2.都心とウォーターフロントをめぐる現状と課題
2-1 現状
(1)神戸港と都心の歴史と変遷
わが国を代表する国際貿易港である神戸港は、慶応3年 12 月 7 日(1868 年 1 月 1 日)の 開港以来、世界からアジアへの船舶ネットワークの拠点として、また瀬戸内海の東の入口として、 絶え間ない発展を続けてきた。 大正 11 年(1922 年)には、現在の新港第1突堤~第3突堤および第4突堤の西半分が完成 し、公共上屋(倉庫)や突堤の背後地の民間倉庫などが整備されるとともに、上屋に至る貨物の 臨港鉄道が整備されるなど、物流機能の強化が図られている〔第1期修築工事〕。続く昭和 14 年 (1939 年)には、新港第4突堤の東半分、中突堤、兵庫の第1突堤・第2突堤が完成するなど、 港湾機能の拡充が図られている〔第2期修築工事〕。 また、港湾物流を支え神戸経済を成長させる社会基盤として、国道2号(昭和初期)や阪神高 速3号神戸線(昭和 40 年代)など広域自動車交通の東西軸が、都心の臨海部に整備された。 近年では、港湾物流のコンテナ化の進展や船舶の大型化などに対応するため、物流活動の中心 がポートアイランドや六甲アイランドなどの沖合へと展開した結果、古くからの港湾地区におい て施設の老朽化や活動の低下が目立つようになるとともに、自動車交通軸により都心とウォータ ーフロントのつながり・一体感といったものが失われてきた。 このような神戸港の物流活動の場の変遷にあわせて、時代の要請に応じた港湾地区の再開発が 進められている。これまでに、ハーバーランドやHAT神戸、メリケンパーク、中突堤中央ター ミナル(かもめりあ)などが、港湾物流活動の場から親水機能等を備え市民に開放された場へと 転換されている。 現在、神戸港は、「みなと神戸-いきいきプラン」(平成 17 年 2 月)に基づいて「物流ゾーン」 と「親水ゾーン」の2つの地域に再構築することで、物流機能の効率化・強化を図るとともに、 ポーアイしおさい公園の整備など、市民や来街者に開かれた親水機能のさらなる拡充が図られて いるところである。 新港突堤西地区など従前どおりの倉庫業が営まれている地区がある一方で、新たな文化・産業 の芽を育むべく、倉庫を文化交流施設へと転活用する試みも進められている。 神戸開港当時に整備された神戸外国人居留地を中心とした三宮から元町、神戸にかけての都心 は、西欧文化流入の玄関口として神戸独自の都市文化を育むとともに、商業・業務・行政活動の 中心として神戸港とともに近代以降の神戸全体の発展を牽引してきた。 終戦後の三宮センター街の誕生や、昭和 32 年の市役所の現在地への移転、昭和 40 年のさん ちかタウンのオープン、そして企業の集積が進むことで都市の経済活動の中心であるCBD (Central Business District:中心業務地区)が形成され、都心の地位を確固たるものとしてい る。なかでも、戦前は神戸で最も国際色豊かな市場としてにぎわっていた南京町は、戦争で壊滅的 な打撃を受けたものの、昭和 50 年代に地元住民により策定された整備計画による復興が進めら れ、また阪神・淡路大震災後には無電柱化などの再整備も実施された結果、神戸を代表する名所
に生まれ変わっている。 神戸外国人居留地時代から中枢業務地として活気に満ち溢れていた旧居留地は、昭和 40 年代 中頃には東京一極集中による企業流出で活力の低下が見られたが、昭和 50 年代後半に近代洋風 建築物と歴史的景観の保存の重要性が認識され始めたことを端緒に近代洋風建築物を商業店舗と して積極的に活用したことで、中枢業務地としての活力に加えて商業地としてのにぎわいもあわ せもつ地区となっている。 しかし、阪神・淡路大震災以降、大規模な低未利用地やオフィスビルの空室が目立つなど、一 部では活力低下が見られるとともに、いわゆる都心居住といわれる高層マンションの建設が相次 ぐなど、新たな局面を迎えている。 そして現在、これまでの都市戦略の理念や社会経済情勢の変化をふまえ、都市間競争に負けな い選ばれる都市であり続けるため、市民生活の質を向上させながら持続的な発展を遂げていくこ とができる都市の概念「創造都市(クリエイティブシティ)」の考え方による新たな都市戦略「デ ザイン都市・神戸」が推進されている。都心とウォーターフロントにおいては、このデザイン都 市・神戸の具現化を図るリーディングエリアとして、様々な取り組みが進められているところで ある。 神戸港の発展過程
