1.研究背景・目的 近年,都市における熱環境の悪化は深刻な社会問題とな っている。その中でも,都市中心部の気温が郊外に比べて 島状に高くなるヒートアイランド現象は,熱中症の発生増 加など,都市住民に甚大な健康被害をもたらしており,都 市に特有の環境問題として関心を集めている。ヒートアイ ランド現象は大都市の環境問題と捉えられがちであるが, 小規模な都市においても顕在化しつつあることが指摘され ている(1)。大都市と小都市では都市の構造,市街地及びそ の周辺の土地利用分布・土地被覆分布が異なることから, 小都市におけるヒートアイランド対策は,大都市における 対策とは異なるものになると考えられる。小都市における ヒートアイランド現象の実態を把握した上で,小都市の構 造や土地利用・土地被覆分布の特性を踏まえつつ都市計画 的観点からヒートアイランド対策を講じていく必要がある といえる。 これまで,ヒートアイランド現象を対象とした研究は数 多くあり,ヒートアイランド現象の実態把握を目的とした 研究1),2),数値シミュレーションを用いた予測に主眼をおい た研究3),4),緑地や海陸風によるヒートアイランド緩和効果 を分析した研究5),6)などがある。これらのうち,ヒートアイ ランド現象の実態把握を目的とした研究では,現地での気 候観測結果を元に議論を構築している。しかし,現地気候 調査によりヒートアイランドの発生状況を考察するために は,多点で観測を行う必要があるため多大な労力を必要と する。より広域な範囲を対象に,比較的容易にヒートアイ ランドの発生状況を把握できる手法の構築が必要とされて いるといえる。 広域な範囲の環境把握に適した手法としては,リモート センシングデータの活用が挙げられる。ヒートアイランド 問題を扱った研究においても,佐川ら7)や田中ら8),入江ら 9)による研究においてリモートセンシングデータを活用し た分析が報告されている。しかし,リモートセンシングに より取得できる情報は,土地被覆や表面温度に関係するも のであるため,リモートセンシングデータを用いて直接的 に都市域及びその周辺の気温分布を考察したものはこれま でみられない。 一方で,樹木の樹冠表面温度と樹冠周辺の気温には強い 関係性があることが指摘されており10),リモートセンシン グにより緑被の表面温度分布を把握することで,都市の気 候分布を把握できる可能性がある。そこで本研究では,航 空機MSS データを用いて樹冠の表面温度を分析すること により,小都市のヒートアイランド現象を把握することを 目的とした。 2.研究対象地 本研究では,富山県砺波平野に位置する砺波市街地とそ の周辺を対象とした。砺波平野は,富山県西部の庄川扇状 地の扇央部に位置している。砺波平野では,水田が平野一 面に広がる中に,屋敷林に囲まれた農家住宅が散在してお り,散村景観と呼ばれる美しい伝統的田園景観を形成して 樹冠の表面温度に着目した小都市におけるヒートアイランド現象の分析 - 航空機熱赤外画像を用いた砺波市街地周辺の気温分布図の作成-
Study on the Urban Heat Island phenomenon in small city using the surface temperature of the homestead woodland - Creation of air temperature distribution map around the urbanized area of Tonami City using airborne thermal infrared data-
村上 暁信*・梅干野 晁** Akinobu Murakami*, Akira Hoyano** This study aimed to examine the thermal condition in and around a small city using airborne MSS data. Observation
by airborne multi-spectral scanner (MSS) was performed for the Tonami district, Toyama, Japan. The highest temperatures of treetop of homestead woodland in Tonami were considered to be equal to air temperature from the viewpoint of the heat balance, so were extracted and plotted in the map. The result indicated that the temperatures of treetop in urban district were 0.5 to 1.0 degrees higher than them of surrounding areas, and the influences of urban heat island phenomenon were observed in the range of 1km from the boundary in leeward.
Keywords: Urban Heat Island phenomenon, airborne thermal infrared data, surface temperature
ヒートアイランド,航空機熱赤外画像,表面温度
*正会員 筑波大学大学院システム情報工学研究科 (University of Tsukuba) **正会員 東京工業大学大学院総合理工学研究科 (Tokyo Institute of Technology)
図-1 砺波散居景観
左 :夢の 平(砺 波平野 の東) からみ た砺波 平野 右 :南西 側から みた屋 敷林
116.
