司会者 定刻になりましたので,平成22年度香川大学法学会第2回講演会を開催した いと思います。本日は香川県弁護士会所属の弁護士,平井功祥先生に「消費者問題を根 絶するために」と題してご講演いただきます。講演者である平井先生について,平井先 生をご推薦いただいた香川県総務部県民活動・男女共同参画課県民生活グループの!口 和幸さんよりご紹介いただきます。 !口 香川県総務部県民活動・男女共同参画課の!口です。この度は大勢来ていただき ありがとうございます。私の仕事は,県民生活グループというところで,悪質商法とか, そういった消費者トラブルに対する正しい知識の普及や手当てをしております。今回は 啓発活動の一環として,平井功祥先生をお呼びしました。平井先生は日弁連の消費者問 題対策委員会や民事介入暴力対策委員会の委員,香川県弁護士会の消費者問題対策委員 会の委員長,民事介入暴力対策委員会の委員などをされており,消費者問題や民事介入 暴力に詳しい方です。また,香川県消費生活審議会の委員もされておりまして,香川県 の消費者問題にも非常に詳しい方です。本日は多くの方が消費者トラブルにあわないよ うにするための正しい知識の普及を啓発する機会をいただき,ありがとうございます。 それでは平井先生,よろしくお願いいたします。 平井 では時間も限られていますので,お話をさせていただきたいと思います。ご紹介 に預かりました弁護士の平井功祥といいます。いろいろ肩書きはついていますけども, 単純に香川県弁護士会のほぼ中堅どころになってきたということです。ちょうど2000
消費者問題を根絶するために
平
井
功
祥
81(81)年に弁護士になったものですから,あれをやれ,これをやれという形で,実力に見合わ ない話を持ってこられるんですね。今日の講演ではどこまで皆さんのお役に立てるお話 ができるか分かりませんが,ぜひ皆さん積極的に関心を持って聞いていただきたいと 思っています。私も別にタダで来ているわけではないので,それなりに皆さんにお伝え するものを残せたらいいと思っていますし,皆さんもここに来ているということは,こ の講義に関しては消費者の立場にありますので,そういう自覚を持って話を聞いてもら いたいと思います。このことについては後でお話をさせていただきます。 さっそくお話に入りたいと思います。プロフィールに関しては,必要があればお問い 合わせ下さい。弁護士会なり,大学なりにそれぞれ提供している情報がありますのでそ ちらをご覧いただいても構いません。 まず今日のテーマとしては「消費者問題を根絶するために」と,かなり大上段に振り かぶったテーマを掲げさせていただいております。なぜこういうことを考えることに なったかというと,私が弁護士になった時代の影響があります。というのは,2000年 というのはいわゆるサラ金問題で破産をする,あるいはそれで生活が壊れて自殺をする 人たちが非常に多発した時代です。私は,最初は大阪弁護士会に登録していましたの で,非常に悲惨な事例というのを目にしました。現実に借金問題を解決するということ 自体,つまり法律的に借金を払わなくていい状態にすることは,それほど私たちにとっ ては難しいことではないんですね。ただ,じゃあそれで生活を立て直せるのか,またそ ういった被害を根絶できるのかというと,そうではない。問題はその先にあるというこ となんですね。それと消費者被害,悪質商法とよくいわれるものに関しては被害が発生 すると,現実に被った損害が回復できない,できないといっても過言ではないと思いま す。回復できた例というのはほとんどありません。そういうこともあって,じゃあ,そ もそも消費者被害が発生しないような,そういう社会を作らないといけないんじゃない か,そういう社会を目指すべきじゃないかという事を考えるようになって,こういう事 をやっています。私は,日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会に行っていますが, そこで所属している部会も消費者教育ネットワーク部会というところで,そういったこ とを考えて様々な活動をしております。 今日のテーマに沿って,流れとしてはまず,そもそも消費者問題を根絶するというけ れども,消費者問題とは一体どういう問題なのかを考える必要があります。その前提と して,じゃあ消費者ってどういう人なのか,その実像を考えてみたいと思っておりま す。まず2枚目のスライドですが,消費者問題を考える基本的視点と書いてあります。 では皆さん,消費者問題,ここで私一応質問と書いてありますが,消費者問題という言 葉を聞いて,どういった問題,どういった事件とかイメージされますか? どなたか, 82(82)
我こそは,という方はいませんか。いなかったら当てます。 じゃあ一番前に座っている,マスクをしている女性の方。 聴講者 消費者金融とか,サラ金問題とか。 平井 うん,多重債務の問題ですね。ほかにはどんな問題が思い当たりますか。じゃあ, 一番後ろに座っている緑の服を着た女性の方。私が質問するときは,先に答えた方が楽 かもしれません。消費者問題ってこんな事件があるんじゃないかというイメージはあま りないですか? 聴講者 思い浮かびません。 平井 思い浮かばない。じゃあまた後で別のことをお伺いしますね。じゃあ,真ん中の 後ろに座っているオレンジのパーカーを着ている方。 聴講者 グルーポンのおせち。 平井 ああ,バードカフェですね。あれは典型的な消費者問題ですね。どういう分野, 83(83)
問題に整理されるかというと,おそらく通信販売ということで,特定商取引法の適用を 受けるだろうと思います。もちろん表示に問題があるということで,詐欺ではないかと いう話が出てくるかもしれません。それに基づく損害賠償問題がありますね。もっとも 全額返金するということなので訴訟問題には発展しないかもしれませんが。 他にはどんな問題が思い浮かびますか? どなたも手があがらない。じゃあ,一番右 側の列で前から3人目の女性の方。女性の方ばかりに当ててごめんなさい。 聴講者 たくさんありすぎて。わたしがここにきた一番の理由は,自分の問題がありま して。自分が被害を受けたと思っているんですね。それは,公共のいろんな,建設,そ ういうものだとか。去年,一昨年でしたかね,行って自分で調べもしましたし,相談も したんですけども,なんだか対応がすごいぬるま湯で,全然他人事みたいな感じで。本 当に思うように,一人の消費者としてはあまりにも大きすぎて,全然歯が立たないと。 それより前に,自分の時間がもう,こんなんだったらもったいないと思って。結局,裁 判までいかずに引きとめたんですけど,今だにそれを引きずっていまして,こういうと ころに来たんですけども。消費者問題って本当に,私は主婦を長くしておりますから, 数え上げたらきりがないから,あると思います。私の場合住宅でしたけども,リフォー ムに関してですが。 平井 なるほど。住宅のリフォームによる詐欺的な話にあったということですね。皆さ んが耳にしたことがあるとすると,埼玉県の川口市で起きた次々商法ですね。認知症の 姉妹の方にクレジット契約でリフォームを次々と組ませる事件がありましたね。あれな んか議会が救済にあたりますという異例な事態になりましたし,あの事件がきっかけで 割賦販売法と特定商取引法改正の気運が盛り上がって,現実に法改正されたというよう なことにもなっております。住宅問題も消費者問題です。過去には耐震偽装の問題もあ りました。建築に関しては,建築基準法の改正がされるはずですが,こういった建築問 題も消費者問題の一つですね。もう一人くらいお聞きしましょうかね。今度は男性にし ましょうか。左に座っている,今ペンを取って下を向いてらっしゃる。 聴講者 さっき言われた耐震偽装。 平井 社会にはいろんな問題が発生しているので,新聞記事を見るとずいぶんいろいろ な消費者問題があるなぁと考えるわけですね。今日の朝の新聞でも,一つは競馬の必勝 法の予想情報を売って,情報料名目でお金を騙し取ったという人たちが,詐欺容疑で大 84(84)
