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物的資本維持による利益計算-香川大学学術情報リポジトリ

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物的資本維持による利益計算

木 正 幸

I 問題の背景と研究目的 英米の会計学文献では利益計算における「資本」の概念や「資本維持」に関 する研究がドイツ会計学文献に比して質的にも量的にも希薄ではないかという 疑問をかねてから抱いている。ドイツにおいては,

1

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年代に,ワノレプ,シュ ミy ト,ゲルトマッハー,マールベルグ,ハッフスなどの著名な学説が次々と 登場し,戦後においても,エッカート,シープ,ジーベンなどが精轍な理論を 発表しており,それらは,いずれも我国において広く紹介されている。 米国においては,ベイトン,スウィニーの古典的著作やジョーンズ,エドワー ズ=ベル,ヘンドリグセン,ベットフォード,ラッドなどの著書や論文で資本維 持が会計上重要な問題であるとの認識はうかがし、知れる。しかしながら,それ らは,資本維持のたんなる概念的区別であったり,購買力資本維持であったり, 物的資本概念とはかかわりなく費用測定基準に販売日再調達価額を適用するも のにとどまっており, とりわけ物的資本概念,物的資本維持を前提とした研究 は極めて乏しく理論的に解明されていない領域であるといえよう。 しかるに,近年,イギリス,オーストラリア,カナダ,米国などの英語圏の 諸国においても,伝統的な財務的資本維持から物的資本維持への変化の兆しが みられる。少なくとも,権威ある会計基準設定団体によって発表された基準書 やその前段階の討議資料の中に物的資本概念やそれについての論議がみられ, 物的資本維持思考への関心が顕著に高まっているように思えるのである。 イギリスやアイルランドの会計基準委員会

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C)は「カレント・コスト会計J(公開草案

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年〉および

(2)

-184ー 第58巻 第1号 184

「カレント・コスト会計J(会計実務基準報告書16号, 1980年〉の中で,営業 能力J(operating capacity)とし、う物的資本概念を使用したカレンいコスト会 計の基準を発表している。カナダやオーストラリアもイギリスやアイルランド

とほぼ同様な立場をとっている。

米国では, 1973年から財務会計基準審議会 (Financial Accounting Stan-dards Board,略称 FASB) が会計実務の規範となる会計基準の設定を担って いることは周知のとおりであるが,資本維持の問題は,“概念的フレームワーク の研究プロジェクト"の中でとりあげられている。 FASBは, '1976年概念的枠 組に関する討議資料J(FASB, 1976)の 中 で , 資 本 維 持 」 を は じ め て と り あ げたが,その後,発表された2つの概念報告書(すなわち,第1号「企業の財 務報告の目的J1978年11月,第2号「会計情報の質的特性J1980年5月)の 中にまでとり入れられて FASBの公式見解として発表するには至らなかった。 また, FASBは,公開草案「財務報告と物価変動」の中で,財務的資本維持 (finan -cial capital maintenance)概念を今後引続き使用する旨簡単に触れるにとどま り,最終報告書「財務報告と物価変動J(1979年9月〉においては,資本維持は この報告書の本質的要素ではないという理由で欠落している。 FASBの概念報告書第3号「企業の財務報告の要素J(1980年12月〉は,財 務諸表の要素ともいうべき基礎概念についての定義を行っている。第3号によ ると資本の会計的表現である持分概念は,所有者による投資,所有者への分配, 包括利益から構成されると定義している。したがって,第3号では,事実上, (1) 財務会計基準審議会の発展の推移に関しては,拙稿「財務会計基準審議会(FASB)の回 顧と現状」産業経理第43巻 4号, 1984年 47-55頁を参照。 ( 2) Financial Accounting Standards Board, Discussion Memorandum, Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting (December1976, pp 123-144) ( 3) Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Con -cepts“Objectives of Financial Reporting by Business Enterprises (N ovember 1978)及 び“ObjectiveCharacteristics of Accounting Information (May 1980) ( 4) F ASB, Statement of Financial Accounting Standards N 0..33, Financial Reporting and Changing Prices (September1979, paras100and104) ( 5) F ASB, Statement of Financial Accounting Concepts N 0..3, Elements of Financial Statements of Business Enterprises (December1980)

(3)

185 物的資本維持による利益計算 -185ー 財務的資本維持概念を採用していると思われる。なぜならば,物的資本維持の もとでは i資本修正」なる項目が必要とされるであろうからである。 しかしながら概念報告書の3号は,資本維持の論議に最終的判断を下したも のではなく i資本修正」のような追加的項目の定義の必要性を容認するととも に,資本維持についての検討は

FASB

の「概念的フレームワークのプロジェク ト」のさらに後の段階で必要となることを述べている。 このような時代的背景において資本維持の論議は今後高まっていくものと予 測されるし,それとは別に,利益概念はし、かなる資本概念を前提とするかによっ て相異するのであるから物的資本概念を基礎とする利益計算体系成立の可能性 を基礎研究として行っておくことは必要であろうと思われる。 ところで,物的資本維持による利益計算を考える場合,物的資本なる概念が 会計上そもそも成立しうるかとしづ問題があり,それ自体,解明されなければ ならない研究課題の

1

つであるが,本稿においては,資本なる概念は,貨幣量 としてのみならず,物財量を指示しうる概念として成立するとL寸前提のもと で検討を加える。すなわち,物的資本は,企業に投下され資本の財貨的属性に 着目して生産力ないしは給付能力という視点から把握,具体的には,企業が一 定期間に製造した製品数量とか,一定期間に販売した商品数量によって測定可 能であるとする。こうして測定された期首lの物的資本が期末において同一量存 在するか否かによって損益計算を行うのが物的資本維持による損益計算の基本 的な考え方である。 II 計算的基礎としての資本維持の重要性 利益概念の研究に際してもっともよく引用される利益の定義は, ヒッグスの 「人が

1

年間に消費でき,なお期末において期首と同等に裕福である最高額で ある」とした定義である。この定義は,

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C+(Kn-K

n

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1)の恒等式で表す ことができる

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は消費,

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は期末資本,

K

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は期首資本〉。このヒックスの 定義の中の i期末において期首と同等の裕福」という文言から,資本維持の重 (6 ) 森田哲弥著「価格変動会計論」国元書房 pp.72-73。

(4)

-186- 第58巻 第l号 186 要性を読みとることができるが,最も困難な問題は,期首と期末の裕福さの確 認,すなわち,期首と期末の資本をどのように解釈し資本のいかなる属性に 着目して測定するかという点である。「裕福さ」を写像する会計的概念としての 資本概念を確定し,ある特定の属性にもとづいて期首および期末の資本を測定 することによって利益計算は行われるのである。 したがって,利益概念は, どのような資本概念を前提とするかによって異な るし,また資本維持概念も,種々の資本概念の内包によって相違してくるわけ である。フィシャーは,資本を将来期待される用役の現在価値である,と考え, また, ヒククスは,資本を「裕福J(wello任ness)であると述べ, この概念に,将 来の受取高の資本化された貨幣価値としづ定義を与えた。しかしながら,会計 的資本は,エコノミストの未来志向的な価値概念にもとづくものではなく,極 めて過去的な残余持分(residualequity)すなわち正味財産を名目的な貨幣数量 で把握したものにすぎなし、。少なくとも伝統的な会計上の資本は企業実体に投 下された名目的な貨幣の有高量であるといえる。ここでとられる利益計算は, まず名目的貨幣数量によって資本の数量を決め, しかる後,期末において存在 する資本の数量の中に当初の資本の数量と同等な量が存在するか否かを確認 し,期末の資本数量の超過分をもって利益であるとする。 資本維持は,期末資本の中に期首と同等の名目的貨幣数量が存在するか否か を確認することを指示しているから,利益計算において,資本維持は,利益の 存在の有無とその量を決定する判断基準としての役割を果たしている。した がって,ここでの資本維持は,政策論としての資本維持ではなく,原理論とし ての資本維持であ£資本維持なる用語は,用語それ自体のニュアンスからし (7) フィシャーやヒックスの経済的利益の本質と会計約利益の相違や資本維持との関係に ついては.T A.Lee著,拙訳書「利潤と価値の測定一一理論と計算」白桃書房 7 -21頁 参照のこと。 (8 ) 森田教授は,資本維持説の性格を利主主計算論それ自体であると規定する。そして,名目 資本維持説,実質資本維持説,実体資本維持説の三つの資本維持説間の根本的対立は,利 益計算上の資本概念,すなわち,期間利益判定の基準となる「維持すべき資本」をどうみ るかという,資本本質観の対立であるとL、う。こうした立場は,まさに,われわれのいう 原理論の立場である。森田哲弥著前掲害 41-44頁。

