認知症予防の重要性と日本認知症予防学会が目指すもの

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(1)● シンポジウム 14 認知症予防の脳循環代謝（認知症予防学会との joint）. 認知症予防の重要性と日本認知症予防学会が目指すもの浦上克哉. 要旨日本に認知症は 462 万人，認知症予備群は 400 万人と報告され，認知症予防対策は急務と考えられる．認知症予防対策を実践していくために，平成 23 年に日本認知症予防学会を立ち上げた．本学会の目指すところは，認知症予防活動の実践普及，認知症予防に携わる人材の育成，多職種協働と地域連携，認知症予防のエビデンス創出である．認知症予防の取り組みは，鳥取県琴浦町から始まり全国へと広がっている．認知症予防に携わる人材の育成としては，認知症予防専門士と認定認知症領域検査技師である．認知症予防のエビデンス創出は，エビデンス創出委員会を立ち上げ体制を構築しつつある．日本認知症予防学会が目指すところは，日本脳循環代謝学会が目指すところとの共有部分も多いと思われる．（脳循環代謝 26：169∼172，2015）. キーワード : 軽度認知障害，認知症予防教室，認知症予防専門士，認定認知症領域検査技師，エビデンス. 認知症の早期発見・早期治療，認知症予備群（軽度認. はじめに. 知障害）の認知症への進展予防（予防教室）の取り組みを行ってきた．物忘れ相談プログラムを用いてスク. 日本に認知症は 462 万人，認知症予備群は 400 万人. リーニングを行い予防対象者（軽度認知障害）を選定. と報告されている．認知症対策はもちろん重要である. し，予防教室での効果を TDAS で判定する方法であ. が，認知症予防対策も急務と考えられる．これまで，. る．物忘れ相談プログラムは，タッチパネル式コン. 血管性認知症は予防できるが，神経変性疾患に分類さ. ピューターによるスクリーニング法は音声と映像によ. れるアルツハイマー型認知症は治らないものであり，. る対話形式で，質問に答えながらゲーム感覚で検査を. 予防はできないと考えられてきた．しかし，近年アル. 受けることができる．言葉や日時に関する質問，立方. ツハイマー型認知症も予防が可能とする多くのデータ. 体を識別する質問など合計 5 問で構成し，所要時間は. が報告されてきた．国際アルツハイマー会議でも年々. 結果の印刷まで含めて合計 5 分以内で可能である．15. 予防に関する演題数が増えてきている．このような時. 点満点でアルツハイマー型認知症ではほとんどの例が. 代のニーズに応えるため，平成 23 年に日本認知症予. 12 点以下であり，専門医への受診が望まれる．感度. 防学会を立ち上げた．本稿では，日本認知症予防学会. 96％，特異度 97％と高い信頼性を示した1）．この信頼. が目指す活動を紹介する．. 性に加えて，この方法の利点としては，質問者による差がない，精神的，身体的ストレスが少ない，どこで. 認知症予防活動の実践と普及. も簡単に施行できる，などがあげられる．定期的に行うことで，確実に認知症の早期発見に役立てることが. 平成 16 年から鳥取県琴浦町において地域における. 可能である．現在この機器は「物忘れ相談プログラム（MSP-1000）」という商品名で日本光電株式会社から販. 鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座日本認知症予防学会理事長〒 683-8503 鳥取県米子市西町 86 TEL: 0859-38-6354 FAX: 0859-38-6350 E-mail: kurakami@med.tottori-u.ac.jp. 売されている（図 1）．TDAS （Touch panel type dementia assessment scale）は ADAS （Alzheimer’ s disease assessment scale）をタッチパネル式コンピューターで行えるようにしたものである．ADAS は極めて信頼性の高い ─ 169 ─.

