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「見る力」を気軽に測る

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.39.8 49 細川:「見る力」を気軽に測る

「見る力」を気軽に測る

細 川 研 知

立命館大学OIC総合研究機構

Casual measurement of visual abilities

Kenchi Hosokawa

Open Innovation & Collaboration Research Organization, Ritsumeikan University

Variability in visual ability between individuals is increasing due to change in society such as the aging of the population. For this reason, it is becoming an important issue for individuals to understand their own visual abilities and divergence in perceptual research. In order to solve this problem, the visual ability test needs to be conducted outside the laboratory in a casual manner. A test that can be completed in a short period of time and can be enjoyed in any location is needed. Even if the test is casual, it must have a certain level of measurement accuracy. Tests with these conditions were verified by experiments in a laboratory and at a public event. Results from those experiments suggested that a certain level of measurement accuracy was maintained even when the test was less stressful for par-ticipants and became more enjoyable. Casual measurement of perception is also important for researches in percep-tual diversity.

Keywords: vision, internet-based testing, gamification

は じ め に 近年,目の健康は多くの人の興味を集めている。日本 は高齢化社会に突入しており,これに伴って眼病にかか りやすい年代の人口が増加している。また,近年はパー ソナルコンピューターやスマートフォンなど,目を酷使 する器具が日常に浸透し,多くの人が自分自身の目の健 康に興味を持つようになった。例えば,「視力を鍛える トレーニング」や「ブルーライトカット」等の商品が市 中でも数多く販売されており,消費者が自分の「見る 力」や「見えづらさ」について興味を持っていることが 伺われる。 ただし,一言に「見えづらい」といっても,視覚能力 は多様であり,様々な「見えづらさ」がある。健康診断 等で一般的に測られる「視力」は視空間解像度,言うな れば「細かいものを見る力」であり,これは近視や老眼 などで低下する。しかし,「見る力」はそれ以外にも様々 なものがある。例えばコントラスト感度は「淡いものを 見る力」,視野範囲は「広く見る力」,いわゆる動体視力 のような「動くものを見る力」はいわゆる「視力」とは 異なるものである。また,視覚情報からの知覚でも,注 意により見えたか否かが変わる現象など,より認知的な 機能が関わるものもある。眼病や老化では,いわゆる視 力以外の視覚能力も低下する。例えば,白内障をはじめ とした多くの眼病ではコントラスト感度が影響を受け (Atkin, Bodis-Wollner, Wolkstein, Moss, & Podos, 1979;

Adamsons, Rubin, Vitale, Taylor, & Stark, 1992; Kleiner, Enger, Alexander, & Fine, 1988; Kara et al., 2016),緑内障では視野 が狭まる。あるいは注意など認知に寄った機能が低下し て「見えているのに見えない」という状態になる場合も ある(Kramer, & Kray, 2006; McNab et al., 2015)。

「見えづらさ」の様態もその原因も人により様々に異 なるのであるから,「見えづらさ」に対処するためには, 「自分固有の見えづらさ」を知ることが必要なはずであ る。このため,視力以外にも様々な視覚能力を測定し, 何が見えやすく何が見えづらいのかを自分自身で知るた めのテストセットがあれば望ましい。「見えづらい」と 感じている人でも,自分にとって何が見えづらいかを知 ることで眼鏡を選ぶべきか病院に行くべきか判断する材

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2020, Vol. 39, No. 1, 49–52

Copyright 2020. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Open Innovation & Collaboration

Research Organization, Ritsumeikan University, Research Organization of Open Innovation and Collaboration, Ritsu-meikan University 2–150 Iwakura-cho, Ibaraki, Osaka 567– 8570, Japan. E-mail: [email protected]