(5)

187 物的資本維持による利益計算 -187-ばしば誤解されて用いられる傾向があるが,本稿では利益計算の判断基準(メ ルクマーク)として機能するところの「資本維持」もしくは「維持すべき資本」 を意味している。政策論としての資本維持は,特定の会計項目が認識主体の価 値や当為によって屈折せしめられる。そこで計算された利益概念は,客観性, 公正性において,原理論としての資本維持にもとづく利益概念とは全く異質で ある。原理論としての資本維持は,期末資本の中に期首資本と同一量が含まれ ているか否かを確認することであるから,その作業に認識主体の価値判断や当 為判断が介入する恐れはなし、。 このような原理論としての資本維持には,財務的資本維持

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と物的資本維持

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があり,さらに, 財務的資本維持は,名目貨幣資本維持と購買力資本維持に分けられる。 J 名目貨幣資本維持 財務的資本維持 く 資本維持

、購買力資本維持 ¥物的資本維持 財務的資本維持は,会計の計算対象を貨幣資本とみる。そして,期末貨幣資 本の中に,期首と同等の資本が存在するか否かをもとめ,同一量の資本の存在 をもって,資本維持と考える。この場合,物価水準変動の影響を考慮せず,期 首の貨幣資本の名目量でもって期末に存在す町る貨幣量の確認を行うのが名目貨 幣資本維持であり,物価水準変動の影響を考躍して,貨幣資本の実質量で期末 に存在する貨幣量の確認を行うのが購買力資本維持または実質資本維持であ る。 たとえば,期首に現金

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0

0

円でもって営業を開始し,ただちに,商品

1

0

0

(@10

円〉を購入する。そして,期末に,すべての商品を

@15

円で販売し現金 を受領したとする。また,この期間に,物価水準は

50%

上昇したとしよう。(も ちろん,この期間に,増資や利益処分の資本取引はなかったとしよう〉 この例において,名目貨幣資本維持のもとでは,利益

5

0

0

円であり,購買力 資本維持のもとでは

o

円である。名目貨幣資本維持は,現在行われている制 度会計の中にみられる考え方である。期首時点で保有する財が,貨幣であろう

(6)

-188ー 第58巻 第1号 188 と,商品,建物のようなものであろうと, 自にみえない法的な財産権であろう とその財に内在する名目的な貨幣量を名目資本維持では期首資本と考える。財 の個別的な数量はもちろん問題にならないし,財一般の価格変動すなわち貨幣 価値の下落が予想されてもここでは一切考慮、しなし、。期首資本は,投下資本と もいい,経営者はこの投下資本を種々の財に合理的に配分して利益獲得を目ざ して行動する。さきの例では,商品に投入され,期末に商品は

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円で販売 されたので,

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0

円の実現収益となり,

5

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円の投下資本の回収余剰となった。 経営者は,この投下資本の回収余剰すなわち期間利益を配当処分し,企業外に 流出しても,なお,期首投下資本は,企業内に残留している。 ところが,実質的な貨幣量に着目すれば,この期間の投下資本の回収余剰は まったくなく零と計算しなければならない。なぜなら,期首資本

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円とい ( _ ,

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う名目的貨幣量は,期末時点では

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円(=

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一一)の貨幣量と実質的

¥ 1 0 0 /

に等価で,計算的基礎としての資本維持,すなわち「維持すべき資本」は,

1

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円となるから,期末において存在する資本

1

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0

円から維持すべき資本

1

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0

0

円 を控除すれば,零となる。このように,実質的な貨幣量に基づいて計算を行う ということは,貨幣の財一般に対する支配力(貨幣の一般的購買力〉に即して, 「維持すべき資本」の内包を確定することにほかならなし、。そこで,このよう な思考を購買力資本維持と呼んでいる。購買力資本維持にもとづく利益計算は, 物価指数(または

GNP

デフレーターなど〉を用いて期中ないし期末の取引記録 を全面的に修正する。一部の資産項目のみの修正は,正しくない。非貨幣性資 産はもとより,貨幣性資産についても全面的修正を行わなければ,購買力資本 維持は首尾一貫しない。このため,インフレーションの時期には,現金,売掛 金,受取手形のような貨幣項目からは,購買力損失が生じ,買掛金,支払手形, 借入金のような負債項目からは,購買力利益が生じる。さきに述べた例は,著 しく単純化されているので,購買力損益は生じないが,貨幣性資産の保有は通 常どのような企業においてもみられることから,インフレーションの時期に, 購買力損益を生ずることは不回避である。 購買力資本維持に基づく会計は,名目的貨幣による支出すなわち財の取得原

(7)

189 物的資本維持による利益計算 189ー 価を物価水準の変動に比例的に修正するところから修正原価主義会計と呼ば れ,独自の会計領域をつくっている。 名目貨幣資本維持も購買力資本維持も会計の計算対象が貨幣資本である点で は共通しており,物的資本維持が財貨思考をとっているのに対し,貨幣思考を とっている点に大きな特徴をもっている。 では, さきの例を物的資本維持によって利益計算すればどのようになるであ ろうか。いま,期末時点で,期首と問ーの商品を購入すれば

1

1

2

円である と仮定しよう。そして,期普,期末の貸借対照表を作成すれば,つぎのとおり である。 期首貸借対照表 商 品 資本金 100悶イ 期末貸借対照表 商 品 125個 資本金 100個 利 益 25個 125個 125個 ( 9 ) ここでは,物的資本維持による利益計算を端的に示すためにこのように作成したので あるが,物的資本維持会計では,資産,資本,利益を物財査で表示をしなければならない とするのではない。維持すべき資本の内包を物的特性で把握すること,つまり,数量,個 数,商積,給付能力にかかわらしめて把握し,それらが期末資本の中に同一長存在するな らば,余剰は純利益と考えてそれを「表現形式」として貨幣額で表現することは何ら差し っかえなし、。しかし,表現は,あくまで写像であり,本体たる「物」の存在とは別である。 森田教授は,資本は数量的に表現して金額を付さず,利益は貨幣表現しなければならなし、 として次のように述べている。「なお,注意すべきは,物的資本概念をとるということは, 期間利益についても物的概念が適用されるということでは決してない。実体資本維持会 計における物的資本概念は,利益判定基準としての資本にかかわる概念であり,期首資本 ないし「維持すべき資本」に適用される資本概念である。したがって期末物的資本マイナ ス「維持すべき物的資本」イコーノレ物的期間利益とL、う概念構成は考えられていなし、。こ こでの期間利益は,期末に存在する資産のうち r維持すべき資本」として物的資本を超 える資産の貨幣相当額として,し、L、かえれば,その額を分配しでも「維持すべき資本」と しての物的資本が残るような額として考えられているのである。期間利益は貨幣概念で ありわ…貨幣金額そのものが意味をもつものである。」森田前掲警 79-80頁,この森悶説 については,若干疑問をもつものであるが,今後の研究に委ねる。

