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高齢者の介護予防を目的としたアクティブ・ ラーニング型健康教育の地域実践

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 46 巻第 4 号 275 ∼ 282 頁(2019 アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践 年). 275. 実践報告. 高齢者の介護予防を目的としたアクティブ・ ラーニング型健康教育の地域実践* ─住民主体による取り組み─. 上 村 一 貴 1)# 山 田   実 2) 岡 本   啓 1). 要旨 【目的】介護予防を目的としたアクティブ・ラーニング型健康教育介入を地域で実践し,実行可能性と介 入効果を検証することとした。 【方法】対象は地域在住高齢者 25 名とし,週 1 回 90 分,12 週間の教育介 入を行い,調査学習などを通じて健康行動を促進した。事前に作成したテキストに沿って学習を進め,教 室の進行はファシリテーターとして養成された高齢者が担当した。効果判定指標として,身体・認知機能, 身体活動量,ヘルスリテラシーを評価した。【結果】22 名(88%)が介入を完遂し,出席率は中央値 91.7%で, 全員が内容に「満足」または「大変満足」と回答した。歩行速度,認知機能(処理速度・言語流暢性), 平均歩数,機能的ヘルスリテラシー得点に有意な改善が認められた(p<0.05)。【結論】住民主体によるア クティブ・ラーニング型教育介入の実行可能性は良好であり,生活習慣や心身機能の改善に有効であるこ とが示唆された。 キーワード 行動変容,身体活動,栄養,ヘルスリテラシー,地域リハビリテーション. 介入後の運動習慣の継続についても限界がある. はじめに. 3). 。理学. 療法士の役割も,運動教室等で運動療法を「与える」存.  介護保険制度の大改革により,全国の自治体で総合事. 在に留まっていたが,介護予防の効果・持続性向上のた. 業が推し進められ,介護予防はまさに変革の時代にあ. めには,健康づくりに対する高齢者自身の意欲や行動を. る。一般介護予防事業のひとつである地域リハビリテー. 「育てる」アプローチが重要であり,理学療法士がもつ. ション活動支援事業. 1). では,地域における介護予防の. 専門性をこれまで以上に活用すべき領域であると考えら. 取り組みを強化するため,地域ケア会議や住民の通いの. れる。. 場への定期的な関与がリハビリテーション専門職に期待.  本研究では,高齢者が健康づくりの習慣やスキルを獲. される。一方で介護予防の従来の手法は,機能回復ト. 得するための効果的で汎用性の高い介入手法を開発する. レーニングに偏りがちであり,事業終了後も活動的な状. ことをめざし,従来の一方向型の講義形式とは異なる学. 態を維持するための取り組みが不十分であったことがし. 習法である「アクティブ・ラーニング」. 2). 4)5). に注目した。. 6). ばしば問題点として指摘されてきた 。教室型介入で運. Ntiri ら. 動療法を与えるのみでは,健康づくりに関して住民の主. ブ・ラーニングを取り入れた教育介入を高齢糖尿病者に. 体性が育たず,生活自体が変化しないことが推測され,. 実施することにより,糖尿病に関するヘルスリテラシー. *. Community-Based Practice of Active Learning Health Education for Care Prevention in Older Adults: Citizen-Centered Approach 1)富山県立大学教養教育センター (〒 939‒0398 富山県射水市黒河 5180) Kazuki Uemura, PT, PhD, Hiroshi Okamoto, PhD: Center for Liberal Arts and Sciences, Toyama Prefectural University 2)筑波大学大学院人間総合科学研究科 Minoru Yamada, PT, PhD: Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba # E-mail: kuemura@pu-toyama.ac.jp (受付日 2019 年 1 月 21 日/受理日 2019 年 3 月 27 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 6 月 22 日]. は,前後比較試験のデザインを用い,アクティ. が改善したとしている。我々は介護予防への応用に向け て,高齢者を対象としたランダム化比較試験を実施し, アクティブ・ラーニング型健康教育介入によって,意 欲・セルフエフィカシーのような心理的要因が改善し, 生活習慣(運動・食習慣)と身体機能の改善効果が得ら れることを報告した. 7). 。ただし,この研究では,理学療. 法士または体育学の専門家が現場に常駐して,ファシリ テーター(教室の進行役)を担当しており,地域で汎用.

