現代の食事情と食育
The Present Status of Eating and Shokuiku
(1)土井 有美子
Yumiko DOI
要 約 本調査は、食育基本法施行の効果について、若者への浸透度を考察するため、現在の若者が「食」に対しどのような意 識をもち、またその実態を把握することを目的とした。健康看護学部と食物栄養専攻の学生との「食べる」ことに対する考え 方の比較や、食物栄養専攻の学生への「調理等に関する意識調査」をもとに実態を把握し、食育のあるべき姿を検証した。 前者の「食べる」ことに対する考え方の比較については、健康看護学部と食物栄養専攻の学生には概ね差はなく、現代の 若者である両者に食育の理念が広く普及していることが伺えた。後者の「調理等に関する意識調査」から、栄養士を目指 す食物栄養専攻の学生は、日々調理学や栄養学等を学んでいるにもかかわらず、実生活では自ら調理にかかわることが 少なく、調理メニューは単品が多いことが伺えた。本調査結果から、献立作成に苦慮し、調理技術も未熟である本学食物 栄養専攻の学生の現状が浮き彫りになった。はじめに
現在、「食」をとりまく状況をみてみると、偏食による食事バ ランスの崩壊、エネルギーや脂肪等の過剰摂取による肥満、 朝食の欠食、外食、インスタント食品や調理済み食品の摂取 による食生活の歪み、海外からの食品の大量輸入による食料 自給率の低下、日本の伝統的な食文化の喪失等々、数え上 げればきりがない(2)。特に子どもの食生活は個食や孤食で家 族と一緒に食事することがなくなり、食事中の会話が欠如して しまったり、朝食の欠食が増えたり、肥満児が増加し続けてい る(2)。これらは、子どもの心身の健全な発達・発育に大きな影 響を及ぼしている。また、国民健康・栄養調査結果では、肥満 者の割合が増加している(3)。飽食に起因する肥満が、生活習 慣病の原因であることは憂慮すべきことである。 そこで、我が国では国民が生涯にわたって活き活きと暮ら すことができるようにと、知育・徳育・体育の基礎となるべきも のとして食育を位置づけた(4)。健全な食生活を行うためには 「食」に関する知識や適正な判断力が必要である。国民ひとり ひとりが必要な知識や判断力を有し、健全な食生活を実現で きることを目指して、平成 17 年に「食育基本法」(4)を制定した 後、平成 18 年には、食育推進基本計画(5) を発表した。さらに、 命を守る「食」の重要性から、平成 19 年度には、「新健康フロ ンティア戦略」(6)を策定し、国民自らが「食」のあり方を学び、生 涯にわたって活動できる明るく活力ある社会にするため、予 防を重視した健康づくりの普及啓発を進めている。 一方、和歌山県では、県民の食の欧米化により崩れた栄養 バランスの改善、健全な食生活の習慣化、「食」と「農」の距離 を縮めた生産者と消費者の信頼関係の構築、食文化伝承等 を目的として、和歌山県食育推進計画「食べて元気、わかや ま食育推進プラン」(7)を発表し、広く食育を推し進めている。 食育は食生活にかかわるあらゆること、すなわち食に関す る意識の高揚、健全な食生活の実践、食への感謝の念や理 解、食文化の伝承と発展、環境との調和がとれた食料の生産 等、国民ひとりひとり見直し、改善していかねばならない。 このように様々な施策が行われるなか、本調査では、和歌 山県立医科大学保健看護学部 1 年、和歌山信愛女子短期大 学生活文化学科食物栄養専攻1・2 年を対象に、若者が「食べ る」ことについてどう考えているのか、また、前者と後者では、考え方に違いがあるのかを比較検討した。また、後者は、調 理学や栄養学等を学んでいるが、学生の家庭における実態 を把握することによって、食育推進の成果を検討し、その結果 を報告する。
調査方法
「食べる」ことについての意識は、2011年7月、和歌山 県立医科大学保健看護学部1年 77 名(以下、保健看護学生と いう。)及び本学生活文化学科食物栄養専攻1年 55 名、同2 年 58 名(以下、本学学生という。)を対象に、記名、記述方式 で『「食べる」についての考え』を調査した。 「調理等に関する意識」は、2011年4月、本学学生を対象 に記名、アンケート方式で調査した(表1-1,表 1-2)。結 果