(8)

-190- 第58巻 第1号 190 物的資本は,投下資本を貨幣量ではなく物財量として把握する。現実には貨 幣が投入されるが,その貨幣量を貨幣資本として把握するのではなく,投入さ れた貨幣によってどれだけの生産力が保証されているかとしてとらえる。さき の例では,

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0

0

円を貨幣資本としてとらえるのではなく,その時点で商品

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0

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個の給付能力をもちうるわけであるので,維持すべき資本を

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個の商品とみ

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る。期末においても同様で,

1

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円の手元現金は,商品

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個.J..',V()VV)

¥ 1

2

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給付能力をもっているものとして,利益計算を行う。それゆえ,この例では, 期末において,期首の給付能力を維持してなお余剰の給付能力すなわち商品

2

5

個があり,これが利益となる。 物的資本による貸借対照表が倒数で表されていることを奇異に思われるかも しれない。しかし物的資本維持は,資本を貨幣量としてではなく,一定の生産 力または給付能力として把握するゆえ,第一次的な測定は,物財量(数量〕で なければならない。第一次的測定の物財量を第二次的測定で貨幣量に換算する ことはもちろん自由である。 物的資本維持は,このように,資本を数量資本として把握し,利益計算を行 おうとするものであるが,果たしてこのような物財思考を貫徹することが可能 なりや。この点について若干の検討を行うことが本稿の課題である。 III 物的資本維持による利益計算の例示 われわれは,すでに資本維持に名目貨幣資本維持,購買力資本維持,物的資 本維持があり,それぞれについて概略説明したが,つぎに, Robert R.Sterling の例示に依拠しつつ物的資本維持にもとづく利益計算について考えてみよう。 く設例〉

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日 現金

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0

0

ドルで、営業を開始する。

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日 商品

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個(単価

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ドル〉を購入する。 (0) R.R.Sferling,“Limitations of Physical Capital" in the book“Maintenance of Capital: Financial versus Physical" edited by Sterling and Lemke, Scholars Book co..1982, pp..9-11

(9)

191 物的資本維持による利益計算 -191ー 31日 す べ て の 商 品 を1個 に つ き 160 ドルで販売する。得られた利益は 全額配当にあてる。 2月1日 商 品 1個 購 入 すhる の に 125 ドルかかる。 こ の 設 例 自 体 は き わ め て 単 純 で あ る が , 物 的 資 本 維 持 を 考 察 し , 主 要 な 問 題 点 に つ い て 手 が か り を 得 る た め に は こ の よ う な 単 純 化 さ れ た 設 例 で 十 分 で あ (11) ろう。設例では, 1月2日に商品 100個 購 入 し て い る が 1月1日 に 直 ち に 商 品 を 購 入 し た と 考 え た 方 が 理 解 し や す し 、 か も し れ な い が , 設 例 の ま ま 損 益 計 算 第l表 名目貨弊量による結合財務諸表 1月1日 l月中 2月1日 現 金 $ 100 $ 100 株 主 持 分 $ 100 100 期 首 留 保 利 益 -0- 0-売 上 高 $ 160 売 上 原 価 100 純 利 益 60 ( → 配 当 金 60 留保利益の変動 0- -0-期 末 留 保 利 益 -0- 0-持 分 合 計 $ 100 $ 100 第2表 物財量による結合財務諸表 1月1日 1月中 2月1日 現 金 100個 80個 株 主 持 分 100個 100個 期 首 留 保 利 益 -0一 -0-売 上 高 128個 売 上 原 価 100 純 利 益 28 ト ) 配 当 金 48 留保利益の変動 -0- (20) 期 末 留 保 利 益 -0ー (20) 持 分 合 計 100個 80個 (11) 物的資本維持会計の問題領域を網羅するには勿論不十分である。貨幣性資産としての 売掛金,有価証券,費用性資産としての原材料,製品,固定設備やさらに土地などは少な くとも包摂させなければいけなし、。

(10)

-192ー 第58巻 第1号

1

9

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書と貸借対照表を作成する。 第1表は,資本を名目貨幣資本であるとする立場に立っている。ここでの測 定尺度は,名目貨幣量である。期中の取引の結果,純利益は

6

0

ドルとなり,こ れを全額配当として処分しても,期首の名目貨幣資本は不変である。第1表に おいて示されたすべての数字は経験的事実に合致しており,期中の名目貨幣量 の増分も容易に検証可能である。したがって,この期中増分量(=利益〉を誤っ ていると考えるならば,それは誤った考え方といわなければならなL、。期中増 分量

6

0

ドルは正しい利益ではないと主張するならば,それは,名目貨幣資本以 外の資本概念にもとづく利益計算からの主張である。 第2表は,資本を物的資本であるとする立場に立っている。ここでの測定尺 度は,物財量(ここでは,商品の数量〉である。

1

1

日の現金

1

0

0

個という 表現は,一見奇異に思えるかもしれなし、。しかし,物的資本概念に立脚する限 り,期首あるいは期末の現金は,各々の時点での財(ここでは商品〉をどれだ け購入可能かとみて物財量で表現される。

2

1

日には,名目貨幣量は

1

0

0

ド ル存するが,貨幣が

1

0

0

ドル存するとみるのではなく,この貨幣によって期首

( 1

0

0

ドノレ¥ と同ーの商品が何単位購入可能であるかとみて,

8

0

個(=一一一一一

¥ 1

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の物的資 ドノレ/ 本があると考える。期首の物的資本は,

1

0

0

個であるから,期末には,

2

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個の 物的資本の減少があったことになる。 損益計算書についてみれば,売上高

1

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0

ドルを期末商品のカレント・コスト

1

.

.

2

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ドルで、除した商

1

2

8

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1

0

0

個を差し引き

2

8

倒を純利 益とみる。名目貨幣量による配当金は

6

0

ドルであるので,これは物財量に換算

I 6

0

ドル ¥ すれば,

4

8

個(=一一一一一一)となる。つまり,第

¥ L25

ドル/

2

表は,名目貨幣量で

6

0

ド ルの配当金を支払う限り,物的資本は

8

0

個迄減少することを示しているのであ る。配当金を

2

8

個にとどめる限り,物的資本は維持される。この物的資本概念 による利益

2

8

偲は,名目貨幣量では,

3

5

ドル(=

2

8

XL25

わ り で あ る か ら,これが物的資本による配当可能限度額となる。 ところで 2月 1日の現金

8

0

個は,期首と同ーの商品を購入するとすれば, (12)R.R Sterling, op citpp 10-11

(11)

193 物的資本維持による利益計算 -193ー

8

0

個購入可能であることを示しているにすぎず,実際の取引を表してはいな い。そこには r同一商品を購入するとすれば」とし、う仮定がなされており,そ の仮定に対して批判もある。しかし,科学は実際に起り得た事実のみを測定す るものではなく,そのような測定はしばしば行われている方法である。 第