現在の神戸港(平成 21 年 3 月撮影)
親水ゾーンと物流ゾーン
神戸港と都心に関する年表 1868 年(慶応 3 年) 神戸開港(「兵庫港」として開港) 1889 年(明治 22 年) 市制施行、神戸市誕生(人口 134,704 人) 1899 年(明治 32 年) 神戸外国人居留地返還 1922 年(大正 11 年) 神戸港第1期修築工事竣工 1939 年(昭和 14 年) 神戸港第2期修築工事竣工 市の人口 100 万人突破 1957 年(昭和 32 年) 市庁舎(現・2号館)完成 1963 年(昭和 38 年) 神戸ポートタワー完成 1965 年(昭和 40 年) さんちかタウン(現・さんちか)完成 1967 年(昭和 42 年) 神戸開港 100 年 1970 年(昭和 45 年) 神戸大橋・ポートターミナル完成 さんプラザ完成 阪神高速3号神戸線全線開通 1975 年(昭和 50 年) センタープラザ完成 1981 年(昭和 56 年) ポートアイランド竣工 ポートライナー運転開始 ポートピア’81 開催 1986 年(昭和 61 年) 神戸浜手バイパス開通 1987 年(昭和 62 年) メリケンパークオープン 1989 年(平成元年) 市庁舎(現・1号館)完成 市制 100 周年 1992 年(平成 4 年) ハーバーランドまちびらき 六甲アイランド竣工 市の人口 150 万人突破 1993 年(平成 5 年) ハーバーハイウェイ全線開通 1995 年(平成 7 年) 阪神・淡路大震災 中突堤旅客ターミナル供用開始 1996 年(平成 8 年) 中突堤西地区再開発埋立竣工 1998 年(平成 10 年) 中突堤中央ターミナル(かもめりあ)供用開始 HAT神戸まちびらき 1999 年(平成 11 年) 神戸港港島トンネル開通 2001 年(平成 13 年) 地下鉄海岸線開通 2005 年(平成 17年) 「みなと神戸―いきいきプラン」策定 2006 年(平成 18 年) ポートライナー延伸線開通 神戸空港マリンエア開港 中突堤旅客ターミナルリニューアルオープン 国産上屋 1,2 号の転活用(神戸波止場町TEN×TENオープン) 2007 年(平成 19 年) 神戸開港 140 年 ポーアイしおさい公園オープン 神戸ビエンナーレ初開催 2008 年(平成 20 年) ユネスコ デザイン都市に認定 2009 年(平成 21 年) 市制 120 周年 旧神戸生糸検査所を市が取得
(2)都心とウォーターフロントにおける最近の取り組み
都心とウォーターフロントにおいて、港湾地区における親水空間への土地利用転換や建物 の利活用、歩行者動線の整備、景観形成、防災事業、民間活力をいかした取り組み、集客イ ベントなどに関して、下記のような取り組みが進められている。 1)港湾地区における土地利用転換・建物の利活用 ①神戸震災復興記念公園 ・震災の経験と教訓を後世の人々に継承し ていくため、市民と協働でつくり続ける 被災地復興のシンボルとして整備が進め られている約 5.6ha の総合公園。 ・都心の防災機能を強化する広域避難場所 としての機能も有している。 ・平成 22 年 1 月開園予定。 ②波止場町1番地 ・まちのにぎわいと一体となり、市民や来街者に開放され誰もが気軽に近づくことができるオ ープン空間を創出するため、取り組みが進められている。 ・地区に立地している神戸水上警察署が、平成25年を目途にポートアイランド北公園に移転 することで兵庫県と神戸市が基本合意に至っている。 ③旧神戸生糸検査所 ・市が取得し、「(仮称)デザイン・クリエイティブセンター」など「デザイン都市・神戸」の シンボルとしての活用が図られようとしている。 2)歩行者動線の整備 ①三宮駅周辺の3層ネットワークの整備(地下・地上・デッキ) ・公共空間の整備や民間ビルの建設などにあわせて、ユニバーサルデザインの視点もふまえた 歩行者動線の3層(地下・地上・デッキの各レベル)ネットワーク整備が、昭和 40 年代か ら推進されている。 ・現在、阪神三宮駅の改良(東改札口の新設、既存の西改札口の改良、エレベーターの新設、 プラットホームの拡幅・延伸など)にあわせ、ミント神戸(神戸新聞会館ビル)から南側の 中央幹線を横断する歩行者デッキと地下通路の整備が進められている。 神戸震災復興記念公園 整備計画 3層ネットワークの整備(例) 〔ミント神戸西側の歩行者デッキ〕②明石町筋の改良等 ・ウォーターフロントに通じる「デザイン都市・神戸」 にふさわしい新たな道路空間をめざし、歩行者の安全 性や回遊性の向上を図る歩行者優先道路が整備され ている。〔歩道:3.5m→6m、車道:2車線→1車線〕 ・低炭素社会の実現に向け、環境に配慮した舗装が行わ れている。 ③市道臨港線整備 ・近代神戸港の発展を支えた JR 貨物臨港線(神戸臨港 鉄道)跡地(JR灘駅~HAT神戸間、約 1km)を、 神戸臨港鉄道竣工から 100 年の歴史を感じつつ、誰 もが楽しみながら歩くことのできる東西のネットワ ークを形成する歩道として整備が進められている。さ らに、桜を植樹し、王子公園などと結ぶことにより、 さくら回廊の創出が図られている。 ④案内サイン整備 ・都心とウォーターフロントの回遊性向上のため、観光等の出発拠点となる三宮・元町・神戸駅 の駅前広場に設置されている地域サインの改修や、主要交差点に設置されているプロムナード サインの改修・増設が進められている。 ・車椅子使用者の見やすさにも配慮した構造(門型や盤面の高さ)に変更されるとともに、文字 サイズが大きく見やすく変更された。また、携帯電話でまちの情報を得ることのできるQRコ ードが設置されている。 案内サイン 整備イメージ ⑤広告付きバス停上屋整備事業 ・民間事業者が、広告料を原資として、屋根、ベンチ、時刻表枠お よび広告パネルが一体となった広告付きバス停上屋を整備し、維 持管理を行っている。 ・平成 17 年度に都心において試験的に設置が始められたが、現在 では「デザイン都市・神戸」の推進に資する事業として全市展開 がなされている。 ・平成 21 年 9 月末現在、都心とウォーターフロントにおいて、 21 基(全市では、83 基)が整備されている。 主要交差点 駅前(三宮駅・神戸駅等) 臨港線 整備イメージ 明石町筋 改良イメージ
3)都心とウォーターフロントの景観形成 ・都心部のウォーターフロントの土地利用の変化にあわせ、魅力ある景観形成を進めていくため、 6地域において都市景観形成地域が指定(平成 19 年 8 月)されており、都心から海への眺望 を確保するための「眺望路」(主要な 17 の道路)や、海への誘いを感じさせる街角景観の形成 などが推進されている。 ・また、市民公募により「神戸らしい眺望景観 50 選・10 選」(平成 20 年 2 月)が選定された 他、現在、都心部のモデル地域において眺望景観を保全・育成するための施策の検討が進めら れている。 景観形成の基本方針 眺望景観を保全・育成するための施策の検討(案) 『ポーアイしおさい公園からの眺望景観』 山並みの稜線を保全するための建築物等の高さや幅の誘導 (神戸市都市景観審議会答申書/平成 19 年 3 月) 菊水山 摩耶山 規制・誘導の範囲 眺望路の形成
4)防災事業 ①高潮対策 ・ハーバーランドからメリケンパーク、新 港突堤西地区に至る水際は、地盤高が低 く、平成 16 年に発生した台風では背後 の道路が冠水する等の被害を受けたた め、ハーバーランドから生田川尻までの 間に、防潮胸壁・ポンプ場の建設などの 高潮対策が順次進められている。 ・多くの市民や来街者が集い・憩うエリア においては、胸壁にアクリル板を用いた り、躯体コンクリートに化粧を施すなど 景観面に配慮した対応がとられている。 ②内水排除対策(雨水ポンプ場)など ・台風時などの浸水被害を防止するため、高潮対策と連携しながら、平成 17 年度から概ね 10 年の期間で生田川~宇治川にかけての神戸港に面した低地盤地区の抜本的な浸水対策(3箇 所のポンプ場設置など)が実施されている。 ・現在、新港第1突堤の基部において京橋ポンプ場の整備が進められている。 京橋ポンプ場 整備イメージ 5)民間施設の立地および利活用 ①ホテルの立地 ・中突堤中央ターミナル(かもめりあ)の西側 において、民間事業者により整備が進められ ていたホテル(宿泊・飲食・エステ等)が、 平成 20 年 11 月にオープンしている。 景観に配慮した防潮胸壁 ホテル
