., 2011)と SR は近 い概念であると考えられる。そこで,研究Ⅰでは,SR を検討対象として加え,敏捷性と SR との関連性の有無や,実行機能の敏捷性と SR に対する影響の違いについて明らかにするこ ととした。 幼児期,児童期前期それぞれの発達段階における実行機能の調整力に対する影響の違い を明らかにするために,研究Ⅱでは,研究Ⅰにおいて対象としていない幼児期の子どもを対 象とする。また,調整力の要素である敏捷性だけでなく,平衡性,巧緻性の能力を取り上げ, 就学前後の子どもの総合的な運動能力を予測する調整力の具体的な要素については明確に なっていないという先行研究から得られた課題をふまえて研究Ⅱに取り組む。研究Ⅱでは, 幼児期の 4,5 歳児を対象として,実行機能の要素である抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM が 調整力の要素である敏捷性,平衡性,巧緻性に対して,また,調整力の要素が担任教師の評 価による総合的運動能力に対してそれぞれどのように,またどの程度影響を与えているの かということについて明らかにすることを目的とした。 就学前後における子どもの調整力は,将来の運動能力や運動習慣に影響を与えているこ とが報告されており(Barnett et al., 2009),高い運動能力や運動習慣は,身体的,認 知的,情緒的,社会的等多くの健康上の利益に繋がることが示唆されている(Sallis et al., 2000; Yang et al., 2006)。

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整力の要素に影響を与えている実行機能の具体的な要素について明らかにすることで,将 来の健康上の利益に繋がる子どもの調整力を高めるための認知的なアプローチについて重 要な知見が得られることが期待される。また,実行機能の運動面への貢献に関わる実行機 能の新たな側面への重要性を強調する知見が得られることが期待される。

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第 2 章 児童期前期における実行機能と敏捷性との関係

(研究Ⅰ)

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13 第 1 節 背景と目的 本章で取り上げる研究Ⅰでは,序章及び第 1 章の内容をふまえて,実行機能,敏捷性,セ ルフレギュレーション(Self Regulation 以下 SR と略す)それぞれの能力の関連性につい て検討を行うことに着眼点をおいた。 幼児期及び児童期の子どもの体力低下とともに,体力の高い子どもと低い子どもの二極 化が進行しているという問題が報告されている(平川・高野,2008)。幼児期の体力差の縦 断的推移について検討した研究において,体力の二極化は既に幼児期の頃から始まってい ることが指摘されている(春日ら,2009)。これまで,就学前後の子どもの体力において特 に重要な要素は何かということが議論され,体力向上を意図した取り組みについて検討さ れてきたが,幼児・児童の体力は依然として低い水準にとどまっているのが現状である(杉 原・河邉,2018)。子どもの体力と関連する事柄について科学的な分析をふまえて明らかに していくことが期待されている。 近年,欧米諸国を中心に,実行機能と認知的要求の高い複雑な運動を行ううえで求められ る体力との関連性について検討する研究が行われている(Diamond, 2015; Van der Fels et al, 2015)。その中でも,就学前後の子どもを対象とした研究では,調整力という体力の構 成要素と実行機能との関連性についての報告がいくつか見られる。調整力は就学前後の発 達が顕著であり,敏捷性,平衡性,巧緻性を含んだ複雑な運動を行ううえで重要な運動能力 である(出村ら,2011; Rigoli et al., 2012)。複雑な運動を行う場合には,自身の体をコ ントロールする必要があり,認知的な努力が求められ(Haibach et al., 2011),特に実行 機能が要求される(Diamond, 2015)。したがって,調整力に対して実行機能が影響を与えて いることが考えられる。実際に,調整力と実行機能それぞれの一部の能力間の有意な相関関 係を示した研究がいくつか行われている(Davis et al., 2011; Niederer et al., 2011; Valter et al., 2016; Maurer & Roebers, 2019)。しかし,実行機能が要求される調整力 の具体的な要素についてはよく分かっておらず(Van del Fels et al., 2015),就学前後 の子どもの実行機能の要素が調整力の要素に対してそれぞれどのように,またどの程度影 響を与えているのかということについては明確になっていない。 そこで,これまでの先行研究において,実行機能の要素と調整力の中でも敏捷性との関連 性について報告されることが多かったことから,本研究では,実行機能の要素が敏捷性に対 してどの程度影響を与えているのかということについて検討を行うことに着目することと した。敏捷性は複雑な神経過程を伴い,動きとして現れてくる運動を調整し統合する調整力

