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(1)

エクアドルにおける国営マイクロクレジット : 条

件付所得保障給付の理解のために

著者

山田 晋

雑誌名

明治学院大学社会学・社会福祉学研究 = The Meiji

Gakuin sociology and social welfare review

135

ページ

133-153

発行年

2011-03

その他のタイトル

El Microcredito en Ecuador

(2)

エクアドルにおける国営マイクロクレジット

エクアドルにおける国営マイクロクレジット

──条件付所得保障給付の理解のために

 

   

 

 

はじめに

(一)   条件付所得保障制度のラテンアメリカの現状   ミレニアム開発ゴール(MDG)の達成が危ぶまれる中、貧困は依然として人類最大の脅威である。ラテンア メリカは社会保険の先発国でありながら、南米大陸の全人口の二〇%程度しか社会的保護が及んでいない。社会 保険の人的適用範囲が、正規労働者とその家族に限定される傾向にあり、社会保険を中心とした社会的保護は十 分機能していない。それゆえラテンアメリカでは、受給者に一定の行為を要求し、ターゲティングという手法に よ り「 効 率 的 」 に 受 給 者 を 選 定 す る、 無 拠 出 の 社 会 的 扶 助 で あ る「 条 件 付 所 得 保 障 制 度 」( transferencia monetaria condicionada; transferencia efectivo condicionada )が展開されてい る ( 1 ) 。あるいは無拠出の社会保障制 度を創設し、経済的弱者を保護しようとしてい る ( 2 ) 。また国際労働機関(ILO)は、社会的保護の拡大を社会保

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット 険の適用範囲を拡大することにより達成しようとする従来の方針に加え、他の国際機関との協働的な新たな社会 政策を進めようとしてい る ( 3 ) 。社会保険の拡大により社会的保護を人々にくまなくおよぼすという手法は、今日で はもはや「夢物語」にすぎない。   ラテンアメリカ諸国の半数以上の国々が条件付所得保障制度を採用しているが、条件付所得保障制度はラテン アメリカのみで展開されているわけではなく、 バングラデシュやアフリカにおいても展開されている。 もちろん、 条件付所得保障制度はそれを採用する国の事情により、さまざまな個性がある。   ラ テ ン ア メ リ カ 諸 国 の 条 件 付 所 得 保 障 制 度 の 中 で も、 エ ク ア ド ル は 能 力 開 発( desarrollo humano ) に 力 点 を 置 い て い る の が 特 徴 で あ る。 そ れ は マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト( microcrédito ) の 活 用 を 条 件 付 所 得 保 障 制 度 に 組 み 込 ん で い る 点 に み ら れ る ( 4 ) 。 本 稿 は エ ク ア ド ル の 条 件 付 所 得 保 障 制 度 で あ る「 人 間 の 発 展 の た め の 手 当 」( Bono de Desarroll Humano BDH )の理解のために、エクアドルで展開される国営マイクロクレジットについて紹介・検 討する。 (二)   マイクロクレジットの概要   マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト は、 一 般 的 商 業 銀 行 で は 融 資 を 受 け ら れ な い 人 々 に 向 け て、 担 保 不 要 ま た は 担 保 を 要 し、 少 額 の 融 資 を 行 う も の で あ る ( 5 ) 。 二 〇 〇 五 年 は 国 連 に よ り「 マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト 国 際 年( International Year of Microcredit )」 と さ れ、 二 〇 〇 六 年 に は、 バ ン グ ラ デ シ ュ で マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト を 創 設 し 貧 困 削 減 に 寄 与 し た 功 績によりムハマッド ・ ユヌス ( Muhammad Yunus ) 氏がノーベル平和賞を受賞し、 一躍耳目を集めることとなっ

