恵 羅 修
七 口 要1 乙 曰大 庭 重 治
小学校低学年の児童を対象として,実行機能を反映する語想起課題を実施し,時間経過に伴う検
素効率の減衰現象について検討した。語想起は音韻手がかり法とし,語彙の多い音韻と少ない音韻
の2条件を設定した。音韻条件により再生数に有意な差異を認めたが,両条件で時間経過に伴う検
素効率の減衰現象が明確に出現した。また学年進行により検索効率の減衰現象が異なることから,
実行機能の発達が検素効率の減衰に関与している可能性が示唆された。
1 はじめに 語想起課題とは,ある特定の属性を共有する 単語を制限された時問内で可能な限り多く再生 するという語彙検索課題である。この諜題が反 映する心理機能としては,効率的な検索方略 の使用,言語情報の貯蔵容量,認知速度,流 暢性,持続的注意あるいは創造的思考や拡散 的思考などがあげられてきた(e.9.,Auriacombe, Grossman,Carve11,Gollomp, Stem, &Hurtigj993; Hughes&Bryan,2002; Rosen, 1980; Sincoff& Stemberg,1987; Stuss,Alexander,Hamer,Palumbo, Dempster,Binns,Levine,&lzukawa,1998)。現 在,一般的には,脳機能としては前頭葉機能 を,認知機能としては実行機能を反映する課題 として位置づけられている(恵羅,1992; Spree[ &Strauss,1998]。 恵羅修吉 香川大学教育学部 大庭重治 上越教育大学大学院学校敦育研究科 語想起課題には幾つかのバリエーションが存 在するが,主要な2つの施行法がある。ひとつ は,頭文字(語頭音)を共通属性とする項目を 想起する施行法である。被験者に対して,手 がかりとして平仮名を1文字呈示するかまたは 1音節を呈示して,その音節で始まる単語をで きるだけ多く再生するように教示する方法であ る。もうひとつは,上位カテゴリを共通の属性 とする単語を想起する施行法である。被験者に 対して,手がかりとしてカテゴリ名(例えば, 「動物」や「果物」)を呈示し,そのカテゴリに属 する項目をできるだけ多く再生するように教示 する方法である。 語想起課題の遂行中によく観察される反応特 徴として,時間経過(課題遂行)に伴い単位時 間あたりの再生数が急速に低下するという現 象がある(Crowe,1997,1998;伊藤・ハ田,2006;恵 羅 修 吉
Joanette&Goulet,1988; Mattis, Kovner,Gartner,&
Goldmeier,1981; Rosen, 1980; Stuss et al.,1998)。
多くの被験者は,語想起開始直後には多数の単 語を報告することが可能であり,語喚起に努力 を要することは少ない。しかしながら,このよ うな比較的自動的に語彙検索が可能な時間帯は 短く,その後単語を想起することが困難な状態 に急速に陥る。この語想起課題にみられる検索 効率の急速な減衰現象については,長期記憶内 における利用可能な貯蔵語彙が枯渇したという こと,あるいは長期記憶の検索過程で効率的な 検索を阻害する何らかの困難が生じたことが, その主要な原因として考えられている(e.9.,恵 羅,2003; Martin, Wiggs,Lalonde,&Mack,1994)。 語想起課題は,脳損傷患者や痴呆患者を対象 とした神経心理学的研究より発達した課題で あり,子どもを対象とした研究は比較的少な い。発達的視点からの研究では,小学生段階に おいては年齢の増大(あるいは学年の進行)に 伴って遂行成績が向上することが報告されて いる(Ardila&Rosselli,1994;Chan&Poon,1999;
Cohen, Morgan, vaughn, Riccio,&Hall,1999;
Halperin,Healey,Zeitchik,Ludman,&Weinstein,
1989; Koren, Kofman,&Berger,2005; Korkman,
Kemp,&Kirk, 2001; Levin, Culhane,Hattmann,
