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女性が活躍する職場 : 静岡県内企業の経営者へのインタビュー調査から

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23 女性が活躍する職場 常葉大学経営学部紀要 第 8 巻第 2 号,2021 年 2 月,23 - 33 頁

女性が活躍する職場

-静岡県内企業の経営者へのインタビュー調査から-

鈴 木 章 浩

Workplaces Where Women Play an Active Role

- Interview Survey with Company Managers in Shizuoka

Prefecture-SUZUKI Akihiro

要 約  本研究では、静岡県内の企業経営者へのインタビュー調査から、女性が活躍する職場の実態を明らかにする。3名の 経営トップに、仕事と家庭の両立支援、女性の育成・登用を尋ねた。一般に、中小企業はワーク・ライフ・バランスの 制度のみで比べれば、大企業より見劣りする。そのなかで、調査対象とした中小企業は、職場のやりくりによって女性 社員の背中を押し活躍を促していた。  調査の結果、女性が活躍する職場に以下の特徴を見出した。第1に、長時間労働と残業がない、もしくはきわめて少 ない。家庭をもつ女性にとって長時間労働を受け入れることは簡単ではない。労働時間を抑制しつつ売上や生産高を落 とさないため、生産性向上と分業・調整に工夫を凝らしていた。第2に、急な欠勤を代替する要員がいる。育児中の女 性社員が多くなれば、いつ、誰が休むのかを読みにくい。休んだ従業員をすぐにバックアップできるように、自らの職 務と他者の職務を明確に線引きしていない。第3に、育児中の社員を理解し、支援する組織風土がある。女性が活躍す る職場には、仕事と育児のどちらも断念しなかった年長の社員がいて、気兼ねなく休める職場の雰囲気を作り出してい る。さいごに、経営者は性別に関係なくチャレンジングで責任の重い仕事を任せている。それだけに女性は、会社から キャリアアップを期待されていると知覚する。  こうした職場では、女性リーダーが増え、若手女性社員にとってのロールモデルが存在することが分かった。さらに、 結婚・出産後も仕事を継続でき、キャリアアップが望める環境には、優秀な女性が応募してくる。そのため、人材採用・ 確保でアドバンテージになることが明らかになった。女性が活躍する職場・企業の競争力が上がれば、日本社会は<長 時間労働=男性主体の職場>という均衡から、<所定時間内労働=男女均等の職場>という均衡へ移行しうる。 キーワード:既婚女性の就業継続、女性活躍事例、仕事と家庭の両立、中小企業、職場マネジメント

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Abstract

This study explores workplaces where women are playing an active role based on an interview survey conducted with company managers in Shizuoka Prefecture. We asked three top managers about how they support employees that are raising children balance their work and family, help women cultivate their talents, and promote women to managerial posts. In general, small- and medium-sized businesses pale in comparison to large companies in terms of work-life balance alone. Yet, the small- and medium-sized businesses surveyed for this study were encouraging female employees to play an active role by making accommodations for them in the workplace.

The result of the survey showed that workplaces where women play an active role have the following characteristics. First, these companies require no, or very little, overtime work and do not have long working hours. It is not easy for women with families to accept long working hours. To keep working hours down while maintaining sales and production, these companies have come up with creative solutions to improve productivity and adjust the division of labor. Second, it is necessary to have people who can fi ll in for sudden absences. If there are many female employees who are raising children, it is diffi cult to guess when and who may need to take time off from work. No clear line is drawn between one’s work duties and the duties of other employees; this allows other employees to cover the work of an absent employee without delay. Third, there is an organizational culture that understands and supports employees raising children. A workplace atmosphere that allows employees to take time off from work without hesitation is a key factor in determining whether it provides a friendly work environment for employees raising children. In a workplace where women play an active role, there are long-time employees who were able to raise children without giving up their careers, which ultimately creates this atmosphere. Finally, demands from managers on female employees are high, allowing them to take part in challenging and responsible tasks regardless of gender. For that reason, women sense that the company expects them to improve their careers.

The survey revealed that the number of female leaders has increased and that there are role models for young female employees in such a workplace. Furthermore, talented women apply to companies with environments in which they can continue working after marriage and childbirth, and they expect opportunities to advance their careers. Therefore, it is clear that such an environment provides an advantage in recruiting and securing talent. If the competitiveness of such companies were to increase, Japanese society could shift from a balance of <long working hours = male-driven workplace> to one of <scheduled working hours = equal workplace for men and women>.

Keywords: Married female workers, Female employees to play an active role, Work-life balance, Small and medium-sized businesses, Workplace management

