Application of Calcium Phosphate to Brewing 1.はじめに リン酸カルシウム(CAP)は,リン酸あるいはピ ロリン酸のカルシウム塩の総称である。カルシウムと リン酸の比率の違いから,リン酸二水素カルシウム (Ca(H2PO4)2・H2O), リ ン 酸 水 素 カ ル シ ウ ム (CaHPO4・2H2O や CaHPO4), リ ン 酸 三 カ ル シ ウ ム (Ca(PO3 4)2)など,様々な種類のものが知られている。 CAP は,ボーンチャイナのような陶磁器材料,人工 骨や人工歯のような医療材料,歯磨用基材,飼料,微 生物固定化担体などとして広範囲な分野で利用されて いる。食品分野においても,カルシウム強化剤,パン やケーキの品質改良剤(膨張剤,イーストフード助 剤),醸造用の発酵助剤,固結防止剤などに使われて いる。また,CAP の 1 種であるハイドロキシアパタ イト(HAP,Ca10(PO4)(OH)6 2)は,脊椎動物の骨や 歯の主要構成成分であるとともに,タンパク質吸着担 体としても知られており,タンパク質や核酸などの生 体関連物質の分離に広く用いられてきた1)。HAP は, 単斜晶系あるいは六方晶系の結晶であり,その表面に は,Ca2+が露出して正に帯電している C サイトと OH-と PO 43-が露出している P サイトがある。各サ イトでは,それぞれのサイトとは逆の電荷を持つタン パク質や DNA などの物質が,イオン交換的あるいは 静電的に吸着する2, 3)。この特性を利用して,HAP を 始めとする CAP は,低級脂肪酸,重金属イオン,ウ ィルス,細菌など,様々な成分の吸着剤として研究さ れている4-8)。 CAP の特性は,出発原料であるカルシウム塩やリン 酸塩の種類や配合比,合成法の違いで大きく変わる。 生成する CAP の種類や結晶性も異なり,複数の種類の CAP が混在する場合も多い。形状も不定形,板状,針 状,ブロック状など,様々である9)。例として,第 1 表 に示したような出発原料,温度条件,添加物で溶液法 により調製した CAP の特性を第 2 表に示す。調製条件 により,生成する CAP の種類や結晶性が異なり,比表 面積にも差が生じる。一般に結晶性が低い(XRD のピ ーク形状がブロードである)CAP の方が,比表面積が 大きくなり,後述するように塩基性タンパク質である リゾチーム(LYZ)に対する吸着能も増加する。 ま た 溶 液 法 の 場 合, 酸 性 条 件 で は,brusite (CaHPO4・2H2O) や monetite(CaHPO4) が 生 成 し, 中性からアルカリ性条件下では HAP が得られる10)。 実際に,NaHCO3存在下で CaCl2と Na2HPO4の水溶 液を Ca/P モル比を 1.67 として混合し,溶液法により CAP を合成した11)。合成した CAP の特性を第 3 表 に示す。XRD 及び TG-DTA の結果から,NaHCO3の 量比を増やして溶液の pH がアルカリ性に傾くにつれ, 生成した CAP の結晶相は,monetite からカルシウム 欠損型ハイドロキシアパタイト(CDHA)に変化する
リン酸カルシウムの醸造分野での活用
近年,清酒を始めとする醸造食品の製造において,いかにして品質を保つのかが重要な課題となってきた。 特に清酒においては,生酒や生貯蔵タイプの酒質が好まれるようになり,その重要性は増すばかりである。 タンパク質を除去するために火入れ・滓下げ処理または精密なろ過処理を省略できれば,コスト的にもメリ ットがある。本稿では,複合的なメカニズムによって独特の吸着性を示すリン酸カルシウムを用いて醸造産 物の品質に大きく影響を及ぼす金属イオン,タンパク質,細菌の除去への可能性について解説頂いた。醸造 業界に身を置く者として一日も早い研究開発の成果を待ち望む次第であり,ご一読をお勧めします。近 藤 徹 弥
CAP Ca source(mol) (mol)P source (mol)Additive Alkari source(mol) (℃)Temp. Ca + PAddition of
+ additive alkari
CAP1 Ca(NO3)2 0.3 (NH4)2HPO4 0.18 NH4OH 0.6 50 gradually gradually
