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「母親の心の健康チェックシート」を用いた育児相談による働きかけの対応

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 29, No. 2, 272-282, 2015

長野県看護大学(Nagano College of Nursing)

2014年5月15日受付 2015年6月6日採用

資  料

「母親の心の健康チェックシート」を用いた

育児相談による働きかけの対応

Practice efforts during childcare consultations utilizing

the mothers’ psychological health checksheet

清 水 嘉 子(Yoshiko SHIMIZU)

佐々木 美 果(Mika SASAKI)

塩 澤 綾 乃(Ayano SHIOZAWA)

宮 原 美知留(Michiru MIYAHARA)

赤 羽 洋 子(Hiroko AKAHANE)

阿 部 正 子(Masako ABE)

藤 原 聡 子(Satoko FUJIHARA)

* 要  旨 目 的  継続した育児相談で,「母親の心の健康チェックシート」を用いた働きかけの対応を明らかにする。 対象と方法  参加した相談者は7名であり,2∼3人の母親を受け持ち3回の家庭訪問を行った。母親は20名であり, 子ども数は1人が90%,専業主婦が80%であった。子どもの年齢は1歳から2歳に成長する過程にあっ た。相談時に「母親の心の健康チェックシート(以下チェックシートとする)」を用いた。チェックシー トは育児している母親の心理的な健康状態を知るために作成したもので,育児幸福感短縮版尺度13項 目,育児ストレス短縮版尺度16項目で構成される。相談時の相談者の働きかけの対応の内容分析をした。 加えて3回の相談時の働きかけの対応の変化について分析した。 結 果  3回の相談で共通していた働きかけの対応には,【母親の気持ちを受け止める】では,〈子育てで感じて いる気持ちを受けとめる〉,〈子どもに対する気持ちを受けとめる〉,〈子育てのサポートに対する気持ち を受けとめる〉があった。【母親に気づかせる】では,〈子育てが今のままで良いことに気づかせる〉,【母 親を安心させる】では,〈子どもが成長過程にあることを伝える〉,〈他者の反応を伝え安心させる〉,【母 親の考え方を認める】では,〈子育てに対する考え方を認める〉があった。また,2回目の育児相談では,〈妊 娠による大変さを受けとめる〉,3回目の育児相談では,〈家族を大切に思う気持ちを受けとめる〉,〈周囲 の人からほめられたときの気持ちを受けとめる〉,〈自分の将来を考えられていることがよいことである ことに気づかせる〉の新たな働きかけの対応があった。

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結 論  相談者の働きかけの対応は,母親の気持ちを受け止めることが全体の6割を占めており,重要な働き かけの対応となっていた。子どもが成長し,母親としての経験を積んでいくことにより,相談者は母親 に気づかせ,考え方を認める働きかけの対応となっていた。また,母親を安心させる働きかけの対応が 毎回行われていた。本研究により,チェックシートを用いて様々なことに気づかせる働きかけの対応が 明らかになった。 キーワード:母親,健康チェックシート,育児相談,相談者,働きかけの対応 Abstract Purpose

The present study aimed to clarify practice efforts of child care consultants using the "Mothers' Psychological Health Checksheet" in continuous consultations.

Subjects and Methods

Seven consultants in charge of 2-3 mothers who had conducted 3 home visits, and 20 mothers (80% were full-time homemakers, and 90% had 1 child) participated in the study. Children were between the ages of 1 and 2. The "Mothers' Psychological Health Checksheet" (hereafter, the checksheet) was used at the consultations. The check-sheet, which was designed to understand the emotional health of mothers who are raising children, comprises 13 items from the short form of the Child Care Happiness Scale and 16 items from the short form Child Care Stress Scale. We performed content analysis of consultant practice efforts at the consultation, focusing on any changes in practice efforts that occurred at the time of each of the three consultations.

Results

Across all three consultations, several common practice efforts within [acknowledge feelings as a mother] were identified, and included "acknowledge feelings experienced in child care," "acknowledge feelings toward the child (ren)," and "acknowledge feelings about child care support." Within [affirmation of the mother] was "affirm that child care is fine the way it is currently," and within [reassure the mother] were "provide reassurance by con-veying that the children are in a developmental stage" and "provide reassurance by concon-veying feedback offered by others." In addition, within [affirm the mother's way of thinking] was "affirm the way of thinking about child care." At the second child care consultation, we extracted the practice effort of "acknowledge the difficulty of pregnancy," and at the third consultation, we extracted "acknowledge the desire to value the family," "acknowledge the feeling when receiving praise from someone else," and "acknowledge that thinking of one's own future is a good thing." Conclusions

Of all practice efforts required of a child care consultant, roughly 60% involved the affirmation of a mother's feelings in some way, and thus is thought to be very important. As children grow up, and as mothers gain experi-ence, the consultant must make efforts to become more involved in acknowledgement and affirmation of maternal feelings and thoughts. In addition, efforts to console the mother were made at all consultations. The present study clarified the various efforts of child care consultants to increase the awareness of mothers through the use of check-sheets.

