本稿は,近年の社会状況のなかで,学校から社会へ の移行支援の問題として,高等学校(進路指導の多様 な生徒が在籍する全日制普通科)におけるキャリア教 育のあり方について考え直すきっかけを探るものであ る。また,低学年からの連続的なキャリア教育を実施 することにより,生徒の人間性の成長を目指す主張を 展開する。
Ⅰ.はじめに
筆者は,現在福井県立丹生高等学校に勤務している。 本校は 2010 年4現在,生徒数が男 231 名,女 189 名で 計 420 名の全日制普通科高校である。内卒業時におけ る就職者の割合は,ここ数年約3割で推移している。 表1 最近5ヵ年の進路状況 年度 就職 男 女 計 平成 17 年度 25 人(29%) 18 人(30%) 43 人(29%) 18 25 人(31%) 20 人(31%) 45 人(31%) 19 15 人(21%) 17 人(26%) 32 人(23%) 20 28 人(21%) 20 人(15%) 48 人(35%) 21 22 人(28%) 21 人(32%) 43 人(30%) 本校平成 22 年度進路指導部資料より抜粋 つまりは普通科高校であるが高校卒業後就職する者 の割合が多いのが特徴である。全国的に見てみると, 高等学校卒業者の約半数が大学進学,約2割が専門学 校に進学し,約2割近くが就職し,約1割が進学も就 職もしないという状況にある。とりわけ普通科高校に 限って比較すると本校の就職者の割合はきわめて高い と言える。このようなことから,初等中等教育の最終 段階である高等学校,とりわけ本校の様な状況にある 高等学校と社会との円滑な接続を図るためには,キャ リア教育の充実が大きな課題と考える。近年の産業・ 経済状況の構造的変化や,雇用の多様化等を背景とし て,生徒の進路を巡る環境は大きく変化している。さ らに,生徒の職業観や勤労観の希薄化や社会人として の基礎的・基本的な資質をめぐる課題,高い早期離職 率,そして若者たちのフリーター志向が高まり,いわ ゆるニートと呼ばれる若者の存在等が社会問題となっ ている。まさに今,学校教育おける「キャリア形成」 について考える必要性があると考える。これまでの学 校教育や進路指導のあり方を点検し,教育活動として の一層の体系化を図るべきである。Ⅱ.キャリア教育の必要性
1999 年 12 月,中央教育審議会答申で「初等中等教 育と高等教育との接続の改善について」の提言がなさ れた。そのなかで,初めて「キャリア教育」が登場し 「学校教育と職業生活との接続」の改善も考えられる べき課題となった。従来の職業教育の取り組みにおい ては,職業に従事する場合に必要とされる知識や技能 の習得に重きが置かれてきた。そこでキャリア教育の 視点から,生徒達が働くことの意義や専門的な知識や 技能を習得することの意義を理解し,自己の個性を理 解し,将来の職業を生徒達自身の意志と責任で選択し, 専門的な知識や技能の習得に意欲的に取り組むことが 一層求められることとなった。中央教育審議会答申に は,第6章の第1節に次のように述べられている。 「学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るための キャリア教育(望ましい職業観・勤労観及び職業に関 する知識や知能を身に付けさせるとともに,自己の個 性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育 てる教育)を小学校段階から発達段階に応じて実施す る必要がある。キャリア教育の実施に当たっては家Instructional Practice
The Journal ofEconomic Education No.29, September, 2010
実践記録
高等学校の低学年より展開される
キャリア教育の一考察
─丹生高校における職業観の育成実践を通して─
One Consideration of a Career Education Presented by the Lower Grades of the High School: Trough the Upbringing Practice of the Outlook on
Occupation in Nyuu Senior High School
