高齢者の介護予防を目的としたアクティブ・ ラーニング型健康教育の地域実践
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(2) 276. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 化する際には障壁になりうると考えられた。. を務めるファシリテーター養成のための研修を行った。. そこで本研究では,アクティブ・ラーニングによる. 17 名がファシリテーターとして参加し,教室中の司会. 「育てる」介護予防の確立・普及に向けて,既存のプロ. 進行,運動指導,サポート(タイムキーパー等)の役を. グラムをより地域住民に受け入れやすい形に改良し,地. 交代で務めた。研修では,事業目的・内容,ファシリ. 域で実践的な取り組みを行った。具体的には,①アク. テーターの役割と基本的な進め方,危機管理についてマ. ティブ・ラーニング型健康教育の質・水準保証のため,. ニュアルを用いて説明し,ファシリテーターの意思統一. 一連の学習内容を一冊に含めた専用テキストを開発する. を図った。その後,ロールプレイ形式にて,受講者役を. こと,②地域住民をファシリテーターとして養成するこ. 含めて教室進行を体験学習した。その際,著者らを含め. と,を改善のポイントとして,講師や専門家の常駐を必. た議論を通じ,必要に応じて進行方法の改良を行った。. 要とせず,住民主体で実施可能な学習スタイルを実現す. また,開催地域の自治会との折衝(センターの利用や広. ることを課題とした。アンケート調査による受容性. 報誌への募集案内の掲載等),会場予約・設営,受付業. (Acceptability)評価のほか,プログラムへの参加によ. 務についてもファシリテーターが担当した。教室は事前. る効果判定には,客観的指標による身体機能,認知機能,. に作成したテキストに沿って行うことで,専門家や講師. 身体活動量の評価,およびヘルスリテラシーの評価尺度. の常駐を必要とせず,住民主体で実施可能な方式と. を用いた。ヘルスリテラシーは健康情報を獲得・活用す. した。. 8). ,健康づくりのための学習により向上が. 『①課題提示と基礎知識の提供→②課題に関する調. 期待できると考えた。本研究の目的は,介護予防を目的. 査・自己学習(宿題)→③教室でのグループワークによ. としたアクティブ・ラーニング型健康教育を住民主体で. る共有と発表→④実行計画と日常生活での実践』を一連. 実践し,その効果と実行可能性を検証することである。. の基本的な流れとした(図 1) 。学習内容の内訳を表 1. る能力をさし. に示す。各テーマについてファシリテーターから基礎知. 対象と方法. 識に関する説明を行った後,健康行動の実践方法に関連. 1.対象. する課題を提示し,各自が図書・インターネットなどを. 富山県射水市在住の地域在住高齢者に対して,市およ. 通じて調査することを宿題とした。次回の教室にて,持. び自治会が発行する広報誌への募集案内の掲載とチラシ. ち寄ったアイディアをグループで議論し,全体で発表・. の配布により,研究協力の募集を行った。選択基準は,. 共有したうえで,各自が日常生活で実施する内容・方法. 1)65 歳以上であること,2)要介護・要支援の認定を. を計画し,その実行状況や目標達成度について定期的な. 受けていないこと,3)基本的 ADL が自立していること,. 振り返りを行った。また,各回(第 1,9 ∼ 11 回を除く). 4)認知機能が正常であること(Rapid Dementia Screen-. の残り時間(10 ∼ 15 分程度)を利用して,ストレッチ. 9). ing Test(RDST)の得点が 5 点以上) ,5)運動の実. ングと自体重を用いた筋力トレーニング(スクワット,. 施に制限をもたらす循環器疾患,呼吸器疾患,神経疾患,. カーフレイズ,座位での膝関節伸展,立位での股関節外. 整 形 外 科 疾 患 を 有 さ な い こ と, と し た。25 名( 平 均. 転)を行い,実施方法について確認した。グループワー. 75.0 歳,男性 10 名)が,上記の基準にあてはまり,介. クは,4 ∼ 5 名の小グループで実施し,構成メンバーは. 入前評価に参加した。すべての対象者に対して,研究目. 4 週間ごとに変更して,対人交流を促進した。なお,運. 的や個人情報の保護について,十分に説明したうえで書. 