(2) 脳循環代謝第 26 巻第 2 号図1．物忘れ相談プログラム（日本光電社製）前検査. 3ヶ月後. ３年後. 㻝㻟㻚㻡. ＴＤＡＳᴾ. 㻝㻞㻚㻡. ＊. 㻝㻝㻚㻡㻝㻜㻚㻡. ＊. 㻥㻚㻡㻤㻚㻡㻣㻚㻡㻢㻚㻡㻡㻚㻡. ※. P<0.05 （統計解析はANOVA）. 図 3．認知症予備群が認知症に移行せず. 図 1．物忘れ相談プログラム（日本光電社製）. 費用削減効果を検討したところ平成 16 年に 2,360 万円であった．その後参加者が増加し，平成 20 年には. 図．7'$6 （日本光電社製）. 7,800 万円の費用削減ができた．このような医学的のみならず経済的効果も得られたため，鳥取県琴浦町で始まったこの取り組みが鳥取県内に広がり（表 1），さらに全国へと広がっている（表 2）．このような認知症予防の実践活動を普及させることは，学会の重要な役割のひとつと考える．. 認知症予防に携わる人材の育成認知症予防の取り組みを多数の地区で検討をしてみると，同様のプログラムを用いても図 4 に示すごとく図 2．TDAS（日本光電社製）. TDAS の点数の改善に大きな差異があることがわかった．具体的には 2 の予防教室では，顕著な改善が見られているのに，4 の予防教室ではわずかな改善にとど. 評価スケールであるが，臨床心理士等の専門職が行う. まっている．このような差異が生じた原因を検討して. 必要があり，所要時間も 1 時間かかる．TDAS を用い. みると，予防教室を運営するスタッフの認知症予防へ. れば，専門職が不在の施設でも可能であり，所要時間. の知識とスキルが大きな影響を与えたと考えられ. も 20 分程度で可能である．TDAS が ADAS との相関. た3）．そこで，予防教室の運営を行う人材の育成の必. 性が高いことは報告している2）．TDAS を用いれば的. 要性を感じ，認知症予防専門士制度を立ち上げた．. 確な予防介入評価を見ることできる．TDAS も現在. 2011 年から 2013 年までは移行措置期間として日本認. 「TDAS プログラム」という商品名で日本光電株式会社. 知症予防学会が取材する座学と実践セミナーの研修を. から販売されている（図 2）．. 30 単位修得することにより認知症予防専門士の資格を. 予防教室のプログラムは，エビデンスの得られてい. 取得できるようにした．2014 年 4 月に 127 名の認知症. る運動，知的活動，コミュニケーションの 3 つの要素. 予防専門士を認定した．2015 年 1 月 25 日に認知症予. を取り入れた内容で週 1 回，2 時間を，3 カ月間行う. 防専門士の第 1 回試験を実施し，24 名が合格した．認. のを 1 クールとしている．予防教室へ参加して 3 カ月. 知症予防の正しい知識とスキルを身に着けて，試験勉. 間で図 3 のごとく TDAS の点数が有意に改善し，さら. 強にも利用してもらえるようにテキストブックも作成. に 3 年後の経過も有意な改善を示している．軽度認知. しており4），多くの方に資格をとっていただきたい．. 障害は何の介入もせず自然に経過を過ごすと 3 年以内. 認知症疾患医療センターが全国に整備され，認知症. に多くの人が認知症になることがわかっている．この. の早期診断・早期治療を目指しているが，認知症の診. ことから，3 年間認知症にならずに経過すれば，概ね. 断や治療評価に必要な検査を行える臨床検査技師がい. 認知症予防ができたと考えられる．また，介護保険の. ない．早期鑑別診断には詳細な検査が必要な場合が少. ─ 170 ─.

(3) 図４．地区ごとにみた認知機能評価認知症予防の重要性と日本認知症予防学会が目指すもの. 表 1．鳥取県内で取り組んでいる市町村. （点）㻝㻤. 1）琴浦町. 㻝㻣. 2）日吉津村. 㻝㻢. 3）伯耆町. 㻝㻡. 4）米子市. 㻝㻠. 5）境港市. 㻝㻟. 6）日野郡（日南町，日野町，江府町）. 㻝㻞. 7）倉吉市. 㻝㻝. 8）鳥取市（モデル地区で実施）. 㻝㻜. 9）智頭町. 㻥. 10）若桜町. 㻤. 11）岩美町. 㻣. 㻝㻞㻟㻠㻡㻢㻣. 㻢. 予定地域八頭町，北栄町. 㻡㻠㻟. 表 2．鳥取県外で取り組んでいる市町村. 開始時. 実施地域. 終了時. TDASの点数変化. 1）青森県五所川原市，新郷村，大鰐町，五戸町. 図 4．地区ごとにみた認知機能評価. 図５．頸部超音波検査. 2）秋田県大仙市，横手市 3）群馬県高崎市. （Carotid Ultrasonography）. 4）三重県松阪市 5）奈良県三郷町 6）兵庫県神戸市東灘区，加東市，加古川市，神河町 7）岡山県玉野市，西粟倉村，真庭市，浅口郡里庄町 8）広島県世羅町，海田町 9）山口県周防大島 10）香川県土庄町 11）愛媛県四国中央市 12）福岡県大牟田市 13）大分県臼杵市 14）熊本県水俣市予定地域 1）奈良県やまと郡山市，2）愛知県豊田市，3）秋田県湯沢. 図 5．頸部超音波検査（Carotid Ultrasonography）. 市，4）沖縄県石垣市，5）熊本県八代市，6）岡山県浅口市，7）広島県呉市，8）福岡県広川町，9）鹿児島県徳之島，11）山口県阿武町，12）鹿児島県与論町，13）三重県. に脳血管および血流の評価が必要である．具体的に. 志摩市，14）兵庫県川西市，15）兵庫県香美町，16）三重県名張市，17）岡山県笠岡市，18）岡山県井原市，19）島. は，簡易に非侵襲的に施行可能な頸動脈エコーや頭蓋. 根県江津市，20）兵庫県多可町，21）島根県安来市. 内エコー検査のことである．頸動脈エコーで図 5 のような動脈硬化病変を見出すことができ，血管病変の進展防止を図ることができる．MRI 検査も，放射線技師. なくない．2012 年 4 月から髄液中リン酸化タウ蛋白の. のみならず臨床検査技師も施行できるようになってい. 測定が保険収載され，保険診療として施行可能となっ. る．そこで，日本認知症予防学会では日本臨床検査技. た．髄液中リン酸化タウ蛋白の測定は ELISA 法で可. 師会と共同で認定認知症領域検査技師の育成を行うこ. 能であり，特別な大型機器を必要とせず施行可能であ. ととした．認定認知症領域検査技師は移行措置で 12. る．髄液中リン酸化タウ蛋白の測定は，アルツハイ. 名が認定され，昨年試験で 3 名の合格者を出して. マー型認知症の早期診断に有用である．アルツハイ. いる．. マー型認知症は，認知症の約 7 割を占めるといわれているが，その大部分は脳血管障害を合併しており，アルツハイマー型認知症においても血管性認知症と同様 ─ 171 ─.