いる。農家住宅の屋敷林は,春に吹く南からのフェーン風 と冬季の吹雪を防ぐために,西面と南面に高木を有するも のが多い。構成樹木としてはスギとヒノキを主体としてお り,樹高が20m を超える大きいものもある。市街地外にあ る農家住宅の多くは散在しているため,四方を水田に囲ま れている。また,同様な屋敷林を有する住宅は市街地内部 にも存在している。 砺波市は,砺波平野の中央部に位置し,東西14.3km,南 北16.2km の大きさであり,面積は約 127km2である。この うち,約51km2を水田が占めている。北は高岡市,南は南 砺市,東は富山市や射水市,西は小矢部市に接しており, 庄川によって形成された勾配の緩やかな扇状地と,牛岳か ら北に連なる庄東山地や芹谷野段丘から成り立っている。 人口は平成20 年 3 月 31 日現在,49,394 人である。 3.樹冠表面の熱収支 解析に先立ち,樹木樹冠部分の表面温度と樹冠周辺の気 温の関係について検討する。樹木の樹冠表面(葉面)の温 度は,次式に従う。 樹冠を構成している葉は非常に薄く,熱容量も小さいた め葉の断面方向の温度分布はないものと考えることができ る。従って左辺は0 になる。 夜間においては,受熱日射量は無視でき,夜間は光合成 が行われないため潜熱量も無視できる。そのため,夜間の 樹冠表面温度は,大気放射量,周辺地物からの長波長放射 量,樹冠表面からの長波長放射量,顕熱輸送量によって決 定される。 砺波平野の屋敷林に注目した場合には,屋敷林樹木の樹 高は10m を超えるものが多い一方で,農家住宅は主に二階 建て以下であり,樹木よりも建物の方が低い。市街地の建 築物もほとんどのものが三階建て以下(高さ10m 以下)で ある。従って,樹高10m 以上の屋敷林樹木の上部において は,周辺地物からの長波長放射の影響を無視することがで きる。従って,砺波平野の屋敷林樹木の上部における熱収 支式は次式のように表せる。 空気が乾燥した夜間には一般に, が成り立つ。そのため,顕熱輸送量H は正となる。また H は次式のように表すことができる。 よって,Ta > Ts となり Ts の最高値は周辺の気温となる。 対流熱伝達率αcは風速の関数であり,風速が増すほど顕熱 輸送量は大きくなる。さらに,葉面の熱容量は極めて小さ いため,弱い風であってもすぐに気温相当になる。特に, 樹冠表面において最も風速が強くなると予想される樹冠天 頂部付近では,その表面温度は周辺の気温に非常に近い値 となっていると考えられる。このとき,樹冠天頂部付近の 表面温度と周辺の気温とのわずかな差は,風速によって決 まるといえる。 また一般的に,市街地の内部では,複雑な土地被覆面の 影響を受けて特有の気候が生じている。ヒートアイランド 現象は,日射によって熱せられた人工被覆面との顕熱交換 や,人工排熱などにより温度が上昇した空気が都市キャノ ピー層に滞る事で生じる。 図-2 屋敷林樹冠表面の熱収支 λ:熱伝導率(W/mK),T:温度(K),x:一次元断面方向 の距離(m),asu:日射反射率,IDR:直達日射量(W/m2), φ:形態係数(sky: 天空率),ISR:天空日射量(W/m2), IRR:周辺地物からの反射日射量(W/m2),L:大気放射量 (W/m2),ε:長波長放射率,σ:ステファンボルツマン定数 (w/m2K4),下付s:表面,下付a:空気,H:顕熱輸送量(W/ m2),LE:蒸発潜熱量(W/m2) LE H T T L I I I a x T s s n i i i s RR SR sky DR su + + − + + + + = ∂ ∂ −
∑
= 4 4 1 ) ( σ ε σ φ ε ε φ λ 受 熱日射 量 大 気放射 量 周 辺 地 物 か ら の 長 波 長 放射量 顕 熱輸送 量 樹 冠 表 面 か ら の 長 波 長 放射量 蒸 発潜熱 量0
4+
=
−
T
H
L
ε
sσ