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14 という体力の要素に含まれている(宮口・出村,2012; 加納,2016)。また,敏捷性は,周 囲の状況に応じて,素早く適切に体を動かす,自分が意図する体の動きを出来るだけ速く実 行するうえで重要な体力の要素である(宮口・出村,2012)。Niederer et al(2011)は,敏 捷性において,運動の順序を正しく記憶することや,身体の動きを制御し,次の動きに素早 く切り替える能力が要求されるということを述べている。以上のことから,実行機能に含ま れる抑制機能や WM が敏捷性に対して影響を与えていることが予想される。 また,実行機能の概念を含み,実行機能が社会的な適応行動としてあらわれた能力である SR(McClelland & Cameron, 2011)は,自分自身の行動制御において重要な能力であり(Blair & Diamond, 2008; McClelland & Cameron, 2011 ), 実 行 機 能 の 行 動 面 の 能 力 を 示 す (McClelland & Cameron, 2011)。敏捷性は運動制御において重要な役割を果たすことが知 られている(Niederer et al., 2011)ことから敏捷性と SR は類似性が高い能力であると 想定される。しかし,これまで,敏捷性と SR との関連性や,実行機能の敏捷性と SR に対す る影響の違いについて検討した研究は見られない。 そこで,本研究では,実行機能及び敏捷性の発達が著しい児童期前期の小学 1 年生の 6 歳児を対象として,実行機能の要素である抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM が敏捷性と SR に対してそれぞれどのように,そしてどの程度影響を与えているのかということについて 明らかにすることを目的とした。本研究の目的を達成するために,先行研究をもとに考え られる抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM が敏捷性及び SR に対して影響を与えているとする 仮説モデル(図 1)を想定し,その仮説モデルの検討を行う。 本研究により,児童期前期の子どもにおいて,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM, 聴覚的 WM の敏捷性や SR に対する影響について明らかになることで,児童期前期の子ども の実行機能と体力との関連性について科学的な分析をふまえたうえでの新たな知見が得ら れることが期待される。また,就学前後の時期の子どもの調整力はその後の高い運動能力や 運動習慣の頻度の高さを予測することが報告されており(Barnett et al., 2009),調整力 に含まれる敏捷性に影響を与えている実行機能の具体的な要素について詳しく検討するこ との意義は大きいと考えられる。

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15 第 2 節 方法 対象者 A 県 B 小学校の 1 年生 53 名(男児 30 名,女児 23 名, 平均月齢 81.75 か月,標準偏差 3.61, 範囲 76-87 カ月)を対象とした。 倫理的配慮 55 名の保護者に,本研究の内容についての説明と本研究の参加に同意しない場合に不利 益にはならないことを記した文書を渡して本研究への参加を依頼した。53 名(96%)の保 護者が本研究への参加に同意し,署名した同意書を提出した。 手続き 保護者の同意が得られた 53 名の児童に対して,実行機能課題,SR 課題,敏捷性課題を 小学校の一室で,訓練された大学院生により個別に実施した。課題を行う様子はビデオで 記録された。各課題のセッションは 1 回のみであった。一人当たりの所要時間は約 20 分 であった。 評価項目 抑制機能 視覚的 WM 聴覚的 WM SR 図 1 実行機能が SR 及び敏捷性に対して影響を与えているとする仮説モデル 敏捷性

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抑制機能

抑制機能を測定するために,フルーツ・ベジタブルストループ課題(Archibald, & Kerns, 1999;Loher, & Roebers, 2013)を用いた。この課題は 5 歳〜8 歳の年齢において 抑制機能の測定課題として実施されているため本研究でも実施した。この課題において, 対象者は不一致の色で表示された果物と野菜を見て,元の正しい色名を呼称するように指 示された。対象者は表示された色名を呼称することを抑制し,代わりに元の正しい色を思 い出して出来るだけ早く呼称する必要があった。したがって,この課題は抑制機能が求め られる。この課題では反応時間をもとに計算された得点が低いほど,より高い抑制機能を 表している。 視覚的 WM

視覚的 WM の能力を測定する課題として Kaufman Assessment Battery for Children- 第 2 版(KABC-II)(Kaufman & Kaufman, 2004)の手の動作課題を使用した。この課題は 2.5 歳〜18 歳の年齢において視覚的 WM の測定課題として実施されているため本研究でも実施 した。対象者は,評価者の手の動きの組み合わせを順序通りに覚えて,正確に繰り返すよう に指示された。この課題では空間情報を保持し,保存された情報を使用して迅速に応答する 必要があるため,視覚的 WM が要求される。対象者が覚える組み合わせについて,始めは 2 つであるが徐々に増えて難易度が高くなっていき,最終的には 7 つの組み合わせを覚える 必要があった。課題を達成する度に 1 点を加算し,3 つの課題を連続で間違えた場合に課題 を終了した。得点の幅は 0 点から 23 点であった。得点が高いほど,視覚的 WM の能力の高さ を反映している。 聴覚的 WM

聴覚的 WM の能力を測定する課題として Wechsler Intelligence Scale for Children-第 4 版(WISC-Ⅳ)の逆唱課題(Wechsler, 2003)を使用した。この課題は 5 歳〜16 歳の年齢 において聴覚的 WM の測定課題として実施されているため本研究でも実施した。対象者は評 価者に言われた 2 桁から 8 桁の数字を覚えて逆の順序で呼称するように指示された。よっ て,この課題では聴覚的 WM が求められると推察される。対象者は,8 つの項目のそれぞれ について 2 回の試行を許可された。対象者が各項目の両方のテストに失敗すると,テストを 終了した。1 つの項目の両方のトライアルが正しく繰り返された場合,子どもに 2 点を与え,

