昭 和53年11月(1978年) 一19一
食 品 材 料 と しての 小 麦 胚 芽 に 関 す る研 究
Ⅱ
小 麦 胚 芽 中 の ト リ プ シ ン ・イ ン ヒ ビ タ ー の
2,3の
性 質 に つ い て
渡辺 紀子 ・野 本 美 子
Studies
on Wheat
Germ
as a Food
Material
‡U
Some
Properties
of Trypsin
Inhibitors
in Wheat
Germ
Noriko Watanabe and Mitsuko Nomoto
1.緒 言 植 物 タ ンパ ク質 に は,あ る種 の 哺 乳動 物 の 消化 酵 素 の 働 き を阻 害 す る もの が 何 種 類 か知 られ て い る。 この 生 化 学 的 に活 性 な タ ンパ ク質 と して最 初 に 見 い 出 され た もの は大 豆 の ト リプ シ ン ・イ ンヒ ビ タ ー で あ り1), この 発 見 以 来,多 くの 研 究 者 に よ り,哺 乳 動 物 の プ ロ テ ア ー ゼ ・イ ン ヒ ビ ター が 豆 類 を は じめ種 々 の 植 物 組 織 中 か ら単 離 され て い る2)。 す で に 小 麦 胚 芽 中 に も4種 類 の ト リプ シ ン ・イ ン ヒ ビ タ ーの 存 在 が 認 め られ3),2種 類 の イ ン ヒ ビタ ーが 単 離 され て い る4)。 しか し最 近,こ の小 麦 胚 芽 が 食 品 材 料 と して 利 用 され るよ うに な り,こ れ らの 利 用 され た食 品 中 に は,な お,ト リプ シ ン ・イ ン ヒ ビタ ー 活 性 が 認 め られ て い る こ とが 明 らか に され た 。 そ こ で本 研 究 で は,ま ず 小 麦胚 芽 中 の ト リプ シ ン ・ イ ン ヒ ビ タ ーの 分 離 ・精 製 を行 な い,得 られ た これ ら の イ ン ヒ ビ タ ーが,体 内 で プ ロ テア ーゼ に 対 して,ど の よ うな 挙 動 を示 す の か を,in vitroで 検 討 した 。 ま た,植 物 に 存 在 す る代 表 的 な プ ロテ ア ー ゼ ・イ ン ヒ ビ タ ー と して 最 もよ く知 られ て い る,大 豆 の トリプ シ ン ・イ ン ヒ ビ タ ー と比 較,検 討 した。 II.実 験 方 法 1.試 料 ヵナ ダ ・ウ ェ ス タ ン種 の 硬 質 小麦 胚 芽(1975年 産) を 日清 製 粉 よ り入 手 し,石 油 工 一テ ル で脱 脂 後,粉 砕 *奈 良県栄養職 員 **本 学 食品化学研究 室 して 実 験 に 用 い た 。 2.小 麦 胚 芽 中 の ト リ プ シ ン ・イ ン ヒ ビ タ ー の 分 離 ・ 精 製4) 脱 脂 小 麦 胚 芽200gに 精 製 海 砂200gを 加 え て,乳 鉢 中 で 混 合 磨 砕 し,さ ら に こ れ に 少 量 の0.1M一 塩 化 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 を 加 え,ペ ー ス ト状 に な る ま で 十 分 に 混 和 し,時 々 撹 拝 し な が ら2時 間 放 置 し,そ の 抽 出 液 を 60℃30分,熱 処 理 した 後,こ の ロ液 に 硫 安 を 加 え て80 %飽 和 さ せ る 。 こ の 混 合 液 を 一 夜 放 置 後,沈 殿 物 を 集 め て,水11に 溶 解 し,遠 心 分 離(1,000∼1,200×g, 15分)し て,水 に 不 溶 な グ ロ ブ リ ン系 の タ ン パ ク質 を 除 去 す る 。 こ の 溶 液 をDEAF‐Sephadex A-25(pH. 8.OM/20ト リス ・塩 酸 緩 衝 液)カ ラ ム 中 に 通 し て 脱 色 後,Bio-Gel P-30(pH 2.0∼2.5,0.1M一 塩 化 ナ ト リ ウ ム/0.01M一 塩 酸 緩 衝 液)及 び, CM-Sephadex C-25に 流 し,そ の 活 性 画 分 を 分 画 し精 製 ト リ プ シ ン ・ イ ン ヒ ビ タ ーA及 び,Bを 得 た 。 3. ト リ プ シ ン と ト リ プ シ ン ・ イ ン ヒ ビ タ ー と の 反 応4) ト リ フ シ ン と ト リ プ シ ン ・ イ ン ヒ ビ タ ー を2:1の 割 合 でM/20ト リ ス ー塩 酸 緩 衝 液(pH 8.0)溶 解 し, ピ ス キ ン グ チ ュ ー ブ に 入 れ,図1に 示 す よ う に,あ ら か じ め37℃ に し て お い た 緩 衝 液 中 に 入 れ,恒 温 機 中 で 37℃ を 保 ち,ス タ ー ラ ー で 緩 衝 液 を た え ず 混 合 しな が ら 反 応 さ せ た 。 反 応 後,5℃ の 状 態 で 水 に 対 し て 外 液 がCl-freeに な る ま で 透 析 を 行 な っ た 。こ の 時 ト リ プ シ ン に よ っ て 加 水 分 解 さ れ た も の は 低 分 子 ペ プ チ ドに な り,膜 外 に 出 る た め 膜 内 に は,イ ン ヒ ビ タ ー とFリ プ シ ン の 複 合 体 の み が 残 る こ と に な る 。 こ の 複 合 体 を
5
.