Keywords: Mother, Health Checksheet, Child Care Consultation, Consultant, Role

Ⅰ.は じ め に

 訪問事業では,平成16年に創設された養育支援訪 問事業(育児支援家庭訪問事業)から,平成19年には 乳児家庭訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)が行わ れている。さらに,平成25年の春には未熟児訪問事 業が市町村に移譲されることで,改めて訪問事業が注 目されている。家庭訪問による育児相談の効果とし て 子育ての助けが得られた , 楽な気持ちになれた , 子育てに肯定的になれた , 子育ての価値が高まっ た などの報告があり,訪問による相談への良い評価 が得られている(石川・小澤・時折,2012, pp.8-21)。  育児支援は,育児している母親への支援がその中心 にあると考える。特に,コミュニケーションが苦手, 外に出ることがおっくうなどの理由から,公的な健診 や教室に参加することなく,密室での育児を行ってい る母親がおり,こうした母親への支援には訪問による 相談は欠かせない。中には,訪問に戸惑いや不安を感

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じる対象者もいるが,一方では,母親の4人に一人は 困り事をもちながら育児をしている現状にある。育児 困難感を抱いている母親は 生活が疲れる , イライ ラする , 育児が負担である と感じる傾向が強い(小 澤・石川・川上他,2012, pp.34-35)ことからも,有効 な支援が期待されるところである。また,継続的な支 援に着目した研究が少ないことも課題と考える。  研究者は育児をネガティブな側面のみならずポジ ティブな側面が多く存在している事を母親に気づかせ, 育児している母親の育児幸福感を高める支援の必要性 を提案している(清水,2013, pp.224-230)。母親の育児 幸福感が高まることによって母親に癒しの感情が生ま れ,思いやりの心や育児の原動力に通じていることが 明らかにしている。こうしたことから,育児幸福感を 高める支援に「母親の心の健康チェックシート」(清水, 2014, pp.580-587)を作成し活用することを目的とした (以下チェックシートとする)本研究に取り組んだ。チ ェックシートは育児している母親の心理的な健康状態 を知るために作成したもので,育児幸福感短縮版尺度 13項目,育児ストレス短縮版尺度16項目で構成され る。家庭訪問による育児相談では,このチェックシー トを用いるとともに,先行研究(清水・関水・遠藤他, 2011, pp.215-224)で明らかにされた育児幸福感を高め ることに通じる質問項目を追加することにした。  本研究の目的は,継続的な家庭訪問で,チェック シートを活用した育児幸福感を高める育児相談を試み, 相談者が母親に育児幸福感を高める働きかけをし,そ れに応答した母親に対してどのような対応を行ったか を明らかにする。加えて,3回継続した相談を行うこ とにより,その対応が変化したのかついて明らかにす ることにした。本研究により,チェックシートを用い た育児幸福感を高める育児相談について検討する一助 としたいと考える。

Ⅱ.研 究 方 法

 育児をしている母親を対象にして,チェックシート を用いた家庭訪問による育児相談を3回,6か月に1回 の間隔で行った。家庭訪問による育児相談は母親がゆ ったりした気持ちで話ができること,継続的にかかわ ることにより1回の活用では見えてこない課題や効果 を明らかにするべく,複数回の訪問による課題と効果 をとらえるため3回とした。3回の家庭訪問の間隔はA 市が開催している健診と重ならないよう配慮した。 1.研究デザイン  相談者の継続的な働きかけの対応の内容分析による 質的研究。 2.研究期間  平成24年2月∼25年2月に行われた。 3.用語の定義  相談者の働きかけの対応:相談者の「働きかけ」と は,母親に介入した実施内容を示し,「働きかけの対 応」は,相談者の働きかけに対する母親の応答への対 応とした。 4.研究参加者 1 ) 相談者  相談者は大学の同じ分野に所属する共同研究者であ る教員7名である。共同研究者は育児相談者として担 当した。1人2∼3人の母親を無作為に受け持ち継続的 に関わった。選定理由は研究の趣旨を十分に理解して いること,全員助産師としての臨床経験が5年以上有 していることがあった。相談者の平均年齢は44.1 8.29 歳であり,既婚者が5人(71%),子どもの数は1人が2 人(40%),3人が2人(40%)であった。 2 ) 母親  乳幼児期にある子どもの育児をしているA市内在住 の母親20人である。本研究に先行して,乳幼児期に ある子どもの育児をしている母親を対象に質問紙によ る育児幸福感と育児に対する自信を問う縦断調査を行 っている。調査は子どもの3か月,1歳6か月,3歳時点 である。1回目の調査を終えた時点で,50人を無作為 に抽出し依頼文によって研究の同意を得た。  研究参加への依頼方法では,研究の目的や方法,倫 理的配慮に関する内容を記した依頼文を送り同意の得 られた者に対して,具体的な日程を調整する電話を入 れた。 5.母親の心の健康チェックシートと育児相談の内容 と進め方 1 ) 母親の心の健康チェックシート  育児ストレスと育児幸福感の状況を知るため29 項目で構成されるチェックシートを作成した(清水, 2014, pp.580-587)。このチェックシートは,育児スト レス短縮版16項目(清水・関水,2010a, pp.261-270)と 育児幸福感短縮版13項目(清水・関水・遠藤,2010b,