1

表の名目貨幣量による利益

6

0

ドルと第

2

表の物財量による利益

2

8

個 は,ともに経験的に検証可能な事実を表している。いずれか一方が正しく,他 方が誤っているのではない。第l表と第2表は,利益計算の根底にある資本概 念を異にした結果,利益額が異なって表現されているにすぎない。ただ,第

1

表は名目貨幣量による利益であって,物財量による利益ではないため,全額配 当したり,あるいは,課税によって全額処分されるならば,この企業の実質資 本は漸次的に縮小するということは指摘できるであろう。それが名目貨幣資本 による利益計算の幣害であるといえばいえなくもない。では,第l表の名目貨 幣量による結合財務諸表をどのように修正すれば,物的資本概念による利益計 算に還元できるのであろうか。それには,つぎの

3

つの命題に従って処理する ことであると Sterlingはいう。 ① 商品

1

0

0

個の取得原価

1

0

0

ドルを期末時点のカレント・コストで修正 する〈この場合の修正仕訳は,借方商品

2

5

貸方 株主持分修正

2

5

)

。 ② 商品の取得原価とカレント・コストとの差額は,利益と考えず株主持 分修正とする。 ③利益は物的資本の変化であると考える。また,収益からカレント・コ ストを控除して決定される。 これら3つの条件を考慮して,第1表を修正したものが第3表である。 第3表は,貨幣量で表現されているが,利益計算のメルクマールとなる資本 維持は,物的資本の維持となっている。すなわち,商品

1

0

0

個を

1

6

0

ドルで、販 売し,

1

6

0

ド、ノレの現金を受取っているが,期末において「維持すべき資本」は, 期首と同ーの商品の購入可能量

1

2

5

ドルとみている。設例では

1

月末に利益 (13) R R Sterling, ibid. p 12 (14) R R Sterling, ibid.. p.. 13

(12)

-194ー 第58巻 第1号 194 第3表 名百貨弊最で物財景を測定した結合財務諸表 1月1日 l月中 2月1日 現 金 $ 125 $ 125 株 主 持 分 $ 125 $ 125 期 首 留 保 利 益 -0ー -0-売 上 高 $ 160 売 上 原 価 125 純 利 益 35 (一)配当金 35 留保利益の変化 -0 -0一 期 末 留 保 利 益 -0- -0一 持 分 合 計 $ 125 $ 125 を全額配当にあてているが,配当を行わなかったとして

2

1

日の貸借対照表 を作成すればつぎのようになる。 第l図 貸 借 対 照 表 配 当 可 能 利 益 35ド/レ l -ーーーーーーー---~

- ト

M V -ν h ド ー ・ 動 防 金 川 現 削 第

3

表において 1月1日の現金が125ドルに修正されていることは非常に 奇異に思われる。

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は,この点について次のように述べている。 「現金100ドノレは棚卸資産100単位購入するために使用されたが,現在同一量 を購入するのに125ドル必要とするであろう。かくして, 1月1日の現金は, 2月l日に棚卸資産100単位購入するに必要な貨幣量を反映させるべく,125 ドルと修正すべきである」 しかし,われわれは,物的資本維持による利益計算において期首と同等の物 的財貨の維持がなされている限り,期首時点にさかのぼって財務諸表の修正を (15) R. R Sterling, ibid. pp. 12-13

(13)

195 物的資本維持による利益計算 -195ー 行うことは適切でないと考える。 1月1日に,現金100ドル=株主持分100ド ノレとし, 2月1日に,現金125ド、ル=株主持分125ドルと表示すべきではない かと思われる。 第

3

表は,貨幣量で表現されてはいるが,資本概念は物財量による物的資本 である。利益計買は,物的資本維持,財貨思考で貫徹されている。それゆえ, 端的に物財量で財務諸表を作成するならば,第 4表のようになる。第 4表は, 第3表の数字を期末商品のカレント・コスト 125ドル!で町除せばよく,第3表の 純利益

3

5

ドルが正しい利益を検証するものであると

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は述べている。 第4表 物財量による結合財務諸表 1月1日 1月中 2月l日 現 金 100個 100{図 株 主 持 分 100個 100個 期 首 留 保 利 益 -0 -0-売 上 高 1281閲 売 上 原 価 100 純 利 益 28 (ー)配当金 28 留保利益の変化 -0ー -0 期 末 留 保 利 益 -0 -0一 持 分 合 計 1001困 100個 では,物的資本による利益測定は会計実践としていかなる利点をもちうるの であろうか。企業利益の一般的な計算目的は, (1)配当政策の指針, (2)経営管理 の有効性, (3)現在または将来における企業の投資価値の評価, (4)経営者の受託 責任の尺度, (5)過去の意思決定の評価と将来の意思決定の改善, (6)企業の内外 の意思決定領域における管理上の手段(たとえば,価格政策,法的権利義務の 確定,信用価値の決定など),などが考えられる。 これらのうち,物的資本による利益測定は,①配当政策,租税政策の基礎と (16) R R Ster1ing, ibid pp.. 13-14

(14)

-196- 第58巻 第l号 196 なり,②価格政策に有効な手段となる,のである。 物的資本による利益は,期首と同一の給付能力を維持してなお期末において 超過した剰余であるから,実質資本維持,あるいは企業維持が保証される。名 目貨幣量による利益は,貨幣価値一定の前提のもとでの計算であるから,財一 般の価格騰貴,あるいは,特定の財の価格変動に直面して,架空利益を包摂す る。それゆえ,名目貨幣利益による利益処分は,実質資本の食いつぶしとなる 恐れがあるし,名目貨幣利益に対する課税は資本課税となる恐れがある。物的 資本による利益は,これらの点を除去する。 つぎに,価格政策であるが,販売価格は,商品のカレント・コストに追随し て動くか,パラレルに動くとL、う議論がある。また,販売価格は,カレント・ コストを基礎にして設定すべきであるとL、う議論もある。これらの議論は,歴 史的原価に対してマークアップ率を適用するよりも,カレント・コストに対し てマークアップ率を適用する方が望ましいという考え方である。というのは, カレント・コストにマークアップ率を適用することによって,購入価額の変動 がなければ増加したであろう物的資本増と同じ増加量を得ることが可能となる からである。 このように価格政策に対する利点は,価格を設定する企業の経営者の側から の論理であるが,企業の所有者すなわち株主の側からの利点も指摘できる。 1 つは,株主の配当金への関心は,名目的な貨幣量による配当金の多寡であり,

2

つには,物財量にもとづく利益のもつ将来の利益の予測能力で、ある。 さきの設例において,もし商品の購入価額が変化していなければ,分配可能 利益一一物的資本を減少させずに支払可能な配当ーーは60ドルになってし、た であろう。ところが,カレント・コストにもとづいて販売価格を単位当り

2

ド ルと設定し,売上高200ドル計上すれば分配可能利益は75ドルとなる。かくし て,分配可能利益が全額配当処分されるならば,株主は15ドル余分に配当金を (7) R

R

Sterling, ibid. pp“14-17 物 的 資 本 維 持 に よ る 利 益 計 算 が 実 践 上 も ち う る 意 味 ないし効用については,利益決定の計算構造を原理論の立場から解明する場合,やや脇道 にそれている問題である。しかし,物的資本維持による利益計算の効用それ自体を問うこ とは,政策論に直結するものでは勿論ないと思われる。

(15)

197 物的資本維持による利益計算 -197-受けとることになる。つまり,株主は,商品とし、う財貨の物財量の購入に対し て関心はなく,名目的な貨幣量で受領する配当金でどれだけ多くの消費財が購 入できるかという点に関心をもっているにすぎない。株主は,

