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高齢者における体幹加速度から得られる歩行指標と転倒との関連性

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(1)理学療法学 第 43 巻第 2 号 75 ∼ 81 頁(2016 年) 歩行時の体幹加速度と転倒. 75. 研究論文(原著). 高齢者における体幹加速度から得られる 歩行指標と転倒との関連性* ─大規模データによる検討─. 土 井 剛 彦 1)2)3)4)# 牧迫飛雄馬 1)  堤 本 広 大 1) 中 窪   翔 1)     鈴 木 隆 雄 2)5) 島 田 裕 之 6). 要旨 【目的】高齢者における歩行時の体幹加速度から得られる指標に対し,指標間の比較,年代間の比較,転 倒との関係性について明らかにすることとした。 【方法】地域在住高齢者 989 名(平均年齢:73.6 歳)を 対象に,歩行計測ならびに転倒歴を含む基本属性に関する聴取を行った。歩行計測には 3 軸加速度センサ を用い,歩行時の体幹加速度から自己相関係数(auto correlation:以下,AC)と harmonic ratio(以下, HR)を算出した。【結果】主成分分析より AC と HR は各々独立した分類がなされ,AC,HR ともに 80 歳以上での低下が顕著であり(p < 0.05)。どの方向の HR も転倒と関連していたが,AC においては垂直 方向のみ関連した(p < 0.05) 。【結論】高齢者の歩行時の体幹加速度から得られる AC と HR は異なる評 価指標として活用できる可能性が示唆され,いずれも加齢および転倒と関連する評価指標としての有用性 が示された。 キーワード 高齢者,歩行,加速度計. 緒   言. 能力の評価は,移動能力そのものを評価するにとどまら ず,障害発生のリスク評価. 1)2). から生命予後の評価 3).  歩行検査は,身体機能評価のひとつとして臨床場面に. に至るまで,高齢期に生じる様々な問題に対するリスク. おける実施頻度が非常に高い。特に高齢者における歩行. を把握するうえで有用である。さらに,詳細な歩行能力. *. Gait Variables from Trunk Acceleration and Fall among Community-dwelling Older Adults 1)国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究 センター 予防老年学研究部健康増進研究室 (〒 474‒8511 愛知県大府市森岡町 7‒430) Takehiko Doi, PT, PhD, Hyuma Makizako, PT, PhD, Kota Tsutsumimoto, PT, PhD, Sho Nakakubo, PT, MS: Section for Health Promotion, Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology 2)国立研究開発法人国立長寿医療研究センター Takehiko Doi, PT, PhD, Takao Suzuki, MD, PhD: National Center for Geriatrics and Gerontology 3)日本学術振興会 Takehiko Doi, PT, PhD: Japan Society for the Promotion of Science 4)Department of Neurology, Albert Einstein College of Medicine, Yeshiva University Takehiko Doi, PT, PhD: Department of Neurology, Albert Einstein College of Medicine, Yeshiva University 5)桜美林大学加齢発達研究所 Takao Suzuki, MD, PhD: Department of Gerontology, J.F. Oberlin University Graduate School 6)国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究セ ンター 予防老年学研究部 Hiroyuki Shimada, PT, PhD: Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology # E-mail: take-d@ncgg.go.jp (受付日 2015 年 6 月 15 日/受理日 2015 年 11 月 9 日) [J-STAGE での早期公開日 2016 年 1 月 7 日]. を評価するために機器を用いて歩行解析を実施すること で,客観的かつ定量的指標が得られるため,その評価指 標が高齢者の健康とどのように関連するのか,あるいは 理学療法の効果指標としての有用性が注目されてい る. 4). 。.  測定技術の進展,特にセンサのウェアラブル化に伴 い,加速度センサや角速度センサの小型計測機器を用い た歩行計測が実施される場面が多くなった。なかでも, 加速度センサを用いた指標の有用性や妥当性の報告が 2000 年頃から多くなされるようになった. 5). 。加速度セ. ンサを用いた歩行解析に関する研究では,測定に用いる 機器や測定条件,センサの装着部位,解析方法は異なる ものの,高齢者を対象とした研究ではセンサを体幹に装 着し,歩行時の体幹加速度を測定して解析する方法が採 用されていることが多い. 6)7). 。安全に歩行するためには. 体幹を安定させ頭部の動揺を制御することが重要である 8) ため ,歩行時の体幹安定性に着目し体幹加速度を解析. することにより歩行時の安定性を評価することが検討さ.