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pp.261-270)であり,項目に対する基本統計量とα係 数を確認し,各下位尺度得点を,パーセンタイルに変 換するための個人プロフィール表とした。両尺度の信 頼性・妥当性は検証されており,母親の育児ストレス や幸福感の程度を測る尺度である。数値を解釈するた めの個人プロフィール表を配置している。得点の高さ の意味的な理由,すなわち,育児幸福感は高いほどよ い,育児ストレスは低いほどよいことから,個人プロ フィール表の値は,育児幸福感は最大値から始まり, 育児ストレスは最小値から始まるようにした。つまり, 上部に個人の得点がプロットされているほど心理的に 健康的であると解釈できるものとした。 2 ) 相談の内容と進め方  相談の内容は,毎回チェックシートを用いてチェッ クシートにある29項目に対する評価と項目に対する 事情を確認した。また,先行研究(清水・関水・遠藤他, 2011, pp.215-224)により,育児幸福感を高めるプログ ラムの中で行っていた育児幸福感を高めることに通じ る質問項目を加えた。初回では①母親が頑張っている と思うところ,②自分のいいところ,2回目では,③ 自分が親に似ているところ,④子どもが自分に似てい るところ,⑤子どものいいところ,3回目では,⑥自 分が大切にしていること,⑦自分の将来の夢,その頃 自分は何をしていたい,子どもはどうなっているなど について相談の最後に尋ねた。  相談ではまず,チェックシートの表紙に記載されて いる,注意事項である,質問には,正解も不正解もな いこと,感じたとおりに,あまり考え込まずに答える ことを伝えた。進め方としては,項目に関連した事情 について母親に尋ね,最後にパーセンタイル値を母親 と相談者の両者で確認した。高い項目や低い項目に着 目しながら結果に対する母親の受け止めを確認した。  相談者の共通認識としては,母親の体験を引き出し ながらチェックシートを用いて,①項目に対する母親 の認識を確かめ,気持ちに共感しながら項目を尋ねる こと,②母親が気づいていない育児幸福感に気づかせ, その気持ちを大切にする働きかけの対応をすることと した。加えて,③チェックシートとは別に母親が感じ ている心配なことや不安なことについて相談にのった。 相談時は相談者が許可を得て録音機を用いて相談時の 語りを録音した。 6.分析方法  録音されたデータを逐語録に起こし,質的に分析し た。相談者の母親への働きかけの対応に着目しながら 語りをとり出しコードとした。語りの意味内容から類 似点共通点のある働きかけの対応として集約し下位サ ブカテゴリーとした。さらに同様の視点から働きかけ の対応を集約しサブカテゴリーとして命名した。最終 的に主たる働きかけの対応として集約しカテゴリーと して命名した。相談者の働きかけの対応は独立してい る語りの内容を1件のコードとし,コード件数を集計 した。分類を進めていく上では,研究者と育児研究の 経験がある相談者である共同研究者1名により行った。 一致しない項目は,議論による検討を深め一致する内 容を採用した。分析は,相談回数毎に行い,相談回数 による変化や共通点に注目した。 7.倫理的な配慮  平成23年度(承認番号#30)の長野県看護大学倫理委 員会の審査にて承認を得た。3回の家庭訪問を行うこと を明記した倫理的な配慮に基づいた依頼文を用い,自 由意思による参加や個人情報の厳守,研究開始後の辞 退の自由,相談中の中止の保証,相談時間は1時間程 度とすることについて説明し,協力の同意は同意書に サインを得た。

Ⅲ.結   果

1.研究参加者の属性  母親の年齢は,初回の相談時で30.8 4.78歳(最大41 歳,最小26歳),子どもの人数は1人が18人(90%),2 人と3人がそれぞれ1人(0.5%)であった。子どもの末 子の年齢は初回では11.95 3.91か月(最大1歳半,最 小6か月)であった。3回目には,母親と子どもの年齢 は1歳増えている。就労状況では,専業主婦が16人 (80%)であり,核家族が17人(85%)であった。 2.相談者  母親の1回の相談時間の平均は70分であった。結 果は,カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〈 〉,下 位サブカテゴリーは「 」で示し,コードであるロー データは に示した。末尾の(○-○)の数字は,相 談者と母親の番号である。相談者はaからg,母親は 1から20とした。特にローデータの解釈をするために 研究者が文脈から文言を括弧内に補った。なお,分析 に用いたコードは1回目の面接では90件,2回目では 70件,3回目では143件,合計303件であった。

