高校野球選手における小胸筋に対するストレッチ方法の違いが小胸筋長および肩甲骨位置に与える影響
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(2) 384. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. Ludewig 20)は,小胸筋長の短い者は長い者よりも上肢. 準は,肩・肘関節もしくは胸郭に手術歴を有する者,著. 挙上時に肩甲骨の前傾・内旋運動が有意に大きいと報告. 明な肩甲骨もしくは胸郭の変形を有する者,ストレッチ. した。つまり,小胸筋の短縮が肩甲骨の位置異常や異常. 実施に際し疼痛を有する者,投球障害肩により練習に参. 運動を引き起こすことから,投球障害肩を予防するうえ. 加していない者とした。なお,本研究は吉備国際大学倫. でもこれらの異常を修正する必要があると考えられる。. 理審査委員会の承認を得たうえで実施した(承認番号. 21). はドアウェ. 13-41) 。被験者に対して実験前に研究の趣旨を書面と口. イストレッチ法(Doorway Stretch;以下,DW-stretch. 頭で十分に説明した。さらには被験者が未成年であるた. 法)を提唱している。これは壁面と平行に立ち肩関節. め,その保護者にも同様に書面にて説明を行い,同意を. 90°外転・外旋位,肘関節 90°屈曲位で前腕を壁面にか. 得た。. 小胸筋に対する介入として,Beazell ら. け,体幹を反対方向に回旋させることで小胸筋をはじめ 前 胸 部 に 存 在 す る 筋 群 の 伸 張 を 図 る 方 法 で あ る。 Borstad と Ludewig. 22). は,健常者を対象とした磁気セ. 3.測定指標および手順 1)小胸筋長. ンサーを用いた研究において,下垂位でのストレッチな. 小胸筋長の指標として, (1)第 4 肋骨付着部∼烏口突. どの他の方法と比較して,DW-stretch 法がもっとも小. 起間距離(Rib4 to CP distance;以下,Rib4-CP)と(2). 胸筋の起始停止間距離が増加したことを報告し,小胸筋. 胸骨切痕∼烏口突起間距離(SN to CP distance;以下,. のストレッチとして有効である可能性を示唆した。一. SN-CP)を測定した. 23). 24). 。いずれも被験者は上肢下垂位. は屍体肩を用いた研究により,肩関. で背もたれに寄りかからない状態で,安静座位を測定肢. 節 30°屈曲位・肘関節最大屈曲位で,他動的に上腕骨長. 位とした。さらに被験者に 2 m 前方につけた目の高さ. 軸方向に軸圧を加え,肩甲骨をリトラクションさせる方. の 1 点のマーカー(直径 2 cm)を注視させ,呼吸は安. 法(Retraction-30°Stretch;以下,R30-stretch 法)が. 静呼吸とした。計測回数は 1 回とし,盲検化された測定. DW-stretch 法と同様の肢位によるストレッチと比較し. 者 1 名により計測を行った。. 方,Muraki ら. て小胸筋の伸張率が高かったと報告した。以上のことよ. (1)Rib4-CP. り,現在小胸筋の短縮に対する有効なストレッチ方法に. 第 4 肋骨付着部から烏口突起間の距離をテープメ. ついて様々な研究がなされている。しかし,我々の渉猟. ジャーにより測定した。検者は,触診により第 4 肋骨の. し得る限り,生体において DW-stretch 法と R30-stretch. 胸肋関節と烏口突起の最突出部を同定し,タックシール. 法の効果を比較したものはない。. (直径 8 mm)を貼付した。なお,胸肋関節は第 1 肋骨. そこで本研究は,小胸筋に対する効果的かつ効率的な. の胸肋関節を同定してから下方へ順に数えながら第 4 肋. ストレッチ法の即時的効果を検証することを目的とし. 骨レベルの胸肋関節を同定した。検者は貼付した 2 点の. て,DW-stretch 法と R30-stretch 法が肩甲骨位置や上. タックシール間の距離を 1 mm 単位で測定した。. 肢挙上時の肩甲骨回旋角度に与える影響について比較. (2)SN-CP. した。. 胸骨切痕の中点から烏口突起間までの距離をテープメ. 本研究の意義は,肩関節疾患患者の治療や障害予防の. ジャーにより測定した。