• 検索結果がありません。

初産の母親の母乳育児における心配事―産後4か月までに心配や困難を感じた母親へのインタビューより―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "初産の母親の母乳育児における心配事―産後4か月までに心配や困難を感じた母親へのインタビューより―"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

初産の母親の母乳育児における心配事

―産後4か月までに心配や困難を感じた母親へのインタビューより―

Breastfeeding concerns among first-time mothers

―Based on the results of interviews with mothers who experienced

breastfeeding difficulties and concerns in 4 months after hospital discharge

橋 爪 由紀子(Yukiko HASHIZUME)

*1

堀 込 和 代(Kazuyo HORIGOME)

*2

行 田 智 子(Tomoko NAMEDA)

*1 抄  録 目 的 本研究の目的は,初産の母親が退院から産後4か月までの間に,母乳育児において心配や困難だと感 じた出来事を明らかにすることである。 対象と方法 対象は産後3か月を経過している,母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親11名で ある。1人につき1回の半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した。 結 果 初産の母親の母乳育児における心配や困難だと感じた出来事として,【母乳育児に順応しない子ども の反応】【うまくいかない授乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳充足の判断】【順調に増えない母乳 分泌量】【乳房・乳頭に発生する苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母親の意向に沿わない周囲の 関わり】の8カテゴリーが抽出された。 母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親が,母乳育児についての不安が減り,自分 なりの母乳育児ができるようになったと感じた時期は,早い者では産後1か月,遅い者では産後3か月 であった。 結 論 本研究の結果より,助産師は,吸着困難など母乳育児がうまくいっていない母親には,退院後も入院 中からの継続した支援を行っていく。また,助産師は母親の抱く母乳不足感に対して,子どもの体重や 哺乳量を測定するという,母乳が足りていることを実感させる援助を行う。さらに,助産師は希望する 母乳育児ができなかった母親に対して,心理的ケアを行うことが大切である。 初産婦は,産後2~3か月まで母乳育児に慣れていないだけではなく,子どもとの生活そのものに慣 2018年4月12日受付 2018年9月30日採用 2018年12月25日公開

*1群馬県立県民健康科学大学(Gunma Prefectural College of Health Sciences) *2高崎市医師会看護専門学校(Takasaki Medical Association College of Nursing)

(2)

れていない。そのため助産師は母乳育児支援において,母乳育児の手技や方法だけではなく,母と子2 人の生活を考慮して行うことが大切である。

キーワード:母乳育児,初産婦,心配事,質的研究

Abstract Purpose

This study aimed to investigate breastfeeding difficulties and concerns that first-time mothers experienced dur-ing the first 4 months after hospital discharge.

Subjects and Methods

The subjects were 11 first-time mothers at 3 months postpartum who had experienced breastfeeding difficulties or concerns. A semi-structured interview was conducted with each individual, and the obtained data were analyzed using a qualitative and inductive approach.

Results

With regard to the experience of breastfeeding difficulties and concerns among first-time mothers, the following 8 categories were extracted: [Responses of an infant who does not adapt to breastfeeding], [breastfeeding problems], [unsettled sucking patterns], [evaluating whether or not an infant has breastfed sufficiently], [no steady increase in breast milk volume], [breast and nipple soreness], [changes in daily life due to breastfeeding], and [involvement of people close to the mother against her wishes].

The period when the mothers with breastfeeding concerns and difficulties became less anxious and started to establish their own way of breastfeeding their infants varied between 1 month (at the earliest) and 3 months (at the latest) postpartum.

Conclusions

The results indicate that midwives must continue supports for mothers who have difficulty breastfeeding, such as sucking-related problems, during and after their hospitalization, and also must help mothers understand that their infant is getting sufficient milk by showing data on the infant's body weight and the amount of milk their infant consumed, in order to reduce mothers' anxiety over insufficient intake. It is also important that midwives provide emotional support for mothers who cannot breastfeed their infant.

It takes 2-3 months for first-time mothers to get used to breastfeeding and life with a child. Thus, midwives must not only teach breastfeeding techniques and methods, but must also take into account the daily life of a mother and her child when providing breastfeeding support.

Key words: breastfeeding, first-time mother, concern, qualitative and descriptive study

Ⅰ.緒   言

母乳育児は母親側と児側双方にとって多くの利点 があり,さらに目と目を互いに合わせて授乳をする ことで,親子の絆を深めるものである。およそ 9 割 の施設が妊娠中に母乳育児の利点について説明を 行っており(村井他,2008a),妊娠中に母乳で育てた いと思っている者は 9 割を越えている(厚生労働省, 2016)。しかし,退院時の母乳育児率は約 5 割であり (村井他,2008b;小野他,2015),半数の者は何らか の理由により混合栄養または人工栄養になっている。 芳賀他(2013)は,「退院時母乳育児の母親は,産後 1 か月時にも母乳育児を行っている母親が 79.6% であ る,(p.103)」と報告し,出産後 1 週間以内の母乳育児 の確立が,その後の栄養方法の確立の基盤となるこ とを示唆している。初産婦では経産婦に比べ乳汁分 泌が遅れ,ほぼ半数の初産婦は産後 49~72 時間に 母乳分泌が増加し始める(水野他,2015)。しかし, 産褥の入院期間が短縮化され,母乳の分泌量が増え 安定してくる前に退院となるため,入院期間中に母 乳育児を確立することは,とくに初産婦では難しい と考える。 出産後に医療機関等で母乳育児に関する指導を受け た 者 は 73.9% で あ り(厚 生 労 働 省, 2016), 小 野 他 (2015)の報告によると施設における入院中の直接的 支援や自律授乳の実践度は高い。しかし,入院期間の 短縮により,母親は母乳育児に関して直接的な援助を 受ける期間が短くなっており,退院後様々な不安を抱 えながら母乳育児をしている母親は多い(村井他, 2014;西巻,2014;島田他,2006)。産後の生活の中

(3)