(2) 276. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 化する際には障壁になりうると考えられた。. を務めるファシリテーター養成のための研修を行った。.  そこで本研究では,アクティブ・ラーニングによる. 17 名がファシリテーターとして参加し,教室中の司会. 「育てる」介護予防の確立・普及に向けて,既存のプロ. 進行,運動指導,サポート(タイムキーパー等)の役を. グラムをより地域住民に受け入れやすい形に改良し,地. 交代で務めた。研修では,事業目的・内容,ファシリ. 域で実践的な取り組みを行った。具体的には,①アク. テーターの役割と基本的な進め方,危機管理についてマ. ティブ・ラーニング型健康教育の質・水準保証のため,. ニュアルを用いて説明し,ファシリテーターの意思統一. 一連の学習内容を一冊に含めた専用テキストを開発する. を図った。その後,ロールプレイ形式にて,受講者役を. こと,②地域住民をファシリテーターとして養成するこ. 含めて教室進行を体験学習した。その際,著者らを含め. と,を改善のポイントとして,講師や専門家の常駐を必. た議論を通じ,必要に応じて進行方法の改良を行った。. 要とせず,住民主体で実施可能な学習スタイルを実現す. また,開催地域の自治会との折衝(センターの利用や広. ることを課題とした。アンケート調査による受容性. 報誌への募集案内の掲載等),会場予約・設営,受付業. (Acceptability)評価のほか,プログラムへの参加によ. 務についてもファシリテーターが担当した。教室は事前. る効果判定には,客観的指標による身体機能,認知機能,. に作成したテキストに沿って行うことで,専門家や講師. 身体活動量の評価,およびヘルスリテラシーの評価尺度. の常駐を必要とせず,住民主体で実施可能な方式と. を用いた。ヘルスリテラシーは健康情報を獲得・活用す. した。. 8). ,健康づくりのための学習により向上が.  『①課題提示と基礎知識の提供→②課題に関する調. 期待できると考えた。本研究の目的は,介護予防を目的. 査・自己学習(宿題)→③教室でのグループワークによ. としたアクティブ・ラーニング型健康教育を住民主体で. る共有と発表→④実行計画と日常生活での実践』を一連. 実践し,その効果と実行可能性を検証することである。. の基本的な流れとした(図 1) 。学習内容の内訳を表 1. る能力をさし. に示す。各テーマについてファシリテーターから基礎知. 対象と方法. 識に関する説明を行った後,健康行動の実践方法に関連. 1.対象. する課題を提示し,各自が図書・インターネットなどを.  富山県射水市在住の地域在住高齢者に対して,市およ. 通じて調査することを宿題とした。次回の教室にて,持. び自治会が発行する広報誌への募集案内の掲載とチラシ. ち寄ったアイディアをグループで議論し,全体で発表・. の配布により,研究協力の募集を行った。選択基準は,. 共有したうえで,各自が日常生活で実施する内容・方法. 1)65 歳以上であること,2)要介護・要支援の認定を. を計画し,その実行状況や目標達成度について定期的な. 受けていないこと,3)基本的 ADL が自立していること,. 振り返りを行った。また,各回(第 1,9 ∼ 11 回を除く). 4)認知機能が正常であること(Rapid Dementia Screen-. の残り時間(10 ∼ 15 分程度)を利用して,ストレッチ. 9). ing Test(RDST)の得点が 5 点以上) ,5)運動の実. ングと自体重を用いた筋力トレーニング(スクワット,. 施に制限をもたらす循環器疾患,呼吸器疾患,神経疾患,. カーフレイズ,座位での膝関節伸展,立位での股関節外. 整 形 外 科 疾 患 を 有 さ な い こ と, と し た。25 名( 平 均. 転)を行い,実施方法について確認した。グループワー. 75.0 歳,男性 10 名)が,上記の基準にあてはまり,介. クは,4 ∼ 5 名の小グループで実施し,構成メンバーは. 入前評価に参加した。すべての対象者に対して,研究目. 4 週間ごとに変更して,対人交流を促進した。なお,運. 的や個人情報の保護について,十分に説明したうえで書. 動習慣に関しては,歩数計を配布し,セルフ・モニタリ. 面にて同意を得た。なお,本研究は,富山県立大学「人. ングを実施させた。なお,著者らは,事業全体の企画,. を対象とする研究」倫理審査部会の承認を受けて実施し. プログラム・テキストの作成,ファシリテーター養成,. た(番号:第 H30-12 号) 。. 実行可能性と効果判定のための評価,データ管理を担当 するとともに,介入開始後は,プログラムの進行を確認. 2.介入. し,必要に応じてファシリテーターに助言を行った。.  地域のコミュニティセンターを会場として,週 1 回 90 分,12 週間の運動・栄養・知的活動による健康づく. 3.評価. りをテーマとしたアクティブ・ラーニング型の健康教育.  介入終了後のアンケート調査,および介入前後におけ. プログラムを実施した。本プログラムでは,日常生活に. るアウトカムの測定により,プログラムを評価した。ア. おける健康行動を促進することに主眼を置き,週 1 回の. ウトカムの測定は,12 回の教室とは別日に教室と同じ. 教室は,その実践方法を学習,あるいは確認するための. 会場で実施した。. 機会として位置づけた。介入開始前に,過去に開催した. 1)アンケート調査. アクティブ・ラーニング型健康教育プログラム. 7). を修. 了した地域在住高齢者から希望者を募り,教室の進行役.  介入の受容性の評価として,高齢者に対する身体活動 介入の受容性を検証した先行研究. 10‒12). を参考に,5 段.