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 相談者の働きかけの対応は52サブカテゴリーと4カ テゴリーであった。以下,3回の育児相談の中で一貫 していた働きかけの対応と,変化していた働きかけの 対応に分けて述べる。 1 ) 1継続的な相談で一貫していた相談者の働きかけ の対応  チェックシートを用いた,育児相談で相談者は,【母 親の気持ちを受け止める】で,コード数162件(1回目 47件,2回目37件,3回目78件),【母親に気づかせる】 で,コード数72件(1回目21件,2回目12件,3回目39 件),【母親を安心させる】で,コード数51件(1回目21件, 2回目18件,3回目12件),【母親の考え方を認める】で コード数18件(1回目2件,2回目2件,3回目14件)の4 カテゴリーの働きかけの対応があった(図1)。  【母親の気持ちを受け止める】には,3サブカテゴ リーがあった。母親が子育てをしている中で感じてい ること,子どもに対すること,子育てのサポートに対 する母親の不安やさみしさ,葛藤や大変さ,安心やう れしさなどの気持ちを受け止めていた。〈子育てで感 じている気持ちを受けとめる〉では, 今までは自分が 頑張ったら頑張った分だけ成果があるけど,育児っ てなかなかね,そういう風にいかないところが難し かったりしますよね(d-4) などの,「心身の大変さを 受けとめる」, お子さん連れて行くと自分の好きなよ うには買い物できないから大変ですよね(f-12) など の,「子育てで時間に制限が生じる大変さを受けとめ る」があり,1件ではあったが, 子どもの成長に応じ て,これからどんな遊びや対応をしていけばいいのか ということは,私も感じますね(c-9) などの,「子ど もの成長に伴う不安を受けとめる」, お母さんが出か けてもお父さんとお子さんと二人で大丈夫だったのは, ちょっと寂しかったのね(b-6) などの,「子育てで感 じたさみしさを受けとめる」があった。  次に多かった,〈子どもに対する気持ちを受けとめ る〉では,(子どもの笑顔を見て)勇気をもらっている という実感ができるということは大事なことですよね (g -16) などの,「子どもが大切な存在だと思う気持 ちを受けとめる」, 他の人に偉いわねとか言われると, そんなことないとか言うのだけど,内心はまあね(す ごいでしょ),みたいな(c -11)などの「子どもがほめ られて嬉しい気持ちを受けとめる」, お母さんと寄っ てくることをみて安心することはありますよね,わか ります(e-5) などの,「子どもの様子から安心した気 持ちを受けとめる」,1件ではあったが, 悪いことを したときに叱らないわけにいかないものね,それは私 もそうです(d-4) などの,「子どもを叱ることで葛藤 する気持ちを受けとめる」があった。さらに〈子育て のサポートに対する気持ちを受けとめる〉では, 夫が 子育てに協力してくれる気持ちがすごいと思ったのね (b-2) などの,「夫や周囲の人の育児支援に対する感 謝の気持ちを受けとめる」, 夫は悪気があってやって いる訳じゃないから言いにくかったり,でも言わない のも自分が結構しんどかったりしてね(f-14)などの, 「夫の子育てに対する気持ちを受けとめる」があった。 母親の夫への感謝の気持ちとともに不満な気持ちを受 け止めていた。  【母親に気づかせる】には,サブカテゴリーは1つだ った。今行っている子育てを肯定しながら,母親にこ れでいいんだと母親に気づかせていた。〈子育てが今 のままでよいことに気づかせる〉では, こんなに(笑 顔が)かわいいですもんね,お母さんもメロメロにな りますよね(c-9) などの,「子どもがかわいいと思う 気持ちが大切であることに気づかせる」, お父さんと お母さんがそうやって仲良くやっていると気持ちの安 定につながっていくと思います(e-20) などの,「夫婦 で協力する子育てが子どもへよい影響を与えているこ とに気づかせる」, 旦那さんは子育ての苦労を理解し てくれているのですね(c-11)などの,「夫や周囲の人 の育児支援が受けられていることに気づかせる」, 自 分が母親になるという想像がつかない状態だったとお っしゃっているけれど,ちゃんと子育てしていらっし ゃるから自信を持っていいと思います(d-4) などの, 「子育てがよくできていることに気づかせる」, 前は 成長を他の子と比較することがあったけど,今は自分 のお子さんの成長を自分なりに考えて対処できている って感じですね(e-5) などの,「子どもを理解できて いることに気づかせる」があった。  【母親を安心させる】には,2サブカテゴリーがあ った。子どもが成長過程にあること,母親が気が付い ていない他者からの反応を伝え安心させていた。〈子 どもが成長過程にあることを伝え安心させる〉では, まだ自分でちゃんと思いを言葉にできる訳じゃない から,どうしても機嫌が悪くなってわーってなっち ゃうっていうことがありますよね,ちょうどそうい う時期ですよね(e-20)などの,「子どもが成長してい ることを伝える」, お子さんのペースで発達していき ますので,上の子と同じように必ずしもいかないの でね(f-7) などの,「子どもの成長には個人差がある