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット た。マイクロクレジットは貧困削減の特効薬のように評価される一方で、最貧困層には融資されず貧困削減には さほどの効果は期待できないという消極論も存在する。   マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト は 国 家 機 関 が 直 接 運 営 す る、 あ る い は 委 託 す る も の、 N G O や 共 済 組 合 が 運 営 す る も の、 商業銀行が運営するものなど様々で、融資目的も起業や事業経営のための融資に限定するものや、生活費のため の貸し付けも認めるもの、融資以外に各種サービスも実施するものなど様々な形態がある。   エクアドルでもマイクロクレジットの運営は、商業銀行、貯蓄信用組合( cooperatives de ahorro y crédito COAC ) や 共 済 組 合( mutualisto )、 公 共 銀 行( banco público ) な ど、 多 様 で あ る が ( 6 ) 、 本 稿 で は「 人 間 の 発 展 の ための手当」受給者が利用できる国営のマイクロクレジットに限定して検討する。なお「人間の発展のための手 当」受給者に限定されない国営マイクロクレジットとして、コレア大統領が導入した、基本的に農民、先住民を 対象とする「五五五クレジット」 ( Crédito 555 )がある。   なお筆者のエクアドル滞在中、 「社会保護プログラム」庁( Programa de Protección Social PPS )のデイビッ ト・ ア ロ ミ ア( David Alomia ) 博 士、 デ ィ エ ゴ・ マ ル テ ィ ネ ス( Diego Martínez ) 博 士 に は 資 料 提 供、 イ ン タ ビュー、視察同行などで大変お世話になった。またモニカ・プラッツアー( Monica Platzer )女史にはマイクロ クレジットの視察同行でお世話になった。記して感謝する。   ま た 本 稿 に お い て 各 種 デ ー タ に つ い て は 特 に こ と わ り の な い 限 り、 「 社 会 保 護 プ ロ グ ラ ム 」 庁 の ホ ー ム ペ ー ジ

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット を出典とする( http://www.pps.gov.ec )。 ( 1)   「 条 件 付 所 得 保 障 制 度 」 に つ き、 山 田 晋「 社 会 保 障 の 役 割 の 再 検 討 ─ 先 進 国・ 工 業 化 諸 国 と 発 展 途 上 国 に お け る 社 会 保 障 の 異 同 か ら 」 大 曽 根 寛・ 金 川 め ぐ み・ 森 田 慎 二 郎 編『 社 会 保 障 法 の プ ロ ブ レ マ テ ィ ー ク 』 法 律 文 化 社( 二 〇 〇 八 年 )、 五 八 頁 以 下所収、 同「ラテンアメリカの社会政策〜社会保障法となり得るか?」明治学院大学社会学部付属研究所『研究所年報』三九 号(二〇〇九年) 、五五頁以下、参照。     ま た、 条 件 付 所 得 保 障 制 度 を「 誘 導 的 手 法 」 の 視 点 か ら 論 じ た も の と し て、 長 沼 建 一 郎「 自 立﹁ 支 援 ﹂ の た め の 政 策 手 法 の 検 討 ─ 社 会 保 障 給 付 に お け る 誘 導 的 手 法 」 菊 池 馨 実 編 著『 自 立 支 援 と 社 会 保 障   主 体 性 を 尊 重 す る 福 祉、 医 療、 所 得 保 障 を求めて』日本加除出版(二〇〇八年)九七頁以下所収、参照。     メ キ シ コ の 制 度 に つ き、 山 田 晋「 メ キ シ コ に お け る 貧 困 政 策: "Oportunidades" に つ い て ─ ︿ 新 し い ﹀ 社 会 扶 助?」 『 明 治 学院大学社会学・社会福祉学研究』一三二号(二〇一〇年) 、五一頁以下参照。 (2)   例えばブラジルの「継続的現金給付」 ( Benefício de Prestação Continuada BPC )やグアテマラの「高齢者のための経済支 援プログラム」 ( Programa de Aporte Económico del Adulto Major )、ボリビアの「尊厳のための年金」 ( Renta Dignidad ) な ど が あ る。 グ ア テ マ ラ の 無 拠 出 年 金 に つ き、 山 田 晋「 グ ア テ マ ラ に お け る 高 齢 者 の 所 得 保 障 〜 無 拠 出 年 金 を め ぐ っ て 」『 週 刊・ 社 会 保 障 』 二 五 三 七 号( 二 〇 〇 九 年 ) 四 二 頁 以 下、 参 照。 ボ リ ビ ア の 無 拠 出 年 金 に つ き、 山 田 晋「 ボ リ ビ ア の『 尊 厳 の た め の 年 金 法 』( Ley de la Renta Dignidad ) ノ ー ト 」『 明 治 学 院 大 学 社 会 学・ 社 会 福 祉 学 研 究 』 一 三 三 号( 二 〇 一 〇 年 ) 二七五頁以下参照。 ( 3)   山 田 晋「 ソ ー シ ャ ル プ ロ テ ク シ ョ ン・ フ ロ ア ー: 新 し い 国 際 機 関 共 働 型 国 際 社 会 政 策 に つ い て 」『 週 刊・ 社 会 保 障 』 二五九五号(二〇一〇年)四四頁以下参照。