1 「食べる」ことについての意識 若者たちが、「食べる」ことについてどのように考えているか をカテゴリー別に集約した。集約結果から、生命維持の源・栄 養のバランス・コミュニケーションの手段・命をいただく・調理 者への感謝などは、健康看護学部生と本学学生に共通した 語句で表現されていた(表2・表3)。しかし、保健看護学部生 には、食の大切さを認識・ストレス発散、本学学生には、衛生・ 経済・間食に関する語句の表現もあった。 表 1-2 アンケート用紙 表 1-1 アンケート用紙図 3 調理時間 図 1 料理をする頻度(包丁をもつ回数) 表 3 「食べる」ことについての考え 表 2 「食べる」ことについての考え 図 2 調理をするときは? % % % 2 調理等に関する意識(本学学生に限る) “家庭では主にだれが食事を作るのか”の質問では、「母」 または「祖母」と答えた者は本学食物栄養専攻1年(以下食1と いう)93.4%であり、同2年(以下食2という)85%であった。自分 で調理している学生は、食1 6.7%、食2 15%であった。 “どの くらいの割合で調理するのか(包丁を持つ回数)”の質問で、 食1は「週1回」22.2%で最も多く、次いで「週3回」と「ほとんどし ない」が同じ 20.4%であった。食2は「週1回」25.9%、「毎日」19%、 「週2回」15.5%であった(図1)。 “料理するときはどんな時か” との質問で、食1は「気が向いたとき」25.8%、「夕食」22.6%、「決 まっていない」19.4%、次いで「いつも作ってくれる人が留守の 時」の順であり、食2は「休みの時」、「夕食」、「気が向いたとき」 それぞれ 21.4%、「いつも作ってくれる人が留守の時」の順で あった(図2)。“1回の調理時間はどうか”の質問では、食1 「60 分以内」、「90 分」それぞれ 27.3%、次いで「30 分以内」 20.0%であった。食2は「60分以内」43.8%、「30 分以内」24.6%、 「90 分」22.8%であった(図3)。 “料理をすることが好きかどう か”の質問では、食1は「好き」57.4%、「どちらでもない」40.7%、 「嫌い」1.9%(1人)で、食2は「好き」53.4%、「どちらでもない」 46.6%、「嫌い」と思っている学生はいなかった。 また、“食事 を作る時どのようなところに注意して作るか”の質問では、食1 「手近かにある材料で」25.0%、「量(満足感)」19.2%、「栄養」 17.3%、食2も食1と同順で、「手近かにある材料で」25.9%、「量 (満足感)」22.4%、「栄養」19.4%であった。“得意料理の有無” についての回答は、食1では「ある」34.5%、「ない」65.5%、一方、 食2では「ある」51.7%、「ない」48.3%であった。“どんな料理を 作るか”の回答は表4、“得意料理は”の回答は表5、“小学・中 学・高校時代に調理実習した料理は”の回答は表6のとおりで 「食べる」ことについての考え 保健看護学部の学生 • 生命活動を維持するだけではなく、コミュニ ケーションの場でもあり、楽しみでもある。 • 健康で、食べられることがしあわせ。 • バランスよく食べることが大切。 • なんでも食べられるようになることが大切。 • 感謝の気持ちが大切。生物や植物をいただく。 調理者への感謝。 ・ ストレス発散の一手段とすることもある。 ・ ひとりくらしで食の大切さを知る。 「食べる」ことについての考え 食物栄養専攻の学生 • 健康にかかわること。生きる源。 • バランスを考え、好き嫌いせずに何でも 食べることが大切。 • コミュニケーションの場。楽しみ。 • 命をいただく。 • 間食を必要以上にしなくなった。 • 栄養素や調理方法を考えるようになった。 • 衛生面も安全でなければならない。 • 経済面のことも考える必要がある。 0 5 10 15 20 25 30 食1 食2 0 5 10 15 20 25 30 食1 食2 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 食1 食2
表 5 得意料理 あった。“あなたが好きな料理のジャンルは何”との質問では、 食1は「洋食」55.2%、「和食」34.5%、「中華」6.9%、「全部」3.4%で あるが、食2は「和食」46.6%、「洋食」34.5%、「中華」19.0%であり、 食1と食2の嗜好の傾向が異なった。表7に好きな料理をまと めた。 “外食をするか、またその頻度はどのくらいか”の質問で、 食1は「ほとんどしない」29.1%、「月2回」25.5%、「月1回」23.6%、 食2は「月2回」24.1%、「週1回」19.0%、「週2回」15.5%、食1・食 2とも毎日外食している学生はいなかった。 また、“外食で料理を選ぶ時に何に重点をおくのか”の質 問では、食1は「価格」45.8%、「量(満足感)」20.6%、「待ち時間 が短い」9.3%、食2は「価格」42.1%、「量」23.7%、「その他」16.7% であった。外食する場合の料理は、表8のとおりであった。
考 察