(19)

17 1 つのトライアルだけが正しかった場合は 1 点が与えられた。最初の試行から徐々に桁数が 増えて難易度が上がっていった。得点の幅は 0 点から 16 点であった。得点が高いほど,聴 覚的 WM の能力の高さを反映している。 SR 子どもの行動面の SR を測定するために,Head-Toes-Knees-Shoulders(HTKS)課題 (McClelland & Cameron, 2011)を用いた。この課題は 4 歳~8 歳の年齢において SR の測 定として行われていることから本研究でも実施した。この課題では,4 つの動作ルールと 3 つのセクションで構成されている。実行機能の行動面の測定として,注意,WM,抑制機 能,ルールが替わることで認知的柔軟性が求められる。点数は,指示通りにできたら 2 点,自分で間違いに気づき訂正したら 1 点,出来なかった場合は 0 点で点数化し,得点範 囲は 0~60 点である。 敏捷性課題 身体運動の移動や方向転換をすばやく行う能力である敏捷性を測定する代表的な指標と して反復横跳びが広く用いられている(出村ら,2011; 園田ら,2016)ことから,本研究 では敏捷性課題として新体力テスト実施要項(6~11 歳対象)より,反復横跳びを用いた (文部科学省,1998)。 この課題は 6 歳~11 歳の年齢において敏捷性の測定課題として実 施されているため本研究でも適切と考えた。対象者は床の上に引かれた中央ラインをまた いで立ち,「始め」の合図で右側のラインを越すか,踏むまでサイドステップを行い,次 に中央ラインにもどり,さらに左側のラインを越すか触れるまでサイドステップする。こ の運動を 20 秒間繰り返し,それぞれのラインを通過するごとに 1 点を加算する。この課 題では,体の位置または移動方向を出来るだけ素早く変更する必要があることから敏捷性 が求められる。得点が高いほど敏捷性の能力が高いことを示す。 統計分析 統計検定は両側検定であり,0.05 のp値を採用した1)データ分析は,IBM SPSS Statistics

for Windows バージョン 25(IBM Corporation, Armonk, New York, USA)を使用した。全て のデータは,標準偏差を伴う平均値として表示した。課題間の相関係数を算出し,先行研究 の知見から得られた仮説モデル(図 1)を評価するために,最尤法による共分散構造分析を

(20)

18 行った。具体的には,抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM から SR 及び敏捷性への直接パスが 含まれていた。 第 3 節 結果 各課題の記述統計量を表 1 に示した。 また,課題間の相関係数を算出し,表 2 に示した。尚,抑制機能課題は反応時間を測定し ており,反応時間が短いほど抑制機能が高くなる。 抑制機能課題と視覚的 WM 課題,聴覚的 WM 課題,SR 課題,敏捷性課題との間に有意な相 関が見られ,視覚的 WM 課題と聴覚的 WM 課題,SR 課題,敏捷性課題との間に有意な相関が 見られ,聴覚的 WM 課題と SR 課題との間に有意な相関が見られ,聴覚的 WM 課題と敏捷性と の間の相関に有意傾向が見られた。尚,SR と敏捷性との間に有意な相関は見られなかった。

抑制機能課題

53

28.23

10.73

7-65

視覚的WM課題

53

9.32

2.94

2-16

聴覚的WM課題

53

5.36

1.3

0-7

SR課題

53

47.57

7.24

25-59

敏捷性課題

53

26.72

4.22

19-37

標準偏差

範囲

人数

課題

平均値

表1 各課題の記述統計量

1. 抑制機能課題

2. 視覚的WM課題

.394** ―

3. 聴覚的WM課題

.331* .406**

4. SR 課題

.324* .304* .547***

5. 敏捷性課題

.343* .353* .246.099

1 2 3 4 5

p < .10,*

p

< .05, **

p

< .01, ***

p

< .001 表 2 全体の課題間の相関係数

(21)

19

X

2

(8)= 6.958,

p

= .541

GFI

= .958

CFI

= 1.000

RMSEA

= .000

抑制機能

視覚的

WM

聴覚的

WM

SR

敏捷性

さらに,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM, 聴覚的 WM が,敏捷性及び SR に影響 を与えているとする仮説モデル(図 1)の適合性を検討するために,最尤法による共分散構 造分析を行った。仮説モデルの各指標を算出したところ,適合度は低く,モデルとして採用 するには適切とはいえなかった。したがって,不要なパスを消しながら,複数のモデルを検 討した。その結果,それらのモデルの中で最も適合度がよかったものを図 2 に示す。 図 2 に示すモデルの適合度の結果は,X2(8)= 6.958,p = .541 ,GFI = .958, CFI = 1.000, RMSEA = .000 であり,データとモデルの適合は基準を満たしていると判断した。 その結果,抑制機能と視覚的 WM(r = .39, p < .01),視覚的 WM と聴覚的 WM(r = .41, p < .01),抑制機能と聴覚的 WM(r = .33, p < .05)との間に有意な相関が見られた。ま た,聴覚的 WM から SR へのパス(β = .55, p < .001)が有意となり,視覚的 WM から敏捷 図 2 実行機能の各要素が SR 及び敏捷性に対して及ぼす影響 ※ 値は標準偏回帰係数を示す。パスを引いていない箇所は標準偏回帰係数が有意でなかったことを示す。 †p < .10, *p < .05,**p < .01, ***p < .001