6

0

ドルの配当金 と

7

5

ドルの配当金が物財量で‘は同ーの価値であるという点については,無関心 であるといえる。 さらに,物財量による利益は,物的資本を減少させることなく配当として支 払うことのできる最大額という意味での配当可能利益を算定するので,物財量 による利益と同額の利益配当を行うことは,物的資本を同一水準に維持し,利 益も同じ水準で継続させる。企業の所有者であるところの株主の最大の関心は 現在および将来の配当金であるが, この配当金の予測や企業のキャッシュ・フ ローの予測にも物財量による利益は有効である。経営者は,業績利益の多寡と いうよりもむしろ長期的に株価を安定させようと努力しているといわれてい る。この株価は,将来企業にもたらされるキャッシュ・フローの水準によって 決定されるともいわれている。物財量による利益は,株主が将来のキャッシュ・ フローや配当金を予測するために有用な情報を提供する。 このほか,株主は経営者の管理効率

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や意思決定の 評価を行う場合にも物財量による利益は有用性をもっといわれている。

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計算体系成立の諸条件の検討 資本維持それ自体を貫徹しようとする場合

2

つの方法が考えられる。

1

つ は,維持すべき資本を名目貨幣量で測定し,期末資本との比較によって算定さ れた「名目利益」を,一部分財務的に処分不能額として拘束する方法である。 この場合,処分不能額は,帳簿外で計算された実質資本であって,通常,名目 的な貨幣資本に加えて,名目利益が実質利益を超過する部分である。もう

1

つ は,配当可能利益を物的資本維持にもとづく損益計算体系から生じた利益額と する方法である。これはまさに原理論であって,財務的に処分不能額を拘束す ることによって資本維持をはかろうとする政策論とは全く異質である。 しかるに,物的資本維持による損益計算を行おうとする場合,種々の条件や

(16)

-198ー 第58巻 第1号 198 仮定がおかれなければ成立しえないと一般にいわれている。そこでわれわれは, Sterling にならってつぎの 4つの前提条件を吟味し,さらに, Revsineの反論に ついても検討してみよう。 (1) 同一財貨の取替を前提とするか。 (2) 継続的な価格上昇を前提とするか。

(

3

)

異なる市場取引を前提とするか。 (4) 物量単位による完全な投資を前提とするか。 Sterlingは,物的資本維持の計算体系がこれら 4つの前提条件のもとで成立す る特殊な計算体系であることを論証するために,各々の条件の否定型を吟味す る。 (1) 異種の財貨の取替 物的資本維持の利益計算は,しばしば,同一財貨の取替を前提とするもので あるといわれている。果たしてそうであろうか。もし,異なる財貨の取替が行 われるならば,利益計算は一体どういうことになるのであろうか。つぎのよう な具体例にもとづいて考察する。 く設例〉 1月 l日 100 ドルの資本で、営業を開始する。 2日 ミニスカート 100単 位 ( @1ドル〉を購入する。 31日 ミニスカート 100単位を @1リ60 ドルで、販売する。この時点のカレ ント・コストは@ 2ドルで、ある。 2月 2日 マキシスカート (@1れ25 ドル〉で棚卸資産の補充をする。(この資 産は

1

2

日の

12

0

ドルから価格上昇している〉 この設例にもとづいて,利益計算を行うとする場合,つぎの3つの問題に直 面する。 (8) Sterling自身,物的資本による利益計算体系の成立条件として提示した意図では必ず しもなし、。ここにかかげた4つの測定上の問題に限定されたアドホックな利益計算では ないかと言いたいのであろうと思われる。しかし,われわれは,本稿ではこれらの主要な 問題を計算体系成立の前提条件として解釈し検討してみた。 (19) R. R Sterling op. cit pp18-24

(17)

199 物的資本維持による利益計算 -199-① ミニスカート, マキシスカートのいずれの財のカレント・コストを利 益計算の基礎として用いるか。 ② 流行や技術の変化によって,取扱い商品が異なれば,古い商品のカレ ント・コストで物的資本を計算しなければならない。 ③ 異種の財のより抽象的財を計算的基礎として用いる場合,異種の財の 等価を決定づける属性をどうとらえるか。 まず,①の問題であるが,第

5

表は, ミニスカートを基礎とした結合財務諸 表であり,第6表は,マキシスカートを基礎として計算した結合財務諸表であ る。 第5表 現 金 株 主 持 分 期 首 留 保 利 益 売 上 高 売 上 原 価 純利益(損失) ( ー ) 配 当 金 留保利益の変動 期 末 留 保 利 益 持 分 合 計 結合財務諸表 1月 1日 1 月 中 貨弊景 物財量 貨弊f量 物財量 $ 200 100単位 $ 200 100単位 0- -0一 -0一 一 0-$ 200 -0一 一 0-100単位 $ 160 200 ( $40) -0一 80単位 100 (20) -0-2月1日 貨 弊 蓋 物財量 $ 160 80単位 $ 200 100単位 -0- -0-(40) (20) (40) (20) $ 160 80単位 第5表と第6表から明らかなように, ミニスカート,マキシスカートのいず れのカレント・コストを用いるかによって,純利益(または純損失〉は,異なっ てくる。いずれの財を利益計算の基礎として選択すればよいのであろうか,こ こに基本的問題が存する。 つぎに,②の問題であるが,今日企業は技術革新の影響を受けて比較的短期 間に改良された製品が次々と登場しており,また,趣味や流行の影響を受けて, 絶えず変化する環境に適応していかなければならない状況にある。 ミニスカー ト,あるいは,マキシスカートを利益計算の基礎として選択しても,期聞を拡 張して

1

2

月の決算時点では,両方の商品はもはや取扱っておらず,ホットパン

(18)

-200- 第58巻 第1号 第6表 結合財務諸表 1月1日 1月 中 貨弊量 物財量 現 金 $104.16 83.33 株 主 持 分 $104 16 83 33 期 首 留 保 利 益 -0- -0-売 上 高 売 上 原 価 最も 手Ij ナSセIL (一)配 当 金 留 保 利 益 の 変 化 -0一 -0-期 末 留 保 利 益 -0- -0-持 分 合 計 104.16 83.33 (注) (1) 160-:-1 25=128 (2) 100-:-1 2=83..33 (3) 83..33x1 25=104 16 貨弊量 物財量 $160 00 128..00 104.16(3) 83.33(1) $ 55 84 44..67 55.84 44.67 200 2月1日 貨弊量 物財量 104.16 83.33(2) 104.16 83.33 -0- -0--0- -0ー -0- -0-104.16 83.33 ツが販売されているかもしれなL、。ホットパンツが販売されている時に, ミニ スカートあるいはマキシスカートで物的資本を測定することは企業の所有者に いかなる意味をもたらすか,ここにも問題が存する。 最後の③の問題は,異種の財貨の取替えに伴って生じる加法性の問題である。 ミニスカートとマキシスカートの上位概念であるスカートのカレント・コスト を利益計算に用いると配当可能利益は35ドルとなる(第3表,第4表参照〉。 これは,ミニスカートでもマキシスカートでもないスカートの物財量を測定し, 第4表から28個のスカートだけ「裕福」になっているといえる。 1月1日に100 個のオレンジを所有し, 2月1日の決算時に, 128個のリンゴを所有しているな ら, 28個の「果物」だけ裕福になっているということは合理的であろう。しか し,企業の取扱い商品が異種の財貨へと変化してゆくと奇妙なことが起こる。 たとえば 1月 1自に100個のぶどうを所有し 2月 1日に2個のパイナップ ルだけを所有していたならば,

