日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-41 202
-インターネットを用いた認知再構成プログラムによる
大学生のレジリエンスと心理的ウェルビーイングへの効果検討
○八幡 朋奈1)、神部 早紀5)、岸田 広平2,3)、石川 信一4)、坂野 雄二1) 1 )北海道医療大学心理科学研究科、 2 )同志社大学大学院心理学研究科、 3 )日本学術振興会特別研究員、 4 )同志社大 学心理学部、 5 )株式会社りそな銀行 【問題と目的】 日本では大学生を対象とした抑うつ予防の実践研究 が多く行なわれている(及川・坂本,2007;白石, 2005)。しかし既に抑うつ症状を呈していても,多く の人が援助を求めないという問題が指摘されている (梅垣・木村,2012)。この問題を解決するためには, より身近で手軽な心理教育やセルフヘルプの手段が必 要となる。 そ こ で 近 年, イ ン タ ー ネ ッ ト 認 知 行 動 療 法 (I n t e r n e t - b a s e d c o m p u t e r i z e d c o g n i t i v e behavioral therapy;以下ICBT)が注目されている。 対面形式の介入とは異なり,ICBTでは対象者がスマー トフォンやPCを使用して手軽に介入を受けることがで きる。 また一般的な人すべてが対象の予防介入では,抑う つ尺度の得点からは介入の有効性が検出されない可能 性があると言われている(石川・戸ヶ崎・佐藤・佐 藤,2006)。さらにSeligman(2002)は,予防介入を試 みる上では本人の弱みとなる部分を治すのではなく, 新たな強みを獲得することが重要であると述べてい る。 人間の精神的な回復力を表す概念としてレジリエン スが挙げられる(Steinhardt & Dolbier, 2008)。平 野(2010)はレジリエンスを後天的に高めうる要因を 明らかにするため,大学生を対象に調査を行い,レジ リエンスを資質的要因と獲得的要因の 2 要因に分類し た。資質的要因は生まれ持った気質との関連が強いの に対し,獲得的要因は後天的に身につけやすい要因で あるとされている。さらに,人のポジティブな心理的 機能や精神的健康を示す概念に心理的ウェルビーイン グ(Psychological Well-Being;以下PWB)がある (Ryff, 1989)。このPWBは将来的な抑うつを予測することが示されている(Wood & Joseph, 2009)。 しかし,抑うつを低減させるための研究と比較する と,ポジティブな心理的機能の向上を試みる実践研究 は少ない。そこで本研究では,大学生の精神的健康の 促進を目的とした心理教育・認知再構成プログラムを インターネット上で作成し,そのレジリエンスと心理 的ウェルビーイングへの促進・維持効果を検討した。 【方法】 研究協力者 本研究の参加者は,京都府内の私立大学に通う大学 生113名(男性38名,女性75名,年齢20.44±2.17歳)。 61名を実験群に,52名を統制群に無作為に割り付け た。 調査材料 ( 1 )二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010) 資質的要因は「楽観性」「統御力」「社交性」「行動力」 の 4 因子からなる12項目,獲得的要因は「問題解決志 向」「自己理解」「他者心理の理解」の 3 因子からなる 9 項目。 1 「まったくあてはまらない」〜 5 「とても あてはまる」の 5 件法。
( 2 )Psychological Well-Being Scale 短縮版(岩野, 2016) 「人格的成長」「人生における目的」「自律性」「自己 受容」「環境制御力」「積極的他者関係」の 6 因子から なる全24項目。 1 「まったくあてはまらない」〜 5 「とてもあてはまる」の 5 件法。 手続き アンケートサイト(Creative Survey)を使用して 全 9 回のプログラムを作成した。第 1 〜 7 回は 7 日連 続で行い,その14日後に第 8 〜 9 回を 2 日間実施し た。尺度測定は両群ともに第 1 ・ 7 ・ 9 回で行った。 ICBTプログラムは,スマートフォンやPCを使用して説 明を読み,クイズに正解しながら進む形式であった。 第 2 〜 3 回 で は 認 知 と 気 持 ち に つ い て 心 理 教 育 を 行った。第 4 〜 8 回では,認知再構成法(コラム表) を複数の事例に沿って習得することを目標とした。一 方統制群には,その日起こった出来事と感想を日記の ように記入する課題を課した。なお本研究は同志社大 学心理学部の倫理審査を受けた。 統計的解析 獲得的要因得点,資質的要因得点, 2 要因の合計得 点(以下総合的レジリエンス),PWB得点のそれぞれに ついて,時期(Pre・Post・Follow up)×群(実験群・ 統制群)の 2 要因の分散分析を行った。また,レジリ エンスとPWBそれぞれに含まれる個々の下位因子につ いても同様に 2 要因の分散分析を行った。所定の全 9 回のプログラムを完了した者だけを対象にしたper protocol解析と, 1 日目には参加したものの参加回数