(22)

20 性へのパス(β = .29, p < .05)が有意であり,抑制機能から敏捷性へのパス(β = .25, p < .10)が有意傾向を示した。即ち,聴覚的 WM が高いほど SR が高くなり,抑制機能,視覚 的 WM が高いほど敏捷性が高くなることが明らかになった。 第 4 節 考察 本研究では,仮説モデル(図 1)の検討を行うことにより,実行機能に含まれる抑制機能, 視覚的 WM,聴覚的 WM が敏捷性及び SR に対してそれぞれどの程度影響を与えているのかと いうことについて明らかにすることを目的とした。 敏捷性と SR は類似性が高い能力であると想定されたことから,敏捷性に SR を加えて実 行機能の敏捷性及び SR への影響について検討を行った。課題間の相関係数を算出した結果 から,SR と敏捷性との間に有意な相関は見られなかった。また,仮説モデル(図 1)の検討 を行った結果,実行機能の中でも抑制機能及び視覚的 WM が敏捷性に影響を与えていたのに 対して聴覚的 WM のみが SR に影響を与えていた。これらの結果から,敏捷性と SR は別の能 力であり,運動制御において重要な役割を果たす敏捷性には実行機能に含まれる抑制機能 及び視覚的 WM が求められ,自分自身の行動制御において重要な能力である SR には実行機 能に含まれる聴覚的 WM が求められることが明らかになった。 敏捷性では,単純な移動速度だけでなく,移動方向を正確に変更するスピードが要求さ れる。また,優位な運動を抑制し,反対方向に体を移動させるために注意を素早く切り替 えることが求められる。一方,抑制機能は,当該の状況で優位な行動や思考を抑制する能 力である(森口,2008)ことから,抑制機能が敏捷性に対して影響を与えていたと考えら れる。 聴覚的 WM から敏捷性に対する影響については見られなかったが,視覚的 WM が敏捷性を 予測することが明らかになった。敏捷性は,移動速度だけでなく,敏捷性が求められる運 動課題についての理解や記憶が求められる(Niederer et al., 2011)。また,敏捷性が求 められる課題においては出来るだけ素早く移動することが求められることから次の動きに ついて頭の中でイメージしながら動く必要がある。よって,視覚的 WM が敏捷性に影響を 与えていたのではないかと考えられる。 抑制機能と視覚的 WM,抑制機能と聴覚的 WM,視覚的 WM と聴覚的 WM それぞれの間に有意 な相関が見られた。また,実行機能の構成要素の中でも聴覚的 WM のみが SR を予測したこ とが明らかになった。実行機能の要素間には有意な相関が見られることが Miyake et

(23)

21 al(2000)により報告されている。SR が求められる課題においては,口頭による説明により 課題内容を正確に把握する必要があることから,聴覚的 WM が SR を予測したと考えられる。 本研究により,敏捷性は SR とは異なる能力であり,実行機能に含まれる抑制機能や視覚 的 WM は運動制御を必要とする敏捷性に対して影響を与えていることが明らかになった。こ のことは,子どもの実行機能という認知面と複雑な運動を行う上で重要な役割を担ってい る調整力に含まれる敏捷性という体力との関連性について科学的な分析をふまえたうえで の新たな知見に繋がったと考えられる。 本研究では,実行機能の調整力の中でも敏捷性に対する影響についてのみ検討を行った。 今後の課題として,実行機能の要素が敏捷性だけでなく他の調整力の要素に対してどのよ うに,またどの程度影響を与えているのかということについて明らかにすることがあげら れる。また,本研究では,児童期前期の小学 1 年生の 6 歳児のみを対象としたため,同じく 実行機能や調整力の発達が著しいと言われている幼児期の子どもを対象として,それぞれ の発達段階における影響の違いを含めて明らかにしていくことが求められる。 1) 統計検定における有意水準は 5%未満とし,10%未満を有意傾向とした。

(24)

22

第 3 章 幼児期における実行機能が敏捷性と総合的運動能力に与える影響

(研究Ⅱ)

(25)

