司会
小室 一成
先生東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授
Prof.
Alan John Camm
Professor of Clinical Cardiology, St. George’s University of London and Imperial College, UK清水 渉
先生 日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 大学院教授萩原 誠久
先生 東京女子医科大学 循環器内科学講座 教授・講座主任赤尾 昌治
先生 国立病院機構京都医療センター 循環器内科 診療部長リアルワールド(実臨床)の心房細動患者に対する
最適な抗血栓療法を考える
非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する抗凝固療法として、非ビタミン K 拮抗経口抗凝固薬
(NOAC)であるリバーロキサバン(商品名:イグザレルト
®)の臨床使用開始から約 5 年が経過
した。この間、リアルワールド(実臨床)エビデンスの蓄積が着実に進む一方で、臨床的仮説や
新たな適応症に対する有用性を検証するためのさまざまな臨床試験も進められている。今回、
Alan John Camm 氏をお招きし、ステント留置後のNVAF 患者を対象にリバーロキサバンを含
む抗血栓療法の安全性を検討した臨床試験PIONEER AF-PCIの結果と、リバーロキサバンのリ
アルワールドエビデンスをご紹介いただいた。また、循環器内科専門医の先生方に、これらのエ
ビデンスを日本人NVAF患者の抗血栓療法にどのように応用するかについてご討議いただいた。
基調講演
リバーロキサバンの新エビデンス PIONEER AF-PCIと
豊富なリアルワールド(実臨床)エビデンス
◆ 臨床的仮説を検証するための臨床試験 PIONEER AF-PCI
欧州
1)または日本
2)における心房細動
(AF)患者の登録観察研究によると、全
体のおよそ1割に経皮的冠動脈インター
ベンション(PCI)が施行されています。
PCI後のAF患者では、冠動脈疾患の再
発と心原性脳塞栓症の発症抑制のため、
抗凝固薬(OAC)と抗血小板薬の併用が
考慮されますが、特にOACと抗血小板
薬 2 剤併用療法(DAPT)の 3 剤併用療
法では、出血リスクが顕著に増加しま
す
3, 4)。ここで私たちは、出血リスクと血
栓塞栓症リスクを天秤にかけなければな
りません。欧州心臓病学会(ESC)のAF
診療ガイドライン
5)では、PCI後のAF患
者に対して3剤併用療法が必要であると
しながらも、その期間は最小限にとどめ、
その後は抗血小板薬を単剤とした2剤併
用療法に移行することが推奨されていま
す。2 剤併用療法の推奨は、WOEST 試
験
4)の結果を根拠としていますが、この
試験の規模は小さく、十分なエビデンス
であるとはいえません。こうした状況の
中、PIONEER AF-PCI
6)が実施され、
「リ
バーロキサバンとクロピドグレルの2剤
併用療法が、ビタミンK拮抗薬(VKA)と
DAPTの3剤併用療法よりも出血が少な
い」という仮説が検証されました。
PIONEER AF-PCIでは、ステントが
留置されたNVAF患者2,124例を対象
に、リバーロキサバンをベースとした抗
凝固療法と抗血小板療法の併用と、VKA
とDAPTの3剤併用療法(標準治療)の
安全性が比較されました(図1)。
その結果、主要評価項目である大出
血、小出血、治療を要する出血の複合
(TIMI出血基準)の発現率は、標準治療
群の26.7%に対して、リバーロキサバ
ン15mg/日とクロピドグレルの2剤併
用群では16.8%と、有意に低下しました
(図2)。なお、副次評価項目の主要有害心
血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒
中の複合)の発症率は、両群に差はみら
れませんでした。
Alan John Camm
Professor of Clinical Cardiology, St. George’s University of London and Imperial College, UK