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ことを伝える」, 子どもの発達が心配だと話したけれ ど,これだけものにつかまったりして(立って)いる ので,大丈夫よ(g-17)などの,「子どもの成長に対す る不安に答える」があった。母親が気づいていない他 からの気づきを伝える〈他者の反応を伝え安心させる〉 では,(子どもが)反応してくれて,お母さんがきた ら泣いていたのが笑顔のなるって嬉しいことですよ ね(f-14) などの,「子どもが母親を大切に思っている ことを伝える」,(夫に)みてもらう時とか全部準備し て,これやってねっていって(子どもを)おいていくし, どこの旦那さんもこういうところあるんですね(c-9) などの,「他の夫も同様であることを伝える」があった。  【母親の考え方を認める】には,サブカテゴリーは 1つだった。母親の子育てへの考え方を繰り返すこと 【 】はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリー,[ ]は下位サブカテゴリー,→の線は下位サブカテゴリーが次の面接でも継続していたことを示す, 面接1回目 n=20 (91) 面接2回目 n=20(69) 面接3回目 n=20(143) 〈子育てで感じている気持ちを受けとめる〉  [心身の大変さを受けとめる]  [子育てで時間に制限が生じる大変さを受けとめる]  [子どもの成長に伴う不安を受けとめる]  [子育てで感じたさみしさを受けとめる]  [二人の子育てをする大変さを受けとめる] 〈子どもに対する気持ちを受けとめる〉  [子どもが大切な存在だと思う気持ちを受けとめる]  [子どもがほめられて嬉しい気持ちを受けとめる]  [子どもの様子から安心した気持ちを受けとめる]  [子どもを叱ることで葛藤する気持ちを受けとめる]  [子どもをかわいいと想う気持ちに共感する]  [子どもがいることで気づいた気持ちを受けとめる]  [子どもの憧れの存在となり嬉しい気持ちを受けとめる]  [子どもの成長を喜ぶ気持ちを受けとめる] 〈子育てのサポートに対する気持ちを受けとめる〉  [夫や周囲の人の育児支援に対する感謝の気持ちを受けとめる]  [夫の子育てに対する気持ちを受けとめる]) 〈妊娠による大変さを受けとめる〉  [妊娠中の上の子の子育ての大変さを受けとめる]  [妊娠中の心身の大変さを受けとめる] 〈家族を大切に思う気持ちを受けとめる〉  [家族を意識する気持ちを受けとめる]  [家族との時間を大切にする気持ちを受けとめる] 〈周囲の人からほめられた時の気持ちを受けとめる〉  [子どもがほめられることで子どもを意識する気持ちを受けとめる]  [周囲の人からほめられた嬉しい気持ちを受けとめる] (11) (7) (1) (1) (7) (4) (3) (1) (10) (2) (8) (4) (1) (5) (3) (3) (1) (9) (2) (1) (14) (6) (2) (3) (3) (3) (10) (15) (2) (3) (5) (5) (3) (3) (1) (162) (47) (37) (78) 〈子育てが今のままでよいことに気づかせる〉  [子どもがかわいいと思う気持ちが大切であることに気づかせる]  [夫婦で協力する子育てが子どもへ良い影響を与えていることに気づかせる]  [夫や周囲の人の育児支援が受けられていることに気づかせる]  [子育てがよくできていることに気づかせる]  [子どもを理解できていることに気づかせる]  [子どもの個性をポジティブに受けとめることに気づかせる]  [子どもが成長していることを気づかせる]  [子どもの成長と共に母親も成長したことに気づかせる] 〈自分の将来を考えられていることがよいことであると気づかせる〉  [親としての姿を考えられていることに気づかせる]  [自分の将来を考えられていることに気づかせる] (5) (5) (5) (4) (2) (2) (4) (2) (4) (1) (6) (10) (1) (7) (8) (4) (1) (1) (72) (21) (12) (39) 〈子どもが成長過程にあることを伝え安心させる〉  [子どもが成長していることを伝える]  [子どもの成長には個人差があることを伝える]  [子どもの成長に対する不安に答える] 〈他者の反応を伝え安心させる〉  [子どもが母親を大切に思っていることを伝える]  [他の夫も同様であることを伝える] (6) (4) (3) (4) (4) (11) (3) (4) (6) (4) (1) (1) (51) (21) (18) (12) 〈子育てに対する考え方を認める〉  [子どもへの関わり方を認める]  [子どもの長所を伸ばしたい気持ちを認める]  [子どもと共に成長する考え方を認める]  [夫婦で協力して子育てをする考え方を認める]  [子どもの将来への想いを認める] (1) (1) (1) (1) (5) (5) (4) (18) (2) (2) (14) ( )はコード数 図1 「母親の心の健康チェックシート」を用いた育児相談における相談者の働きかけの対応の変化 ︻ 母 親 の 気 持 ち を 受 け 止 め る ︼ ︻ 母 親 に 気 づ か せ る ︼ ︻ 母 親 を 安 心 さ せ る ︼ ︻ 母 親 の 考 え 方 を 認 め る ︼

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で考えを肯定し母親を認めていた。〈子育てに対する 考え方を認める〉では,それぞれ1件であったが, 今 の(育休中の子どもといる)時間を大切にしたいです よね(c-11)などの,「子どもへの関わり方を認める」, (子どもの褒められたところを)伸ばしてあげたい, そうですね(e-13)などの,「子どもの長所を伸ばした い気持ちを認める」があった。 2 ) 継続的な相談で変化していた相談者の働きかけの 対応  2回目,3回目の育児相談で変化があったものは,新 たにサブカテゴリーや下位サブカテゴリーとして認め られた。また,その後サブカテゴリーが消失または, 2回目で消失したが3回目にみられていた。ここでは, 新たなサブカテゴリーについて記述する。  【母親の気持ちを受け止める】では,子育てと妊娠 が重なり母親の状況が変化していることに着目して いた。〈妊娠による大変さを受けとめる〉のサブカテ ゴリーが加わり,2回目では, 外へ出るのはこの暑さ ですし,体調だって今(妊娠しているから)そんなに すぐれないしね(e-20)などの,「妊娠中の上の子の子 育ての大変さを受けとめる」,3回目では(子どもと 一緒に遊んであげたいけれど,妊娠初期で身体が辛 くて)体と気持ちが一緒に動いていかないんですね(e-5)などの「妊娠中の心身の大変さを受けとめる」があ った。また,3回目には〈家族を大切に思う気持ちを 受けとめる〉が加わり, いつまでも(家族で)明るく 楽しくって感じですね(f-12) などの,「家族を意識す る気持ちを受けとめる」, 家族やお子さんとの関わり の時間を大事にしていくのは基本ですもんね(c-3)な どの,「家族との時間を大切にする気持ちを受けとめ る」があった。さらに,周りからの評価に対するもの で,〈周囲の人からほめられた時の気持ちを受けとめ る〉が加わり, 子育てで大変なことも(他人からプラ スの言葉をかけられることで)一瞬でもよかったなと 自信になったり,嬉しい気持ちになったりしますもん ね(b-6) などの,「子どもがほめられることで子ども を意識する気持ちを受けとめる」,(子どもがほめら れると)嬉しい感じなんだよね(b-8)などの,「周囲の 人からほめられた嬉しい気持ちを受けとめる」があっ た。3回目には,〈子育てで感じている気持ちを受け とめる〉,では どんな人でも二人でいっぺんにきた ら待ってってなっちゃいますよ(f-7) などの「二人の 子育てをする大変さを受けとめる」や,〈子どもに対す る気持ちを受けとめる〉では, 本当1年の間にこんな に大きくなるんだね(g-19)などの,「子どもの成長を 喜ぶ気持ちを受けとめる」などの,子どもの成長に伴 って生じた気持ちを大切にしていた。  【母親に気づかせる】では,2回目では,〈子育てが今 のままでよいことに気づかせる〉では, 誰とでもにこ にこして遊ぶことができるのはいいところですね(d-18) などの,「子どもの個性をポジティブに受けとめ ることに気づかせる」や3回目には,(必要なものを) 自分で用意したりするってそういうお話をされていて, お利口だなって(a-1) などの,「子どもが成長してい ることを気づかせる」や, それも(小さなことにこだ わらなくなったのも)お母さんとしての成長だよね(g-19) などの,「子どもの成長と共に母親も成長したこ とに気づかせる」が加わっていた。さらに,3回目には, 数は少ないが〈自分の将来を考えられていることがよ いことであると気づかせる〉のサブカテゴリーが増え, (子どもたちにとって)人間的に尊敬できるような人 になれたらいいなっていう夢は素敵ですね(f-7)など の,「親としての姿を考えられていることに気づかせ る」や, いいですね,(子育てのことだけじゃなく)自 分のことも考えられるようになってきているというか (e-13)などの「自分の将来を考えられていることに気 づかせる」などの,子どもの成長に伴った気持ちや視 野の広がりについて気づかせていた。  【母親を安心させる】では,2・3回目では,消失する 下位サブカテゴリーがあったが,新たに加わるサブ カテゴリーはなかった。【母親の考え方を認める】では, 数は少ないが2回目では, お子さんと一緒に成長し ていこうと思うところが大きいんだね(d-18) などの, 「子どもと共に成長する考え方を認める」や, ご主人 と二人で育児していくことが普通のことっていう感じ なのですね(d-4) などの,「夫婦で協力して子育てを する考え方を認める」が加わり,3回目では,さらに 自 分の意思をもってお子さんには育っていってほしいの ですね(c-3) などの,「子どもの将来への思いを認め る」が加わっていた。 3 ) チェックシートにより導き出された相談者の働き かけの対応  チェックシートの質問は29項目あり,それぞれの 質問によって導き出されたサブカテゴリーがあった (図2)。一つの質問に対して4つから1つの働きかけの 対応があった。平均的には,1から2の働きかけの対応 のサブカテゴリーであるが3から4と働きかけの対応 が多くみられた質問は,チェックシート項目No8. 9.

