ワンセグ内蔵
AVN
Development of AVN with One-Seg Service Reception
あ ら ま し 富士通テンでは，ワンセグ放送受信機能を内蔵したAVN（Audio，Visual，Navigation を一体化した製品）を開発した。本稿では，その機能と特徴について紹介する。ワンセグ放 送は，地上デジタル放送中（全13セグメント）の1セグメントを使用した放送で，変調など の伝送パラメタは，車載など移動体受信に適したものを使用している。Low-IF方式のシリ コンチューナ，制御機能内蔵DSPの採用など，小型化設計を行うことによりAVNへの内蔵 を実現した。 Abstract
Fujitsu Ten has developed AVN (a product combining Audio, Visual, and Navigation functions) that incorporates a function for receiving One-Seg service. The One-Seg service is a category of terrestrial digital TV broadcasting services using suitable transmission parameters for mobile reception, such as by in-vehicle systems. We realized AVN with built-in One-Seg service through a compact design, employing a low-IF silicon tuner and multi-function digital signal processors (DSPs). This paper elaborates on the functions and characteristics of AVN products.
澤井利仁（さわい としひと） 富士通テン（株）CI本部第二事業部 システム技術部 所属 現在，車載オーディオ，ビジュアル 機器の開発に従事。 菅原秀二（すがはら しゅうじ） 富士通テン（株）CI本部第二事業部 システム技術部 所属 現在，地上デジタル放送受信システ ムの開発に従事。
ワンセグ内蔵AVN
・MP3/WMA再生 ま え が き ・MJ（Music Juke：最大3000曲録音可能） ・CDDBによる自動タイトル付与（オートタイト リング機能）およびCDDBの楽曲情報自動取得 （FMdeTITLE） 家庭において身近なメディアであるTV放送を自 動車でも楽しみたいというニーズは高く，富士通テ ンが業界で最初に製品化したAVN（2DINサイズに Audio，Visual，Navigationを一体化した製品）に もTV受信機能は搭載されている。 ・VTR入力，後席ディスプレイ出力 ワンセグ受信機能 地上波によるTV放送は，国家事業として2011年 7月にデジタル放送に移行することが決まっており， 2003 年 12 月 か ら ISDB-T （ Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial）方式による地上 デジタル放送が開始された。 当初はハイビジョンを含む固定受信向け放送のみ であったが，2006年4月から放送電波の一部を使用 し，移動体に適したワンセグ放送が開始された。 ワンセグ放送の普及を受け，富士通テンは移動体 でも安定した受信と広いサービスが望めるワンセグ 放 送 受 信 機 能 を 内 蔵 し た3 モ デ ル の AVN （AVN887HD/777HD/667HD）を開発した。 本稿では，ワンセグ放送の概要，受信回路，AVN への搭載方策，受信アンテナについて述べる。(1)-(5) 製 品 概 要 ’07モデルの代表機種であるAVN777HDの概要を 以下に示す。 （1） 共通部 ・外形サイズ：2DIN（W180×H100×D165 mm） ・質量：約3.3 kg ・搭載デッキ：DVD/CDコンパチブルデッキ HDD 40 Gバイト（オーディオ/ナビ 共用） ・操作方式：本体操作（タッチパネル＋前面ス イッチ） （2） ディスプレイ部 ・7型ワイドEGAディスプレイ ・画面サイズ：W156×H82（mm） ・画素数：1 152 000個（800 H×480 V×3原色） （3） AV部 ・ワンセグ（13～62 ch ステレオ，多重放送対応） ・アナログTV（1～62 ch ステレオ，多重放送対応） ・ラジオ（AM/FM/FM多重） ・CD（CD-R/-RW対応） （1） ワンセグ放送とは ISDB-T方式では，1 ch約5.6 MHzの伝送帯域を 13の周波数帯域（約432 kHz）に分割して伝送して いる。 この分割の単位がセグメントで，さらに放送サー ビスの内容や目的に合わせてグループ化したものが 階層である。 ISDB-T方式の階層は最大3階層まで設定するこ とが可能である。伝送パラメタの中で変調，符号化 率，時間インタリーブについては，階層ごとに独立 した値を設定できる。 ワンセグ放送は，1セグメントで1階層を構成し， 13セグメントからワンセグ放送のみ部分受信する ことが可能である。ワンセグ放送用のセグメントは， 常に（どの放送chでも）帯域中央のセグメント No.0に配置される。 （2） ワンセグ放送の特徴 ワンセグ放送は，携帯電話などアンテナ感度の低 い装置での受信も想定しているため，固定向け放送 に比べて低い受信レベル（電力）で受信でき，瞬断 にも強いパラメタが選択されている（QPSK変調方 式と2倍のインタリーブ時間）。 しかし，受信障害に対する耐性と引換えに最大伝 送容量が小さくなるため，圧縮率の高い映像符号化 方式（H.264/AVC）を採用しており，画面の解像 度と滑らかさを示すフレームレートは固定向け放送 に比べて劣る。 （3） 車載受信に対する考察 アナログ，固定向けデジタル放送，ワンセグの電 界強度と受信品位の関係（計算値）を図-1に示す。 A～Cの点は，それぞれの方式において実用感度 を得る電界強度値を示しており，アナログTVでは C点（60 dBμV/m）以下になると画面にノイズが 現れ，見づらくなる。 ワンセグ放送は従来のTV放送に対して所要電界 ・DVDビデオ再生ワンセグ内蔵AVN