動習慣に関しては,歩数計を配布し,セルフ・モニタリ. 面にて同意を得た。なお,本研究は,富山県立大学「人. ングを実施させた。なお,著者らは,事業全体の企画,. を対象とする研究」倫理審査部会の承認を受けて実施し. プログラム・テキストの作成,ファシリテーター養成,. た(番号:第 H30-12 号) 。. 実行可能性と効果判定のための評価,データ管理を担当 するとともに,介入開始後は,プログラムの進行を確認. 2.介入. し,必要に応じてファシリテーターに助言を行った。. 地域のコミュニティセンターを会場として,週 1 回 90 分,12 週間の運動・栄養・知的活動による健康づく. 3.評価. りをテーマとしたアクティブ・ラーニング型の健康教育. 介入終了後のアンケート調査,および介入前後におけ. プログラムを実施した。本プログラムでは,日常生活に. るアウトカムの測定により,プログラムを評価した。ア. おける健康行動を促進することに主眼を置き,週 1 回の. ウトカムの測定は,12 回の教室とは別日に教室と同じ. 教室は,その実践方法を学習,あるいは確認するための. 会場で実施した。. 機会として位置づけた。介入開始前に,過去に開催した. 1)アンケート調査. アクティブ・ラーニング型健康教育プログラム. 7). を修. 了した地域在住高齢者から希望者を募り,教室の進行役. 介入の受容性の評価として,高齢者に対する身体活動 介入の受容性を検証した先行研究. 10‒12). を参考に,5 段.
(3) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 277. 図 1 アクティブ・ラーニング型健康教育の流れ(A)とテキスト(B). 表 1 アクティブラーニング型教育介入プログラムのテーマと課題一覧 回. テーマ. 課題. 1. オリエンテーション. ガイダンス/アイスブレーク. 2. 運動 1. ウォーキングの実践・継続方法. 3. 栄養 1. 低栄養に関する基礎知識. 4. 運動 2. 筋力トレーニングの実践方法. 5. 栄養 2. 筋力アップを助ける食事・栄養の工夫. 6. 健康情報. 健康情報の収集に関する基本的スキル. 7. リフレクション 1. 前半の学習と生活習慣の振り返り. 8. 運動 3. ウォーキングマップ作成・共有. 9 10. 高齢期の健康問題・疾患. 11 12. リフレクション 2. ワークショップによる情報交換 (グループ別に異なるテーマを設定して調査学習し, 発表用ポスターを作成) 全体の学習と生活習慣の振り返り. 階のリッカート尺度を用いた。プログラムの満足度(大. して自由記述形式で調査した。さらに,「教室内容につ. 変満足/満足/どちらでもない/満足でない/まったく. いて,よかったと思うもの,意義ややりがいを感じたこ. 満足でない),内容の難易度(大変難しい/難しい/適. とはなんですか」という質問により,「プログラムの内. 切/簡単/大変簡単),内容の楽しさ(大変楽しい/楽. 容・テーマ/テキストブックの内容/グループでの会. しい/どちらでもない/楽しくない/まったく楽しくな. 話・議論/宿題・課題/発表/日常生活で実践する形式. い),教室で学んだ健康づくりの習慣を今後の生活で継. /ファシリテーターによる進行・サポート/研究や科学. 続できると思うか(強くそう思う/そう思う/どちらで. 的根拠に基づく内容であること/その他」の中から複数. もない/そう思わない/まったく思わない)の 4 項目に. 選択可として回答を得た。. ついて,それぞれ回答を得た。また,生活習慣の改善に. 2)アウトカムの測定. 関する主観的評価として,「教室に参加したことで,以. 歩行の指標として通常歩行速度を測定した。測定区間. 下の生活習慣や意欲に変化はありましたか」という質問. は 5 m とし,前後に 3 m ずつの予備路を設けた歩行路. により,運動・身体活動,食生活・栄養,学習・頭を使. で,ストップウォッチにより所要時間を計測して速度. う活動,健康づくりへの意欲の 4 項目の,教室参加によ. (m/ 秒)に換算した。「いつも通りの速さ」と教示し,. る変化の有無(あり/なし)について回答を得た。変化. 測定は 1 回とした。バランス能力の指標として,Timed. が「あり」と回答した場合には,その具体的な内容に関. Up & Go Test(以下,TUG)を測定した. 13). 。「いつも.
