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運動器理学療法のパラダイムシフト─新たなる可能性への挑戦─

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 795 ~ 運動器理学療法のパラダイムシフト─新たなる可能性への挑戦─ 796 頁(2015 年). 795. 分科学会シンポジウム 7(日本運動器理学療法学会). 運動器理学療法のパラダイムシフト─新たなる可能性への挑戦─* ─運動学・運動力学的視点から捉えた理学療法の再考─ 山 田 英 司**. はじめに. くくなる場合がある。すなわち,構造的(画像上の)な破綻が, 臨床症状と一致していないにもかかわらず,それが原因である. 運動器疾患に対する理学療法は,海外から様々な理学療法. と思いこんでしまうことが大きな問題となる。Ikeuchi ら 1)は,. が輸入され,我が国の法,保険制度,文化や国民性に融合す. 内側型変形性膝関節症患者に対し,歩行時の詳細な疼痛評価を. る形で現在に至っている。その中で,国外の理学療法士と価. 行い,関節ブロック後の疼痛の変化を検討した。その結果,関. 値を共有するもの,逆に国内独自でしか認められていないもの. 節ブロックが有効であった患者は 61%であり,無効であった. など様々な知識や技術が乱立していることが良くも悪くも現在. 31%は,高齢で,罹患歴が長く,疼痛部位が広範であったと報. の状態であろう。近年では,Evidence-based Medicine(以下,. 告している。これは,理学療法士が変形性膝関節症の疼痛の原. EBM)の重要性が認識され,エビデンスをつくる,あるいは. 因が関節内に存在すると思いこんだまま臨床推論を進めてしま. 使うことが理学療法学を基礎とする理学療法士に求められてい. う,すなわち,診断名のイメージにとらわれすぎていると,本. るが,臨床現場で十分に行われているとはいいがたい現状があ. 当の原因を見つけだすことが困難となることを意味している。. る。そこで,今,我々に求められているのは,これまでの歴史. 40 歳以上の変形性膝関節症の有病率は男性 42.6%,女性 62.4%. を振り返り,現状を見つめ,これからどうするべきか再認識す. であり. ることではないかと考える。以下に本シンポジウムで提示した. トゲンを撮影すれば,変形性膝関節症の所見が見つかる確立は. 3 つの視点からの理学療法の再考について述べる。. 非常に高い。運動器疾患の中でも,腰痛においては医師の診察. 疾患名重度依存型理学療法からの脱却. 2). ,高齢者で膝周囲の疼痛を主訴とする患者の単純レン. や画像検査で腰痛の原因が特定されないものを非特異性腰痛と 捉えることがあたりまえとなってきている。理学療法士は他の. 法律上,医師の指示が必要である日本の理学療法士は,運動. 運動器疾患においても,疾患名や画像所見を十分に参考にしな. 器疾患の理学療法を行うためには,整形外科医の診察を受けた. がら,しかし,思いこみに注意しながら機能障害の評価を行い,. 患者を対象とする。医師により様々な医学的検査の結果,診断. 臨床推論を進めることが重要であると考えられる。. 名,治療方針が決定され,理学療法の適応があると判断された. 疾患名に重度に依存した理学療法のもうひとつの問題点とし. 場合に,理学療法が開始となる。理学療法士は,International. て,疾患には多彩な病態のバリエーションがあるにもかかわら. Classification of Functioing, Disability and Health(ICF)の概. ず,詳細な評価を行わず,疾患名から直接治療方針を決定して. 念の基に,評価結果から患者の問題点を推測し,設定したゴー. しまうことが挙げられる。たとえば,変形性膝関節症と診断さ. ルを達成するために,最適と考えられる運動療法,物理療法,. れた患者に対して,臨床推論を行うことなく,安易に大腿四頭. 義肢装具療法を行う。この過程で理学療法士が機能障害の仮説. 筋筋力トレーニングや関節可動域練習を施行してしまう場合も. を立てる際に,もっとも考慮するべきものは診断された疾患の. 多いのではないかと推測される。理学療法の卒前教育の中で,. 病態である。たとえば,変形性膝関節症の診断名で理学療法を. 評価の重要性を学んでいるにもかかわらず,疾患名でプログラ. 処方された患者の疼痛の原因を考えるとき,まず,画像で確認. ムを決定してしまうと,個々の症例に応じたオーダーメイドの. された軟骨の減少,内反変形などが思い浮かぶであろう。しか. 理学療法を提供することはできない。これは,卒前教育の影響. し,疾患でなく機能障害を対象とする理学療法において,疾患. も大きい。ほとんどの運動器分野の教科書では,疾患名ごとに. 名のイメージに重度に依存しすぎると,真の問題点を見つけに. 評価項目,理学療法プログラムが丁寧に記載されている。これ は,経験の乏しい理学療法士が,基本的な内容を理解するには. *. Reconsideration of Physical Therapy That Captures from Kinematics and Kinetic Point of View ** 回生病院関節外科センター附属理学療法部 部長 (〒 752–0007 香川県坂出市室町 3–5–28) Eiji Yamada, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Joint Surgical Center, Kaisei Hospital キーワード:運動器理学療法,サブグループ化,エビデンス. 適しているが,疾患名からなにも考えることなく,マニュアル にしたがい治療方針を決定してしまうというベルトコンベア式 理学療法に陥る危険性を多く含んでいる。卒前,卒後教育にお けるパラダイムシフトが重要であると考えられる。.