(3) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 277. 図 1 アクティブ・ラーニング型健康教育の流れ(A)とテキスト(B). 表 1 アクティブラーニング型教育介入プログラムのテーマと課題一覧 回. テーマ. 課題. 1. オリエンテーション. ガイダンス/アイスブレーク. 2. 運動 1. ウォーキングの実践・継続方法. 3. 栄養 1. 低栄養に関する基礎知識. 4. 運動 2. 筋力トレーニングの実践方法. 5. 栄養 2. 筋力アップを助ける食事・栄養の工夫. 6. 健康情報. 健康情報の収集に関する基本的スキル. 7. リフレクション 1. 前半の学習と生活習慣の振り返り. 8. 運動 3. ウォーキングマップ作成・共有. 9 10. 高齢期の健康問題・疾患. 11 12. リフレクション 2. ワークショップによる情報交換 (グループ別に異なるテーマを設定して調査学習し, 発表用ポスターを作成) 全体の学習と生活習慣の振り返り. 階のリッカート尺度を用いた。プログラムの満足度(大. して自由記述形式で調査した。さらに,「教室内容につ. 変満足/満足/どちらでもない/満足でない/まったく. いて,よかったと思うもの,意義ややりがいを感じたこ. 満足でない),内容の難易度(大変難しい/難しい/適. とはなんですか」という質問により,「プログラムの内. 切/簡単/大変簡単),内容の楽しさ(大変楽しい/楽. 容・テーマ/テキストブックの内容/グループでの会. しい/どちらでもない/楽しくない/まったく楽しくな. 話・議論/宿題・課題/発表/日常生活で実践する形式. い),教室で学んだ健康づくりの習慣を今後の生活で継. /ファシリテーターによる進行・サポート/研究や科学. 続できると思うか(強くそう思う/そう思う/どちらで. 的根拠に基づく内容であること/その他」の中から複数. もない/そう思わない/まったく思わない)の 4 項目に. 選択可として回答を得た。. ついて,それぞれ回答を得た。また,生活習慣の改善に. 2)アウトカムの測定. 関する主観的評価として,「教室に参加したことで,以.  歩行の指標として通常歩行速度を測定した。測定区間. 下の生活習慣や意欲に変化はありましたか」という質問. は 5 m とし,前後に 3 m ずつの予備路を設けた歩行路. により,運動・身体活動,食生活・栄養,学習・頭を使. で,ストップウォッチにより所要時間を計測して速度. う活動,健康づくりへの意欲の 4 項目の,教室参加によ. (m/ 秒)に換算した。「いつも通りの速さ」と教示し,. る変化の有無(あり/なし)について回答を得た。変化. 測定は 1 回とした。バランス能力の指標として,Timed. が「あり」と回答した場合には,その具体的な内容に関. Up & Go Test(以下,TUG)を測定した. 13). 。「いつも.