s 4 s sT
L
<
ε
σ
対流熱伝達率:
c s a c
T
T
H
=
α
(
−
)
α
都市キャノピー層 顕熱流 人工排熱 都市キャノピー層 顕熱流 人工排熱 図-3 都市気候の概念図 主風向キャノピー層に接する領域を通過する風は図-3の様に, 市街地において温度が上昇した空気を風下に運び,風下の 気候に影響を与えていると考えられる。すなわち,都市キ ャノピーに接する高度における気温の水平分布を把握すれ ば,市街地で発生した高温の大気が流れていく様子を観測 する事ができる。砺波平野の場合,市街地の建築物も概ね 高さ10m 未満であるため,都市キャノピーの高度は 10m 強程度であるといえる。加えて屋敷林が多く存在し,その 構成樹木はキャノピーに丁度接する高さを有している。ま た,キャノピー層に接する高度における風速は一様と考え ることができるため,屋敷林天頂部の表面温度と周辺気温 との差は一様であり,かつ表面温度の値は気温に非常に近 い値である。そこで本研究では,砺波平野に存在する屋敷 林樹木の樹冠天頂部付近における表面温度の空間分布図を, 表面温度観測時の気温分布図として扱い,ヒートアイラン ドの実態と市街地風下側への影響について分析を行う。 4.解析に使用した航空機 MSS データ 砺波平野に優占する水田は,潅水期には水面,夏季には 稲穂,冬季には雪に覆われ,四季を通じて土地被覆が大き く変化する。従って,解析対象時期によってヒートアイラ ンドの実態も異なると考えられる。本研究では,ヒートア イランド現象が最も顕著に現れるとされている冬季に観測 を行い,得られたデータを解析に用いた。また,屋敷林の 抽出に際しては夏季に取得されたリモートセンシングデー タ(観測日時:2002 年 7 月 25 日 13:00,観測高度:350m, 観測機材,観測波長帯域は冬季観測に同じ。)を使用した。 本研究で使用したリモートセンシングデータの概要を図- 4,表-1~3に示す。 観測コースは2コースを設定した。コース1は砺波平野 全体を含むように設定した。その際,水田及び市街地を判 別できるように(地上分解能8.0m),観測高度は 6000m に 設定した。コース2では典型的な散居が残る水田地域と砺 波市街地を通るコースを設定し,建築物の形状や樹木の樹 冠の様子も捉えられるように(地上分解能0.5m),観測高 度を350m に設定した。各コースとも,快晴日で観測コー スに雲のない日に,正午と日没後の二時刻に観測を行った。 観測波長帯域は,地表面の各種土地被覆面からの放射を 観測するために熱赤外域(10,960~12,670nm)およびその 他の土地被覆面情報を得るために可視域・近赤外域・中間 赤外域の波長帯域を設定した。 観測には,固定翼航空機搭載用のマルチスペクトラルス キャナ(AZM センサー)を用いた。本機の瞬時視野角は 1.25mrad,走査角度は 80 度である。 観測時には機体のヨーイングとピッチングの姿勢制御が リアルタイムで行われ,ローリングのデータ補正と併せて 高い位置精度のデータが取得されたが,それでも既存の地 理データとは位置ずれが生じていた。そのため各画像につ いて,全体を小領域(Row:200pixel×Colum: 400pixel)に分 割し,高高度の画像に対しては数値地図25000 を,低高度 の画像に対しては数値地図2500 を用いて GCP を取得し, アフィン変換による幾何補正を行なった。この際,RMSE (Root Mean Square Error)を 1.0 画素以内に収めた。 航空機MSS の熱赤外域データは,被覆面からの放射輝 度をDN(Digital Number)値として取得している。しかし, DN 値のままでは表面温度の分析ができないため,航空機 MSSの熱赤外域データのDN値を表面温度に変換する必要 がある。