強迫症の診断概念,そして中核病理に関するパラダイムシフト
―神経症,あるいは不安障害から強迫スペクトラムへ―
松永寿人
兵庫医科大学精神科神経科 要約 強迫症(OCD)は,DSM-IV-TRまで,神経症あるいは不安障害の一型とされてきた。しかし DSM-5では不安症群から分離され,「とらわれ」や「繰り返し行為」を特徴とする強迫症および関連 症群という新たなカテゴリー内に位置づけられた。すなわちOCDの疾患概念は,不安の病気から強 迫スペクトラムへと転換することとなり,その背景には,病因や病態,治療など他の不安症との相違 に関する知見の集積がある。一方,病的不安や回避,うつ病との密接な関連性などの共有,さらに生 物学的病態や治療を含め他の不安症との共通性も明白で,両者の関係は極めて複雑である。その複雑 さには,cognitiveからmotoricなものまで,さらに自閉スペクトラムや嗜癖性障害などとの重なりや 連続性を含むOCD概念の異種性や広がりが関わっており,OCDの今後の方向性については,現概 念の妥当性や臨床的有用性を含めさらに検討が必要である。 キーワード:DSM-5,強迫症,強迫神経症,強迫関連症群,強迫スペクトラム 【はじめに】強迫症(obsessive-compulsive disorder; OCD) については,それが臨床的に独立した疾患と み な さ れ て 以 降,DSM-IV-TR(American Psychiatric Association, 2000)に至るまで,神 経症,そして不安障害の一型とされてきた。し かし2013年に改訂されたDSM-5(American Psychiatric Association, 2013)では,従来の不 安障害の領域に大きな変更が加えられ,OCD はパニック症や社交不安症などを含む不安症群 から分離された。そして「とらわれ」,あるい は「繰り返し行為」を共有する「強迫症および 関 連 症 群(Obsessive-Compulsive and Related Disorders; OCRD)」という新たなカテゴリー の中心に位置づけられている。このような OCDを巡るパラダイムシフトは,強迫に関す る現在の世界的な視点,さらには今後の方向性 を示している点で,極めて興味深い。 本稿では,まず強迫の歴史的経緯をたどり, どのようにOCDが恐怖症などと同様の神経症 概 念 に よ り 捉 え ら れ,DSM-III(American Psychiatric Association, 1980)以降,不安障害 に組み込まれることとなったのか,さらに今回 のDSM-5改訂では,いかなる見解や根拠から, どのような過程を経て,これを不安障害から切 り離すことに至ったのか,などの点を中心に概 説してみたい。 【神経症としてのOCD】
1980年の DSM-III(American Psychiatric Association, 1980)改訂以前,OCDは強迫神 経症として,Freudによって確立された神経症 概念に従い,精神力動論による成因理解がなさ れ,精神分析的,心理学的見地から研究や臨床 の対象とされてきた(田代,1997; 多賀,2010; 塩入,2013)。彼の理論によれば,神経症は幼 少時期の外傷体験を抑圧し,不快な記憶や感情 を排除しようとするプロセスや発症メカニズム を共有するものであり,強迫神経症は,肛門サ 〈総 説〉
ディズム期への退行,そしてこれに対する防衛 として理解された(Freud, 1926; 多賀,2010)。 また超自我の役割も重視されており,これが自 我内部の 藤を増大させ,反動形成,隔離,打 消しなどの防衛機制を介し症状形成に関わると した(Freud, 1926)。さらにFreudは,不安に 基づく症候群を不安神経症(anxiety neurosis, 独:Angstneurose)と し,不 安 神 経 症,神 経 衰弱,心気神経症からなる現実神経症と,ヒス テリー,強迫神経症,自己愛神経症などの精神 神経症に二分した(塩入,2013)。これらの治 療として,抑圧された心理的 藤を意識化する 作業を通じ,自我の統合を目指した自由連想法 などによる精神分析を創始し,有名なネズミ 男,あるいはオオカミ男などの治療経験を報告 した(多賀,2010)。 