(4) 278. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 表 2 介入前の対象者特性. 通りの速さ」と教示し,椅子から立ち上がり 3 m 先の 目印を折り返し,再び椅子に座るまでの時間をストップ. 解析対象者(n=22). ウォッチにて計測した。解析には,2 回の測定の平均値. 年齢(歳). を用いた。. 性別(男 / 女 , 名).  筋力の指標として握力および 5 回椅子立ち座りテスト. 教育歴(年). を測定した。5 回椅子立ち座りテストは,椅子座位から. RDST. 5 回の連続した立ち座り動作をなるべく速く繰り返し,. 2 BMI(kg/m ). 動作開始から 5 回の立ち上がり動作終了後の完全立位ま. 服薬数(個). での所要時間をストップウォッチにて計測した. 14). 。握. 力は,スメドレー式握力計(竹井機器工業,T.K.K.5401) を用い,立位にて利き手で測定した。いずれも測定は 1 回とした。  認知機能は,処理速度,言語流暢性の 2 領域で評価し た。処理速度は,Wechsler Adult Intelligence Scale-III (WAIS-III)の digit symbol coding subtest により評価. 75.2 ± 6.6(65-87) 9/13 12.8 ± 3.2 9.6 ± 2.2 21.6 ± 2.9 2.0 ± 1.9. 慢性疾患  高血圧. 10(45.5).  脂質異常症. 4(18.1).  糖尿病. 1(4.5).  心疾患. 5(22.7). 数値は平均値 ± 標準偏差(最小値−最大値),ま たは人数(%)を記載. RDST; Rapid Dementia Screening Test. した。言語流暢性は,120 秒間にできるだけ多く,カテ ゴリー(動物の名前)による単語想起をさせる課題を用 い,産出語数を得点とした. 15)16). 。. 4.統計解析.  身体活動量は,歩数計(YAMASA,EX-500)を用い.  介入前後のアウトカムに関して,対応のある t 検定ま. て評価した。歩数計を装着した状態での 14 日間のデー. たは Wilcoxon の符号付順位検定を行うとともに,効果. タから,1 日あたりの平均歩数を算出した。第 1 回教室. 量(r) を 算 出 し た。 各 評 価 指 標 の 正 規 性 に つ い て. 前の 14 日間を介入前の調査期間,第 12 回教室後の 14. Shapiro-Wilk 検定を行い,その結果に基づいて検定を選. 日間を介入後の調査期間とした。睡眠時および入浴時以. 択 し た。 統 計 解 析 に は IBM SPSS Statistics(Ver.25). 外は,自宅内外を問わず,常に装着するよう指示した。. を用い,有意水準は 5% とした。. また,記録用紙を配布し,装着し忘れなど特別な日があ れば記録するよう指示をした。なお,記録用紙をもとに, 装着なしの日の値は分析から除いた。.  対象者 25 名のうち 3 名(1 名:健康上の問題,2 名:.  ヘルスリテラシーの自己記入式評価尺度として Health Literacy Scale-14(以下,HLS-14)を用いた. 結   果. 17). 。HLS-. 辞退)が脱落し,22 名(88%)が介入を完遂した。出 席率は中央値 91.7%(四分位範囲,83.3 ‒ 91.7)であった。. 14 は全 14 項目で,機能的ヘルスリテラシー(5 項目),. 入院,骨折,死亡などの重篤な有害事象,および教室中. 伝達的ヘルスリテラシー(5 項目),批判的ヘルスリテ. の事故は発生しなかった。解析対象者 22 名の基本特性. ラシー(4 項目)から構成される包括的なヘルスリテラ. を表 2 に示す。. シーの尺度である。機能的ヘルスリテラシーの項目で. 1)アンケート調査. は,病院や薬局での指示やリーフレットを理解する基本.  介入を完遂した 22 名へのアンケート調査の結果を図. 的な能力を評価する。伝達的ヘルスリテラシーの項目. 2 に示す。満足度に関して,9 名(41%)が大変満足,. は,疾病や治療に関する情報を得るためのより高度なス. 13 名(59%)が満足と回答した。楽しさに関して,5 名. キルや日常生活での利用方法を評価する。批判的ヘルス. (23%)が大変楽しい,14 名(64%)が楽しい,2 名(9%). リテラシーの項目では,疾病や治療に関する情報を批判. がどちらでもない,1 名(4%)が楽しくないと回答した。. 的に分析し,日常の出来事や状況に対応するために活用. 難易度に関して,1 名(4%)が大変難しい,6 名(27%). する能力を評価する。各項目に対して,5 つの選択肢. が難しい,14 名(64%)が適切,1 名(4%)が簡単と. (まったくそう思わない/あまりそう思わない/どちら. 回答した。教室で学んだ健康づくりの習慣を今後の生活. でもない/まあそう思う/強くそう思う)からひとつを. で継続できると思うかについて,4 名(18%)が強くそ. 選ぶ。各項目について 1 ∼ 5 の得点を合計し,総得点(14. う思う,15 名(68%)がそう思う,3 名(14%)がどち. ∼ 70 点)と下位項目の得点(機能的ヘルスリテラシー. らでもないと回答した。. と伝達的ヘルスリテラシー:5 ∼ 25 点,批判的ヘルス.  教室への参加による生活習慣の変化に関して,運動・. リテラシー:4 ∼ 20 点)を算出し,いずれも点数が高. 身体活動は 19 名(86%) ,食生活・栄養は 16 名(73%),. いほどヘルスリテラシーが高いことを示す。. 学習・頭を使う活動は 14 名(64%) ,健康づくりへの意 欲は 19 名(86%)の対象者が,変化があったと回答した。.

