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第50回国際理解講座

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Academic year: 2021

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87回国際理解講座要旨

国分寺市国際協会 国際理解部会 第87 回国際理解講座を 2018 年3月 17 日、本多公民館で開催しました。講演者は、 防衛大学校名誉教授で、日本エネルギー経済研究所の客員研究員でもある立山良司さん、 演題は「深まる中東の危機:内戦、国家の解体、拡散するイスラム過激テロ」。立山さん は、中東地域の政治・軍事・エネルギー問題にお詳しく、時々現地に赴いて情報交換を されており、本日は生の情報をもとに最近の複雑な中東情勢と関係する国々の係わり等 についてわかりやすく解説されました。また、質問にも丁寧に答えられ、聴講者は難し い中東情勢の理解が深まった、などたいへん好評でした。 以下に、立山さんの講演の要旨を紹介します。 1.はじめに 本日は長い演題になったが、それは、中東地域がそれだけ混乱していると受けとっ てほしい。 中東の多くの国で内戦が続き、テロ組織が活発に活動している。さらに、これにト ルコ、ロシア、イランなどが異なった思惑で関与して混迷度を高めている。シリアの 内戦は7年近く続き、イエメンは3年、リビアは「アラブの春」でガタフィ政権が倒 れて以降、内戦ではないが混乱が続いている。この他、アフガニスタン、イラク、エ ジプト、アルジェリアなどで、それぞれの国家が全土を支配できず、不安定な状況で ある。このような状況の中で、IS やアル・カーイダ、その残党などの過激なテロ組織 がシリア、イラク、アフガニスタンなど、内戦が続いている地域や統治の不完全な地 域で活動し、混乱に拍車をかけている。 2.シリアの内戦 1)未曾有の人道危機 ・シリアの内戦は2011 年から7年近く続いており、この間多数の死者(40 万人以上 とも言われる)が出ているが、最近は死者の数が多過ぎることもあって国連が発表 しなくなった。 ・シリア国内での生活が危機に陥り、何らかの人道支援(食料、水、医薬品、住居な ど)を必要としている人は 1310 万人に上る。難民として登録された人数も増加し、 国外に出た難民は、本年1月現在 548 万人で、難民を最も多く受け入れている国は トルコで、その他レバノン、ヨルダン、イラク、更にドイツ、ハンガリー、スエー デンなどのヨーロッパ諸国も受け入れている。シリア国内での避難民も 630 万人と 言われ、国内外合わせると1100 万人を超え、シリアの全人口 2100 万人の半数以上 となっている。

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2)アサド体制の特徴 現在のアサ大統領はアサド二世(前大統領の息子)で、実質的に世襲制である。 アサド体制の統治のやり方は、利権や経済的利益を近親者や支持者に与え、その代 わりに忠誠を誓わせるというもので、それから外れていると利権に預かれず、経済 的利益も得られない。 アサド家はイスラムの少数派(シーア派に近いアラウィー派)で、国民の大部分 はスンニ派のため、宗教的には少数派が支配していることになる。このためシーア が主体のイランとの関係を重視し親しくしている。1973 年の第四次中東戦争でシリ アとイスラエルが戦ったとき北朝鮮がシリアを支援したので今でも北朝鮮との関係 は良い。 3)シリア内戦の特徴 ・2011 年の「アラブの春」がシリアにも飛び火し、民主化や政治的自由を求めて反体 制派ができた。反体制派は、最初はアサド体制側に対し優位だったが、地域、民族、 宗派など色々な違いが表面化してバラバラで結集できない上に、イラン、レバノン のヒズボラも体制側につき、さらにロシア空軍がアサド体制を支援して反体制派に 対して攻撃を続けた結果弱体化し、2017 年以降は体制側が優位にたっている。 ・反体制側にも、サウジアラビア、トルコ、クエート、米国などが支援するが、それ ぞれが個別に支援しているためまとまらず、国連特使が調停を試みても、アサド体 制側が強く、反体制派がバラバラなうえ、主張が「アサド退陣」という原則論ばか りのため進まず、調停は機能していない。 3.シリアの内戦とイスラム国 1)IS とは シリアの内戦の状況をさらに難しくしたのは IS(イスラム国)の出現で、元の名称 はISIL(Islamic State in Iraq and Levant,イラクとレバントのイスラム国)で、主に イラクで活動していたが、シリアで内戦が始まるとシリアに侵入して支配地域を拡 げ、イラクとシリアを中心に活動を活発化させた。2014 年に名称を「イスラム国」 に改称しこの名称が定着した。 2)IS の特徴 IS の特徴の 1 つに、一定の領域、民衆を支配していたことが挙げられ、最も多い 時で数百万人の住民を支配した。普通、テロ組織は領土を取って支配することはな いので IS の活動形態は異例と言える。また、IS はインターネットを使用するなど 高度な宣伝活動を展開したので、中東、アジア、ヨーロッパの各地から不満をもっ ている若者たちがこれに惹かれて戦闘員に加わった。極めて残虐な行為で殺戮をつ づけたので、国際社会も強い意志をもってIS 制圧に立ち上がり、米、英、仏、サウ ジアラビアが中心となり IS を攻撃し、ほとんどの支配地域を制圧して取り返した。 現時点でシリア、イラクにおけるIS は大きな問題ではなくなった。