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25 女性が活躍する職場

1.研究の背景

 本研究の目的は、経営者へのインタビュー調査から、 女性が活躍する職場の実態を明らかにすることである。 とくに、子育てをする女性社員が働きやすい職場に着眼 した。調査対象は、静岡県内に本社があり、女性就業に 対する先進的な取り組みで注目を浴びている企業であ る。経営トップの目線からみた、仕事と家庭の両立支援、 女性の育成・登用を聞き取りした。  はじめに、全国統計で女性就労の現況を概観する。 2020 年6月時点の就業者数は 6,670 万人で、うち女性の 就業者は 2,968 万人と 44.5%を占める。生産年齢人口(15 ~ 64 歳 ) の 就 業 率 は、 男 性 が 過 去 20 年、 お お む ね 80%から 85%の間で動いているのに対し、女性は 2000 年 56.7%、2010 年 60.1%、2020 年 70.5%と近年、著し く上昇している。年代別に見ると 25 ~ 34 歳は 78.3%、 35 ~ 44 歳は 75.8%と、10 年前よりそれぞれ 10 ポイン ト以上高い。量の面で女性の就業が拡大しているといっ てよいだろう。  既婚女性の就業についてはどうか。2015 年に実施さ れた「第 15 回出生動向基本調査(結婚と出産に関する 全国調査)」の報告書では、妻が結婚後も就業を継続す る割合は7割を超える。第1子出産前後の妻の就業状態 の変化を見ると、出産前に就業していた女性のうち、出 産してからも就業継続した者が 53.1%で、出産退職した のは 46.9%である(対象は、第1子を 2010 年から 2014 年に出産した者)。同調査を時系列で見ると、結婚退職 も出産退職も減少傾向にある。また、育児休業を利用し て就業継続した女性の割合は、第1子を 1985 年から 1989 年に産んだ者では 9.2%(第 1 子出産前有職者に占 める割合)だったが、2010 年から 2014 年に産んだ者で は 39.2%(同上)と上昇した。  実際に、女性の勤続年数は長くなっている。「男女共 同参画白書」で、一般労働者の勤続年数を男女別に見る と、10 年以上勤続している者の割合は、男性が 5 割程 度で推移しているのに対して、女性は 29.3%(1998 年)、 32.2%(2008 年)、37.7%(2018 年)である。  世の中の意識も女性の結婚・出産後の就業に対して肯 定的になってきた。2019 年の「男女共同参画社会に関 する世論調査」によれば、女性が職業をもつことについ て 61.0%(内訳:女性 63.7%,男性 58.0%)が「子供 ができても、ずっと職業を続ける方がよい」と答えた。 同数値は、2014 年調査 44.8%、2016 年調査 54.2%と増 加している。他方、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべ きである」に「反対」と回答したのは 59.8%と、これま でで最大の割合となった。  上記で分かるように、家庭をもつ女性の職場進出は着 実に進んでいる。ただ 2019 年の「労働力調査年報」に よれば、就業を希望しているが求職活動をしていない女 性は 231 万人おり、うち 70 万人が出産・育児を理由に 求職活動をしていない。また女性就業者が増えたという ものの、雇用形態を見ると、男性雇用者のうち非正規雇 用の割合が 22.8%であるのに対し女性雇用者における割 合は 56.0%となっている。  さらに、日本企業の女性登用を国際比較する際、たび たび指摘されるのが女性リーダーの少なさである。国際 労働機関(ILO)の報告書によると、2018 年の世界の 管理職に占める女性の割合 27.1%に対し、日本は 12% と主要 7 カ国(G7)で最低である。日本の女性管理職 の割合は 1991 年の 8.4% から、27 年間で 3.6 ポイント しか上昇していない。同報告書によれば、役員に占める 女性の割合(2016 年)も 3.4% で、G7 の平均 22.9% を 大きく下回る。  女性管理職の少なさを「雇用均等基本調査」で詳しく 確認する。常用労働者 10 人以上を雇用する企業のうち、 役職者に占める女性の割合(2019 年)は、係長相当職 では 17.1%、課長相当職では 10.9%、部長相当職では 6.9%となっており上位の役職ほど女性の割合が低い。 政府は「2020 年までに指導的地位に占める女性の割合 を 30% にする」との目標を断念し「できるだけ早期に(達 成する)」と変更した。しかし、帝国データバンクが 2020 年に実施した「女性登用に対する企業の意識調査」 では 7.5%、HR 総研が 2015 年に行った調査では7%の 企業しか、女性管理職比率 30%を達成していない。  それでは次に、静岡県による 2019 年の「男女共同参 画に関する県民意識調査」で、県内の実情を確認する。 女性が職業をもつことに対する考え方では「ずっと職業 を続けるほうがよい」(43.3%)が最も多く、次に「子 どもができたら職業をやめ、大きくなったら再び職業を 持つほうがよい」(33.9%)となっている。経年変化を 見ると「ずっと職業を続けるほうがよい」が緩やかに増 加し「子どもができたら職業をやめ、大きくなったら再 び職業を持つほうがよい」が緩やかに減少している。子 育てしながら仕事を継続することが、徐々に受け入れら れるようになってきている。  ただし、職場で「男性優遇」を感じている者は6割を 超える(「男性が非常に優遇」+「どちらかといえば男 性が優遇」)。とくに、女性は 13.5%が「男性が非常に優 遇」されていると回答している。管理的部門や指導的地 位への女性登用が少ない理由は、「社会的・文化的に、 性別によって役割を固定する考え方や意識が残っている から」、「女性は継続して勤務することが困難であるから」 がそれぞれ5割以上である。また、女性が働くうえで障 害となることとして「長時間労働や残業」(55.2%)が

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最も多く、次に「育児休業・介護休業が取得しにくい環 境にあること」(48.1%)となっている。  以上より、静岡県民への意識調査では、根強く残る性 別役割分業の意識や長期勤続の難しさが、女性管理職へ の道を閉ざす原因として見られている。また、女性に家 事の負担がかかっているとみられ、長時間労働・残業が ある仕事に踏み出せない。