本邦では,1920年頃に森田正馬が,ヒポコ ンドリー性基調と精神交互作用を重視した神経 症理論を展開し,強迫神経症も彼のいう神経質 に含められた(森田,1921)。さらに,神経質 者が有する「かくあるべきという強い欲求と, それを完全に満たしたいという願望,しかしそ れが完全な形では満たされないという予期」と いった「思考の矛盾」により生じる苦痛や恐怖 を打ち砕き,悪循環を断ち切ることを目指す森 田療法を提唱した(森田,1921)。これは,事 物を「あるがまま」に受け入れ,自然に従うこ との体得を目標とするが,森田のいう「あるが まま」とは,不安を排除しようという「はから い」を止めて,自己の感情をそのままおくこと を意味している(森田,1921; 田代,1997; 多賀, 2010)。このような森田の神経質概念や森田療 法は,その後,強迫神経症や対人恐怖など様々 な不安神経症に応用され,日本独自の神経症理 解や治療が発展していく礎となった。 Freud以降も,強迫を含む神経症の発症機制 に関する解明や治療は,精神分析を中心に進め られた。しかしこの治療は,通常1回当たり 45–50分程度を週に4回以上,概ね3–6年と長 期にわたり,患者にも治療者にもたいへんな根 気と労力を強いるものであった(高橋,1997)。 しかしその治療効果は確実なものとはいえず, その特性から,治療効果や長期的予後に関する 検証も困難であった。一方,神経症がある種の 内科疾患に伴って,あるいは薬物の投与により 出現することから,この成因の解明,さらに身 体機能の観点から不安症状の病態生理機制を明 らかにしようとする動きが,循環器内科医など を中心に見られるようになった(高橋,1997)。 1950年代には,神経症や近縁疾患について, 精神分析的,力動的,人間哲学的などの視点の みならず,行動心理学的,あるいは神経生物学 的観点からの病因や病態の究明が進められるよ うになった。 特に1950年代後半,抗精神病薬として開発 されていたimipramineに抗うつ効果が発見さ れると,抗うつ薬開発が進められるとともに, 不安神経症を対象とした精神薬理学的研究が発 展し,特に脳内モノアミン仮説などの生物学的 機序から,この病態生理を捉えようとする動き が活発となった。1967年には強迫症状に対す るclomipramine(CMI)の有効性が初めて検 証された (Fernandez-Cordoba & Lopez-Ibor Alino, 1967)。 その翌年には,Renynghe de Voxrie (1968)により,15例中10例の強迫症
状が,CMIにより改善したことが報告されて
いる。1970代に行われたいくつかの臨床試験
では,半数以上の強迫患者にCMIの効果が観
察 さ れ(DeVeaugh-Geiss & Katz, 2000),そ の 年代後半には,強迫患者を対象にプラセボ対照
比較試験が施行されるようになり,CMIの強
迫に対する有効性が客観的に示された(Marks
et al., 1980; Montgomery, 1980; Thoren et al.,
1980)。さらには,この有効性がimipramine など他の三環系抗うつ薬とは異なる特異的な ものであることが確認され,その薬理作用の中 の強力なセロトニン活性,特にセロトニン再取 り込み阻害作用が,抗強迫効果に関わるものと して注目されるようになった(Clomipramine
1995)。 一方,1920年ごろより,精神分析に批判的な 立場から,主に動物実験を通じ導かれた学習理 論に基づいて行動療法が開発され,臨床応用が 進められた。1950年代には認知心理学が発展 し,この中でEysenck (1959)やWolpe (1958) は,各々の論点から頑固に固執する神経症反応 (症状)について,不適応的な古典的条件づけ と学習反応によるものと考え,行動療法の体系 化を進めた。1960年ごろには,不適応的不安に 対して,系統脱感作などの臨床応用が試みられ るようになり,強迫に対する応用も,1960年代 から試行された。その主流である曝露反応妨害 法(Exposure & Response Prevention; ERP) に
ついては,Meyer (1966)の症例報告が先駆け
で あ る。こ の 技 法 は,そ の 後Rachman et al.