PIONEER AF-PCIにおけるリバーロキサバンの一部の用法・用量は、本邦の承認用量と異なります。また、ROCKET AF、XANTUS、REVISIT USは、リバーロキサバンの海外承認用法・ 用量(20mg 1日1回、CLcr50mL/min未満では15mg 1日1回)で実施されました。国内外の臨床試験成績を用いた薬物動態シミュレーションの結果、日本人に15mgおよび外国人に 20mgのリバーロキサバンを投与した際の曝露量は同程度であることが確認されています。なお、国内承認用法・用量は15mg 1日1回(CLcr15〜49mL/minでは10mg 1日1回)です。 目的:ステント留置を伴うPCI施行後のNVAF患者において、2種類の用法・用量のリバーロキサバン、あるいはビタミンK拮抗薬(VKA)と抗血小板薬併用の安全性を検討する SAPT:クロピドグレル75mg/日、プラスグレル10mg/日またはチカグレロル90mg×2/日による抗血小板薬単剤療法 DAPT:アスピリン75〜100mg/日およびクロピドグレル75mg/日、プラスグレル10mg/日またはチカグレロル90mg×2/日による抗血小板薬2剤併用療法 評価項目:主要評価項目 ・臨床上重要な出血:大出血、小出血、治療を要する出血の複合(TIMI出血基準) 副次評価項目(安全性) ・大出血、小出血または治療を要する出血(TIMI出血基準) 副次評価項目(有効性) ・主要な心血管イベント:心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合および個々の項目 ・ステント血栓症 安 全 性: 試験薬の投与中止に至った例は、リバーロキサバンが投与された1,402例中295例(21.0%)、標準治療群697例中205例(29.4%)に認められた。主な理由は、リバーロキサ バンが投与された例では、有害事象162例(11.6%)、出血性有害事象65例(4.6%)、死亡42例(3.0%)、標準治療群では、有害事象76例(10.9%)、出血性有害事象44例 (6.3%)、死亡22例(3.2%)であった。
Gibson CM, et al. N Engl J Med 2016; 375: 2423-2434.より作図 COI:バイエルからの支援あり 心電図で確認された発作性、持続性 または永続性
NVAF
で、ステント留 置を伴うPCI
が施行された患者 約2,100
例 (各群約700
例)R
予定されたDAPT
継続期間1
、6
、12
ヵ月間 リバーロキサバン15mg 1
日1
回 +SAPT
リバーロキサバン2.5mg 1
日2
回(本邦未承認) +DAPT
VKA
(PT-INR 2.0
~3.0
) +DAPT
リバーロキサバン15mg 1
日1
回 +アスピリン75
~100mg/
日VKA
+アスピリン75
~100mg/
日 (治療終了12
ヵ月間)図1 PIONEER AF-PCI試験デザイン(国外臨床試験)
本試験では、一部、本邦未承認用量(2.5mg1日2回)を用いています。プロモーションコードならびに医療用医薬品製品情報概要等に関する作成 要領に従い、患者背景および結果については、本邦承認用法・用量範囲のデータのみを提示します。 本邦で承認された用法・用量は以下のとおりです。 ●非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制 通常、成人にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。なお、腎障害のある患者に対しては、腎機能の程度に応じて 10mg1日1回に減量する。
◆ リバーロキサバンのリアルワールド(実臨床)エビデンス
PIONEER AF-PCIを含め、臨床試験
では、厳格な登録基準や除外基準に沿っ
た患者選択とプロトコールを遵守した治
療が行われます。しかし臨床試験の結果
は、リアルワールドの幅広い患者集団に
当てはまるとは限りません。リアルワー
ルドエビデンスを蓄積し、その結果を正
しく解釈することは、日常診療を正しい
方向に導くために重要です。
リバーロキサバンは、臨床使用可能と
なってから約5年が経過し、これまでに
豊富なリアルワールドエビデンスが得ら
れています。例えば、欧州、イスラエル、カ
ナダから311施設が参加し、リアルワー
ルドにおけるNVAF患者6,784例のデー
タを解析した国際共同前向き登録観察研
究XANTUS
7)では、リバーロキサバン服
用患者の脳卒中の発症率は0.8%/年、大
出血の発現率は2.1%/年であり、いずれ
も国際共同第Ⅲ相試験ROCKET AF
8)と
一貫した結果が得られています。日本で
は、前向き登録観察研究XAPASS
9)が進
行中です。XAPASSでは、2016 年 9月
時点で10,001例のデータが収集、固定
されています。この時点における脳梗塞
および頭蓋内出血の発現率は、それぞれ
1.0%/年、0.5%/年でした(表1)。日本
の第Ⅲ相試験であるJ-ROCKET AF
10)は、リバーロキサバンの脳梗塞発症率は
0.8%/年、頭蓋内出血発現率は0.7%/年
でしたので
11)、XAPASSの結果も、臨床
試験と一貫しているといえます(表2)。