23 第 1 節 背景と目的 第 2 章の研究Ⅰでは,児童期前期の小学 1 年生の 6 歳児を対象として,実行機能に含まれ る抑制機能及び視覚的 WM が敏捷性に対して影響を与えており,実行機能に含まれる聴覚的 ワーキングメモリ(以下 WM と略す)がセルフレギュレーション(Self Regulation 以下 SR と略す)に対して影響を与えていることが明らかになった。その際,実行機能の要素が敏捷 性だけでなく他の調整力の要素に対してどの程度影響を与えているのかについて明らかに することや,実行機能や調整力の発達が著しい幼児期の子どもを対象として検討を行うこ とが今後の課題としてあげられた。 研究Ⅰをふまえて,研究Ⅱでは,実行機能及び調整力の発達が著しい幼児期の子どもを対 象として,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM の調整力に含まれる敏捷性, 平衡性,巧緻性に対する影響について着目した。また,研究Ⅱでは,調整力に含まれる敏捷 性,平衡性,巧緻性の担任教師の評価による総合的運動能力に対する影響についても着目し た。 就学前後の子どもを対象として,実行機能と調整力のそれぞれの一部の能力との関連性に ついては明らかになっているが,実行機能が要求される調整力の具体的な要素については 不明な点が多く(Van der Fels et al., 2015),幼児期における実行機能の要素が調整力 の要素に与える影響については明確になっていない。調整力は複雑な運動を行ううえで重 要な体力であり(Rigoli et al., 2012),複雑な運動を行う際には,その運動内容に合わせ て個々の身体各部を調整することに苦労することから認知的な努力が求められ( Best, 2010),とりわけ,実行機能が要求される(Diamond, 2015)。したがって,実行機能の要素 が調整力の要素に対して影響を与えていることが予想される。また,幼児期の子どもの調整 力は,その子どもの運動能力全体をあらわす重要な指標であり,その後の運動能力の高さや 運動習慣を予測することが報告されている(Barnett et al., 2009)。しかし,幼児期の子 どもの総合的な運動能力に影響を与える調整力の具体的な要素についてはよく分かってい ない。 そこで本研究では,幼児期の 4, 5 歳児において,実行機能の抑制機能,視覚的 WM,聴覚 的 WM が調整力の敏捷性,平衡性,巧緻性及び総合的な運動能力にどのように,そしてどの 程度影響を与えているのかについて,包括的に明らかにすることを目的とした。本研究の目 的を達成するために,先行研究をもとに想定される抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM が敏捷 性,平衡性,巧緻性を介して総合的運動能力に対して影響を与えているとする仮説モデル

(26)

24 総合的運動能力 敏捷性 平衡性 巧緻性 e1 e4 e3 e2 (図 3)を設定し,その検討を行うこととした。 本研究により,幼児期の子どもにおいて,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM,聴覚 的 WM の調整力に含まれる敏捷性,平衡性,巧緻性及び総合的運動能力に対する影響につい て明らかになることで,幼児期の子どもの実行機能と体力との関連性について科学的な分 析をふまえたうえでの新たな知見が得られることが期待される。また,総合的な運動能力に 繋がる体力の構成要素である調整力を高めるための認知的なアプローチについて考えるう えで重要な示唆が得られることが期待される。 第 2 節 方法 対象者 対象者は 4 歳児及び 5 歳児 43 名の幼児期の子どもで,月齢の範囲は 54~78 か月(M = 66.4, SD = 7.7)で,25 名が男児,18 名が女児であった。対象者は全員日本人であり,日 本語を話し,実行機能課題及び調整力課題の内容を理解するのに十分な言語能力が発達し ていた。対象者の家族のほとんどは都市部ではない田舎に住んでいた。対象者の両親のほと んどは結婚し,一緒に暮らしており,収入は一般的な中流階級であった。対象者の母親は高 校と大学の間で平均レベルの教育を受けていた。全ての対象者は,日本の幼稚園に関する省 のカリキュラムガイドラインに従った教育を受けていた。 図 3 実行機能が調整力を介して総合的運動能力に影響を与えているとする仮説モデル

(27)

25 倫理的配慮 49 人の子どもの親に,本研究の参加に同意しない場合は不利益にはならないことを明記 した書面を渡して本研究への参加を要請した。 全ての親(100%)が,子どもたちの本研究 への参加に同意し,署名済みの同意書を提出した。 手続き 本研究の調査当日に 6 人の子どもが欠席したため,最終的に 43 人の子どもが本研究に参 加した。幼稚園の一室の静かな場所で,子どもは抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM,敏捷性, 平衡性,巧緻性の課題を個別に訓練を受けた大学院生が評価者となり実施した。課題を実施 した所要時間は約 15 分で,各課題のセッションは 1 回のみであった。1 日の間に全ての参 加者の測定を行い,各課題遂行の様子をビデオに記録した。実行機能と調整力課題を行った 同時期に,幼稚園の担任教師は,子どもの運動習慣と運動の活動レベルの定期的な観察に基 づいて,子どもたちの総合的な運動能力を評価した。 評価項目 抑制機能 抑制機能の能力を測定する課題としてフルーツ・ベジタブルストループ課題(Archibald & Kerns, 1999; Loher & Roebers, 2013)を使用した。この課題は 5 歳〜8 歳の年齢におい て抑制機能の測定課題として実施されているため本研究でも適切と考えた。この課題にお いて,対象者は不一致の色で表示された果物と野菜を見て,元の正しい色名を呼称するよう に指示された。対象者は表示された色名を呼称することを抑制し,代わりに元の正しい色を 思い出して出来るだけ早く答える必要があった。したがって,この課題は抑制機能が求めら れる。この課題では反応時間をもとに計算された得点が低いほど,より高い抑制機能を反映 している。 視覚的 WM