(4) 278. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 表 2 介入前の対象者特性. 通りの速さ」と教示し,椅子から立ち上がり 3 m 先の 目印を折り返し,再び椅子に座るまでの時間をストップ. 解析対象者(n=22). ウォッチにて計測した。解析には,2 回の測定の平均値. 年齢(歳). を用いた。. 性別(男 / 女 , 名). 筋力の指標として握力および 5 回椅子立ち座りテスト. 教育歴(年). を測定した。5 回椅子立ち座りテストは,椅子座位から. RDST. 5 回の連続した立ち座り動作をなるべく速く繰り返し,. 2 BMI(kg/m ). 動作開始から 5 回の立ち上がり動作終了後の完全立位ま. 服薬数(個). での所要時間をストップウォッチにて計測した. 14). 。握. 力は,スメドレー式握力計(竹井機器工業,T.K.K.5401) を用い,立位にて利き手で測定した。いずれも測定は 1 回とした。 認知機能は,処理速度,言語流暢性の 2 領域で評価し た。処理速度は,Wechsler Adult Intelligence Scale-III (WAIS-III)の digit symbol coding subtest により評価. 75.2 ± 6.6(65-87) 9/13 12.8 ± 3.2 9.6 ± 2.2 21.6 ± 2.9 2.0 ± 1.9. 慢性疾患 高血圧. 10(45.5). 脂質異常症. 4(18.1). 糖尿病. 1(4.5). 心疾患. 5(22.7). 数値は平均値 ± 標準偏差(最小値−最大値),ま たは人数(%)を記載. RDST; Rapid Dementia Screening Test. した。言語流暢性は,120 秒間にできるだけ多く,カテ ゴリー(動物の名前)による単語想起をさせる課題を用 い,産出語数を得点とした. 15)16). 。. 4.統計解析. 身体活動量は,歩数計(YAMASA,EX-500)を用い. 介入前後のアウトカムに関して,対応のある t 検定ま. て評価した。歩数計を装着した状態での 14 日間のデー. たは Wilcoxon の符号付順位検定を行うとともに,効果. タから,1 日あたりの平均歩数を算出した。第 1 回教室. 量(r) を 算 出 し た。 各 評 価 指 標 の 正 規 性 に つ い て. 前の 14 日間を介入前の調査期間,第 12 回教室後の 14. Shapiro-Wilk 検定を行い,その結果に基づいて検定を選. 日間を介入後の調査期間とした。睡眠時および入浴時以. 択 し た。 統 計 解 析 に は IBM SPSS Statistics(Ver.25). 外は,自宅内外を問わず,常に装着するよう指示した。. を用い,有意水準は 5% とした。. また,記録用紙を配布し,装着し忘れなど特別な日があ れば記録するよう指示をした。なお,記録用紙をもとに, 装着なしの日の値は分析から除いた。. 対象者 25 名のうち 3 名(1 名:健康上の問題,2 名:. ヘルスリテラシーの自己記入式評価尺度として Health Literacy Scale-14(以下,HLS-14)を用いた. 結 果. 17). 。HLS-. 辞退)が脱落し,22 名(88%)が介入を完遂した。出 席率は中央値 91.7%(四分位範囲,83.3 ‒ 91.7)であった。. 14 は全 14 項目で,機能的ヘルスリテラシー(5 項目),. 入院,骨折,死亡などの重篤な有害事象,および教室中. 伝達的ヘルスリテラシー(5 項目),批判的ヘルスリテ. の事故は発生しなかった。解析対象者 22 名の基本特性. ラシー(4 項目)から構成される包括的なヘルスリテラ. を表 2 に示す。. シーの尺度である。機能的ヘルスリテラシーの項目で. 1)アンケート調査. は,病院や薬局での指示やリーフレットを理解する基本. 