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット (4)   他にエルサルバドルの「連帯制度」 ( Red Solidaria )がある。 ( 5)   ラ テ ン ア メ リ カ の マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト に つ き、 桑 原 小 百 合・ 成 田 哲 郎「 ラ テ ン ア メ リ カ の マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス 」『 国 際 金 融 』 一 二 〇 七 号( 二 〇 〇 九 年 )、 五 八 頁、 飯 塚 昌 代「 マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト に お け る 連 帯 保 証 の メ カ ニ ズ ム ─ ボ リ ビ ア の プ ロ・ ムへールの事例研究」 『国際協力研究』一五巻一号(通巻二九号) (一九九九年) 、 八一頁、 安原毅「リマ市におけるマイクロ ・ クレジットの実態」 『ラテンアメリカ論集』三六号(二〇〇二年) 、六三頁など、参照。 ( 6)   国 内 に は 概 ね 五 〇 〇 以 上 の マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト が あ る が( Banco Interamericano de Desarrollo en Ecuadore, La Micr oempresa en Ecuadore: perspectivas, desafíos y lineamientos de apoyo , BID., 2006, at p.12 )、エクアドルのマイクロクレジット として四〇年近い歴史を持つ「エクアドル民衆前進基金」 ( Fond Ecuatoriano Populorum Proguressio FEPP )は最大のもの である( Gabriela Fernández A, El Microcredito, Una Alternativa por Explorar. Propuesta para la Participación del Banco

Central del Ecuador,

Apuntes de Economía, N゚ 19, 2001 )。

 

エクアドルの条件付所得保障制度

  国民の生活保障は一義的には社会保障制度によってなされるべきであるが、他のラテンアメリカ諸国同様、エ クアドルの「社会保障」 ( seguridad social )制度はきわめて限定的である。   二〇〇八年のエクアドル共和国憲法( Constitución de la República del Ecuador )は社会保障の権利を「より よき生存の諸権利」 (

derechos del buen vivir

)の一つとして捉え、三四条において以下のように規定する。 三四条   社会保障の権利はすべての国民の放棄できない権利( derecho irrenunciable )であり、国家の第一義的

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット な義務であり責任( deber y responsabilidad primordial )である。社会保障は、個人および集団の必要性 に 配 慮 し、 連 帯( solidaridad )、 強 制 性( obligatoriedad )、 普 遍 性( universalidad )、 平 等( equidad )、 効 率 性( eficiencia )、 持 続 可 能 性( subsidiaridad )、 十 分 性( suficiencia )、 明 暸 性( transparencia )、 そ し て 参 加( participación )、 の 原 理 に よ り 統 制 さ れ る。 国 家 は、 無 償 の 家 事 労 働 に 従 事 す る 者、 農 村 に お け る 自立ための諸活動(

actividades para el auto sustento en el campo

)、 全ての形態の自立労働( toda forma de trabajo autónomo )、そして失業状態にある者を含む社会保障に対する権利の完全な行使を保障し、実 現する。   ここでは抽象的かつ包括的社会保障制度の存在を規定しているが、より詳細な憲法三七〇条では「エクアドル 社会保障公社」 (

Instituto Ecuatorian de Seguridad Social IESS

)が社会保障制度を担うことが想定されている。   さらにこれらの憲法規定を受けた社会保障の実定法である「社会保障法」 ( Ley de Seguridad Social )は、 「エ クアドル社会保障公社」により給付される社会保障給付に関する法である。   エクアドル社会保障公社は、基本的には正規労働者とその家族の社会保障給付を行う。そのため大多数の国民 はその恩恵に被ることはな い ( 1 ) 。   またエクアドルには全国民を対象とする社会保障制度がなく、貧困層への選別的な社会的保護が部分的に存在 するのみである。