2.先行研究

 企業における、ワーク・ライフ・バランス(以下、 WLB)支援の制度が女性の就業に与える影響を分析す る研究によれば、制度の充実は女性の就業継続にプラス の効果をもつ。清水谷・野口(2004)は、育児休業制度、 フレックスタイム制度、勤務時間短縮制度の充実が母親 の就労確率にプラスになることを明らかにした。冨田 (1994)も、育児休業制度、短時間勤務制度、半日単位 の有給休暇制度のある企業では、出産後も働き続ける女 性の割合が多いという。育児休業制度は、滋野・大日 (1998)や駿河・張(2003)でも、既婚女性の就業継続 を促すことが示された。加えて、女性の勤続年数を長く することも分かっている(森田・金子,1998)。また、 樋口・坂本・萩原(2018)によれば、育児休業制度の利 用のしやすさが結婚・出産後の就業継続を促す。  これらの研究から、勤務先の支援制度が充実している と女性が働き続けやすくなることが理解できる。しかし、 女性活躍を議論するうえで制度だけに注目していては不 十分である。なぜなら、制度を整備する水準にまでは至っ ていないものの、職場のやりくりで女性の仕事と家庭の 両立をサポートする企業があるからだ。とりわけ、中小 規模の企業は、WLB 制度の面だけを大企業と比べると 見劣りする(労働政策研究・研修機構,2011)ため、そ の傾向が強い1 ) 。したがって、今回対象とする中小企業 に関しては、職場レベルの取り組みを調べないと女性活 躍の実態を正確にとらえられないと考える。  女性が働く職場に注目した研究には以下のものがあ る。働きやすい職場に着目する川口(2008)は、配置・ 育成、仕事の与え方で男女を平等に扱う企業では、女性 の就業継続意欲が高いことを明らかにした。山本(2018) は、長時間労働が常態となっている職場環境では、女性 活躍が妨げられるとした。大槻(2019)は、 女性が管理 職を志向しなくなる原因は、女性にとって仕事を続けた いと思えない職場や仕事にあると主張する。そのうえで、 性別によって職務が分離せず、女性も社内昇進を前提に 育てられる「職場重視モデル」を提唱する。同様に、女 性の昇進意欲を喚起するため「職場の要因」に目を向け る必要があるというのは武石(2014)である。その理由 として、企業レベルで実施する女性活躍推進や両立支援 の施策の効果は限定的であると述べ、職場の上司の育成 方針が女性の管理職志向に与える影響を強調する。また 川口(2012)は、女性活躍を促すために、企業が積極的 に職場環境・風土を改善することは女性の昇進意欲を高 めることを示した。さらに山口(2017)は、職業におい て女性がひとくくりにされることにより、女性の職には 男性同様の多様性がないという。たとえば、一般職・総 合職というコース制を用いて、女性を管理職昇進トラッ クから外すような職場慣行を問題視している。  以上の研究は、職場に焦点を当てた定量分析である。 本論文は、定性的研究によって職場のやりくりを掘り下 げる。定性分析は多くないが、本稿の問題意識に近いの が脇坂(2018)である2 ) 。脇坂は女性活躍を推進する職 場マネジメントとして、多能工化を挙げる。彼が調査し たメーカーには「一人三役制度」があって、パート従業 員を含むすべての社員が最低3つの業務を行える。よっ て、子供の発熱や授業参観等で突発的に人員が抜けても、 代役がいるため生産性が落ちない。  こうした先行業績があるなかで、本研究の特徴は以下 の3点である。第1に、地方の中小企業に焦点を当てた。 女子学生を対象に、地域間の人口流出入を分析した研究 によれば、移動には雇用が誘因となっていることが分 かった(足立,2017)。つまり、地方企業が女性にとっ て魅力的な職場を提供できれば、労働人口の減少を食い 止められる可能性がある。このことから、浜松市と静岡 市の企業を対象とした本研究は、地域の雇用創出に手が かりを提供できると考える。また女性活躍を扱った研究 は、大企業を念頭においた議論が多く、中小企業が取り 上げられることは少ない(平澤・中村,2017)。しかし、 2022 年4月1日からは、女性の職業生活における活躍 の推進に関する法律(女性活躍推進法)の対象が、常時 雇用する労働者が 301 人以上から 101 人以上の事業主に 拡大される3 ) 。つまり、より小規模な事業にとっても、 女性活躍に向けた主体的な取り組みが求められる。した がって、中小企業の女性活躍に着目する本研究の意義は 大きい。  第2に、経営者にインタビューを行った。脇坂(2018) は、優秀な女性の存在に早くから気づいた先進的な社長 がいる中小企業が、大企業以上の割合で女性を登用する との見解を述べている。また中小企業は大企業よりも、 経営者の声が組織全体に届きやすいと考えられる。だか らこそ、女性の就業支援に対して機動的な対応をとれる し、融通がきく(労働政策研究・研修機構,2011)。経 営者へ接近すれば、中小企業での女性活躍を明らかにで きそうだ。さらに、職場全体を俯瞰する経営者から生の 声を聞くことは、職場に焦点を当てる本稿にとってきわ

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27 女性が活躍する職場 めて重要だと考える。  第3に、上司・同僚との関係性、心理的側面等を含め た職場のやりくりを詳らかにした。そこから、単に女性 にとって働きやすいというだけではなく、キャリアアッ プできる職場環境に迫れた。