(2) 76. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. れてきた。このような歩行中の体幹加速度を指標とし. を装着した場合では,歩行指標に影響がでると報告され. て,高齢者における転倒リスク評価やバランス能力の低. ているため. 4)6)9‒12). 15)19). ,これらに該当する場合は,靴底が平. 。しか. らでサイズの合った靴を装着して測定した。歩行路は. し,これまでに転倒との関連性を報告した指標において. 11 m(加速・減速路を各々 2 m)と設定し,歩行時間. は一貫した結果が得られていない。その原因としては,. はストップウォッチを用いて中央 5 m にて計測するこ. これまでの小型加速度計による歩行解析の研究はサンプ. とで,歩行速度(m/s)を算出した。歩行条件は快適速. ルサイズの小さい実験的研究によるもので,大規模デー. 度での通常歩行とし,試行は先行研究に則り 1 回とし. タに基づいた報告はなされていない。そのため,高齢者. た. における大規模データを用いて体幹加速度から得られる. た Velcro. 歩行指標と転倒との関連性について再考する必要がある. サと角速度センサを内蔵した小型センサ(MicroStone,. と考えられる。. MVP-RF8, acceleration range: ± 60 m/sec2, size: 45 mm.  先行研究においては,体幹加速度から得られる指標の. width, 45 mm depth, 18.5 mm height, weight: 60 g)を. 算出方法が異なり,転倒リスク評価に用いられる体幹加. 貼付し,歩行時の体幹加速度計測を行った。踵部後面に. 速度由来の指標が複数報告されている。しかし,これら. も同じ種類のセンサを装着し,各センサを同期のうえ踵. の指標を同一対象者から算出して比較することがなされ. 接地時の波形特性を捉えることで歩行周期同定を行っ. ていないため,どの指標が転倒リスクの指標として適し. た。計測時のサンプリング周波数はすべての機器におい. ているかについては明らかになっていない。さらには,. て 200 Hz に設定した。各センサは,歩行計測前に重力. 体幹加速度から得られる指標は算出方法により様々であ. 加速度に対しての補正を行った。センサにより計測され. るが,指標間の関連についても検討されていない。. た加速度信号はデジタル変換され(10-bit resolution) ,.  本研究の目的は,地域在住高齢者の大規模データをも. ノ ー ト パ ソ コ ン(Panasonic, Let’s Note CF-W5) に. とに,体幹加速度から得られる歩行指標の特性を比較. Bluetooth 通信を用いて転送された。センサとパソコン. し,転倒との関連性を明らかにすることとした。歩行指. が正常に通信できる範囲は半径 50 m 以内であった。歩. 標については,歩行時の体幹加速度を指標とした先行研. 行計測に加え,一般特性として年齢,性別,服薬数,教. 究 で 一 般 的 に 用 い ら れ て い る 自 己 相 関 係 数(auto. 育歴,過去一年間の転倒経験を聴取した。身長,体重計. 下を評価した事例が多く報告されている. 13‒15). correlation:以下,AC) 16)17). HR). と harmonic ratio(以下,. に着目し,加齢による影響を各々調べ,主成. 7). 。歩行計測を行っている間,対象者の腰部に装着し TM. ベルト上の第 3 腰椎レベルに,加速度セン. 測により body mass index(BMI)を算出し,身体機能 評価として握力を計測した。握力は力の入れやすい手に. 分分析を行うことで歩行指標の分類を行うこととした。. より 1 回計測を行った。認知機能の評価は Mini Mental. また,各指標と転倒経験との関連性を調べ,どの指標が. State Examination(MMSE)を用いた。. 転倒リスク評価において有用な指標となり得るかを検証 した。. 3.データ処理解析  歩行計測時に得られた加速度データは演算ソフト. 対象および方法. (The MathWorks Japan, MATLAB, Release 2008b)を. 1.