低温要求量の少ないモモ品種 ‘KU-PP1’ の少加温栽培
別府賢治・谷口紗里奈・片岡郁雄Forcing culture of lower-chilling peach cultivar
ʻKU-PP1’ with minimum heating
Kenji Beppu, Sarina Taniguchi and Ikuo KataokaAbstract
Plant growth and fruit quality of lower-chilling peach ʻKU-PP1’ grown in a minimum-heated plastic house from 500 to 1000 h of chilling accumulation were investigated. When the trees planted in the ground were forced from 500 CH, bud burst, flowering and harvest occurred one month earlier than the open field conditions, and fruit were harvested in early-May. When the trees grown in containers were covered with a plastic film from 500, 750 and 1000 CH, times of bud burst and harvest were one month earlier than those of the open field trees, although their time differences among chilling hours were small. Harvest time of all the forced trees was mid-May. The earlier the onset of forcing, the higher the fruit quality. These results indicated that forcing culture with minimum heating from early season using lower-chilling peach ʻKU-PP1’ enables early harvest as early to mid-May.
Key Words : forcing, low chill, minimum-heated greenhouse, Prunus persica.
緒 言 モモ(Prunus persica L.)では他の果樹と同様に,早 期出荷による収益の増大や高品質果実の安定生産,労 働力の分散などを目的として施設栽培が行われてい る(1,2).しかしながら,休眠打破に7.2℃以下で約1000時 間の低温遭遇を要する従来の日本のモモ品種を用いた加 温促成栽培では,果実の販売単価は上がるものの,燃料 コストが大きく,エネルギー効率に課題がある.これに 対して,亜熱帯地域で栽培されている低温要求量が約 200時間と少ないモモ(3)は,気温のかなり低い時期から 生育を始めることから(4),施設栽培においても少ない加 温での早期収穫が可能かもしれない.一方で,この少低 温要求性モモは果実品質に劣るため,我々はこれに日 本のモモ品種を交配し,得られた実生から低温要求量が 比較的少なく早生で果実品質の優れるものを選抜してき た(4).その中で,ʻ白鳳’ に ʻFlordaprince’ を交配して得 られた選抜系統 HKH×FLP3を新品種 ʻKU-PP1’ とし て登録した(5).この品種は,低温遭遇約500時間からの 加温開始が可能であることがガラス温室を用いた加温栽 培で確認されている(6).このコンテナ植え樹を用いて, 暖房費節減のために低温障害を避ける程度の加温(少加 温)を,多低温要求性品種と比較するために低温積算 1000時間から行ったところ,ʻKU-PP1’ では多低温要求 性品種よりも2週間ほど早く萌芽,開花し,5月中旬に 収穫することが可能であった(7). 本実験では,少ない燃料コストでのより早期の収穫の 可能性を探るため,低温積算500時間からの被覆による 少加温栽培を ʻKU-PP1’ の地植え樹とコンテナ植え樹を 用いて行い,各生育時期と果実品質を調査した. 材料および方法 実験1.地植え樹における低温積算500時間からの少加 温栽培 香川大学農学部研究圃場で栽培している低温要求量の 少ないモモ品種 ʻKU-PP1’ を用いた.いずれも地植えの モモ台木筑波1号に接いだ5年生の個体である. 低温積算(7.2℃以下)が500時間に達した2012年12月 26日に,ʻKU-PP1’ 3樹を植えているパイプハウスを塩 化ビニルで二重被覆した.低温障害を避けるため,ハ ウス内温度が2℃以下の時のみ温風暖房機により加温し た.日中は25℃以上で換気した.露地の地植えの3樹を 対照とした.ハウス内と露地の気温をサーモレコーダー