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8

個裕福でなくなっているというのは愚かであ る。われわれは,それをなぜ、愚かと考えるか。それは,ぶどうとパイナップル の本質的差異を無視できるほど等価ではなし、からである。

(19)

201 物的資本維持による利益計算 -201-利益測定においても全く同様なことがあてはまり,スカートとし、ぅ上位概念 を用いるならば,それがどういう意味でミニスカートとマキシスカートに等し くなるのかという問いに答えなければならない。ミニスカートとマキシスカー トがスカートになるとL、し、うるためには,少なくとも,両者の異質の属性(職 人の技量,材料の質,材料の種類など〕を無視し,共通の属性を抽出しなけれ ばならなし、。この場合,物的資本維持の利益測定は, どのような属性によって 等価を決定するか容易に答えられないというのが③の問題である。 Sterlingは,以上のような諸点から,同一財貨の取替を前提としなければ,物 的資本維持の利益計算は成立しえないと結論づける。 これに対して,取替原価主義会計の代表的な提唱者であるレブシンは,取替 が異種資産でもって行われることもあるが,次の

2

つの理由から,重大な問題 とはならないと反論する。 ① 資本維持という概念は,どのような資本維持であれ,本質的に r継続企 業」の仮定にもとづく。種々の資本維持概念のもとでは,各々異なった測 定方法で,継続企業にとって必要な通貨等価物 (currencyequivalent)を測 定するので,種々異なった利益数値を生み出すことになる。かくして,異 なった利益数値は取替の仮定 (replacementassumption)からではなく,そ こで用いられた測定方法から生じる。これらの測定方法は,意思決定有用 性接近法に合致しているならば,理論的に,失格であるとすることもある いは弁護されうるものでもなL。、 ② 同種の財貨と取替えない理由は,しばしば言われているように,技術の 変化に起因する。急激な摩擦が存しなければ,市場メカニズムは, リスク で修正された事前収益 (risk-adjusted

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return)に均衡するように!日 資産と新資産の価格を修正し,それによって旧資産の市場を明らかにする。 摩擦が全くなければ,このような市場均衡過程は,現有資産における収益 (20) L Revsine,“Physical Capital Maintenance: An Analysis" in the book “Main tenance of Capital: Financial versus Physical" edited by Sterling and Lemke, Scholars book Co..1982, pp.87-88

(20)

-202ー 第58巻 第1号 202 率という経済的シグナルが,新資産と漸次的な取替によって生じる収益率 に一般に一致することを意味している。

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は,これらの理由から,同一資産との取替えがなくても,格別厄介な 問題とはならないと反論する。そして,さらに続けてし、う。

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のミニスカートとマキシスカートの例は,技術革新の特別なケース であり,彼は,技術革新が起きる経済システムを無視しているとし、う意味で人 為的な例となっている。その結果, ミニスカートのインプット・コストとマキ シスカートのインプット・コスト聞の必要な関係や価格変動の制約もおかれて いなし、。しかるに,現実の経済システムでは,価格はランダムに決定するので はない。むしろ,摩擦がない場合には 2つの財の価格は,それぞれの財の危 険修正された収益率が等しくなる方向に動く。このことは, (現在のマーケッ ト・インブグト・コストにもとづく)旧資産の見込収益が(やはり現在のマー ケット・インプット・コストにもとづく)新資産の見込収益に等しくなる傾向 があることを意味する。価格下落時に旧資産を保有する企業は,明らかに保有 損失を蒙るが,見込収益が等しくなると,当該企業は,新資産で保有しようと 旧資産で保布しようと差異はなくなる。……かくして,どちらの財のカレント・ コストを用いるかという問題は深刻な問題ではなし、。 以上のとおり,物的資本維持による利益計算体系は,

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のように異質の 財貨の取替えでは成立しえないとし、う見解と取替原価主義の理論的基礎を樹立 した

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のような意見が賛否両論の典型としてある。時価主義会計を論じ る場合にもこのような同ーまたは同種の財貨の取替が行われず,技術革新の影 響でたんに性能が高まった財というよりも質的に異なった財による取替がつぎ つぎと生じるので,このような場合,旧資産のカレント・コストを用いるか, 新資産のカレント・コストを用いるかとし、う重大な問題が起こる。かりに旧資 産のカレント・コストを用いるにしても,中古市場が存し価格が容易に入手で きる場合はまだしも,中古市場がない特殊な機械のような場合,利益計算は不 可能となる。そこで,企業が実際に使用している物的資産ではなく,同等の給 付能力をもった資産と取替調達すると仮定した場合のカレント・コストを用い

(21)

203 物的資本維持による利益計算 -203ー るべきであるという主張が出てくる。しかし,このような場合にも, Sterlingの 具体例において指摘されたスカートという仮定的な財のカレント・コストを用 いた利益計算にならざるを得ない。また,そうした仮定的数値による利益計算 それ自体,期末資本に内在する物的期首資本の確認を困難にならしめるもので ある。 Revsinの反論の中で注目すべき点は,継続企業にとって必要な通貨等価物を 意思決定有用性の見地からとらえている点である。これは,情報論的立場から, 会計情報の受け手iである特定の利用者の意思決定に対する有用性を強調する立 場であり,資本維持を利益計算の尺度として厳密にその計算構造を展開しよう とする立場とは異なっているように思われる。技術革新による新旧資産の経済 システムの中での価格決定のメカニズムに対する Revsineの見解の妥当性に ついては,にわかに判断を下し難いが,旧資産の市場が明瞭になりその価格が 容易に入手し得ても,物的資本維持は,所詮生産物の種類を異にすると,期末 資本に内在する期首資本の存在量の確認が困難となり,理論的に限界があるよ うに思われる。つまり,価格のような価値的側面では把えられず,特定の商品, 製品という財貨にかかわらしめて,その物財量によって測定するほかないゆえ, 新旧いす';hの財でh評価し,利益計算するかとL、う選択の問題は避けられないよ うに思われる。 (2) 価格の下落 Sterlingは,物的資本維持思考のもとでは,価格の上昇が前提となっているの で,価格下落時には適用出来ないと主張する。では一体価格下落時にどのよう な不合理が生じるのであろうか。 インフレーシヨンの時期には,物価は上昇するが,特定の財は,インフレー (21) L Revsineの著書“ReplacementCωtAα:ounting" Prentice-HaII, 1973の子細な検 討は今後にゆずる。しかし,この著書の基礎的前提,分析視角は明らかに情報論的立場で あることを切らかにしている。ppxii-xiiiなお,Revsineの取替原価会計の理論的基礎に ついては,玉田啓入箸「企業利益計算論」中央経済社 昭和57年 105-140頁に詳細な紹 介と検討がなされている。 (22) R. R. SterIing, op.citpp 24-28

(22)

204 第l号 第58巻 -204-ションの時期でも下落する。たとえば,近年みられる小型計算機はその良い例

1

まず, である。そこでこの小型計算機を販売する企業の例を考えてみよう。 月

2

日に計算機

1

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個(@

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を購入し

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3

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日に

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個を全部販売する。 この時のカレント・コストは@05ドルに下落しているとしよう(小型計算機の