対象. 用いて解析を行った。加速度信号は 20 Hz に設定された.  本研究の対象は,地域在住の日常生活が自立した 65. low pass filter(dual pass zero lag Butterworth filtered). 歳以上の高齢者とし,測定会に参加し歩行計測を行った. により変換された値を用いた。歩行周期における初期接. 1,102 名から,脳卒中,パーキンソン病,認知症を既往. 地の同定に基づいて歩行路の中央 5 ストライドに相当す. 歴または現病歴に有す 33 名と認知機能障害の影響を除. る加速度データを抽出した。各ストライド周期から,平. 18). が 20 点 未. 均ストライド時間をもとにケイデンスを算出した。各ス. 満の者 5 名を除外した。さらに,歩行解析に必要なデー. トライド時間の標準偏差(standard deviation:SD)を. タに欠損があった者を除外し,最終的に 989 名を解析の. 平均値で除し,百分率にて表したストライド時間のばら. 対象とした。本研究は国立長寿医療研究センター倫理・. つき(stride-to-stride time variability:STV)を算出し. 利益相反委員会の承認を得た後に実施し(承認番号:. た. 490,523,602),対象者には事前に書面と口頭にて研究. 運動の円滑性を表す HR を算出した。AC は測定データ. の目的・趣旨を説明し,参加の同意を得た。. 数に依存しない unbiased 法を用いて算出し,ストライ. く た め,Mini-Mental State Examination. 20). 。さらに歩行時における定常性を表す AC と体幹. ドにおける定常性として AC の第 2 ピーク値を各方向に 2.方法  歩行計測を行うにあたり,サンダルやヒールなどの定 常の歩行に適さない靴や足の大きさに適合していない靴. お い て 垂 直 成 分(vertical: 以 下,VT) ,側方成分 (mediolateral:以下,ML) ,前後成分(anteroposterior: 以下,AP)として算出した. 13)14). 。HR は得られた各ス.

(3) 歩行時の体幹加速度と転倒. 77. 表 1 各年代別における対象特性. 年齢(歳) 性別,女性(%). 65 ∼ 69 歳 (n = 240). 70 ∼ 74 歳 (n = 390). 75 ∼ 79 歳 (n = 193). 80 歳以上 (n = 166). P値. 67.3 ± 1.4. 72.0 ± 1.3. 76.7 ± 1.4. 83.1 ± 3.2. < 0.0001. 55.8. 48.5. 52.3. 45.8. 服薬数(個数). 2.0 ± 1.9. 3.0 ± 2.7. 3.8 ± 2.9. 3.7 ± 2.8. < 0.0001. BMI (kg/m2). 23.2 ± 3.1. 23.5 ± 3.2. 23.4 ± 2.9. 22.6 ± 3.2. 0.0178. 教育歴(年). 11.5 ± 2.3. 11.5 ± 2.5. 11.1 ± 2.4. 10.6 ± 2.9. 0.0003. 握力(kg). 27.8 ± 8.0. 27.6 ± 7.4. 25.2 ± 7.1. 23.3 ± 6.8. < 0.0001. MMSE(点). 27.1 ± 2.0. 26.6 ± 1.9. 26.3 ± 1.9. 25.8 ± 2.3. < 0.0001. 12.9. 16.9. 19.2. 27.1. 転倒経験,あり(%). 0.1636. 0.0030. 値は,平均値 ± 標準偏差もしくは%にて表示. BMI: body mass index, MMSE: Mini-Mental State Examination. トライドにおける加速度信号値をデジタル離散フーリエ. 70 ∼ 74 歳の群が 390 名,75 ∼ 79 歳の群が 193 名,80. 変換することで得られる成分から偶数成分と奇数成分を. 歳以上の群が 166 名であった。各年代における対象者特. 抽出のうえで,5 ストライドの平均値を各成分において. 性 を 表 1 に 示 し た。 服 薬 数,BMI, 教 育 歴, 握 力,. 