(1971)やFoa & Goldstein(1978)により,強 迫の治療法として確立されていった。 このように強迫神経症は,Freud以降,他の 神経症と同類として扱われ,不安や 藤などの 心理的規制が重視されて,その制御を目的とし た治療法の開発が進められた。しかしこの中 で,精神分析的アプローチの問題点や限界が明 白となる一方,1960年代以降には薬物やCBT の有効性が注目され,その検証が行われた。こ れに伴い,従来の精神力動論による成因理解に 代わって,生物学的,あるいは認知行動学的観 点から,強迫神経症の病因や病態を捉えようと する機運が高まった。 【DSM-IIIとそれ以降】 さらに1950年代ごろからは,精神科疫学研 究が盛んとなり,この信頼性を高めるための診 断方法の開発や標準化が必要となった(高橋, 1997)。1970年代には,従来の精神科診断分類 法とは多角的に異なる研究用統一診断基準が作 成されることとなり,この中では,精神疾患の 臨床像の把握,あるいは評価に操作的診断シス テムが導入された。1972年にはFeighner et al. (1972)による「精神医学研究用診断基準」が, そして1978年にはSpitzer et al. (1978)が,ア メリカ国立精神保健研究所のうつ病研究プロ ジ ェ ク ト 用 に「研 究 用 診 断 基 準(Research Diagnostic Criteria; RDC」を 作 成 し た。1980 年には,RDCをもとに,DSM-IIIがAPAによっ
て作成され(American Psychiatric Association, 1980; 高橋,1997),この中では,無意識や 藤 といった精神力動的病因論を疾患概念の中核に 含む神経症という用語が廃止された。従来の神 経症は不安障害へと変わり,この中で強迫神経 症は,操作的診断基準により定義されたOCD と な っ た。そ の 後,1987年 に はDSM-III-R
(American Psychiatric Association, 1987),
1994 年には DSM-IV(American Psychiatric Association, 1994),そして2000年には DSM-IV-TR(Text Revision)(American Psychiatric Association, 2000)へと改訂された。この間に ICD-10も発表され(WHO, 1992),各々の診 断基準によってOCDが定義された。これらの 中では,強迫症状の持続期間や不合理性の洞察 に関する記述など,各項目の内容に若干の相違 を認めるものの,これが不安障害の一型であ り,強迫観念,あるいは強迫行為によって構成 され,そして経過中の少なくとも一時期では, 観念あるいは行為についての不合理性の認識を 有するという,基本的概念はほぼ一貫していた (多賀,2010)。 【DSM-IV-TRに見るOCDの典型例と 不安の病気としての限界】 DSM-IV-TRのOCDの 診 断 基 準 に よ れ ば (American Psychiatric Association, 2000), 強 迫観念は,「自分の心の産物と認識され,無視 や抵抗,制御を試みても,絶えず心を占める思 考や衝動,イメージ」と定義され,強迫行為は, 「主には観念に伴い高まる不安や苦痛を予防・ 緩和したり,恐ろしい出来事を避けたりするこ とを目的とし,あるいは厳密に適用しなければ ならないルールに従って,抵抗,あるいは躊躇 しつつも,駆り立てられるように行われる反復
行為や心の中の行為(祈る,呪文を唱える,数 を数えるなど)」とされている。OCDの診断に は,強迫観念,行為のいずれかが必要となるが, 多くの場合には,両者が併存する(松永ら, 2012)。具体的には,公衆トイレやつり革など, 公共のものへの接触で,汚染の脅威を強く感じ れば,それを完全に浄化したい欲求から執拗に 手洗いを続け,あるいは泥棒や火事を恐れるが あまり,そのリスクをなくそうと外出前に施錠 やガス栓の確認を切りなく繰り返したりする。 すなわち,強迫行為の多くは,観念や増大する 不安による安全探求的な行動的反応であり,次 第にそれに要する時間や回数を増しつつ,また 嫌悪や恐怖する対象,あるいは状況を避けると いう回避行動を拡大しつつ重症化し,習慣化し てしまう(松永,2012; 松永ら,2012)。 一般的にOCD患者は,このような観念・行 為の無意味さや不合理性,過剰性を十分に認識 し,何とか制御しようと抵抗を試みているもの の,不安や怖さ,苦痛に圧倒され思うように止 められず,この点からも大きな 藤やストレス が生じている。さらに,安全と考える空間や手 順に固執し,これを次第に狭め厳密にして安心 感を得ようとしたり,自らのルールによる儀 式,あるいは 「大丈夫か」 という保証の要求に 家族を巻き込んだりしながら,支障が生活空間 全体に拡大する(松永ら,2012)。一方,強迫 行為や回避,巻き込みなどの行動的反応は,(そ れらの行動により危機回避がなされたという 誤った認識に基づいて)きっかけとなった嫌悪 (恐怖)刺激の脅威,あるいは重大性をより強 く意識させ,反応閾値が下がるとともに,それ らの行動が合理化され,必要性が誤って正当化 されるという悪循環に陥ってしまう。そして次 第に,目標志向的で,行動–結果学習に基づく 刺激–反応の習慣化形成が進み,それへの依存 度が高まる(Robbins et al., 2012)。このように, 行動抑制障害という側面のみならず,他の不安 障害と同様の認知・行動の相互作用,そして強 固な恐怖条件づけ,あるいは恐怖消去の不全状 態などが,典型的OCD患者では観察され,選 択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective
serotonin reuptake inhibitor; SSRI) や, 曝露 (反 応 妨 害)法 を 中 心 と し た 認 知 行 動 療 法 (cognitive-behavioral therapy; CBT)の有効性
も共通している(松永ら,2012; Milad & Rauch,
2012)。 一方,強迫行為の出現は,観念や不安への反応 としての典型的パターン以外にも,「厳密に適用 しなければならないルールに従って,駆り立て られるように行われる」場合がある(American Psychiatric Association, 2000)。これは極めて 頑なで常同的なもので,通常このような繰り返 し行為には,観念,あるいは認知的不安増強プ ロセスの先行を認めない,あるいは不明瞭であ る。この多くでは様々な感覚現象が先行し,前
駆衝動,「まさにぴったり感(just right feeling)」
の追求や不完全感の緩和などが目的となり,些 細な日常動作中にも出現,概ね自我親和性で洞 察に乏しい。このように,明確な観念を伴わな い場合でも,繰り返し行為の存在によってOCD の診断は可能であり,実際ICD-10には,「強迫 行為(儀式強迫)を主とするもの」というサブ タイプが含まれている(WHO, 1992)。例えば, スリッパの不ぞろいが目について気になれば, 「ぴったり」と左右対称に並べ直す動作を延々 と繰り返したり,本の背の高さにこだわれば, きちんと正確にそろえることに執着し,整頓が 止まらなくなったりする。あるいは,腕を袖に 通すときの感覚や,ドアや冷蔵庫の扉を閉めた ときの完璧な「ぴったり」感にこだわり,服の 着脱,ドアや冷蔵庫の開閉を延々と繰り返して しまう。また勉強前に机の上の文具の配置が気 になり,納得するまで整頓を続けるため,なか なか勉強にかかれないなど,同じ動作を数時間 にわたり何度もやり直して,次の行動に移れな くなる,いわゆる「強迫性緩慢」に陥ることが ある(松永,2012; 松永ら,2012)。これらの臨 床特徴に加え,SSRIへの反応不良や,適用され るCBT技法もペーシングやプロンプテイング
を主体とするなど典型例との相違は明らかであ る(松永,2012)。先に挙げた強迫観念や不安 増強に関わる認知的プロセスが明確で典型的な ものをcognitiveタイプとすれば,これはmotoric タイプとして特徴づけられる。 すなわち,このようなOCD内の異種性は, 繰り返し行為(強迫行為)が生じる背景やその 特性の相違に最も反映されている。cognitiveタ イプの繰り返し行為が,強迫観念に伴う不安や 苦痛の軽減を目的とし意図的に行われるもので あるのに対し,motoricタイプのものは,前駆 衝動など感覚現象による緊張の緩和を指向する 場合が多い。さらにこの相違は,OCD患者で 見られる多彩な併存症とも連続的であり,例え
ば大うつ病性障害(major depressive disorder;
MDD),あるいは他の不安障害などには,類 似した認知的プロセスが絡み,強迫観念を伴う cognitiveタイプに見られやすい(WHO, 1992)。 一方,motoricタイプでは,チック障害(tic disorder; TICD) との関係が密接で, 実際, DSM-5に導入された「チック関連性」サブタ イプと概ね特徴が一致している(金生,2009; 松永,2012; 松永ら,2012)。このように近年
OCDでは,cognitiveやmotoricタイプなどの 疾患内の異種性に加え,その病因や精神病理, 脳機能や認知機能などの生物学的病態,治療な ど様々な側面において,他の不安障害との相違 が 明 ら か に さ れ て い る(Bartz & Hollander, 2006; Phillips et al., 2010)。 【強迫スペクトラム(OCSD))概念の導入】 このように,OCD内には,衝動的な行動抑 制障害といった様相が色濃く,必ずしも不安や 認知的プロセスの介在を要さず繰り返し行為が 生じるmotoricタイプなど,異種性の存在が明 白である。すなわち,OCDの病理・病態につ いて,他の不安障害と同様のセロトニン(5-HT) 系機能異常を含む生物学的病態,あるいは「不 安」惹起に関わる学習理論などにより,その全 体像を把握することの限界が明らかとなった
(Bartz & Hollander, 2006; Phillips et al., 2010;
松永,2012; Robbins et al., 2012)。これを支持
する知見が集積される中で(Bartz & Hollander,
2006),DSM-5の改訂プロセスでは,OCDを不 安障害から分離させるという機運が高まり,さ らには大脳基底核,特に線条体における5-HT, DA系機能異常を想定し,それに関連した認知 的,行動的抑制障害としての「とらわれ」,「繰 り返し行為」を中核とした,より包括的・生物
学的見解に転換していった(Bartz & Hollander,
2006; Hollander et al., 2007; Phillips et al., 2010)。 この中で,これらの症状を共有する障害群,
すなわち強迫スペクトラム障害(
obsessive-compulsive spectrum disorders; OCSDs) が
注目されることとなり,DSM-5の改定作業の