視覚的 WM の能力を測定する課題として Kaufman Assessment Battery for Children- 第 2 版(KABC-II)(Kaufman & Kaufman, 2004)の手の動作課題を使用した。この課題は 2.5 歳〜18 歳の年齢において視覚的 WM の測定課題として実施されているため本研究でも適切 と考えた。対象者は,評価者の手の動きの組み合わせを順序通りに覚えて,正確に繰り返す

(28)

26 ように指示された。この課題では空間情報を保持し,保存された情報を使用して迅速に応答 する必要があるため,視覚的 WM が求められる。対象者が覚える組み合わせについて,始め は 2 つであるが徐々に増えて難易度が高くなっていき,最終的には 7 つの組み合わせを覚 える必要があった。課題を達成する度に 1 点を加算し,3 つの課題を連続で間違えた場合に 課題を終了した。得点の幅は 0 点から 23 点であった。得点が高いほど,視覚的 WM の能力が 高いことを示す。 聴覚的 WM

聴覚的 WM の能力を測定する課題として Wechsler Intelligence Scale for Children-第 4 版(WISC-Ⅳ)の逆唱課題(Wechsler, 2003)を使用した。この課題は 5 歳〜16 歳 11 か月 の年齢において聴覚的 WM の測定課題として実施されているため本研究でも適切と考えた。 対象者は評価者に言われた 2 桁から 8 桁の数字を覚えて逆の順序で呼称するように指示さ れた。よって,この課題では聴覚的 WM が求められると考えられる。対象者は,8 つの項目 のそれぞれについて 2 回の試行を許可された。対象者が各項目の両方のテストに失敗する と,テストを終了した。1 つの項目の両方のトライアルが正しく繰り返された場合,子ども に 2 点を与え,1 つのトライアルだけが正しかった場合は 1 点が与えられた。最初の試行か ら徐々に桁数が増えて難易度が上がっていった。得点の幅は 0 点から 16 点であった。得点 が高いほど,聴覚的 WM の能力が高いことを示す。 敏捷性 敏捷性を測定する課題として一本ラインによる反復横跳び課題(出村ら,2011; Goshi et al., 1999; Goshi et al., 2000)を実施した。この課題は 3.5 歳から 6.5 歳の年齢におい て敏捷性の測定課題として実施されているため本研究でも適切と考えた。対象者は評価者 の方を向いて引かれた一本のラインの片側に立った。スタートの合図で,子どもは両足を揃 えて 5 秒間サイドホップの繰り返しを行った。評価者は,対象者がラインを飛び越えるたび にカウントした。往復した時点で1ポイントとカウンとした。回数が多いほど,敏捷性が高 いことを示している。この課題では,体の位置または移動方向を出来るだけ素早く変更する 必要があることから敏捷性が求められる。得点が高いほど敏捷性の能力が高いことを示す。 平衡性

(29)

27 平衡性を測定する課題として閉眼片足立ち課題(出村ら,2011; Goshi et al., 1999; Goshi et al., 2000)を実施した。この課題は 4 歳から 6 歳の年齢において平衡性の測定 課題として実施されているため本研究でも適切と考えた。対象者は片足を上げて地面に触 れないようにし,目を閉じるように指示された。評価者は,子どもが足を地面に触れずに片 足で立つことができる時間を測定した。この課題は,両足が地面に触れないようにするため に体の姿勢を常に維持する必要があるため平衡性が求められる。時間が長いほど平衡性の 能力が高いことを示す。 巧緻性 巧緻性を測定する課題として跳び越しくぐり課題(出村ら,2011; Goshi et al., 1999; Goshi et al., 2000)を実施した。この課題は 4 歳から 6 歳の年齢において巧緻性の測定 課題として実施されているため本研究でも適切と考えた。対象者は,地上 35cm にあるゴム テープを飛び越えて,ゴムテープの下を通過する動作を 5 回繰り返した。評価者は,開始か ら終了までの時間を測定した。この課題では,要求された動作を正しく円滑に行うことが求 められるために巧緻性を必要とする。時間が短いほど巧緻性の能力が高いことを示す。 総合的運動能力 子どもの総合的な運動能力の評価を行うために,担任教師は自分が担任する子どもが日 頃園内で運動する様子の観察をもとにその子どもの総合的な運動能力を 0(悪い)から 2(良 い)まで評価した。幼稚園の担任教師は日頃から子どもの運動遊びを観察していることから, 実際に幼児の運動能力を測定することなく普段の行動観察を手がかりにある程度の確かさ をもって,総合的な運動能力を測定することができると言われている(出村ら,2011; Goshi et al., 2000)。また,担任教師に加えて,幼稚園教諭,中学校及び高等学校の体育の免許 状を取得している幼児体育を専門とする大学教員も独立して,子どもが実際に本研究で実 施した運動課題を行う様子を見ながら子どもの総合的な運動能力の評価を行った。二人の 一致率を測定した結果,カッパ係数は 0.75 であり,評価の信頼性は認められたと判断した。 統計分析 統計検定は両側検定であり,0.05 のp値を採用した。データ分析は,IBM SPSS Statistics for Windows バージョン 25(IBM Corporation, Armonk, New York, USA)を使用した。全て