平成 24 年現在、「食育基本法」(4)が施行され7年が経過した。 その間、さまざまな施策が講じられ、渦中で育ってきた世代の 学生に施策が浸透しているのかを最初に検討する。看護師を 目指す保健看護学部生と栄養士を目指す本学学生は、『「食 べる」ことは健康にかかわること、すなわち生命活動を維持す るために不可欠なことであること、また健康を保つには栄養の バランスが大切であり、偏食しないで食べることが必要』と共 通して回答しており、「食」の大切さを理解しているようである。 また、「コミュニケーションの一手段」との回答も多く、「食」を通 じたコミュニケーションは、人間関係を育むために有用である という食育の理念(4)が、浸透しているといえる。また、自宅通学 の多い本学学生にはない回答であったが、健康看護学部生 の中には、実家を離れて一人暮らしをすることで、自らが調 理・食事する体験によって、「食」の大切さを再認識し、調理者 への感謝の念を抱いたとの回答があった。このことは、食育 の「食」の大切さ・感謝の念をもつという項に沿うものと考える。 反面、筆者は、一人暮らしにおける孤食を懸念する。前述の ように、食育では「食」を介してのコミュニケーションを推奨し ているように、できるだけ複数人と食事を楽しむ機会をもち、 人間関係を育むよう工夫することが必要だと考える。また、子 どもの孤食や個食が問題になっている昨今、家族の絆をより 一層深めるためには、「食」は有用な手段である。 筆者は、 1日3回規則正しく、バランスがとれた食事をすることで、健康 食1 食2 1 パスタ 汁物 2 カレー ハンバーグ 3 ハンバーグ カレー 4 汁物 チャーハン 5 チャーハン オムライス 6 野菜炒め パスタ 7 オムライス 丼物 8 煮物 サラダ 9 和食 煮物 10 グラタン 焼きそば 食1 食2 1 ハンバーグ ハンバーグ 2 チャーハン チャーハン 3 オムライス オムライス 4 煮物 煮物 5 だし巻き カレー 6 カレー パスタ 7 パスタ グラタン 8 グラタン だし巻き 9 肉じゃが 肉じゃが 10 餃子 汁物 小学校 中学校 高等学校 カレーライス ハンバーグ パスタ みそ汁 カレーライス 大福 サラダ ミートスパゲティ みそ汁 ごはん 鮭のムニエル 餃子 ホットケーキ みそ汁 グラタン サンドウィッチ クッキー クッキー オムライス ロールキャベツ 麻婆豆腐 カボチャスープ 卵焼き 豚肉のショウガ焼き スープ 親子丼 ハンバーグ たこ焼き サラダ ミートスパゲティ 表 4 作る料理 表 6 家庭科の調理実習を保つための栄養摂取量が充足できるものと考える。 しかし、 食事を「ストレス発散の一手段」であるとの回答は、 闇雲に食 事することによる炭水化物・脂質・塩分の過剰摂取を招き、健 康を損ねかねないかと危惧する。本学学生は、「経済すなわ ち金銭面や衛生面を考えて調理する」と回答しているが、健 康看護学部生にはこの類の回答はなかった。本学学生の回 答は、給食の運営およびサービスの提供を業とする栄養士に 関する習得事項、すなわち特定給食施設で大量調理を実施 するために不可欠な経済面や衛生面の学習を反映した回答 であったと考える。 一方、食育基本法第7条(伝統的な食文化、環境と調和した 生産等への配意及び農山漁村の活性化と食料自給率の向上 への貢献)(4)・第8条(食品の安全性の確保等における食育の 役割)(4に関する記載が、 いずれの学生の回答にもみられな かったため、 この2つの概念の更なる啓蒙が必要であると考 える。 次に、本学学生に対する「調理等に関する意識調査」につ いて考察する。自宅通学生は、ほとんどが自分で調理するこ とがなく、毎日の食事づくりは「母または祖母」であった。反面、 自分で食事を作っているのは、下宿生であり、自宅を離れて 一人暮らしをしている学生で、1年で1名、2年で2名いた。こ の結果は、堀らの毎日の食事は主に誰が作るかの調査結果(8) とほぼ同傾向であった。筆者の予想は、本学学生は栄養士免 許取得を目指して勉学していることから、調理に興味をもつ者 が多く、日常から調理することが頻繁で、その時間も長いもの と考えていた。しかし、予想に反して、大半の本学学生は、積 極的に調理することが少ないうえに調理したとしても、約1時 間以内であるとの回答結果(図3)であった。筆者が、本学で 調理実習を指導している状況を見る限り、学生の技量では約 1時間で手が込んだ調理をすることや、主食・主菜・副菜・ 副々菜・汁物等の献立を作り上げることは困難であると考える。 本調査結果をみると、学生が作る料理は表4のように、食1・食 2に共通の料理としてパスタ・ハンバーグ・オムライス・カレー ライス・グラタンなどカタカナ文字の料理が上位を占めている。 これらは、幼児が好む料理であり、幼児期から嗜好固定してき ている可能性(9)も示唆された。また、これらの料理は、家庭内 で常備している食材で、短時間に調理できるものと考える。で は、なぜ、それらの料理を作るのか。これらは、若者が好む料 理であることはもちろんであるが、 小学校・中学校・高等学校 における家庭科の調理実習で学習した料理(図6)と共通項が みられる。