(5) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 279. 図 2 教室の受容性(Acceptability)および生活習慣の変化に関するアンケート調査の結果. 図 3 教室内容について,よかったと思うもの,意義ややりがいを感じたことに関するアンケート調査の結果(複数回答可).  教室内容について,よかったと思うもの,意義ややり. 果量が認められた。. がいを感じたことに関する調査の結果,「日常生活で実.  認知機能は,Digit symbol coding(p=0.002, r=0.62) ,. 践する形式」をもっとも多くの対象者(20 名,91%). 言語流暢性(p=0.02, r=0.47)の両方に有意な増加がみら. が選択した(図 3) 。次いで,「テキストブックの内容」 ,. れた。身体活動量の指標として評価した歩数に有意な増. 「 グ ル ー プ で の 会 話・ 議 論 」 ,「 宿 題・ 課 題 」 を 14 名. 加がみられた(p=0.005, r=0.56) 。ヘルスリテラシー尺度. (64%)が選択した。. のうち,機能的ヘルスリテラシーに有意な増加がみられ. 2)効果判定のアウトカム. た一方で(p=0.01, r=0.54) ,伝達的,批判的ヘルスリテ.  対応のある t 検定,または Wilcoxon の符号付順位検. ラシーおよび総得点には有意な差はみられなかった。. 定による介入前後のアウトカムの比較結果を表 2 に示. 考   察. す。 歩 行 速 度 に 介 入 前 後 で 有 意 な 増 加 が み ら れ た (p=0.04, r=0.43)。握力(p=0.10, r=0.35) ,TUG(p=0.13,.  本研究では,アクティブ・ラーニング型健康教育介 7). を住民主体で実践可能なプログラムに改良し,そ. r=0.33) ,5 回椅子立ち座りテスト(p=0.06, r=0.40)に. 入. は有意差はみられなかったが,中等度(0.30 以上)の効. の実行可能性と効果を前後比較試験により検証した。介.

(6) 280. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 表 3 介入前後のアウトカムの比較 介入前. 介入後. p値. 効果量 (r). 身体機能  握力(kg). 28.3 ± 8.2. 29.2 ± 8.4. 0.10. 0.35.  歩行速度(m/ 秒). 1.37 ± 0.19. 1.45 ± 0.21. 0.04. 0.43.  TUG(秒). 7.3 ± 1.1. 6.9 ± 1.1. 0.13. 0.33.  5 回椅子立ち座りテスト(秒). 7.2 ± 1.3. 6.8 ± 1.5. 0.06. 0.40. 認知機能  Digit symbol coding(点). 57.9 ± 14.7. 65.2 ± 17.0. 0.002. 0.62.  言語流暢性課題(点). 17.5 ± 5.7. 19.7 ± 5.0. 0.02. 0.47. 4,237 ± 1,858. 5,715 ± 2,502. 0.005. 0.56. 18.1 ± 3.8. 21.0 ± 3.6. 0.01. a. 0.54. a. 0.23.  身体活動  歩数(歩 / 日) ヘルスリテラシー  機能的ヘルスリテラシー(点)  伝達的ヘルスリテラシー(点). 20.0 ± 2.8. 19.1 ± 3.9. 0.40.  批判的ヘルスリテラシー(点). 14.9 ± 2.3. 14.9 ± 2.9. 1.00. 0.00.  総得点(点). 53.0 ± 6.4. 55.0 ± 6.7. 0.09. 