阪で逮捕されていましたね。また,富山県の中卸業者さんが,石川県だか福井県沖だか で取れたブリを氷見のブリだといって築地市場に卸した。それで改善勧告が出されたと いうニュースが新聞記事に載っていました。それ以外にも,消費者問題という定義は非 常に広くて,今の産地偽装では,松坂牛とか牛肉の偽装表示問題もありましたし,消費 期限の改ざんとかもありましたね。これは某有名料亭であったりとか,あるいは某有名 和菓子屋さんだったりとか,そういうところで問題になっていますね。皆さんが聞いた ことがあるとすれば,マルチ商法とかねずみ講とか,架空請求,ヤミ金,薬害問題も消 費者問題の一つですね。薬害エイズ,C 型肝炎,フィブリノゲン。それ以外に,今はイ ンターネット,携帯電話でのIT 技術が非常に発展した結果,それを利用した悪質商法 がどんどん広がっています。現実に県の消費生活センターにもそういった相談がかなり 寄せられています。 私自身が現実に相談を受けたケースも,インターネット上のドロップシッピングだっ たり,アフィリエイトを利用して,そこにいくらかのお金を投資したら,何もしなくて も必ず儲かる,まあそこまで言わなくても1日3時間,家事の片手間に仕事をすれば夢 のような年収を稼げるとか。うまくいけば旦那の年収なんか目じゃないとかいわれて。 そこに80万とか100万とかお金をぽんと出しちゃう,という被害が現実にあります。 残念ながら,私が関わったケースは被害回復までには至りませんでした。それでも負債 は残るので,負債の整理だけはせざるを得ないという状況に追い込まれた方もいらっ しゃいます。そういう風に考えると,消費者問題は非常に幅が広い。 じゃあ,そもそも消費者問題を考えるときに何を考えなきゃいけないのかということ が問題ですね。消費者問題を根絶するためには,根本的には皆さんが何を自覚すべきな のか,という事が重要なんですね。やっぱりここは基本に戻って,消費者問題は消費者 が直面する問題なんだということを自覚する必要があります。じゃあ消費者は,消費者 というのはどういった人なのか,消費者というのは誰なのかということをまず考えるべ きだろうと私は考えています。でここに書いてあるんですが,消費者は誰か,これは議 論をすると非常に面白いと思うんですが。まず消費者契約法2条1項,これは消費者を 保護するために,国が作った法律です。不実告知であったりとか,誤認・困惑,あるい は断定的判断の強要,不退去,退去妨害とか契約の締結過程について,瑕疵(かし)が ある,瑕疵というのは欠陥とか傷ですね。そういった傷がある場合に,その契約の効力 は取り消せるというような非常に強く消費者を保護する法律ができています。 皆さんにも,少し関係があるかもしれませんけど,学納金,学納金というのは大学の 入学金とか授業料ですね。この返還訴訟というのが全国で一時数多く起きました。あれ なんかはこの消費者契約法を使って,入学しなかった場合の返金を求めた訴訟です。こ 85(85)
の場合でも,入学金とか授業料の返還をしないという条項の効力については,正確には 「入学金は一定の条件付で返さなくていい。」,「授業料については基本的に返してもら える。」という判決が最高裁で出されています。そういう例があります。 消費者契約法に何が書いてあるかというと「消費者」の定義が書いてあります。これ は条文ですので皆さん調べてみてください。どう書いてあるかというと,事業として, 事業というのは仕事ですね。「事業として,または事業のために契約の当事者となる場 合を除く個人」,個人というのは法学部の方はご存知かもしれませんが,「自然人」とい うふうに法律上は表現されています。「法人」に対して「自然人」。「法人」というのは 法律上,権利義務の主体となりうる存在として法律が認める「人」です。それはどこで 確認するかというと,法務局に行って商業登記簿を確認すると,その法人が存在するか しないかが分かる。そういうような社会の仕組みになっています。でも消費者契約法に 書いてある「消費者」の定義というのは,非常に抽象的で分かりにくいんです。私は「市 場に供給される商品やサービスを生活のために購入し,使用し,消費する個人」という ふうに考えるのが良いと思っています。これでも非常に難しいと思います。具体的にい うと,スーパーに行って物を買う,コンビニに行って物を買う。あるいはサービスとい うことであれば,料金を払って携帯電話で話をする。今日の講演会もそうですね。皆さ ん一定の授業料を払ってこういうカリキュラムをとる。あるいはそれ以外のサービスで あれば,よくあるのは英会話の学校であったりとか,英会話に限らないですね。外国語 教室での講義であったり,エステのサービスであったり,そういったものを購入する。 そういう個人が「消費者」である。 この定義というのは一応分かったような分からないような定義なんですね。何を言い たいかというと,「法人」ではない「個人」,人間だったらみんな消費者だということな んですね。それをあえて定義するとこうなるんじゃないかというふうに考えたものに過 ぎません。結局のところは,自分達が生活をするために,お金を稼ぐために仕事をして いる事業者以外の,それと対置される存在として「消費者」を概念的に区別しているん ですね。だから事業者として仕事をしている人でも,自分の仕事と関係ない場面では「消 費者」になるんですね。例えば私は,今日は弁護士として来ていますので,ここでは「事 業者」として話しています。しかし,当然,仕事を離れた場所では「消費者」として生 活をしているわけです。そういうことで皆さんここにいますけども,皆さんも「生活者」 であり「消費者」になるんですよね。ということは,自分たちも常に「消費者問題」に 直面したり,巻き込まれる危険があるという自覚を持っていただきたいわけです。そう いう自覚を持って,いろんなことを考えて,情報を収集して,分析をして,自分たちが 何をすべきか,何を購入してどういう生活を送っていくのかということを,本当にじっ 86(86)
くり考えていただきたい。それが私自身の切なる願いです。 大体ここまでよろしいですかね。分からないよという人がいれば,質問を受け付けま す。ついて来ないと置いていきます。じゃあ「消費者問題」を根絶するためにというテ ーマで続けてお話します。では,なぜ消費者問題が起きるんでしょうか? 3枚目のスライドになりますけども,やはりなぜ消費者問題が起きるのかというと, 歴史的には「消費」という概念が生まれた結果,「消費者」という存在が生まれたから なんですね。では,昔々,原始の時代には「生産」という概念と「消費」という概念が 分離していたかどうかということを考えてほしいんですけども,どうでしょうか。太古 の昔には,「生産」という概念と「消費」という概念が分離していたと考える方,手を あげてもらっていいですか。一人もいない。「生産」という概念と「消費」という概念 は,もともとはそんな概念は分離していなかったとお考えの人は。結構多いですね。よ く分からないという人。ありがとうございます。これは私の意見ですし,「18歳から考 える消費者と法」ということで,日弁連でお世話になっている細川幸一先生という日本 女子大学の先生がいらっしゃいます。