冬季においては大気が乾燥して水蒸気による吸収 や散乱が少ないため,本研究においては観測時に機上で記 録されたデータを用いて熱赤外域データのDN 値を黒体温 度に変換し,解析に用いた。 5.屋敷林の樹冠天頂部の表面温度分析 i. 砺波平野の屋敷林 舘11)は砺波地域の典型的な散村地域である鹿島地区の全 散居を対象にして屋敷林の方位,樹種,樹幹幅,本数を調 査し,近年は樹幹幅10cm 以下の樹木からなる庭園木中心 の屋敷林が増加傾向にあると結論付けている。 舘の研究を 踏まえて,典型的な砺波散居は,屋敷林の形態と構成樹種 コース1 コース2 砺波 高岡 表-3 観測時刻前後の気象状況 (砺波地域気象観測所) 観測日 2006/2/22 2006/2/22 2006/2/21 2006/2/21 観測時刻 12:40 14:00 19:10 17:40 観測高度 6000m 350m 6000m 350m 地上分解能 8.0m 0.5m 8.0m 0.5m 気温 12.4℃ 14.2℃ 3.5℃ 6.6℃ 風速 2.0m/s 1.0m/s 2.0m/s 2.0m/s 風向 NE SW S ENE バンド 中心波長(nm) 冬季観測波長帯域 1 2 12 3 4 5 6 7 8 9 10 11 459~489 551~579 586~614 655~679 825~871 976~1114 1026~1166 1229~1375 1430~1570 1583~1695 6675~11815 10105~13525 バンド 中心波長(nm) 冬季観測波長帯域 1 2 12 3 4 5 6 7 8 9 10 11 459~489 551~579 586~614 655~679 825~871 976~1114 1026~1166 1229~1375 1430~1570 1583~1695 6675~11815 10105~13525 図-4 リモートセンシング観測コース 表-1 観測波長 帯域 表-2 観測概要 時間 降水量(mm) 気温 (℃) 風速 (m/s) 風向 日照時間(分) 17:00 0 7.7 2 東北東 10 17:10 0 7.5 3 東北東 10 17:20 0 7.2 3 東北東 6 17:30 0 7.0 3 東北東 0 17:40 0 6.6 2 東北東 0 17:50 0 6.5 2 北東 0 18:00 0 6.3 3 北東 0
図-7 解析対象屋敷林の位置 (△が屋敷林の位置) 北 陸 自 動 車 道 国道 156号線 JR 城端線 砺 波 駅 リモートセンシング 観測コース 0 1 2km N 北 陸 自 動 車 道 国道 156号線 JR 城端線 砺 波 駅 リモートセンシング 観測コース 0 1 2km N に着目すると杉中心型Ⅰ(密),杉中心型Ⅱ(低層部疎), 杉中心型Ⅲ(低中層部疎),選定樹導入型,多種植栽型,樹 木少量・低樹高型の計6 タイプに分けられることが梅干野 ら12)により示されている(図-5)。樹木少量・低樹高型の 屋敷林では前章で検討した樹冠表面温度と気温の相関は得 られない。また,杉中心型III は樹林が疎なため,リモート センシングで観測した場合には樹冠表面温度に樹冠下土地 被覆面の表面温度の影響が強く表れる可能性がある。そこ で,本研究の解析対象屋敷林は,6 タイプの中でも,杉中 心型Ⅰ(密),杉中心型Ⅱ(低層部疎),選定樹導入型,多 種植栽型に限定し,さらに十分な樹高を有し,周辺地物か らの長波長放射が無視できるような屋敷林のみを選定する こととした。 ii. 屋敷林樹冠の抽出 冬季昼間に低高度で撮影されたリモートセンシングデー タを用いて,植生指数NDVI(2)を算出した。植生指数NDVI は次式で表される。 NDVI=(IR-R)/ (IR+R) 本研究では,赤波長(R)として Band4(中心波長 667nm) の値と,近赤外波長(IR)として Band5(中心波長 848nm) を使用した。 