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50 基礎心理学研究 第39巻 第1号 料が増えると期待される。あるいは,すでに視覚障害を 持った方でも,リハビリによって何が見えるようになっ たかを自分で知る,あるいは自身の視覚特性を知って苦 手なものは避けて得意なやり方で見るといった自助努力 をする場合にも,自身の視覚能力を多面的に評価するこ とは有用であること考えられる。 しかし現在,多くの人にとっては,自分の見えづらさ を本格的に測るのは,病気であると自覚して病院に行っ た後である。見えづらさが深刻でないうちは病院にはあ まり行かず,病院の外で視力以外の視覚能力を本格的に 計測する機会は少ないからである。もし,特別な場所に 行かずとも日常的に様々な「見る力」を確認できるテス トセットがあれば,自分自身の「見えづらさ」の正体を 知る機会も増えるのではないかと考えられる。 気軽に利用可能な視覚テスト 実験室実験との比較 基礎心理学や医学の分野では様々な「見る力」を計測 する手段が作られてきたが,それは気軽に実行できるも のではあるとは限らなかった。科学実験や医療的な検査 では厳密さを求められるため,測定の精度や信頼度を高 めるよう,多くの場合,特殊な機器を用い,必要であれ ば暗視内で,統計的に十分な繰り返し数となるよう時間 をかけて計測する。この結果,被計測者の負荷は高いも のとなり,自分の視覚能力を計測したいと思っても気軽 に計測することができない。 気軽に利用可能な視覚テストとするためには,どこで も実施できるようオンライン化してパーソナルコン ピューターやスマートフォンなどの汎用デバイス上で動 作し,飽きないよう繰り返し数やテスト時間を減らし, 利用者の負荷を下げる必要がある。測定の信頼度を高め ることと利用者の負荷を下げることはトレードオフ関係 にあるため,利用者負荷を下げすぎれば測定の信頼度が 下がる懸念があるが,許容可能な範囲はあるはずであ る。 また,測定の本質と関わらない範囲において,ゲーム 化(ゲーミフィケーション)の手法を導入し,利用する 動機を作ることも考えられる。実際に,弱視患者向けの トレーニングでは,オンライン化され自宅で実施でき, ゲーム化により利用のハードルを下げたものが開発され ている(Hussain, Astle, Webb, & McGraw, 2014)。このほ か,輝度や見かけの大きさの統制が厳密である必要がな い認知分野のテストでは,オンライン化やゲーム化の例 も多 い(McNab et al., 2015; Zeidman et al., 2015; Woods, Velasco, Levitan, Wan, & Spence, 2015)。視覚テストでも,

最低限の刺激提示精度を確保すれば,このような手法を 適用することは可能であると考えられる。 簡易視覚テストと視覚機能測定ミニゲームの実装 上記の可能性について検討および実証のため,我々は 二種類のツールを作成した。一つは,従来の視覚実験パ ラダイムに基づくタブレットPC向けの簡易テストセッ トである。これは,視覚実験のうち場所が限られるとい う問題を解決するためのもので,コントラスト感度測定 についてはタブレットでも一定の精度で測定できること が知られている(Dorr et al., 2017)。我々の試みでは,多 数のテストをセットにしており,いわゆる近視力(空間 解像度),時空間周波数ごとのコントラスト感度測定, 標準的な視野検査を参考に作られた簡易的な視野テスト 等が含むテストセットで,視覚能力を多面的に評価す る。このテストセットは,緑内障・白内障などのスク リーニングも視野に設計されている。 従来法のタブレットPC向け実装は,より多くの場所 で実施できるようになるものの,わかりやすいアトラク ティブな要素が少なくとっつきにくい面もある。このた め,従来法テストに加え,視覚機能測定テストをミニ ゲームの形で実装したものも作成した。こちらは,より エンターテインメントに寄って親しみやすく設計したも のであるが,純然たるエンターテインメントとして作ら れたものではなく,視覚テストとして最低限の精度を持 つよう企図して設計した。 視覚機能測定ミニゲームは,「見えづらさ」にとって 重要であると考えられる4つのテスト,コントラスト感 度(CSF),視野別検出テスト(VF),文字識別テスト (CI),複数物体追跡(MOT)をセットとし,視覚機能 を多面的に測定する。これらのゲームは,実施時間短縮 と利用者にとってのわかりやすさを重視して設計されて いるため,測定パラダイムは従来法を基本としているも のの(Pylyshyn & Storm, 1988; Zeppieri & Johnson, 2013), 結果として大きく異なっている場合がある。例えばコン トラスト感度測定は Mulligan (2016)の方法を改良し, 「白黒の縞模様の周囲をはみ出さないようになぞる」と いうタスクとしている。 これらのミニゲームが実際に気軽に利用できる視覚テ ストとして機能するには,短時間で楽しく実施可能で, 視覚機能測定として必要なだけの精度が出せていなけれ ばならない。この目標が達成できたかどうかを確かめる ため,検証実験を行った。この検証では,会議室中の予 備実験に13名,イベント会場での実地実証に300名以上 が参加した。予備実験の参加者は,比較のため従来法に