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット   エ ク ア ド ル の「 条 件 付 所 得 保 障 制 度 」 は、 経 済 社 会 統合省( Ministerio de Inclusión Económica y Social MIES ) の「 社 会 保 護 プ ロ グ ラ ム 」 庁( Programa de Protección Social PPS )が管轄する「人間の発展のた めの手当」 ( Bono de Desarroll Humano )と呼ばれ、 貧 困 世 帯 の 世 代 間 浸 透 を 避 け る こ と、 と 人 的 資 源 の 拡 大 を 目 的 と す る。 と く に 五 歳 児 ま で の 劣 悪 な 栄 養 状 態 を 解 消 し、 疾 病 を 予 防 す る こ と、 六 〜 一 六 歳 の 基 本 的 な教育の確保を、手当を通して行う( 写真1 )。   貧 困 世 帯 の 子 が 成 長 と 発 育 の チ ェ ッ ク の た め に 定 期 的 に 保 健 所 に 行 く こ と、 五 歳 ま で は 予 防 注 射 接 種 が 保 健 に 関 し て の 手 当 受 給 の 条 件 と な る( た だ し こ れ ら の 「 条 件 」 が 実 際 に 課 さ れ る の は 二 〇 〇 九 年 か ら で あ る )。 ま た そ の 子 が 小・ 中 学 校 に 月 ま た は 年 の 八 〇 % 以 上 の 出 席 が 要 件 と な る。 こ れ ら の 条 件 を 満 た し た 場 合 に 月 三 五 ド ル が 世 帯 に 支 給 さ れ る。 エ ク ア ド ル の 人 口の約四〇%がこの制度を利用している。 写真1 首都キトにある「社会保護プログラム」庁(PPS)

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット ( 1)   二 〇 〇 五 年 の 時 点 で、 社 会 保 障 制 度 に よ り カ バ ー さ れ る の は 全 人 口 の 一 五 ・ 三 % に 過 ぎ な い( Fabio Durán Valverde,

Ecuador: Diagnóstico de la seguridad social, OIT., 2008, at p.6

)。

 

国営マイクロクレジット

  エクアドルの「条件付所得保障制度」である「人間の発展のための手当」との関係で検討されるべきマイクロ クレジットは、BDHを運営する「社会保護プログラム」庁によって運営される「人間の発展のためのクレジッ トCDH」 (

Créditos para Desarroll Humano CDH

) で あ る 。 二〇一〇年現在、 「社会的保護プログラム」 庁によっ て運営されるマイクロクレジットは、CDHのみであるが、二〇〇九年までは二つのマイクロクレジットが「社 会 保 護 プ ロ グ ラ ム 」 庁 に 存 在 し た。 い ま ひ と つ は、 「 連 帯 の 生 産 ク レ ジ ッ ト C P S 」( Créditos Productivo Solidario CPS )である。両者の違いは、担保( garantía )を必要とするかと、利率にあった( 写真2、 )。筆者 が「社会保護プログラム」庁の協力を得てマイクロクレジット利用世帯を「見学」した当時は二つのマイクロク レジットが存在したので、以下には二〇一〇年以前の制度についても言及する。   な お、 エ ク ア ド ル の こ れ ら の マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト は、 法 律 を 根 拠 と す る の で は な く、 行 政 令( Decreto Ejecutivo )を根拠としている(

Decreto Ejecutivo No1392, 2001

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット

写真2 「社会保護プログラム」庁の CDH の広報カード

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット (一)   国営マイクロクレジットの概要 目的:二つのマイクロクレジットともに、何らかの社会的保護を受けている者が、零細事業( pequenõ negocio; micro empresarial ) を 営 ん で い る 場 合、 そ の 事 業 を 成 長 さ せ る た め に 必 要 な 資 金 を 融 資 す る こ と に よ り、 事 業 を成長させ、その収入を確保することを目的とする。 利 用 者: ク レ ジ ッ ト の 利 用 に あ た り 申 請 者( solicitante ) は B D H 、「 高 齢 者 年 金 」( Pensión para Adultos Mayores )、 「 障 害 者 年 金 」( Pensión para Personas con Discapacidad ) の受給の資格をもつ受給者でなければなら ない。 利率( Tasa de Interés ):CDHは年利五%であり、CP S は 商 業 銀 行 の 貸 し 出 し 利 率 と 同 じ で 一 八 % 前 後 で あ る 。 期限( Plazo ):融資額に応じて最長二年。 融 資 額( Monto ): C D H は 三 六 〇 ド ル ま で で、 C P S は 六 〇 〇 ド ル ま で で あ る。 な お 二 〇 一 〇 年 に マ イ ク ロ ク レジットがCDHに一本化されてからは融資額は最大で八四〇ドルとなった。 運営:二つのマイクロクレジットの運営は、最終的には「社会保護プログラム」庁が管理するが、利用者の審査