中で,独立した診断カテゴリーとしての妥当 性検証が進められた(Bartz & Hollander, 2006; Hollander et al., 2007; Phillips et al., 2010; 松永・ 林田,2011; 松永,2012)。
OCSDは1990年代初め,Hollanderらにより
提唱された(Stein & Hollander, 1993; Hollander et al., 2007)。彼らは「とらわれ」,あるいは反 復的・儀式的行動に注目し,これを臨床特徴と する一群が,精神病理や生物学的病態の共有, あるいは連続性で説明しうる可能性を推定し た。例 え ば,神 経 性 食 思 不 振 症(Anorexia Nerbosa; AN)では体重やカロリーへの執着, 過食,あるいは嘔吐などの排出行動が繰り返さ れ,また抜毛癖(Trichothilomania; TTM(hair pulling disorder))では抜毛行為が儀式的に反 復される。当初のOCSDを大別すると1)身体
醜 形 障 害(Body Dysmorphic Disorder; BDD)
や心気症(Hypochondriasis; HY), AN, および 過食症(Bulimia nervosa; BN)を含む摂食障害 (Eating Disorders; ED)など,「外観や身体的 イメージ,感覚へのとらわれ」を主たる病理と し,この不安軽減を目的とした反復行為を有す る群,2)トウレット障害(Tourette s disorder; TD)やTICD, シデナム舞踏病,自閉症など, 強迫観念様の「とらわれ」は乏しいが,反復的・
常同行為を主とする神経学的障害群,3)よ り強い快感や満足,開放感を得る目的で繰り 返される衝動行為を特徴とする群,例えば,
TTMや窃盗癖(Kleptomania; KM),病的 博
(pathological gambling; PG),性的強迫といっ
た衝動制御障害(Impulsive Control Disorders;
ICD) などとなる (Stein & Hollander, 1993; Hollander et al., 2007)(Figure 1)。PG やKM
などと同様に,ある特定の行動や一連の行動プ ロセス,例えば買い物や反復的自傷行為,ある いはインターネットゲームなどへの依存も含ま れるが,これらには渇望や耐性形成,離脱の問 題といったアルコールなどの物質依存に類似し た病態,あるいは報酬系などの脳内メカニズム の関与を認めることから行動嗜癖と呼ばれた (Holden, 2001)。 当初からOCSDは,前頭葉機能異常などの 生物学的病態仮説と,臨床的諸現象との整合 性を目指しており,各障害間の関連性や連続 性が想定されている(Stein & Hollander, 1993; Hollander et al., 2007; 松 永・林 田,2011)。こ の中では,「強迫性」,「衝動性」を対極とする 「強迫性–衝動性スペクトラム」がよく知られて いるが,これのみならず,不安や洞察,社会的 機能水準,報酬感受性,注意欠陥性,習慣性な どについて,各OCSDが示す内容や程度は多彩 である。しかし,それぞれをdimension化(例:
motoric-obsessional (cognitive) dimension, insight dimensionなど)し,その「量的」評価 により,各障害の特性を多面的に捉えることで, スペクトラム全体の異種性や連続性を説明する 試みがなされた(Hollander et al., 2007; 松永・ 林田,2011)。OCSDについては,その診断カ テゴリーとしての妥当性や臨床的有用性が, DSM-5の改訂に向け検討されてきた(Hollander et al., 2007; Phillips et al., 2010; 松永・林 田,
2011)。筆者もこのプロセスに一部関わったが, 障害の選択では,近年増大しつつある生物学的 知見を根拠とした妥当性が重視され,客観的で 厳密な包含基準が設定された(Hollander et al., 2007; Phillips et al., 2010; 松永・林田,2011)。 【OCSDからOCRDカテゴリーへ】 このような詳細な検証,そして各ワーキング・ グループ間の折衝を経て,2010年に最初に示さ れたDSM-5の草稿では,OCSDは従来の不安
障害とともに,「不安と強迫スペクトラム障害 群」に含められた。(Figure 2)その根拠として, 不安障害とOCSDの臨床像や背景には,明らか な相違が認められる反面,両者のcomorbidity は高率で,認知や神経回路,神経化学,あるいは 神経内分泌学的特性などの共通点が多々認めら れるなど,双方に共有される生物学的,遺伝学 的基盤が推定されている(Schwartz et al., 2003;
松永,2004; Menzies et al., 2007; Stein, 2008; Milad & Rauch, 2012)。また社交不安症とBDD
(身体醜形障害)のように,障害間の類似性や密
接な関連性が認められる(Stein, 2008; Phillips
et al., 2010; Veale & Matsunaga, 2014)。すなわ ち,OCDやOCSD, その他の不安障害を,発生 機序や病態生理など内在化された特性を共有す る一群とし,うつ病との広範なスペクトラム上 に捉えて,双方の連続性を強調することがより 妥当と考えられた(Stein, 2008)。一方,OCSD の内容は,当初とは大きく異なり,OCD, BDD, TD (トウレット障害)に常同運動症(Stereotypic Movement Disorder; SMD)が加えられ,さら にはためこみ症 (hoarding disorder; HD),