で授乳が占める割合は大きく,母乳育児がうまくいか ないと1日中母乳のことを考え,自分が否定されてい ると感じる母親もいると考える。 核家族の増加により,そばに育児の手伝いや相談で きる親がいることは少なく,育児に孤独を感じる母親 もいるのではないだろうか。母乳育児について頼れる のは出産した施設であるが,小野他(2015)の行った 関東の産科医療機関における母乳育児のための実践状 況によると,“継続化への支援”は他の項目に比べ,高 くない。 授乳や食事について不安な時期を聞いた調査(厚生 労働省,2005)をみると,出生直後が最も不安が高 く,産後 2~3 か月になると下がり,4~6 か月で再び 上昇している。この不安の上昇は離乳食開始によるも のと考えられるため,母乳育児についての不安は産後 2~3 か月で落ち着くと考えられる。母親の心配事に 関する調査は,島田他(2006)が退院後 1 か月間の心 配事を調査し,西巻(2014)は 2 週間健診時の悩みを 調査している。これらの調査では子育てについての心 配事を質問しているにも関わらず,初産婦では子ども のことについて“母乳不足の心配”が最も多かった。母 乳育児における心配事については,乳幼児栄養調査 (厚生労働省,2016)の中で授乳について困ったこと を調査しており,“母乳が足りているかどうかわから ない” “母乳が不足気味” “授乳が負担,大変”の順に多 かった。これらの研究は調査票を用いた選択肢による 研究であるため,母親が何につまずき,どのような支 援を求めているのかわかりにくい。そこで,今回は産 後3か月を経過している初産の母親を対象に,面接調 査を行い質的に分析することで,母乳育児における心 配や困難だと感じた出来事について明らかにする。そ れにより,母乳育児が軌道に乗るまでの母親への支援 について検討したい。この研究を行うことは,退院後 の母乳育児支援の一助になると考える。

Ⅱ.用語の定義

心配事:心配や困難に感じた出来事。 母乳育児:母乳のみで育てる育児,および人工乳を 足しながらも母乳を与えている育児を含む。 母乳不足感:実際には児が十分な母乳を摂取して いるのに,母親が「母乳が足りていない」と感じるこ と(瀬尾,2007,p.258)。

Ⅲ.研 究 方 法

1.研究デザイン 今回の研究の目的は,母親が母乳育児において心配 や困難だと感じた出来事を明らかにすることである。 そこで何が起こっているのか,現象をありのままに記 述したいと考え,現象を率直に記述する(北他,2009, p.29)質的記述的研究方法を用いた。 2.研究協力者および募集方法 2か所の保健センターの3,4か月乳児健診の待ち時 間に,研究者1名が直接母親に声をかけ,母乳育児を していて心配や困難を感じたことはなかったかを聞い た。「あった」と答えた母親に研究協力を依頼し,研究 の趣旨に同意の得られた11名を研究協力者とした。 3.データ収集方法 データ収集は平成 26 年 8 月から平成 27 年 6 月に 行った。後日研究者から研究協力者に電話をかけ,希 望に合わせ面接を行う日時と場所を決めた。希望によ り研究協力者宅にて,インタビューガイドに沿った半 構成的面接を,研究協力を依頼した研究者 1 名が 行った。面接の時期は,産後3 か月から 4か月であっ た。面接前に質問用紙にて,年齢,職業の有無,分娩 様式,退院後の帰宅先,妊娠中の母乳育児に対する考 え,現在の母乳育児状況について情報収集を行った。 面接内容は,「退院後,母乳育児において心配や困難 を感じた時期と出来事はどのようなことか」「心配や 困難に思った出来事をどのように対処したか」「母乳 育児についての不安が減り,自分なりの母乳育児がで きるようになったと感じた時期ときっかけ」などで あった。面接は 1 名につき 1 回,所要時間は 45 分程 度,承諾を得てICレコーダーとメモに記録した。 4.データ分析方法 逐語録を熟読し,全体の意味を把握した。その後母 親が母乳育児において心配や困難だと思った出来事に ついて語っている文脈を抽出し,意味のあるまとまり でコード化した。見出されたコードを,相違点・共通 点について比較しながら分類し,複数のコードが集 まったものをサブカテゴリーとしてふさわしい名前を つけた。さらに類似しているサブカテゴリーを分類, 検討しカテゴリーを抽出した。これらの過程はグ レッグ他(2016)の方法を参考にした。

(4)

データ分析は主に2名の研究者が行い,確証性の確 保のために研究者が個々に11事例のコード化を行い, その結果をもちよりコードを精選した。討議を重ね, 抽象度を上げていく作業を繰り返した。その後,質的 研究を行っている別の研究者1名にスーパーバイズを 受けた。 5.倫理的配慮 研究協力者が面接日時の変更や不参加の表明をしや すいように,研究協力の同意が得られた時点で,研究 者のメールアドレスと電話番号を伝えた。後日面接前 に研究の趣旨と個人情報の保護,自由意思による参加 などを文書および口頭で説明し,研究協力者に直筆の 署名を得て参加の同意とした。面接に際し,子どもが 起きている場合は,母親が授乳やおむつ交換などの育 児を優先できるよう配慮した。なお本研究は,群馬県 立県民健康科学大学倫理委員会(承認番号:健科大倫 第2014-6号)の承認を得て行った。

Ⅳ.結   果

1.研究協力者の概要 研究協力者11名の概要については,表1に示す。年 齢は20歳代が3名,30歳代が6名,40歳代が2名であ り,育児休業中を含む有職者が 6名,無職の者が 5名 であった。面接時の母乳育児状況は,母乳のみが 8 名,混合栄養が2名,人工栄養が1名だった。 2.母乳育児についての不安が減り,自分なりの母乳 育児ができるようになったと感じた時期ときっかけ 面接時に混合栄養の者も含め,母乳育児を継続して いた10名の母親が,母乳育児についての不安が減り, 自分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時 期は,早い者では産後 1か月,遅い者では産後 3か月 だった。そのきっかけについては,「乳児健診や家庭 訪問の体重測定時に子どもの体重が増えていた」が最 も多く 4 名だった。その他「哺乳量測定をして,母乳 だけで足りるくらい出ていた」「子どもの生活リズム がわかってきた」「授乳が 2時間おきに定まってきた」 などであった。 3.母乳育児における心配や困難だと感じた出来事 11事例のデータから,母親の母乳育児における心 配や困難だと感じた出来事を196コード抽出した。こ れらのコードを分類した結果,21サブカテゴリー,8 カテゴリーを抽出した(表2)。8カテゴリーは,【母乳 育児に順応しない子どもの反応】【うまくいかない授 乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳充足の判断】 【順調に増えない母乳分泌量】【乳房・乳頭に発生する 苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母親の意向 表1 研究協力者の概要 対象 年齢 就業 分娩様式 退院後帰宅先 妊娠中の母乳育児に対する考え 面接時の母乳育児の状況 母乳育児についての不安が減った時期 自分なりの母乳育児ができるようになったと感じたきっかけ A 30歳代 無 経膣 実家 できれば母乳 母乳 産後3 か月 健診時に哺乳量測定をして,母乳だけで足りるくらい出ていた B 20歳代 無 帝王切開 自宅 絶対母乳 母乳 産後 2 か月半 自分と子どもの生活のリズムができ,育児に慣れ,余裕が出てきた C 30歳代 有 (育休中) 帝王切開 自宅 どちらでもよい 母乳 産後2 か月 授乳が 2 時間おきに定まってきた D 20歳代 無 帝王 切開 実家 できれば母乳 人工乳 (途中より人工乳)なし E 30歳代 (育休中)有 経膣 実家 絶対母乳 混合 産後1 か月 おっぱいが出やすい方を先にあげるなど,自分なりのペースがつかめた F 40歳代 有 経膣 自宅 できれば母乳 母乳 産後 1 か月半 搾乳量が一定し,子どもの体重が増えてきた G 30歳代 有 (育休中) 経膣 実家 絶対母乳 母乳 産後1 か月 健診で子どもの体重が増えていた子どもが夜寝るようになった H 40歳代 有 (育休中) 経膣 実家 絶対母乳 混合 産後3 か月 子どもの昼夜の区別がついてきた I 30歳代 無 経膣 実家 できれば母乳 母乳 産後3 か月 子どもが大きくなり,育児に慣れてきた子どもの生活リズムがわかってきた J 30歳代 (育休中)有 経膣 実家 できれば母乳 母乳 産後 1 か月半 健診や訪問時に子どもの体重が増えているよといわれた K 20歳代 無 経膣 自宅 できれば母乳 母乳 産後1 か月 健診時に子どもの体重が増え過ぎているくらいだよといわれた