CAP2 Ca(NO3)2 0.3 (NH4)2HPO4 0.18 NH4OH 1.5 95 gradually gradually
CAP3 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 NaOH 0.03 50 gradually gradually
CAP4 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 NaOH 0.6 50 gradually gradually
CAP5 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 NaOH 0.6 95 gradually gradually
CAP6 Ca(NO3)2 0.3 Na2HPO4 0.18 (NH4)2CO 0.45 95 gradually gradually
CAP7 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 (NH4)2CO 0.45 95 gradually gradually
HApW Wako for column chromatography HApN Nacalai fast flow type
CAP10 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 35 at once
CAP11 CaCl2 0.3 Na2HPO4 0.18 NaHCO3 0.12 35 at once
CAP12 CaCl2 0.3 NaH2PO4 0.18 NaOH 0.6 35 at once gradually
CAP13 CaCl2 0.3 NaH2PO4 0.18 NaHCO3 0.12 NaOH 0.6 35 at once gradually
第 1 表 溶液法による CAP の調製条件
CAP XRD peak shape Identification using XRD Ca/P Specific area m2/g
CAP1 sharp CDHA Monetite 1.43 13.81
CAP2 sharp CDHA Monetite 1.37 11.75
CAP3 sharp Monetite Brushite 1.17 21.93
CAP4 broad HA 1.67 46.52
CAP5 broad HA 1.66 25.99
CAP6 very sharp CDHA 1.54 1.60
CAP7 very sharp CDHA 1.54 2.36
HApW very sharp HA 1.69 4.37
HApN broad CDHA 1.45 34.55
CAP10 very sharp Monetite 1.03 0.62
CAP11 broad CDHA Monetite 1.39 61.60
CAP12 broad CDHA 1.60 58.11
CAP13 broad CDHA 1.72 38.83
HA: Hydroxyapatite
CHDA: Calcium-deficient hydroxyapatite, Ca9HPO(PO4 4)5OH
Monetite: CaHPO4 Brushite: CaHPO4·2H2O 第 2 表 CAP の特性 CAPa 調製時の Ca/PO4/CO3比 XRD による 同定b, c の存在比Monetited Ca/P CAP11(P6C0) 10/6/0 Monetite 100 1.03
CAP11(P6C1) 10/6/1 Monetite CDHA 15 1.14
CAP11(P6C2) 10/6/2 Monetite CDHA 22 1.23
CAP11(P6C4) 10/6/4 Monetite CDHA 5 1.39
CAP11(P6C8) 10/6/8 CDHA 0 1.61
a炭酸塩の添加量を変えて,第 1 表の CAP11(= CAP11(P6C4))の調製条件に従い,調製した.
bCDHA: Calcium-deficient hydroxyapatite, Ca
9HPO(PO4 4)5OH cMonetite: CaHPO
4
dMonetite の XRD における 010 ピークの面積比から算出