介入を完遂した 22 名へのアンケート調査の結果を図. 的な能力を評価する。伝達的ヘルスリテラシーの項目. 2 に示す。満足度に関して,9 名(41%)が大変満足,. は,疾病や治療に関する情報を得るためのより高度なス. 13 名(59%)が満足と回答した。楽しさに関して,5 名. キルや日常生活での利用方法を評価する。批判的ヘルス. (23%)が大変楽しい,14 名(64%)が楽しい,2 名(9%). リテラシーの項目では,疾病や治療に関する情報を批判. がどちらでもない,1 名(4%)が楽しくないと回答した。. 的に分析し,日常の出来事や状況に対応するために活用. 難易度に関して,1 名(4%)が大変難しい,6 名(27%). する能力を評価する。各項目に対して,5 つの選択肢. が難しい,14 名(64%)が適切,1 名(4%)が簡単と. (まったくそう思わない/あまりそう思わない/どちら. 回答した。教室で学んだ健康づくりの習慣を今後の生活. でもない/まあそう思う/強くそう思う)からひとつを. で継続できると思うかについて,4 名(18%)が強くそ. 選ぶ。各項目について 1 ∼ 5 の得点を合計し,総得点(14. う思う,15 名(68%)がそう思う,3 名(14%)がどち. ∼ 70 点)と下位項目の得点(機能的ヘルスリテラシー. らでもないと回答した。. と伝達的ヘルスリテラシー:5 ∼ 25 点,批判的ヘルス. 教室への参加による生活習慣の変化に関して,運動・. リテラシー:4 ∼ 20 点)を算出し,いずれも点数が高. 身体活動は 19 名(86%) ,食生活・栄養は 16 名(73%),. いほどヘルスリテラシーが高いことを示す。. 学習・頭を使う活動は 14 名(64%) ,健康づくりへの意 欲は 19 名(86%)の対象者が,変化があったと回答した。.
(5) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 279. 図 2 教室の受容性(Acceptability)および生活習慣の変化に関するアンケート調査の結果. 図 3 教室内容について,よかったと思うもの,意義ややりがいを感じたことに関するアンケート調査の結果(複数回答可). 教室内容について,よかったと思うもの,意義ややり. 果量が認められた。. がいを感じたことに関する調査の結果,「日常生活で実. 認知機能は,Digit symbol coding(p=0.002, r=0.62) ,. 践する形式」をもっとも多くの対象者(20 名,91%). 言語流暢性(p=0.02, r=0.47)の両方に有意な増加がみら. が選択した(図 3) 。次いで,「テキストブックの内容」 ,. れた。身体活動量の指標として評価した歩数に有意な増. 「 グ ル ー プ で の 会 話・ 議 論 」 ,「 宿 題・ 課 題 」 を 14 名. 加がみられた(p=0.005, r=0.56) 。ヘルスリテラシー尺度. (64%)が選択した。. のうち,機能的ヘルスリテラシーに有意な増加がみられ. 2)効果判定のアウトカム. た一方で(p=0.01, r=0.54) ,伝達的,批判的ヘルスリテ. 対応のある t 検定,または Wilcoxon の符号付順位検. ラシーおよび総得点には有意な差はみられなかった。. 定による介入前後のアウトカムの比較結果を表 2 に示. 考 察. す。 歩 行 速 度 に 介 入 前 後 で 有 意 な 増 加 が み ら れ た (p=0.04, r=0.43)。握力(p=0.10, r=0.35) ,TUG(p=0.13,. 本研究では,アクティブ・ラーニング型健康教育介 7). を住民主体で実践可能なプログラムに改良し,そ. r=0.33) ,5 回椅子立ち座りテスト(p=0.06, r=0.40)に. 入. は有意差はみられなかったが,中等度(0.30 以上)の効. の実行可能性と効果を前後比較試験により検証した。介.