(5)

に沿わない周囲の関わり】であった。以下に各カテゴ リーの内容を記述する。カテゴリーは【 】,サブカ テゴリーは《 》,母親が語った内容は「斜体」,筆者 の内容補足は( )で示した。 1)【母乳育児に順応しない子どもの反応】 このカテゴリーは,母親の母乳育児が思うようにい かないと感じる子どもの反応であった。そしてこれら の反応は,母乳で育てたいと思っている母親を落ち込 ませる出来事であった。《子どもの乳頭への吸着困難》 《母乳育児を阻害されるような子どもの泣き》《母乳よ りも人工乳を好むような子どもの反応》《母乳だけで は子どもが寝ない》《子どもの体重増加不良》の5サブ カテゴリーで構成された。 ①《子どもの乳頭への吸着困難》は,母親の乳頭の形 態により子どもが吸い着きづらく,吸い着くのに時間 がかかったり,場合によっては吸わなかったりした出 来事を示した。A氏は次のように語った。 「吸い着くまでが,うまく吸えれば,なんとかこう 吸ってくれるんですけど,それまでが吸い着きづ らかったみたいで,すごい大騒ぎで。最初はそれで すごく悩んで。(うまく吸えるようになったのは)1か 月過ぎてからですかね。それまでは泣かれながらで した」 また,E氏は子どもに直接乳頭を吸わせようとして も,乳頭保護器なしではたまにしか吸わないため,産 後3か月の時点で乳頭保護器を使用していた。 「乳首の長さが短いらしく,保護器を着けてあげて るんですよ。何回も直接飲ませようとはしてるんです けど,たまに飲んでくれるんですけど」 ②《母乳育児を阻害されるような子どもの泣き》には, 2つの泣きがあり,一つは,反り返って母乳を嫌がる 子どもの泣きと,もう一つは,母親が人工乳を足した くなる子どもの泣きであった。D 氏は次のように 語った。 「(訪問に来た)助産師さんに,もうちょっとがん ばってみて,こんな感じで嫌がるようだったら,今回 はあきらめてミルクで育てたらっていわれて。しょう がないかなと思って吸わせていたんですけど,ぎゃあ ぎゃあ泣くようになったから,もう(母乳を)やめよ うと思って」 また,C氏は次のように語った。 「(退院)1 週間後くらいの健診で,もう母乳だけで いいんじゃないって言われたんですね。でも子どもが 結構わんわん泣くんで,んーと思って,少し(人工乳 を)足したりしてたんです」 ③《母乳よりも人工乳を好むような子どもの反応》は, 表2 母乳育児における心配や困難だと感じた出来事 カテゴリー サブカテゴリー ケース 母乳育児に順応しない子どもの反応 子どもの乳頭への吸着困難 A, D, E 母乳育児を阻害されるような子どもの泣き A, B, C, D, F, H, I, K 母乳よりも人工乳を好むような子どもの反応 A, D, H 母乳だけでは子どもが寝ない A, H, K 子どもの体重増加不良 E うまくいかない授乳方法 教えてもらってもよくわからない授乳のやり方 F, G, H, I, J, 簡単には獲得できない搾乳手技 F 定まらない哺乳パターン 短い授乳間隔 A, B, C, F いつもと違う子どもの哺乳パターン B, C, F, G 母乳充足の判断 確認できない子どもの母乳摂取量 A, C, D, E, F, G, H, I, J, K 人工乳追加の判断 A, E, H, K 順調に増えない母乳分泌量 母乳分泌量が少ない D, E, F, H, J, K 片側の乳房の母乳分泌が悪い D, E 乳房・乳頭に発生する苦痛 乳頭痛 C, H, J 乳房緊満 B, F, G, I 乳管の詰まり A, C 母乳育児による日常生活の変調 夜中の授乳 B, C, G, K 食事制限 C, F 職場での気遣い F 母親の意向に沿わない周囲の関わり 母親の気持ちに沿わない周囲の言葉 F, H, J, K 実際の支援と望む支援の不一致 F, H, J

(6)