算出した。AC と同様に各方向において算出するが,VT. MMSE において,年代間において有意な差が認められ. と AP については偶数成分を奇数成分で除し,ML につ. た。転倒経験者の占める割合についても年代間において. 7)21). 有意な差がみられ,転倒経験があった者は,65 ∼ 69 歳. いては奇数成分を偶数成分で除すことで算出した. 。. AC は値が大きいほど定常性が高いことを示し,HR に. の群が 31 名(12.9%),70 ∼ 74 歳の群が 66 名(16.9%),. ついては値が大きいほど歩行に則した円滑な動きで安定. 75 ∼ 79 歳の群が 37 名(19.2%) ,80 歳以上の群が 45. 性が高いことを示す。. 名(27.1%)であった。  歩行計測の指標における各年代別の比較を表 2 に示し. 4.統計解析. た。ケイデンス以外の指標においては 65 ∼ 69 歳の群と.  対象者を 65 ∼ 69 歳,70 ∼ 74 歳,75 ∼ 79 歳,80 歳. 70 ∼ 74 歳の群に有意な差は認められなかった。歩行速. 以上の 4 群に分類し,一元配置分散分析を行い対象者特. 度においては,75 ∼ 79 歳の群に低下がみられ,80 歳以. 性の比較を行った。歩行指標における年代間の比較も同. 上 の 群 で さ ら に 低 下 が み ら れ た。AC-VT,AC-ML,. 様 に 一 元 配 置 分 散 分 析 を 行 い,post hoc 解 析 と し て. AC-AP においては,80 歳以上の群が他の年代よりも有. Turkey test を行った。歩行速度,ケイデンス,STV,. 意に低値を示した。STV においては,AC と同様に 80. AC-VT,AC-ML,AC-AP,HR-VT,HR-ML,HR-AP. 歳以上の群において増加を認めたが,75 ∼ 79 歳の群と. の各歩行指標間の関係性を調べるために,Pearson の相. 80 歳以上の群の間では差異を認めなかった。HR-VT,. 関係数を算出した。また,バリマックス法による回転を. HR-ML,HR-AP は,AC と同様に 80 歳以上での低下が. 用いた主成分分析を行い,成分行列を算出のうえ分類を. 顕著であった。. 行った。因子抽出方法は主成分分析法を用い,固有値の.  各歩行指標間の相関関係を表 3 に示した。すべての指. 下限を 1 に設定し解析を行った。さらに,加速度指標と. 標間に有意な相関関係を認めたが,相関の強さについて. 転 倒 と の 関 連 性 を 調 べ る た め に,AC-VT,AC-ML,. はばらつきがあり,特に AC と HR については同指標内. AC-AP,HR-VT,HR-ML,HR-AP における z score を. の方向間における相関関係が強い傾向であった。さら. 各 々 算 出 し, さ ら に, 各 方 向 の 値 を 用 い た 合 成 値. に,主成分分析の結果,固有値が 1 以上として抽出され. (composite score)として,各方向の z score を平均し. た成分は,各方向における AC と STV(成分 1),各方. た AC-total,HR-total を算出した。これらの値に対して,. 向における HR(成分 2),歩行速度とケイデンス(成分. 転倒経験あり群となし群との間で t test を用いて比較し. 3)が各々因子として抽出された。各指標の成分行列な. た。統計解析は JMP, ver 12 により行い,有意水準は 5%. らびに回転後の負荷量については表 4 に示した。. とした。.  転倒と各歩行指標の関連性では,HR については各方. 結   果. 向とも転倒経験との有意な関連性を認め(HR-VT: p = 0.0055,HR-ML: p = 0.0094,HR-AP: p = 0.0483,HR-.   対 象 者 989 名 の 平 均 年 齢 は 73.6 歳, 女 性 の 割 合 は. total: p = 0.0032) ,AC においては AC-VT(p = 0.0377). 51%で,各年代の人数の内訳は 65 ∼ 69 歳の群が 240 名,. においてのみ有意な関連性があったが,その他の方向や.