検者は,触診により胸骨切痕の. ためのプログラム立案の際に,意思決定の一助となるこ. 中点と烏口突起の最突出部を同定し,タックシールを貼. とである。. 付してこのタックシール間の距離を 1 mm 単位で測定. 方法および対象. した。 2)安静時における肩甲骨位置. 1.研究デザイン. 肩甲骨位置は,肩甲骨の内旋の指標として(1)肩峰. 本 研 究 は 介 入 研 究 で あ り,2 種 類 の ス ト レ ッ チ 法. 後角∼脊椎棘突起間距離(PLA to TS distance;以下,. (DW-stretch 法と R30-stretch 法の 2 条件)を比較する. PLA-TS) ,(2)Scapular Index,肩甲骨前傾・内旋の指. ためクロスオーバーデザインとした。対象者を 2 群間の. 標として(3)肩峰後角∼ベッド床面間距離(acromial. 体格差が生じないよう割りつけし,介入前後に測定指標. distance;以下,AD)を測定した. を計測して即時効果を検証した。各介入の間には 2 週間. とし,盲検化された測定者 1 名により計測を行った。. のウォッシュアウト期間を置いた。. 24). 。計測回数は 1 回. (1)PLA-TS 肩峰後角から同高位の脊椎棘突起までの直線距離を. 2.対象. テープメジャーにより測定した。被験者は背もたれによ. 対 象 は, 某 高 校 の 硬 式 野 球 部 員 34 名( 全 例 男 性,. りかからない状態で安静座位となり,上肢は下垂位とし. 16.4 ± 0.5 歳,171.2 ± 5.9 cm,67.9 ± 8.2 kg)とした。. た. 取り込み基準は,競技歴が 3 年以上の者とした。除外基. 起を同定し,タックシールを貼付した。被験者に前方に. 24). 。検者が触診により肩峰後角と同高位の脊椎棘突.
(3) ストレッチ方法の違いが小胸筋長および肩甲骨位置に与える影響. 385. 図 1-a 肩甲骨上方回旋 ロケーターロッドを取りつけた傾斜計を肩甲棘にあてがう.. つけた目の高さの 1 点のマーカーを注視させ,呼吸は安 静呼吸とした。検者は貼付したタックシールの間の距離 を 1 mm 単位で測定した。 (2)Scapular Index SN-CP を PLA-TS で除して,100 を乗じた値を算出 した。この指標は,小胸筋長の影響を反映した肩甲骨位 置の指標である. 24). 。. (3)AD 被験者は長机などの固い床面に安静背臥位となり, ベッド床面から肩峰後角までの距離を測定した。上肢は 下垂して手掌面を体側に向けた基本的肢位とした. 24). 。. 検者が肩峰後角とベッド床面の直線距離を,デジタル ノギス(シンワ測定株式会社製)で 0.1 mm 単位まで測 定 し た。 測 定 条 件 は 安 静 状 態(static acromial. 図 1-b 肩甲骨後傾 棘下窩内側縁に対して傾斜計をあてがう.. distance;以下,AD-S)および肩甲骨を自動的に内転・ 後傾・外旋した状態(retraction acromial distance;以. おける水平面に対する角度を 0.1°単位で測定した。この. 下,AD-R)の 2 条件とした。なお,AD-R の測定時には,. 際,ロケーターロッドを傾斜計に取りつけて,傾斜計を. 「胸を張り,肩甲骨を床に密着させるようにしてくださ い」と口頭にて指示した。. 肩甲棘に安定して固定できるよう調整した(図 1-a)。 (2)肩甲骨の後傾角度 26). の方法に準じて測定. 3)上肢挙上時における肩甲骨回旋角度. 肩甲骨後傾角度は,Scibek ら. 測定は,前腕回外で母指を上に向けた状態で肩甲骨面. した。デジタル傾斜計を肩甲骨棘下窩内側に対して垂線. 自動挙上・60°・90°・120°位の 3 条件で実施した。測定. 上にあてがい,各挙上位における棘下窩部の体表面が垂. 項目は, (1)肩甲骨上方回旋角度および(2)肩甲骨後. 線となす角度を 0.1° 単位で測定した(図 1-b)。. 傾角度とした。計測回数は 1 回とした。なお,盲検化さ. 4)肩関節回旋可動域. れた 2 名の検者により測定を実施した。. 肩関節外旋可動域(以下,ABER)について,盲検化 された 2 名の検者により実施した。被験者は背臥位とな. (1)肩甲骨の上方回旋角度 肩甲骨上方回旋角度は,Johnson ら. 25). の方法に準じ. り,肩関節 90°外転位・肘関節 90°屈曲位・回内外中間. て測定した。. 