強度が小さくて済むため，今回の受信システムでは， シングルアンテナとした。 （4） ワンセグ受信回路 地上デジタルテレビ放送からワンセグ放送のみを 受信する場合，フロントエンド部チューナの受信帯 域 は1 セ グ メ ン ト 分 あ れ ば よ く ， OFDM （Orthogonal Frequency Division Multiplexing） 復調部，バックエンドの情報源符号化デコード部も 13セグメント全体を受信する受信機に比べて情報 レートが低いため，回路規模が小さい専用の回路構 成を取ることができる。 放送波への同調と復調されたデジタルデータを取 り出す機能を受け持つフロントエンド部は，中間周 波数を571 kHzと低い周波数に設定したLow-IF方 式とし，コイルによる同調回路とSAW（表面弾性 波）フィルタを使用しないシリコンチューナ（1 チップIC）とワンセグ放送専用のOFDM復調ICで 構成している。 また，シリコンチューナは，振動などに対する安 定性と小型化の面から車載用途に適している。 復調したデータストリームから映像，音声データ を復号するバックエンド部は，TI社製のデジタル メディアプロセッサであるTMS320DM320Aを核 として回路設計を行った。TMS320DM320Aは， 高機能DSP，ARMプロセッサとOSD（On Screen Display）を含むビデオエンコーダを内蔵しており， H.264/AVC，MPEG-2 AACのデコード，映像の拡 大，チューナの制御，ホストマイコンとのインタ フェースを1チップで処理している。 A B C → 電界強度 (dB V/m) デジタルTV （12セグ・ダイバシティ） ワンセグ アナログTV 45 56 60 受信品 位 （S/N） ← μ 図-1 放送方式に対する所要電界強度比較（計算値） Fig.1-Comparison of electric field strength requiredfor respective broadcasting (calculated value).
（5） デコード処理 DSP＋ARMによるデコード処理のブロック図を 図-2に示す。以下にデコード処理の概要を説明する。 映像・音声のデコードは，チューナから入力され たTS（Transport Stream）をバッファの後，TS DEMUX（de-multiplexing）で映像・音声のデー タであるPES （Packetized Elementary Stream） に分離し，それぞれのデコードを行う。映像と音声 のPESは，時分割で多重されているため，受信側 TS バッファ TS DEMUX AAC デコーダ H.264 デコーダ OSD チューナ ドライバ HOST I/F PWM ドライバ 復調メイン処理 PCR/PTS 再生タイミング 制御 制御 表示 エラー パケット 監視 映像 音声 音声PES 映像PES チューナ クロックリカバリ TS入力 チューナ 制御 バッファ 図-2 デコード処理ブロック図
ワンセグ内蔵AVN
で映像と音声の同期を取る必要がある。再生タイミ
ング制御部では，TS中の時間データを示すPCR
（Program Clock Reference）とPTS（Presentation Time Stamp）を使用し，映像と音声の同期を取っ ている。 また，電波状況に応じ，最適なエラー補正を行う アルゴリズムを新規に開発したことにより，受信不 良時に発生する画面ブロックノイズを低減した。 さらに，付加機能としてお客様の利便性向上のた め，字幕，電子番組ガイド（EPG），アンテナ入力 レベルインジケータ表示に対応した。 ホストマイコン （ナビマイコン） オーディオ マイコン パネル マイコン オーディオDSP ワンセグ TMS320DM320A デッキ マイコン ラジオチューナ アナログTV チューナ 図-3 システム構成
Fig.3-System configuration diagram.
左側：（ATV×2 GPS×1） 右側：（ATV×1 DTV×1） ワンセグDTV アナログTV GPS（ナビ） ※位置関係は室内視 ATV用 セレクタ は，ANT－AMPを示す 図-4 ワンセグ/ATV/GPS複合アンテナの構成
Fig.4-Circuitry of complex antenna for One-Seg., ATV, and GPS. システム設計 ワンセグ機能を追加したことによるAVN全体シ ステムへの影響を最小限にするため，既存AVNに おいてラジオチューナやオーディオDSPを制御し ているオーディオマイコンに接続することとした。 専用シリアルで接続したオーディオマイコンと バックエンド処理回路（TMS320DM320A）とは チャネル指定や放送局名表示データの授受を行い， EPGや字幕はバックエンド部で処理・表示するこ ととした。 ホストマイコンとオーディオマイコン間は従来の アナログTVの制御に利用していたコマンドを流用 し，ワンセグ特有機能についてコマンド追加した。 マイコンシステム構成を図-3に示す。 受信アンテナ ワンセグ放送を受信するアンテナについては， GPS，アナログTVとワンセグ専用エレメントを複 合化したフィルムアンテナを新規に開発した。これ により車両への装着性を向上させることができた。 採用したアンテナの構成を図-4に示す。 む す び 以上，ワンセグ放送の受信機能を搭載した’07モ デルAVNの開発のねらいと特徴について述べた。 ワンセグ放送の受信機能内蔵と独自のアンテナを 採用することにより，お客様に手軽にデジタル放送 を楽しんでいただけるようになった。 従来のアナログTVと比較して広範囲で安定した 受信ができることもあり，お客様からは「内蔵して いるアナログTVを見る機会がほとんどなくなっ
