2010年度 秋学期 金曜4限
個人所得課税
第2回
担 当: 石 川 達 哉財政学 2
当講義用ホームページはhttp://www1.meijigakuin.ac.jp/~ishikawa2-1.家計の経済的選択行動と課税の全体像
余暇 と 労働供給 の配分
↓
賃金(労働所得)
↓
可処分所得
↓
消費 と 貯蓄 の配分
←
所得税・住民税
↓
↓
資産
利子・配当
など効用
(経済的な充足)
消費税
→
[資産取り崩し]↑
相続・受贈
←
相続税・贈与税
元本相当 値上がり 益の実現 (譲渡所 得課税) 固定資産税→
(不動産の場合) 公共サービス の享受明治学院大学 2010年度 秋学期 24
所得税
(国税、課税標準は所得) 道府県民税 所得割
(課税標準は前年の所得) 市町村民税 所得割
(課税標準は前年の所得) 道府県民税 均等割:
1,000円 市町村民税 均等割:
3,000円 個人事業税
(道府県税、事業者が対象、課税標準は所得)2-2.日本の個人所得課税
[法人に対する所得課税] ・法人税(国税、所得が課税標準) ・道府県民税 法人税割(法人税額が課税標準) ・市町村民税 法人税割(法人税額が課税標準) ・道府県民税 均等割(2万円~80万円の5段階) ・市町村民税 均等割(5万円~300万円の9段階) ・法人事業税(道府県税;資本金1億円超法人は外形標準課税、他は所得または収入が課税標準) (注)所得税に含まれる利子所得・配当所得・譲渡所得に対する課税を資産課税に分類する立場もある。 課税ベースは同一 10種類の所得を合算⇒総合課税の原則
各種の所得控除を反映した高い課税最低限
超過累進税率適用の累進所得税体系
暦年課税(課税対象は1月1日~ 12月31日の所得) 申告納税と源泉徴収 (納税者または源泉徴収義務者の申告、年末調整によって税額を確定) c.f. 住民税(所得割)は前年の所得に基づいて市町村が税額を計算、確定 → 所得税と課税ベースは同じだが、納付のタイミングが翌年6月以降に2-3.日本の所得税の特徴
利子所得 配当所得 事業所得 不動産所得 給与所得 退職所得 譲渡所得 山林所得 一時所得 雑所得明治学院大学 2010年度 秋学期 26
2-4.所得の種類
利子所得
:預貯金、国債などの利子の所得 配当所得
:株式、出資の配当などの所得 事業所得
:商工業、農業などの事業による所得 不動産所得
:土地、建物などの賃貸による所得 給与所得
:給料、賃金、ボーナスなどの所得 退職所得
:退職手当、一時金などの所得 譲渡所得
:土地、建物、株式などの売却による所得 山林所得
:山林の立木売却などによる所得 一時所得
:クイズの賞金、生命保険契約の満期保険金などの一時的な所得 雑所得
:年金、公社債償還差益、著述を業としない人の原稿料など上記以外の所得 ◇ 日本の総合課税は包括的所得税の考え方に基づくもの ◇ 他方、労働の対価としての所得と資産から発生する所得とに大別できる ⇒ 北欧諸国における二元的所得税(勤労所得と資本所得)2-5 .所得税計算における様々な概念
総合課税と分離課税
(源泉分離課税と申告分離課税)
¾山林所得
(⇒ 5分5乗方式)と退職所得は分離課税
¾利子所得は一律源泉分離20%課税
(所得税15%、道府県民税利子割5%) ¾配当所得と株式等の譲渡所得は申告分離課税
上場株式の配当や譲渡益については、 20%の源泉徴収のみの申告不要 特別措置として適用されてきた軽減税率10%(所得税7%、道府県民税3%)は 2008.12.31まで 所得控除と税額控除
人的控除と金銭的な所得控除
<収入と所得の違い> 利子所得 :収入金額=所得金額 配当所得 :収入金額-株式などを取得するための借入利子 事業所得 :収入金額-必要経費 不動産所得 : 収入金額-必要経費 給与所得 :収入金額-給与所得控除 退職所得 : (収入金額-退職所得控除)×1/2 譲渡所得 :収入金額-売却した資産取得費・譲渡費用-特別控除(上限50万円) 山林所得 :収入金額-必要経費-特別控除(上限50万円) 一時所得 :収入金額-収入を得るために支出した費用-特別控除(上限50万円) 雑所得 :公的年金等→収入金額-公的年金等控除、公的年金以外→収入金額-必要経費明治学院大学 2010年度 秋学期 28 10%
[給与所得者の所得税の税額計算の流れ]