母親から見ると子どもは,母乳よりも人工乳が好きな のではないかと感じる子どもの反応であった。乳頭に 吸い着きづらく,母乳はなかなか飲まないが,人工乳 はあっという間に飲んでしまう。そして人工乳を飲む と満足するという子どもの反応であった。A氏はこの ような子どもの反応を見て,「ほんとにミルクのほう がいいっていう時があったので,その時はすごいめげ そうになった」と語った。 ④《母乳だけでは子どもが寝ない》は,子どもが母乳 を飲ませた後もぐずぐずして寝てくれないという出来 事を示した。A氏は,子どもはお腹いっぱいになると 寝るもの,お腹が空いて泣く以外はほとんど寝ている ものと思っていた。そのため子どもが寝ないのは,母 乳が不足しているからだと考えていた。 「よく寝るっていうじゃないですか,ほとんど寝て るって。でもぜんぜん寝なくって,ちょっと寝てもお 腹空いて起きちゃう感じだったんで,やっぱり足りて ないんだと思って」 ⑤《子どもの体重増加不良》は,母乳中心の育児をし ていたところ,子どもの体重の増えが悪かったという 出来事を示した。E氏は次のように語った。 「(母乳を)飲めていなくて体重が増えてなくて,で ミルクをいっぱい足すようになったんですけど(中 略)退院して1,2週間して小児科に連れて行って体重 を量ったら1日平均10ぐらいしか増えていなかったの で,飲ませられるだけ飲ませてくださいっていわれ て」 E氏は人工乳を増やした結果,1 日の母乳回数が 減ってしまったが,心配で人工乳の量を減らすことが できずにいた。 2)【うまくいかない授乳方法】 このカテゴリーは,母親の授乳がうまくできるよ うになった,自分なりの授乳方法を獲得できたと思 えるまでの授乳方法における困難であった。《教えて もらってもよくわからない授乳のやり方》《簡単には 獲得できない搾乳手技》の 2サブカテゴリーで構成さ れた。 ①《教えてもらってもよくわからない授乳のやり方》 は,母親にとって乳頭への吸着のさせ方や授乳時の子 どもの抱き方,授乳の頻度など授乳方法の習得が難し かったことを示した。J氏は次のように語った。 「奥までくわえさせるのが難しかったんです。口が 小っちゃいから開くタイミング,泣いた瞬間にパ コってやるんだよって言われるんですけど,そのタイ ミングが自分ではやっているつもりだけど,いやい や,もっとみたいな」 J氏は,産後 1 か月間これでいいのかと不安に思い ながら授乳をしていた。家庭訪問時に助産師から乳頭 への吸着のさせ方を再度教えてもらい,大丈夫といわ れたことで安心し,自信を持って授乳ができるように なった。 ②《簡単には獲得できない搾乳手技》は,母親の仕事 復帰に向けて搾乳をしなければならないという思いは あるが,搾乳がうまくいかず,母乳が数滴しかとれな いという出来事を示した。F氏は次のように語った。 「助産師さんと一緒に練習してたんですけど,なか な か そ の 時 も と れ な く て。 そ の ま ま 退 院 に な っ ちゃって 2 週間ぐらいはほんと,5cc くらいで,ほん とに何滴かの感じで」 3)【定まらない哺乳パターン】 このカテゴリーは,授乳間隔が短かったり,子ども の哺乳時間がその日によって異なったりと哺乳のパ ターンが定まらないことを示した。そのことにより母 親は,母乳が足りているのか心配に思っていた。《短 い授乳間隔》《いつもと違う子どもの哺乳パターン》の 2サブカテゴリーから構成された。 ①《短い授乳間隔》は,授乳と授乳の間が 30 分から 1 時間と短いことを示した。母親は母乳が十分に足りて いると授乳と次の授乳までの間が空くと思っていた。 A氏は母乳をあげてから次の授乳まで2時間空かない ときは,母乳が足りていないと考えていた。 「(授乳間隔が)2 時間もつっていわれたのに,今で も2時間もたなかったりするんで。その時は1時間も, もたないくらいだったんで,足りてないんだって自分 で勝手に思って」 ②《いつもと違う子どもの哺乳パターン》は,子ども の母乳を飲んでいる時間が普段より長いことや,哺乳 時間が短いのに,次の授乳までの時間が空くという出 来事を示した。B氏は次のように語った。 「(乳頭を)外されちゃうと,5 分も飲んでいないけ ど足りてるのかなって,その後寝ちゃって 1 時間 経っても起きないと,お腹すかないのかなとか。(中 略)長い時間飲んでたりすると,足りないのかな,出 が悪くなっていないかなとか,そういう心配が」 4)【母乳充足の判断】 このカテゴリーは,子どもが母乳を十分に飲んでい るサインを母親がわからないために,母乳が足りてい るのか不足しているのか判断できないことを示した。

(7)