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28 のデータは,標準偏差を伴う平均値として表示し,各課題における年齢による違いを検討す るために,各課題のデータを t 検定で分析した。月齢を統制した変数間の偏相関係数を算出 し,先行研究の知見から得られた仮説モデル(図 1)を評価するために,共分散構造分析を 行った。具体的には,抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM それぞれの能力から敏捷性,平衡性, 巧緻性それぞれの能力への直接パスが含まれていた。また,敏捷性,平衡性,巧緻性それぞ れの能力から総合的運動能力への直接パスが含まれていた。t 検定,ANOVA,回帰等の単純 な分析の場合,信頼性の高い検出力分析ツールを使用すれば,いくつかの基本的なパラメー ターだけを用いて適切なサンプルサイズを計算できる。一方,本研究で採用している仮説モ デルのような潜在変数を設定していない観測変数間の関係性について検討する共分散構造 分析の場合,適切なサンプルサイズの決定は難しい。また,共分散構造分析を行う場合の適 切なサンプルサイズについては研究者により意見が様々で定まっていない(Bentler & Chou, 1987; Schreiber et al., 2006; Kline, 2015)ことから,共分散構造分析の適切なサンプ ルサイズを決定するのは困難である。しかし,本研究の仮説モデル(図 3)について共分散 構造分析を行ううえでのサンプル数は比較的少ないことから,サンプル数が少ないことを 課題として述べている先行研究(Becker & McClelland, 2014; MacDonald et al., 2016) の分析方法を参考に,比較的小さな標本数においても頑健であると言われている最尤法 (Tanaka, 1987)による共分散構造分析を行った。 第 3 節 結果 各課題成績の平均値と標準偏差を 4 歳児と 5 歳児を合わせた全体と年齢群ごとに算出し た(表 3 参照)。抑制機能課題及び巧緻性課題は値が小さいほどそれぞれの成績が高いこと を示している。各課題における年齢による違いを検討するために,対応のない t 検定を行っ た(表 3 参照)。その結果,抑制機能課題,視覚的 WM 課題,聴覚的 WM 課題,敏捷性課題, 平衡性課題,総合的運動能力の成績の差が有意であり,いずれも 5 歳児の成績が 4 歳児の 成績よりも高かった。全体の各課題の性差について検討したところ,いずれの課題において も有意差は見られず,性差は認められなかった。

(31)

29 月齢を統制した変数間の偏相関係数を算出した(表 4 参照)。なお,抑制機能課題及び巧 緻性課題は反応時間を測定しており,反応時間が短いほどそれぞれの能力が高くなる。その ため,逆点項目として処理を行い,値が高いほど能力向上を示す正の相関となっている。 実行機能と調整力の各要素,総合的運動能力との関係性については,敏捷性と視覚的 WM (r = .308, p = .047),聴覚的 WM(r = .397, p = .009),巧緻性(r = .530, p < .001), 総合的運動能力(r = 482, p = .001)との間に有意な相関が見られた。また,聴覚的 WM と 視覚的 WM(r = .333, p = .031),平衡性(r = .318, p = .040),総合的運動能力(r = .388, p = .011)との間に有意な相関が見られた。 先行研究の知見をもとに想定した仮説モデル(図 3)を最尤法による共分散構造分析を用 いて検証した。仮説モデル(図 3)の分析結果から有意確率が 5%以上の有意ではないパス を削除して分析を再度行った結果,図 4 の最終モデルが得られた。尚,抑制機能について 人数 人数 人数 抑制機能課題 43 38.14 14.56 20 44.12 16.21 23 32.93 10.80 2.70* 視覚的WM課題 43 7.72 3.34 20 5.90 3.32 23 9.30 2.48 3.84*** 聴覚的WM課題 43 3.05 2.28 20 1.35 1.73 23 4.52 1.56 6.33*** 敏捷性課題 43 15.60 5.66 20 11.00 3.71 23 19.61 3.64 7.66*** 平衡性課題 43 7.15 7.00 20 4.62 3.18 23 9.35 8.59 2.45* 巧緻性課題 43 22.85 5.66 20 24.22 6.00 23 21.65 5.18 1.51 総合的運動能力 43 0.84 0.72 20 0.40 0.68 23 1.22 0.52 4.46*** t 値 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 4歳児 5歳児 評価 全体 1 2 3 4 5 6 7 1. 抑制機能課題 ― 2. 視覚的WM課題 .002 ― 3. 聴覚的WM課題 .078 .333 * 4. 敏捷性課題 .287 .308 * .397* * 5. 平衡性課題 .051 .258 .318* .198 6. 巧緻性課題 .061 .334 * .298 .530 * * * .237 7. 総合的運動能力評価 .009 .205 .388* .482 * * .238 .223 *p < .05, ***p < .001 表 3 各課題成績の平均値および標準偏差と t 検定の結果 表 4 課題間の相関係数(月齢を統制) *

p

< .05, **

p

< .01, ***

p

< .001

(32)