Evankovich,Mattson,Harward,Ringholz,Ewing-Cobbs,&Fletcher,1991;村井・山下・小川・中尾・ 藤田・島田・瀧□・安井,2004; Riva, Nichem, &Devoti,2000)。ただし,10歳を過ぎる頃か ら年齢の増加に伴う成績の向上はわずかなも のとなり,発達的変化が消失するとした報告 もある(Anderson,Anderson,Norlham,Jacobs,& Catrop匹2001; Sauz&)n,Lestage,Rabouttet,N' Kaoua,&Claverie,2004)。以上のような総再生 数を指標とした発達研究はなされているが,時 間経過に伴う検索効率の減衰現象について注 目した報告はほとんどない。筆者の知る限り, Hurks,Hendriksen,Vles,Kal凧Feron,Kroes,van Zeben,Steyaert,and Jolles (2004)が注意欠陥/多 動性障害のある子どもを対象として時間経過に よる遂行成績の変化について分析をしているく らいである。 大 庭 重 治 そこで本研究では,成人が語想起課題を遂行 する際に認められる時問経過に伴う検索効率の 減衰現象が子どもにおいても出現する現象であ るのか検討することに第1の目的とした。小学 校低学年の児童を対象として音韻手がかり法に よる語想起課題を実施し90秒間の試行時間を 30秒間の三分割として,それぞれの区間の正再 生数を比較することにした。音韻手がかりとし ては,寸ヒ較的語彙の多い音韻と語彙の少ない音 韻を使用した。先行研究(e.9.,山下,2006)より 使用する音節により報告される単語の数が大き く異なることが報告されており,語彙量が多く 語想起の容易な音韻手がかりと語彙量が少なく 語想起が困難な音韻手がかりで時間経過に伴う 検索効率の減衰現象に差があるのかどうか検討 することを第2の目的とした。 2 ・叉 方法 寸象児 日本語を母国語とする小学校低学年の児童23
名(1年生10名,2年生6名,3年生7名;男
性6名,女性17名)を対象とした。
検査に先立ち,保護者ならびに対象児に対し
て検査内容を説明し,同意を得た。
手続き 検査は,対象児と検査者が机を挟んで対面す るかたちで個別に実施した。 音韻手がかり法による語想起課題を行った。 音朧手がかりである語頭音としては,該当する 語彙が多い「か」と該当する語彙が少ない「ぬ」 を使用した。国立国語研修所(2001)の『教育基 本語彙の基本的研究:敦育基本語彙データベー スの作成』によれば,「か」から始まる語彙の数 は44清音のなかで2番目に多く,これに対して 「ぬ」は44清音のなかで2番目に少ない語彙数 であった。また,山下(2006)は,犬学生を対 象として語想起課題を実施した結果,清音仮名 44文字のうち「か」が最も再生数が多く,「ぬ」 は二番目に再生数が少なかった。 はじめに対象児に対して「あ」を例としてPeriod
語想起課題(音韻手がかり「か」と「ぬ」)
における時間経過(Period)に伴う正再
生数の変化(平均土標準誤差)
3rd Fig.1 課題説明を行った。「これから例えば/‘あ"か ら始まる言葉をできるだけたくさん言ってくだ さい,といいます/‘あ"から始まる言葉には, “足"“雨"“歩く"などありますね。思いついた 言葉をできるだけたくさん教えて下さい。私が やめと言うまで続けて下さい。ただし/‘歩く" といったら“歩きます"とか“歩かない"とは言わ ないでね。それから人の名前は言わないでくだ さい。」と教示した。課題が理解されたことを 確認した後,手がかりを口頭で呈示して本試行 を開始した。対象児の反応は,口頭再生とし た。 1試行あたりの再生時間は90秒問とした。 施行順は,「か」から「ぬ」への固定順とした。 対象児の反応音声は,対象見前面の机上に設 置したマイクを通してコンピュータに録音され た(44.1kHz,16bit)。分析は,サウンド編集ソ フト(デジオン製DigiOnSound Lite)を用いてオ フラインで行った。 3 結果と考察 それぞれの音韻手がかりに対する正反応につ いてはApPendixに一覧として示す。「か」の反 応項目のバリエーションに比較して,「ぬ」の バリエーションの狭さが顕著であった。語想起 課題における一般的な手続きでは人名や地名な ど固有名詞を避けるよう敦示するが,本研究の 対象児では品詞の分類に関する理解が難しいと 判断されたため,手続きで畠したとおりの教示 にとどめた。それゆえアニメ等のキャラクター など“著名な”固有名詞については正答と認め た。