給与収入( 年 収) 給与所得の 金 額 給 与所得控除 課税所 得 の 金 額 他 の 所 得 控 除 税額の 計算 課税所 得金額 の計算 給与所 得金額 の計算 税額控除 納付税額 算出税額 (課税所得) (税率) ~ 195万円 : 5% ~ 330万円 : 10% ~ 695万円 : 20% ~ 900万円 : 23% ~ 1,800万円 : 33% 1,800万円~ : 40% (給与収入) (控除率) ~ 180万円 :40% (最低保証額 65万円) ~ 360万円 :30% ~ 660万円 :20% ~1,000万円 :10% 1,000万円~ : 5% 基礎控除 : 38万円 配偶者控除 : 38万円 配偶者特別控除 :最高38万円 扶養控除 : 38万円(*) 特定扶養控除 : 63万円(#) 社会保険料控除など 税率 2010年 2011年 (*) 0~15歳 16~18歳 と23歳以上 と23歳以上 (#) 16~23歳 19~23歳 5% 20% 23% 33% 40%[所得税(住民税)計算における各種所得控除]
z給与所得控除
< 後述 > 基礎控除:38万円(
住民税 33万円)
配偶者控除:38万円
(同 33万円)
配偶者70歳以上の場合は48万円(同 38万円) 配偶者特別控除:最高38万円
(同 最高33万円)
扶養控除:38万円
(同 33万円)
[16歳未満と23歳以上 ⇒ 2011年は16~18歳と23歳以上 ] 特定扶養控除:63万円(同 45万円) [16歳以上23歳未満⇒ 2011年は19歳以上23歳未満] 老人扶養控除:48万円(同 38万円) [70歳以上] 特別な人的控除 : 障害者控除・寡婦控除・寡夫控除・勤労学生控除 z社会保険料控除
:
社会保険料の全額 生命保険料控除 :
生命保険料・個人年金保険料を支払った場合。それぞれ5万円が 限度(地方税各3.5万円限度) 地震保険料控除 :
居住用財産に対する地震保険料を支払った場合。5万円限度(地 方税2.5万円)限度。 医療費控除
:
高額の医療費を支払った場合(200万円限度) 雑損控除
:
災害や盗難により生活用資産が被害を受けた場合 寄附金控除
:
共同募金などの特定寄附金を支払った場合人
的
控
除
明治学院大学 2010年度 秋学期 30
[給与所得控除と所得税率(住民税率)]
最低:65万円
給与収入 180万円以下の部分
: 控除率 40%
同 180万円超360万円以下の部分 : 同
30%
同 360万円超660万円以下の部分 : 同
20%
同 660万円超1000万円以下の部分 : 同
10%
同 1000万円超の部分
: 同
5%
給与所得控除
(住民税も同じ) 課税所得330万円以下の部分
:
適用税率 10% 同 330万円超900万円以下の部分 :
同 20% 同 900万円超1800万円以下の部分 :
同 30% 同 1800万円超の部分
:
同 37% 課税所得200万円以下の部分 : 適用税率 3% 同 200万円超700万円以下の部分 : 同 8% 同 700万円超の部分 : 同 10% 課税所得700万円以下の部分 : 適用税率 2% 同 700万円超の部分 : 同 3%所得税
市町村 民税 道府県 民税 2007年より一律6% 2007年より一律4% (2007年より) ~ 195万円 : 5% ~ 330万円 : 10% ~ 695万円 : 20% ~ 900万円 : 23% ~ 1,800万円 : 33% 1,800万円~ : 40%[資料No.6 所得税率の推移]
1974年 1984年 1987年 1988年 1989年 1995年 1999年 2007年 % % % % % 万円 % 万円 % 万円 % 万円 10 10.5 10.5 10 10(~ 300) 10(~ 330) 10(~ 330) 5(~ 195) 12 12 12 20 20(~ 600) 20(~ 900) 20(~ 900) 10(~ 330) 14 14 16 30 30(~1,000) 30(~1,800) 30(~1,800) 20(~ 695) 16 17 20 40 40(~2,000) 40(~3,000) 37(1,800~) 23(~ 900) 18 21 25 50 50(2,000~) 50(3,000~) 33(~1,800) 21 25 30 60 40(1,800~) 24 30 35 27 35 40 税 率 30 40 45 34 45 50 38 50 55 42 55 60 46 60 50 65 55 70 60 65 70 75 住民税の最高税率 18% 18% 18% 16% 15% 15% 13% 10% 住民税と合わせた最高税率 93% * 88%* 78% 76% 65% 65% 50% 50% 税率の刻み数 19 15 12 6 5 5 4 6 (住民税の税率の刻み数) (13) (14) (14) (7) (3) (3) (3) (1) (*)1974年及び1984年については賦課制限がある。明治学院大学 2010年度 秋学期 32