位とした。1 人の検者は一側の手で肩関節を包みこむよ. 被験者は壁面に対して 30°斜めで立位となり,1 人の. うに,中指から小指で肩甲骨後面,母指で烏口突起を把. 検者が被験者の上腕部にデジタル傾斜計(シンワ測定株. 持した。もう一側の手は前腕遠位部を把持し,肩甲骨の. 式会社製)をあてて,上肢の挙上角度を測定しながら,. 代償動作が出現する直前まで他動的に肩関節を外旋し. 条件となる挙上角度の肢位を保持した。続いてデジタル. た。もう 1 人の検者が外旋時は前腕掌側にデジタル傾斜. 傾斜計を肩甲棘にしっかりあてがい,各肩関節挙上位に. 計(シンワ測定株式会社製)をあてがい,水平面に対す.
(4) 386. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. る前腕の角度を ABER として 0.1°単位で測定した。計 測回数は 1 回とした。 4.計測指標の信頼性 測定項目における検者内信頼性の指標として,級内相 関係数(intraclass correlation coefficients;以下,ICC) を求めた。対象は,小胸筋長と肩甲骨位置では健常男性 17 名(21.3 ± 5.4 歳),肩甲骨回旋角度は健常男性 12 名 (20.8 ± 3.7 歳) ,肩関節可動域測定は健常男性 6 名(19.7 ± 1.2 歳)とした。いずれの測定も同日に 3 回計測を行 い,検者内の信頼性について各測定項目の ICC(1,1) を算出した。その結果,小胸筋長において,Rib4-CP と SN-CP はそれぞれ 0.81 と 0.89 であった。肩甲骨位置の. 図 2-a DW-stretch 法 肩関節 90°外転・外旋位で体幹を対側に回旋させる.. 測定では,AD-S,AD-R,PLA-TS でそれぞれ 0.94,0.93, 0.92 であった。肩甲骨上方回旋角度では,肩甲骨面挙上 60° ・90°・120°位のそれぞれで 0.69,0.48,0.82 であっ た。 後 傾 角 度 で そ れ ぞ れ 0.90,0.91,0.87 で あ っ た。 ABER は 0.92 であった。 5.介入方法 ストレッチ方法は,DW-stretch 法と R30-stretch 法 の 2 条件とした。いずれも投球側にストレッチを実施し, 実施者は同一の者とした。伸張方法は,伸張痛が生じな い程度のスタティックストレッチを 30 秒間,安静下垂 位を 10 秒間を 1 セットとして,これを 5 セット繰り返. 図 2-b R30-stretch 法 肩関節 30°屈曲位で上腕骨長軸に軸圧をかける.. した。 1)DW- stretch 法 被験者は安静立位で,介入側の肩関節 90°外転・外旋. scapular index,AD-S,AD-R) ,上肢挙上位における肩. 位,肘関節 90°屈曲位,前腕中間位とし,同側足部を半. 甲骨回旋角度(上方回旋角度,後傾角度),ABER の各. 歩前に出した。ストレッチ実施者は被験者の肘関節内側. 項目について,平均値と標準偏差を算出した。. 上顆と前腕遠位部を前方から支持した。次に,被験者は. 統計学的処理は,介入前における各介入群の各測定指. 前胸部の伸張感が得られるまで,体幹を反対側に回旋さ. 標のベースラインを比較するために対応のない t 検定を. せた。その際,水平伸展の増加は肩甲上腕関節の運動と. 行った。測定指標ごとに介入方法(2 種類のストレッチ. なり小胸筋が十分伸張されない可能性があったため,肩. 方法)と測定時期(介入前・後)の二要因による反復測. 甲骨が内転・後傾・外旋位となるよう,「肩を前に突き. 定二元配置分散分析を行った。さらに交互作用が認めら. 出さないように」と指示した(図 2-a)。. れた測定指標について,介入後の値から介入前の値を減. 2)R30-stretch 法. じたものを変化量として算出し,介入方法の違いを比較. 被験者はベッド上で背臥位となり,ベッド端から落ち. するために対応のない t 検定を実施した。また測定によ. ない程度に介入側のベッド端に移動するよう指示され. る誤差の影響を考慮し「真の変化」を明らかにする目的. た。次に,被験者は肩関節 30°屈曲位・肘関節を最大屈. で,交互作用が認められた測定指標の変化量について最. 曲した。