庭・地域と連携し,体験的な学習を重視するとともに, 各学校ごとに目標を設定し,教育課程に位置付けて計 画的に行う必要がある。また,その実施状況や成果に ついて絶えず評価を行うことが重要である。」と。 寺田盛紀は,次のように述べている。「国際比較の 視点からみれば,我が国の学校職業教育,とくに高校 職業教育はあまり注目されてこなかったし,専門的労 働者(力)養成におけるその役割が十分解明されてき たとは言えない。」1)と。さらに,その理由として「日 本の公的職業教育が文部行政と労働行政に二分割され, 職業教育訓練システム全体を問題にする習慣が少なく, またよく発達している企業内教育や企業による熟練労 働者養成を脇に置いて,学校内での職業教育を専ら自 己完結的に追求してきたことに依ると考えられる。」2) としている。本来,職業教育の目標は3年間で完結的 に実現すべきものとしてではなく,高校卒業後のキャ リア形成との関係で,職業の基本や基礎の習得にエネ ルギーを注ぐべきである。職業観の育成と就職の関連 を検討するとき,雇用現場との直接的接点をなす企業 における実習の組織化如何が問題になる。1999 年版 の新学習指導要領において職業高校(学科)には,イ ンターンシップの導入が義務づけられた。本校は普通 科高校であるが,出口指導に終始した進路指導を避け 高等学校と高等教育や社会との円滑な接続を図るため に,積極的にキャリア教育に取り組んでいる。 高等学校においては,生徒たちの将来の進路や職業 選択を見通した進路相談・進路指導を行い,生徒の進 路希望を踏まえた学習指導を行うことが必要となって くる。この際企業等の協力を得ながら,企業のあり方 や職業生活について,実際的で体験的な情報を提供し てもらい,職場見学や就業体験の機会の拡充を図るこ とが有効である。
Ⅲ.丹生高校におけるキャリア教育の実際
1.本校での試み 本校では,キャリア教育について,教科から全教育 活動の中で,すなわち教育課程全体を通じて行うこと に気を付けている。進路指導部のみならず学級担任な らびに全教師によって行うこととしている。さらに職 業や進路についての知識・理解の指導のみでなく,ま さに「生き方在り方」について,主体的な自己実現の 能力育成への指導が重要であると考えている。自己実 現の過程において,生徒は自分を受け入れられず,ま た思うようにいかない現実に失望感をもつことも少な くない。逆に過剰な自信をもち,他人に比べて尊大な 自己意識をもつこともある。本校では,生徒一人一人 の自己実現の道筋がそれぞれ異なることをよく生徒た ちに理解させ,自分個人の中でどれだけ成長すること ができたかを感じ取ることができるような指導を心が けている。 具体的には,一学年において入学後まもない7月に 職場見学を実施している。これは地域の中小企業に協 力してもらい,一学年全生徒がクラス毎に2社の企業 を見学するという企画である。二学年においてはジュ ニア・インターンシップを実施している。これは一学 年時から総合的学習の時間などに自分の将来を考える などの学習活動を行ってきたことを踏まえ,卒業後の 豊かな人生を送るためには何が必要かを考える機会を 得るための企画である。いずれの企画も全教職員の協 力と地域の企業の協力が必要である。労働局やハロー ワークとも連携を取りながら企画を進めていく。 以下に,本年度の実施要項をしめす。 2.職場見学について 以下の写真はお世話になった企業の様子である。 写真1 染色企業の様子。作業中の従業員。 写真2 染色企業の様子。平成 21 年度第1学年職場見学実施要項 第1学年会 進路指導部 1.目 的 近隣の事業所(工場)を見学し,労働の意味や職場の環境を見聞きすることで,職業意 識の向上を図り,将来の自分の能力や適性にあった職業選択の参考にする。 2.平成 21 年7月8日(水) 8:50 〜 12:30 3.対象者 第1学年 1組:32 名,2組:32 名,3組:31 名,4組:33 名,5組:19 名 合計:147 名 4.見学事業所 1組 福井アシックス工業株式会社 アイシン・エイ・ダブリュ工業株式会社 2組 株式会社福井村田製作所 ギャレックス株式会社 3組 東工シャッター株式会社 ウラセ株式会社 4組 株式会社ホリカワ アイ・エム・エヌ株式会社 5組 奥田精工株式会社 サカイオーベックス株式会社 5.実施方法 ・クラス毎に,2つの事業所を見学する。 ・1つの事業所につき 60 分〜 80 分程度とする。 6.当日の日程 1組 2組 3組 4組 5組 8:35 〜8:45 教室で SH 8:50 〜 バス乗車・移動 9:20 〜 10:30 アシックス 9:20 〜 10:30福井村田製作所 9:20 〜 10:30東工シャッター 9:20 〜 10:20ホリカワ 9:20 〜 10:20奥田精工 10:50 〜 12:00 アイシン・エイ・ダブリュ 10:50 〜 12:00ギャレックス 10:50 〜 12:00ウラセ 10:50 〜 12:00アイ・エム・エヌ サカイオーベックス10:50 〜 12:00 7.引率教員 1組:伊部 飯田 2組:佐々木 瀧波 3組:酒井 高村 4組:三好 山野 5組:木原 藤田 8.その他 ①事前指導は7月6日(月)期末考査終了後に直前指導を行う。またそれまでにSH等を利用して事前 指導を行う。 ②職場見学終了後,生徒は職場見学報告書を作成する。 ③生徒への注意事項 ・見学事業所発着の際は,事業主等に挨拶(号令=委員長)をし,最後まで礼儀正しい態度で見学す ること。 ・見学中の私語,雑談は厳に慎むこと。 ・機械,製品などには,絶対に手を触れないこと。 ・出発時間を厳守し,集団で行動すること。見学時間が短いので,機敏に行動すること。 ・見学終了後に事業所から質疑応答が予想されるため,質問を行える準備をしておくこと。 ④持参物 ・内履き(内ズック) ・日程表,報告用紙(バス内で配布) ・筆記用具(見学終了後,ハローワークにアンケートを提出)
本校において,職場見学は一学年生徒全員が参加し ている。当初は就職希望のクラスの生徒が対象であっ たが,現在では全員を対象としている。キャリア教育 の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書によ れば,「高等学校においては今なお進路決定の指導に 重点が置かれ,志望先の選択・決定等にかかわる出口 指導や進学指導,就職指導に終始しがちになっている 状況が少なからず見受けられると指摘している。」3) 毎週月曜日7限目に設定されている総合的学習の時 間(本校ではNTと言う)を活用して生徒たちの働く ことへの関心や意欲の高まりと学習意欲の向上につな がる活動を展開している。ケネス・ホイト編著,仙崎 武ら共訳『キャリア教育-歴史と未来』には,キャリ ア教育について「働くことを重んずる社会(work-ori-ented society)における諸価値に精通し得るよう個人 を支援し,それらの価値を自らの価値観に組み入れ, 働くことが誰にとっても可能となり,意義を持ち,満 足できるような生活を送れるように支援する,公教育 及び社会全体の運動」4)と述べられている。以上のこ とから,本校においては高校入学して間もない時期に, 働くことの意味を一学年生徒全員が学ぶ機会を用意し ている。 職場見学実施後は,職場見学レポートとして各クラ スにおいてレポートを作成した。それらを掲示するこ 写真5 全国的にも有名な企業の一つである。作業の 流れ方や会社の組織について説明を受けている。 写真4 企業の会議室に於いて,担当の方より説明を 受けている。会社組織や仕事の内容など話は多方面に わたる。 写真3 布を裁断している。鮮やかな色彩がみえる。 写真6 精密工作機械が見える,ものづくりの現場。 写真7 生徒達の見学レポート。多くの発見がある。
とによりお互いの学習活動を確かめ合うことができた。 人工衛星の部品や,F1のエンジンの部品を造ってい ることに驚いたと言う意見や,お客との信頼関係の大 切さなど,生徒たちはいろいろな角度から地元企業の ことについて学習することができた。 生徒自身が,将来入りたい業界や企業について調べ ておくことはとても重要である。企業のホームページ やパンフレットを見ることも一つの方法であるが,企 業の現場を訪問してみることが,やはり重要であろう。 元来各自が抱いていた企業イメージと実際の差を感じ ることもある。いろいろな手段を使って,職業につい て研究することが重要である。 3.ジュニア・インターンシップについて 平成 21 年6月 25 日 福井県立丹生等学校 進路指導部・2年学年会 平成 21 年度 ジュニア・インターンシップ事業実施要項 1.