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精神科病棟に入院した男性への行動的退院支援

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-16 152

-精神科病棟に入院した男性への行動的退院支援

○兒玉 和志、吉江 康二 上林記念病院 心理療法科 【目的】 希死念慮を訴え、精神科病棟に入院した40代男性に 対して行動分析学を用いた退院支援を行なった。な お、今回の発表にあたり対象者から書面による同意が 得られている。また、筆者の所属する病院の倫理委員 会 に て 症 例 報 告 の 承 諾 が 得 ら れ て い る( 承 認 番 号 18003)。 【方法】 1 .対象者 40代男性(以下 A )。入院後の診断名はうつ病で あった。同胞なく、近親者に精神疾患を有するものは いない。成育歴上における交友関係や学業上での問題 はなく、専門学校卒業後には運送会社に就職し現在ま で勤続している。成人後には結婚し 2 人の子どもをも うけている。一方で A の幼少期より父親には飲酒関連 のトラブルや多額の借金があり、これらのトラブルの 処理を A が行なうことが多々あった。 2 .受診までの経緯 X -2年頃より父親の認知症の症状(夜間徘徊や排便 の失敗)が顕著となった。 A は以前より父親の持病へ の介護も行っていたため、一層介護に割く時間が増加 するようになった。また同時期より職場の勤務体系が 3 交代制に代わり夜間勤務の日があるため、睡眠リズ ムが不規則になった。加えて、この頃から上司や友人 と食事に行くなど楽しみとしていた活動の機会が減少 していた。 X 年には昇進することになり残業時間が増 加していた。さらに家族関係の悪化もあり、家族間で のトラブルがあった数日後より A が希死念慮を訴える ことがあったため、家族と共に当院を受診し任意入院 となった。同時期よりカウンセリング開始となってい る。 3 .アセスメントと介入方針 入院までの経過を整理したところ、入院前の活動の 多くが嫌子消失の強化(例:父親の便の片付け)や嫌 子出現阻止の強化(例:父親が夜間徘徊しないように 同じ部屋で寝る)によって維持されていたことが推測 された。また、「一人っ子で長男」であることや、「今 まで家族の前では強い父親として振る舞っていた」等 がこれらの入院前の活動の嫌子の価値を高める確立操 作として機能していたことが考えられた。一方で対人 交流や趣味などの好子出現の強化で維持される活動が 少ないことが考えられた。入院した当初、 A は「何も やる気になれない。(家族との関係や父親の介護に関 する)不安なことばかり思い浮かぶし、だるいから横 になって休んでいる」と語ることがあった。具体的に は病室( 6 人部屋)のベッド上でTVを観て過ごすこと が多く、入院前と同様に嫌子消失の強化や嫌子出現阻 止の強化と考えられる活動が多い事が考えられた。 以上から、退院に向けて好子出現の強化により維持 される活動や行動内在的強化随伴性で維持される活動 の増加を目標とした。 4 .介入内容 A と 上 記 の 問 題 点 と 介 入 方 針 を 共 有 し た と こ ろ 「元々体を動かすことが好きなので筋肉トレーニング をするのがいい」と語ることがあり、病棟内での“好 子出現の強化で維持されそうな活動/行動内在的強化 随伴性で維持される活動( A には達成感を得られそう な活動と説明)”としてスクワットや病棟内のウォー キングを取り上げた。この際「やる気になるのを待つ のではなく、意図的に活動していくこと」、「達成感が 得られなかったとしても、チャレンジしたことが重 要」であることを伝えた。活動記録については記録用 紙を渡し自己記録を依頼した。以降のカウンセリング では記録をもとに、意図的に取り組めたことについて ポジティブなフィードバックを行なったり、退院後の 生活や復職に向けてどのような活動が達成感を得られ やすいかについて話し合った。 【結果】 介入後の活動回数を累積記録のグラフとして表す (Fig.1介入後の累積活動回数)。入院中の活動回数に ついては、介入案を提案して以降ほとんど毎日筋肉ト レーニングを行うようになり、 A 自身も「横になって いるより動いていた方が嫌なことを考えなくて済む。 それに運動してスッキリできる」と語ることがあっ た。また、病棟スタッフからも A の変化を聞くことが 増えるようになった。さらに介入前の外泊中の過ごし 方については、自宅内で横になって過ごしていたこと が多く語られていたが、介入以降の外泊では息子と銭 湯に行ったことや、飼い犬と散歩に行けたこと、散髪 に行ったことなどが徐々に報告されるようになった。 加えて A より「自宅に居るだけでも不安でいっぱいに なるのではないかと心配だったが、意図的に何か活動 をすることで気分転換が出来ることがわかったので退 院しても大丈夫そう」と語ることもあり、介入開始か ら約 3 か月後(入院から約 4 ヵ月後)に退院となった。 退院後は父親の病状の悪化に伴い活動性が低下するこ

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-16 153 -とはあるものの、しばらくすると自発的に散歩や筋肉 トレーニングなど好子出現の強化や行動内在的強化で 維持されていると思われる活動に取り組んでいる。ま た A 自身も「入院前と違って、とりあえず何かに取り 組むことで気分的には良い状態」と語ることがあっ た。現在は復職に向け動き始めておりフォローアップ 中である。 【考察】 本ケースではうつ病と診断された40代男性に対して 行動分析学に基づいた退院支援を行った。介入では成 育歴や現状のアセスメント踏まえ問題点を整理し、 “好子出現の強化や行動内在的強化随伴性で維持され る活動の増加”を取り上げ介入を実施した。介入後は 入院期間中だけではなく退院後の環境下でも活動性が 増加/維持出来ていることや、父親の入院により活動 性が低下した後も自発的に活動を再開できていること から今回の介入に効果があったことが考えられる。た だし、今回の介入ではベースライン期の設定が出来て いない(介入前に記録を依頼したが「どうせ何もしな いから」と拒否された)ため介入効果の立証に課題が 残る。今後はより採取しやすく客観性が高いデータを 介入の指標として用いる必要性が考えられる。

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