(4) 78. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 表 2 歩行指標の年代別比較. 歩行速度(m / s) ケイデンス(steps / min). 65 ∼ 69 歳 (n = 240). 70 ∼ 74 歳 (n = 390). 75 ∼ 79 歳 (n = 193). 1.35 ± 0.23. 1.30 ± 0.23. 1.19 ± 0.23. 123.72 ± 10.05. STV(%). 120.85 ± 9.8. 2.10 ± 0.94. AC-VT. bc. 2.36 ± 1.73. 0.82 ± 0.11. 0.69 ± 0.14. bc. 118.38 ± 10.63. 2.26 ± 1.29. 0.83 ± 0.10. AC-ML. a. 80 歳以上 (n = 166). 0.81 ± 0.12. 0.67 ± 0.14. 0.66 ± 0.15. 1.09 ± 0.23. F値. def. 117.34 ± 10.53. de. 2.61 ± 1.85. 4.48 *. 0.75 ± 0.12. def. 16.69 **. 0.60 ± 0.14. def. 13.08 ** 17.54 ** 13.09 **. AC-AP. 0.83 ± 0.10. 0.82 ± 0.09. 0.82 ± 0.10. 0.76 ± 0.11. HR-VT. 3.24 ± 0.85. 3.21 ± 0.87. 3.05 ± 0.80. 2.77 ± 0.75. def. 2.13 ± 0.69. de. 3.13 ± 1.02. def. HR-ML. 2.42 ± 0.66. 2.34 ± 0.68. 2.22 ± 0.57. HR-AP. 3.70 ± 1.03. 3.58 ± 1.03. 3.47 ± 1.01. 16.32 **. de. def. b. 51.95 **. 7.98 ** 11.01 **. a 65 ∼ 69 歳と 70 ∼ 74 歳における有意な差(p < 0.05),b 65 ∼ 69 歳と 75 ∼ 79 歳における有意な差(p < 0.05) ,c 70 ∼ 74 歳と 75 ∼ 79 歳における有意な差(p < 0.05),d 65 ∼ 69 歳と 80 歳以上における有意な差(p < 0.05),e 70 ∼ 74 歳と 80 歳以上における有意な差(p < 0.05),f 75 ∼ 79 歳と 80 歳以上における有意な差(p < 0.05) * p < 0.01, ** p < 0.0001 STV: stride-to-stride time variability,AC: auto correlation,VT: vertical(垂直成分),ML: mediolateral(側方成分), AP: anteriorposterior(前後成分) ,HR: harmonic ratio. 表 3 各歩行指標間の相関係数 歩行速度 歩行速度 ケイデンス. ケイデンス. AC-VT. AC-ML. AC-AP. HR-VT. HR-ML. HR-AP. − 0.65 **. −. ‒ 0.11 *. STV. STV. ‒ 0.08 *. −. AC-VT. 0.50 **. 0.38 **. ‒ 0.36 **. −. AC-ML. 0.30 **. 0.34 **. ‒ 0.32 **. 0.66 **. −. AC-AP. 0.27 **. 0.19 **. ‒ 0.36 **. 0.74 **. 0.71 **. −. HR-VT. 0.31 **. 0.20 **. ‒ 0.24 **. 0.38 **. 0.28 **. 0.26 **. −. HR-ML. 0.21 **. 0.16 **. ‒ 0.18 **. 0.21 **. 0.43 **. 0.24 **. 0.48 **. −. HR-AP. 0.36 **. 0.23 **. ‒ 0.23 **. 0.34 **. 0.31 **. 0.34 **. 0.62 **. 0.51 **. −. * p < 0.001, ** p < 0.0001 STV: stride-to-stride time variability,AC: auto correlation,VT: vertical(垂直成分) ,ML: mediolateral(側方成分) , AP: anteriorposterior(前後成分) ,HR: harmonic ratio. 表 4 各歩行指標に対する主成分分析結果 成分 1. 2. 3. AC-AP. 0.88. 0.12. 0.13. AC-ML. 0.79. 0.21. 0.24. AC-VT. AC-total では有意な関連性は認められなかった(図 1)。 これらの関連性は対象者特性によって調整しても変わら なかった。 考   察. 0.78. 0.14. 0.42. ‒ 0.60. ‒ 0.20. 0.13. HR-AP. 0.19. 0.82. 0.19. 行指標に年代間の差異が明らかになった。主成分分析の. HR-VT. 0.16. 0.81. 0.15. 結果から,AC は歩行のばらつきを表す STV と同様の. HR-ML. 0.18. 0.78. 0.04. 指標であり,HR は歩行速度やばらつきとは異なるもの. ケイデンス. 0.11. 0.08. 0.88. を評価していることが示唆された。AC は 80 歳以上で. 歩行速度. 0.15. 0.22. 0.86. の低下が顕著であるのに対し,STV は 75 ∼ 79 歳と 80. 回転後負荷量. 2.53. 2.10. 1.84. STV.  本研究によって,高齢者の体幹加速度から得られる歩. 歳以上の間に差異はみられなかった。 同じ成分に抽出された指標を網掛けにて示した. STV: stride-to-stride time variability,AC: auto correlation, VT: vertical(垂直成分) ,ML: mediolateral(側方成分) ,AP: anteriorposterior(前後成分) ,HR: harmonic ratio.  本研究の各年代における歩行指標の結果を概観する と,いずれの指標においても共通している点は 75 歳未 満のいわゆる前期高齢者においては変化が顕著ではな かった。一方,75 歳以上の後期高齢者では,主成分分.