ことがわかった。それとともに CAP の比表面積も増 大した。一方,CaCl2や Na2HPO4の量比を変えても, 比表面積はほとんど変化しなかった。メカノケミカル 法によって合成した CAP を用いて,pH7 の中性条件 下でタンパク質吸着試験を行ったところ(第 1 図), 溶液法で合成した CAP と同じく9, 12),LYZ(pH7 で は正に荷電)の吸着量は CAP の結晶相や Ca/P モル 比に依存せずに比表面積に比例したのに対し,牛血清 アルブミン(BSA,pH7 では負に荷電)の吸着量と 比表面積との相関は低かった。これらのことは,BSA の CAP への吸着には比表面積以外の因子が関与して いることを示唆するとともに,調製法によって吸着物 質に対する相互作用の強さや選択性を制御した CAP を合成できることを意味している。 我々は,これまでに CAP やシリカゲルなどのセラ ミックスを用いて液状食品中のアレルゲンを含むタン パク質を吸着除去する技術の開発に取り組んでき た9, 11-15)。その過程でカルシウム塩やリン酸塩の種類 や配合比,添加物の有無,調製法を様々に変えて調製 した CAP の物質吸着能について検討してきた。本稿 では,醸造分野とも関わりの深い水中の金属イオンや 細菌,及び清酒やみりん中の滓や酵素などの品質劣化 タンパク質を対象に,これらの物質の CAP による除 去に関する我々の取り組み9, 12)を紹介する。 2.水からの銅やマンガンの除去 醸造用水に限らず,飲料や食品の製造に用いられる 原水の品質は製品に与える影響が大きいため,水質の 良い原水を使用することが重要である。例えば,井戸 水は,水質の安定した水源として用いられているが, Fe,Mn,硬度,アルカリ度が高い場合も少なくない。 Fe や Mn は地下水にも含まれていることが多い元素 であり,異臭味や着色水(赤水や黒水)の原因となる。 また,Fe はお茶中のタンニンと結合してお茶の味や 色を悪くする。Cu,Fe,Mn,Cr,Ni,Co などの金 属イオンは,酸化触媒として油脂の酸化を促進させ る16)。清酒の品質と金属との関係も古くから知られ ており,特に Fe,Cu,Mn は清酒の着色に影響す る17)。Fe は麹菌の生産するデフェリフェリクシンと 結合して赤褐色のフェリクリシンとなり,着色の原因 となる。日光による清酒の着色には Mn が関与してい る。Mn2+,Cu2+,及び Fe3+は清酒の貯蔵着色を促進 する。このため,食品衛生法(食品,添加物の規格基 準)や水道法により定められている水質基準に加えて, 醸造用水にはより厳しい基準が定められている(第 4 表)18)。 外来の陽イオンや陰イオンは,HAP を構成する Ca2+や OH-とそれぞれ常温でイオン交換あるいは固 溶する。イオン性の有機物が HAP の C サイトや P サ イトへの静電的な表面吸着をするのに対し,金属イオ ンは HAP 構造中の Ca2+との構造置換により HAP 中 へ取り込まれ,F-は OH-と置換される。この性質を 利用して,飲料水や廃水中の Cd,Pb,Ni,Zn,Cu, 第 1 図 CAP の比表面積とタンパク質吸着能 醸造用水 水道水 色彩 無色透明 無色透明 臭・味 異常のないこと 異常のないこと Fe 0.02 mg/L 以下 0.3 mg/L 以下 Mn 0.02 mg/L 以下 0.05 mg/L 以下 Pb 0.01 mg/L 以下 Cd 0.003 mg/L 以下 F 0.8 mg/L 以下 As 0.01 mg/L 以下 Zn 1.0 mg/L 以下 Cu 1.0 mg/L 以下 亜硝酸性窒素 不検出 10 mg/L 以下 pH 中性または微アルカリ 5.8 以上 8.6 以下 アンモニア性窒素 不検出 記載なし 一般細菌 記載なし 100以下 /mL 細菌酸度 2mL 以下 記載なし 生酸性菌群 不検出 記載なし 第 4 表 水質基準(抜粋)