《確認できない子どもの母乳摂取量》《人工乳追加の判 断》の2サブカテゴリーから構成された。 ①《確認できない子どもの母乳摂取量》は,母乳は子 どもの哺乳量を確認できないため,母親は子どもが母 乳をどれくらい飲んでいるのかわからなかったことを 示した。I氏は次のように語った。 「最初のうちは(母乳が)出ているのが見えない じゃないですか。目に見えておっぱいが減っていると か見えないんで。最初のうちは音もしないんで,最近 は飲んでいるとシューシューとおっぱいが出る音がす るので,出ているんだなぁってわかるんですけど」 また,子どもの母乳摂取量を確認するために,搾乳 器を使って母乳の分泌量を確認していた母親もいれ ば,近くの大型スーパーのベビーコーナーに行き,子 どもの体重を量って確認していた母親もいた。 ②《人工乳追加の判断》は,子どもの母乳摂取量が確 認できないために,母親が子どもの飲む量に合わせて 人工乳を追加した結果,子どもの体重が増え過ぎてし まった出来事であった。A氏は次のように語った。 「2 か月で,これはまずいなっていうくらい(子ど もの)体重が増えてしまって。どのくらい(人工乳 を)足したらいいのかよくわからなくて,すごい飲ま せていました。毎回授乳のたびに足してどんどん飲ん だんで,飲むんだから足りてないんだなみたいに 思ってた」 5)【順調に増えない母乳分泌量】 このカテゴリーは,実際に子どもの母乳摂取量が足 りているかどうかではなく,母親が主観的に母乳の分 泌が悪い,母乳分泌量が少ないと感じた出来事で あった。《母乳分泌量が少ない》《片側の乳房の母乳分 泌が悪い》の2サブカテゴリーから構成された。 ①《母乳分泌量が少ない》は,母親が希望するように 母乳が出ないと感じた出来事であった。H氏は,次の ように語った。 「完全母乳にどんどんしていきたいっていう思いが あるのに,毎日ミルクをあげなくちゃいけない日が毎 日続いて」 H氏は,完全母乳にするため母乳外来に通ったが, 面接をした産後 4 か月の時点では人工乳に傾いてい た。完全母乳で育てることを諦めていたが,面接時に 「完全母乳にするには,どうすればよかったのかなっ てちょっとは思います」と語った。 ②《片側の乳房の母乳分泌が悪い》は,子どもの吸い 着きが悪い方の乳房は母乳分泌が悪い,また子どもが 母乳分泌のよい乳房ばかり吸うために,もう片側の乳 房は,よけいに母乳分泌が悪くなったという出来事で あった。E氏は次のように語った。 「左は(母乳が)すごく出るんですけど,右があんま り出ないみたいで最初から。そしたら,この子が こっち(分泌の良い左側)ばかり吸うようになってし まって。そうするとよけいに出なくなっちゃいます よね」 6)【乳房・乳頭に発生する苦痛】 このカテゴリーは,乳房・乳頭のトラブルから生じ る痛みであった。《乳頭痛》《乳房緊満》《乳管の詰ま り》の3サブカテゴリーから構成された。 ①《乳頭痛》は,子どもに吸われることによって生じ る乳頭の痛みであった。J 氏は授乳を始めてから産後 1か月くらい,授乳のたびに乳頭痛を感じていた。 「(乳頭が)結構痛かったんですよ。痛かったけど耐 えて頑張って。知り合いに聞いたら,みんなそうだ よ,それを乗り越えちゃえば大丈夫になるよって言わ れたから,そんなものかなぁと思って。誰に聞いても そんな感じだから,耐えちゃいました」 ②《乳房緊満》は,授乳の間隔が空いてしまった時や 子どもが十分に母乳を飲まなかった時,母親が食べ過 ぎた時などに起きた乳房の緊満による痛みであった。 B氏は次のように語った。 「だいたい決まった時間にあげてはいるんですけど, (授乳時間が)ちょっとでもずれると張っちゃって痛 くて。搾乳しても,し過ぎちゃうとまた逆に分泌され ちゃうから痛くって,もう我慢できない,ちょっと痛 いっていう痛みではあるかな」 ③《乳管の詰まり》は,子どもが吸っても解消されな い乳管の詰まりができたことによる苦痛であった。C 氏は次のように語った。 「サバを一切れ食べて(乳管が)詰まっちゃって,1 回詰まると 3 日間くらいしこりができてしまうので, もうこりごりだと思って」 7)【母乳育児による日常生活の変調】 このカテゴリーは,母親が母乳育児を始めることに より起こった,授乳をしていない時には感じなかった 日常生活の中での困難な出来事であった。《夜中の授 乳》《食事制限》《職場での気遣い》の 3 サブカテゴ リーで構成された。 ①《夜中の授乳》は,母乳分泌量が増えるまでは昼間 だけでなく夜間も頻回授乳になるため,ゆっくり眠れ なかったことを示した。G氏は次のように語った。

(8)

「はじめは眠れないから大変。1 か月健診までは結 構(授乳)回数も多かったし,夜中も1時間とか1時間 半くらいで起きちゃうこともあったんで」 ②《食事制限》は,母親がストレスを感じるほど,母 乳のために極度な食事制限を行うことを示した。F氏 は次のように語った。 「ネットで見ると乳腺炎の恐い話がいっぱい出てくる んで,だめって書いてあったものは一切食べないよう にしていました。あれもだめ,これもだめで,根菜と お米しか食べられない感じで。その通りにやってたら, 産後のストレスもあって,わーってなりそうでした」 ③《職場での気遣い》は,人前で胸を出すことや母乳 が飛んでしまうことを気にすると職場では搾乳をする 場所がなく,いつもトイレで搾乳をしていたという出 来事であった。F氏は次のように語った。 「トイレになっちゃうんですよね。衛生上もほんと はあれなんでしょうけど。足で扉を閉めて。更衣室と か行っても人が来るといくら女性でもね,あまり気持 ち の い い も ん じ ゃ な い か な と か,(母 乳 が)飛 ん じゃったりもしますしね。絨毯とかじゃ申し訳ないか なとか,(職場で搾乳することは)なかなか難しい なぁと思います」 8)【母親の意向に沿わない周囲の関わり】 このカテゴリーは,母親の意向に沿わない周囲の言 葉や支援である。《母親の気持ちに沿わない周囲の言 葉》《実際の支援と望む支援の不一致》の2サブカテゴ リーで構成された。 ①《母親の気持ちに沿わない周囲の言葉》は,母乳育 児をがんばっている母親の気持ちを汲んでもらえない 周囲からの言葉であった。H氏は母乳だけで育てたい という思いがあるにもかかわらず,人工乳をあげる日 が続いていた。そのため,何気ない言葉がストレスと なって異様に大きく聞こえた。 「おっぱいで育てたいと思っていたのに出なくて, 周りから母乳が出たら母乳がいいよねって言われたの が,異様に大きく聞こえちゃって,(母乳が)出ないと 出ないとっていうのが,毎日の中でストレスみたいに なっちゃったのかな」 H氏は,助産師が母乳外来で自分の思いを聞き共感 してくれ,人工乳がいけないわけではなく,スキン シップをとってほしいから母乳育児を勧めているとい う話を聞き,気持ちが落ち着いた。そして子どもが大 きくなってくれれば,人工乳を足してもよいという気 持ちに切り替えられた。 ②《実際の支援と望む支援の不一致》は,母親の望む ときに欲しい支援がなかったことを示した。J氏は次 のように語った。 「赤ちゃんの吸わせ方見てはくれるんですけど,で きる方はできるのかもしれないけど,1回だけだとわ かんないなというのがあって,うまいこといかな かった。母乳は出ているし,この子も体重が増えてい るから大丈夫って言われて。あっ,その一言で終わり なんですねっていう感じで,また来てもいいですかと も言いづらかった」 J氏は入院中に助産師から授乳のやり方について指 導を受けたが,不安なまま退院になってしまった。 「入院中と退院後1週間の母乳外来1回では,授乳のや り方がよくわからなかった」と語り,産後の母乳育児 に関するケアがあまりなかったと感じていた。