誤反応については,6名の対象児において 合計10項目が認められた。うち8項目は繰り返 しであり,2項目は単語新作であった。 時問経過に伴う検索効率の変化について検討 するために,30秒間の3区圃に別けて正再生数 を算出した。結果は,Fig.1に示したように 時間経過に伴い正再生数が明らかに減少してい た。「か」と「ぬ」のいずれにおいても,再生数 の減少は,第1区問から第2区間にかけて目 立っており,第2区問と第3区間ではほとんど 変化はみられなかった。 正再生数について,条件汗か」/「ぬ」)×時 間(第1/第2/第3区間)の2要因分散分析 を実施した。粂件と時間の圭効果ならびに両 者の交互作用が有意であった(条件:F(1,22) =58.54,ρ<。0001;時間:F(2,44)=87.09J< 。0001;交互作用:F(2,44)=6.65,/7=。0030)。 Newman-Keuls法による下位検定の結果,両粂 件ともに第2区間と第3区間の正再生数に有意 差が認められなかったが,その他の対比は有意 であった。 以上より,語彙量の多い「か」のほうが語彙 量の少ない「ぬ」よりも再生数が多く,小学校 低学年においても語彙量の効果が認められた。 時間経過に伴う検索効率の減衰現象は,いずれ の手がかりにおいても顕著に認められた。この ことは,この検索効率の減衰現象が,語彙記憶 の量的側面に依存しているのではなく,反復し て行われる意図的な記億検索に依拠して出現し ていることを示唆するものである。恵羅(2003) は,成人を対象として語想起課題遂行中に課題 と関連しない音剌激を呈示し,その音剌激に対 する事象関連電位を測定した。その結果,再生 数が減少した時間帯で諜題非関連音剌激に対す る事象関連電位N1成分の振幅が減衰すること →−Ka _ −(〉−Nu 6 5 4 3 2 1 pellec)eSsE忽こo﹂Qタ仁コZ 0 lst 2nd恵 羅 修 吉 を明らかにした。このことは,課題遂行が困難 な時に注意あるいは努力e肋rtが増犬している ことを示唆するものである。この推察が正しい のであれば,検索効率の減衰は,本人が努力し ているにもかかわらず,同一手がかりによる語 喚起を反復して実行することで記億検索に意図 せざる機能低下(抑制)が働いたものと考える ことができる。本研究の対象児の多くで,再生 が困難になったときに思い出そうと努力してい る様子がうかがわれた(例えば,「ぬ,ぬ,ぬ, ぬ,ぬからはじめる言葉は・・・」というよう
に手がかりを反復して発話する行為が頻繁にみ
られた)。おそらく,このような検索困難な状
態に陥ったときにそれを抜け出す検索方略を
発見することが実行機能の役割であると思われ
る。
両手がかりともに第2区間と第3区問の間で
再生数に有意差を認めなかった。このことか
ら,小学校低学年で語想起課題を施行する場
合,第2区間までの時問で設定すれば査定に必
要な情報を得ることができるといえる。語想起 課題は,成人を対象とした場合でも,一般に60 秒間で実施されるので,検査としては60秒問で 充分であるといえる。 学年による比較 本研究は小学校低学年の児童を対象としたも のであるが,袖足的に学年進行による課題遂行 の変化について分析することにした。学年あた りの対象児の人数が少ないので,あくまでパイ ロット的な分析であることをはじめに強調して おく。 学年別の成績についてFig.2に示す。いずれ の学年においても,「か」と「ぬ」ともに時間経 過に伴う反応数の減衰現象が確認された。「ぬ」 については学年で比較的類似した減衰パタンを 示したが,「か」については学年により減衰パ タンに差異がみられた。 正再生数について,学年(1/2/3年)× 条件(「か」/「ぬ」)×時間(第1/第2/第3区 間)の3要因分散分析を実施した。学年・粂件・ 時問の3つの主効果はいずれも有意であった 大 庭 重 治 (学年:F(2,20)=9.00,ρ=。0016;条件:F(I,20) =64.07,p<。0001;時間:jF(2,40)=91.30,ρ< 。0001)。条件と時間の交互作用は有意であった が(F(2,40)=10.72,ρ=。0002),学年と条件, 学年と時間の交互作用は有意ではなかった。 3要因の交互作用は有意であった(F(4,40)= 4.80,ρ=。0029)。