1

個当りのカレント・コストの60%増に設定されるものとする〕。 l月末に価格が下落しているので,物的資本維持会計で 定価は, さてこの例の場合, つぎの修正仕訳が必要となる。 t主, 50 (貸方〕棚卸資産 50 (借方〕株主持分 販売時に また, 50 と記入される。問題は,計算機1個当りの販売価格であるが,一応、定価はl個 当り

1

れ60ドルに設定されるが,市場価格は販売時に

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ドルに下落しているの これら で,定価通り販売できず,

0

8

ドルで販売せざるを得なくなる。そこで, を貸借対照表と損益計算書で表したものが第

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表である。第

7

表は,計算機

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1

月末に全部販売し,取替資金が残留して物的資本が

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1

日に 個を仕入れ, 維持されていることを示そうとしている。 結 合 財 務 諸 表 2月 1日 貨弊量 物財量 $ 50 100個 50 100 -0一 一 0-1月 中 貨弊景 物財量 1月1日 貨弊量 物財量 $ 50 100個 $ 50 100 -0一 一0一 160個 100 60 60 ∞仰閉山一一

ω ω

$ -0一 一 0-100個 -0一 一0一 $ 50 -0一 一 0-100個 0- -0-$ 50 現 金 株 主 持 分 期 首 留 保 利 益 ~TC 上 売 上 原 価 純 利 益 ( → 配 当 金 留保利益の変化 期 末 留 保 利 益 持 分 合 計 (注) この表においても, Sterlingはすでに述べた理由から月1日の現金 は50ドルとし 2月1日の現金も50ドルと表わしている。 2月1日の現金 ;?目上は80川あるが,カレント コストて"50ドルであると考えてい (貸方〉棚卸資産 50 (借方〕売上原価 第7表

(23)

205 物的資本維持による利益計算 -205-しかし,非常に奇妙なことに気づく。それは,この企業が計算機100個を 100ド ルで購入し,それを80ドルで、販売し, 30ドルの利益を報告している点である。 これ自体,極めて愚かなことであるが,

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は,企業と株主の「裕福さ」が 相違してくる点を指摘する。つまり,価格上昇時には,企業は,利益を得て裕 福になっているし,株主もまた配当金の増大によって裕福になる。しかし,価 格の下落時には,企業は裕福になっても,株主は,配当金の減少によって貧し くなる。上記の例で,計算機の市場価格が

1

ドルのままで変化していなければ, 60ドルの配当金を得るが,価格下落のため,配当金は30ドノレに減少して株主は 損失を蒙っているというのである。 以上のように,物的資本維持会計においては,最悪の場合,価格下落時に, 企業は利益を示すが株主は損失を蒙るというような矛盾を示すので,価格上昇 時に,物的資本維持論者が名目貨幣利益の幣害を回避したのと同じ理由で,価 格下落時には,物財量による利益の幣害は回避されなければならないとL、う。 そして,

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は,物財量による測定値は,価格下落時にはほとんどの企業に 適用できないと結論づけている。 こうした彼の見解に対して,

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は次の

2

点から反論する。まず第

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に, 第8表の操業利益30ドルは,明らかに,販売された100個の財の事後的解釈

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であるが,経済的に事前的解釈を行うことも可能であ る。すなわち,もし,原価や価格が将来変化しなければ, または,原価や価格 が変化しても,利益が1個当り 30セントの水準でとどまるならば,企業は,販 売した財 l個当り 30セントの利益を獲得できると期待される。したがって,第 7表の 30ドルは奇妙な利益で、はない。 第2に,価格下落時に物財量による測定はほとんどの企業に適用できなくな ると

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は言っているが,経験的調査では,価格下落時にも,或る種の企 業は,カレント・コスト会計を用いていたし,経営者はカレント・コストの必 要性を認識していたという点である。すなわち,アメリカの請負企業では,請 負の入札に際して,カレント・コスト以下での入札を回避しようとしているし, (23) L

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t..p.88

(24)

-206- 第58巻 第1号 206 価格下落のある競争的環境では,経営者は,カレンいコストを入札のフロアー と考えていると Revsineは反論する。 Revsineの反論の第1の点について,われわれは何故に事後的利益計算の論 理!の中に事前的解釈を持込み正当化せんとするのか,の点について全く了解不 能である。しかし, Revsineの第2の点については,つまり,価格下落時にもカ レント・コスト会計が実践上用いられているとするならば,

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のし、う物的 資本維持会計は価格下落時にほとんどの企業に適用できなくなるとの見解に対 する一応の反論として成立するようにも思える。 翻って当初の問題に立ち返り,物的資本維持による利益計算は価格下落に適 用できないのであろうか。物的資本維持による利益計算では,確かに文献上は, 暗黙に価格上昇を前提としているようである。しかし,常に価格上昇を前提と して成立するゆえ,価格下落には適用出来ないとする

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の見解には疑問 をもっ。同一財の生産・販売を行う企業が,期首と同一財でもって取替を行う ならば,たとえ,価格の下落が起こりえても計算体系は成立すると思われる。 さきの小型計算機の例を,つぎのように,損益計算書と貸借対照表に表してみ よう。 損 益 計 算 書 売 上 原 価 50

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売 上 高 80 純 利 益 30 I

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80 貸 借 対 照 表 現 金 80 資 本 金 100 資 本 修 正 50 純 利 益 30 130 130 貸借対照表には,価格下落にともなった資本修正50ドルを借方に表示してい る。したがって,利益計算の基準となる期末における「維持すべき資本」は50 ドルとなる。この 50ドルは,計算機100個を示す。この企業は 1ドルで、商品

(25)

207 物的資本維持による利益計算 -207-を購入した。しかし,価格が

1

5

0

セントに下落した。そして,定価の半額の 80セントで販売した。それゆえ,仕入原価の修正がなされたわけであるから, 操業利益は全体で30ドル計上しても何ら奇妙とはし、えなし、。 Sterlingは,企業 の「裕福さ」と株主の「裕福さ」が同一方向に向かわず矛盾するといっている が,企業の側は,物財量による利益計算で,株主の側は,一般消費財の購入と いう観点から名目貨幣額によると言ってしまえば確かに矛盾する。しかし,株 主は受領した配当金30ドルで、小型計算機を60個購入できるわけで司あるから, もし価格が期末において下落せずカレント・コストが

1

ドノレのままとどまって いるならば, 60ドルの配当金を得ており,それによって,小型計算機60個を購 入できる現金を入手するので,そのような意味では,株主は損失を蒙っていな いのではあるまいか。このように考えてくれば,物的資本維持による利益計算 は価格上昇を前提とし,価格の下落には妥当しないということは正当とは思わ れない。 (3) 同一市場 つぎに, Sterlingはカレンいコストによる物的資本維持計算では,購入市場 と販売市場を異にする商企業または製造企業について語られるので,購入と販 売が同一市場でされる場合,物財量による利益は常に零になり不合理で、あると 指摘する。 たとえば,信託基金を扱う会社を例にとろう。 1月 1日に

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の株式100株

(@

$

1 00)を購入し 2月1日に全部を160ドルで売却したとしよう。この 場合,会社は 100株購入する資金100ドノレで営業開始し, 100株購入可能な資金 160ドルで、終了しているので,物財量による利益は零となる。物的資本は100株 で維持されている。期末において,売上高160ドルに対応する売上原価は160ド ルで-利益は零で、ある。反対に期末に

GM

の株式が

1

0

.

.