②既存の倉庫を転活用した芸術活動 ・国産 1,2 号上屋の神戸波止場町TEN×TE Nや、新港第4突堤Q2号上屋において、N PO法人により、創作活動や、展覧会・シン ポジウム・イベントの開催など、様々な芸術・ 文化活動が行われている。 6)集客イベント ・市民や事業者との協働と参画により、都心部のウォーターフロントを舞台に、みなとこうべ海 上花火大会(平成 21 年度に 39 回目)やビエンナーレ(21 年度に 2 回目)、神戸スウィング・ オブ・ライツ(21 年度に初)の他、様々な集客イベントが開催されている。 みなとこうべ海上花火大会 ビエンナーレ(アート イン コンテナ展) 神戸スウィング・オブ・ライツ KOBE みなとのガラス絵大賞 作品展 〔神戸波止場町TEN×TENの ホームページより〕
2-2 課題
都市活力の源泉が、重厚長大型産業から文化創造型産業や知識集約型産業、環境創造型産業など へと変化しているなかで、世界で現在進められているウォーターフロント再開発の多くは、低未利 用のウォーターフロントに新たな機能や産業を導入し、多様な個性を持ち地域の発展を牽引する都 心と有機的に結びつけることで地域全体の活力魅力の向上をめざしている。 港と都心が近接した他都市にはない大きな魅力と特色を持つ神戸においても、その活力と魅力を さらに向上させるためには、どのような都心とウォーターフロントをめざすべきかを検討する必要 がある。(1)都心とウォーターフロントの機能的な融合の欠如
神戸は、都心のにぎわいと港の活気が一体化した港町としての活力を十分に持ちえていたが、 神戸港において港湾活動の中心が沖合いへと移っていったことと、都心においては低未利用地や オフィスの空室が目立つなど活力が低下してきていることなどが相まって、まち全体の活力に陰 りが見られるようになった。 旧港地区(オールドポート)においては、これまでにもハーバーランドなどにぎわい空間への 転換が図られてきたが、都心とウォーターフロント全体としてみれば、互いにその機能を高めあ っているとは言い難い。 このようななかで、港と都心が近接した神戸の特色をいかし、ウォーターフロントにどのよう な機能・産業を導入すれば都心の機能と連担・融合し、かつ相乗効果を発揮して都心とウォータ ーフロント双方の活力を向上させることができるのかを検討する必要がある。(2)ウォーターフロントの環境資源の活用不足
都心に近接した水際空間=ウォーターフロントである旧港地区は、潮の匂い・潮風・汽笛・ 高揚感などといった五感に訴える港の風情や、神戸港の歴史が息づく資産、港からまちを眺め れば背後に横たわる緑豊かな六甲の山並みなど、神戸のウォーターフロントのみが持つ貴重な 環境資源を持つが、その資源を十分にいかしているとは言い難い。 都心とウォーターフロントの魅力をさらに向上させるためには、このウォーターフロントの 環境資源をどのようにまちづくりにいかしていくべきかを検討する必要がある。(3)都心とウォーターフロントの空間的な一体感の欠如
神戸は、都心において港の雰囲気を十分に感じることができる港町であったが、都心臨海部に 整備された幹線道路により都心と港が空間的に分断されたことなどから、都心において神戸のア イデンティティである港を望むことができ、かつその雰囲気を感じることができる場所が少なく なって久しい。 旧港地区においては、これまでにもメリケンパークなど親水空間への転換が図られてきたが、 都心とウォーターフロント全体としてみれば、空間的な連続性が欠けることなどからそのポテン シャルを十分にいかしているとは言い難い。 港を持つまち・神戸の魅力をさらに向上させるためには、どのようにして都心とウォーターフ ロントを空間的に連続させ、一体感が感じられるようにしていくべきかを検討する必要がある。今後も神戸が持続的に発展していくためには、都心とウォーターフロントの機能的な融合・空間 的な一体化を図るとともに、ウォーターフロントの環境資源をまちづくりへ十分にいかすことで、 新たな魅力と活力にあふれる「港都 神戸」を創生し、神戸全体の都市活力向上へつなげていくこと が必要である。