30 は,前述したように,値が低いほど能力が高いことを示すため,逆点項目として処理を行っ た。 最終モデル(図 4)について,X2(16)= 26.358,p = .049,GFI = .850, CFI = .857, RMSEA = .124, AIC = 50.358 であった2) 最終モデル(図 4)の結果から,視覚的 WM と聴覚的 WM(r = .562, p = .002)との間に 有意な相関が見られた。また,抑制機能から敏捷性へのパス係数(β = .248, p = .023), 視覚的 WM から敏捷性へのパス係数(β = .280, p = .033),聴覚的 WM から敏捷性へのパス 係数(β = .464, p < .001),敏捷性から総合的運動能力へのパス係数(β = .595, p < .001)が有意であった。 第 4 節 考察 本研究では,幼児期の 4, 5 歳児を対象として,仮説モデル(図 3)の検討を行うことに より,実行機能の抑制機能,視覚的 WM,聴覚的 WM が調整力の敏捷性,平衡性,巧緻性及び 総合的な運動能力にどのように,そしてどの程度影響を与えているのかについて,包括的に 図 4 実行機能が敏捷性を介して総合的運動能力に与える影響 ※ 値は標準偏回帰係数を示す。パスを引いていない箇所は標準偏回帰係数が 有意でなかったことを示す。 *p < .05,**p < .01, ***p < .001 総合的運動能力 X2(16)= 26.358,p = .049 GFI = .850 CFI = .857 RMSEA = .124 AIC = 50.358 e4 敏捷性 平衡性 巧緻性 .280** .464*** .248* .595*** e1 .562** e2 e3 R2 = .501 R2 = .354

(33)

31 明らかにすることを目的とした。 全身の反復運動の速さに関する敏捷性においては,出来るだけ速く体を移動させるため に自分の体の動きを抑制することが求められる(Robinson et al., 2016)。また,抑制機能 は優勢的,自動的な反応を文脈に応じて抑制する能力である(Miyake et al., 2000)こと から抑制機能が敏捷性に影響を与えていたと考えられる。 視覚的 WM 及び聴覚的 WM が敏捷性に影響を与えていることが明らかになった。反復運動 の速さに関係している敏捷性ではできるだけ速く全身を移動させるために運動の順序を間 違えることなく正確に記憶することが求められる(Niederer et al., 2011)。WM は情報を 記憶し,処理する能力である(Alloway et al., 2006)ことから WM が敏捷性に影響を与え ていたと推察される。 複数の動作を伴うような調整力運動で求められる運動はより高次の認知スキルを必要と する(Budde et al., 2008; Best, 2010)。敏捷性は,複数の動作を伴う全身を使用した反 復運動の速度に関連する運動能力である(出村ら,2011; Singh et al.,2013)ことから, 抑制機能及び WM を含む実行機能と敏捷性との関連性が見られたと考えられる。 幼児は歩く,走る,跳ぶ,投げるなどの運動を日頃の生活や遊びの中で行っており,担任 教師は日常的にそれらの運動を観察することができる。実際に運動能力を測定しなくとも, 日頃の行動観察を手がかりにある程度の確かさを持って,運動の成就を判定することは可 能であると言われている(出村ら,2011; Goshi et al., 2000)。本研究でも,担任教師は 日頃から子どもが園内で活動する様子を観察するなかで,総合的な運動能力を評価してい たと推察される。敏捷性が総合的運動能力を予測したとする本研究の結果について,幼児期 の運動能力の評価において調整力の貢献度は高いという報告(Barnett et al., 2009)とも 一致する。特に,調整力の中でも敏捷性が総合的運動能力の評価において重要であることが 明らかになった。 本研究により,幼児期の子どもにおいて,実行機能に含まれる抑制機能,視覚的 WM,聴 覚的 WM が調整力の中でも敏捷性にそれぞれ影響を与えていたことが明らかになった。さら に,幼児期の調整力はその後の運動能力を予測すると言われている(Nobusako et al., 2019) が,本研究の結果から,調整力の中でも敏捷性が教師による総合的運動能力評価に影響を与 えていることが明らかになった。 本研究の結果から,実行機能の要素から調整力に含まれる平衡性及び巧緻性への影響は 見られなかった。複雑な運動を行う際には,実行機能が要求される(Diamond, 2015)が,

参照

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