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4.今後のシリア このような状況の変化の中で、今後シリアはどう動くか。 ・アサド体制は、ロシアとイランの支援を受けて優勢ではあるが、アサド政権の支 配地域はシリア全体の半分で、政権自体が強いというより も多数の武装勢力がア サド大統領を支持または忠誠を誓っていることによるもの。軍隊組織でもシリア 軍 25 万人のうちアサド政権の国軍の部隊は半数以下で、他はアサド支持勢力の 武装勢力と推定され、アサドは寝返りを警戒している。また、アサド政権に対し て強い怒りや恨みをもっている人も多く難民も増え続けている。更に、シリア国 内で大きな勢力となったクルド問題もあり、不安定な状況が続く。 ・クルドが IS 攻撃に参加したことから、クルドに米国が IS 戦闘用の武器を渡した こと、トルコのテロ組織 PKK が支援したことでクルドの力が強化されてシリア 内で支配地域を広げた。これらの色々な状況からシリア内戦は簡単には収まらな い。 ・もう1 つの重大な問題は、難民の子どもたちの教育問題。内戦が始まってから教 育をほとんど受けておらず、今後も教育の機会は与えられそうもない。そのため、 たとえ平和が戻っても、インフラの再生や経済復興などを進める人材を育てられ ず、大問題である。 ・外国部隊の残留の問題もある。主体はシリアを支援するロシアとイランで、戦闘 終了後も残留することになっている。特に、ロシアは海軍と空軍の基地を49 年間 借り受け、さらに25 年の延長も可能な合意を結んだ。この結果、地中海や周辺地 域を自由に行動でき、情報収集も可能になるので、ロシアにとって大きなメリッ トを得たことになる。 ・一方、イランは、「なぜシリアなどに軍隊を出さなければならないのか」という抗 議が政府に寄せられるなど政府を批判する声があがり、イランを敵視するイスラ エルがシリア内のイラン基地を空爆するなど危険な状態が続いて、シリアとイラ ンの関係は複雑になっている。 5.なぜ中東に内戦や国家の解体・弱体化が起きるのか ・かつては、オスマン帝国が中東の広い地域を支配していたが、第一次世界大戦に 敗れて解体され、その過程でイラク、シリア、ヨルダンなど多くの国が独立して 中東地域はバラバラになった。しかも、それぞれ国の国境が英仏両国によって人 為的・恣意的に決められたことで、住民は住んでいた場所によって国籍を決めら れた。このため、「私は・・・国民」というより部族や民族、宗教や宗派、イデオ ロギーなど様々な帰属意識の方が強く残された。さらに昔から遊牧民等、国境を 越えて移動する集団が存在した。 ・これらのことの結果として、国民としての意識が希薄になり、国家としての一体 性の欠如をきたした。また、陸続きのため国境の管理が難しく、国境を有効に管 理できないため、武器の移動がしやすく外国の介入も容易にしている。 ・中東諸国の統治方法は、完全独裁体制ではなく、例えばシリアのアサド政権では