Ⅴ.考   察

1.母子の生活を考慮した母乳育児支援 母親が母乳育児についての不安が減り,自分なりの 母乳育児ができるようになったと感じるには,母乳分 泌量が十分で授乳のやり方に自信が持てるとともに, 子どもの生活リズムと自分の生活リズムをうまく合わ せることが必要である。根津(2005)は「産後1か月か ら遅くとも数か月かけて,母乳だけにせよ混合である にせよ,母乳哺育は確立する,(p.34)」と述べている。 今回の研究では,母乳育児についての不安が減り,自 分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時 期は,早い者では産後1か月であった。母乳分泌量が 安定し,乳頭への吸着困難がなく直接哺乳がうまくで きていれば,1か月健診時に子どもの体重は増え,そ れを確認することによって母親は安心していた。 本研究協力者の半数の母親は,母乳育児について の不安が減り,自分なりの母乳育児ができるように なったと感じた時期を産後 2~3 か月と答えた。その きっかけについて,“子どもと自分の生活リズムができ た”と答えた母親がいたように,子どもを迎えての生活 リズムが軌道に乗るには,初産婦では2~3か月を要す る(ベネッセ教育総合研究所,2015)。松原他(2003) は「母乳育児が軌道にのるには,1か月健診の時期でも まだ不十分なことが多いものです,(p.123)」と述べて おり,さらに「それは母と子が生活上の折りあいをつ けていく試行錯誤のプロセスです,(p.123)」と述べて いる。今回の結果からも生活上の折り合いをつけてい

(9)

く期間は2~3か月を要し,その頃を過ぎると母乳育児 についての心配事が減ってくると考えられた。母親と 子どもの睡眠を調査した研究によると,母親の夜間睡 眠の中断は子どもが生後9週頃になると落ち着き,生 後 12 週では安定した睡眠リズムを形成する(堀内他, 2002)。母親はその頃になると夜間睡眠がとれるよう になり,育児に慣れ,子どものいる生活に慣れてくる と考えられた。つまり母親は母乳育児だけでなく,子 どもとの生活に慣れることも含め,母乳育児への不安 が減った時期を2~3か月と答えたと考える。よって母 乳育児支援とは,授乳の手技や方法だけではなく,母 と子2人の生活を考慮して行うことが大切である。具 体的には,睡眠や休息のとり方,自分の食事をする時 間の確保,母乳育児をしながらの家事のやり方など, 個々の生活に合わせた助言を行っていくことが大切で ある。身体疲労や睡眠不足感が強い母親には,添い寝 をしながらの授乳方法の指導や状況により人工乳を足 すなどの支援を行っていく必要がある。 2.入院中からの継続した母乳育児支援 今回の調査では,入院中に助産師から授乳方法につ いて指導を受けても,退院後に授乳の頻度がわからな い,乳頭への吸着のさせ方や授乳時の抱き方がうまく いかないと感じていた母親がいた。産後の入院期間が 短縮されるなか,入院期間中に授乳手技を習得するこ とは難しく,特に初産婦にとっては時間を要すること だと考えられた。末永他(2016)が行った,生後 6 か 月から 1歳8か月の子どもを持つ母親を対象とした母 乳育児の現状調査においても,母親が希望する母乳育 児支援は,“自分で授乳ができるようになる方法”が最 も多かったと報告している。 今回の母乳育児において心配や困難な出来事の あった初産の母親を対象とした調査では,退院時に乳 頭への吸着がうまくいっていないと思われた母親がい た。ある母親は,子どもがすんなり乳頭に吸い着ける ようになるまで1か月かかり,別の母親は,母乳を飲 ませようとすると子どもが反り返って泣き,嫌がるよ うになったため,母乳育児を途中で断念していた。ま た,産後3か月の時点で乳頭保護器を付けて授乳して いる母親もいれば,産後1か月まで乳頭痛があった母 親もいた。乳頭への不適切な吸着は,乳頭トラブルを 引き起こし,乳汁分泌を不良にさせるなど母乳育児の 継続を困難にする。これらの母親は,子どもの乳頭へ の吸着がうまくいかないことに対して,助産師に相談 や母乳外来に行くという支援は受けていなかった。退 院時に乳房の状態と乳頭への吸着困難など直接哺乳の 状況をみて,支援が必要な場合には退院後1週間空け ずに,母乳外来等による入院中からの継続した支援を 行っていくことが大切である。 また,授乳のやり方に不安があり,産後1週間健診 時に相談する機会があったにもかかわらず,助産師に 母乳分泌がよく,子どもの体重が増えているので大丈 夫だといわれ,それ以上何も聞けなかった母親がい た。助産師側からみれば,乳房の状態を見て分泌が良 く,子どもの体重が十分に増えていれば問題ないと判 断するだろう。しかしそれでも授乳のやり方に自信の ない母親もいる。乳房と子どもだけを見て判断するの ではなく,母親の訴えに耳を傾ける,母親に心配なこ とはないかと声をかけられる助産師の時間的,精神的 余裕が必要である。 退院後の継続的な母乳育児支援の必要性については, 先行研究においても,多数報告されており(岩本他, 2016;中田,2008;小野他,2015;佐々木他,2009; 塚田他,2017),母乳外来の開設も増えている。しか し本研究結果では,産後の母乳育児に関するケアがあ まりなかったと《実際の支援と望む支援の不一致》を感 じていた母親がいた。村井(2009)は,母乳育児を希望 している母親が充分な母乳育児支援をどこの施設でも 受けられるとは限らないと述べており,今回の研究に おいても退院後の母乳育児支援について,施設によっ て差があることが考えられた。現時点では選んだ出産 施設によって,受けられる母乳育児支援が異なってく る(河原他,2013)。産後1か月健診までの間に,健診 や電話訪問を実施している施設もあれば,実施してい ない施設もある。また母乳外来による継続的な支援に も差があり,“こんにちは赤ちゃん事業”による全戸訪 問は生後4か月以内である。子どもを迎えての生活リ ズムが軌道に乗る産後2~3か月頃までは,定期的に継 続した支援が受けられるように,母乳外来や支援グ ループに繋げる,電話訪問や家庭訪問を行うなどのシ ステムづくりが大切であると考える。 3.母乳不足感に対する支援 母親は《確認できない子どもの母乳摂取量》のため, 時に《人工乳追加の判断》を誤り,人工乳を飲ませ過 ぎてしまい【母乳充足の判断】を困難に思っていた。 母乳摂取量が確認できないことは,母親に母乳不足感 を抱かせ,安易に人工乳を追加させていた。

(10)