olfactory reference syndrome, 皮膚むしり症 (skin picking disorder; SPD(excoriation
disorder)) などの新たな疾患が提唱された (Phillips et al., 2010; 松 永・林 田,2011; 松 永, 2012)。この中のHDについては,従来ため込 み症状として,汚染/洗浄,確認,対称性/物 の配置や儀式行為などとともに,強迫症状の symptom dimensionを構成するもの,あるい は強迫パーソナリテイの一因子とみなされた (Bloch et al., 2008; Matsunaga et al., 2008;
Mataix-Cols et al., 2010)。その一方で,精神病 理や遺伝要因,脳内メカニズム,認知行動学的 プロセス,あるいは治療反応性などについて,
他のdimensionとの相違や特異性が多面的に支
持されてきた(Bloch et al., 2008; Mataix-Cols et al., 2010; Matsunaga et al., 2010)。さ ら に た め込み症状は,統合失調症や認知症,自閉スペ クトラム症,ED (摂食障害)など他の精神障害 に伴って出現する場合が少なくないこと,他の symptom dimensionと の 関 連 が 乏 し い こ と, などからも,OCDから独立した単独の障害と することが妥当と考えられた(Mataix-Cols et
al., 2010; Phillips et al., 2010)。一 方,Figure 1
に示した当初のOCSDの中で,KM(窃盗癖)
とEDの位置づけは現行のままとなり,またHY
(心気症)はillness anxiety disorder (病気不安
症)とされ,身体表現性障害に代わる,「身体 症状症および関連症群」という新たなカテゴ
リーに含まれた。PG(病的 博)については,
物質関連障害との症候学的,生物学的類似性が 重視され (Grant et al., 2006; Hodgins et al., 2011; Leeman & Potenza, 2012),また行動嗜癖 という観点から,「物質関連障害および嗜癖性 障害群」カテゴリーに移動させる方針で議論が 進められた。しかしそもそもOCSDは,連続的 スペクトラムを想定した疾患群であり,その境 界設定やカテゴリー化は,本質的には馴染まな い。特にそのカテゴリー横断的特性を考えれ ば,従来からの精神障害分類体系全体における バランスや,整合性にも様々な配慮が必要であ ろう。ある障害を従来のカテゴリーからOCSD に移行させるには,その妥当性に関する十分な エビデンス,あるいは治療法の選択基準となり うるような明確な臨床的有用性が要求される。 しかし多くでは,これを支持するエビデンス が質的にも量的にも十分とはいえず,これが OCSDを巡るプロセスに,最も強く影響したこ とは間違いない(松永,2012)。 草稿におけるOCSDは,OCDやBDD, HDな ど,症状の背景に認知的プロセスの関与が明ら か な 一 群(cognitive OCSD)と,TTM (抜 毛 癖),TD, SMD (常同運動症)といった認知的 要素に乏しい,またはそれを欠いた繰り返し行 為を特徴とする運動性の一群(motoric OCSD) に大別できる(松永・林田,2011; 松永,2012)。 これはFigure 2のように,スペクトラムという には,類型的,あるいは非連続的イメージが拭 えない(Figure 2)。 特にmotoric OCSDに関しては,不安障害と 同一カテゴリーに分類することに関し,疑問視 する意見も少なくなく,この一群の扱いが,そ の後の最大の争点となった。これに関わる要因 として,当初はdouble standardを回避する目 的で,カテゴリー数をICD-10に準じて十進法 に削減する予定であった。しかしその後,この 方針の転換に伴いカテゴリー数を増すこととな
り,1)OCDをcognitiveタ イ プ とmotoricタ
イ プ に 分 割 し て,前 者 とcognitive OCSDと を不安障害カテゴリーに残し,motoric OCD を「compulsive disorder」な ど と し て,他 の motoricなOCSDとともに別カテゴリーに独立 させる案,2)OCSD全体を不安障害から分離 する案などが検討された。結果的には,従来の 不安障害カテゴリーが細分化され,OCSDは
Obsessive-compulsive and Related Disorders
(OCRD; 強迫症および関連症群)として,不安 障害から切り離されることとなった。(Figure 3) さらにOCRDからは,TD(トウレット障 害),SMDなどが除外され,これらは新設の 「Neurodevelopmental Disorders (神 経 発 達 症 群)」カテゴリーに分類された。Figure 3に示 したが,BDDなどよりcognitiveな要素が強 いOCRDは不安症群に近い位置にある。HD に関しては,「大切なものを失うのではない か」といった不安や苦痛,あるいは認知的プ ロセスが関与する程度は多彩ではあるが(向井 ら,2014),典型例ではこれらが明白であり, やはりcognitive OCSDと捉えられる。 一方,TTM(抜毛癖)やSPD (皮膚むしり症)