[参考:所得税率適用についての補足]
-課税所得2000万円のケース-
330 900 1800 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 0% 10% 20% 30% 40%135=330-195
205=900-695
900=1800-900
課税所得-1800
=2000-1800
× 10%
× 33%
× 23%
×
10%
× 40% →
× 20%
695× 5%
195365=695-330
195
[参考:給与所得控除についての補足]
-給与収入1100万円のケース-
180
360
660
1000
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%180
180=360-180
300=660-360
340=1000-660
年収-1000
× 40%
× 30%
× 20%
×
10%
× 5% →
40% 30% 20% 10% 5%明治学院大学 2010年度 秋学期 34
[参考:配偶者特別控除についての補足]
141 140 135 130 125 120 115 110 105 103 100 95 90 85 80 75 70 0 20 40 60 80 100 120 140 3 6 11 16 21 26 31 36 38 41 46 51 56 61 66 71 76 配偶者特別控除(配偶者控除に対する上乗せ部分) ⇒ 2004年より廃止 配偶者特別控除 (最高38万円) 配偶者控除 (38万円) 被扶養配偶者の年間給与(給与所得=年間給与-65万円) 夫 ( 妻 ) の 所 得 控 除 年間給与103万円 (給与所得38万円) 141万円 (76万円) (最高38万円)-被扶養配偶者の給与収入103万円~141万円-
[資料No.7 年間給与と所得税額の事例
(2010年)
]
独身有業者世帯の課税最低限:所得税114.4万円(財務省試算)
有業者1人の夫婦2人世帯:所得税156.6万円 (同上)
有業者1人の夫婦とこども2人の世帯:所得税325万円 (同上)
給与年額(万円) 所得税(万円) 住民税(万円)
計(万円)
同 割合(%)
300
0.0
0.9
0.9
0.3
400
2.5
6.6
9.0
2.3
500
6.0
13.6
19.5
3.9
700
16.6
29.4
45.9
6.6
1000
59.1
54.0
113.0
11.3
明治学院大学 2010年度 秋学期 36
[参考問題(1)]
年間収入が300万円の独身(単身)の給与所得者に関して、①給与所得控除
と②給与所得を計算しなさい。
社会保険料は34万円、給与所得以外の所得はない、生命保険料控除・損害
保険料控除・医療費控除・雑損控除・寄附金控除など他の控除はゼロと仮定
して、③課税所得を計算しなさい。
所得税の④税額を計算しなさい。
⑤所得税額の年間収入に対する割合を計算しなさい。
① =180万円×40%+(300万円-180万円)×30%=108万円
② =年収-①= 300万円-108万円=192万円
③ =②-基礎控除-社会保険料控除= 192万円-38万円-34万円=120万円
④ =③×5%=120万円×5%=6万円
⑤ =6万円÷300万円=2%
2-6.所得税の累進性
比例税
:実効的な平均税率が課税前所得にかわらず一定
累進税
:実効的な平均税率が課税前所得の増大に伴って上昇
逆進税
:実効的な平均税率が課税前所得の増大に伴って低下
(B1) 税額 (万円) (C1)実効平均 税率=(B1)/(A) (B2) 税額 (万円) (C2)実効平均 税率=(B2)/(A) (B3) 税額 (万円) (C3)実効平均 税率=(B3)/(A) 500 100 20% 75 15% 125 25% 1,000 200 20% 200 20% 200 20% 1,500 300 20% 375 25% 225 15%3 つ の 税 制 の 例 示
(A)所得 (万円) 比例税 累進税 逆進税明治学院大学 2010年度 秋学期 38