得られたNDVI の算出結果の図と,冬季昼間の可視域画 像(低高度),夏季昼間の可視域画像(低高度)を比較し, 緑被の閾値を決定した上で,観測コース内の緑被分布図を 作成した。 得られた緑被分布図と,冬季・夏季昼間の可視域画像(低 高度)を用いて,目視判読により散居及び屋敷林を抽出し た(図-6)。抽出に際しては,観測コース全域に亘って抽 出を行い,緑被分布図と可視画像上から屋敷林がほとんど ないか,あるいは樹高が低いと考えられるものについては 排除した。その結果,コース内で63 箇所の屋敷林が抽出さ れた。 63 箇所の屋敷林について,2008 年 1 月 15 日~22 日にか けて現地調査を行い,各屋敷林について,構成樹木の樹高, 屋敷林の疎密を記録し,四方位から写真を撮影した。屋敷 林の疎密については,林が疎な場合は表面温度を分析する 際,樹冠下被覆面の表面温度の影響を大きく受けるため, 現地で確認を行った。 現地調査の結果を踏まえて,構成樹木の樹高が10m 未満 の屋敷林,十分に密な屋敷林となっていないもの,周辺に 樹高以上の建築物等があるもの,を除いた結果,53 箇所の 屋敷林(図-7)が残り,これらについて分析を行うこと とした。 iii. 樹冠天頂部の表面温度抽出 53 箇所の屋敷林について,緑被部分の表面温度画像を作 成した。さらに,冬季昼間の可視域画像と現地調査時に撮 影した屋敷林の四方からの写真とを比較し,構成樹木の樹 高が10m 以上のものの樹冠天頂部の位置を特定した。尚, 今回分析対象とした屋敷林の中には樹高が 20m 以上のも のも存在したが,気温の鉛直分布を考慮し,樹高が10m~ 15m の樹木についてのみ,樹冠天頂部の位置を抽出した。 図-8で,左がNDVI を用いて抽出した屋敷林樹冠部分 の表面温度分布図である。右上が現地で撮影した写真,右 下が左図内部に示した① ~③の矢印上の表面温度 変化である。 図-8で,樹冠天頂部 の表面温度は,樹冠の他 の部位(側面)における 表面温度よりも高い値か 同等の値を示している。 この傾向は,53 箇所の全 ての屋敷林の樹木でみら れ,樹冠天頂部の表面温 度がその周辺の樹冠側面 部の表面温度よりも低く なっているものはなかっ た。 3章での検討から,樹 冠天頂部の表面温度は近 傍の気温とみなすことが できる。そこで,各屋敷 林について,樹冠天頂部 の表面温度の中で最も高 図-5 屋敷林のタイプ (出典:梅干野ら12)) 杉 中心型 I 選 定樹導 入型 杉 中心型 II 杉 中心型 III 多 種植栽 型 樹 木少量 ・低樹 高型 図-6 NDVIによる屋敷林樹冠の抽出 (左から,冬季昼間の可視域画像,夏季昼間の可視域画像 (共に低高度),NDVI値画像,樹冠分布図) 高 低 NDVI値
い値をその屋敷林の位置における気温の値として集計した。 6.気温分布図の作成及び考察 樹冠天頂部の温度はそれぞれの点の情報でしかない。そ こで,点データから面的な気温分布を予測するために内挿 補間を行った。内挿補間には線形(直線)内挿,多項式補間(ス プラインなど),関数のあてはめ,平均距離に応じた重みを つける方法,最適内挿法,変分法など様々な方法がある。 このうち,線形(直線)内挿や多項式補間は,観測データが 誤差を含むことを考えず,内挿の演算をデータ点の位置に 適用した場合には,結果はデータ点で与えられた値と原理 的に一致するような方式である。他方,関数のあてはめ (fitting),平均距離に応じた重みをつける方法,最適内挿法, 変分法などは,観測データ自体の誤差を考慮して,データ 値の近くを通るなめらかな場を求めるものである。 本研究ではこのうち,平均距離に応じた重みをつける方 法を用いることとした。この方法は,値の分かっているポ イントからの距離に応じて重みをつける方法である。この 方法はポイントの位置が偏っていたりまばらだったりした 場合は有効ではないが,今回の解析領域は細長い矩形であ り,縦方向には均等にデータ点を取れているので,市街地 からの距離と気温の関係を分析するには適した方法といえ る。 