(6) 280. 理学療法学 第 46 巻第 4 号. 表 3 介入前後のアウトカムの比較 介入前. 介入後. p値. 効果量 (r). 身体機能 握力(kg). 28.3 ± 8.2. 29.2 ± 8.4. 0.10. 0.35. 歩行速度(m/ 秒). 1.37 ± 0.19. 1.45 ± 0.21. 0.04. 0.43. TUG(秒). 7.3 ± 1.1. 6.9 ± 1.1. 0.13. 0.33. 5 回椅子立ち座りテスト(秒). 7.2 ± 1.3. 6.8 ± 1.5. 0.06. 0.40. 認知機能 Digit symbol coding(点). 57.9 ± 14.7. 65.2 ± 17.0. 0.002. 0.62. 言語流暢性課題(点). 17.5 ± 5.7. 19.7 ± 5.0. 0.02. 0.47. 4,237 ± 1,858. 5,715 ± 2,502. 0.005. 0.56. 18.1 ± 3.8. 21.0 ± 3.6. 0.01. a. 0.54. a. 0.23. 身体活動 歩数(歩 / 日) ヘルスリテラシー 機能的ヘルスリテラシー(点) 伝達的ヘルスリテラシー(点). 20.0 ± 2.8. 19.1 ± 3.9. 0.40. 批判的ヘルスリテラシー(点). 14.9 ± 2.3. 14.9 ± 2.9. 1.00. 0.00. 総得点(点). 53.0 ± 6.4. 55.0 ± 6.7. 0.09. 0.36. a. 対応のある t 検定,または : Wilcoxon の符号付順位検定. TUG; Timed Up & Go Test. 入群の出席率は中央値 91.7%であり,プロトコル完遂率. 能(処理速度・言語流暢性) ,平均歩数,機能的ヘルス. も 88% で,介護予防を目的とした過去の介入研究に比. リテラシーに有意な改善が認められた。身体機能に関し. 3)18). 。満足度に関しては全員が. て,握力,TUG,5 回椅子立ち座りテストには介入前後. 「大変満足」または「満足」と回答していること,楽し. で有意な差はみられなかったが,効果量は中等度(0.30. 較しても良好であった. さに関しては 87% が「大変楽しい」または「楽しい」. 以上)を示した。1 日の平均歩数の増加率は 35% で効果. と回答していることから,プログラムの受容性は高いと. 量は大きく(0.50 以上) ,専門職(看護師)による指導. 考えられる。難易度に関しては,69% が「適切」また. と活動量計によるモニタリングなどの行動変容技法を用. は「簡単」と回答している一方で,31% が「難しい」ま. いた先行研究(8 ∼ 25%). たは「大変難しい」と回答していることから,対象者層. 効果がみられた。介入に起因すると考えられる重篤な有. によっては,理解度の確認やファシリテーターによるサ. 害事象も発生しなかったことから,本研究で用いた教育. ポートが必要となることが考えられた。. 介入は,介入による健康被害の危険性が少なく,高齢者. 生活習慣の変化に関する主観的評価について,運動で. にとって受け入れやすい方法で,生活習慣の変容,心身. は 86%,食生活では 73%,知的活動では 64% が教室参. 機能の改善効果が得られるプログラムと考えられた。教. 加によって変化し,86% で健康づくりへの意欲が向上. 室時間中における積極的なトレーニングは実施していな. したと回答した。また,これらの生活習慣の変化に関し. いため,日常生活における身体活動増加をはじめとした. て,86% が継続への自信があるとしている。個別の内. 生活習慣の改善が,心身機能向上に寄与したものと考え. 容については,「日常生活で実践する形式」,「テキスト. られ,教室終了後も継続しやすいことが期待できる。. ブックの内容」,「グループでの会話・議論」,「宿題・課. 機能的ヘルスリテラシーは,健康情報を理解・活用す. 題」に意義ややりがいを感じたとする回答が多かった。. るための,読み書き・計算を含む基本的スキルを指. Allender ら. 19). は質的研究をレビューし,高齢者が身体. 20)21). し. に比較しても同等以上の. 8). ,本研究で用いた HLS-14 では,病院や薬局からも. 