Fe,As や F などの除去が試みられている19-21)。そ こで,我々が合成した CAP の Fe,Mn,Cu 除去能 について検討した。 Fe2+,Cu2+,あるいは Mn2+を 10 ppm 含む pH6.0 の MES 緩衝液に CAP を 0.5% となるように添加し, 25℃で一定時間振とう後,遠心上清中の Fe,Cu, Mn を原子吸光法により定量した。第 5 表に示したよ うに,CAP の種類により除去率が大きく異なった。 CAP13 で は,Fe や Cu を 0.02 ppm 未 満,Mn も 約 0.06 ppm まで低下させることができた。これらの金 属イオンの除去は 1 時間以内で完了した。また,Cu や Mn の吸着量は CAP の比表面積と良く対応した。 これは,塩基性タンパク質である LYZ の CAP への 吸着が CAP の比表面積に比例することを考え合わせ ると,Cu や Mn の除去が CAP 結晶の表面に露出し ている C サイトでの Ca との構造置換型のイオン交換 によるものと考えられた。 前川は,仕込水,原料米,普通酒の無機成分量を比 較した結果から,清酒の着色度と関係する Fe や Cu が主に仕込水中の含量や製造工程中における汚染に由 来するのに対して,清酒中に含まれる Mn の由来のほ とんどが原料米であると指摘している22)。清酒中に 含まれる Fe や Cu 含量は 0.1 ~ 0.2 ppm であり,仕 込水の約 10 倍以内に留まっている。これに対し,Mn は清酒中には 1 ppm 前後含まれており,仕込水の約 500倍にもなる。したがって Mn の場合,仕込水の管 理や製造工程中での混入防止はもちろんであるが,製 造後での除去対策も必要と考えられる。試しに,本醸 造清酒に 1% 量の CAP を 4℃で 1 時間接触させたと ころ,Mn 含量が 2.9 ppm から 0.5ppm に低下し,清 酒中の Mn 除去への CAP の有効性が認められた。 3.みりんや清酒のタンパク質除去 みりんは,醤油と並ぶ日本の伝統的な調味料の一つ であり,蒸したもち米と米麹にアルコールを加えて作 られる。みりんは調理時に加熱してアルコール分を飛 ばして使用する(煮切る)ことが多い。この煮切る際 に生じる混濁現象は「煮切り」と呼ばれ,みりんの製 品不良の一つとなっている。この煮切りの原因となる のが,もち米由来のグルテリンや麹菌由来のアミラー ゼなどのタンパク質である12, 23)。現状の煮切り防止法 として火入れ・滓下げが行われているが,過度の加熱 によるみりん本来の風味の低下やエネルギーコストな どの問題がある。また,煮切りを起きにくくするため には加圧蒸煮が有効であるが24),伝統的な製法(常 圧蒸製法)を行っている中小企業にとっては設備投資 コストの面から導入が難しい。 そこで,CAP を使ってみりんの煮切り原因タンパ ク質の除去を試みた。第 2 図のフローに従い,みりん を火入れ・滓下げ処理,あるいは CAP 処理を行った。 CAP には,鳴海製陶(株)がメカノケミカル法によ CAPa 除去率(%) Fe Cu Mn CAP1 75.4 99.9 87.2 CAP2 72.1 99.9 77.2 CAP3 83.3 99.6 89.3 CAP4 22.2 100.0 97.9 CAP5 93.3 99.8 85.4 CAP6 75.7 69.0 17.7 CAP7 86.0 81.7 25.3 HApW 73.5 98.2 45.9 HApN 72.5 100.0 99.7 CAP10 99.7 84.3 5.4 CAP11 100.0 99.7 98.5 CAP12 39.5 100.0 99.5 CAP13 100.0 100.0 99.3 aCAP の種類は第 1 表を参照のこと. 第 5 表 CAP の金属イオン除去能 第 2 図 みりんの火入れ・滓下げ処理と CAP 処理
り調製したものを用いた。処理後のみりんの電気泳動 図を第 3 図に示す。火入れ・滓下げ処理では一部のタ ンパク質しか除去されていないが,CAP 処理ではα-アミラーゼを除く大部分のタンパク質が除去されてい ることがわかる。成分分析の結果(第 6 表),火入 れ・滓下げ処理によるタンパク質除去率が約 34% で あったのに対し,CAP 処理では 96% 以上除去された。 CAP 処理ではタンパク質以外の成分量の変化は小さ く,官能的にも未処理とほとんど差がなかった。加熱 火入れ・滓下げ処理みりんに対し,CAP 処理みりん のみが混濁しなかった(第 4 図)。このことから, CAP 処理は,未加熱でみりん中のタンパク質を効果 的に除去することができ,みりんの煮切り混濁防止に 有効であることがわかった。 清酒においても,残存しているタンパク質が滓や濁 りを引き起こす原因の一つと考えられている25-27)。 