[平均税率と限界税率]
平均税率=税額÷課税前所得
限界税率=課税前所得が追加的に1単位(1万円)増えた場合の税額
増加の割合
¾比例税においては平均税率=限界税率=一定値
課税前所得 税額 (万円) (万円) 限界税率 500.0 50.0 10% 501.0 50.1 10% 502.0 50.2 20% 503.0 50.4限界税率の考え方
(仮想的な例)
[比例税の事例]
比例税の一例(課税前所得と税額の関係) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 額 X Y Y=0.2X 比例税の一例(課税前所得と平均税率・限界税率の関係) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 率 平均税率=限界税率 X Y/X ΔY/ΔX明治学院大学 2010年度 秋学期 40
[累進税の事例]
累進税の一例①(課税前所得と税額の関係) 0 500 1000 1500 2000 2500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 額 Y X Y=X2/10000 累進税の一例①(課税前所得と平均税率・限界税率の関係) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 率 限界税率 平均税率 X Y/X ΔY/ΔX X/10000 X/5000 累進税の一例②(課税前所得と平均税率・限界税率の関係) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 率 限界税率 平均税率Y/X X ΔY/ΔX X≦500:0 X>500:0.2 X≦500:0 X>500:0.2-100/X 累進税の一例②(課税前所得と税額の関係) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 額 Y X X≦500:Y=0 X>500:Y=0.2(X-500)[逆進税の事例]
逆進税の一例①(課税前所得と税額の関係) 0 100 200 300 400 500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 額 Y X Y=100 逆進税の一例②(課税前所得と税額の関係) 0 100 200 300 400 500 600 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 税 額 Y X Y=100+0.1X 逆進税の一例①課税前所得と平均税率・限界税率の関係) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 限界税率 平均税率 X Y/X ΔY/ΔX 0 100/X 税 率 逆進税の一例②(課税前所得と平均税率・限界税率の関係) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 課税前所得(収入) 限界税率 平均税率 X Y/X ΔY/ΔX 0.1 Y=0.1-100/X 税 率明治学院大学 2010年度 秋学期 42
2-7.所得税の所得再分配効果
標準世帯(有業者1人の夫婦・こども2人の世帯)
の年収五分位階級別所得(2009年実績)
(注)課税後年収は年収から所得税・住民税を控除、可処分所得はさらに固定資産税と社会保険料を控除 (資料)総務省「家計調査年報」に基づいて作成平均
第Ⅰ階級 第Ⅱ階級 第Ⅲ階級 第Ⅳ階級 第Ⅴ階級
課税前年収(万円)
615
400
482
568
677
948
(平均からの乖離率)
0%
-35%
-22%
-8%
10%
54%
課税後所得(万円)
574
389
462
540
634
846
(平均からの乖離率)
0%
-32%
-19%
-6%
10%
47%
可処分所得(万円)
507
347
407
474
556
751
(平均からの乖離率)
0%
-32%
-20%
-7%
10%
48%
[資料No.8 個人所得課税の税率構造の国際比較
(2010年)
]
(資料)財務省webページ http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/036.htm所得税(国税) +住民税(地方税)の比較
明治学院大学 2010年度 秋学期 44