(RT-12,エスペックミック)により記録した. 葉芽と花芽の萌芽開始日,満開日,収穫日をそれぞれ 調査した.約8割の花蕾が開花した日を満開日とした. 収穫日は,全果実の収穫日の平均値で示した.満開日か ら収穫日までの期間を成熟日数とした. 開花当日に平均的な花を1樹当り5個採取し,1花 重,花弁長,雌ずい長を調査した.葯を集めて20℃の人 工気象器で開葯させた後,ショ糖15%,寒天1%を含む 培地上での花粉発芽率を調査した.幼果期に,一般的な モモの摘果基準(8)に従って摘果した.収穫時に,果実 重,果実縦横径,果汁の可溶性固形物含量と滴定酸含量 を測定した.果汁の可溶性固形物含量は,屈折糖度計で 測定した.果汁を0.05 N水酸化ナトリウムで滴定し,リ ンゴ酸として滴定酸含量を算出した. 実験2.コンテナ植え樹による少加温栽培での被覆開始 時期の検討 コンテナ植えのモモ台木筑波1号に接いだ3年生の ʻKU-PP1’ を用いた.低温積算が500, 750, 1000時間に達 した2012年12月26日,2013年1月7日,1月22日に3個 体ずつを上述のビニルハウスに搬入した.低温積算500 時間からの少加温栽培では,別の3個体に0.5%シアナミ ド溶剤(CX-10, 日本カーバイド工業)を被覆開始前に 噴霧した.3個体を対照として露地で栽培した.実験1 と同様の調査を行った. 結果および考察 実験1.地植え樹における低温積算500時間からの少加 温栽培 ʻKU-PP1’ を用いた少加温栽培では,花芽の萌芽が1 月18日,葉芽の萌芽が1月23日から始まり,2月18日に 満開となった(第1表).これらは,露地栽培に比べて 1か月ほど早かった.花芽の萌芽から満開までの日数 は,少加温栽培で露地栽培よりも10日ほど長かった.果 実の収穫日は少加温栽培で5月9日であり,露地栽培と 比べて40日ほど早かった.成熟日数は,少加温栽培で露 地栽培よりも10日間短かった.萌芽から満開までと満開 から収穫までの温度を少加温栽培と露地栽培で比較する と,前者は少加温栽培で1.6℃,後者は露地栽培で1.5℃ 平均気温が高かった(第1図).いずれも平均気温が高 いほうで生育日数が長くなっており,平均気温により生 育日数の差異を説明することはできなかった. 花重は少加温栽培で露地栽培よりもやや大きく,これ は花弁の肥大によるものであった(第2表).モモやオ ウトウでは開花期前後の気温が高いほど花器が小さくな ることが報告されているが(9,10),萌芽から満開にかけて の気温は少加温栽培でやや高かったことから,気温以外 の要因が花器の大きさに影響したとみられる.一方,雌 ずい長や花粉発芽率には栽培法による差異がみられな かった. 果実重は少加温栽培で露地栽培よりも小さく,これは 横径の減少によるものであった(第3表).一般に,果 実の生育初期の気温が高いと細胞分裂の促進による細胞 第1表 地植え樹における少加温栽培と露地栽培での各生育時期の比較 栽培法 低温遭遇時間 被覆開始 萌芽開始日 満開日 収穫日 葉芽 花芽 少加温 500CH 12/26 1/23(28) 1/18(23) 2/18(31) 5/9(80) 露地 ― 2/25 2/25 3/19(22) 6/17(90) 括弧内の数字は,萌芽は被覆後の日数,満開は萌芽後の日数,収穫は満開後の日数 第2表 地植え樹における少加温栽培と露地栽培での花器の発育の比較 栽培法 低温遭遇時間 花重(mg) 花弁長(mm) 雌ずい長(mm) 花粉発芽率(%) 少加温 500CH 340.3±10.9Z 25.2±1.1 18.3±1.7 71.9±6.9 露地 278.8±11.8 20.8±0.7 19.5±0.2 69.5±6.2 Z :標準誤差(n=3) 第1図 生育期間中の少加温ハウス内と露地の気温 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 気温 ( ℃ ) ハウス 露地 500CH 1000CH 750CH 第1図 生育期間中の少加温ハウス内と露地の気温
数の増加により果実が大きくなることが知られている が(11),満開から1か月間の気温を比較すると,果実の小 さい少加温栽培で気温はやや高くなっていたことから, 他の要因が影響していると思われる.一方,糖度や酸度 には栽培法による差はみられなかった. 実験2.コンテナ植え樹による少加温栽培での被覆開始 時期の検討 低温遭遇500, 750, 1000時間からの少加温栽培で,萌 芽開始日,満開日,収穫日はそれぞれ1月下旬,2月下 旬,5月中旬であり,被覆時期が早いほど全体的に各生 育時期が早くなったものの,その差はわずかであった (第4表).しかしながら,露地栽培と比較すると,いず れも1か月ほど早かった.通常の加温栽培では低温遭遇 500時間からの加温のほうが1000時間からの加温よりも 各生育時期が早いことが報告されている(12).このことに ついて,少加温栽培では12月下旬から1月下旬にかけて のハウス内の平均気温が9.2℃と低く(第1図),そのた めに早い時期からの少加温栽培では生育の進行が遅れた と思われる.加えて,低温遭遇量が少ないほど萌芽に要 する温度積算(GDH:growing degree hours)が大きくな
