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フランスのシンクタンクInstitut français des relations internationales (Ifri)と キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、東日本大震災に関するCIGS 研究主幹の分析を、 「Canon-IfriPaper Series」として発信しています。本編はその第三回目、CIGS 研究主幹 山下一仁の「農業復興のための土地利用計画の策定と農業特区の活用」です。 この小論文は、(株)日本政策投資銀行との共同提言「東日本大震災復興に向けた具体策と 課題」のために執筆した小論文に若干の変更を加えたものです。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2011 年 8 月

農業復興のための土地利用計画の策定と農業特区の活用

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山 下 一 仁 1. 被害状況 東北地方は、我が国有数の食料基地である。その農業は、今回の震災で大きな被害 を受けた。被害を受けた農地は、宮城県 15 千ヘクタール、福島県 6 千ヘクタール、 岩手県 2 千ヘクタール、合計 24 千ヘクタールと推計されている。これ自体は、日本 の全農地面積 459 万ヘクタールに比べると大きなものではないかもしれない。しかし、 太平洋戦争の終戦時に人口は 7 千万人に過ぎず、農地は 550 万ヘクタールもあったの に、飢餓が生じた。これ以上農地面積を減少させてはならないのに、この損失は大き なものである。しかも、傾斜農地が多い我が国において、被害農地の多くは、平野部 の優良農地である。また、災害なので当然のことだが、被害は地域的に集中している。 宮城県太平洋岸地域の市町村平均では 42%の農地が被害を受けている。 仙台市の農地の塩分濃度は、通常の農地の 19 倍にも達していると言われている。 さらに、水田に水を引いたり、排水したりする施設も大きな被害を受けている。排水 施設が壊れているので、塩を抜こうとしても、水を流せない状況である。今回の震災 で大きな被害を受けた農地の機能を回復するためには、がれきの除去、水路、パイプ ラインの補修、海水につかった農地から塩を除くことなどの対策に、相当の費用と時 間が必要となる。 損害金額(6 月 7 日現在)は、農地の被害額は 3,957 億円、農業用施設等の損壊は 18 千か所に及び 3,180 億円、農産物や家畜の被害 118 億円、ハウス、畜舎等の損壊

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2 389 億円、合計 7,644 億円の被害となっている。 水産業関係では、漁船の被害 20,963 隻、1,417 億円、漁港被害 319 漁港、7,231 億 円、養殖施設 730 億円、養殖物 563 億円、共同利用施設 603 億円、合計 10,544 億円 となっている。 2.復興のための早急な土地利用計画の策定 政府は今回の被害を二度と起こさないように地域を復興しなければならない。地域 も原子力発電所も、一定以上の地震・津波には対応できなかった。その教訓を踏まえ、 地域全体で土地利用のあり方を考え直すことが必要である。当面の対策として雨露を しのぐ仮設住宅の建設も重要だが、拙速に復旧するだけでは、再度の大被害を免れる ことはできない。そのためには、確固たる土地利用計画を樹立して、復興に当たるこ とが必要である。特に、農業は土地を利用する産業であるために、その復興のために は、しっかりとした土地利用計画の策定が前提となる。 同じく震災からの復興という連想から、関東大震災における後藤新平の活躍が引き 合いに出されることが多いが、我々にとってより近い過去の出来事であり、かつ我が 国の主要都市全てが焦土と化した第二次世界大戦の戦災から、これらの都市がどのよ うに復興したのかを都市間で比較すると、具体的な復興に当たっての有益な示唆が得 られる。 既に、終戦前から、都市計画を担当していた内務省では、戦災による壊滅的被害を いわば都市計画実現の好機ととらえ、戦災復興都市計画の立案を開始し、終戦後間髪 を入れず、戦災地復興計画基本方針を主要都府県に内示した。しかも、具体的な都市 計画の策定に当たっては、中央から地方の中核都市へ職員を派遣して、その任にあた らせた。しかし、戦災復興院総裁に就任した小林一三は、地方自治を重視し、戦災復 興を国の事業として行うのではなく、地方の事業として行うよう主張したため、これ に対する首長の熱意の違いによって、各都市の復興に大きな違いが生じた。 第二次世界大戦における東京大空襲によって、灰燼に帰した首都東京には、幅員100 メートルの幹線道路を8本も建設するという、雄大な戦災復興計画が存在していた。 しかし、これを実行に移すことをためらっている間に、バラック(仮設住宅)が建て られてしまった。大規模な復興を行うためには、これを撤去しなければならないが、 それには居住者の反対が予想される。自らの選挙への影響を考えた東京都知事は、こ