目 的 地域の産業界の協力を得て,生徒が各事業所で就業体験学習をすることで,働くことの意義,楽しさ, 辛さ等を体感し,自らの適性と職業の関わり等について考える契機とする。 2.実施方法 生徒は地域の各事業所において,正規の従業員と同じ形態で業務の一部を実習する。学校教育活動の 一環として実施するので無報酬とし,交通費や食事に係る経費などは生徒の自己負担とする。 3.実習生徒 福井県立丹生高等学校の第2学年就職希望生徒 35 名(男子 26 名,女子9名)。1事業所当たり3名 程度の受け入れを依頼する。 4.実施日時 (1)時 期 7月 22 日(水)〜 24 日(金)の3日間 (2)時 間 原則として,各事業所の就業時間 5.実習事業所の選定 進路指導部を中心に,本校卒業生を採用して受け入れている事業所,及び,前年度にインターンシッ プの受け入れを実施している事業所等と交渉し,本年度の受け入れを依頼する。原則として丹南地域の 事業所を範囲とする。 6.生徒の実習先割り当て 生徒の実習先の割り当ては,生徒の希望職種等を考慮して学校が調整を行い決定する。 7.保護者の承認 実習実施にあたっては,事前に書面により保護者の承認を得る。 8.事業所における実習指導担当者 受け入れ事業所毎に,事前に生徒への実習指導担当者を依頼しておく。実習指導担当者は実習期間中 の生徒の指導および評価を行う。 9.巡回指導 担当教員は,各事業所の実習指導担当者を通して,実習先との事前打ち合わせ等で連絡調整を行うと ともに,期間中はそれぞれの担当事業所を巡回し,生徒の実習状況を把握する。(出張として扱う) 10.事前・事後指導 学校では,ジュニア・インターンシップに先立つ事前指導として,ガイダンスやビジネスマナーの指 導,安全指導等を徹底する。終了後は実習報告書の提出や礼状作成,レポート作成等の事後指導を行う。
Ⅳ.本校生徒の職業観の形成
三学年の7月の時期は,進学や就職等と言った進路 決定の時期である。特に就職希望者については,7月 中旬に行われる保護者懇談会において志望する企業を ほぼ決定する。教師やロータリークラブの方による就 職模擬面接や作文指導を行い,夏期休暇中には応募前 職場見学を実施する。ほぼ9月中に合否の結果が出そ ろう。残念ながら希望がかなわなかった生徒たちは次 の企業を模索することになる。ここでかれらの,職業 選択の基準についてみてみたい。尾嶋史章は,「高校 生が社会経済的地位の高さのみによって職業を評価し ているわけでないことは明らかである。」5)と言う。 つまりは自己実現志向である。さらに,「高校生の職 業希望を理解するには,社会経済的な地位達成ばかり でなく,職業を通じた自己実現という観点を取り入れ ることが有効である。」6)と言う。しかし,本校の場 合,多少状況が異なる。自分の能力が生かせるなどの, 自己実現志向は確かに見られるが,職業環境がよい, 11.安全への配慮 実施事業所に安全の確保を求めるが,万が一の実習中に事故が発生した時には,「日本スポーツ振興 センター」による災害共済給付の対象となる。さらに,インターンシップ・ボランティア活動賠償責任 保険制度(産業教育振興中央会)にも全員加入する。保険料は福井労働局で負担する。 12.準備・実施日程 (1)受け入れ企業開拓 4月〜6月初旬 (2)生徒への希望職種調査 5月中旬 (3)企業への依頼状発送 6月中旬 (4)保護者同意書配布・回収 6月下旬 (5)保険加入手続き 6月下旬 インターンシップ・ボランティア活動賠償責任保険制度 (産業教育振興中央会)に全員加入する (6)企業との事前打合せ 6月 29(月)〜7月3日(金) ・「確認プリント」と「手引き」を使用 ・進路部員+2年担任と副担任 (7)生徒への事前指導(その1) 7月6日(月)放課後 大会議室 ・担当教員より就業上の連絡等 ・「自己紹介」の清書 (8)生徒への事前指導(その2) 7月8日(火)LH 大会議室 ・講演会 講師 株式会社 松浦機械製作所 上村 誠氏 (9)生徒への事前指導(その3) 7月 17 日(金)SH 各教室 ・最終注意 (10)実施中の担当教員の巡回指導 7月 22 日(水)〜 24 日(金) (11)生徒への事後指導 7月 27 日(月)午前中 第2研修室 ・礼状とアンケート等作成 写真8 真剣に作業に取り組む生徒たち。 写真9 機械を前に驚いている様子。より多くの金銭が得られる,休日が多いなどの点を重 視する傾向が見られる。本校生徒にとって職業を知り, 体験をする経験がまだまだ不十分であると言わざるを 得ない。生徒たちを取り巻く現在の厳しい社会状況の 中で,かれらは自分が得た職業情報をどのように取 捨・選択していくのか。学校・家庭の勧めや影響をど のように自分なりの基準に置き換えていくのか。専門 学科高校生と比べて,本校の生徒の職業選択や職業観 が十分確立できるように,低学年からのキャリアの教 育的指導が今後ますます必要である。
