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行動分析学に基づく臨床教育

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 738 42 巻第 8 号 738 ~ 739 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 12. 行動分析学に基づく臨床教育* 山 﨑 裕 司**. これまでの臨床教育の問題点. 表 1 学習者に依頼しやすい理学療法業務. これまでの臨床教育では,学習者に対して初期評価の項目を. ①評価の手伝い. 挙げ,その意義について考えることが要求されてきた。学習者. 評価結果の記録. は,試行錯誤しながら答えにたどり着こうとするが,その過程. ②患者さんの見守り・誘導. で訂正,注意,ときには叱責を受ける。その後も,問題点の抽. ③治療準備・後片づけ. 出,治療プログラムの立案などの課題が待っている。失敗を繰. 装具,重錘の準備. り返し経験することになる。. 平行棒の高さ調節など. 数多くの研究から,繰り返される失敗は,学習の効率を低下. ④治療プログラムの手伝い,実施. させることが明らかとなっている。失敗はだれもが避けたい嫌. 物理療法. 悪的な出来事である。行動した結果,嫌悪刺激が出現すると,. 自主トレで行っていた筋力増強訓練. その行動は弱化され,行動の出現頻度が減少する。たとえば,. 関節可動域訓練. 関節可動域測定が正確にできない学習者がいたとする。本来,. ⑤血圧・脈拍などの測定. 学習者は関節可動域測定の練習をしなければならない。しか. ⑥歩行訓練の付き添い. し,失敗を繰り返すと,この練習が反復できなくなる。. ⑦対象者の移送. 強力な嫌悪刺激は,「不安,緊張,興奮」などの情動反応を. ⑧データ収集. 誘発する。繰り返されると対提示されている指導者や関節可動. 歩行速度,歩数の計測,ビデオ撮影. 域測定といった刺激が情動反応を誘発するようになる。そう. ⑨治療プログラムの説明書作成. いった刺激は嫌な存在に変わっていく(条件性嫌悪刺激)。指. ⑩治療成績の記録とまとめ. 導者と目を合わさない,指導者に近づかないなどの行動をとる と条件性嫌悪刺激を避けることができる。嫌悪刺激がなくなる のでこれらの行動は強化される。これでは学習者と指導者の人 間関係は築けない. 1). 。. 1. 「できるべき」ではなく,「できること,できそうなこと」 から参加させる. 「学生のペースでゆっくり評価を進めてもらっています」「評. 徒手筋力検査や関節可動域測定などは,できてあたり前と考. 価が終わらなければ治療ができません」。臨床教育現場でよく. えがちである。しかし,それよりもずっと平易な仕事がある。. 聞かれるフレーズである。しかし,ゆっくり評価を進めていて. たとえば,訓練の準備と後片づけを行ってもらうだけでもかな. は治療時間が短くなる。治療ができないなどというのは論外で. りの時間が節約できる。表 1 に示したような業務を 8 人の担当. ある。臨床教育を行う際の大前提は,治療を受ける対象者の権. 患者に対して行ってもらえば担当理学療法士はかなり助かるで. 利を侵してはならないということである。. あろう。. 行動分析学に基づく臨床教育. 評価よりも簡単な治療がある。自主トレーニングのような形 で実施されている治療などである。側臥位での股関節外転筋の. 学習者が主体となって患者を担当するシステムを改める必要. 筋力トレーニングを想像していただきたい。下肢挙上回数や静. がある。そのためにクリニカル・クラークシップの実習形態が. 止時間のカウント,下肢挙上位置の確認,代償運動の防止を学. 推奨されている。この制度での治療者は指導者自身であり,学. 習者が管理してくれたらどんなに助かるか。自主トレーニング. 習者はその補助者となって治療にあたる。. で行うよりも患者さんは意欲的にトレーニングに臨めるであ. *. Clinical Education That Is Based on Behavior Analysis ** 高知リハビリテーション学院理学療法学科 (〒 781–1102 高知県土佐市高岡町乙 1139–3) Hiroshi Yamasaki, PT: Department of Physical Therapy, Kochi Rehabilitation Institute キーワード:臨床教育,行動分析学,やる気. ろう。 最初から任せることはできないが,できそうな仕事もある。 血圧・脈拍の測定,ストレッチ,装具の装着,トランスファー, などは少し練習すれば可能である。見本をみせ,模倣させて, できそうであれば,ひとりで実施させよう。.