7

5

ドルに下落し,その 価格で処分がなされても,やはり物的資本は維持され,利益は零となるであろ う。同様なことは,金,銀の売買業者にもあてはまる。 そこで, Sterlingは,一般に同一市場で売買が行われる企業は,常に物財量に (24) R. R Sterling, op. cit. pp. 28-29

(26)

-208- 第58巻 第1号 208 よる利益は零になり,こんな愚かな事はないという。 (25) Revsineは,この点に関して次のような見解をとなえる。物的資本維持会計 においては,或る特殊な状況のもとでは未解決の問題が出てくる。上記の“

T

r

a

-ding firm"の例がそれであり,ここに文字通りの物的資本概念を適用すれば, どのような利益も保有利得になるから,企業は利益を反映しなくなる。そこで, このディレンマを解決するためには,会計システムの設計において,企業聞の 基本的差異を認識し,それを会計システムに反映させなければならなし、。

T

r

a

-ding firmは,製造企業や卸売企業と異なり,保有活動が営業活動に統合されて いる。営業利益は,資産取得の後に生じる価格変動のみから成り立っている。 それゆえ,保有利得は営業利益であるから,そのように処理されるべきである。 以上のように, SterlingもRevsineも,物的資本維持による利益計算は,異 なった取引市場を前提としなければならない点では全く同じ意見である。われ われもまた同一市場で売買する企業には適用できないと考えるものである。 (4) 部分的な投資 最後に,収益にカレント・コストを対応させ分配可能利益を測定し,それに よって,物的資本維持を行おうとする物的資本維持会計は,物量単位による完 全な投資を前提とするものであり,不完全な投資では物的資本は維持されてい ないと Sterlingは主張する。これは一体どういうことであろうか。具体的設例 に即して考えてみよう。 く設例〉

1

1

日に,現金

1

0

0

ドノレで、営業を開始する。そして,商品

8

0

個を

8

0

ドル で購入する。

1

3

1

日に,商品

l

個につき

1

.

.

6

0

ドルで

8

0

個現金販売する。こ の時の再調達のカレント・コストは

1

1

.

.

2

5

ドノレとする。 この場合,収益

1

2

8

ドル(=

L60x80)

からカレント売上原価

1

0

0

ドル(=

1

.

.

2

5

x

8

0

)

を控除して分配可能利益は

2

8

ドルと算定される。ところが,この分 配可能利益を企業外に配当金として流出してしまうと企業は物的資本は維持さ れていないという状態が起こる。なんとなれば,期首の物的資本は商品

1

0

0

個 (25) L Revsine, op..citpp.91-92

(27)

209 物的資本維持による利益計算 -209-分 に 相 当 し , 期 末 の 物 的 資 本 は 商 品 開 ( = 現

F

ぉ : つ に な り , 物 的 資 本 は

4

個減少しているからである。 第2図 期首B/S P/L 現 金 20:1資本金…----1-0-0-_

.,1商0品0個 売上原価 100売 上 128 商 品 80t---z 純 利 益 28

100 100 128 128 期末B/S 現 金 148 1:資 本 金 100: 怜商品 96個 資 本 修 正 20 : 純 利 益 28

148 何故にこのような事態が生じたのであろうか。それは,期首に現金100 ドル を全額商品に投資せず20ドノレは保有し続けたから保有損失が生じたので、ある。 貨幣の保有損失は

5

ドノレと計算される。なぜなら,期首には

2

0

ドノレで商品

2

0

個 / 20¥ 購入できたが,期末には

2

0

ドルで

1

6

個(=一一一)しか購入できず商品

4

個損

¥ 1

2

5

/

失が生じ,これは

5

ドル(=

1

25X 4

個〉であるからである。そこで期首の物 的資本の維持をはかるための処理として,この保有損失を

P/L

に加えなければ ならなくなる。

5

ド、ルの保有損失を

P/L

~,こ計上した後の配当可能利益は 23 ド ルで,これが“正しい利益"となる。このように保有損失を計上しなければな らないということは,すでに述べた

3

つの命題のうちの③“利益は物的資本の 変化と考える。また,収益からカレント・コストを控除して決定される"が不 正確であるということになる。 このような問題は,多種の製品を製造する企業の場合, A製品は期末に価格 が上がり,

B

製品は価格が下がると,

A

製品を基準にすると現金の保有損失が 生じ, B製品を基準にすると現金の保有利得が生じることになり,深刻な事態

(28)

-210- 第58巻 第1号 210 となる。現金を保有しないような企業は存在しないので,物的資本維持会計は, 以上のような問題が解決されないと企業には適用できないと結論づける。 物的資本維持による利益計算では,期首の物的資本と期末の物的資本の比較 による利益決定方法であることは,すでに繰り返し述べたところである。この 場合 r維持すべき資本」となる期首の物的資本の測定が,名目資本維持による 利益計算のように簡単ではない。現金や有価証券などの貨幣性資産はもともと 物的資産ではないので物的資産に換算する必要がある。これまでの設例では, 企業が販売する製品(もしくは商品)に換算して期首の物的資本を確定する立 場から論述が展開されている。それゆえ,複数の製品を販売したりする場合, いずれの製品で物的数量資本に換算するかとか,貨幣性資産を期首に一部保有 している場合,やはりいずれの製品を基準にして物的数量資本を求めるかとい う問題がさけられなくなる。そうした意味では,貨幣性資産をすべて製品購入 にあて単一製品を販売している企業の場合,物的資本の測定が容易となる。 V 結 び われわれは,利益計算の根底にある会計上の資本概念を貨幣資本としてでは なく,物的数量資本として一応認識可能で、あるとし、う大前提に立って, しから ば , そ の 計 算 体 系 成 立 の 前 提 と な る 条 件 は 何 か と い う 視 点 か ら 若 干 の 考 察 を 行った。 会計の計算対象は貨幣資本であり,物的資本ではないという考え方もありう ると思われるが,本稿ではそうした前提となる大問題には立ち入らず,期首資 本を企業の生産力や販売能力(具体的には,製品・商品の数量〉にかかわらし (26) 物的資本による利益計算において,貨幣性資性をどうみるかは非常に難しL、。たとえ ば.BjS上の現金は,投下資本の資源配分された資産項目のー形態であると同時にその時 点におけるすべての資産の共通分母(価値尺度〉としての機能を果たしている。資産項目 のー形態という点から物財量として認識できなくもないが,それは無理があると思われ る。期首と同一量の現金が期末において存在しても,当該企業の棚卸資産の価格が上昇す れば,製品の生産・販売能力の維持がなされたことにはならなL、からである。また,物財 に換算する場合も一般消費財の物価指数は,個別企業によって購入パターンが違ってい るので適用できないので,現金を修正するための指数は,困難な問題といえる。

(29)

211 物的資本維持による利益計算 -211-めて認識可能とするならば,利益計算論としてどのような個別具体的諸条件が 最少限度必要!とされるかを考えた。そして, ここでえた暫定的な結論は,取引 市場を異にして,単一製品を販売する企業においては,物的資本維持における 利益計算の基本的考え方を貫徹でき,その他の場合は,非常に困難であるとい うことである。勿論,数多くの仮定や前提,さらには仮設的数値を導入するな らば,どのような企業の利益計算にも適用可能であるといえようが,理論形成 上適当か否か疑問とするところである。 本稿では,物的資本維持による利益計算の諸問題を概略把握しえたに過ぎず, 再検討を要する問題や本稿で触れられなかった多くの問題が残されている。そ れらは,厳密な物的資本の概念規定と資産評価基準の関連,技術革新と固定設 備のカレント・コストの問題,保有利得の性格の問題,自己資本維持が総資本 維持かの問題などである。これらは,別稿にゆだねたい。

参照

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