畑野他(2015)は,出産した母親の 68.7% が母乳不 足感を抱いていたと報告しており,先行研究によると 退院後の母乳育児を妨げる最大の要因は,母親が母乳 不足を感じ人工乳を足すことである(Dennis,2002; 中田,2008)。今回の研究で得られたサブカテゴリー 《母乳育児を阻害されるような子どもの泣き》《母乳だ けでは子どもが寝ない》《短い授乳間隔》《いつもと違 う子どもの哺乳パターン》という出来事は,いずれも 母親に母乳不足を感じさせた出来事であった。母親 は,子どもはお腹がいっぱいになると寝るものと考え ており,母親にとって子どもの泣きや母乳をあげても 寝ないことは,母乳不足感に直結する出来事であっ た。また,直接授乳の後に人工乳を足すと子どもがよ く飲むことや授乳間隔が短いこと,いつもと哺乳時間 や授乳間隔が異なることも,母親に母乳不足を感じさ せていた。 インターネット(マーミー(株) amaze,母乳不足のサ イン,2014)には,子どもの哺乳量不足を疑うサイン が書いてある。それは①授乳後も機嫌が悪い②授乳時 間が長い③授乳後にミルクをたくさん飲む④授乳間隔 が短い⑤排尿の回数が少ないなどである。これらのサ インが複数当てはまる場合には母乳不足が考えられる。 しかし,これらのサインがあっても母乳不足とはいえ ないこともある。母乳は人工乳に比べると消化が良 く,母乳分泌量が増えるまでは頻回授乳となり,授乳 間隔が短い。人工乳を足すことによって直接授乳の回 数が減ることがないように,母親に対して正しい知識 を入院中あるいは妊娠中から与えることが大切である。 今回の調査では,母親は母乳だけで大丈夫だと助産 師にいわれても,子どもが泣くという現象が起こると 人工乳を足していた。また,母親によっては子どもの 母乳摂取量が確認できないため,搾乳をして母乳分泌 量を確認したり,近所のスーパーに行って子どもの体 重を測定したりしていた。目で見て確認することで母 親は安心していた。つまり母乳が十分に出ている,母 乳が足りているという確証が必要なのである。そのよ うな援助を行うには,産後1か月健診時では遅く,産 後1~2週間までの母乳不足を感じやすい時期に,子ど もの体重や哺乳量を測定するという,母乳が足りてい ることを母親に実感させる援助が必要であると考える。 4.希望する母乳育児ができなかった母親への支援 母乳で育てたいと思っていても,【母乳分泌量が順調 に増えない】ために,人工乳に頼らざるを得ない母親 がいた。そのような母親は,少しでも分泌量を増やし たいと母乳外来に通い混合栄養になった者もいれば, 助産師などの支援は受けずに母乳育児を諦めてしまっ た者もいた。面接時に「完全母乳にするには,どうす ればよかったのかなと思います」と語った母親からは, 完全母乳で育てたかったが,できなかったという思い が伝わってきた。妊娠中に母乳育児が母子にとって良 いと聞き,絶対母乳が良いと思い込んでしまった母親 は,子どもに人工乳をあげることを辛く思っていた。 しかし助産師に自分の思いを聞いてもらい,共感して もらったことで「ミルクがいけないっていうわけでは なく,スキンシップをとってほしいので母乳を勧めて いるって聞いて,完全母乳でなくてもいいと思え,落 ち着いた感じではあるんですけど」と語った。 この母親のように希望通りの母乳育児ができな かった者もいる。母乳育児支援は,完全母乳にしてい くことだけを目標に行っていくのではなく,母親が満 足する母乳育児ができるように支援することが大切で ある。子どもにとって最も良いといわれている母乳で 育てられないことで,子どもへの罪悪感,母親失格を 感じる母親がいる(井上他,2008)。助産師は,母乳 育児を希望する母親が母乳育児を継続できるように支 援するとともに,自分が望む母乳育児ができなかった 母親には,心理的ケアを行う必要がある。永森他 (2010)がいう母親の気持ちを受け入れ,共感すると いう母親の気持ちを支える支援が必要であると考え る。希望する母乳育児ができなかった母親は,助産師 に自分の頑張りを認め,今やっていることは間違いで はないと後押ししてもらったことで,気持ちの整理が できたと考える。 また,助産師は出産前に母乳の良さを強調するだけ ではなく,母親の意向を確認し,出産後に母親の望む 母乳育児ができるように支援していく必要がある。妊 娠すると女性は出産準備クラスや保健指導で,助産師 から母乳の良さや利点を説明され,それにより多くの 妊婦が母乳育児を目指すようになる。しかし,順調に 母乳育児が進む母親ばかりではない。そのため,母親 が満足のいく母乳育児ができるように,授乳時の子ど もの抱き方や乳頭の含ませ方などの技術的ケアや乳汁 分泌を促すための身体的ケアと同様に心理的ケアを 行っていくことが大切である。 5.研究の限界と今後の課題 本研究の協力者は,母乳のみの者や混合栄養の者,

(11)

途中から人工栄養になってしまった者など多岐に わたっている。また,ベビーフレンドリーホスピタル (BFH)に指定されていない病院または診療所で出産 しているという特徴があった。今後は母乳育児を途中 で断念した者や希望通りの母乳育児を行えた者など対 象を絞り,母乳育児支援を検討していきたい。

Ⅵ.結   論

面接時に混合栄養の者も含め,母乳育児を継続して いた10名の母親が,母乳育児についての不安が減り, 自分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時 期は,早い者では産後 1か月,遅い者では産後 3か月 だった。 退院後から産後3~4か月における初産の母親の母乳 育児における心配や困難だと感じた出来事を分析した。 その結果,【母乳育児に順応しない子どもの反応】【うま くいかない授乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳 充足の判断】【順調に増えない母乳分泌量】【乳房・乳頭 に発生する苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母 親の意向に沿わない周囲の関わり】という 8 カテゴ リーが抽出された。これらの結果から母乳育児を継続 するための支援として,以下のことが示唆された。 1. 初産の母親は,産後2~3か月まで母乳育児に慣 れていないだけではなく,子どもとの生活その ものに慣れていない。そのため母乳育児支援に おいて授乳の手技や方法だけでなく,母と子 2 人の生活を考慮することが大切である。 2. 退院時に乳房の状態と乳頭への吸着困難など母 乳育児の状況をみて,支援が必要な場合には, 退院後 1 週間空けずに入院中からの継続した支 援を行っていくことが大切である。 3. 母乳不足感に対する支援は,母親に対して正し い知識を入院中あるいは妊娠中から伝え,母乳 不足を感じやすい時期に子どもの体重や哺乳量 を測定するという,母乳が足りているというこ とを母親に実感させる援助が必要である。 4. 母親が母乳育児を継続できるように支援すると ともに,希望する母乳育児ができなかった母親 に対しては,心理的ケアを行う必要がある。 謝 辞 本研究に快くご協力下さいましたお母様方,ならび に保健センターのスタッフの皆様に心より感謝申し上 げます。なお,内容の一部は第 31 回日本助産学会学 術集会にて発表しました。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はありま せん。 文 献 ベネッセ教育総合研究所(2015).産前産後の生活とサ ポ ー ト に つ い て の 調 査. http://berd.benesse.jp/up_ images / research / sanzensango.pdf [2017-9-21]

Dennis, C.L. (2002). Breastfeeding initiation and duration: a 1990-2000 literature review. Journal of Obstetric, Gy-necologic, & Neonatal Nursing, 31(1), 12-32.