原酒には 28 kDa,49 kDa 付近及び 50 kDa 以上の広 い分子量範囲のタンパク質が含まれている(第 5 図)。 滓原因タンパク質はマンノース,ガラクトース,グル コースを含む糖タンパク質(糖含量約 30%)であり, その主体は麹菌由来のグルコアミラーゼ(GA)であ るといわれている28)。また,グルコアミラーゼやイ ソアミルアルコールオキシダーゼ(iAmOH-Ox)な どの酵素の活性が残存していると,「甘だれ」や「生 老香(なまひねか)」と呼ばれる風香味の変質を引き 起こす29, 30)。一般清酒の場合,圧搾後,火入れ・滓下 げ処理により,酵素を熱失活させるとともに滓の原因 となるタンパク質が除去される。火入れのみでは,タ ンパク質の大部分は清酒中に残存しているが,滓下 げ・ろ過工程を経ることによって除去される。滓下 げ・ろ過工程のみではタンパク質は十分には除去され ない。滓下げ工程には数日から数週間を必要とする。 未処理 火入れ・滓下げ処理 CAP 処理 濁度(NTU) 38.1 36.9 30.4 OD430 0.258 0.281 0.206 pH 5.74 5.64 5.31 アルコール(%) 13.4 13.4 13.2 全 N(%) 0.15 0.14 0.12 酸度 0.81 0.85 0.82 アミノ酸度 2.9 2.8 2.8 直糖(%) 43.1 43.2 43.2 Brix(%) 46.4 46.2 46.1 タンパク質濃度*1 (mg/mL) 1.56 (33.8)1.03 (96.1)0.06 *1Bradford 法,( )内はタンパク質除去率(%) 第 6 表 みりんの成分分析 第 3 図 みりんの SDS-PAGE 加熱煮切り 加水煮切り 第 4 図 みりんの煮切り試験
タンパク質が凝集して二次滓となることもある。一方, 搾りたてのフレッシュな香りや味が特徴である生酒は, 火入れ処理がなく,酵素活性が残存している。このた め,流通・保存中の温度管理が不適切であると,酵素 反応によって品質が変化する。酵素反応の抑制のため には低温保持が必須であるが,冷蔵下であっても賞味 期限は 1 ~ 6 カ月と短い。 この原酒に常温以下で様々な CAP を接触させた 第 5 図 火入れ,滓下げ工程における清酒中の残存タンパク質の SDS-PAGE CAP C 第 6 図 CAP と接触させた清酒の SDS-PAGE
Lane C: 原 酒,1: CAP1,2: CAP2,3: CAP3,4: CAP4,5: CAP5,6: CAP6, 7: CAP7,8: HApW,9: HApN,10: CAP10,11: CAP11,12: CAP12,13: CAP13. CAP の種類は第 1 表を参照のこと。
(第 6 図)。CAP の種類によって除去されるタンパク 質は異なり,多くの CAP は 50 kDa 以上の高分子領 域のタンパク質を除去できなかった。しかし,いくつ かの CAP では SDS-PAGE 上でタンパク質バンドが ほぼ認められず,タンパク質除去率も 100% に近かっ た。また,「甘だれ」の原因酵素である GA30)の残存 活性も CAP 添加量に応じて低下した(結果は図示せ ず)。30℃で 2 ヶ月間(常温 6 ヶ月間に相当),清酒の 保存試験を行い,生酒の保存性の指標であるグルコー ス生成と着色(OD430)の経時変化を追跡した。第 7 図に示したように,CAP 接触清酒のグルコース生成 速度や着色速度は,火入れをしていない原酒(生酒) と比べて遅く,火入れ・滓下げ・ろ過清酒(一般清 酒)の場合とほぼ同等であり,風味も良好であった。 CAP の選択や接触条件の最適化の結果,CAP の添加 量 3% 以下,0℃で 1 時間の接触により,甘だれなど の品質劣化に関わる GA を 80% 以上の除去が実現で きた。火入れ前の本醸造酒や吟醸酒を CAP 処理する と,生老香の原因物質の一つであるイソバレルアルデ ヒドの保存試験中における生成が抑制されることも予 備的に確認している。これは,イソアミルアルコール のイソバレルアルデヒドへの酸化を触媒する iAmOH-Ox が CAP により除去されたためと考えられる。以 上のことから,非加熱で CAP と接触させることによ り,火入れ滓下げ清酒(従来清酒)とほぼ同等の保存 性(着色,糖生成速度,香り)を持つ生酒タイプの清 酒を製造できる可能性が示された。