ることも(13,14),低温遭遇時間の短い樹ほど萌芽までの日 数が多くなった一因と考えられる.一方,同じ500時間 からの被覆でも,実験1の地植え樹に比べて実験2のコ ンテナ樹では萌芽や開花,収穫が5日ほど遅れていた. これについては,コンテナ植えのほうが根域の温度が低 かったために,萌芽前に生じる発根が遅れたのかもしれ ない.低温遭遇500時間のシアナミド処理では,花芽の 萌芽は無処理に比べて4日早まったものの,葉芽の萌芽 や開花,収穫の時期への影響は認められなかった.低温 要求量が不足している300時間からの加温栽培ではシア ナミド処理の効果が認められたが(6),低温要求量が満た されている状態では効果が少ないと考えられる.同様の 現象は,ナシでも報告されている(15). 花重や花弁長は低温遭遇750時間からの被覆で最も大 きく,次いで1000時間で大きかった(第5表).シアナ ミド処理区の花重はこれらよりもさらに大きい値を示し た.花粉発芽率は,少加温栽培で70%前後と高かったの 第4表 コンテナ植え樹の少加温栽培における被覆開始時期が各生育時期に及ぼす影響 栽培法 低温遭遇時間 シアナミド処理 被覆開始 萌芽開始日 満開日 収穫日 葉芽 花芽 少加温 500CH ― 12/26 1/26(31) 1/23(28) 2/22(30) 5/14(81) 500CH 有 12/26 1/25(30) 1/19(24) 2/23(35) 5/12(78) 750CH ― 1/7 1/28(21) 1/27(20) 2/23(27) 5/14(80) 1000CH ― 1/22 2/1(10) 1/27(5) 2/28(32) 5/16(77) 露地 ― ― 2/25 2/19 3/25(34) 6/12(79) 括弧内の数字は,萌芽は被覆後の日数,満開は萌芽後の日数,収穫は満開後の日数 第3表 地植え樹における少加温栽培と露地栽培での果実形質の比較 栽培法 低温遭遇時間 果実重(g) 果実径 糖度(Brix) 酸度(%) 縦(mm) 横(mm) 少加温 500CH 96.5± 9.1Z 53.0±1.7 56.2±2.3 14.0±0.9 0.24±0.02 露地 141.2±14.9 53.8±0.9 68.3±2.6 13.6±0.3 0.21±0.01 Z :標準誤差(n=3) 第5表 コンテナ植え樹の少加温栽培における被覆開始時期が花器の発育に及ぼす影響 栽培法 低温遭遇時間 シアナミド処理 花重(mg) 花弁長(mm) 雌ずい長(mm) 花粉発芽率(%) 少加温 500CH ― 287.7±13.9Z 23.0±0.6 15.3±0.8 75.1± 8.5 500CH 有 370.9±18.1 25.6±1.0 16.7±0.9 67.3±12.5 750CH ― 352.1± 1.3 26.4±0.3 17.3±0.6 74.4± 8.2 1000CH ― 321.5± 8.4 25.4±1.1 17.3±0.5 74.7± 8.6 露地 ― 306.2±11.8 20.1±0.9 16.1±0.9 47.8± 9.7 Z :標準誤差(n=3)
に対して,露地栽培では48%と低かった.露地栽培では 萌芽期に-2℃の日最低気温を記録していることから, 花粉形成初期の低温による影響があったのかもしれな い. 果実重は500時間からの被覆で106gと最も大きく,他 区では70~80g前後であった(第6表).糖度はシアナ ミド処理区で最も高く,無処理の少加温栽培では,500, 750時間からの被覆で1000時間のものよりも糖度が高 かった.酸度には被覆開始時期による大きな差異はみら れなかった.全体的に,被覆時期が早いほど果実品質が 優れる傾向が認められたことについて,被覆時期が早い ほど萌芽から収穫までの期間がやや長かったことと関係 しているのかもしれない. 以上のことから,低温要求量の少ないモモ品種 ʻKU-PP1’ の少加温栽培では5月上中旬に収穫できることが示 された.被覆開始時期について,低温遭遇500~1000時 間の間で収穫時期に大きな差はなかったが,果実品質は 500時間からの被覆で最も優れていた.少加温栽培では 被覆開始時期を早めても収穫期の促進にはいたらないも 第6表 コンテナ植え樹の少加温栽培における被覆開始時期が果実形質に及ぼす影響 栽培法 低温遭遇時間 シアナミド処理 果実重(g) 果実径 糖度(Brix) 酸度(%) 縦(mm) 横(mm) 少加温 500CH ― 105.8±16.5Z 56.5±1.4 59.3±2.5 12.8±1.4 0.23±0.01 500CH 有 75.9± 3.7 50.0±1.2 51.9±1.8 15.6±0.2 0.22±0.00 750CH ― 81.8± 8.5 52.0±2.0 52.5±1.5 13.5±0.8 0.22±0.01 1000CH ― 86.4± 1.8 52.3±0.5 54.8±0.0 11.8±0.0 0.20±0.00 露地 ― 67.6± 5.1 45.3±1.2 51.8±1.6 14.5±0.4 0.21±0.00 Z :標準誤差(n=3) 引 用 文 献 のの,果実品質の向上には早い時期からの被覆が有効で ある可能性が示された. 