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-41 203 -が 9 回に満たない者のデータも含めたITT解析の両方 を行い,両者の結果を比較した。per protocol解析の 対象者は66名(実験群41名;統制群25名),ITT解析の 対象者は97名(実験群57名;統制群40名)であった。 【結果】 Per protocol解析の結果 獲得的要因では群と時期それぞれの主効果が有意で あったが(順にF (1,64) = 4.33, p <.05;F (1,64) =3.63, p <.05),時期×群の交互作用は有意ではな かった。実験群の得点は統制群の得点よりも有意に高 かった(p <.05)。 資質的要因では時期×群の交互作用が有意であった (F (1,64) = 4.71, p <.05)。また実験群でのみ, PostとFollow upの得点がそれぞれPreの得点より有意 に向上した(順にp <.01;p <.001)。総合的レジリエ ンスでは時期の主効果,時期×群の交互作用がともに 有 意 で あ っ た( 順 にF (1,64) = 4.85, p <.01;F (1,64) = 3.45, p <.05)。また実験群においてのみ PostとFollow upの得点がPreの得点より有意に向上し た(順にp <.01;p <.001)。 PWBでは時期の主効果および,時期×群の交互作用 が有意であった。実験群では,PostとFollow upの得 点がどちらもPreの得点より有意に向上した(ともにp <.001)。 またレジリエンスとPWBについて,各下位因子ごと に 2 要因の分散分析を行った結果,資質的要因に含ま れる楽観性と,獲得的要因に含まれる自己理解,PWB に含まれる自己受容については群×時期の交互作用が 有 意 で あ っ た( 順 にF (1,64) = 4.81,p <.05;F (1,64) = 3.09,p <.05;F (1,64) = 5.71,p <.01)。 いずれも実験群においてのみ,PreからPost,Preから Follow upにかけて得点が有意に向上した。 Per protocol解析とITT解析の結果比較 Per protocol解析で有意だった獲得的要因の群の主 効果および,総合的レジリエンスの群×時期の交互作 用が,ITT解析ではどちらも有意傾向であった(順にF (1,64) = 3.33,p <.10;F (1,64) = 2.68,p <.10)。 ただしITT解析においても,実験群の総合的レジリエ ンス得点はPreからPost,PreからFollow upにかけて 有意に向上した(ともに p <.01)。 各効果指標の変化の関連 per protocol解析の対象者の獲得的要因について は,資質的要因・PWBとの間に正の相関が見られた(順 にr = .54, p <.001;r = .41, p <.01)。資質的要因 とPWB,また総合的レジリエンスとPWBの間にも正の相 関が見られた(順にr = .50,p <.01;r = .52, p <.001)。すなわち,獲得的要因・資質的要因・総合 的レジリエンスのそれぞれの変化とPWBの変化にはか なりの相関があることが示された。 【考察】 まず総合的レジリエンスへの有意な効果が認められ たことから,本プログラムは大学生の精神的な傷つき やストレスからの回復力を向上させるのに効果的で あったといえる。ただし要因ごとの結果を見ると,獲 得的要因に対しては有意な促進効果がなかった一方で 資質的要因の促進には有意な効果があった。この結果 は,資質的要因は後天的に身につけにくく,獲得的要 因の得点が向上するという当初の仮説や平野(2010) の見解とは異なるものとなった。つまりレジリエンス を資質的要因と獲得的要因に分類する場合,後天的に 獲得しやすいか否かだけで両者の違いを説明するのは 妥当ではないことが示唆された。少なくとも今回の因 子別の分析結果から,資質的要因に含まれる楽観性, つまり物事の進み方に対してポジティブな見通しを持 つ能力を後天的に獲得するのは可能であることが明ら かとなった。 さらに本プログラムはPWBの促進にも有効であり, その維持効果も認められた。この結果は,大学生に面 接形式で心理教育・認知行動的介入を行なった岩野 (2016)の研究と同様の結果であった。本研究は,対 面ではなくインターネット上で行なう認知再構成プロ グラムによっても一般の大学生の精神的健康を促進で きるという新たな可能性を見出した。 本研究の課題として,まず統制群の課題内容の改善 が挙げられる。本研究ではデバイスの操作時間を統制 するため,統制群にも日記記入の課題を課した。しか し統制群の課題実施率は53.85%と低かった上,ITT解 析の結果,レジリエンスに対する効果を実際よりも高 く見積もっていることが明らかとなった。毎日同じ課 題で参加者のモチベーションが維持できなかった可能 性があるため,実験群のみならず統制群についても課 題内容の十分な工夫が必要である。また今後,レジリ エンスの持つストレス緩衝効果やコーピングとの関係 性,PWBが促進されるメカニズムについてもより詳細 に明らかにし,それらの知見に沿ったプログラムを作 成する必要がある。