しかし,CAP 処 理により,アルコールやアミノ酸度はほとんど変化し なかったものの,酸度が若干低下することが確認され ている。現在,食品添加物規格に適合し,且つ酸度低 下を抑制できる CAP の開発に取り組んでいる31)。 4.細菌の除去 飲料や食品の製造に使用する水の原水は,食品衛生 法(食品,添加物の規格基準)や水道法により,水質 基準が定められている。微生物に関しても,大腸菌群 が検出されないことや一般細菌が 100/mL 以下である ことなどが定められている(第 4 表)。これは,水中 に存在する微生物が異臭や異物の原因となるだけでな く,感染症を引き起こす場合があるためである。この ような基準が定められているにも関わらず,微生物に 道が十分に整備されていない発展途上国や,先進国で あっても震災などの一次災害直後においては,飲用水 の微生物汚染が甚大な健康被害をもたらす恐れがある。 このため,電気やガスなどのライフライン途絶下や未 整備な環境下においても,迅速かつ簡便で安価に衛生 的な水を確保するための微生物除去法が望まれている。 水中の細菌を除去する方法として,(1)紫外線, (2)加熱,(3)ろ過膜,(4)吸着材を用いた方法など がある。(1)及び(2)の方法は殺菌法であり,食品 工業用水などで実際に稼働している方法であるが,熱 エネルギーや電気エネルギーを要する。(3)は浄水器 などで汎用的に使われている方法であるが,ろ過膜の 孔径が捕集対象物の大きさより小さいことが必要であ る。このため,一般に圧損によりろ過流速が遅く,目 詰まりが起こりやすい。(4)では,活性炭やシリカゲ ルなどの多孔体などが主に用いられている。多孔体の 吸着原理は物理吸着であり,細孔内に取り込み可能な サイズの細菌のみが吸着され,吸着力も弱い。一方 CAP は,結晶構造中の C サイトや P サイトが細菌表 面に局在するカルボキシル基やアミノ基などと相互作 第 7 図 清酒の保存試験 ● : 原酒,▲ : 火入れ・滓下げ・ろ過清酒,□ : CAP 処理清酒.
用して細菌を吸着することができる7, 8)。そこで,水 中の細菌を迅速かつ簡便に除去できる CAP の開発を 試みた。 生菌数が 104~ 107/mL となるように調製した菌懸 濁液を CAP(懸濁液の 1/50 量)と 1 分間接触させ, 10分間静置後の上澄み液中の生菌数をコロニー計数 法により測定した。生菌数の結果を基に微生物除去指 数を求めた。微生物除去指数は菌懸濁液と上澄み液の それぞれの生菌数の対数の差として定義した。例えば, 除去指数が 3 であれば 99.9% の微生物除去率となる。 当初,タンパク質高吸着性 CAP として開発した CAP( 例 え ば, 第 1 表 の CAP) や 市 販 の HAP を
Escherichia coli(大腸菌)の懸濁液と接触させたが, 期待していたほどの微生物除去能がなく,いずれも 20% 以下の除去率であった。そこで,出発原料や製 法を再検討して CAP を新たに調製した。その結果, 幾つかの CAP の微生物除去指数が 3(除去率 99.9% 以上)を越えることがわかった(第 7 表)。様々な細 菌に対する除去試験を行った結果(第 8 図),細菌の 種類によって除去率が大きく異なった。E. coli,Ba-cillus subtilis,Pseudomonas putida,Bacoli,Ba-cillus coagu-lans,Alcaligenes faecalis は CAP との接触によって 効果的に除去された。また,Micrococcus luteus や腸 球菌(Enterococcus faecalis や Enterococcus facium)
CAPa E. coli 微生物除去指数(除去率 %) タンパク質吸着量mg/g-CAP
NBRC3301 NBRC3009B. subtilis NBRC14463P. putida LYZ BSA