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット や 貸 し 付 け な ど の 具 体 的 な 実 践 活 動 は、 N G O な ど か あ る い は 国 立 援 助 銀 行( Banco Nacional de Formento BNF ) が 行 う こ と に な る。 国 立 援 助 銀 行 は、 中 小 企 業 の 支 援 や B D H の 受 給 者 の 研 修 や 他 の 政 府 系 の マ イ ク ロ クレジットの窓口業務などを行っている。   N G O な ど が マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト を 行 う に あ た っ て は、 全 国 金 融 公 社( Corporación Financiera Nacional   CFN )によって認証されることが必要である。   N G O や 金 融 機 関、 あ る い は 一 年 以 上、 マ イ ク ロ フ ァ イ ナ ン ス で 業 務 を 行 っ て き た 法 人・ 個 人( personas naturales o jurídicas )といった運営主体は、創設の定款・規約( Estatuto de creación )、納税証書( Registro Único del Contribuyente RUC ) な ど の 書 類 を あ ら か じ め 提 示 し、 全 国 金 融 公 社 と、 資 源 の 分 配・ 配 置 と 譲 渡 (

colocación y transferencia de recursos

)の協定( convenio )に署名しなければならない。   マイクロクレジットの運営主体は、 「人間の発展の手当」の受給者への市民の権利( derechos ciudadanos )に つ い て の 研 修 活 動( capacitación ) を 委 託 さ れ る。 運 営 主 体 の 種 別 は、 二 〇 〇 九 年 の C D H に つ い て 見 れ ば、 B NFが全体の八〇%でその他が二〇%である。全取扱い融資額の割合もほぼ同率である。   な お デ ィ エ ゴ ・ マ ル テ ィ ネ ス 博 士 へ の イ ン タ ビ ュ ー に よ れ ば( 二 〇 〇 八 年 十 二 月 二 三 日 )、 N G O の よ う な 民 間 組織の方がその地域の利用者を良く知っているので、融資返済が焦げ付くとか失敗する例は少なく、よくコント ロ ー ル さ れ て い る と い う。 N G O に よ る、 対 象 者 の 審 査 な ど で 六 箇 月 の 事 業 実 績 が あ れ ば O K を 出 し、 「 社 会 保

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット 護 プ ロ グ ラ ム 」 庁 は 基 本 的 に は そ の 審 査 判 断 を 尊 重 す る( )。 B N F の 場 合 は、 か な り い い 加 減 で、 例 え ば、 九 五 歳 の 高 齢 者 に 貸 し 出 し し て 二 箇 月 後に利用者が死亡したケースもあるという。 申 請: マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト に 申 請 し よ う と す る 者 は 、 少 な く と も 以 下 の 書 類 を 準 備 し な け れ ば な ら な い 。 ・ 国 籍・ 市 民 権 の 書 類 の コ ピ ー( Copia de Códula de ciudadanía ) ・ 投 票 用 紙 の コ ピ ー( Copia de Papeleta de votación ) ・ 水道、 電灯( luz )、 電話のレシート( recibo )、 あ るいは配置図( croquis de ubicación ) ・ 企 業 の 資 金 投 入 に よ る 購 入 物 品 の 請 求 書 の コ ピ ー ( Copias de facturas de compra de insumos del negocio )   こ れ ら の 書 類 を 受 給 者 が マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト の 運 営 主 体 た る N G O、 B N F、 金 融 機 関 な ど に 持 参 す 写真4 マイクロクレジット利用者の家屋。左は PPS のスタッフ。右は NGO のスタッフ