その先生が書いた本にも書いていますが,やはり 太古の昔は狩猟生活とか木の実をとったり,漁労といって魚をとったり,魚介類をとっ て生活をしていた時代は,「生産」という概念はやはりなかっただろうと。自然にある 物をとってそれを食べて生きていた。そういうことだと思うんですね。では「消費」と いう概念はあったでしょうか? 「生産」という概念がなかったとすれば,これに対立する概念として「消費」という 概念が,その時代の人々に意識されていたとは思いません。生きるためには食べなけれ ばいけない,という社会的事実としての「消費」はあったんだろうというふうに考えら れています。では,なぜ,「生産」という概念が生まれたのでしょうか? 一つは,食料を得る手段が自然の物をとっているだけというのでは,天候不順とか自 分達の健康の問題があります。元気じゃないと山に行って木の実をとれない,海に行っ て魚がとれなくなりますね。たちまち食べていくのに困る。それじゃあ,安定して自分 達が食糧を得るにはどうしたらいいか。やはり歴史を勉強すると,農耕が定着して農業 が始まってから,この頃から「生産」が始まったというふうに思われます。ただ,その, 最初の「生産」というのは,収穫した物を売ってお金に換えるという概念ではなくて, やはり自分たちが食べる物を自分たちで作る自給自足のための生産であったと考えてお ります。 それに対して,じゃあそれがいつから仕事として成立するようになったのでしょう か? やはり交換経済を経てということになりますが,本格的には通貨,共通の価値代替物 87(87)
が生まれてからだろうと思います。そうすると昔は貝や石が通貨だったんですね。きれ いな貝であったり,あるいはきれいな石であったり,そういったものが通貨であったと いうふうに考えられていますが,その辺りから生産者と消費者,売り主と買い主といっ てもいいかもしれませんが,そういう社会的な存在の分離が起き始めたのではないかと いうふうに考えています。そうなってくると,次に何が起きるかというと,生産者,お 米を作って売る生産者,業者が1者であれば問題ないんですけども,あそこのA さん よりも自分の方が上手く作れるんだから,いい値段で売れるよ。あるいは同じものだっ たらもっと安く提供できるよという話が出てくるわけですね。なぜかというと,横で見 てると「あの人は同じようにお米を作っているけど,それを売ったら非常にお金をもう けちゃって,ずいぶん豊かな暮らしをしてるな。羨ましいな。俺にだってできるよ。」 というふうに思う人が出てくるんですね。これは人間の非常におもしろいところで,自 分達が食べられればそれで満足という人は,あまり多くないみたいですね。 そうなってくると競争が始まるわけです。自分達の商品をアピールする,自分達の商 品はいいものだ,あるいは値段が安い,あるいは健康にいいなんていうことが出てきて いますよね。そういうことをアピールして,競争してお客さんを獲得するという経済活 動が始まります。そこに通貨という貨幣が介在すると,資本主義市場での物の,市場と いうのは市場(いちば)のほうですね。市場で物の売り買いが成立していく。そういっ た中で生産者と消費者がどんどん分離をしていったんでしょうね。当然,生産する側 は,一度負けたら次は目に物を見せてやると思って商品開発をするわけです。新たな商 品を開発したり事業の開拓をするわけですね。またそれでより良い物を,お客さんに喜 ばれるものというのを創り出そうとするわけです。当然その中には,ボランティアです るわけではないですから,自分たちの利益をどうやって確保するかという発想も出てく るわけです。そういう競争がどんどん激しくなってきた。今の話をベースにしてお伺い したいんですけども,果たして競争は良いことなんでしょうか? 良いことだと思われる方いらっしゃいますか。ありがとうございます。じゃあ競争と いうのは,悪いことだと思われる方いらっしゃいますか。ああ,一人。競争は良いこと か悪いことかよくわかんない。すみません,一応私もあまり二者択一的な議論というの は非常に危険だと思っておりますので,質問する時に必ず3つは選択肢を用意します。 これについての答えは,適度な競争が必要だと言えます。生産者と消費者が分離する 以上は,競争は適度にないと消費者にとって良い商品,良いサービスが提供されない。 いつまでも一度成立した商品が,いつまでもずーっとそのまま世の中に流通してしまう と,それは消費者にはあまり面白くないし,いいものが手に入らないということになっ てきます。事業のほうもなかなか拡大しない。つまり儲けが出ない。儲けが出ないとど 88(88)
ういうことになるかというと,雇用が生まれない。雇用が生まれないというのはどうい うことかというと,食べるために働く場所がないということで収入も増えていかない。 そういうことを考えると,やはり事業としては会社,法人に一生懸命頑張って儲けても らって,それを給料として働いている人にお支払いしてもらって,それで生活ができ る,消費に回してもらう。そういうサイクルが上手く循環しないと,世の中というのは 上手く平和には回っていかない。やはりどんなに理想的なことをいっても,食べられな いのでは人間は何も考えられないわけですね。とりあえず,今日食べるため,明日食べ るため。レ・ミゼラブルのジャン・バルジャンじゃないですけど,食べられなくてパン を盗んだ。果たしてそれはいいことなのか,悪いことなのか。許されざることではない のか,あるいは,それはやむを得ないのではないか。そんな議論も,皆さん大学時代に はできるんじゃないかと思います。私たちの大学時代はそんなバカみたいな話を夜も寝 ないでやってたこともあるんですけど,そういうようなことも考えていただければと思 います。 私自身は,競争自体は決して悪いことではないと思っています。思っていますが,た だしその競争というのが行き過ぎたもの,会社でいうとただ儲ければいい,手段は問わ ないという話しになると,これはさすがにまずい。駄目だと思います。実際にそれで被 害が発生すれば,どんなに儲けて,どんなに雇用を生んで社会に貢献しているとして も,その会社の事業活動が原因で,市民の人たちの生活が壊される。私たちのところに 来る相談ですとかなり深刻でして,借金だらけ,あるいは持っていた資産をほとんどな くしてしまう,家がなくなる,家庭が壊れる。時には家族で心中してしまうという事例 まであります。そういう被害が発生することを考えると,行き過ぎた競争に対して一定 のストッパーをかけないといけないだろうと考えているわけです。じゃあそれはどう やって考えるべきなのか,どういう形でストッパーをかけるのかという方法を考える必 要があるわけですね。どういうふうに考えたらストッパーがかかると思いますか? 誰かいませんか。 聴講者 法律で制限。 平井 そうですね,一つ今出ましたね。非常に基本的な大事な考え方です。やはり企業 の野放図な資本主義。資本主義という看板を掲げて,とにかく自分たちが儲けないと社 会が回らないよという考えで,好きなようにやらせているとだめだと。何でもかんでも やらせていると,皆さん法学部の学生なら,基本的人権っていう言葉を聞いたことがあ ると思うんですけど,その人権が保障されなくなる。経済的な自由も保障されない,表 89(89)