3.インタビュー調査の結果

 調査手法はインタビューを通した事例研究である。事 例研究は、理論の検証と新しい事実の発見に有効である (Yin, 1984)。今回は県内企業のケースをいままでの女 性労働研究と見比べるとともに、女性活躍に関する新た な発見を試みる。インタビュー調査した企業の一覧を表 1に示す。各回のインタビューの所要時間は平均2時間 程度で、半構造化インタビューで行われた。それでは、 女性が活躍する職場の事例を見ていこう。インタビュー 調査実施日が早い企業から順に紹介する。 表1 インタビューリスト 会社名 年/ 月 / 日 インタビュー対象者 株式会社 第一印刷 2019/11/8 2019/12/3 2020/8/3 代表取締役社長 田中 一兆 氏 代表取締役社長 田中 一兆 氏 代表取締役社長 田中 一兆 氏 株式会社 あそび学園 2020/7/17 代表取締役社長 馬塚 孝雅 氏 株式会社 お仏壇のやまき 2020/8/6 代表取締役社長 浅野 秀浩 氏 注)調査実施日が早い順に掲載した。 3.1 第一印刷の事例  「なでしこ力」を掲げる株式会社第一印刷(以下、第 一印刷)(本社 浜松市東区)は、女性社員の感性で男性 中心の印刷業界に風穴を開けてきた。女性を頼りにする 同社にとって、結婚や出産で彼女らが辞めると戦力ダウ ンになる。ならば、そのまま働き続けられる会社にしよ うと代表取締役社長の田中一兆氏は決意する。以下、田 中氏から聞き取った、女性が活躍できる職場の取り組み を紹介する。  第一印刷では、工場長と印刷機のオペレーターの7名 中6名が女性である。女性が印刷機のオペレーターにな るのは業界では常識外れだという。なぜなら、オペレー ターは経験と技術が求められる熟練工で、長く勤務がで きる男性が優位になるからだ。こうしたなか、同社は多 能工化で柔軟な働き方を実現している。印刷機のオペ レーションは、図1のように印刷機ごとの担当者がいる のが一般的だ。しかし、これではA さんが退勤すると 伝票を印刷できなくなるため、伝票の受注が重なるとA さんの時間外労働が増える。そこで、普段は封筒の印刷 機をみるB さんも伝票の印刷機を操作できるようスキ ルアップする。顧客からの受注量は平準化しているわけ ではなく、伝票のオーダーが多い時期もあれば、封筒の オーダーが多い時期もある。多能工であればオペレー ター間の融通がきき、受注量に縛られない働き方ができ るという。 図1 印刷機のオペレーター 出所)インタビューをもとに筆者作成。  作業工程における多能工化もある。図2のとおり印刷 の工程は大きく、デザイン、CTP(印刷に必要な刷版 を製作すること)、印刷の3つに分かれる。同社の社員 は自分の後工程の仕事を理解し、全体最適を考えている。 たとえば、CTP から印刷へ回される版の色とサイズが 変わると都度、印刷機の「段取り替え」が発生するため 効率が落ちる。ここで、CTP が印刷業務を把握してい ると、同じ色やサイズをまとめて渡すので印刷時の「段 取り替え」が起こらず、皆が早く帰れる。 図2 印刷工程 出所)インタビューをもとに筆者作成。  つぎに、営業職務の「役割替え」の話を聞いた。印刷 会社の営業職は熟練を要求される専門職である。たとえ ば、紙を触っただけで種類・繊維の向きを判別できたり、 商談の場で顧客からの要望に則して見積もりできたりす る。この水準に達するには長年の業界経験が必要で、社 内で育成しようとすると長期勤務をいとわない男性の方 が、職業適性が高いという。また業界全体の人材の流動 化があり、営業職に対する長期の技能形成が難しいとい う悩みも抱える。  そこで、同社では 2020 年4月に営業の役割分担を大 きく変えた。具体的には、外回り営業(フィールドセー ルス)の職務を、内勤の女性従業員と外回り営業が協働 できるようにした。内勤従業員の営業活動、つまりイン サイドセールスの体制を整えた4 ) 。それ以前は、基本的 には営業が一人で顧客対応の窓口になっており、出先で 対応が難しい事務作業は帰社後(だいたい午後5時以降) に取りかかっていた。毎日のように会社へ「持ち帰り」 すれば、長時間勤務が常態化しかねない。営業がボトル ネックになると、連携して動く女性社員の仕事も後ろ倒 しになってしまう。 ≖≑⇊∙⇥⇹∋∞ᛦ௹↝ኽௐ‒ ≖≑≔‒ ᇹɟҮТ↝ʙ̊‒ ≖≑≕‒ ⅱ↌↢ܖט↝ʙ̊‒