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3 の大復興計画を拒否してしまった。目前の復旧を優先させたために、東京はパリのよ うな美しい都市づくりを行う機会を、逸してしまったのである。 これに対して、名古屋市は、戦災によって、路の狭い古いまちのままだった名古屋 の中心部が破壊されたことを機に、約280の寺とその墓地を一か所に強制的に移転す るなどの荒療治を行いながら、2本の100メートル幹線道路を整備するなど、整然とし た町並みを持つ大幅な都市改造を行った。このとき、名古屋市長は強力なリーダーシ ップを発揮し、終戦後直ちに元内務省技官を名古屋市技監に任命して、建設行政全て を委ねるとともに、翌1946年には戦災復興の基本方針を取りまとめさせ、迅速かつ積 極的に復興を行った。 コンパクトシティという考え方がある。これは、都市のスプロール化を抑制するた め、歩いてゆける範囲の中心市街地に医療、教育、商店、住宅など生活に必要な諸機 能を集中配備し、住みやすい街づくりを目指そうとする、効率的で持続可能な都市つ くりである。これによってお年寄りも身近な病院で診察を受けることができる。さら に、モータリゼイションを抑制し、地球温暖化ガスの排出抑制にも貢献できる。今回 の震災についても、このような都市づくりを行い、幅員の大きい幹線道路を整備し、 住宅地は津波の心配のないところに一か所にまとめ、災害に強い堅牢な建物を設置 (三陸地域では、後背高地に建設)したうえで、間に住宅などのない、まとまった規 模の農業用地を創造すれば、災害対応にも食料安全保障にも美しい農村景観にも、貢 献できる。水産施設についても、小規模な漁港を中核となる漁港に集約し、そこに加 工、流通、関連産業が集中するコンパクトな水産地域づくりを目指すべきである。こ のためには、個別の土地所有権についても、見直すことも必要になろう。共同減歩と いうやり方がある。これは土地所有者が共通の負担率の下で土地を出し合い、公共用 地を作り出すことである。また、土地を交換し合うという換地というやり方もある。 しかし、震災後3カ月が経過したにもかかわらず、国の復興計画が遅延しているの みならず、地域においても、このような土地利用計画の策定は遅々として進んでいな いのが現状である。これは市町村の職員の数が震災によって減少している上、残った 職員も震災後の応急的な処理に忙殺されているところが多いからだと思われる。そう であれば、終戦後内務省が行ったように、土地利用計画を所管する国土交通省、農林 水産省などから職員を数名市町村に常駐派遣し、速やかに土地利用計画を策定させる べきである。これらの職員に素案を作らせたうえで、地元住民の意見を反映させなが

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4 ら、最終的な計画を決定すればよい。国の復興計画を待つ必要はない。国が用意する 事業は、道路整備、農地の除塩や区画整理などの農地基盤整備、漁港整備などメニュ ーは予想される。計画を立てたのちに、国に必要な予算を要求すればよいだけである。 3. 農業復興 津波で被害を受けた農地については、その多くは畔もなくなっているので、元あっ た一筆の農地の形状を復元することは難しいし、高齢な農業者が、新たに機械を購入 して、営農を再開することも、困難だろう。しかし、これは、非効率だった農業を効 率的な農業に新生させる大きなチャンスである。既に、主業農家に、農地の貸し出し を要請する高齢農家が出てきている。その際、これまで日本農業の近代化・効率化を 阻んできたものに、農地制度等の各種規制が存在することから、復興地域において、 「農業特区」を設け、規制がない状態で農業復興を図るべきである。 日本農業には「零細分散錯圃」という問題がある。零細分散錯圃とは、一農家の所 有農地があちこちに分散している実態である。零細分散錯圃は一つの場所に農地がま とまって存在していれば自然災害を一気に受けてしまうため危険分散を図るととも に、上流と下流に各農家の水田を分散させ公平な河川水の利用を行わせるとの観点か らあみ出された知恵であった。しかし、この古い時代の知恵が農業の近代化、合理化 を著しく阻害している。現在比較的規模の大きい農家でも、点在している農地を借り て規模拡大しているために、耕作地が分散している。2006年の農林水産省の調査によ れば、調査経営体202の平均を見ると、経営面積は14.8ヘクタール、これが28.5箇所 に分散しており、1箇所の面積は0.52ヘクタール、最も離れている農地と農地の間の 距離は3.7キロメートルとなっている。 圃場が分散していると機械の移動に多大な時間が必要となる。これは労働コストを 増加させるだけではなく、播種、田植え、収穫等の作業適期が短期間に限られる農作 業の場合には作業時間の減少となるため、規模拡大は進まなくなる。また、圃場が小 さいと狭いところで機械を操作しなければならず、労働時間・コストが増加する。田 んぼの効率性は四隅の数で決まる。同じ農地面積でも四隅の数が少ないほど、すなわ ち、圃場の規模が大きく数が少ないほど労働時間・コストは減少する。同じ 3 ヘクタ ールの規模の農家でも、0.3 ヘクタールの農地を 10 筆持っている農家と 3 ヘクター ルの農地を 1 筆持っている農家とでは、後者の方が、機械作業が簡単となるので、少