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51 細川:「見る力」を気軽に測る よる約40分の時間を要する暗室実験にも参加した。4種 類のテストすべてについて説明すると長くなりすぎるた め,4種のテストの中でも特に基本的な指標で多くの病 気で影響が出るコントラスト感度について検証結果を説 明する。まず,ゲームは90%以上の参加者で3分以内に 終了し,十分に短い時間で実施できた(Figure 1)。ま た,予備実験段階で楽しさの主観評価をアンケートで報 告してもらったところ,ミニゲームは従来法の暗室実験 より楽しいという結果となった(Figure 2)。測定精度に ついては,暗室での従来法による測定と,予備実験にお けるミニゲームの測定と,大規模実証でのミニゲームで の測定で,比較可能な結果となった(Figure 3)。ミニ ゲームでは,測定精度を評価する仕組みも取り入れた が,測定精度が高い群では特に暗室実験に近い結果と なった。このことから,日常的環境において,短時間の ゲーム化されたテストであっても,コントラスト感度の ような基礎的な知覚についても,一定の精度で測定可能 であることが確かめられた。 視覚障害ケアと基礎心理学の 双方にとってのメリット ここまで説明してきたような「見る力」を気軽に視覚 機能を測ることができる簡易テストは,基礎心理学の側 にとっても利益がある。実験室で実施する心理学実験 は,少数の健康な学生を対象として行われることが多 い。しかし,こういった参加者募集法では,応募する参 加者が偏り,年齢,性別,文化などの多様性を見落とし ているのではないかという懸念が存在する。知覚実験の 場合にも少数の訓練された参加者による実験であること も珍しくないが,これにより知覚能力の個人差や多様性 について見落とす懸念がある。近年盛んになっているオ ンライン実験は参加者を募る範囲を広げることで,これ らの懸念を解決する可能性があると期待されている (Gosling & Mason, 2015; Woods et al., 2015)。視覚能力の 測定においても,気軽に利用できる視覚機能テストを作 ることで,より多くの参加者,あるいは視覚障害を持つ 人を含むより多様な参加者を募り,これを実験室で計測 した精密なデータと比較することで,知覚の何が共通し ていて何が違っているか,あるいは違いや多様性をもた らすメカニズムについても明らかにできる可能性があ る。 ただし,オンライン実験でも心理学実験に好んで参加 する人口は限られていることが指摘されている (Peer,

Samat, Brandimarte, & Acquisti, 2015; Stewart et al., 2015)。 このため,実験室実験に近い信頼度の高い測定法や参加 Figure 2. Subjective assessment of the enjoyment of

each test. Negative values indicate that the test was not enjoyable and positive values indicate that the test was enjoyable.

Figure 1. Distribution of time taken to complete each sessions of the gamified CSF test.

Figure 3. Plots of contrast sensitivity functions from different tests. Small squares represent data from con-ventional experiments performed in the laboratory. Disks represent data from gamified tests performed in the laboratory. Large squares represent data from gam-ified tests performed at a public event.