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これらの問題がインサイドセールスによって解消され、 男女にとっていっそう働きやすい職場になった。インサ イドセールスを支えるのが、オンラインでの社内情報共 有である。たとえば、顧客からの見積もり依頼の情報を リアルタイムで共有する。このとき外回りの営業がすぐ に応じられない事案が生じれば、内勤社員が「総がかり」 で支援する。実際に情報共有の画面を見せてもらったが、 担当者だけで行き詰った際は、類似業務をしたことがあ る別の社員が即座に手を貸していた。結果、顧客へのレ スポンスが早くなり、その日の仕事はその日のうちに終 わる。既婚女性は夫や子供の都合で明日、出社できない かもしれないので、次の日に仕事を持ち越せない。一日、 一日仕事を完結させる女性の働き方とインサイドセール スとは親和性が高いことが理解できよう。  さらに、インサイドセールスは、顧客と顔を合わせず に対人関係を構築していくだけの能力やバイタリティー が必要で、誰しもができるわけではないという。田中氏 は「インサイドセールスが順調に立ちあがったのは、優 秀な女性社員が在籍するからに他ならない」と断言する。 優秀な女性が集まるのは、結婚・出産後も働けるという 評判を聞いて応募が殺到するからだ。「女性の採用には 困らない(人材不足ではないという意味)」と田中氏は 続ける。これは、川口章の「革新的企業が(中略)女性 の活用に成功すれば、その企業には多くの女性が応募し、 より優秀な女性を採用することが可能になる(川口 2008,p.152)」という主張と符合する。  同社は、日本に性別役割分業が残るなか、女性が少し でも働きやすくなるため「職場と家庭のハードルを下げ るようにしてきた」という。「会社の忘年会と初詣は家 族もいっしょ」、「子供が学校を休んだときは会社につれ ておいで」と、社員に声かけしてきた。従業員と家族ぐ るみの付き合いをしているため、夫や子供が会社に親近 感を抱いている。すると、妻の仕事に対する理解が変わ り、夫が家事を手伝ってくれたり、子供を引き受け仕事 に送り出してくれたりするという。夫が家事・育児に協 力的だと妻の就業を後押しすることは、学術研究でも明 らかにされている(中野,2009;鶴・久米,2016)。  第一印刷は、世間で「女性活躍」が叫ばれるようになっ たから、意識的に「女性にやさしい会社」に変わったわ けではない。会社の屋台骨である女性社員に家庭事情で 辞められては困るわけで、彼女らを基幹的役割に育てよ うと試行錯誤を重ねたのが現在の姿である。そこには、 女性をサブやアシスタントととらえる「女性職」の考え はない。 3.2 あそび学園の事例  浜松市東区に本社を置く株式会社あそび学園(以下、 あそび学園)は、保育園・こども園・小規模多機能高齢 者施設を運営している。183 名の職員のうち9割以上が 女性で、うち6~ 7割が子育て中である。また、役員の 半数以上が女性だ。同社ではノー残業・定時退社を徹底 するため数々の施策を実施している。今回は保育園にお ける、引継ぎ業務の工夫と「フリー保育士」について、 代表取締役社長の馬塚孝雅氏に話を聞いた。  同社の保育園は7時から 19 時まで開いている。保育 士の勤務シフトを図3で説明する。最も出社が早いシフ ト1は、7時出社- 16 時退社で、そこから 30 分ずつ出 社時刻がうしろにずれる。つまり、シフト2は 7 時 30 分- 16 時 30 分で 10 時- 19 時が最終のシフトになる。 図3 保育士の勤務シフト 出所)インタビューをもとに筆者作成。  定時退社を実現できる1点目は、退社時の引継ぎの工 夫である。たとえば、シフト1で勤務するクラス担任(以 下、担任)の組で、子供がケガをしたとする。すると、 担任は 16 時以降も残業して保護者に直接報告しなくて はならないと責任を感じ、定時退社との間で葛藤する。 このとき、きっぱりと引継ぎできれば定時退社できる。  同園では、スムースな引継ぎのために「連絡ノート」 を活用している。保育園や幼稚園には連絡帳があるのが 通例だが、同園も「連絡ノート」がある。ノートには園 での出来事を詳細にわたって記録する。担任が退社した あとはこのノートを使って、引き継いだ先生と保護者と が子供の様子を共有する。細部にいたる記述のおかげで、 たとえ担任がいなくても保護者への連絡は首尾よく運 ぶ。反対に担任が遅番の日は、朝の送りのときに保護者 に会えないため連絡事項をあらかじめノートに書いてお く。図3のとおり7つのシフトがあるが、保育士間のバ トンタッチがうまくなされているため、早番は気兼ねを することなく帰れ、遅番も残った子供の保育に万全を期 すことができる。  勤務シフトはローテーションする。たとえば、シフト 1のあとにシフト2、シフト3というように原則、1週 間ごとに入れ替わる。シフトが替わることで様々な園児 と接する。その中で、細心の注意を要する子や障害をも つ子への支援を探ることがスキルアップのきっかけにな ≖≑≖‒ ⅹʿّ↝↳↭ⅼ↝ʙ̊‒