ま た、米 国 の 健 康 保 険 デ ー タ ベ ー
ス MarketScan のデータを解析した
REVISIT-US
12)などの後ろ向きデータ
ベース解析もリアルワールド研究の方法
のひとつです。近年、このような手法も用
いられ、さまざまな方向からリアルワー
ルドエビデンスが蓄積されています。
##:p<0.001(対ビタミンK拮抗薬(VKA)+DAPT群)、*1:CLcr30〜49mL/minの場合は10mg1日1回、*2:他のP2Y
12受容体拮抗薬(プラスグレル、チカグレロル)に
代替可、*3:大出血、小出血、治療を要する出血の複合(TIMI出血基準)
HR:ハザード比、CI:信頼区間、解析方法:Cox比例ハザードモデル(p値:Log-rank検定)
Gibson CM, et al. N Engl J Med 2016; 375: 2423-2434.より作図. COI:バイエルからの支援あり
30
25
20
15
10
5
0
(%
) 臨床上重要な出血*3 大出血 小出血 主要評価項目 副次評価項目 治療を要する出血 1 年間の累積発症率 HR 0.59 [95%CI:0.47~0.76] リバーロキサバン15mg
×1
*1+クロピドグレル*(2n
=696
) 標準治療(VKA
+DAPT
)(n
=697
) 16.8 ## 26.7 2.1 3.3 1.1 2.2 14.6 22.6 海外データ図2 PIONEER AF-PCI試験成績(安全性評価項目)
表1 XAPASS中間集計(2016年9月15日時点の調査票収集・
データ固定症例)の概要
項目 (%/
年) 発現例数 副作用発現数*1—
1,080
全ての出血事象4.5
668
重大な出血事象1.1
162
頭蓋内出血0.5
73
心血管関連の有害事象*21.5
225
脳梗塞1.0
148
イグザレルト®特定使用成績調査の現状報告-2012年4月18日~2016年 9月15日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計-より作表 COI:バイエルからの支援あり *1:安全性解析対象症例、n=9,896 *2:心血管関連の有害事象解析対象症例、n=9,862表2 J-ROCKET AF
a試験成績
*1: 重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象(安全性解析対象集団 / 治験薬投与下、両群ともn=639) *2: 脳卒中または全身性塞栓症(プロトコール適合集団 / 治験薬投与下、両群とも n=637) 項目 事象発現率(%/
年) リバーロキサバン ワルファリン 安全性主要評価項目*118.0
16.4
重大な出血事象3.0
3.6
頭蓋内出血0.7
b1.3
b 有効性主要評価項目*21.3
2.6
脳梗塞0.8
2.0
a:Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111. b:大橋陽平ほか.血栓止血誌 2015; 26: 385-395.より作表 COI:いずれもバイエルからの支援あり
文 献 1)Kirchhof P, et al. Europace 2014; 16: 6-14. 2)Akao M, et al. J Cardiol 2013; 61: 260-266. 3)Lamberts M, et al. Circulation 2014; 129: 1577-1585. 4)Dewilde WJ, et al. Lancet 2013; 381: 1107-1115. 5)Kirchhof P, et al. Eur Heart J 2016; 37: 2893-2962.
6)Gibson CM, et al. N Engl J Med 2016; 375: 2423-2434. 7)Camm AJ, et al. Eur Heart J 2016; 37: 1145-1153. 8)Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365: 883-891.
9)イグザレルト®特定使用成績調査の現状報告-2012年4月18日〜
2016年9月15日時点の調査票収集・データ固定症例での中間集計-
10)Hori M, et al. Circ J 2012; 76: 2104-2111. 11)大橋陽平ほか.血栓止血誌 2015; 26: 385-395. 12)Coleman CI, et al. Curr Med Res Opin 2016; 32: 2047-2053. 13)UMIN登録試験ID: UMIN000016612
COI:2)、6)〜13)はバイエルから支援あり