活動へ参加する主要な動機として,健康への利益,ソー. らう説明書やパンフレットなどを読む際の,「内容が難. シャルサポート,楽しさの 3 つを挙げている。本研究で. しくてわかりにくい」,「読むのに時間がかかる」などの. は,アクティブ・ラーニングを通じて,健康づくりの利. 項目に対する自覚的な難易度を評価している。すなわ. 益を学習したうえで日常生活の中で実体験したことや,. ち,機能的ヘルスリテラシーの改善は,健康情報の読解. 意見の発信・交換が知的刺激や楽しさにつながったこと. に対する困難度の減少を示しており,アクティブ・ラー. が,生活習慣と継続意欲の改善に寄与したものと考えら. ニングにおける調査学習の実践により,学習の楽しさを. れた。. 認識し,苦手意識が減少したことが考えられる。また,. 効果判定のアウトカムに関しては,歩行速度,認知機. アクティブ・ラーニングによる知的・社会的刺激を通じ.
(7) アクティブ・ラーニングによる介護予防の実践. 281. て認知機能が改善し,機能的ヘルスリテラシーに正の影. 動量(平均歩数),機能的ヘルスリテラシーの改善効果. 響を及ぼした,という経路も考えられる。それを支持す. が示された。本研究で用いたアクティブ・ラーニング型. る知見として,本介入により改善がみられた情報処理や. 健康教育介入は,住民主体で実践可能な,高齢者の健康. 言語流暢性は,ともに機能的ヘルスリテラシーとの関連. づくり力を「育てる」介護予防プログラムとして,実行. が深い領域であるとされている. 22)23). 。機能的ヘルスリ. テラシーが低いことは,慢性疾患の自己管理不良 生活機能の低下. 26). ,死亡リスクの増加など. 可能性と有効性が示唆された。. 24)25). ,. 27)28). ,様々. な健康アウトカムに影響を及ぼすことが報告されてお. 利益相反 開示すべき利益相反はない。. り,介護予防を目的とした健康教育のターゲットとする 意義は大きい。. 謝辞:本研究の実施にあたり,ファシリテーターとして. 地域における介護予防を考えるうえで,事業の内容充. ご協力いただいたシニア・アカデミー会の皆様,ご後援. 実に財政的な限界があることを考慮すると,多くの高齢. いただきました中太閤山まちづくり地域振興会の皆様,. 者を対象とした場合には,専門家の常駐が現実的でない. 対象者募集にご協力いただきました射水市役所地域福祉. 場合がある。本研究では,参加者が運動療法を受けるこ. 課,小杉南地域包括支援センターの関係各位,測定ス. とに終始するのではなく,個人の健康づくりへの意欲や. タッフとしてご協力いただきました皆様,ならびに対象. 能力を「育てる」工夫と,地域での汎用性を重視したプ. 者としてご参加いただきました皆様に深謝いたします。. ログラムを開発し,住民主体での実行可能性と機能改善. 本研究は JSPS 科研費 JP18K17926 の助成のもとに行. 効果を明らかにした。特別な器具や専門的技術がなくて. われた。. も実施可能な,費用対効果に優れるプログラムとして実 装・汎用化が可能である。本プログラムの実践に際して は,理学療法士によるファシリテーターの養成や,体力 測定などの機能評価,個別のケースへの対応など,定期 的な関与を行うことが,効果・継続性向上のために重要 になると考えられ,総合事業に設けられた「地域リハビ 1) リテーション活動支援事業」 におけるセラピストのか. かわり方の形を提案するものである。 フォローアップ調査がなく持続効果が不明であること は,本研究の限界である。追跡調査を行い,教室参加に より改善した生活習慣と機能が持続可能であるかを検証 していくことが不可欠である。一方で,本研究により, プログラムの実行可能性は支持されたため,今後はより 大きなサンプルサイズで対照群を設けた比較試験を行 う。最後に,プログラムの普及に向けては,学習に苦手 意識をもつ参加者へのサポート方法など,本研究で明ら かになった改善すべき点を取り入れたうえで,ファシリ テーターの養成を含めた実践的なマニュアルを作成する 必要がある。 結 論 本研究では,介護予防を目的としたアクティブ・ラー ニング型健康教育介入を地域において実践し,実行可能 性と効果を前後比較試験により検証した。ファシリテー ターの養成と専用テキストの作成により,専門家の常駐 を必要としないことをプログラムの特色とした。