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15. 16. 22であった。夫の育児について問うもの,育 児の不安や子どもとの絆に関するものであった。また, 1項目を除くすべての質問に対して母親の気持ちを受 け止める働きかけの対応がみられ,母親に気づかせた り,安心させたり,考え方を認める働きかけの対応が あった。特に導き出されたサブカテゴリーの多かった 5つの質問項目は,気づかせる,安心させる,考え方 を認めるなどの多様な働きかけの対応がみられた。ま た,チェックシートの質問以外の質問項目から導かれ たサブカテゴリーでは,将来のことを考えられている ことへの気づきの働きかけの対応があった。

Ⅳ.考   察

1.育児相談における相談者の働きかけの対応  相談者は,基本としては,子育てで感じている気持 ち,子どもに対する気持ち,子育てのサポートに対す る母親の気持ちを受け止めていた。子育てが今のまま で良いことに気づかせ,子どもが成長過程にあること を伝えて安心させ,子育てに対する考え方を認めてい た。つまりは,子育てによる心身の大変さ,時間に制 限が生じる大変さ,子どもの成長に伴う不安,子育て で感じたさみしさ,子どもが大切な存在だと思う,子 チェックシートの項目 サブカテゴリー a b c d e f g h i j k 1 子どもが生まれてきてそこにいること自体が喜びである → 2 子どもをきつく叱った後でもすぐなついてくれるときに安心した気持になる → 3 夫が育児に協力してくれることに感謝するとともに安心だ → 4 子どもに生きる勇気をもらっている → 5 夫が疲れて帰ってきても今日の子どもの様子を尋ねたり,話に耳を傾けてくれることに感謝している → 6 いくら叱っても,お母さん大好きと言ってくると安心する → 7 子どもを産めたことに喜びと誇りを感じる → 8 子どもが周囲の人にほめられたりしたときに子どもに誇りを感じる → 9 夫婦が協力して育児している姿を子どもに見せていることに誇りを感じる → 10 子どもそのものが希望である → 11 叱った後に,かわいそうなことをしたなと思いその後むしろ愛情を感じる → 12 夫を見て喜ぶ子ども,子どもを見て笑顔になる家族を見て幸せを感じる → 13 生まれてきてくれたことに「ありがとう」を子どもに言いたい → 14 育児のために睡眠不足の日々が続いている → 15 同じ年頃の子どもの様子を知って我が子が劣っているのではと不安に思う → 16 夫が子育てに協力的でない → 17 育児で身体の疲れが溜まっている → 18 子どもの性格に気がかりがある → 19 夫は子どもよりも自分の生活を中心に考えている → 20 子育てから解放されて息抜きできる時間が少なすぎる → 21 子どもの知的能力に気がかりがある → 22 夫が私の育児生活の苦労を理解してくれない → 23 子どもの世話で他のやりたいことができない → 24 子どもの顔つきや容姿容貌に気がかりがある → 25 夫の子育ては不完全で,かえって迷惑なことをする → 26 子どもの世話で自分の自由がきかないのがとても辛い → 27 子どもにどう接したらいいかわからない → 28 夜間,育児のために何度も起きなければならなくて困っている → 29 育児のことを考えると,漠然とした不安を覚える → そ の 他 育児幸福感を高める質問から導かれた関わり → 1回目①母親が頑張っていると思うところ ②自分のいいところ 2回目③自分が親に似ているところ ④子どもが自分に似ているところ ⑤子どものいいところ 3回目⑥自分が大切にしていること ⑦自分の将来の夢,その頃自分は何をしていたい,子どもはどうなっている カテゴリー サブカテゴリー 母親の気持ちを受けとめる a 子どもに対する気持ちを受けとめる b 子育てのサポートに対する気持ちを受けとめるc 家族を大切に思う気持ちを受けとめるd 子育てで感じている気持ちを受けとめる e 周囲の人からほめられた時の気持ちを受けとめる f 妊娠による大変さを受けとめる 母親に気づかせる g 子育てが今のままでよいことに気づかせるh 自分の将来を考えられていることがよいことであると気づかせる 母親を安心させる i 他者の反応を伝え安心させる j 子どもが成長過程にあることを伝え安心させる 母親の考え方を認める k 子育てに対する考え方を認める 図2 「母親の心の健康チェックシート」から導きだされた相談者の働きかけの対応