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同じ主義や政権を支持する個々のグループに利権を与え、忠誠心を引き出すこと により体制に取り込む方式。エジプトでは、巨大な治安機関をもって反体制派を 抑圧することによって体制を保っている。 ・政権に近い一部のグループだけが巨大な富みを得ることで貧富の差が拡大し、国 民の不満が募るが、表現の自由がなく政権交代のルールもないため、不満は鬱積 する。 このような不安定な社会体制では、外国の支援や投資も期待できないので産業が 興らず、したがって失業者が増えてますます不安定になるという悪循環に陥って いる。 ・チュニジアで始まった「アラブの春」はエジプト、リビア、サウジアラビアなど 中東各地に拡大し、政権側が有効な収拾策を打ち出せないため政治的不安定、社 会の混乱は続く。 ・「アラブの春」の後の情勢として4 つのパターンがある。 ① サウジアラビアなど多くの国がばら撒きによる問題の先送り ② エジプトのように政権交代後、再び強権政治に逆戻り ③ チュニジアのように、一応民主化に成功したが、経済的に多くの困難が残り、 国民の不満が増大し、真の民主化は確立できない。 ④ シリア、リビア、イエメンなど、内戦が続く。 6.イスラム過激主義について ・不安定な状況が続く中でイスラム過激派が活発に活動を始める。イスラム過激主 義をどう考えればよいか難しいが、イスラム過激主義が生まれた背景を見る必要 がある。 ・近代以前の宗教は政治と混在していて、ローマ教皇に絶大な力があったが、ナポ レオン時代に入り、教皇の権威が否定されて宗教は力を失い、「政教分離」が始ま った。イスラム社会でも宗教は政治と混在していたが、宗教は公のものではない という考え方が出始めて宗教が公的領域から排除されるようになっていった。 ・これに対し、宗教界から「イスラムの教えを実践しないから混乱が生じている」 として世俗主義(脱イスラム化)に反発し、「イスラムの教えを実践しよう」とい うイスラム主義の動きが出て、イスラム主義の反撃が活発化する。その最も有名 なグループがエジプトのムスリム同胞団。エジプト政権はこのグループをテロ組 織と言っているが実態は穏健主義で、暴力で政府を倒すことは否定しておりテロ 組織ではない。 ・この穏健主義に飽き足らない個人やグループが過激化し、アフガニスタンに侵攻 したソ連や湾岸戦争などでイスラム世界を攻撃する米国に対抗する「ジハード(聖 戦)」の呼びかけを行う。その一人がオサマ・ビンラーディンで、これに呼応して 各地でイスラム教徒が戦士となってして参加した。 ・過激主義組織は、内戦や国内の混乱を利用して活動を活発化し、その中でIS が組 織化された。組織はインターネットなどを利用し巧みな宣伝でジハードへの参加