(5) 歩行時の体幹加速度と転倒. 79. それぞれ歩行速度やケイデンスなどの従来の歩行指標と は異なった側面での歩行評価が可能であることが示唆さ れた。AC は自己相関関数を用いて算出され,ある一定 区間の信号値の定常性を評価するために,時間要因が大 きく影響する。歩行のばらつきを評価する STCV は時 間因子の定常性に着目して算出するため. 20). ,これらの. 評価指標が同じ因子として抽出されたことは妥当である と考えられる。先行研究においても AC を歩行時の体幹 運動のばらつき,STV を下肢運動のばらつきを表す指 標として定義されたうえで,それらが有意な相関関係に あることが報告され. 13)22). ,本研究においても同様の関. 係性が認められた。一方,HR は,周波数解析をもとに 算出される指標であり,得られた加速度の円滑性,つま りは歩行の動きにどれだけ適しているかを HR が評価し ているとされ. 21). ,近年ではステップ間の親和性を評価. しているとも報告されている. 23). 。HR を用いて高齢者. の歩行を評価した先行研究では,若年者と比較して歩行 速度が低下していない高齢者でも HR は低値をとる. 24). と報告がなされているように,歩行速度とは異なった側 面から歩行能力を評価できる可能性が示唆されており, 図 1 体幹加速度から得られた歩行指標(上図:AC,下図: HR)と転倒との関連性 各指標において転倒群と非転倒群の群間比較を実施した.エ ラーバーは標準誤差を示す. AC: auto correlation,VT: vertical(垂直成分) ,ML: mediolateral(側方成分) ,AP: anteriorposterior(前後成分) ,HR: harmonic ratio. 本研究の結果においてもそれに準じた結果が示された。 また,転倒のリスク評価としての有用性について HR を 扱った報告がいくつかなされているが,一貫した結論は 得られていない. 4‒6)9)10). 。横断ではあるが,本研究によ. り大規模データに基づいて HR は転倒経験と有意な関連 があることが示され,縦断的な検討を今後進めることで リスク評価指標としての有用性をさらに高めることがで. 析の分類に準じた各指標群における変化の傾向に差異は. きるものと考える。. あるものの,総じて年代の推移とともに歩行能力の低下.  本研究では体幹加速度指標から代表的な指標として. がみられた。先行研究の多くは実験的に行われているた. HR と AC を採用したが,他の報告においてはより先鋭. めサンプルサイズが小さく,対象者の属性や抽出方法や. 的な指標やそれらの指標を改変したものが示されてお. 測定環境にばらつきがあるために一概に比較することは. り. 困難であるが,本研究の測定値を先行研究における高齢. 探索することも望まれる。そのため,今後データを蓄積. 者を対象とした計測値と比較すると,高齢者 23 名(平. していくうえで他の指標も視野に入れながら検討してい. 均年齢 80 歳)を対象に測定された AC の平均値は AC-. くことが重要であると考えられる。さらに,歩行指標の. 22). 4)10). ,加速度データから得られるより有用な指標を. ,高齢者 93 名. 標準値に関する研究の多くは横断的に提示することが多. (平均年齢 73 歳)を対象に測定された AC の平均値は. いが,縦断的に測定を行い歩行能力が維持できている者. VT: 0.72,AC-ML: 0.58,AC-AP: 0.76. AC-VT: 0.86,AC-ML: 0.68,AC-AP: 0.84 であり. 13). ,対. だけを集めた集団から標準値を算出することが望ましい 25). 。そのため,本研究においても縦断的. 象者の年齢を考慮すると本研究の計測値は,他の研究の. とされている. 値からも概ね相違のない値であったと考えられる。HR. な追跡を今後実施し,機能低下や ADL 障害などの臨床. については,高齢者 100 名(平均年齢 80 歳)を対象に. 的事象との結びつけを行うことで,指標の有用性や他の. 測定された平均値は HR-VT: 2.22 ∼ 3.02,HR-ML: 1.65. 歩行指標との比較を行い,特異性をさらに検討していく. 6). ∼ 2.10,HR-AP: 2.79 ∼ 3.35 ,高齢者 73 名(平均年齢 81 歳)を対象に測定された HR の平均値は HR-VT: 2.00, HR-ML: 1.47,HR-AP: 1.99. 9). と報告されている。HR に. 必要があると考える。 結   論. ついても AC と同様に研究間で概ね相違ない値が得られ.  高齢者の歩行時の体幹加速度から得られる歩行指標に. ていると考えられる。. は各々特性がみられ,AC と HR は異なる評価指標とし.  主成分分析の結果,AC と HR を各々算出することで,. て認められた。さらに転倒との関連性においては両者と.

(6) 80. 理学療法学 第 43 巻第 2 号. もに関連性がみられた。今後も縦断的研究を展開してい くことで,歩行時の体幹加速度指標の有用性を検討する ことが重要であると考えられる。 謝辞:本研究は,厚生労働科学研究費(長寿科学総合研 究) ,長寿医療研究開発費(22-16),JSPS 研究費挑戦的 萌芽研究(26560296)により実施した。本研究を進める にあたり,平田総一郎氏,安藤啓司氏から貴重なご指導 を賜り,解析における協力を澤龍一氏から頂戴したこと に感謝申し上げます。 文  献 1)Cesari M, Kritchevsky SB, et al.: Prognostic value of usual gait speed in well-functioning older people ̶ results from the Health, Aging and Body Composition Study. J Am Geriatr Soc. 2005; 53: 1675‒1680. 2)Guralnik JM, Ferrucci L, et al.: Lower extremity function and subsequent disability: consistency across studies, predictive models, and value of gait speed alone compared with the short physical performance battery. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000; 55: M221‒M231. 3)Studenski S, Perera S, et al.: Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011; 305: 50‒58. 4)Howcroft J, Kofman J, et al.: Review of fall risk assessment in geriatric populations using inertial sensors. J Neuroeng Rehabil. 2013; 10: 91. 5)Kavanagh JJ, Menz HB: Accelerometry: a technique for quantifying movement patterns during walking. Gait Posture. 2008; 28: 1‒15. 6)Menz HB, Lord SR, et al.: Acceleration patterns of the head and pelvis when walking are associated with risk of falling in community-dwelling older people. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2003; 58: M446‒M452. 7)Doi T, Makizako H, et al.: Brain atrophy and trunk stability during dual-task walking among older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012; 67: 790‒795. 8)Kavanagh JJ, Morrison S, et al.: Coordination of head and trunk accelerations during walking. Eur J Appl Physiol. 2005; 94: 468‒475. 9)Doi T, Hirata S, et al.: The harmonic ratio of trunk acceleration predicts falling among older people: results of a 1-year prospective study. J Neuroeng Rehabil. 2013; 10: 7. 10)Brodie MA, Menz HB, et al.: Good lateral harmonic stability combined with adequate gait speed is required. for low fall risk in older people. Gerontology. 2015; 61: 69‒78. 11)Bautmans I, Jansen B, et al.: Reliability and clinical correlates of 3D-accelerometry based gait analysis outcomes according to age and fall-risk. Gait Posture. 2011; 33: 366‒372. 12)Moe-Nilssen R, Helbostad JL: Interstride trunk acceleration variability but not step width variability can differentiate between fit and frail older adults. Gait Posture. 2005; 21: 164‒170. 13)Sawa R, Doi T, et al.: The association between fear of falling and gait variability in both leg and trunk movements. Gait Posture. 2014; 40: 123‒127. 14)Moe-Nilssen R, Helbostad JL: Estimation of gait cycle characteristics by trunk accelerometry. J Biomech. 2004; 37: 121‒126. 15)Doi T, Yamaguchi R, et al.: The effects of shoe fit on gait in community-dwelling older adults. Gait Posture. 2010; 32: 274‒278. 16)Menz HB, Lord SR, et al.: Age-related differences in walking stability. Age Ageing. 2003; 32: 137‒142. 17)Nakakubo S, Doi T, et al.: Does arm swing emphasized deliberately increase the trunk stability during walking in the elderly adults? Gait Posture. 2014; 40: 516‒520. 18)Folstein MF, Folstein SE, et al.: “Mini-mental state”. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975; 12: 189‒ 198. 19)Menant JC, Steele JR, et al.: Effects of walking surfaces and footwear on temporo-spatial gait parameters in young and older people. Gait Posture. 2009; 29: 392‒397. 