摘 要 低温要求量の少ないモモ品種 ʻKU-PP1’ について,低 温遭遇500~1000時間から少加温栽培(2℃以下の時の み加温)を行ったときの樹の生育時期や果実品質を調査 した.地植え樹を低温遭遇500時間から少加温栽培した ところ,露地栽培に比べて萌芽や開花,収穫の時期が 1か月ほど早くなり,収穫は5月上旬であった.コンテ ナ樹を用いて低温遭遇500~1000時間から少加温栽培を 行ったところ,いずれも露地栽培に比べて萌芽や開花, 収穫は1か月ほど早まったものの,被覆開始時期による 差はわずかであり,収穫日はいずれも5月中旬であっ た.果実品質は被覆開始時期が早いほど優れていた.こ れらのことから,低温要求量の少ないモモ品種 ʻKU-PP1’ を用いた早い時期からの少加温栽培により,5月上中旬 の収穫が可能であることが示された. ⑴ 遠藤 久:モモ基本技術編 ハウス栽培.農業 技術体系 果樹編6 モモ・ウメ・スモモ・アン ズ 追録12.pp.163-174.農山漁村文化協会,東京 (1997). ⑵ 久保田尚浩:モモ 施設栽培.杉浦明編著,新編 果樹園芸ハンドブック.pp.488-493.養賢堂,東京 (1991).
⑶ Byrne, D. H., Sherman, W. B. and Bacon, T. A. : Stone fruit genetic pool and its exploitation for growing under warm winter conditions, In: A. Erez (ed). Temperate Fruit Crops in Warm Climates. pp.157-230. Kluwer Aca-demic Publishers, Netherlands (2000).
⑷ Maneethon, S. : Evaluation of growth characteristics and improvement of low-chill peach for forcing culture.
(2007). [Doctoral Thesis, Kagawa University] ⑸ 別府賢治,家形麻里,真鍋徹郎,片岡郁雄:低温要
求量の少ないモモ新品種 ʻKU-PP1’.園学研,13別 2,362(2014).
⑹ Beppu, K., Yamamoto, S. and Kataoka, I. Examination of time of heating in forcing culture of lower-chilling peach selection HKH × FLP3. Acta Hort., 1059, 201-204 (2014). ⑺ 別府賢治,中平知芳,片岡郁雄:低温要求量の少な いモモ選抜系統のビニル被覆による促成栽培.香川 大農学報,65,21-24(2013). ⑻ 松川 裕:モモ基本技術編 摘果.農業技術体系 果樹編6 モモ・ウメ・スモモ・アンズ.pp.36-38. 農山漁村文化協会,東京(1984).
⑼ Kozai, N., Beppu, K., Mochioka, R., Boonprakob, U., Subhadrabandhu, S. and Kataoka, I. : Adverse effects of high temperature on the development of reproductive organs in ʻHakuho’peach trees. J. Hort. Sci. Biotech., 79, 533-537 (2004). ⑽ 別府賢治,岡本茂樹,杉山明正,片岡郁雄:開花 期前後の温度環境が甘果オウトウʻ佐藤錦’ の花器 の発育と結実に及ぼす影響.園学雑,65,707-712 (1997). ⑾ 米森敬三:果実の発育と成熟.最新果樹園芸学. pp.177-194.朝倉書店,東京(2002). ⑿ 別府賢治,岩村舞子,片岡郁雄:低温要求量の少な いモモ品種 ʻKU-PP1’ の加温ハウスによる促成栽培. 香川大農学報,67,37-40(2015).
⒀ Pawasut, A., Fujishige, N., Yamane, K., Yamaki, Y. and Honjo, H. Relationships between Chilling and Heat Requirement for Flowering in Ornamental Peaches. J. Japan. Soc. Hort. Sci., 73, 519-523 (2004).
⒁ 小林敏郎,別府賢治,片岡郁雄:低温遭遇量と加温 温度がモモ ʻ武井白鳳’ の発芽と花器の発育に及ぼ す影響.園学雑,65別2,218-219(1996). ⒂ 吉川瑛治レオナルド,Yamamoto, R. R., Petri, J. L., Hawerroth, F. J., 山根健治,本條 均:休眠期のシア ナミド処理がニホンナシ ʻ幸水’ および ʻ豊水’ の発芽・ 開花に及ぼす影響.園学研,13,143-153 (2014).