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29 女性が活躍する職場 るという。また、園児が少ない早番と遅番は合同保育で、 子供の年齢層が幅広い。同じ年齢が集まる日中のクラス 保育とは求められる事柄が異なるため、保育士としての 応用力が磨かれる。なお、シフトのローテーションは絶 対ではなく、個人面談で家庭状況を聞きながら勤務体系 を決める。自分の子供の送り迎えがある保育士は早番と 遅番は避けるなど、柔軟に対応している。  定時退社を実現できる2点目が、「フリー保育士」の 存在だ。「フリー保育士」は、担任クラスを持たない保 育士を指す。国が定める運営基準では園全体で1名の保 育補助をつけることが義務付けられているが、あそび学 園では、フリー保育士を少ないときでも3名、多いとき には5名配置している5 ) 。保育士は子供の面倒を見る以 外に、書類作成、会議、行事準備といった業務がある。 とりわけ、クラス便りや小学校への連絡は、園児と密に 接する担任でないと難しい。ところが、担任がクラスに つきっきりになると、定時までにこうした業務が終わら ず残業になる。そこで、担任とフリー保育士が入れ替わ り、担任がクラスを抜けて事務作業ができるようにして いる。同園のようにフリー保育士が多ければ、担任は勤 務時間内に作業を済ませられるため、定時に帰れるので ある。  馬塚氏は「子供が急に熱を出してスタッフが抜けても、 残された者が 1.1 倍の仕事をして1人分の仕事をねん出 しようとする」と語る。また、あそび学園には、不測の 事態が起きても「先生ひとりのせいじゃない」、「みんな でカバーする」という雰囲気がある。これは脇坂(2002) が明らかにした、休業者の代替手段である「分担方式」 がもつ、短期的な生産性維持という長所を活かした事例 といえる。こうした職場風土があるからこそ、周りへの 遠慮からくる帰りづらさが減り定時に退社できる。  同社は、2020 年に創立 20 年を迎えた。設立時に新卒 入社した社員が 40 代で園長を務めている。「子供を理由 に辞めなくてもいい」社風に支えられ管理職になった彼 女たちが、今では若手女性職員のロールモデルになって いる。 3.3 お仏壇のやまきの事例  静岡市葵区に本社を置く株式会社お仏壇のやまき(以 下、お仏壇のやまき)は、厚生労働大臣特別賞、ワーク ライフバランス大賞(全国大賞)等、働き方改善施策で の数々の受賞歴がある6 ) 。また働きやすさ推進の歩みを 止めることなく、15 年連続で黒字経営を実現している。 代表取締役社長の浅野秀浩氏に話を聞いた。  浅野氏がWLB 支援施策を採ることになったきっかけ としてまず話してくれたのは、接客力向上の検討だった。 というのも、同社で営業成績が優れた社員の一日の行動 分析をしてみたところ、塾の送り迎え等、家族と過ごす 時間を充実させていることが判明した。他方、仏壇を購 入するのも亡くなった家族を大切に想う人たちである。 そこから、家族を大切にできなければ仏壇も販売できな いと気づき、制度を作って定時退勤や有給休暇を取るこ とを促した。たとえば、同社では月の残業時間が規定の ラインを超えた場合や、有給の取得率が 90% を下回る とマイナス査定になる。実際に、月当たりの残業は 180 分/人(1日 10 分/人)、有給休暇の取得率は3年連続 で 100% だ。しかし、決められた時間内でこれまでと同 等の成果を出すのだから容易ではない。当時、売上の約 7割を稼いでいた男性社員たちは午後7時や8時までの 残業が当たり前だった。旧来の働き方を変えられない従 業員と会社の方針は合わず、男性社員の多くは会社を去 ることになった。  一方、女性社員は会社に残った。なかでも家庭をもつ 女性は、定刻に帰りたいし休日も確保したい。女性の働 き方のニーズに会社の方針がマッチしたのである。しか し、そうした女性たちからも「職場に自分の代わりがい ないから長期の休みはなかなか取れない」という声があ がる。つまり、売り場店員、墓石の設計担当、仏壇の設 計担当の 3 人で運営する店舗で、売り場担当者が休むと 他の社員ではレジ操作の複雑な部分が分からない。当該 業務に通じているのがその担当者に限られるため、自分 が休むと職場に迷惑がかかると思い長期休暇を取りづら かった。  ここで、浅野氏は「制度を作るだけでは社員が疲れて しまう」と感じる。川口(2008)と佐藤・武石(2014)は、 WLB 支援制度が存在するだけでは不十分で、利用のし やすさや周知が必要だと指摘したが、同社も同じような 状況だったといえる。試行錯誤した結果、自らの担当職 務だけではなく他者の職務もカバーする「多能職」の考 え方にたどり着く。そこで、同社は 2008 年に組織改革 に着手する。図4のとおり、改革以前は各職務の担当者 が固定された「単能職」だった。改革以後は、メインの 業務は仏壇設計だが、売り場に立つこともできる。また、 売り場担当者も墓石の設計に関与できるというように、 職務の幅を広げたのである。 図4 店舗での「多能職」 出所)インタビューをもとに筆者作成。 ≗≑ᜭᛯ‒