前章で得た屋敷林周辺の気温データを用いて,内挿補完 を行って作成した観測コース内の気温分布図を図-9(右) に示す。尚,気温分布図は数値地図25000 の上に表示して いる。図-9(左)には同じく数値地図25000 の上に,冬 季夜間の表面温度分布図(高高度)と低高度観測コース(気 温分布図の範囲)を示す。図-9(左)の表面温度分図か ら,砺波駅付近においては建築物やアスファルト舗装面の 蓄熱により,表面温度が高くなっているのがわかる。砺波 駅から離れたところに,表面温度が0℃近辺となっている のは水田上の積雪面である。表面温度分布図と気温分布図 の比較から,表面温度が高い区域の分布範囲よりも,気温 の高い区域は南東側に広がっているのがわかる。 図-10は,気温分布図を用いて,砺波駅以北(風上側) と以南(風下側)の領域に分けた上で,砺波駅からの距離 毎(100m 毎)に集計して気温及び表面温度の平均値を取 り,その分布を示したものである。冬季夜間のリモートセ ンシング観測時刻の前後は,風向が北東,東北東で安定し ていた(表ー3)。観測コース外において,砺波駅の東北側 には市街地が広がっている。従って,観測コース内の砺波 駅以南の地域は,風上側に市街地が広がっているといえる。 一方,観測コース内の砺波駅以北の地域は,風上側に市街 地はなく,市街地は風下側にあるといえる。 図-10で,砺波駅北側約0.5km の地域から砺波駅南側 図-8 屋敷林の樹冠表面温度分布 ① ② ③ 2 6 (℃) : 樹冠天頂部 N ① ② ③ 2 6 (℃) : 樹冠天頂部 N 4 図-9 冬季夜間(2006.2.21 17:40)における 表面温度分布図(左)と気温分布図(右) 及び砺波駅周辺の拡大図(下) 冬季夜間の気温分布図 冬季夜間の表面温度分布図 可視画像(夏季) 砺波駅 水田(風上側) (風下側) 水田 0 1 2km N 冬季夜間の気温分布図 冬季夜間の表面温度分布図 可視画像(夏季) 砺波駅 水田(風上側) (風下側) 水田 0 1 2km N 砺波駅
約2.0km の地域においては,砺波駅から離れた地域に比べ て平均表面温度が2℃~4℃高くなっている。この範囲を市 街地地域とみなすと,平均気温に関しては市街地の方が, 砺波駅から離れた地域に比べて0.5℃~1℃高くなっている。 砺波市のような小都市においても,ヒートアイランド現象 が発生していることを示しているといえる。 また,砺波駅の北側と南側で比較した場合,北側では砺 波駅約0.5km の地域から,平均表面温度が低下するのに合 わせて平均気温も低下しており,すぐに北側4.0~5.0km の 地域の平均気温と変わらない値を示している。これに対し て,南側では,砺波駅南側約2.0km の地域から平均表面温 度が低下し,南側3.0~4.0km における平均表面温度と変わ らない値となっているのに対して,平均気温の低下は限定 的であり,南側3.0km 程の地点までは外側の値よりも 0.5℃ 程高い値を維持している。これは市街地で暖められた空気 が風下側に運ばれたことによる影響といえる。 7.まとめ 本研究では,砺波平野の屋敷林樹冠の天頂部における熱 収支を検討し,樹冠天頂部の表面温度が気温にほぼ等しい ことを示した。その上で,リモートセンシングデータを用 いて樹冠天頂部の表面温度を抽出し,砺波市街地とその周 辺の気温分布図を作成した。得られた気温分布図と表面温 度分布図から,砺波市のような小都市においても,ヒート アイランド現象が発生していることが示された。さらに, 市街地で暖められた空気が風下側に運ばれ,市街地風下に おいて気温が高くなっていることが示された。 今後は,土地利用・土地被覆分布とヒートアイランド発 生の関係をより詳細に分析し,都市化に伴う土地利用・土 地被覆変化が都市の気候分布に与える影響を評価する必要 がある。