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット る。運営主体の担当者が書類等を確認し、当該申請者がBDHの支給の資格をもつ受給者であるかをウェブで確 認する。そして融資対象事業が六箇月以上営業しているかを確認するための事業所の訪問を行う。更にクレジッ トのテーマを評価し、審査にパスすれば、融資が受けられる。   研 修 に は、 B N F 自 身 が 行 う も の が あ る。 「 C D H の 受 給 者 に む け て の 研 修 プ ラ ン 」( "Plan de Capacitación

hacia los beneficiarios del CDH"

)である。   こ の「 プ ラ ン 」 の 目 的 は、 C D H に 同 意 し た B D H の 受 給 者 が、 社 会 的 保 護 や 恒 常 的 な 浪 費 と い っ た 経 済 的・ 社会的リスクを最小にすることを目的に行われる。クレジットの使用や貯蓄、支出などについての重要性を自覚 さ せ る た め の「 家 計 の ア ル フ ァ ベ ッ ト 」( Alfabetización Financieria ) か ら 始 ま り、 小 売 業( Minorista )、 農 業、 牧畜( Pecuarió )などの特定の領域についての「特別研修」 ( Capacitación Especificas )などがある。   これらの研修には、社会開発連携省( Ministerio de Coordinación de Desarrollo Social MCDS )、国立援助銀 行( BNF )、 エ ク ア ド ル 職 業 訓 練・ 研 修 サ ー ビ ス( Servicio Ecuatoriano de Capacitación y Formación Profesional SECAP )、職業訓練・研修全国協議会( Consejo Nacional de Capacitación y Formación Profesional CNCF )、 「社会保護プログラム」庁が関与している。 (二)   国営マイクロクレジットの実施状況およびデータ   エクアドルの国営マイクロクレジットの利用の圧倒的多数は都市である。

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット   二 〇 〇 九 年 の C D H の 総 計 は、 B N F の 貸 し 付 け を 受 け た 数 は 九 四、 五 〇 〇 件、 そ の 他 の 組 織 の 貸 し 付 け を 受 け た 世 帯 は 二 三、 五 九 〇 件 で、 総 計 一 一 八、 〇 九 〇 件 で 総 額 四 三、 九 五 三、 〇 七 四 ・ 六 二 ド ル で あ る。 C P S は 総 件 数六一六件で総額三五一、 四六〇ドルである。   マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト の 使 途 は、 二 〇 〇 九 年 の C D H に つ い て は、 商 業( 四 二 %) 、 小 動 物 の 飼 育( Crianza animales menores )(三八%) 、農業(一〇%)であ る ( 1 ) 。   P P S ス タ ッ フ、 デ ィ エ ゴ・ マ ル テ ィ ネ ス 博 士、 モ ニ カ・ プ ラ ッ ツ ア ー 女 史 へ の イ ン タ ビ ュ ー に よ れ ば ( 二 〇 〇 八 年 一 二 月 二 三 日 )、 マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト は コ ス タ( Costa 海 岸 地 方 ) と シ エ ラ( Sierra 中 央 ア ン デ ス 地 方 ) が 多 く、 オ リ エ ン ト( ア マ ゾ ン ) は 少 な い と い う。 お そ ら く、 オ リ エ ン ト で は「 ア マ ゾ ン 銀 行 」( Banco Amazon ) が 融 資 な ど の 金 融 サ ー ビ ス を 実 施 し て い る と 思 わ れ る。 も と も と ア マ ゾ ン は 土 は 赤 土 な の で 農 業 に は 適さないからだろうとのことである。 (1)   Ministerion de Coordinación de Desarrollo Social -Subsecretaría de Programas y Proyectos Social Productivos, Informe

de Gestión de Capacitación CDH, Mayo 2010, N. de informe;

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット

 