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どもがほめられて嬉しい,子どもの様子から安心した, 子どもを叱ることで葛藤する,夫や周囲の人の育児支 援に対する感謝,夫の子育てに対する思い,こうした 気持ちを表出させながら受け止めていた。さらに,子 どもがかわいいと思う気持ちが大切であること,夫婦 で協力する子育てが子どもへよい影響を与えているこ と,夫や周囲の人の育児支援が受けられていること, 子育てがよくできていること,子どもを理解できてい ることに気づかせる働きかけの対応があった。加えて, 子どもが成長していること,子どもの成長には個人差 があること,子育ての不安に答えること,子どもが母 親を大切に思っていること,他の夫も同様であること を伝え安心させる,子どもへの働きかけ方や子どもの 長所を伸ばしたい気持ちを認めていた。また,相談者 の働きかけの対応は,コード数に注目すると,母親 の気持ちを受け止めることが全体の6割を占めており, 働きかけの対応の中心にあると考えられた。  子育て支援の効果に関する報告には,母親が子育て 支援のための教室の参加によって,自由に不安なこ とや子育て情報について子育て仲間と共有すること で,不安を軽減することが示されている(Arimoto & Murashima, 2008, p.80)。また,子どもが友達と遊んだ, 子どもがいろいろな遊びを経験した,母親の友達が できた,母親のストレスの発散とリフレッシュができ た,地域の情報が得られたなどの(大住・野田・奥野 他,2011, pp.50-57)効果が得られている。しかし,チ ェックシートの活用による育児幸福感を高める育児相 談では異なった働きかけの対応があったと考えられる。 これらは,育児相談で単に母親の疑問に答えることに とどまらない支援が含まれている。それは,母親自身 が体験している心情が受け止められること,気づかさ れること,安心させられること,認められることによ り,母親の自身の変化の自覚を促していたと考えられ る。つまり,チェックシートを用いた相談では,気持 ちを引き出して共感する関わりであり,母親はチェッ クシートにより心理的な健康状態を確認し,項目に関 連した思いを語っていた。訪問前,初回訪問,2・3回 目の訪問により,育児幸福感の維持または上昇,育 児ストレスの低減の効果があり子育て期の母親に有 効な支援法であることが示唆されている(清水,2015, pp.136-143)。  2・3回目の育児相談では,新たなサブカテゴリー や下位サブカテゴリーが認められた。妊娠中の上の子 の子育ての大変さや心身の大変さ,家族を意識する気 持ちや家族との時間を大切にする気持ち,子どもがほ められることで子どもを意識する気持ちや周囲の人か らほめられた嬉しい気持ち,二人の子育てをする大変 さや子どもの成長を喜ぶ気持ちを受けとめていた。そ して,子どもの個性をポジティブに受けとめることや 子どもが成長していること,子どもの成長と共に母親 も成長したこと,親としての姿を考えられていること や自分の将来を考えられていることを気づかせていた。 さらに,子どもと共に成長する考え方や夫婦で協力し て子育てをする考え方,子どもの将来への思いを認め ていた。これらの相談者の働きかけの対応の変化には, 子どもの成長,母親の妊娠,出産,親としての経験に 加えて,相談者との関係性の深まりなどが影響してい ることが推察された。またコード数は3回目には1回 目の1.5倍,2回目の2倍に増えており,同じ相談者が 継続して関わることによって,相談者に対して心理的 に近づいたと感じることにより,母親が相談者に対し て,話しやすい関係となったことに加えて,母親の育 児期間が長くなることに従って経験する出来事が増え ていることが影響して働きかけの対応が増えたものと 推察された。 2.「母親の心の健康チェックシート」の育児相談への 活用について  家庭訪問による育児相談は,保健サービスの重要な 機会となっている。家庭という最も私的な場所で育児 相談をうけることは,育児環境や子どもの様子を一緒 にとらえ自然な姿を見ながら行える。こうした場で有 意義な育児相談を行うためにチェックシートを活用し て,育児幸福感や育児ストレスに関する質問から,あ らかじめ方向性をもった働きかけにより,有意義な対 応が可能となると考えられた。つまり,相談者は【母 親の気持ちを受け止める】【母親に気づかせる】【母親 を安心させる】【母親の考え方を認める】働きかけの対 応をしていた。チェックシートの項目に関して,一つ 一つ確認しながら進めていくことにより,ポジティブ サポートになっていたと考える。また,チェックシー トを活用しながら相談を進めることによって,相談者 が自然に行うことができていたと考える。  当初,数値による振り返りは,さらなる不安を強め るのではないかと懸念していたが,チェックシートに あるパーセンタイル値による変化について,相談者と 共に確認をして,自分のレベルを知ることは,他の人 との比較ということよりも,むしろ母親自身が客観的