(2) 行動分析学に基づく臨床教育. 図 1 理学療法効果の体験 理学療法を実施し,その効果を体感する.この強化刺激に よって理学療法士になるうえで実施すべき行動が強化され る.さらに,それに対提示されている指導者,患者,臨床施 設などに学習者は好印象をもつようになる.. 739. 図 3 知識の行動制御機能 ある知識(先行刺激)に従って行動した結果,強化刺激が 得られると,その知識がもつ行動制御機能が向上していく. 筋力増強訓練の有用性を知識としてもっているから行動でき るのではなく,それを行って増強効果を確認するから行動が 生じるようになるのである.この強化刺激を準備することが 臨床教育効果を最大限にする.. ると指導者の業務にはゆとりがうまれる。失敗させないので効 率よく学習が進行する。「せっかく指導しているのにちっとも 成長しない」などというストレスがない。また,できることを 図 2 WinWin の臨床実習教育 学習者がいることで業務が楽になる.学習者が成長する. こういった強化刺激を臨床教育に随伴させることで指導者が 臨床教育を実践する行動が強化される.. お願いしているので余計な心配をすることもない。 できないことは行わないので対象者に負担が生じることはな い。指導者が忙しいときには,対象者の話し相手になることが できる。自主トレーニングになりがちだった筋力トレーニング を学習者は熱心に行ってくれるであろう。介助が上達すれば, 病棟やトイレ,売店までの送迎を学習者が行えるかもしれない。. 学習者に初期評価をまかせると,なかなか治療に進むことは. 学習者は,指導者,対象者,病棟スタッフの役に立てること. できない。そもそも評価スキルの悪い者が行った評価結果は信. で臨床教育現場での居場所ができる。学習者がいるとみんなが. 用できない。初期評価が不正確であれば,よくなったか否かを. 幸せになるという WinWin の発想である。. 判断することができない。時間を要してしまうと対象者の機能 が変わってしまう。初期評価は,指導者が主体となって行い, 学習者には評価を手伝ってもらおう。. さいごに. 学習者をチームの一員として迎えるのであれば,指導者が治. 一般に私たちは勉強するとその知識が自分たちの行動を制御. 療の方針を示すべきである。指導者が行う問題点の抽出作業や. するようになると考える。しかし,臨床的思考は勉強だけでは. 治療プログラムの立案作業をたくさんみせよう。似たような患. 発達しない。実は,知識が行動をコントロールするようになる. 者がいれば,初期評価結果を見せて問題点の抽出を行ってもら. には,図 3 のような関係が成り立たなければならない。これが. おう。そうすることで指導者と同じような問題点の抽出が行え. 繰り返されることで知識は行動をコントロールする機能をもつ. るようになるはずである。治療プログラムの立案も同様である。. ようになる。前述したように理学療法効果を体験することこそ. 臨床でもっともうれしいことはなにか。それは理学療法に. が,理学療法の意義を理解させることにつながるのである。. よって対象者がよくなっていくことを体験することであろう。. 数少ない担当症例においていくら試行錯誤を重ねても臨床的. このような関係がつくられると様々な理学療法業務に積極的に. 思考は発達しない。臨床的思考を発達させるためには,指導者. 取り組めるようになる(図 1)。このためには,「学習者を治療. は数多くの症例の中で評価や治療,統合と解釈の弁別機会を学. に参加させ」,「治療効果を確認させる」ことが必要不可欠で. 習者に与えなければならない。. ある。 2.WinWin の関係を築こう 臨床教育では,学習者がいると指導者の仕事が楽になること をまずめざすべきである(図 2)。学習者のできることが増え. 文 献 1) 山﨑裕司,山本淳一(編):リハビリテーション効果を最大限に引 き出すコツ(第 2 版).三輪書店,東京,2012,pp. 41–43..

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