0.36. a. 対応のある t 検定,または : Wilcoxon の符号付順位検定. TUG; Timed Up & Go Test. 入群の出席率は中央値 91.7%であり,プロトコル完遂率. 能(処理速度・言語流暢性) ,平均歩数,機能的ヘルス. も 88% で,介護予防を目的とした過去の介入研究に比. リテラシーに有意な改善が認められた。身体機能に関し. 3)18). 。満足度に関しては全員が. て,握力,TUG,5 回椅子立ち座りテストには介入前後. 「大変満足」または「満足」と回答していること,楽し. で有意な差はみられなかったが,効果量は中等度(0.30. 較しても良好であった. さに関しては 87% が「大変楽しい」または「楽しい」. 以上)を示した。1 日の平均歩数の増加率は 35% で効果. と回答していることから,プログラムの受容性は高いと. 量は大きく(0.50 以上) ,専門職(看護師)による指導. 考えられる。難易度に関しては,69% が「適切」また. と活動量計によるモニタリングなどの行動変容技法を用. は「簡単」と回答している一方で,31% が「難しい」ま. いた先行研究(8 ∼ 25%). たは「大変難しい」と回答していることから,対象者層. 効果がみられた。介入に起因すると考えられる重篤な有. によっては,理解度の確認やファシリテーターによるサ. 害事象も発生しなかったことから,本研究で用いた教育. ポートが必要となることが考えられた。. 介入は,介入による健康被害の危険性が少なく,高齢者.  生活習慣の変化に関する主観的評価について,運動で. にとって受け入れやすい方法で,生活習慣の変容,心身. は 86%,食生活では 73%,知的活動では 64% が教室参. 機能の改善効果が得られるプログラムと考えられた。教. 加によって変化し,86% で健康づくりへの意欲が向上. 室時間中における積極的なトレーニングは実施していな. したと回答した。また,これらの生活習慣の変化に関し. いため,日常生活における身体活動増加をはじめとした. て,86% が継続への自信があるとしている。個別の内. 生活習慣の改善が,心身機能向上に寄与したものと考え. 容については,「日常生活で実践する形式」,「テキスト. られ,教室終了後も継続しやすいことが期待できる。. ブックの内容」,「グループでの会話・議論」,「宿題・課.  機能的ヘルスリテラシーは,健康情報を理解・活用す. 題」に意義ややりがいを感じたとする回答が多かった。. るための,読み書き・計算を含む基本的スキルを指. Allender ら. 19). は質的研究をレビューし,高齢者が身体. 20)21). し. に比較しても同等以上の. 8). ,本研究で用いた HLS-14 では,病院や薬局からも. 活動へ参加する主要な動機として,健康への利益,ソー. らう説明書やパンフレットなどを読む際の,「内容が難. シャルサポート,楽しさの 3 つを挙げている。本研究で. しくてわかりにくい」,「読むのに時間がかかる」などの. は,アクティブ・ラーニングを通じて,健康づくりの利. 項目に対する自覚的な難易度を評価している。すなわ. 益を学習したうえで日常生活の中で実体験したことや,. ち,機能的ヘルスリテラシーの改善は,健康情報の読解. 意見の発信・交換が知的刺激や楽しさにつながったこと. に対する困難度の減少を示しており,アクティブ・ラー. が,生活習慣と継続意欲の改善に寄与したものと考えら. ニングにおける調査学習の実践により,学習の楽しさを. れた。. 認識し,苦手意識が減少したことが考えられる。また,.  効果判定のアウトカムに関しては,歩行速度,認知機. アクティブ・ラーニングによる知的・社会的刺激を通じ.