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を呼びかけ、中東だけでなくヨーロッパの不満をもつイスラム教徒の若者も呼応 して参加し戦闘が拡大して行く。 ・「IS 後」の問題は一匹狼型のテロで、大きな組織がなくても個別のテロが多発し ており、しかも世界各地で起こっていることから、これをどう防ぐかは個別の対 応となるが、今後の重要な課題である。 7.産油国の憂鬱 ・世界的な石油需要の低迷に加え、米国のシェールオイルの増産で石油価格が低下 し、さらに中東産油国自体が人口増加による消費の増大で輸出量が減少している。 これらが原因となり産油国の石油収入が減少して厳しい状況になっていて、産油 国の憂鬱は続く。 8.中東と国際政治 1)イランの核開発の問題。イランの核開発を国際原子力機関(IAEA)の査察下に 置くことをイランが同意したためイランと米国などで合意が得られ、制裁の多く も解除されたが、核開発にたいする疑念は残っている。トランプ政権は合意の破 棄を主張していることもあり先行きに暗雲が漂う。制裁解除を継続するか否かを トランプ大統領が決断する期限が今年の5月なので成り行きが注目される。 2)パレスチナ問題。パレスチナとイスラエルの和平交渉が行われず、こう着状態 が続いているのに加え、トランプ政権がエルサレムをイスラエルの首都と認める 発言をし、さらに、イスラエル独立 70 周年に合わせて今年5月に大使館をテル アビブからエルサレムに移転すると言明した。これはパレスチナにとっては絶対 に許されないことで、イランの核開発問題とともに「今年5月」に注目。 3)ロシアと中国の進出。ロシアはシリアで足場を確立し、イラン、サウジアラビ ア、トルコなどとの関係も拡大させる。中国は「一帯一路」を進めてアジア~中 東での権益を拡げ、中東各地での投資を拡大させる。 4)米国トランプ政権の政策の行方。トランプ政権は、米国が中東に関わり過ぎた ことへの反動と、シェール革命で石油を中東に依存する必要性が小さくなったこ ともあり、中東から撤退しつつある。また、「アメリカ第一主義」を掲げ内向きの 姿勢をとっていることが中東にどういう影響を与えるか注目される。 9.おわりに=日本はどう対応するか。 日本は、中東のエネルギー資源に頼らざるを得ず、中東の安定と日本への海上 輸送ルートの安全は極めて重要である。中東における人道危機や武器、テロの拡 散への適切な対応も必要である。しかし政治的にできることは限られているので、 先方が求める分野=水資源の開発、教育、都市作り、中小企業の振興、保健衛生 等=への支援を実行して、中東各国の信頼を得ることが重要である。

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質問(Q)への応答(A) Q1:レバノンの過激派ヒズボラはイランをサポートしているようだが、レバノ ン国内での内戦の可能性はないか。 A;レバノンの最大宗派はイランと同じシーア派で、ヒズボラはイランの影響力 を使って形成されたシーア派の武装勢力で、レバノン国内で軍事的にも政治 的にも強い力がある。背後にイランやロシアがおり、スンニ派のサウジアラ ビアの影響力が小さくなっていることもあり、レバノンの内戦の可能性は小 さいと思う。 Q2:カタールがテロ組織を支援したことで、中東の各国がカタールに対し石油 の輸出入を禁止する措置をとったが、そのことが日本の石油輸入に悪影響を 及ぼすことはないか。 A;カタールは GCC(湾岸協力評議会、湾岸6か国)のメンバーで、国は小さい が大きな石油・ガス収入で金持の国。アルジャジーラのテレビ局をもってい て独自の外交を進めている。同じGCC メンバーのサウジアラビアとの関係は 悪くなっているが、イランと貿易を拡大させてイランに近づきバランスを保 っている。また、当面は石油の需給がタイトにはならないと思うので日本に は有利な状況にある。このような状況からカタールの問題自体で日本への影 響は小さいと思う。 Q3:中東は、多種の民族、宗教・宗派が重なりあい、これに政治が深く係わっ ているので中東問題の解決は難しいと思う。そんな中で、中東に最も理解を 示していたフランスがテロの標的となったことを考えると、日本において国 内のイスラム教徒にどう向き合うかが重要と思うが。 A;中東の問題といっても、今まで話してきたように、問題が多岐にわたってい るので全ての問題を一度に解決はできず、一つ一つ解決していくしかない。 日本としては、中東の緊張を和らげ、国の復興、産業の振興、人財育成など 各国が必要としていることを支援し、安定化に向けて努力して、中東におい て国際的活動ができるよう信頼を得ることが何より重要である。 イスラム教徒にどう向き合うかについては、日本にも色々な宗教の信者や外 国人がいるので難しく答えは出ない。今の段階では大きな問題になっていな いが、将来的にはなりうるので考えていく必要がある。 以 上

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