分離した卜リプシン・インヒビターの純度の確認 ディスク電気泳動6),Sephadex G-75
カラムによ るゲ、ルロ過を用いた。 分子量の測定7%
SDS
電気泳動法7)及 ぴSephadexG-75
カラ ムによるゲ、ルロ過めを用いて測定した。標準タンパク として,チトクロム-c(分子量 13,000),キモトリプ シノーゲン (25,000),卵白アルブミン (45,000),牛 血清アルブミン (67,000) を用いた。7
.
N-
末端アミノ酸の決定わ ダンシルクロリド法を用いて,試料のN-
末端アミ ノ酸を測定した。試料の N-末端アミノ酸を夕、、ンシル 化し,K. R. Woods
,K. T
.
Wang
によるポリアミ ド薄層を用いて,アミノ酸の同定を行なった。標準ダ ンシル・アミノ酸として, L一α アラニン, Lーアスパラ ギン酸, Lーグルタミン酸, Lスレオニン,グリシン,L
ーノミリン,L
ープロリン,L
-
β
フェニーノレアラニン, L シスチンを用いた。8
.
タンパク質構成アミノ酸の定量 酸により加水分解を行ない, 目立自動アミノ酸分析 機(KLA-5B)
でアミノ酸組成の定量を行なった。 食物学会誌・第33号t
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トリプシンとトリプシン・インヒピターとの反 応方式 pH 2.0ヤらいにすると, l乙分かれるので,この性質を利用して BioGe} P-30 で生成物を分画し,元のインヒピターと性質を比較し トリプシンとインヒピター 図1結果および考察
1. トリプシン・インヒビターのペプシンによる影響 まず各インヒピターを,ペプシンと 10:1, 5:1, 2:1 の比率(モノレ), pH 2.0, 37.Cで反応させ,その阻害 活性の変化を調ぺた。その結果は図2に示すごとくでI
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I
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こ。 4. 阻害活性の測定 トリフシン・インヒピターのトリプシンに対する阻 害活性は2
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法わを用いて 測定した。 C 100 Bl
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100 ( 設 ) 令 下 2 0 6 ω 5 5 6 5 2 50 C:大豆インヒビター 30t
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(H) ベフシンによるトリブシン・インヒピターの消化 A :小麦匹芽インヒピタ- A B :小麦匹芽インヒビターB 50 30 10。
50 30t
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10。
図 2- 21-3)。 また SDS電気泳動法により分子量を測定した 結果,大豆インヒビターの分子量は 22,000,大豆ペプ チドは 18,800であった。 2-2 N末端アミノ酸の測定 次にダンシルクロリド法を用いて,各インヒピター のN-末端アミノ酸を調ぺた。各インヒピターの N-末 端アミノ酸をダン、ンル化し,それを加水分解したもの と,標準アミノ酸とを薄層クロマトグラフィーにプロ ットして, 3種類の展開溶媒を用いて,一次元,二次 元に展開した。その結果,インヒピタ- Aと, Aペプ チドのN-末端アミノ酸はともに,スレオニンであっ め 1 ・ N1HZ む よ 。 田 小 1 1
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asp. 図 4 DNSーアミノ酸のクロマトグラムGl:
小麦匪芽インヒピタ-A
T-GI-P:小麦匪芽インヒピタ一生成物 SI:大豆インヒピター T-SI-P:大豆インヒピタ一生成物 ala. • gly. T-GI-P→
'
.