A1-130723bW 1.58 (97.4) 3.04 (99.9) 6.08 (100.0) 17.7 13.6 A2-130723bW 0.15 (28.6) 1.95 (98.9) 0.29 (49.2) 24.6 6.7 A17-130507W 1.20 (54.3) 2.19 (99.4) 0.41 (61.5) 5.6 5.8 A18-130507W 0.21 (67.9) 2.19 (99.4) -0.03 (-7.7) 22.9 3.0 A19-130507W 0.34 (75.7) 2.29 (99.5) 0.33 (53.1) 15.8 15.1 A20-130507W 0.49 (7.1) 1.89 (98.7) 0.53 (70.8) 20.2 38.0 A24-130710W 1.45 (96.4) 0.74 (81.7) 6.08 (100.0) 16.9 15.7 A25-130710W 0.15 (28.6) 2.03 (99.1) 0.55 (71.7) 17.3 11.9 A7-130108aW 0.30 (58.6) 1.52 (97.0) 0.25 (43.8) 12.8 23.0 A7-130108bW 0.00 (50.0) 1.82 (98.5) 0.16 (31.5) 10.8 2.5 A8-130108a 0.38 (93.7) 2.14 (99.3) 0.07 (15.4) 8.3 38.5 A8-130108b 0.30 (38.6) 2.15 (99.3) 0.00 (0.0) 6.7 2.8 A21-130507W 0.61 (14.3) 0.14 (27.9) 1.24 (94.2) 51.0 43.9 A22-130507W 0.03 (0.0) 0.16 (31.4) 0.07 (15.4) 16.9 2.5 A23-130507W 0.07 (0.0) 0.39 (59.3) 0.15 (30.0) 13.2 5.1 B9-130809W 0.07 (14.3) 2.50 (99.7) 0.39 (59.2) 6.3 12.7 a 出発原料として CaHPO
4・2H2O,Ca(OH)2,CaCO3,CaO,CaCl2,Na2HPO4を組み合わせて用い,溶液法あるい
はメカノケミカル法で調製した.
第 7 表 CAP の微生物除去能
に対する除去率はやや悪かったが,それでも 80% 以 上は除去することができた。細菌の種類によっては, 除去率が pH に依存する場合もあった。接触試験後に 十分洗浄した CAP を培地に添加したところ,細菌の 増殖が見られたことから,CAP の細菌除去原理は吸 着であることが示唆された。しかし,微生物除去能と タンパク質吸着能や結晶相との関連は認められず, CAP の物理化学的特性と微生物除去能との関連につ いて明らかになっていない。CAP の構造と微生物除 去能との関係が明確になれば,より高い除去性能を持 つ CAP の開発が期待できると考えられる。 5.おわりに
CAP は,表面に露出している Ca2+,OH-,PO 43- に由来する静電的な相互作用に加えて,Ca に対する アフィニティーや Ca2+や OH-とのイオン交換など複 合的なメカニズムによって,独特の吸着特性を示す。 今回,そのユニークな特性を持つ CAP を使って,醸 造の品質に大きく影響を及ぼす,金属イオン,タンパ ク質,細菌の除去への可能性について紹介した。対象 となる物質は,サイズが数 10nm ~数μm と広範囲に わたり,性状も大きく異なるにもかかわらず,CAP を適切に選択すれば除去できることがわかった。解決 すべき課題はまだまだ残されているが,ここに紹介し た内容をさらに発展させて実用化につなげたいと考え ている。 謝 辞 本研究の遂行にご協力及びご助言いただきました, 名古屋大学の松田幹教授,名古屋文理大学の加藤丈雄 教授,盛田株式会社の伊藤智之氏,寺尾圭吾氏,諸麥 豪二氏,鳴海製陶株式会社の野崎哲氏,徳永恭之氏, あいち産業科学技術総合センターの児島雅博氏,福原 徹氏,石原那美氏をはじめとする職員の皆様に感謝申 し上げます。本研究の一部は,「中小企業 地域新生コ ンソーシアム研究開発事業」(平成 18 ~ 19 年度,経 済産業省),「共同研究推進事業」(平成 22 ~ 23 年度, (公財)科学技術交流財団),及び「A-STEP FS ステ ージ探索タイプ」(平成 24 年度,JST)の助成を受け て行われました。 〈あいち産業科学技術総合センター 参考文献
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