ストレッチ実施者は一側の手で被験者の肩関節. 少 可 検 変 化 量(minimal detectable change; 以 下,. 後方を,他方の手で肘関節後面を把持し,肘関節を把持. MDC)を算出した。有意水準は 5%とし,統計学的解. した手で被験者の上腕骨長軸方向に軸力をかけ,この力. 析には IBM SPSS Statistics ver.20 を用いた。. により被験者の肩甲骨を内転・後傾・外旋させるようス トレッチした(図 2-b)。. 結 果 ベースラインにおける各測定指標はいずれも,DW-. 6.分析方法および統計学的処理. stretch 法と R30-stretch 法の間で有意差を認めなかった。. 小胸筋長(Rib4-CP,SN-CP) ,肩甲骨位置(PLA-TS,. 小胸筋長の指標である Rib4-CP,SN-CP において,測.
(5) ストレッチ方法の違いが小胸筋長および肩甲骨位置に与える影響. 387. 表 1 小胸筋長・肩甲骨位置および可動域 Rib4-CP **. †. SN-CP **. AD-S **. 介入後. 介入前. AD-R **. 介入後. 介入前. †. Scapular Index **. PLA-TS. 介入後. 介入前. 介入後. ABER. 介入前. 介入後. 介入前. 介入後. 介入前. DW-stretch. 16.1 ± 1.2. 16.7 ± 1.1. 14.2 ± 0.9. 14.5 ± 1.0 70.3 ± 20.0 62.5 ± 14.0 46.2 ± 16.0 37.7 ± 11.3 21.9 ± 1.2. 21.6 ± 1.4. 64.7 ± 4.2. 64.7 ± 4.2 103.0 ± 7.7 102.1 ± 8.8. 介入前. 介入後. R30-stretch. 16.3 ± 1.3. 16.5 ± 1.4. 14.0 ± 1.1. 14.2 ± 1.1 70.0 ± 18.4 62.9 ± 14.7 44.1 ± 11.9 40.1 ± 11.4 21.8 ± 1.5. 21.7 ± 1.4. 64.1 ± 5.8. 64.1 ± 5.8 104.8 ± 8.2 102.0 ± 9.1. **:測定時期の主効果(p < 0.01),†:交互作用(p < 0.05). 表 2 上肢挙上時の肩甲骨上方回旋 / 後傾角度 UR60 介入前. 介入後. UR90 介入前. 介入後. UR120 * 介入前. PT60. 介入後. 介入前. PT90. 介入後. 介入前. PT120. 介入後. 介入前. 介入後. DW-stretch. 8.5 ± 6.0. 8.8 ± 6.0 21.3 ± 6.8 20.9 ± 6.4 35.7 ± 7.5 37.7 ± 7.8 81.6 ± 5.6 81.1 ± 5.4 86.0 ± 6.0 86.0 ± 5.2 91.9 ± 6.0 92.8 ± 4.8. R30-stretch. 8.8 ± 5.0. 8.8 ± 4.6 20.5 ± 6.6 21.8 ± 5.5 35.6 ± 6.9 27.8 ± 5.0 82.6 ± 4.9 80.8 ± 5.3 86.8 ± 4.5 86.0 ± 5.3 92.1 ± 6.0 93.7 ± 5.7. *:測定時期の主効果(p < 0.05) UR60:上肢挙上 60°での肩甲骨上方回旋,PT60:上肢挙上 60°での肩甲骨後傾. 定時期に主効果を認めた(p < 0.01)。また Rib4-CP で. ら,DW-stretch 法は R30-stretch 法よりも小胸筋を伸. は 交 互 作 用 を 認 め た(F 値:4.1,p = 0.04) 。さらに. 張するとともに,肩甲骨位置を内転・後傾・外旋させる. Rib4-CP の 変 化 量 は DW-stretch 法 に て 0.6 ± 0.8 cm,. 可能性を示唆した。ストレッチの肢位に関する先行研究. R30-stretch 法 で 0.2 ± 0.7 cm と,DW-stretch 法 が 有. において,DW-stretch 法の肢位である肩関節 90° 外転・. 意に高値を示した(p = 0.04) 。なお,Rib4-CP の変化量. 外旋位は,下垂位と比較して小胸筋がより伸張された可. の MDC は 0.4 であった。. 能性があることを報告している. 肩 甲 骨 位 置 の 指 標 で あ る AD-S,AD-R,scapular. 