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 「多能職」は同社の働き方に以下のメリットをもたら した。第 1 に、職種の壁を越えた意見交換によって生産 性が向上した。以前は、職種ごとに仕事のやり方が習慣 化しており見直しの発想に至りづらかった。たとえば、 墓石の形や石の種類を決めるために顧客と4回も5回も やり取りを重ねていた。しかし、売り場担当者から見る と何度も顧客宅を訪ねるやり方に疑問がわく。現在では 2回ほどのやり取りで墓石のデザインを決めるという。  第2に、一人で仕事を完結できる。一般的に「単能職」 の場合、担当者が不在だと他の者では対応が難しい。同 社でも、不在だった担当者が戻ってきてから顧客の用件 を伝えていたが、伝言ゲームによる伝達ミスや非効率が あったという。現在では、そうした問題が解消されたば かりか、たとえば売り場担当者が墓石設計の相談にも応 じられるためチャンスロスがなくなった。  「多能職」では担当職務が広がり、一見すると負荷が 増えそうな印象を与える。しかし、同社の事例から、業 務の無駄が省かれ生産性が向上することが分かる。その 結果、定時退勤と休日確保が実現され、女性が働きやす い職場になった。生産性向上は業績にも表れている。 2008 年と 2019 年を比べると、店舗数と社員数はほぼ変 わらないままで、売上は 1.8 倍、利益は2倍になった。  また同社には女性だけが参加できる「ホスピタリティ 会議」がある。浅野氏は「ホスピタリティ会議」に大き な裁量権を与え、決定事項は次々と実行に移させている。 この会議のはじまりは、先述の男性社員が退職した頃に さかのぼる。「会社に残った女性社員から商品ラインナッ プ、販売方法、店舗づくりについて改善提案が出たこと がきっかけだ」という。このように、女性社員が中心に なって自らが活躍できる素地を整えてきたことも注目に 値する。  山本(2018)は、長時間労働が常態化している職場で は、女性の活躍の場が限定されることを実証した。他方、 お仏壇のやまきは、長時間労働を断ち切った職場で女性 が活躍することを示す好事例である。

4.議論

 経営者へのインタビュー調査から、静岡県内の企業に おける女性の活躍をみてきた。本章では、女性が活躍す る職場の共通項を挙げる。そして、事例と既存研究との 対比、ケース・スタディから新しく見出した事柄に関し て議論する。なお以下は、インタビューをもとにした筆 者の考察であり、インタビュー対象者の見解ではない。  女性が活躍する職場には、第1に、長時間労働と残業 がない、もしくはきわめて少ない。現状、日本は男性よ りも女性の方が家事に割く時間が長い7 ) 。妻に家事の責 任を任せられれば、男性は長時間勤務に支障が出にくい。 すると、男性主体の職場では、一人が時間をかけて多く の仕事量をこなすことで対応できてしまう。ところが、 女性主体の職場はそうはいかない。家庭をもつ彼女らに とって、長時間労働・残業のある職場を受け入れること は簡単ではない。かといって、働き方はそのままで単に 労働時間を抑制するだけでは、売上高や生産高が落ちる。  今回のインタビューでは、この点を解決する2つのポ イントを発見できた。まず、生産性向上がなされている。 たとえば、第一印刷のインサイドセールスは、顧客情報 を複数人で共有するため「どの顧客とどういった状態か」 が可視化され、即応を可能にしている。お仏壇のやまき は、職種をまたいだ仕事のやり方の見直しで、生産性を 向上させている。つぎに、分業と調整である。いうまで もなく、一人で多くの仕事をしないといけないと終わる まで帰れないが、仕事の分かち合いをすれば早く帰れる。 調査対象企業では、いわゆる営業・製造・開発のような 典型的な分業に加え、タスクをより細分化していると感 じた。ただ、タスクを細分化すればそれだけ緻密な調整 が求められる。よって、調整に工夫を凝らしていた。た とえば、あそび学園は「連絡ノート」を用いて、子供の 様子を担当者間できめ細かに引継ぎする。第一印刷では、 次の印刷工程へバトンタッチする際の調整で、印刷機の 「段取り替え」を少なくしている。  第2に、急な欠勤を代替する要員がいる。家庭をもつ 女性社員が多い職場は、いつ、だれが休むのかを読みに くい状況に置かれている。そのときに、休んだ従業員を バックアップできる社員がいれば安心だ。ゆえに、あえ て自らの職務と他者の職務を明確に線引きしない。同僚 と業務が重なるため、助け合いをもたらす。第一印刷と お仏壇のやまきの「多能工」と「多能職」は、文字通り 多岐にわたる技能を修得することで、誰かが休んでも他 の誰かがカバーでき、人員配置に余裕をもたせている。 あそび学園の「フリー保育士」の存在もまた、担任を一 時的にクラスから離し、職場にゆとりを生んでいる。  第3に、育児中の社員を理解・支援する職場の組織風 土がある。子育て社員にとって「急用があったらいつで も休んでよい」という周囲の空気を知覚できないと、働 きづらくなる。たとえば、子供の都合で急に仕事を休ま なくてはいけなくなるのは小学校低学年くらいまでであ る、と頭では分かっていても、繁忙期に突然休まれると 寛容になれないものだ。しかし、調査した会社ではそれ を受容する風土がある。なぜなら、仕事と育 児のどちら も断念しなかった年長の社員がおり「自分も通ってきた 道」と、相手に寄り添えるからだ。無論、社員が長く勤 めてくれないとこうしたロールモデルはできない。女性 が結婚・出産退職したらロールモデル候補も白紙になる。