現の自由が保障されるためには,生活が成り立つことが大前提ですね。そういうことで あったりとか,幸福追求権という言葉も聞いたことがあるかと思いますけど,そういう ものも保障されませんね。そういう行き過ぎを国が事業者の活動を規制して,人権を保 障しないといけないという考えに基づいて法律がどんどんできていくわけですね。先ほ どちょっといいましたけど,割賦販売法だとか特定商取引法とか,あるいは消費者契約 法も同じです。これは事業者の事業活動を規制するための法律という側面を有していま す。基本的には行政の取り締まり法規,一定の要件の元に行政が指導とか勧告をすると いう規定になっていて,その中に一部消費者を保護するという民事的な効力を持ってい る条項が入っているというようなたてつけになっています。 じゃあ規制をするということですが,規制をするだけで本当に事業者の活動はストッ プするのか。法律があれば解決すると思いますか。そこで頭を抱えている方。法律があ れば消費者の被害というのは根絶されると思いますか。 聴講者 法律だけじゃなくて,企業の側が自主的に規制というか,自主的に行動するこ とも必要だと思います。 平井 そうですね。やはり企業が自律的に規制をする,抑制的に自分達の活動をする, それは長期的に見れば,自分達が健全な消費者に対して誠実な供給を行うサプライヤー であるということが,長期的には持続可能な社会を作り出すということになっていくだ ろうと思っています。そういった社会を作り出すために,これは概念提起になってしま うんで,やや退屈かもしれませんが,私たちが日弁連の消費者委員会で議論しているこ とを一つ,紹介させていただければと思います。 4枚目のスライドになりますけども「企業市民社会」という言葉と,「消費者市民社 会」という言葉を掲げています。ここの「企業市民社会」の中に,先ほど出た法律で事 業者を規制するという方向性が一つ含まれています。ここでは消費者は法律による保護 の対象です。その中に最近入ってきている概念として,最近といってもそんなに新しい わけじゃないんですが,企業の社会的責任,CSR という概念があります。皆さん耳に されたことはないですかね。企業もきちっと社会に存在しうる,社会に必要とされる存 在であるために,消費者に対して,あるいは社会に対して果たすべきパブリックな責任 があるのではないか,そういう問題意識から生まれてきた概念ですね。大きな会社とい うのは,こういうところにどんどんスポットを当てています。大きな会社のホームペー ジを見ていただければ,会社のIR 情報とかディスクロージャーとして情報が公開され ていますけども,その中にも必ずCSR という項目があります。会社がどういう社会で 90(90)
責任を果たしていこうとしているのか,という会社の姿勢を社会に対して情報発信をし ています。そういうのも皆さん一度見ていただければと思います。 もう一つ,実はこれは私たちが今,さかんに日弁連の消費者教育部会で議論してい る,「消費者市民社会」という概念です。これは何が違うのかというと,消費者は単に 法律に守られている,ただただ,か弱い子羊じゃないんだと,言いたいわけです。ぶっ ちゃけていうと,消費者にだって自分たちの主張,要望があり,それをきちっと社会の 仕組みであったり,あるいは情報をきちっと取得して,分析して,考えて,行動に移 す。こういう行動を通じて,社会の在り方であったり,企業の活動であったり,時には 政治を動かして,法律を変える,あるいは新しく法律を作る,そういったことまで考え られるのではないか。そういうような市民がいっぱいいる,元気な社会を作れないかと いうことを考えているわけです。 今のお話からお分かりいただけるかと思いますが,「消費者市民社会」という社会で は,消費者は保護の対象ではなくて,権利の主体なんです。ややアレルギーがあるんで あまり使いたくない言葉なんですが,消費者主権という言葉が使われることもありま す。そういう概念があるんですけども,この概念自体は1990年くらいに欧米,最初は カナダだと聞いているんですが,すいません,ここは私も原典にあたってるわけでない んで分かりませんが,その頃に提唱され始めた概念だと言われております。「消費者市 民社会」がどういった概念なのか,ここに言葉で書いているだけで分かったという人は いないと思うんです。私も話していますけど,本当に分かっているかというと疑問なん です。ただ,どういうような経過で,今,「消費者市民社会」という言葉が注目され始 めたかということは,ご説明できるかと思っています。 5枚目の「消費者市民社会」の定義というスライドがあります。ここにコンシューマ ーシチズンシップ(Consumer Citizenship)という言葉を書いていますが,ビクトリア・ トーレセンさんというノルウェーのヘドマルク大学,ハーマルという町にある大学の教 授をされています。コンシューマシチズンシップネットワーク(Consumer Citizenship Network)という国際組織があるんですけども,そこのプロジェクトリーダー,オピニ オンリーダーですね。ヨーロッパではそういう活動を継続的にされておられる方です。 その方が自分の著書の中で書いている言葉ですね。「A consumer citizen is an individual who makes choices on ethical, social, economic, and ecological consideration」という,こ れが中核だと思うんですね。どういうことかというと,このトーレセンさんが言ってい る言葉は,私はそんなに英語はしゃべれないんで正確に説明する自信はありません。た だ,その下に国民生活白書という日本の内閣府が発行しているものの中に引用されてい る言葉があって,これがほぼ同じ趣旨だと理解いただいていいと思います。ここでは「個
人が消費者・生活者としての役割において,社会問題,多様性,世界情勢,将来世代の 状態などを考慮することによって,社会の発展と改善に積極的に参加する社会」という ふうに「消費者市民社会」が定義されています。 これは内閣府で当時,国民生活白書の編集,とりまとめをしていた高橋さんという方 がいらっしゃるんですが,その方にお話を聞くと,ぶっちゃけた話をすれば,本当は国 民生活白書にはなかなか書きにくい,日本の社会にはまだまだ浸透していない概念だ と。ただ機構改革で行財政の管轄が変わって内閣府で出す国民生活白書は平成20年度 が最後だと。最後だったら書いちゃえということで,書いたということらしいんです ね。それだけではなくて,もちろん内部ではずいぶんと抵抗も圧力もあったようですけ ど,それを押しのけて書いたと。やっぱりこういう社会を目指すべきだというふうに, その高橋さんという方は考えたんですね。内閣府,国もそういうふうに考えていると理 解していただいていいと思っています。 では,そのためには,一体何を考えていけばいいのか,消費者市民になるためにはど うすればいいのか。消費者市民という大上段に振りかぶった議論じゃなくて,先ほど私 が「皆さんも消費者である」と,そう申し上げたと思いますが,消費者は何ができるの か,自分たちはどんな力を持っているのかということを明確に自覚することから始める 必要があると思うんですね。じゃあどんな力を持っているのでしょうか? 私は,消費者というのは商品とかサービスを選択して購入するという行動,消費行動 を通じて企業の行き過ぎた利益追求による弊害を是正し,社会を変革する力を潜在的に は持っていると考えています。消費行動が世の中を変えるもっとも極端な例は,ある会 社が問題を起こした,その会社の商品やサービスを買わない,購入しない,不買運動で すね。そういうことになると,まさに皆さん,消費者が企業の生殺与奪の権利を握って いるということすら言えます。 皆さんがニュースを見て,つい最近聞いている話であれば,例えば某有名料亭もそう ですね。記者会見場で,よよと泣きくずれても会社は立ち直れなかった。あるいは,テ レビの前で親子喧嘩を始めた偽装,混ぜ物をした肉を売っていた肉屋さんもあります ね。そういうところは,まさに消費者に対して不誠実であったために会社がつぶれたわ けです。こうしたニュースは消費者の持っている力がいかに恐ろしいか,いかに強力な ものかということをまざまざと世の中に発信しているというふうに私自身は思っており ます。 そうすると次に何を考えるべきかというと,やはり何事も行き過ぎとか濫用といわれ るようなものになると困るわけです。世の中は一定の限度で他者との関わり,相互の協 力がないと成り立っていかない。権利を主張して義務を果たさないという話になってく 92(92)