(2) 796. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 疾患のサブグループ化とエビデンス. 4) つの亜型に分類して,それぞれに応じた治療を推奨している 。. このような試みは今後も進んでいくと考えられ,我々理学療法. 根拠に基づく理学療法(Evidence-based Physical Therapy:. 士はもっとも得意とする運動学・運動力学的分析によるサブグ. EBPT)の考え方は周知されてきており,理学療法においても. ループ化に貢献していく必要がある。. 様々なエビデンスが報告されてきている。2011(平成 23)年. Elbaz ら 5)は,歩行分析による空間・時間的因子による変形. に日本理学療法士協会が発表した理学療法診療ガイドラインに. 性膝関節症の新しい分類を報告している。2,911 膝を対象とし,. よると,変形性膝関節症の保存療法において,運動療法は推奨. 歩行分析により得られた様々な因子を用いて,3 段階のクラス. グレード A,エビデンスレベル 1 であり,具体的には筋力増. ター分析を行った。その結果,ストライド長とケイデンスが,. 強運動と有酸素運動が推奨グレードとエビデンスレベルが高. 4 段階のグレードに分類する因子として抽出された。これらの. い 3)。しかし,このエビデンスのみでは,個々の患者に対応す. 2 つの因子はどの臨床現場でも測定可能な因子であり,汎用性. ることは困難であり,臨床現場で使いやすいとはいいがたい。. が非常に高い。たとえば,今後,この分類にしたがって臨床症. それでは,なぜ,臨床に直結する信頼性の高い具体的なエビデ. 状,運動学・運動力学的特徴,具体的な運動療法の治療成績な. ンスが存在しないのだろうか? その理由のひとつとして,様々. どが蓄積されてくると,現状よりも具体的なエビデンスを用い. な病態や疼痛の原因を有する変形性膝関節症をひとつのグルー. た理学療法が可能となるのではないかと考える。. プとして捉えようとしていることが考えられる。たとえば,画. このような試みの真の目的は,どの理学療法士でも,最低限,. 像上の分類である内側型,外側型,全型の違いを考えても,効. 質の保証された理学療法を国民に提供できるようになることで. 果のある理学療法が同一であるとは考えにくい。また,同じ疾. ある。エビデンスや技術,あるいは思想に患者を合わせるので. 患名でも疼痛の場所が異なる症例に対して,特定の運動療法が. はなく,目の前の患者にエビデンスや技術をあてはめていく姿. すべての症例に効果があることはないであろう。よって,変形. 勢を忘れてはならないと思われる。. 性膝関節症をひとつのグループとして捉えると,具体的な理学 療法のエビデンスをつくることは困難なのではないかと考えら れる。すなわち,変形性膝関節症に対する理学療法と捉えるの ではなく,画像上,変形性膝関節症の所見のある,膝周囲に疼 痛を呈するグループに対する理学療法と捉えるべきではないか と考えている。そこで,理学療法士がしなくてはならないこと は,疾患を画像のみでなく,病態,運動学・運動力学的特徴に よりグループ分け(サブグループ化)することである。そして, サブグループ化したグループごとに評価方法や理学療法の効果 などのエビデンスを蓄積していく必要があると考えられる。. 運動学・運動力学的データを用いたサブグループ化 2014(平成 26)年の Osteoarthritis Research Society International(OARSI)のガイドラインでは,変形性膝関節症を 4. 文 献 1) Ikeuchi T, Izumi M, et al.: Clinical characteristics of pain origination from intra-articular structure of the knee joint in patients with medical knee osteoarthritis. Springerplus. 2013; 2: 628–636. 2) 吉村典子:一般市民における運動器障害の疫学─大規模疫学調査 ROAD より.Bone.2010; 24: 39–42. 3) 理学療法診療ガイドライン部会(編):理学療法診療ガイドライン 第 1 版.日本理学療法士協会ホームページ.2011. 4) McAlindon TE, Bannuru RR, et al.: OARSI guidelines for the non-surgical management of knee osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22: 363–388. 5) Elbaz A, Mor A, et al.: Novel classification of knee osteoarthritis severity based on spatiotemporal gait analysis. Osteoarthritis Cartilage. 2014; 22: 457–463..

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