検証の 結果,完遂率,出席率,安全性,アンケート調査に基づ く満足度や楽しさなどの受容性(Acceptability)は良好 であった。また,アウトカムの介入前後の比較により, 歩行速度,認知機能(処理速度・言語流暢性),身体活. 文 献 1)厚生労働省ホームページ 介護予防・日常生活支援総合 事業ガイドライン概要.https://www.mhlw.go.jp/file/06Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000088276.pdf (2019 年 1 月 7 日引用) 2)厚生労働省ホームページ 全国介護保険・高齢者保健福 祉 担 当 課 長 会 議 資 料( 平 成 26 年 2 月 ) :老人保健課関 係・ 介 護 予 防 に つ い て.http://www.mhlw.go.jp/file/05Shingikai-12301000-Roukenkyoku-Soumuka/0000038326. pdf(2019 年 1 月 7 日引用) 3)Saida T, Juul Sorensen T, et al.: Long-term exercise adherence after public health training in at-risk adults. Ann Phys Rehabil Med. 2017; 60(4): 237‒243. 4)文部科学省(中央教育審議会)ホームページ 新たな未来 を築くための大学教育の質的転換に向けて∼生涯学び続 け,主体的に考える力を育成する大学へ∼(答申)(平成 24 年 8 月) .http://wwwmextgojp/b_menu/shingi/chukyo/ chukyo0/toushin/1325047htm(2019 年 1 月 7 日引用) 5)Bonwell CC, Eison JA: Active Learning: Creating Excitement in the Classroom. In: ASHE-ERIC Higher Education Report No. 1, The George Washington University, School of Education and Human Development, Washington, DC, 1991, pp. 5‒22. 6)N t i r i D W , S t e w a r t M : T r a n s f o r m a t i v e l e a r n i n g intervention: effect on functional health literacy and diabetes knowledge in older African Americans. Gerontol Geriatr Educ. 2009; 30(2): 100‒113. 7)上村一貴,山田 実,他:フレイル予防に向けたアクティ ブ・ラーニング型健康教育介入の効果─高齢者を対象とし たランダム化比較試験─.理学療法学.2018; 45(4): 209‒217. 8)Sorensen K, Van den Broucke S, et al.: Health literacy and public health: a systematic review and integration of definitions and models. BMC Public Health. 2012; 12: 80. 9)Kalbe E, Calabrese P, et al.: The Rapid Dementia Screening Test (RDST): a new economical tool for detecting possible patients with dementia. Dement Geriatr Cogn Disord. 2003; 16(4): 193‒199. 10)Harzand A, Witbrodt B, et al.: Feasibility of a Smartphoneenabled Cardiac Rehabilitation Program in Male Veterans.
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