ると,たちまち周りとの関係が崩れてくる,社会の構造が崩れていく。そういうバラン ス感覚を持った消費者になってもらう必要があるわけです。特に消費者が持っている権 利をいかに使うのか,どういう場面で使うのかということを考えていただく必要がある だろうと思っています。一つ考えるきっかけになるかなという方向性として,経済的な 消費行動から社会的な価値行動へということを書かせていただいています。 7枚目のスライドですね。ここに書いていますけども,経済的消費行動というのは従 来型の消費行動だと。どういうことかというと,物の品質とかあるいは価格であった り,アフターケアとか保障とか,まさに経済的側面に注目して消費を遂行するというこ とです。何を買うかはそれで決める。これはよく考えいただきたいのは,その商品に関 する情報,価格というのは,事業者から提供される情報が主ですね。それに乗っかって 消費をするという意味では,やはり受動的な選択なんだろうと思います。なかなか企業 の姿勢とか企業の考え方や,やり過ぎというのを是正する方向には働きにくい消費行動 ではないかと考えてます。そうすると次に何を考えるかというと,自分たちがそういっ た企業が提供する商品の成りたち,あるいはその来歴,場合によっては倫理的な行動で あったりとか,環境に対する配慮みたいなことを含めて,先ほどいったCSR もそうで すけど,そういう社会的責任を果たしているかどうか,そういったことを評価して消費 をするという事は重要なのではないか。それが,社会的価値行動と今は呼ばれている概 念です。 これは事業者から提供されている情報だけではなくて,皆さんがそれ以外の,例えば 新聞だとか口コミであったりとか,あるいは自分の目で見て考えて積極的に選択をする んだということです。具体的にどんな話があるか,どんな消費行動が考えられるかとい うことですけど,皆さん何か分かりますかね。具体的にこういう問題が社会的価値行動 としていえるんじゃないか,今私がいったような社会的価値行動に当たるんじゃないか という具体例を思いつく方いらっしゃいます。 聴講者 ハイブリッド車とか。 平井 そうですね,環境性能もそうですね。環境性能を持った商品を買うというのも一 つの方法ですね。あれは政策的な要素もありまして,自動車業界を引っ張り上げないと 世の中,日本の雇用がだめになるんじゃないかという話で,政策的な要素もありますけ ど。ただ環境的な配慮ということで購入する,選択をするということは重要だと思いま す。それ以外に思いつくことはありますか。 93(93)
聴講者 フェアトレード。 平井 いいですね,フェアトレードという言葉を皆さん聞いたことはありますか。聞い たことある人。結構いらっしゃいますね。フェアトレードってどんなことか知っていま すか。聞いたことあるということで,説明してくださる方いらっしゃいますか。いない かな。ちょっとフェアトレードっていうと,厳密にはいいにくいんだけど,フェアトレ ード問題の根底にあるのは,いわゆる南北問題です。南北問題という言葉をご存知の方 いらっしゃいますか。左でマスクをかけている方,南北問題を簡単に説明してもらって いいですか。 聴講者 先進国と後進国の近年の経済的格差。 平井 そういうことです。先進国と後進国というか,発展途上国と言わないといけない んでしょうけど。その経済的な格差,それゆえに教育の面でも福祉の面でも社会の生活 全般にわたって,発展途上国で生きている人たちが抑圧されているという構造があるん だということです。なぜ南北かご存知? これは大体の話ですけど,北半球と南半球の南北なんですね。それでなぜか北半球の 方が先進国といわれる国が多い。南半球,よくいわれるのはアフリカ諸国ですね。そう いったところで現地の人たちが,食べられるか食べられないかみたいな,お金でいろん な物を買う。典型的なもの,よくいわれるのがコーヒー豆ですね。コーヒー豆,フェア トレード商品が今,綾川のイオンだったかな。お店にはフェアトレード商品を置いてい たりとか,スターバックスはフェアトレード商品のコーヒーを出していたりとかをやっ ていますよね。それは,いろいろと外部からの圧力もあるんだという議論もあります が,一つの社会的価値行動ではないかと思います。 それ以外にどういうことが考えられるかというと,私が思うに例えば,先ほどいった ように,会社が雇用を生んでもらわなければ困るんだということになると,国内で製造 している会社の物を買うほうがいいんじゃないかと思ったりもします。あるいは雇用政 策でいうと,終身雇用制を今でも維持している会社,個別の名称は興味があったら後で 聞いてください。あまり宣伝になったらまずいかもしれませんので。終身雇用制を採用 している会社の商品を買ったほうがいいんじゃないか,というような考え方もあるで しょう。あるいはその商品を買ったお金が何になるのかを考えて,何に使うかを考えて 消費を決める。国際的な問題になっているのが,ブラッドダイヤモンドという問題があ ります。 94(94)
これはご存知の方はいらっしゃいますか。さすがにちょっといないかな。ブラッドダ イヤモンドというのはどういった話かというと,アフリカのアンゴラとかシエラレオネ とかリベリアとか,そういったところでダイヤがとれるんです。とれるんですが,それ を売ったお金が何になるか。ヤミのマーケットで売れるということもあるんですが, 売ったお金で国内の内戦とか戦争に使う武器の購入資金になっているんじゃないかと か,あるいは,そういう内戦に関わる組織の活動資金になっている。だから国際的な取 引市場からは,そういう戦争を助長するブラッドダイヤモンドは締め出すんだという取 り組みがなされていたりします。 そういうことを意識して物を買う,あるいは,ダイヤに関していえば,もう少しいえ ば先ほどのフェアトレード,南北問題にも連なる問題がありますが,採掘現場では小さ い子どもが児童虐待といってもいいような,劣悪な環境で働かされているというような 問題もある。南アフリカはそれで今,非常に非難を浴びていることもあるようです。そ ういった問題も考えられますね。あるいはこれは日本の話しですけども,反社会的勢力 という言葉を聞かれたことはありますか。あまりないかな。反社会的勢力というのは, 暴力団が中心ですけども,そういう勢力との関わりがある会社,ない会社を選別して, それを支持するかどうかといった話です。またそういった商品は,そういった会社の商 品をサービスを買うだけではなくて,仮に株式の取り引きをするときにはそういう会社 95(95)