また、堀らが中学校・高等学校での調理実習で学 習した料理を尋ねた回答結果(8)と類似している。これらの料理 は、比較的手近で入手可能な食材で調理でき、なかには献 立としてではなく、単品で食事が成立する可能性が高いもの も存在する。単品で食事が成立する可能性が高い料理の場 合、筆者は栄養素摂取の偏りを危惧する。摂取栄養素のバラ ンスを良くするためには、調理に多くの食材を使用すること、 そのためには主食・主菜・副菜・副々菜・汁物等を献立として 作り上げるよう、常日頃心がけることが有用であると考える。 外食頻度は、食1・食2を併せて約1/4の学生がほとんどし ないと回答し、毎日外食をしている学生が皆無だったことに筆 者は安堵している。反面、外食での料理は表8から主食系の 料理が多いことや、前述のように料理単品だけで手軽に空腹 を満たすことが可能な料理である。価格・量(満足感)を重視し て選択しているという回答結果からみると、食事が単に空腹を 食1 食2 1 パスタ パスタ 2 ハンバーグ ハンバーグ 3 オムライス オムライス 4 グラタン グラタン 5 カレー カレー 6 ラーメン ラーメン 7 肉じゃが 肉じゃが 8 すし すし 9 うどん 麺類 10 焼き魚 焼き魚 食 1 食 2 1 すし すし 2 パスタ パスタ 3 ラーメン ラーメン 4 オムライス 焼き肉 5 ハンバーグ ハンバーグ 6 焼き肉 オムライス 7 うどん 鍋 8 ハンバーガー うどん 9 ピザ ピザ 10 グラタン お好み焼き 表 8 外食するとき 表 7 好きな料理
満たすものであるという考えの現れだと推察する。 以上から、食育基本法施行後、若者は、食育についてまた は食のあるべき姿の概念について、ある程度理解しているも のと解する。しかし、それを実践に結びつけ習慣化する力は、 調理に関する意識調査結果からみても、育っていないと考え られる。本学学生の実態調査結果は、栄養士養成において 専門である給食管理論やその実習を担当する筆者にとって 以下の点で有意義であった。栄養士は、特定給食施設にお ける献立作成や調理技術の習得することが必要不可欠であり、 それらの習得は日々の努力の積み重ねによるところが大きい といえる。献立作成には、広い食材の知識・料理のレパートリ ー・郷土料理・郷土の食材の採用等 多食材を用い、主食・主 菜・副菜・副々菜・汁物の構成に則り、栄養素のバランスや栄 養摂取量を考え併せたものでなければならない。また、調理 技術には、食材の特性や安全性に関する知識と理解を深め、 それを活かす技術を磨くことが要求される。献立作成に苦慮 し、調理技術も未熟である本学学生の現状が、浮き彫りになっ た。 今後、本調査で検証した事項をもとに、本学学生へのより 充実した教育法を検討し、食育推進に結びつく効果的な教育 を図っていきたい。 本論文の一部は、本学第38回公開講座(2011年)および第 59回日本栄養改善学会学術総会(2011年)において発表した ものである。
参考文献
(1) 内閣府:Basic Program for Shokuiku Promotion (Abstract),http://www8.cao.go.jp/syokuiku/abo ut/pdf/plan_ol_eng.pdf (2) 苫米地孝之助:健康管理概論 ,建帛社 (2012) (3) 厚生労働省:平成23年国民健康・栄養調査結果の 概要, http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002q1 st-att/2r9852000002q1wo.pdf (4) 内閣府:食育基本法 (2005) , http://www8.cao.go.jp/syokuiku/about/law/law.html (5) 内閣府:食育推進基本計画(2006) , http://www8.cao.go.jp/syokuiku/suisin/kihonkeikaku .html (6) 文部科学省:新健康フロンティア戦略 (2007), http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkou/dai3/honbu n.pdf (7) 和歌山県:食べて元気 わかやま食育推進プラン , http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070300/syoku iku1/wakayamasyokuiku/documents/keikaku.pdf (8) 堀 光代, 平島 円, 磯部由香, 長野宏子:食物栄 養および家政教育専攻学生の調理意識と技術の現 状, 岐阜市立女子短期大学研究紀要第 58 輯 87-91 (9) 森基子他:応用栄養学, 医歯薬出版 (2012)