thr. GI;亨 glu. _ pro. _ val. T-SI-P→
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solvent-1 • phe. SI ×一
→
昭和53年11月 (1978年) ある。 インヒピタ- Aとペプシンの場合,比率10:1では, 反応時間3時間で10%,24時間で38%,50時間で54% の失活が認められた。 5:1では, 3時間, 24時間, 50時 間と反応時間が長くなるにつれて, 48%, 72%, 92% と失活した。また2:1では, 50%, 89%と失活し, 50 時間では完全に阻害活性が失なわれた。インヒビタ-Bにおいては, 10:1で5%, 14%, 17%, 5: 1で6 %, 20%, 22%と失活し, 2:1では, 25%, 64%, 80 %と失活した。 これに対して,大豆インヒピターで は, 10:1では, 3時間で39%,24時間で92%,34時間 で完全に失活した。 5:1では, 3時間で61%,24時間 で完全に失活し, 2:1では, 3時間で75%,20時間で 失活した。 このように, インヒピタ-A, Bは,大 豆インヒビターに比べて,ペプシンに対して安定であ ることがわかった。これらのことより,晴乳動物の胃 の中でインヒビターが完全に失活することは不可能で あることが予測される。そのために次に,インヒピタ ーのトリプシンとの相互作用について検討してみた。2
.
トリプシン・インヒビターおよびトリプシンとの 反応生成物について 2-1トリプシンおよび生成物の分子量 小麦/lli芽中のトリプシン・インヒビターおよび大豆 インヒピターの生成物は,それぞれトリプシンに対し て,強い阻害活性を示した。これらインヒピターおよ び生成ペプチドの分子量を SephadexG-75カラムに よるゲルロ過と SDS電気泳動法を用いて測定した。 ゲ、ルロ過により分子量を測定した結果,インヒピタ Aーペプチドは 6,000であった(図-A
は17,
000,
た。次に大豆インヒピターの N-末端は,アスパラギ ン酸で概知の事実と一致した。また大豆ペプチド、は, ク、、ルタミン酸であった(図4)。 2-3アミノ酸組成の測定 次に各インヒピターのタンパク質構成アミノ酸を表 1に示した。 小麦のタンパク質として代表されるグルテニンの主 な構成アミノ酸は, ク、、ルタミン酸32.8%, プロリン 13.4%,グリシン9.2%でこれら3種類で50%以上を しめ,その他のアミノ酸は, 1.5%'"'"'3.1%である。そ れに比べてインヒピターのアミノ酸組成は,主要アミ ノ酸として,ク、、ルタミン酸であるが,ク。ルテニンに比 較して塩基性アミノ酸のリジン,アルギニン,酸性ア ミノ酸のアスパラギン酸が多く,また,プロリンが少 glucagon ゲソレロ過による小麦匹芽インヒビタ-A
および 生成ペプチド、の分子量 A:小麦匹芽インヒビタ-A, 90 p :生成ペプチド P→ 70 50 tube no. M.W 104 10" O 同3- 22ー
表 1 インヒピターおよび反応生成物の アミノ酸組成
アミノ酸 GI-A T-GI-P SI T-SI-P
Lys. 6.2 2.1 (i.1 5.9 His. 1.8 1.5 1.3 1.2 Arg. 8.0 2.7 5.5 4.7 Asp. 7.8 10.8 16.5 15.2 Thr. 5.9 2.9 4.1 4.1 Ser. 7.2 9.7 7.3 8.7 Glu. 17.6 26.7 12.0 11.5 Pro. 2.0 1.7 3.3 3.0 Gly. 15.8 17.0 6.7 9.9 Ala. 11.3 2.5 4.8 5.3 Cys. 1.3 1.8 1.9 2.2 Val. 3.7 2.9 6.2 6.2 Met. 1.6 4.2 1.5 0.9 Ileu. 2.1 2.9 7.0 6.9 Leu. 4.2 3.0 8.0 7.8 Tyr. 1.9 6.0 2.6 2.3 Phe. 1.6 1.6 5.2 4.2 (mole %) GI:小麦匪芽インヒピタ-A, T-GI-P:小麦匹芽 インヒビタ一生成物 SI:大豆インヒビター, T-SI-P:大豆インヒピ タ一生成物 なカ〉った。
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.
総 括
トリプシン・インヒピターが体内に摂取された場 合,ペプシンとの反応において,完全に失活きれず, 食物学会誌・第33号 トリプシンを阻害すると予測される。またインヒビタ ーはトリプシンを阻害するだけでなく, トリプシンと 反応して,低分子化されたペプチドを生成し,しかも このペプチドもトリプシンに対して阻害活性を示すこ とが認められた。このような事実は,食品中のタンパ ク質の栄養学的な評価において一つの問題を提起する ものであると考える。 最後に,本実験にあたり御指導下さいました本学の 光永俊郎助教授に深く感謝致します。参 考 文 献
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