を支援するというのも,一つの社会的価値行動であるといわれています。 最近話題になっているタイガーマスク運動というのは,あれはどういう評価をすべき だ思いますか。タイガーマスク運動,あれは社会的価値行動,今言ったような例と同じ ようなもんだなあと思われる方はいらっしゃいますか。お一人。そうじゃないんじゃな いかなと思っている方はいらっしゃいますか。いない。どっちか分からないという方。 確かに評価は分かれるところかもしれません。私は一応,今の世の中にそういう消費 があってもいいのではないかと。不平等ではないかということをいう方もいらっしゃい ます。それは国の責任ではないのか,行政の責任ではないのかという意見もありうると ころだと思いますが,やはり自分ができること身近なこと,あるいは考えること,とい うことで自分が考えて積極的に選択をして,消費をしているという意味では,それが社 会の害悪につながるんじゃなくて,少なくとも一部の人には何らかの,幸せというので はないですけど,救いのようなものが与えられる可能性がある。そういう意味では,私 は社会的価値行動といってもいいのかなと思っています。 まあ大体そういう考え方をして,消費者には非常に強い力,権利があるというお話を させていただいたところです。じゃあどういった権利があるのか,概念的にその権利と いうものを規定できるのかというお話をさせていただけたらと思います。8枚目のスラ イ ド で す ね。消 費 者 の8つ の 権 利 と い う ふ う に 書 い て い ま す。こ れ はConsumer International,先ほどのトーレセンさんも関わっているわけですけども,そこが提唱し ている消費者の8つの権利です。これは日本語に訳されているので上から読んでいきま す。 「生活の基本的ニーズが保障されている権利」。まあ,衣食住ということでしょうね。 「安全を求める権利」。これは耐震偽装の問題だったり,以前あった事件だったら,毒 入り餃子の問題。食べるものとか住むところが安全であること。古くは隣の徳島であり ましたけども,森永ヒ素ミルク事件というのも,食品の安全に関わる問題ですね。そう いったことを求める,これは企業に対して求める権利でもあり,行政に対して求める権 利でもあるというふうに理解していただいたら良いと思います。 次は「知らされる権利」。これは知る権利というのが憲法上保障されるようになった, 表現の自由という憲法の21条ですね。つまり,社会的権力としてマスコミ,マスメディ アが発達してしまって,階層文化,階級文化が起きたということで,構成し直す必要が あるといわれて,知る権利が認められるようになりました。それがもっと積極的に企業 側,事業者側,あるいは行政側から積極的に情報を開示して,情報を提供する。その提 供された情報が正しい情報であること,そこまで求められる権利を皆さん持っているん じゃないか。そういう提案ですね。 96(96)
もう一つは「選択する権利」。これは皆さんが何を選ぶか,強制されないということ ですね。 「意見を反映させる権利」。これは意見を反映させるために,自分が主張する権利。そ ういう場所があるといいですね。お客さまの声ということで事業者に届くこともありま すし,今だったら大体大手の会社はインターネットのホームページとかで,メールでの 投稿とか意見の受付を行っています。 「救済を受ける権利」。これも何か被害にあったときに,救済を受けられるような仕組 みを事業者や行政が作る必要があるということですね。実際は被害が発生した場合に, なかなか救済が,現実的な救済ができない。法律的には勝っているんだけど,お金が 戻ってこないというケースもままあります。とはいえ,そういう被害を補!回復できる 方法はないかということですね。有名なところでは犯罪被害者の関係,ヤミ金の問題で できた被害回復制度というのがあります。これは検察庁を通じて犯罪行為によって収受 された財産を検察庁が差し押さえて,そのお金を被害者として届け出た人に,全額じゃ ないですけど一部なりとも配当するという制度があったりします。あるいは,架空請求 の被害,あるいは振り込め詐欺で振り込んだ口座を銀行の担当窓口に口座凍結の要請を する仕組みがありますけども,それを使ってすぐに引き出されないように固めてしま う,凍結してしまうという制度もできました。ということで,救済を受ける権利を実施 させるための制度というのも少しずつ進歩しているのが事実です。あるいは裁判になる ときに,被害額が少なくて一人じゃできないといった場合に,消費者団体が代表して訴 訟を起こすということが法律上できるようになりました。適格消費者団体というものに 認定を受ければということになりますが,四国には今ないと思うんですけども,関西で は結構あります。この間,関西の消費者団体が,団体名は忘れましたけども,ソフトバ ンクかどこかに改善の申し込みをしたニュースが出ていたと思います。 「消費者教育を受ける権利」。消費者教育を受ける権利といっても,消費者教育って何 なんだと思いますね。教育の中味に立ち入ると非常に皆さん,百家争鳴して議論がまっ たく収集がつかないんですが,少なくとも消費者教育が目指すものとして,私たちが根 源にあると考えているものは何かというと,この社会では自分たちが自分たちの力で生 きていく力。それを自分たちが獲得する。そういう力を身につけるための情報の提供で あり,あるいは思考方法の獲得であり,情報を収集して分析するノウハウであり,知的 ツールを自分たちが考え出す能力であったり。そういうものに対して想像力を働かせ る,想像力をいかに働かせるかということを考えていく。そういうようなことだと思う んですね。 単純に被害状況を発信する,それも非常に重要なことですけども,それだけではだめ 97(97)
なんです。なぜならば悪質商法ということを前提にすれば,業者は法律が変わればその 法律に応じて,表面的には違法ではないようにして近寄ってくるわけですね。同じよう に技術がどんどん発展すれば,IT 技術を使ってどんどん被害が広がっていくわけです ね。 個人的な情報が入ってきますので,デフォルメしていいますけど,先日,1週間ほど 前ですか,四国新聞に,ソーシャルネットワークサービスで知り合った女性に,宝石店 の店長だと偽って宝石を売りつけて,詐欺で捕まったという記事が載っていたと思いま す。あれは実際はうちの事務所で告訴した事件なんですけども,やはり被害回復はでき ておりません。ソーシャルネットワークサービスの何が恐ろしいかというと,これはイ ンターネットでもメールでもそうなんですけども,パソコン,あるいは携帯で自分たち が話している,メールをしているその向こう側にいる人が本当は誰か分からない。23 歳のキャピキャピの女の子だと思っていたら,30も後半のむさくるしい男がやってい る可能性はあるわけですね。昔の電車男じゃないですけど,ああいったオタクがいても おかしくないわけですね。そういう世界が世の中にはあるんだということ。そういうイ メージをもっておいてほしいんです。何でも疑えというわけではありませんが,そうい う危険が常にあるんだということを理解しておいていただきたい。同じような話しで は,少し別の議論になりますけども,フェイスブックというコミュニケーションツー ル,プログラムがありますね。あれがなぜあんなに爆発的に売れたのか,支持されるか というと,やはり向こうにいる人が誰かはっきり分かるからだというふうにいわれてい ます。それはそれで,分かり過ぎてまずいんじゃないかという議論もありますし,今映 画でやっていますよね,ソーシャルネットワーク。あの映画を見ると,やりすぎじゃな いかということもありますけど。そういった問題があるということも意識してほしい。 それともう一つは「健全な環境を享受する権利」。これは環境的な要素という事にな りますんで,環境を回復する,公害を発生させるような事業活動には声を上げて抑制す る,改善を求める,そういうことができるんだと。環境保護団体なんかは非常に喜びそ うな権利ですね。 日本ではこういうような権利が認められていないのかということですね。一応ダラダ ラと条文に書いてあるんで分かりにくいんですが,消費者基本法の第2条に同じような 規定があります。皆さん,帰って六法を見ていただいたら分かると思いますので,ぜひ 一読してください。韓国にも同じような規定があります。韓国の消費者基本法だったか な,一応これは受け売りなので,間違っていたらすみません。4条だったと思います。 じゃあそれに対して消費者は,権利は持っているけど責任はないのかということが疑 問として浮かびます。やはり責任は出てきます。私は法律の問題に関して今話しをして 98(98)