グレッグ美鈴,麻原きよみ,横山美江編著(2016).よく わかる質的研究の進め方・まとめ方―看護研究のエキ スパートをめざして―.pp.64-84,東京:医歯薬出版. 芳賀亜希子,徳武千足,近藤里栄,中村紗矢香,鈴木敦 子,大平雅美他(2013).産後 1ヵ月時の母乳育児の 確立と基礎的・産科学的要因および母乳育児ケアと の関連.母性衛生,54(1),101-109. 畑野花奈,刀根洋子(2015).母乳不足感を抱いた母親の 認識と対処行動が母乳育児継続に及ぼす影響.日本 ウーマンズヘルス学会誌,14,17-18. 堀内成子,江藤宏美,西原京子,森明子,三橋恭子,有森 直子他(2002).出産後5週から12週までの母親と子ど もの睡眠の推移.聖路加看護大学紀要,28,18-27. 井上友里,久米美代子(2008).母乳育児に対する母親の 認識―満足する母乳育児が確立するまでの原動力―. 日本ウーマンズヘルス学会誌,7,57-66. 岩本麻希,島田三恵子,高橋藤子(2016).母乳外来での 継続指導による初産婦の母乳育児率と母乳量の変化. ペリネイタルケア,35(10),105-109. 河原聡美,梅野貴恵(2013).母乳育児率・母乳育児支援 の出産施設別の比較と母親が望む母乳育児支援の検 討.母性衛生,54(2),317-324. 北素子,谷津裕子(2009).質的研究の実践と評価のため のサブストラクション.p.29,東京:医学書院. 厚生労働省(2005).平成 17 年度「乳幼児栄養調査」:結果 の 概 要 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/06/h0629-1.html [2015-2-15] 厚生労働省(2016).平成 27 年度「乳幼児栄養調査」:結果 の 概 要 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/83-1.html [2016-11-28]

(12)

マーミー (株) amaze(2014).母乳不足のサイン.https:// moomii.jp / baby / notenough-milk.html [2017-8-4] 松原まなみ,山西みな子著(2003).母乳育児の看護学  考え方とケアの実際.pp.122-124,大阪府:メディカ 出版. 水野克己,水野紀子,瀬尾智子(2015).よくわかる母乳 育児.pp.42-43,東京都:へるす出版. 村井智郁子,林知里,横山美江(2014).母親の育児に関 する相談事と背景要因―3か月児健康診査のデータ分 析から―.日本公衆衛生看護学雑誌,3(1),2-10. 村井文江(2009).母乳育児支援とその現状.産婦人科治 療,99(4),360-366. 村井文江,江守陽子,斉藤早香枝,野々山未希子,谷川裕 子(2008a).UNICEF/WHO の「母乳育児成功のため の10ヵ条」の視点からみた関東6県における母乳育児 の状況 ― 第 1 報:母乳育児支援の現状 ―.母性衛生, 48(4),496-504. 村井文江,斉藤早香枝,野々山未希子,江守陽子,谷川裕 子(2008b).UNICEF/WHO の「母乳育児成功のため の10ヵ条」の視点からみた関東6県における母乳育児 の状況 ― 第 2 報:母乳育児支援と母乳育児率との関 連―.母性衛生,48(4),505-513. 永森久美子,土江田奈留美,小林紀子,中川有加,堀内成 子,片岡弥恵子他(2010).母乳育児をしている母親 の混乱や不安を招いた保健医療者のかかわり.日本 助産学会誌,24(1),17-24. 中田かおり(2008).母乳育児の継続に影響する要因と母 親のセルフ・エフィカシーとの関連.日本助産学会 誌,22(2),208-221. 根津八紘著(2005).乳房管理学.p.34,長野県:諏訪メ ディカルサービス. 西巻滋(2014).よりよい2週間健診のために母親の期待に 応える.助産雑誌,68(8),694-699. 小野加奈子,江守陽子,村井文江(2015).産科医療機関 における母乳育児のための実践と退院時母乳育児率 との関連.母性衛生,56(2),367-375. 佐々木由里,竹原健二,松本亜紀,吉朝加奈,嶋根卓也, 野口真貴子他(2009).生後 4ヵ月時点における完全 母乳哺育実施要因について ― 妊娠・出産をとおして の母子の長期的経過についての縦断的な検討より―. 母性衛生,50(2),396-405. 瀬尾智子(2007).母乳不足と母乳不足感.NPO 法人日本 ラクテーション・コンサルタント協会編集,母乳育 児スタンダード,p.258,東京:医学書院. 島田三恵子,杉本充弘,縣俊彦,新田紀枝,関和男,大橋 一友他(2006)産後 1 か月間の母子の心配事と子育て 支援のニーズおよび育児環境に関する全国調査.小 児保健研究,65(6),752-762. 末永芳子,羽田野花美,中島由紀子(2016).A県における 母乳育児の現状と課題 ― 母親が満足する母乳育児支 援を探る―.保健科学研究雑誌,13,147-158. 塚田幸乃,河島亜希子,大田まゆみ(2017).退院後から 産後 1 か月健康診査までに母親が抱く授乳に対する 困難感と対処行動.母性衛生,57(4),709-717.

参照

関連したドキュメント

このように,先行研究において日・中両母語話

自分の親のような親 子どもの自主性を育てる親 厳しくもあり優しい親 夫婦仲の良い親 仕事と両立ができる親 普通の親.

Q3-3 父母と一緒に生活していますが、祖母と養子縁組をしています(祖父は既に死 亡) 。しかし、祖母は認知症のため意思の疎通が困難な状況です。

自由報告(4) 発達障害児の母親の生活困難に関する考察 ―1 年間の調査に基づいて―

また自分で育てようとした母親達にとっても、女性が働く職場が限られていた当時の

親子で美容院にい くことが念願の夢 だった母。スタッフ とのふれあいや、心 遣いが嬉しくて、涙 が溢れて止まらな

 感染力の強いデルタ株の影響により若者を中心とし た感染者の急増が止まらないことから、8月 31 日を期