3要因交互作用が有意であっ たことから,条件で二別し,それぞれにおいて 学年(I/2/3年)×時聞(第1/第2/第3 区聞)の2要因分散分析を実施した。「か」につ いては,両主効果と交互作用がいずれも有意で あった(学年:F(2,20)=6.25,ρ=。0078;時間: F(2,40)=91.59,ρ<。0001;交互作用:F(4,40) =4.20,ρ=。0062)。 Newman-Keuls法による下位 検定の結果,1年生と2年生は第1区聞>第2 区間=第3区間であったが,3年生は第1区間 >第2区間>第3区問であった(ρ<。05)。一方 「ぬ」については,両主効果が有意であったが (学年:F(2,20)=6.04,ρ=。0088;時間:F(2,40) =39.32,ρ<。0001),交互作用は有意に至らな かった(F(4,40)=0.47,s)。 Newman-Keuls法 による下位検定の結果,1年生と3年生の対 比と第1区間と第2・第3区間の対比が有意で あった(j7<。05)。1 以上より,全体としては学年進行により反応 数が増大することが認められた。このことは, 先行研究と一致する結果である。注目すべき点 は,語彙量の多い「か」では時間経過に伴う検 索効率の減衰現象に学年差が認められたが,語 彙量の少ない「ぬ」では認められなかったこと である。「か」において,第1区間で2年生と 2,3年生が分離し,第2区間では1,2年生と 3年生が分離した。第1区間での分離は,白動 的な語喚起の発達差を反映し,第2区問以降の 分離は,自動的な語喚起が困難になってからの 検索方略の生成すなわち実行機能の発達差を反 映していると考えられる。繰り返すが本研究で は対象児の人数が少ないので,この傾向が確か なものであるのかどうか多数サンプルで確認す ることが必要である。その結果を基にして,上 記の推論の妥当性を検討することが今後の課題 として残された。pelleoeU sLuall Jo jequjnZ 7 6 5 4 3 2 1 0
が
凧
lst 2nd 3「d→−l st9rade
−c←2nd 9rade
一・−3「d 9rade
でQ=ec)e1:j suJell Jo JequJnZ Period 7 6 5 4 CDN 1 / U N / lst 2nd 3rdFig.2 語想起課題(音韻手がかり「か」と「ぬ」)における時間経過(Period)に伴う正再生数の
学年別変化(平均士標準誤差)
4 おわりに子どもにとって,学習場面や問題解決場面に
おいて「適切な方略を自発的に使用すること」
や「諜題とは関連しない剌激を効率よく抑制す
ること」は,活動の成功や失敗あるいは活動の
効率化や精緻化にかかわる重要な要因となる。
課題を適切かつ効率的に遂行するには,課題内
容に従い自らの認知一行動系を調整し,同時に
課題にとって不適切な剌激や反応を抑制し,自
らの遂行結果が課題の要請に適合しているか否
かをモニターする必要がある。これらの心的機
能は,実行機能(中央実行系)あるいはメタ認
知と呼ばれている。実行機能は,子どもの認知
機能の牲既を理解し指導計画を作成するうえで
有妨吐が期待される鍵概念の一つとして注目さ
れている(Meltzer,2007)。
本研究で取り上げた語想起諜題は,実行機能
を反映する課題の一つである。語想起課題は,
特別な用具を必要とせず,実施するにあたり特
に訓練も必要でないことから,教育現場での活
用が期待できるものである。子どもの実行機能
を評価する検査として活用されるためには,確
固とした基礎的知見を蓄積することが重要であ
る。標準化をめざした研究だけではなく,他の
検査との関連に関する研究や関与する認知機能
をさらに詳絹に検討する研究が期待されるとこ
ろである。通常の発達を遂げている子どもを対
象とした研究で確かな知見を得ることで,発達
障害児への適用における有用性が高まると期待
さえる。また逆に実行機能障害を抱えるとさ
れる注意欠陥/多動性障害などの発達障害児を
対象とした研究を蓄積することで,実行機能の
発達的特徴を浮かび上がらせることが可能であ
る。発達と発達障害の研究を並列的に進展させ
ていくことが重要であろう。
付 記
本研究は,平成17∼19年度科学研究費補助金
基盤研究(cバ課題番号 17530471)の袖助を受
けた。
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