肢挙上に伴い肩甲骨上方回旋,後傾,外旋が増加す. index において,測定時期に主効果を認めた(p < 0.01) 。. る. さらに AD-R において交互作用を認めた(F 値:4.4,p. 上に伴い小胸筋は伸張されると考えられる。この点につ. = 0.04) 。AD-R の 変 化 量 は DW-stretch 法 に て ‒ 8.5 ±. いて,Muraki ら. 10.1 mm,R30-stretch 法 で ‒ 4.0 ± 7.2 mm で あ り,. に上肢を挙上した際に小胸筋の伸張率が増加したことを. DW-stretch 法が有意に低値を示した(p = 0.04) 。なお,. 報告した。一方で Muraki ら. AD-R の変化量の MDC は,4.8 であった。一方,ABER. り小胸筋は有意に伸張されると報告している。今回の結. や PLA-TS では測定時期に主効果は認められなかった. 果から,上肢挙上位において肩甲骨を内転・後傾・外旋. (表 1)。. 27). 22). 。McClure らは,上. と述べており,小胸筋の走行を考慮すると上肢挙 23). は屍体肩の研究において,他動的 23). は R30-stretch 法によ. できる DW-stretch 法が,R30-stretch 法よりも小胸筋. 上肢 120°挙上位における肩甲骨上方回旋では測定時. の起始停止間距離の増加を反映して小胸筋を伸張したと. 期に主効果を認め(p = 0.02)測定前よりも測定後にお. 考えられる。. いて高値を示したが,交互作用は認められなかった。ま. 肩甲骨位置の変化について,AD-S に交互作用が認め. た上肢挙上 90°位および 60°位における肩甲骨上方回旋. ら れ な か っ た が,AD-R で は 交 互 作 用 が 認 め ら れ た。. およびすべての上肢挙上角度における後傾角度に主効果. AD は肩甲骨外転・前傾・内旋の指標とされており. は認められなかった(表 2)。. 小胸筋の tightness によって AD は増加すると報告され. 考 察. ている. 13). ,. 17). 。これらのことから,安静位よりも内転・後. 傾・外旋した際に,ストレッチ効果の影響を受けやす. 小胸筋に対するストレッチ方法である DW-stretch 法. かった可能性があると考えられた。. と R30-stretch 法について,二元配置分散分析の結果,. 本 研 究 に お い て, 小 胸 筋 の 指 標 で あ る Rib4-CP と. 小胸筋長の指標である Rib4-CP に主効果と交互作用を. SN-CP のうち,Rib4-CP にのみ交互作用が認められた。. 認め,介入前後の変化量は DW-stretch 法が R30-stretch. この原因として,Rib4-CP は小胸筋の起始停止間の距離. 法より高値を示した。また肩甲骨位置の指標である. を測定しているのに対し,SN-CP は胸骨切痕から烏口. AD-R にも主効果と交互作用を認め,介入前後の変化量. 突起の距離を測定しているため,直接起始停止間の距離. は DW-stretch 法が R30-stretch 法よりも有意に低値を. を測定した Rib4-CP が SN-CP より変化を捉えることが. 示していた。また,DW-stretch 法ではそれぞれの指標. できたためと考えられる。. の MDC よりも大きな変化量であった。これらのことか. 上肢挙上時の肩甲骨上方回旋角度について,上肢挙上.
(6) 388. 理学療法学 第 43 巻第 5 号. 120°位では測定時期に主効果を認めたものの,ストレッ チ方法の違いを認めることはできなかった。また上肢挙 上 90°位以下では,主効果を認めなかった。このことか ら上肢挙上 120°位では,小胸筋の伸張により肩甲骨上 方回旋は増加することが示唆された。しかし,本研究に おいて小胸筋長には交互作用が認められたが,肩甲骨上 方回旋角度には認められていない。そのため,小胸筋長 が上肢挙上に伴う肩甲骨上方回旋角度に与える影響につ いて,今後さらなる検討が必要と考えられる。 DW-stretch 法では,肩関節外転・外旋 90°位で伸張 するため,小胸筋のみならず大胸筋をはじめとする内旋 筋群を同時に伸張させる可能性もある。