などは,「body-focused repetitive behavioral disorders; BFRBD (身体を焦点とした反復性行
動障害)」と呼ばれ(Stein et al., 2010),
DSM-IV-TR (American Psychiatric Association, 2000) の中では,「他のどこにも分類されない衝動制 御の障害」カテゴリーに含まれていた。すなわ ち,これらの診断には「行動に至る直前,また はその行動に抵抗しているときの緊張感の高ま り」,「行動中の快感,満足,または開放感」な ど,高度な衝動性を反映する臨床症状が必須で あった。しかしその後の行われた大規模調査 (Trichotillomania Impact Project-Adults) に おいて,いずれの特徴も抜毛行為に常に伴う
わけでなく,TTM患者全般に認めるものでな
いことが明らかにされた(Woods et al., 2006)。
中させる(focused)」場合と,「自動的に生じ る(automatic)」場合があるとされ(Stein et al., 2010),前者では不快感や感情への反応, あるいは認知的要素が強く,しばしば「駆り立 てられる感覚(urge)」を伴い, 藤的で抑う つや不安などとの関連が強い(Woods et al., 2006; Stein et al., 2010)。これがSPD (皮膚むし り症)であれば,皮膚のザラザラなどの不均整 の感覚や不快な感情などが契機となり,頭部や 顔面の掻きむしりに至りやすい(Odlang & Grant, 2008)。このような「気持ちの悪さ」や 「just right」感の追求,「すっきりしたい」とい う前駆衝動を含む感覚現象の先行は,TDの出 現状況に近似している(Gaze et al., 2006)。さ らにTICD (チック障害)やTD患者で見られ るcomorbidityの 中 で,BFRBDsは,OCDや
ADHDなどに次いで高率であり(Gaze et al.,
2006),さらにこれらの好発年齢(11–13歳)が, 上述したmotoricタイプのOCDと連続的,あ るいはほぼ同時期である点も興味深い。一方, 後者はより習慣性の様相が強く,本人の自覚を 伴わず生じるものであり,この特性は従来の診 断基準に該当するとは言い難い(Stein et al., 2010)。このように,病的な抜毛行動には,「緊 張感の高まり」などの衝動性,あるいはその制 御の問題に関する特徴を必ずしも認めるわけで は な い。ま たOCD患 者 に お け るBFRBDsの comorbidityは,他の不安障害患者に比し高率 であるなど両者の関係は密接であるが(Richter
et al., 2003; Lochner & Stein, 2010), 一方で
BFRBDsと他のICDとは,相互に併存する割合
が低く,comorbidityのパターンや発症時期も
異なっており関連性は乏しい(Gaze et al., 2006;
Brewer & Potenza, 2008; Stein et al., 2010)。さ ら にTICDやTDと同様,BFRBDsではOCD
との家族性関連を支持する報告もある(Cullen
et al., 2001)。そ し て,BFRBDsで はTICDや
motoricタイプのOCDなどと同様,CBTの中 でもハビットリバーサルが有効とされるが,こ
れは他のICDには通常適用されない(Odlang &
Grant, 2008; Stein et al., 2010)。これらの知見は,
DSM-5の改訂において,TTMやSPDなどを,
従来のICDからOCRDカテゴリーに移動させ
る根拠とされた。そしてとらわれや不安,ある いは認知的プロセスを介さず,前駆衝動などの
感覚現象がその出現に関わりうる点は,OCRD
の中でも,これのmotoricな特性を示唆してい る。(Figure 1)。
このような過程を経て,2013年に改訂され
た DSM-5(American Psychiatric Association,
2013)で は,OCDとBDD, HD, TTM, SPDな どを含み,強迫スペクトラム概念を基盤とする OCRDカテゴリーが新設された(Figure 3)。こ のカテゴリーの構成は,よりcognitiveなもの (BDD, HD)から,よりmotoricな要素を特徴 とするもの(TTM, SPD)まで拡がっており, その特性はFigure 3に示したように,OCD内 に見られる異種性と連続性をなすものである。 このように,これからのOCDの位置づけは, 「とらわれ」あるいは「繰り返し行為」を共有 する他のOCRDとともに,不安障害から独立 する方向に進むこととなり,この傾向は,今後 予定されるICD-11の改訂でも踏襲されるよう である。 【おわりに∼OCDを巡る今後の課題】 以上,この100年余りの間にOCDがたどっ た歴史的変遷は,精神力動的な解釈や理論に基 づく,いわゆる不安の病気としての強迫神経症 から,「とらわれ」や「繰り返し行為」を中核 的病理とし生物学的病態で説明される障害とし てのOCDへと,その概念が大きくシフトした 過程であった。さらに他の不安障害との関係, あるいはOCDの位置づけに関しても,例えば Kraepelinが,強迫と恐怖症を区別せず,これ らをまとめて強迫神経症とみなした時代から考 えれば(高橋,1997),両者が分離され別々の カテゴリーに分類されるというドラスティック な変化が起きたこととなる。 しかし近年OCDでは,皮質–線条体系機能異 常にとどまらず, 桃体–皮質回路の関与,あ るいは恐怖条件づけや恐怖消去に関わる機能不 全,CBTにおけるd-cycloserineの有効性などが