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に見つめ直すきっかけとなっていた。さらに,一問に 対するやりとりだったので気持ちを伝えやすかったと の感想も聞かれていた。  育児評価が気になる,育児に自信のない母親が増 え,健診は合否判定の場となり,子どもの体重増加や 介入に偏りのある祖母との関係,人との関係の希薄さ や子どもとの働きかけの経験の少なさなどが現代家族 の育児様相から明らかにされている(永谷・笹木・村 田,2012, pp.95-97)。こうした特性をみてみると,育 児相談による個別の対応によって,育児幸福感を高め られるためにも母親自身が自らの子育てに気づくこと は重要であり,そのことを伝えられる関係を築くため には,気持ちを受け止めたり,安心させたり,考え方 を認めたりできる働きかけが大切になってくる。近年, ポピュレーションアプローチで重要視されているエン パワーメントを高める働きかけにおいても(野島・中 野,1966),楽しい育児,親としての自信,母親とし ての実感,明るい気持ち,これで良いと思えることな どが注目されている。下位サブカテゴリーにある様々 な働きかけの対応が相談時にみられており,支援とし て有意義なものになっており,チェックシートを用い て育児相談を進めていくことの支援の可能性が示され たものと考える。今回は共同研究者が相談者として働 きかけを行なうこととして,あらかじめ少人数による 十分な打ち合わせを行って取り組んだ。今後は,育児 相談を担当する現場の看護職者による研究が課題であ る。そのためにガイダンスを行うこと,共有するため のパンフレットの作製も課題になると考える。  さらに,母親に対する支援は,相談者自身の経験 知,すなわち 投げかけと反応 の感覚を経験の中で 培ったことが影響していると考えられる(湯川,2008, p.238)。今回は,相談者全体の働きかけの対応を抽出 しており,今後は,相談者別に経験知による違いが働 きかけの対応に影響していると考えることから分析を 深めていくことを課題としたい。

Ⅴ.結   論

 チェックシートを用いた育児相談で,相談者は【母 親の気持ちを受け止める】,【母親に気づかせる】,【母 親を安心させる】,【母親の考え方を認める】の4つの働 きかけの対応を行っていた。また,育児相談の働きか けの対応の変化には,新たなサブカテゴリーや下位サ ブカテゴリーが認められ,その変化には,子どもの成 長,母親の妊娠,出産,親としての経験,相談者との 関係性の深まりなどが影響していることが推察された。 またコード数は3回目には1回目の1.5倍,2回目の2倍 に増えており,同じ相談者が継続して関わることによ る関係性の深まりによる効果が,1年経過した3回目に 現れたものと考えられた。育児相談で,チェックシー トを用いることで,受け止める,安心させる,認める などの働きかけの対応に加えて,育児幸福感を高める ような様々なことに気づかせる働きかけの対応ができ ていた。  なお本研究は,平成23年度から27年度学術研究助 成基金(基盤研究C 23593310)研究課題名「母親の健 康チェックシートの開発と評価̶育児相談への活用と 縦断調査の試み̶」による助成を受けて行われた。 文 献

Arimoto, A., & Murashita, S. (2008). Utilization of parenting groups and consultation services as parenting support services by Japanese mothers of 18 month old children), Japan Journal of Nursing Science, 5(2), 73-82.

石川麻衣,小澤若菜,時折美希(2012).エンパワーメント を意図した乳児家庭全戸訪問における支援の効果 自 由回答式アンケートに記載された利用者の意見の質的 分析から.高知県立大学紀要(看護学部編),61, 13-24. 永谷智恵,笹木葉子,村田亜紀子(2012).母子保健相談 員からみた現代家族の育児様相.北海道文教大学研究 紀要,36, 93-102. 野島佐由美,中野綾美(1966).家族エンパワーメントを もたらす看護実践.東京:ヘルス出版. 大住裕子,野田茉里菜,奥野未奈,佐々木睦子,片岡理 恵,内藤直子(2011).0∼3歳の子を持つ母親の子育 て支援への満足感と求める支援.香川母性衛生学会誌, 11(1), 50-57. 小澤若菜,石川麻衣,川上理子,佐東美緒,中野綾美,時 長美希(2012).高知市との連携活動強化事業(第2報)  乳児家庭全戸訪問から把握した母子の健康と子育て の実態.高知県立大学紀要(看護学部編),61, 25-36. 清水嘉子(2013).母親の育児幸福感を高めるための取り 組みへの発展として.保健師ジャーナル,69(3), 224-230. 清水嘉子(2014).乳幼児を育児している「母親の心の健康 チェックシート」.母性衛生,54(4), 580-587. 清水嘉子(2015).「母親の心理健康チェックシート」を用 いた育児相談による働きかけの評価.小児保健研究,

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74(1), 136-143. 清水嘉子,関水しのぶ(2010a).母親の育児ストレス尺度̶ 短縮版作成と妥当性の検討̶.子どもの虐待とネグレ クト,12(2), 261-270. 清水嘉子,関水しのぶ,遠藤俊子(2010b).母親の育 児幸福感尺度の短縮版尺度開発.日本助産学会誌, 24(2), 261-270. 清水嘉子,関水しのぶ,遠藤俊子,宮澤美知留,赤羽洋子 (2011).母親の育児幸福感を高めるコースプログラム の実施と評価.日本助産学会誌,25(2), 215-224. 湯川恵利子(2008).経験豊かな市町村新生児訪問実施者 の経験知の検討.神奈川県立保健福祉大学実践教育セ ンター看護教育研究集録,33, 233-240.

参照

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