Thomas ら. 28). は,大学生と高校生の野球選手の肩関節可動域の比較に おいて大学生の肩関節可動域が少なく,その理由として 大胸筋の tightness の影響を挙げている。本研究結果に おいて,ABER には介入前後に著変がなかったことか ら,大胸筋に対するストレッチの影響は少なかった可能 性があると考えられる。 本研究の限界として,肩甲骨の回旋角度を上方回旋と 前 傾 で の み 測 定 し て い る 点 が 挙 げ ら れ る。McClure ら. 27). は,上肢挙上における肩甲骨の動きは X 軸・Y. 軸・Z 軸の 3 軸で生じることを報告している。しかし 3 軸方向で運動を分析するためには 3 次元動作解析装置を 用いる必要性があるものの,この装置は非常に高価であ り,設定などに時間を要するため臨床へ応用することが 難しい。また中村ら. 29). は,3 次元動作解析装置で肩甲. 骨運動を計測する際に,体表マーカの偏位が上肢挙上時 に実際の骨マーカと比較して 66.4 mm の偏位があるこ とを報告しており,必ずしも正確に計測できるわけでは ない。一方,本研究ではノギスや傾斜計を用いて簡便に 計測できる肩甲骨の上方回旋と後傾の指標として用い た。これらの測定指標の再現性について,肩挙上 90°位 を除いて ICC は 0.81 以上あり,結果の再現性は概ね高 いと考えられる。 さらに本研究の対象者は,健常な高校野球部員であっ た こ と か ら, 投 球 障 害 肩 を 有 す る 者 に 対 す る DWstretch 法の適応は明らかではない。今後は,投球障害 肩を有する者に対する効果や介入方法の適応と限界を検 証する必要がある。 結 論 本研究は,高校生硬式野球部員を対象に,小胸筋に対 する 2 つのストレッチ法について比較検証した。その結 果,DW-stretch 法では R30-stretch 法と比較して小胸 筋長や肩甲骨位置をより改善できることが示唆された。 謝辞:測定にご協力いただいた監督,選手および関係各 位に感謝いたします。. 文 献 1)Collins CL, Comstock RD: Epidemiological features of high school baseball injuries in the United States, 20052007. Pediatrics. 2008; 121(6): 1181‒1187. 2)Shanley E, Rauh MJ, et al.: Incidence of injuries in high school softball and baseball players. J Athl Train. 2011; 46(6): 648‒654. 3)森澤 豊,山中陳靖,他:高知県中学高校野球選手におけ る肩関節障害:運動器メディカルチェックから.中部日本 整形外科災害外科学会雑誌.2009; 52(5): 1227‒1228. 4)松浦哲也,井形高明,他:高校生球児の障害の実態.臨床 スポーツ医学.1995; 12(11): 1317‒1320. 5)Burkhart SS, Morgan CD, et al.: Shoulder injuries in overhead athletes: the “dead arm” revisited. Clin Sports Med. 2000; 19(1): 125‒158. 6)Mazou CG, Andrews JR: Repair of full-thickness rotator cuff tears in professional baseball players. Am J Sports Med. 2006; 34(2): 182‒189. 7)W a l c h G , B o i l e a u P , e t a l . : I m p i n g e m e n t o f t h e deep surface of the supraspinatus tendon on the posterosuperior glenoid rim: an arthroscopic study. J Shoulder Elbow Surg. 1992; 1(5): 238‒245. 