(7) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 281. て認知機能が改善し,機能的ヘルスリテラシーに正の影. 動量(平均歩数),機能的ヘルスリテラシーの改善効果. 響を及ぼした,という経路も考えられる。それを支持す. が示された。本研究で用いたアクティブ・ラーニング型. る知見として,本介入により改善がみられた情報処理や. 健康教育介入は,住民主体で実践可能な,高齢者の健康. 言語流暢性は,ともに機能的ヘルスリテラシーとの関連. づくり力を「育てる」介護予防プログラムとして,実行. が深い領域であるとされている. 22)23). 。機能的ヘルスリ. テラシーが低いことは,慢性疾患の自己管理不良 生活機能の低下. 26). ,死亡リスクの増加など. 可能性と有効性が示唆された。. 24)25). ,. 27)28). ,様々. な健康アウトカムに影響を及ぼすことが報告されてお. 利益相反  開示すべき利益相反はない。. り,介護予防を目的とした健康教育のターゲットとする 意義は大きい。. 謝辞:本研究の実施にあたり,ファシリテーターとして.  地域における介護予防を考えるうえで,事業の内容充. ご協力いただいたシニア・アカデミー会の皆様,ご後援. 実に財政的な限界があることを考慮すると,多くの高齢. いただきました中太閤山まちづくり地域振興会の皆様,. 者を対象とした場合には,専門家の常駐が現実的でない. 対象者募集にご協力いただきました射水市役所地域福祉. 場合がある。本研究では,参加者が運動療法を受けるこ. 課,小杉南地域包括支援センターの関係各位,測定ス. とに終始するのではなく,個人の健康づくりへの意欲や. タッフとしてご協力いただきました皆様,ならびに対象. 能力を「育てる」工夫と,地域での汎用性を重視したプ. 者としてご参加いただきました皆様に深謝いたします。. ログラムを開発し,住民主体での実行可能性と機能改善.  本研究は JSPS 科研費 JP18K17926 の助成のもとに行. 効果を明らかにした。特別な器具や専門的技術がなくて. われた。. も実施可能な,費用対効果に優れるプログラムとして実 装・汎用化が可能である。本プログラムの実践に際して は,理学療法士によるファシリテーターの養成や,体力 測定などの機能評価,個別のケースへの対応など,定期 的な関与を行うことが,効果・継続性向上のために重要 になると考えられ,総合事業に設けられた「地域リハビ 1) リテーション活動支援事業」 におけるセラピストのか. かわり方の形を提案するものである。  フォローアップ調査がなく持続効果が不明であること は,本研究の限界である。追跡調査を行い,教室参加に より改善した生活習慣と機能が持続可能であるかを検証 していくことが不可欠である。一方で,本研究により, プログラムの実行可能性は支持されたため,今後はより 大きなサンプルサイズで対照群を設けた比較試験を行 う。最後に,プログラムの普及に向けては,学習に苦手 意識をもつ参加者へのサポート方法など,本研究で明ら かになった改善すべき点を取り入れたうえで,ファシリ テーターの養成を含めた実践的なマニュアルを作成する 必要がある。 結   論  本研究では,介護予防を目的としたアクティブ・ラー ニング型健康教育介入を地域において実践し,実行可能 性と効果を前後比較試験により検証した。ファシリテー ターの養成と専用テキストの作成により,専門家の常駐 を必要としないことをプログラムの特色とした。検証の 結果,完遂率,出席率,安全性,アンケート調査に基づ く満足度や楽しさなどの受容性(Acceptability)は良好 であった。また,アウトカムの介入前後の比較により, 歩行速度,認知機能(処理速度・言語流暢性),身体活. 文  献 1)厚生労働省ホームページ 介護予防・日常生活支援総合 事業ガイドライン概要.https://www.mhlw.go.jp/file/06Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000088276.pdf (2019 年 1 月 7 日引用) 2)厚生労働省ホームページ 全国介護保険・高齢者保健福 祉 担 当 課 長 会 議 資 料( 平 成 26 年 2 月 ) :老人保健課関 係・ 介 護 予 防 に つ い て.http://www.mhlw.go.jp/file/05Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000038326. pdf(2019 年 1 月 7 日引用) 3)Saida T, Juul Sorensen T, et al.: Long-term exercise adherence after public health training in at-risk adults. Ann Phys Rehabil Med. 2017; 60(4): 237‒243. 4)文部科学省(中央教育審議会)ホームページ 新たな未来 を築くための大学教育の質的転換に向けて∼生涯学び続 け,主体的に考える力を育成する大学へ∼(答申)(平成 24 年 8 月) .http://wwwmextgojp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo0/toushin/1325047htm(2019 年 1 月 7 日引用) 5)Bonwell CC, Eison JA: Active Learning: Creating Excitement in the Classroom. In: ASHE-ERIC Higher Education Report No. 1, The George Washington University, School of Education and Human Development, Washington, DC, 1991, pp. 5‒22. 6)N t i r i D W , S t e w a r t M : T r a n s f o r m a t i v e l e a r n i n g intervention: effect on functional health literacy and diabetes knowledge in older African Americans. Gerontol Geriatr Educ. 2009; 30(2): 100‒113. 7)上村一貴,山田 実,他:フレイル予防に向けたアクティ ブ・ラーニング型健康教育介入の効果─高齢者を対象とし たランダム化比較試験─.理学療法学.2018; 45(4): 209‒217. 8)Sorensen K, Van den Broucke S, et al.: Health literacy and public health: a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health. 2012; 12: 80. 9)Kalbe E, Calabrese P, et al.: The Rapid Dementia Screening Test (RDST): a new economical tool for detecting possible patients with dementia. Dement Geriatr Cogn Disord. 2003; 16(4): 193‒199. 10)Harzand A, Witbrodt B, et al.: Feasibility of a Smartphoneenabled Cardiac Rehabilitation Program in Male Veterans.