注目されている(Milad & Rauch, 2012)。すな
わち,病的不安や回避の存在,うつとの密接な 関連性といった臨床像を含め,不安障害との共 通性も明らかで,両者の関係は極めて複雑であ る(Stein, 2008)。その複雑さには,cognitive からmotoricなものまで,さらに自閉スペクト ラムや統合失調症,嗜癖性行動障害などとの連 続性までも含むOCDの広がりや異種性が関 わっている(松永,2012)。実際,臨床場面で 遭遇するOCD患者の中には,自閉スペクトラ ム症や統合失調症との鑑別に苦慮するケースも 少なくない。さらにパニック症,あるいは社交 不安症などとの病像のオーバーラップや併存な ど,他の不安障害と密接な関係性を示すものも いる。そういう意味では,確かにDSM-5は, OCDの診断的位置づけの新たな方向性を示し たものではあるが,これには従来の操作的診断 基準が規定してきたOCDの疾患概念やその変 遷が密接に関わっており,これが本質的なもの と言えるかどうか,あるいはその妥当性や信頼 性,臨床的有用性などを含め,十分に検証がな され確立に至ったものとは言い難い。また DSM-5改定プロセスにおいて,民族間,ある いは文化差の影響に関するOCSDの妥当性検
証 が な さ れ た も の の(Matsunaga & Seedat,
2011),これに関するエビデンスも十分とはい えない。このため,これを単に受け入れるだけ ではなく,時には批判的な視点も加えながら実 用し,今後この注意点や問題点を集約して本邦 から意見を発していくことも重要であろう。 引用文献
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Abstract
Obsessive-compulsive disorder (OCD) has been categorized separately from other anxiety disorders in DSM-5, and is currently conceptualized as a disorder that is characterized by having preoccupations (obsessions) and/or repetitive behaviors (compulsions). Disorders with phenomenological and psychopathological features similar to those of OCD also consist of obsessive-compulsive and related disorders (OCRD) that have been newly introduced into DSM-5. Some OCRDs such as body dysmorphic disorder and hoarding disorder are characterized by preoccupations and repetitive behaviors or mental acts in response to the preoccupation, while others are primarily characterized by recurrent body-focused repetitive behaviors (e.g. hair pulling and skin picking) and repeated attempts to decrease or stop the behaviors. However, OCD and anxiety disorders often share core clinical features such as elevated anxiety, fear conditioning, avoidant behaviors, and a higher prevalence of comorbid major depression as well as effective treatment strategies such as SSRI or CBT. Thus, the relationship between OCD and anxiety disorders is very complex and may be attributed to the heterogeneity of OCD (e.g. cognitive or motoric OCD) and the broader range of its concept, which even includes continuity with autism spectrum disorders or impulsive or addictive disorders. Therefore, further studies are needed in order to confirm the validity and clinical utility of the current diagnostic concept of OCD and determine the future direction of OCD.
Key Words: DSM-5, obsessive-compulsive disorder, obsessional neurosis, obsessive-compulsive and