8)Kebaetse M, McClure P, et al.: Thoracic position effect on shoulder range of motion, strength, and three-dimensional scapular kinematics. Arch Phys Med Rehabil. 1999; 80(8): 945‒950. 9)西中直也,筒井廣明,他:運動連鎖からみた肩関節バイオ メカニクス.臨床スポーツ医学.2012; 29(1): 19‒22. 10)Thomas SJ, Swanik CB, et al.: A bilateral comparison of posterior capsule thickness and its correlation with glenohumeral range of motion and scapular upward rotation in collegiate baseball players. J Shoulder Elbow Surg. 2011; 20(5): 708‒716. 11)Reddy AS, Mohr KJ, et al.: Electromyographic analysis of the deltoid and rotator cuff muscles in persons with subacromial impingement. J Shoulder Elbow Surg. 2000; 9(6): 519‒523. 12)Myers JB, Laudner KG, et al.: Glenohumeral range of motion deficits and posterior shoulder tightness in throwers with pathologic internal impingement. Am J Sports Med. 2006; 34(3): 385‒391. 13)Struyf F, Nijs J, et al.: Scapular positioning in overhead athletes with and without shoulder pain: a case-control study. Scand J Med Sci Sports. 2011; 21(6): 809‒818. 14)Burkhart SS, Morgan CD, et al.: The disabled throwing shoulder: spectrum of pathology Part III: The SICK scapula, scapular dyskinesis, the kinetic chain, and rehabilitation. Arthroscopy. 2003; 19(6): 641‒661. 15)Kibler WB: The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sports Med. 1998; 26(2): 325‒337. 16)K a l r a N , S e i t z A L , e t a l . : E f f e c t o f p o s t u r e o n acromiohumeral distance with arm elevation in subjects with and without rotator cuff disease using ultrasonography. J Orthop Sports Phys Ther. 2010; 40(10): 633‒640. 17)竹 井 仁, 鈴 木 勝, 他( 翻 訳 ): 運 動 機 能 障 害 症 候 群のマネジメント─理学療法評価・MSB アプローチ・ ADL 指 導. (Sharmann SA: Diagnosis and treatment of movement impairment syndromes. Mosby, Inc. 2002) ,医 歯薬出版,2005. 18)栢森良二(監訳) :筋:機能とテスト─姿勢と痛み(改訂 4版) .(Kendal FP, Provance PG, et al.: Muscle, testing and function, 4th edition. Lippincott Williams & Wilkins,.
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