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5 ない労働時間ではるかに効率よく生産できる。都府県の農業集落の平均農地面積は 28 ヘクタール、一番多い分布は 10 ヘクタール未満層である。したがって、零細農家 が退出し担い手に集落のほとんどの農地が集積されていけば、零細分散錯圃は解消し、 現在の米生産費調査結果以上にコストは低下する。 現在農地整備は0.3ヘクタール区画を標準に行われている。高齢化で農業を継続で きなくなった農家の農地を集めたり、別の地区の農地との交換を行って農地をまとめ るという換地処分を行ったりして、2ヘクタールの大規模区画にすれば、作業の効率 化の効果に加え、育苗、田植えという旧来の技術に代えて、水田に直接種をまく直播 という新しい技術も導入できる。さらにコストは低下し、農業収益は増加する。この ような農地基盤整備事業を、5年以内の緊急時限的な措置として、土地改良事業を行 う際地区内の農地所有者等の3分の2が同意しなければならないという要件を2分の1 に切り下げるとともに、農家負担を伴わない100%補助で実施する。これはあくまで も復興の緊急措置として、5年間集中的に実施させるために行うものであり、この期 間を過ぎた事業実施の申請には応じないこととする。これにより短期間のうちに、迅 速な農業基盤を実現できる。 国内でも、福井県では、何人かの農家の所有地を集め、2ヘクタール区画の農地で 直播による米作を実現している。農業から退出した高齢農家は地代収入を得ることが できる。 しかも、こうして実現した効率的な大区画農地を若手農業者に配分すれば、世代交 代も実現できる。若手農業者が新たな機械を購入しようとするときは、国が補助を行 えばよい。フランスの公社が退出する農家の農地を若手農業者に配分したように、若 手農業者による農業の新生を図ってはどうか。 農業特区においては、 ① 現行農地保有合理化法人をフランスの土地整備農村建設会社(SAFER)のような法 人に再編整備し、いままで認められてこなかった、他の者に先駆けて農地を購入 する権利である“先買い権”をこの法人に認め、法人が購入した農地を若手農業 者に優先的に売却する、 ② 現行の農地利用集積円滑化事業において、自治体、農協などが農地を集積する場 合のみ農地提供者に奨励金(10a当たり2万円)が支給され、農協に依存しない農 業生産法人による土地購入が妨げられていることから、農業生産法人も農協と同

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6 様、上記事業の主体となれるようにする、 ③ 出資による資金調達は融資よりもリスクの低い起業方法である。しかし、農業は 生産が自然条件によって左右されるなどリスクの高い産業であるにもかかわらず、 友人や親戚から出資してもらい、株式会社を作って農地を取得し農業に参入する ことは、これらの出資者がこの会社の農作業に従事したり、この会社が作った作 物を販売したりするなど、この会社と何らかの関係にない限り、農地法上認めら れていない。若者やベンチャー企業などが容易に新規参入できるよう、一定の資 本金額以下の農業企業については、農地取得を認める、 ④ 農協等の一部の法人にしか認めてこなかった農地信託事業を信託銀行、信託会社 など一般の法人にも認め、信託農地で土地購入代金を支払えない若手農業者に営 農させる、政府出資を含む農業ファンドを創設して若手農業者の資金繰りを援助 する、 など、積極果敢な対策を講じるのである。これは、農業の復旧ではない。新生農業の 建設である。 復興に向けて、国民全体が全力を傾注する必要がある。農業新生のためには、全販 売農家を対象とし、バラマキとの批判が絶えない、戸別所得補償政策について、対象 農家を一定規模以上の企業的な農家(主業農家)に限定することによって、財源をね ん出すべきである。米の戸別所得補償政策約4千億円のうち主業農家のシェアは4割程 度なので、2.4千億円の財源捻出が可能となる。家族、仕事、家屋、財産を失った人が 苦しんでいる中で、所得の高い兼業農家にまで所得補償を行うことは、著しく不適切 である。また、このように戸別所得補償政策を変更すれば、全国的にも、企業的な農 家に農地が集約化され、農業の効率化による日本農業の新生が実現することとなろう。 このような方向は、グローバル化への対応という点でも重要である。世界は、我が 国が災害復興を完了するまで、待ってはくれない。高齢化、人口減少時代を迎え、こ れまで高い関税で守ってきた国内市場が縮小していく中で、我が国農業を維持、振興 させようとすると、輸出市場を開拓していかなければならない。その際、輸出先の国 の関税や非関税障壁を撤廃させ、我が国農産物をより多く輸出できるようにするため の貿易自由化交渉にも真剣に対応していく必要がある。災害復興が必要だからという 理由で、TPPやWTO交渉への対応をないがしろにしてはならない。

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7 4. 最後に 東北農業を元に復旧させるというだけではなく、旧に倍する力強い新生東北農業の 建設を行うのである。そのために必要な費用については、被害に遭わなかった者も含 め、国民全体で負担していくべきである。そうすれば、いずれ東北は、我々国民全体 に、美しい農村風景と豊かな農産物の実りをもたらしてくれる。また、こうした取組 みは、日本農業全体の新生にもつながる。そしてそれが、今回の震災で亡くなられた 多数の方々の霊に報いる道ではないだろうか。

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