(8) 282. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. with Previous Clinical Evidence of Coronary Heart Disease. Am J Cardiol. 2018; 122(9): 1471‒1476. 11)Lewis LK, Rowlands AV, et al.: Small Steps: Preliminary effectiveness and feasibility of an incremental goalsetting intervention to reduce sitting time in older adults. Maturitas. 2016; 85: 64‒70. 12)Lauze M, Martel DD, et al.: Feasibility, Acceptability and Effects of a Home-Based Exercise Program Using a Gerontechnology on Physical Capacities after a Minor Injury in Community-Living Older Adults: A Pilot Study. J Nutr Health Aging. 2018; 22(1): 16‒25. 13)Podsiadlo D, Richardson S: The timed "Up & Go": a test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991; 39(2): 142‒148. 14)Guralnik JM, Simonsick EM, et al.: A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994; 49(2): M85‒M94. 15)Benton AL: Differential behavioral effects in frontal lobe disease. Neuropsychologia. 1968; 6(1): 53‒60. 16)Maki Y, Ura C, et al.: Effects of intervention using a community-based walking program for prevention of mental decline: a randomized controlled trial. J Am Geriatr Soc. 2012; 60(3): 505‒510. 17)Suka M, Odajima T, et al.: The 14-item health literacy scale for Japanese adults (HLS-14). Environmental health and preventive medicine. 2013; 18(5): 407‒415. 18)Oh SL, Kim HJ, et al.: Effects of an integrated health education and elastic band resistance training program on physical function and muscle strength in communitydwelling elderly women: Healthy Aging and Happy Aging II study. Geriatr Gerontol Int. 2017; 17(5): 825‒833.. 19)Allender S, Cowburn G, et al.: Understanding participation in sport and physical activity among children and adults: a review of qualitative studies. Health Educ Res. 2006; 21(6): 826‒835. 20)Mutrie N, Doolin O, et al.: Increasing older adults’ walking through primary care: results of a pilot randomized controlled trial. Fam Pract. 2012; 29(6): 633‒642. 21)Harris T, Kerry SM, et al.: A primary care nursedelivered walking intervention in older adults: PACE (pedometer accelerometer consultation evaluation)-Lift cluster randomised controlled trial. PLoS Med. 2015; 12(2): e1001783. 22)Serper M, Patzer RE, et al.: Health literacy, cognitive ability, and functional health status among older adults. Health Serv Res. 2014; 49(4): 1249‒1267. 23)Federman AD, Sano M, et al.: Health literacy and cognitive performance in older adults. J Am Geriatr Soc. 2009; 57(8): 1475‒1480. 24)Bailey SC, Brega AG, et al.: Update on health literacy and diabetes. Diabetes Educ. 2014; 40(5): 581‒604. 25)Roh YH, Koh YD, et al.: Effect of health literacy on adherence to osteoporosis treatment among patients with distal radius fracture. Arch Osteoporos. 2017; 12(1): 42. 26)Smith SG, O’Conor R, et al.: Low health literacy predicts decline in physical function among older adults: findings from the LitCog cohort study. J Epidemiol Community Health. 2015; 69(5): 474‒480. 27)Berkman ND, Sheridan SL, et al.: Low health literacy and health outcomes: an updated systematic review. Ann Intern Med. 2011; 155(2): 97‒107. 28)Bostock S, Steptoe A: Association between low functional health literacy and mortality in older adults: longitudinal cohort study. BMJ. 2012; 344: e1602..

(9)

図 1 アクティブ・ラーニング型健康教育の流れ(A)とテキスト(B) 表 1  アクティブラーニング型教育介入プログラムのテーマと課題一覧 回 テーマ 課題 1 オリエンテーション ガイダンス/アイスブレーク 2 運動 1 ウォーキングの実践・継続方法 3 栄養 1 低栄養に関する基礎知識 4 運動 2 筋力トレーニングの実践方法 5 栄養 2 筋力アップを助ける食事・栄養の工夫 6 健康情報 健康情報の収集に関する基本的スキル 7 リフレクション 1 前半の学習と生活習慣の振り返り 8 運動 3 ウォーキ

参照

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