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52 基礎心理学研究 第39巻 第1号 のハードルが低いゲーム化されたテストなど,様々な参 加者にアピールする方法を併用することで,より多くよ り多様な参加者を募ることができることが期待される。 もちろん,実験者や提供者だけの都合で参加者を募る わけにはいかず,個人情報保護や研究倫理に則ったうえ で,利用者にとってセルフチェックをするメリットがあ るテストを提供できなければならないが,視覚障害ケア と基礎心理学の双方にとって良い関係を築くことはでき るのではないかと考える。 引用文献

Adamsons, I., Rubin, G. S., Vitale, S., Taylor, H. R., & Stark, W. J. (1992). The effect of early cataracts on glare and contrast sensitivity: A pilot study. Archives of Ophthalmology, 110, 1081–1086.

Atkin, A., Bodis-Wollner, I., Wolkstein, M., Moss, A., & Podos, S. M. (1979). Abnormalities of central contrast sensitivity in glaucoma. American Journal of Ophthalmology, 88, 205–211. Dorr, M., Lesmes, L. A., Elze, T., Wang, H., Lu, Z. L., & Bex, P.

J. (2017). Evaluation of the precision of contrast sensitivity function assessment on a tablet device. Scientific Reports, 7, 46706.

Gosling, S. D., & Mason, W. (2015). Internet research in psy-chology. Annual Review of Psychology, 66, 877–902. Hussain, Z., Astle, A. T., Webb, B. S., & McGraw, P. V. (2014).

The challenges of developing a contrast-based video game for treatment of amblyopia. Frontiers in Psychology, 5, 1210. Kara, S., Gencer, B., Ersan, I., Arikan, S., Kocabiyik, O., Tufan,

H. A., & Comez, A. (2016). Repeatability of contrast sensi-tivity testing in patients with age-related macular degenera-tion, glaucoma, and cataract. Arquivos Brasileiros de Oftal-mologia, 79, 323–327.

Kleiner, R. C., Enger, C., Alexander, M. F., & Fine, S. L. (1988). Contrast sensitivity in age-related macular degeneration. Archives of Ophthalmology, 106, 55–57.

Kramer, A. F., & Kray, J. (2006). Aging and attention. In E. Bial-ystok & F. I. M. Craik (Eds.),Lifespan cognition: Mechanisms of change (pp. 57–69). New York: Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/acprof:oso/9780195169539.003.0005 McNab, F., Zeidman, P., Rutledge, R. B., Smittenaar, P., Brown, H.

R., Adams, R. A., & Dolan, R. J. (2015). Age-related changes in working memory and the ability to ignore distraction. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 112, 6515–6518.

Mulligan, J. B. (2016). A method for rapid measurement of contrast sensitivity on mobile touch-screens. Electronic Imaging, 16, 1-6.

Peer, E., Samat, S., Brandimarte, L., & Acquisti, A. (2015). Beyond the Turk: An empirical comparison of alternative platforms for crowdsourcing online research. Advances in Consumer Research, 43, 18–22.

Pylyshyn, Z. W., & Storm, R. W. (1988). Tracking multiple in-dependent targets: Evidence for a parallel tracking mecha-nism. Spatial Vision, 3, 179–197.

Stewart, N., Ungemach, C., Harris, A. J., Bartels, D. M., Newell, B. R., Paolacci, G., & Chandler, J. (2015). The average labora-tory samples a population of 7,300 Amazon Mechanical Turk workers. Judgment and Decision Making, 10, 479.

Woods, A. T., Velasco, C., Levitan, C. A., Wan, X., & Spence, C. (2015). Conducting perception research over the internet: A tutorial review. PeerJ, 3, e1058. https://doi.org/10.7717/ peerj.1058

Zeppieri, M., & Johnson, C. A. (2013). Frequency doubling technology (FDT) perimetry. Imaging Perimetry Society. Retrieved from: http://webeye.ophth.uiowa.edu/ips/ PerimetryHistory/FDP/ (August 30, 2020)

Figure 1. Distribution of time taken to complete each  sessions of the gamified CSF test.

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