いますし,そういう仕事をしていますけども,権利だけを主張する,義務を果たさずに 権利だけを主張するというのは,はっきりいえば単なるわがままだと思っています。消 費者として果たすべき責任というのは,世間でいわれている自己責任という言葉とは違 う。今日本で自己責任という言葉がどういった形で理解されているかというと,自分が 選択した結果はすべて自分が引き受けなければいけない。場合によっては事業者に騙さ れているかもしれない,社会の構造の中で救済とか補償の狭間にいるかもしれない。そ ういう人たちについても,それはあなたの選択なんだから,あなたがしたんだから,自 分の責任でしょ,という形で切り捨てる,一種の免罪符的な使われ方をしている。そう いうこともあって日弁連内の消費者委員の中ですら,この自己責任という言葉にはもの すごいアレルギー反応があります。そういう名の元に,裁判所で例えば,投資被害のと きにやっぱり欲をかいた人が悪いんだということで,責任が認められなかったり,過失 相殺ということで救済額が減らされるわけです。自己責任という言葉に対するものすご い抵抗感があるわけです。ただ私が今日お話したい消費者の責任というのはそういうこ とではありません。もちろん一定レベルではそういった選択をした責任を引き受けなけ ればならないのはそうでしょうけども,消費者の責任というのは,自己責任という概念 ではありません。 9枚目のスライドになりますけども,消費者の5つの責任をConsumer International が 提唱しています。これは一定限度で皆さんも考えていただく必要があるんだろうと思い ます。 1つ目は「批判的意識を持つ責任」。やはり,社会に出てきている情報,会社から提 供される情報,政府であったり行政から提供される情報について,正当に健全な批判意 識を持って意見を述べるというそういった責任があるんじゃないかということです。そ れは先ほどの意見を反映させる権利というものと表裏の責任じゃないかと思います。 2番目の「主張して行動する責任」もそうです。 3番目の「社会的弱者に配慮する責任」。これもやはりそうだと思うんですね。先ほ どの社会的価値行動の中で,南北問題がでましたけど,あれも一つの社会的弱者に対す る配慮ですよね。もっと身近なところでいうと,昔からよくいわれますよね。お年寄り に電車やバスの中で席を譲りましょうというのもそうでしょう。そもそもシルバーシー トが空いていても座らないほうがいいんじゃないだろうかとか。あるいは車を停めると きに駐車場で身障者用のスペースには停めない方がいいんじゃないかとか,そういった ことを考える責任があるんじゃないかということです。 次に「環境への自覚を持つ責任」。こういう話になってくると,皆さんの身近なとこ ろではゴミの分別収集だとかそういうことが出てきますね。こういうことも消費者とし 99(99)
て,自分たちができることはあるんじゃないかと思います。マイバッグ運動とか,マイ 箸を持って生活をしている人もいますね。これも一つの環境への自覚を持つ責任の考え 方だと思います。 最後の「連帯する責任」というのは少し分かりにくいかと思いますが,やはり消費者 一人ひとりの力というのは,先ほどもいいましたけど,やはり一人ではだめなんです ね。やはり団結しないといけない。団結してそういった権利を行使する責任を果たす, そういったことが必要になってくる。 そういう諸々の話をしていくと,先ほど私は権利ばかりを主張して義務を果たさない 人というのはわがままだと思っているといいました。これはどういうことかというと, 私自身が考えていることは「自由」という言葉を皆さん,非常に最近よく使われますね。 憲法でも自由という言葉は盛んに出てきます。じゃあ,自由というのは何なんだろうか ということを考えて欲しいということです。「自由」というのはやはり,自分で責任の 取れる範囲内では,自己責任をとるということであって,表と裏の関係だと思います。 やはり「自由」というのは自己責任の後姿だと思います。そういうことを考えて皆さん 消費者,日々の生活を送ってもらえるといいなと思いますね。 次の10番,11番は,当初お話していた流れとは少し違った流れで話をしてしまった んで,あまり詳しくはふれませんが,「企業市民社会」というのは法律的に企業の活動 を規制する,そういう社会を前提として消費者は保護の対象だというモデル,社会のモ デルというふうに私自身は理解しています。じゃあそれが本当にそのままでいいのか, あるいはもうそういう時代ではないのか,消費者は自分たちが権利の主体であって, 「消費者市民社会」を目指す以上は,「企業市民社会」というモデルはいらないんだと, そういう議論になるのかというとやはり違うと思います。どこまでいっても先ほどいっ たとおり,消費者を行政や法律で保護する必要性は無くならないんですね。なぜ無くな らないかというと,やはり情報格差とか経済的な力関係で優劣がはっきりあるからです ね。消費者は団結して初めて権利が行使できるかもしれませんが,やはり一人では企業 とか国に対して自分の権利を実現することは難しい。一部,裁判所にその問題を解決, あるいは責任を追及するということで,裁判所に持ち込んだ人だけが救済される可能性 がある。その限度にとどまっているというのが本当のところではないかと思います。 そうしますと,「企業市民社会」というモデルは現在もやはり重要なんだと。しかも 先ほど答えが出たんでありがたいんですが,企業が自主的に規律をするということもや はり重要だと思います。そこでキーワードになっているのが「CSR=企業の社会的責任」 ということになっているんだろうと思いますね。また公権力による規制が必要だという 事,今でも必要だということの象徴的な出来事が一昨年ですかね,消費者庁という新し 100(100)