Ⅴ.受入企業の考えること
職場見学やジュニア・インターンシップを通じて実 に多くの企業にお世話になった。筆者が実際に各企業 の担当者と話をする中で感じたことを記すと,現代の 企業が求めるのは,自立した人間と言えるだろう。筆 者は,自己責任で自分のレールを敷いていくことがで きる人間,自分らしく生きていくために,自分でキャ リアを積み上げていくことができる人間,と考える。 生徒たちが社会を生き抜く力を身に付ける訓練の場の 提供と言う意味で,地域の企業は本校の企画に協力し てくれている。生徒たちは,教室から出て企業で実際 の現場の空気を味わうことにより,将来の目標を見つ け,より高い能力を身に付けようと考えることもあろ う。そのためにも,職場見学やジュニア・インターン シップは実際の体験を通じ,自らの適性と職業の関わ りについて考える良い機会となっていると考える。 次に生徒達を受け入れた企業の実際の意見を幾つか 挙げる。以下は,2009 年 10 月に,筆者も参加して行 われたジュニア・インターンシップ意見交換会での企 業の意見である。 ・ インターンシップでは,企業の仕事の流れや,雰囲 気などを体験してもらえれば良いと思っている。 ・ 当社の場合,インターンシップの受け入れは企業の 社会的責任と思い,依頼があれば全て受けている。 ・ 生徒を受け入れる際には,生徒に夢を感じてもらう と言う気持ちで実施している。 ・ 心掛けていることは,事務作業と現場作業の両方を 体験できるように計画し,まずは,挨拶の大切さを 教え,コミュニケーションの取り方などから始めて いる。 以上の他にも多くの貴重な意見があった。詳細は福 井県経営者協会がまとめた「平成 21 年度ジュニア・ インターンシップ実施結果報告書」を参照されたい。 多様な考え方が存在すると思うが,地域の企業は地 域の学校を大切に考えてくれているのではないかと思 う。そのなかで,現場に高校生がいることにより,企 業の雰囲気や従業員自身の自己研鑽も可能になるので はないか。実際,地域貢献の一環として,さらには地 域に対する当然の義務として当然の責任と考えている 経営者の声もあった。Ⅵ . おわりに
近年の高等学校卒業者の進路の特徴は,上級学校へ の進学率が高くなっている一方で,進学も就職もしな い者の割合が増える傾向にあることである。特に県内 の上位・中位の普通科高校においては,上級学校への 進学に係る指導に偏り,上級学校進学希望者以外の生 徒に対する指導があまり十分ではないことが考えられ る。今回は本校のもつ特徴から , 生徒が進学希望であ るか就職希望であるかを問わず , 将来の生き方に関わ る問題として , 生徒が将来への希望をはぐくみ , その実 現に向けて指導する立場から , 本研究を行った。 生徒を受け入れる企業にとってメセナ活動やPR活 動,さらには産業界としての教育支援の一環というよ うなことは,メリットとして考えられる。しかしなが ら,筆者自身が実際に企業との打ち合わせに関わった 中で感じたことは,非常に多くの苦労があるというこ とである。受入企業では,生徒を受け入れるために実 習プログラムを用意し,実習や見学を実施するために 時間と人材が投入されるのであり,かなりの負担であ ることは明らかである。企業によっては,「新鮮な経 験をもてる。」「生徒さんの若いエネルギーが味わえ る。」「自社の社風を知ってもらえる。」などの意見を 言われたが,担当者として筆者は,とてもありがたい と思う。 若者を一人前の社会の構成員として育てていくシス テムが,今,大きく揺らいでいる。フリーターやニー トと呼ばれる者たちも,この変化の時代だからこそ急 増している。今,必要なのはこの社会変化を正面から 捉えて,若者を社会を支える一人前のメンバーに育て ていくシステムの構築である。