マイクロクレジットの実例

(一)   インバブーラ県の概要   筆者は二〇〇八年一二月二三日にPPSスタッフ、マルティネス博士、プラッツアー女史のマイクロクレジッ ト利用世帯の訪問に同行することができた。突然実現した「見学」であり、言語の問題等もあり、詳細な調査は できなかったが、クレジット利用世帯の一面を垣間見ることができたように思う。   エクアドルの首都キトの北部にあるインバブーラ( Imbabura )県のサン・パブロ湖( Lago San Pablo )付近 の サ ン・ ラ フ ァ エ ル( San Rafael ) お よ び サ ン・ パ ブ ロ( San Pablo ) と い う 村 の 三 世 帯 の 訪 問 に 同 行 し た( 真5 )。インバブーラ県は、 面積四五九九平方キロメートルで人口約三四万人の県で、 県都はイバラ ( Ibarra ) で、 主 要 都 市 は オ タ バ ロ( Otavalo ) で あ る。 こ の 地 域 に は オ タ バ ロ 族 が 住 む ( 1 ) 。 P P S ス タ ッ フ の 言 に よ れ ば、 オ タ バロ族はエクアドルにおいて例外的に積極性に富む民族であるということで、商業の民と評されている。   県 全 体 の B D H の 受 給 者 は、 二 〇 一 〇 年 一 〇 月 の 時 点 で、 五 四、 四 三 九 名 で あ る。 都 市 部 と 農 村 部 の 受 給 者 ま ずは、農村部六〇%、都市部四〇%である。マイクロクレジットの利用者数は 表1 の通りである。 (二)   インバブーラ県の事例   こ の 地 域 の 国 営 マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト の 運 営 は N G O で あ る「 開 発 の た め の オ ル タ ナ テ ィ ブ 基 金 」( La

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット 写真5 インバブーラ県の村。黒いスカートがオタバロ族の民族衣装 表1 インバブーラ県の「人間の発展のクレジット」利用状況・利用者数と額(2009年) 月 インバブーラ利用者(人) 全国利用者(人) インバブーラ貸付額(US ドル) (US ドル)全国貸付額 1 277 7,912 93,656 2,681,747 2 650 9,285 221,126 3,152,801 3 628 10,250 213,159 3,474,244 4 381 12,951 129,233 4,381,974 5 469 14,941 158,771 5,066,672 6 530 8,222 178,921 2,785,348 7 308 7,959 104,784 2,696,470 8 299 5,012 108,974 1,753,419 9 467 5,600 186,003 2,221,358 10 747 9,540 296,866 3,795,152 11 567 12,741 225,543 5,070,396 12 811 13,677 369,313 6,873,494 平均 511 9,841 190,529 3,662,756 「社会保護プログラム」庁のホームページ(http://www.pps.gov.ec;2001年10月13日 アクセス)のデータより筆者作成

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット

Foundacion Alternartivas para Desarrollo

)  ( か つ て は 「 連 帯 銀 行 」 Banco Solidaria と い っ て い た ) が 行 っ て い る 。 訪 問 世 帯 1: 夫 婦 と 子 ど も の 世 帯 で、 ト ト ー ラ( totora ) と 呼 ば れ る 葦 を 買 っ て き て、 夫 婦 で こ の 素 材 で 茣 蓙 (チョチョ) を作ってオタバロで売る。 その他にも小さな売店をやっている。 衣服も作っているがこれはリスキー なのでこれに対してはローンはしていない。   クレジットでトトーラを大量に買うことができるので、夏に大量に買った材料で冬に茣蓙を沢山造れるのであ りがたいと、利用者は話す。他にも、他のNGOからマイクロクレジットを受けているが、さらに事業を拡大し たいという( 写真6、 )。 訪問世帯2:大家族でコンクリートのビル(建設途中で資金切れ……のようだが)を持っている(マルティネス 博士が言うには、おそらく次回の調査でこの世帯はBDHからははずれるだろうという) 。   豆料理を売っている。土地は自分たちのものである。豆を自らが生産しているわけではなく、豆の材料を買っ てきて、それをあらって豆料理を作っている。 訪問世帯3:訪問世帯1と同じく、トトーラから茣蓙を作っている。ただし売るのはオタバロではなく、グヤア キル( Guayaquil )(エクアドル最大の都市であるが、ここからはバスで八時間半ぐらいかかる)である。その方 が高く売れるからだという。夫は付近のバラ農場で臨時に働いたりしている(エクアドルは世界有数のバラの産