(4) 脳循環代謝第 26 巻第 2 号. 多職種協働と地域連携の実現に向けて. おわりに. 多職種協働と地域連携が認知症医療では大切と言わ. ここで記載したような日本認知症予防学会が目指す. れて久しいが，実現していないのが現状である．日本. ところは，日本脳循環代謝学会が目指すところとの共. 認知症予防学会は認知症の医療・福祉に携わる多くの. 有部分も多いと考える．今後，日本脳循環代謝学会か. 職種が参加して構成する会であり，その中で発表，意. らのご示唆やご支援をいただき，認知症予防が実現で. 見交換をすることでしっかりとした多職種協働と地域. きれば幸いに思う．. 連携が実現するものと考えている．文献. 認知症予防のエビデンス確立へ向けて. 1） Inoue M, Jinbo D, Nakamura Y, Taniguchi M, Urakami K: Development and evaluation of a computerized test battery. 認知症予防ツールへの世の中の期待は大きい．しか. for Alzheimer’ s disease screening in community-based. し，現在世の中に出ているものの多くはエビデンスを. setting. Am J Alzheimer’ s Dis Other Demen 24: 249–315,. 有しないものが多い．その理由として，一般的に予防. 2009. ツールは二重盲検比較試験が実施しにくいものが多いため，十分なエビデンスといえる例数を得られていない場合が多い．そこで，日本認知症予防学会ではエビデンス創出委員会（委員長：岡山大学神経内科阿部康二教授）を立ち上げ，エビデンスを出す体制を構築しようとしている．そして，候補となる予防ツールに対してエビデンスの確立や認証を行い，信頼できる認知症予防ツールを社会に提供することを目指す．. 2） Inoue M, Jimbo D, Taniguchi M, Urakami K: Touch Panel-type Dementia Assessment Scale: a new computerbased rating scale for Alzheimer's disease. Psychogeriatrics 11: 28–33, 2011 3） Ito Y, Urakami K: Evaluation of dementia-prevention classes for community-dwelling older adults with mild cognitive impairment. Psychogeriatrics 12: 3–10, 2012 4）日本認知症予防学会監修：認知症予防専門士テキストブック，徳間書店，2013. Abstract The importance of dementia prevention and aims of Japanese Society of Dementia Prevention Katsuya Urakami Section of Environment and Health Science, Department of Biological Regulation, Faculty of Medicine, Tottori University, Tottori, Japan The Japanese Society of Dementia Prevention, Chief Director 4,620,000 people with dementia and 4,000,000 people with mild cognitive impairment were reported by Japanese government, and dementia prevention measure is regarded as urgent problem. The Japanese Society of Dementia Prevention was started in 2011 to take measure of dementia prevention. The aims of this society are to promote dementia prevention, to cultivate human resources who participate in dementia prevention, to cooperate many job category and community cooperation, and to create scientific evidence of dementia prevention. Initiative of dementia prevention started from Kotoura-cho, Tottori-prefecture and is spreading over the whole country. We made specialized person for dementia prevention and authorized medical technologist for dementia territory as human resources who participate in dementia prevention. We also made the committee for evidence creation and is now in preparation of scientific evidence. It seems to have many joint ownership between the Japanese society of cerebral blood flow and metabolism and the Japanese society of dementia prevention. Key words: mild cognitive impairment, dementia prevention classroom, specialized person for dementia prevention, authorized medical technologist for dementia territory, scientific evidence of dementia prevention ─ 172 ─.

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