以上の意味でも高等学 校は , 生徒が働くことの意義や大切さを理解するとと もに , 生徒たちには , 働く意欲や態度を身に付けさせる など , 生徒たちの将来のために全力で教育活動に取り 組む必要がある。ここでの教育とは言うまでもない が , 進学のための技術や技能の習得とか , 就職するため の手段や職業に就くための準備としての教育ではなく , 個々の生徒の可能性の開発や人間性の成長を目指 した教育である。 実際問題として,本校に入学してくる生徒のかなり 多くの者が,自分の将来や高等学校における学業や生 活に対して,明確な目的をもたずにいる。無気力で無 為な高校生活を送ってしまう者もいる。学業不振や学 校生活不適応に陥ったりして,中途退学や留年ないし は卒業延期になるケースも少なくない。具体的に言え ば,彼らは,自己の興味や関心の方向,そして能力・ 適性について自覚ないし理解していない。そしてまた, 彼らは,社会生活や職業生活について,幅広い理解に 立った,将来の生き方を考えることができずにいる。 残念ながら本校の指導にも,卒業年次になってからの 進学先の選定あるいは就職先の紹介や斡旋のための出 口指導が中心となっている割合が多いと思われる。今 後は,生徒の実態に即した,多様で個性的な,弾力的 な教育的指導が導入されなければならない。社会全体 を見るとき,今後 , 残された課題として , 学校と産業界 との連携問題がある。そしてハローワークなどの学外 の公的機関の役割の検討がある。高等学校と社会との 円滑な接続を図るために , さらなる考察が必要である。 謝辞 本稿執筆にあたり,職場見学やジュニア・インター ンシップでお世話になった企業の方々と福井県経営者 協会,福井労働局,ハローワーク武生に対して,ここ に感謝申し上げたい。そして,二名の査読者の方から は貴重なご指摘をいただいた。お礼を申し上げたい。 註・引用文献 1) 寺田盛紀『キャリア形成就職メカニズムの国際比較-日 独米中の学校から職業への移行過程-』晃洋書房,2004 年5月。38 頁 2) 前掲書。38 頁 3) 文部科学省「キャリア教育の推進に関する総合的調査研 究協力者会議報告書」文部科学省初等中等教育児童生徒 課,2004 年1月。15 頁 4) 仙崎武,藤田晃之,三村隆男,下村英雄(共訳)『キャ リア教育-歴史と未来』社団法人雇用問題研究会,2005 年 12 月,61 頁。 上記の原典はケネス・ホイト(Kenneth B. Hoyt 編著), Career Education : History and Future, National Career Development Association. 5) 尾嶋史章(編著)『現代高校生の計量社会学』Minerva 社 会学叢書⑧,ミネルヴァ書房,2001 年3月。84 頁 6) 前掲書。101 頁 参考文献 [1] 香山リカ『就職がこわい』講談社,2004 年。 [2] 川端大二,関口和代『キャリア形成─個人・企業・教育 の視点から』中央経済社,2005 年。 [3] 小杉礼子『フリーターという生き方』勁草書房,2003 年。 [4] 小杉礼子,堀有喜衣『キャリア教育と就業支援─フリー ター・ニート対策の国際比較』勁草書房,2006 年。 [5] 古閑博美,垂石嘉昭,垂石幸与,仁平征次,野添雅義, 角幸子『インターンシップ─職業教育の理論と実践』学 文社,2001 年。 [6] 仙崎武(編)『キャリア教育読本』教職研修総合特集:読 本シリーズ No.142,教育開発研究所,2000 年。 [7] 田中淳,高野邦彦「インターンシップの事前・事後指導 と企業ニーズ」『経済教育』No.27,経済教育学会,2008 年。 [8] 藤川大祐(編),企業教育研究会(著)『企業とつくる キャリア教育─子どもたちに夢と出会いを…』教育同人 社,2006 年。 [9] 福井県経営者協会「平成 21 年度ジュニア・インターン シップ実施結果報告書」2010 年。 [10] 本田由紀,内藤朝雄,後藤和智『「ニート」って言うな!』 光文社新書,光文社,2006 年。 [11] 三村隆男『キャリア教育入門─その理論と実践のために』 実業之日本社,2004 年。 [12] 安田雪『働きたいのに…高校生就職難の社会構造』勁草 書房,2003 年。 [13] 山崎保寿(編著)『キャリア教育が高校を変える─その効 果的な導入に向けて』学事出版,2006 年。