その上で,地域の環境特性と都市に形成された環 境の特徴を踏まえ,土地利用計画を展開していく必要があ る。 【謝辞】 本研究は科学研究費補助金(平成16~18 年度) 基盤研究 (B)「砺波散村における環境情報の可視化と中学生を対象 とした生活環境教育への応用」(課題番号:16360287,研究 代表者:梅干野晁)により実施したものである。 【補注】 (1) 例えば、山田宏之(1995),「都市気温分布と緑地分布の関連 についての都市間比較」,ランドスケープ研究,58(5), 253-256. などにおいて,小都市におけるヒートアイランド問題の顕在 化が指摘されている。 (2) 植物の緑葉は青領域と赤領域の波長を吸収し,近赤外線領域 の波長を強く反射する。このような植生の持つ特性を生かし, 赤波長(R)と近赤外波長(IR)の値を用いて植生指数を 算出することで緑被分布を把握することができる。 【参考文献】 1) 久保隆太郎,斉藤郁雄,酒井孝司,石原修(2007),「熊本市に おける夏季・冬季の気候特性および定点観測と移動観測によ る実測結果の比較 : 中規模都市のヒートアイランド現象に 関する研究 第 2 報」,日本建築学会環境系論文集,619,33-38 2) 十二村佳樹,渡辺浩文(2007),「夏季の広域都市気温分布実態 と風が緑被率と気温との関係に及ぼす影響に関する研究 : 東北地方沿岸都市・仙台における長期多点測定結果に基づく 分析」,日本建築学会環境系論文集,612,83-88 3) 原山和也,大岡龍三,村上周三,吉田伸治,瀬戸島政博,近 藤裕昭(2005),「都市キャノピーモデルを組み込んだメソスケ ールモデルによる関東地方の都市気候解析」,日本建築学会環 境系論文集,592,75-82 4) 梅干野晁,浅輪貴史,村上暁信,佐藤理人,中大窪千晶(2007), 「実在市街地の3D-CADモデリングと夏季における街区のヒ ートアイランドポテンシャル : 数値シミュレーションによ る土地利用と土地被覆に着目した実在市街地の熱環境解析 その1」,日本建築学会環境系論文集,612,97-104 5) 谷口明,清田誠良,清田忠志(2008),「沿岸都市における海風 が有する都市域の高温化現象の緩和効果に関する研究」,日本 建築学会環境系論文集,625,379-384 6) 十二村佳樹,渡辺浩文(2008),「海風の夏季都市気温緩和効果 に関する研究 : 気温の長期多点同時測定と観測風データに 基づく分析」,日本建築学会環境系論文集,623,93-99 7) 佐川朋子,田中貴宏,森山正和,笹川正(2006),「屋上面の実 態調査と屋上緑化・クールルーフ化の可能性評価 : 熱画像と GIS データを用いた夏季の大阪市中心部における放射輝度温 度の解析 その 2」,日本建築学会環境系論文集,608,53-58 8) 田中貴宏,森山正和,佐川朋子,山下卓洋(2006),「夏季の大 阪市中心部における放射輝度温度分布の詳細な特徴 : 熱画 像とGISデータを用いた夏季の大阪市中心部における放射輝 度温度の解析 その 1」,日本建築学会環境系論文集,599, 119-126 9) 入江彰昭,平野侃三(2001):「緑地周辺に対する気温低減効果 と効果的な緑地の分布形態に関する研究」,日本都市計画学会 学術研究論文集,36,277-282 10) 黒瀬義孝,真木太一(1988):「熱赤外線放射温度計による大 麻山の斜面温暖帯の測定」,天気,43(4), 275-83 11) 舘明(1986):「五箇屋地区鹿島の屋敷林の実態」,土蔵,1, 5-24 12) 梅干野晁,増井洋介,小高典子(2003):「砺波散村における熱 環境評価その3 数値シミュレーションによる代表的な散居 における熱放射環境評価」,日本建築学会大会学術講演梗概集, D1,601-602 図-10 砺波駅からの距離と冬季夜間の 表面温度・気温変化