20)Hausdorff JM, Nelson ME, et al.: Etiology and modification of gait instability in older adults: a randomized controlled trial of exercise. J Appl Physiol (1985). 2001; 90: 2117‒2129. 21)Yack HJ, Berger RC: Dynamic stability in the elderly: identifying a possible measure. J Gerontol. 1993; 48: M225‒M230. 22)Moe-Nilssen R, Aaslund MK, et al.: Gait variability measures may represent different constructs. Gait Posture. 2010; 32: 98‒101. 23)Bellanca JL, Lowry KA, et al.: Harmonic ratios: a quantification of step to step symmetry. J Biomech. 2013; 46: 828‒831. 24)Brach JS, McGurl D, et al.: Validation of a measure of smoothness of walking. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2011; 66: 136‒141. 25)Oh-Park M, Holtzer R, et al.: Conventional and robust quantitative gait norms in community-dwelling older adults. J Am Geriatr Soc. 2010; 58: 1512‒1518..

(7) 歩行時の体幹加速度と転倒. 〈Abstract〉. Gait Variables from Trunk Acceleration and Fall among Community-dwelling Older Adults. Takehiko DOI, PT, PhD, Hyuma MAKIZAKO, PT, PhD, Kota TSUTSUMIMOTO, PT, PhD, Sho NAKAKUBO, PT, MS Section for Health Promotion, Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology Takehiko DOI, PT, PhD, Takao SUZUKI, MD, PhD National Center for Geriatrics and Gerontology Takehiko DOI, PT, PhD Japan Society for the Promotion of Science Takehiko DOI, PT, PhD Department of Neurology, Albert Einstein College of Medicine, Yeshiva University Takao SUZUKI, MD, PhD Department of Gerontology, J.F. Oberlin University Graduate School Hiroyuki SHIMADA, PT, PhD Department of Preventive Gerontology, Center for Gerontology and Social Science, National Center for Geriatrics and Gerontology. Purpose: The study aim was to examine differences between two gait variables ̶ auto correlation (AC) and harmonic ratio (HR) ̶ derived from trunk accelerometry, and whether the variables were associated with age and falls. Methods: In the study, 989 older adults (mean age: 73.6 years) underwent gait analysis using a triaxial accelerometer attached to the lower trunk, and completed a questionnaire on their history of falls. Data were processed to calculate the AC and HR for each direction (vertical direction, mediolateral direction and anteroposterior direction). Results: Factor analysis indicated differences between AC and HR. Comparison of age-based groups showed that AC and HR were mostly lower in the groups aged ≥80 years (p < 0.05). HR in all directions and AC in vertical direction were associated with falls (p < 0.05). Conclusions: AC and HR acquired from trunk accelerometry revealed differences during gait. Both variables were associated with age and falls. Key Words: Older adults, Gait, Accelerometer. 81.

(8)

表 3 各歩行指標間の相関係数

参照

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