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット

写真6 マイクロクレジット利用者の住宅。中央は PPS のプラッツアー女史

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット 地である) ( 写真8 )。         (三)   感想   マ イ ク ロ ク レ ジ ッ ト の 利 用 者 は、 B D H の 受 給 者 で あ る か ら 極 貧 を 想 像 し て い た が、 実 際 に 会 っ て み れ ば「 し た た か な 実 業 家 」 と い う 印 象 を 受 け た。 マ ル テ ィ ネ ス 博 士 の 説 明 に よ れ ば、 オ タ バ ロ 族 は エ ク ア ド ル の 諸 族 の 中 で は 例 外 的 で、 世 界 中 何 処 へ で も 商 売 に 出 か け る、 商 才 に 長 け て い る。 だ か ら 非 常 に プ ロ グ レ ッ シ ブ で あ り、 エ ク ア ド ル の 一 般 的 な B D Hの受給者層とは違うという。私も同感である。   し か し そ れ で も ラ テ ン ア メ リ カ の 他 の 条 件 付 所 得 保 障 制 度 の 利 用 世 帯 の 生 活 状 況 と は あ ま り に も か け 離 れ て い る。 メ キ シ コ や ペ ル ー で 筆 者 の 訪 問 し た 世 帯 は、 ま さ に 生 存 の 問 題 が か か っ て い た よ う に 思 え る。 エ ク ア ド ル の B D H で は、 タ ー ゲ テ ィ ン グ の 手 法 が 適 正 に 機 能 し て い な い の で は な い か と の 印 象 を 写真8 マイクロクレジット利用者の住宅

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット 受けた。エクアドルのシステムは、中央集権的でシンプルである。それは長所であると同時に短所でもある。エ クアドル国内のデータは全て、首都キトに集められ集中的管理がなされており、地方支局というものは存在しな い。このことは地方の実情との乖離した運営になりがちであることは否めない。   一つの補足的な方法としては、 地域におけるソーシャル ・ コーディネーターのような制度(メキシコのような) を 採 用 し、 生 活 実 態 の 適 正 な 把 握 が 考 え ら れ よ う。 こ の 点 に 関 し て は、 導 入 の 是 非 に つ い て、 昨 年 議 論 し た が、 結局、導入しない方向で決着を見たという。   なお訪問時には、エクアドルのBDHは「条件付き」とはいっても、条件の履行を手当受給にあたっては要求 していなかった。したがってBDHはターゲティングによる社会扶助というに過ぎなかった。これゆえ利用者の 側 に は「 自 立 」 や 貧 困 の 連 鎖 を 断 ち 切 る と い う、 他 国 の「 条 件 付 所 得 保 障 制 度 」 に 見 ら れ る、 利 用 者 の「 意 欲 」 や「自覚」は希薄であった。 ( 1)   オ タ バ ロ と 商 業 に つ い て、 千 代 勇 一「 商 業 民 族 オ タ バ ロ の 暮 ら し 」 山 本 紀 夫 編『 ア ン デ ス 高 地 』 京 都 大 学 学 術 出 版 会 (二〇〇七年) 、四七五頁以下、所収。

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エクアドルにおける国営マイクロクレジット

 

むすび

  マイクロクレジットをより社会保障法(学)的にみれば、自律支援のための社会福祉サービスの機具貸与の変 形とみることも可能であろう。貨幣というきわめて特殊な商品を貸与するが、日常生活費として費消されず、特 定 の 目 的( 起 業、 事 業 拡 張 な ど ) の た め で あ れ ば、 「 現 物 給 付 」 と み な せ る。 ま た 貸 し 付 金 制 度 は 所 得 保 障 の 要 保障事故には対応していないので、 この点からも 「現物給付」 のサービスと把握するのが適正であ る ( 1 ) 。なお利子、 担保の有無は制度設計の政策的判断の問題で、さしたる意味は持たない。   そう考えれば、エクアドルで条件付き所得保障給付がマイクロクレジットと有機的に関連づけられているのは 妥当であり、わが国の社会保障制度にとって、示唆的であるといえよう。 ( 1)   山 田 晋「 所 得 保 障 法 の 体 系 と 構 造・ 試 論 」、 荒 木 誠 之・ 桑 原 洋 子 編『 社 会 保 障 法・ 福 祉 と 労 働 法 の 新 展 開 〜 佐 藤 進 先 生 追 悼 論集』信山社(二〇一〇年) 、七九頁以下、所収、特に一一一頁参照。

参照