い省庁ができました。総理大臣の一言って大きいんだなあと思います。消費者庁の設立 というのは日弁連の消費者委員会が1989年頃に松江で人権大会をやったときに,そう いった省庁が必要だと決議をしていたと思います。それがいつまでたってもできなかっ たのが,福田首相が消費者庁を作りましょうと言ったらできちゃったという。総理大臣 の一言は大きいなと思いました。今の総理大臣も頑張ってほしいなと思いますけども。 そういうことで消費者庁の設立は,まさに国家権力による事業活動の規制,法律による 規制というものの象徴ですね。 じゃあその裏返しの問題ですけども,「消費者市民社会」という社会モデルは万能な んだといえるでしょうか? やはり万能ではない。先ほどから言っているように,権利を主張することは重要です けど,ただ権利だけを主張してわがままな消費者になるのでは意味がない。それでは社 会のバランスが崩れていくし,社会の構造とか枠組みというのがまともに機能しなくな る。当然,時代や人が変われば,あるいは人口構成や年齢構成が変われば,その変化に 合わせて社会の仕組みは作り変えていかなければいけません。権利の主張は,それは正 当な理由があってはじめて成り立つんですね。義務を果たさないで社会を非難するとい うのは,まさにわがままだというふうに思います。一時ニュースでずいぶんと騒がれま したが,給食費を払わない親というのにはびっくりしましたね。それも払えなくて払わ ないんじゃなくて,頼んでないから払わないという。それをテレビで堂々といえる人た ちがいるということには愕然としました。やはりそれは権利の主張ではないと,正当な 権利の主張ではないだろうと私なんかは思います。私は,誤解を恐れずにいえば単なる クレーマーではないか,というふうに思っています。 私は仕事柄,ずいぶんクレーマー対策の事案も受けるんですけども,やはりクレーマ ーに何が欠けているかというと,対話をする姿勢とか相手の意見に耳を傾ける姿勢,こ れがないですね。何かこちらが返答すると,その何か小さな言葉尻をとらえて,とにか くかさにかかって反論してくる方が多いように思います。まさにそうやってガンガン いってると,相手が面倒くさくなってとか,嫌になってお金を出してくれる,ゴネ得み たいなことが生じていると思うんですね。あまりセンシティブな部分に入っていくと, 皆さん話しにくい内容になっても困りますので,これくらいにしますけど。 やはりそういった現実を前提として,私が消費者問題の根絶に向けたモデルとして, 少なくとも理念的な部分であったりとか方向性として考えるべきだと思っていること は,先ほどの「企業市民社会」モデルと「消費者市民社会」モデルというのが調和的に 融合した社会,そこで生産者と消費者がそれぞれに期待される役割を果たす。生産者は 消費者のことを考え,消費者は生産者のことを考える,そういう双方向に想像力を働か 101(101)
せて手を携えてという社会ですね。健全な批判をして持続的な成長を続けられる社会と いうのをやはり目指すべきなのではないか。そういう社会が本当に実現できたら,消費 者問題というのは起きない,もう少し正確にいうと,消費者問題は話し合いで解決でき る社会が訪れるのではないか,というふうに思っています。 そういうことを考えますと,皆さんにも考えていただきたいのは,自分たちの日々の 小さな選択が積み重なると世の中が変わるんだ,その選択をどうするかというのを少し 考えて消費行動をしてほしいということです。それで本当に社会が変わるとしたらすご いことですよね。実際私が経験している中でも実例があります。私は弁護士になってか ら今年で11年が経とうとしています。私は多重債務問題が華々しい時代に弁護士にな りましたから,破産法という法律を盛んに使いました。それでも生活を立て直せなく て,一度は裁判所で借金を払わなくていいという免責決定というのをもらった。その後 にまた借金をしてしまった。破産したのに貸す業者がいるのかという人達もいますが, 破産した人をターゲットにして貸す業者もいます。そうなると今度はもう一回破産する のに免責不許可事由というのがあって,破産申し立てができない。何とかそういう中で 生活を立て直すのに,もう一度救われる道はないのか,という議論が起こり,その中で 出てきたのが個人民事再生という手続きが,民事再生法の中の特別な規定として生まれ ました。そういった社会の変化が現実に起きたこともあります。 あるいは先ほどもいったようにリフォームの次々商法の関係で割賦販売法が変わった りとか,あるいは呉服のモニター商法ですね。モニター商法で過量販売,普通の生活を していく中で日常生活に必要もないほどの物を売りつけた場合には,契約を解除して 払ったお金を業者に返してもらえるという規定ができたりとか,法律はどんどん変わっ ているわけです。それは消費者のすごく深刻な被害を前提として法律が変わっていって いるんですね。それは変わらないよりはもちろんいいんですけど,やはり被害が起きて から変わるんじゃなくて,深刻な被害が起きる前にまさに皆さんの消費行動を通じて, そういった法律であったり社会であったり,変えられる社会がいつかは作れたらいいな と思っています。 ずいぶんと早口でべらべらしゃべってきましたが,どこかで私が今日お話したこと が,ひょっとしたらそういうことがあったなとか,あんなことをいっていたなとか,思 い出していただければ非常に嬉しいです。どうもご清聴ありがとうございました。 司会者 平井先生,どうもありがとうございました。まだ若干時間もあります。せっか くの機会ですので,質問を受け付けたいと思いますが,質問がある方は挙手をお願いし 102(102)
ます。何か,どんな質問でもお答えいただける範囲でお答えいただけると思いますが。 質問者 消費者問題についてなんですけど,先ほどの免責の許可を受けて,また再びお 金を借りてまた問題になった人がいるんですけども,債権者の人というのは,その免責 を受けた人に対してお金を貸しても,債権を回収できることはあるんですか。それで貸 しているんですかね。 平井 非常に不健全なニーズではありますが,回収できるから貸すんです。まず例え ば,そんなに多額のお金は貸しません。せいぜい5万,多くて10万。最初に10万貸す といいながら,現実に手元にくるのは7,8万。天引きですね。天引きがあったりとか。 もう一つはそこから,ヤミ金なんかもそうですし,個人の業者で無登録の業者なんか は,利息がすごいわけですね。例えば5万を貸して4万を渡す。10日で3割くらいの 利息がつく,という話しが起きると,どういうことが起きるかというと,10日後には 5万の3割ですから1万5,000円を払わないといけない。さらに10日後は,そもそも 5万借りないといけない人が,10日後に1万5,000円の利息を払うことすら大変なん です,実際はね。それを払わないといけない。最近はソフトヤミ金といってガンガン電 話をかけられることはなくなっているようなんですが,職場に電話をかけられるとか, 家族とか実家に電話をかけられるということで,脅されると職を失うんじゃないかと 思って,またどこかで用立ててきてお金を払う。それで3回1万5,000円ずつ回収する とプラスになるんですね。ひと月で回収できちゃう。もちろんどっかで誰かが損をする ことになっていくわけですけども,誰がババを引くかという問題です。ただ,ババを引 くかということなんですけど,本当にババを引いているのかというと,向こうは向こう でも,五菱会じゃないですけど,一定の組織があるわけですね。情報は共有化されてい ますので,借りている人の情報は向こうが握っていると思ったほうがいいです。返せな いんじゃないかと思ったときに,別の業者さんから電話が入るわけですね。お金貸しま すよと。皆さん電話かけられると困るから,お金借りるんですね。それがいけないのか といえば,我々はいけないといえないんですね。 私も,ずいぶん前になりますが,7年ほど前でしょうか,ヤミ金で借りてものすごい 電話攻勢でガンガンいわれている方,主婦の方の相談を受けたことがあります。ご主人 さんが仕事に行っている間,昼間は何をしているかというと,パチンコ屋さんに行くん ですね。パチンコ屋さんに行ってパチンコをする。何でパチンコをしているかというと, 「パチンコをしている間は世の中の現実を忘れられるから」と,その時間だけは幸せな んだと。だけど,その幸せな時間を確保するためには借金をしなければならないんです ね。パチンコでは勝てない。それでどんどんヤミ金から借入を繰り返して,うちに来た 103(103)