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31 女性が活躍する職場 したがって、この職場風土は一朝一夕でできあがるもの ではないと、インタビューを通して痛感した。  第4に、女性が活躍できる職場づくりに向けた経営者 の信念がある。女性社員に対する要求は高く、性別に関 わりなくチャレンジングで責任の重い職務を任せてい る。それだけに女性は、会社からキャリアアップを期待 されていると知覚する。自ずと女性リーダーが増え、若 手社員の目標ができる。またキャリアアップが望める環 境には、優秀な女性が応募してくるため採用面でアドバ ンテージになる。  それでは、上記の4項目をベースに、既存理論の検証 と新事実の発見について論ずる。1点目については、山 本(2018)が、長時間労働・残業があると女性活躍が阻 害されることを示した。本研究ではそのことと表裏一体 である、長時間労働・残業を削ると女性が活躍できるこ とを、事例で確認できた。さらに、労働時間をカットす るための工夫、すなわち生産性向上と分業と調整に関し ては、それぞれの企業から詳細な取り組みをヒアリング した。これらは、職場のやりくりが女性活躍を推進する ことを示す新たな発見である。  2点目に挙げた、代わりの従業員については、「多能 工」、「多能職」、「フリー保育士」の存在から、脇坂(2002) が概念化した代替要員の理論を確認できた。代替要員の 確保が、既婚女性が休みをとるハードルを下げるという 脇坂の主張は、今回のケースに当てはまっていた。  3点目の組織風土については、各企業に赴き、定量分 析からはつかみとれない職場の空気を肌で感じることが できた。子供ができたから辞めよう、とあきらめそうな ところを周囲の理解と支援があれば踏みとどまれるので ある。  4点目の経営者信念を聞き出す中で興味深かったの は、少し背伸びを必要とする職務に女性を登用すること で、職務遂行能力が伸び基幹人材に育つという点である。 これまでの研究では、仕事配分が性別で決まるため、女 性がキャリアアップの意欲を削がれる構造的問題が指摘 されてきた(大槻,2019;山口,2017)。今回はそれと は反対に、性別に関係なく仕事を任せているケースを見 ることで、新たな知見を得られた。さらに、川口(2008) による、女性が活躍する企業は能力の秀でた女性を採用・ 確保できるという主張が、実在企業で起きていることが 示唆された。

5.むすび

 これまで、日本の(大)企業における正社員としての キャリアアップには、長時間労働や異動・転勤が付いて 回ってきた。これらに応じるのは夫の役目で、家を守る のが妻という家族モデルが、今なお主流といってよいだ ろう。必然的に、妻の選択肢は専業主婦か短時間労働に 狭まる。職場そして社会全体が、この<長時間労働=男 性主体の職場>の状態で均衡していると考えられる。ゆ えに、長時間労働で回してきた職場ほど、残業を大幅に 削減するという、均衡を崩す行動をとりづらい。そして、 早急に基幹的役割の女性を育てねばという切迫感も感じ にくい。  しかし、今回の調査企業では、妻が働きながら育児・ 家事をしている。そのため、所定労働時間内の業務終了 が必須になる。時間内に仕事を終わらせるために、職場 の生産性を上げる。加えて、結婚・出産後も仕事を継続 できる職場には優秀な女性が集まる。こうして女性が活 躍できる職場・企業の競争力が増し、高い利潤を得るサ イクルになれば、社会全体の均衡は<所定時間内労働= 男女均等の職場>へシフトしうる8 ) 。  おしまいに、今後に残された研究の課題を述べる。ま ず、子育てをしながら働き続ける当事者にも話を聞く必 要があるだろう。経営者と従業員とでは、あるべき活躍 の姿や理想の職場・働き方が異なる可能性を否定できな いからだ。つぎに、3社とケースの数が少ないため、理 論を一般化できていない。取り上げる事例の数として、 Eisenhardt(1989)は4から 10、Yin(1984)は6から 10 が適当としている。今回は3つの事例から女性が活 躍する職場に共通する要素をみつけられた。これらを足 掛かりに、新しい発見のバリエーションがなくなるまで 事例を収集することが課題になる。さらに、女性が活躍 する職場とそうではない職場の業績面での比較・検証が 必要だ。すなわち、前者は後者よりもパフォーマンスが 高いのか。優れているとすれば、女性活躍と高業績はど ういうメカニズムで結びついているのか。これらは先に 述べた均衡のシフトにつながる重要な論点である。 *謝辞  インタビュー調査は、研究の趣旨に理解を示 し協力してくださる企業がいて成り立っている。調査を 受けてくださったお三方には貴重な時間を頂戴した。こ こに記して感謝の意を表す。なお本文中に誤りがあれば、 すべて筆者の責任に帰するものである。 注 1 ) 厚生労働省の「中小企業の優秀な人材確保のために  女性活躍推進の取組好事例集」を参考にした。 2 ) 脇坂(2018)の第8章を援用した。脇坂は定性分析だ けでなく定量分析も行っている。 3 ) 事業主は、(1)自社の女性の活躍状況の把握、改善 すべき点の分析,(2)(1)を踏まえた行動計画の策 定,(3)女性の活躍に関する情報の公表を行う。

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4 ) インサイドセールスとは、電話や E メールなどを用 いて非対面、内勤で行われる営業手法を指す。 5 ) 中央法規出版の『保育所運営ハンドブック 令和元年 版』によれば、年齢別配置基準で定められた保育士の 人数に加え1名の保育士が必要とある。 6 ) 『日本経済新聞』2017 年 9 月 29 日地方経済面「高齢 者雇用で厚労大臣特別賞」、『静岡新聞』2016 年 11 月 19 日朝刊第8面「ワークライフバランスで全国大賞」 を参照されたい。 7 ) 「 平 成 28 年 社 会 生 活 基 本 調 査 」(https://www.stat. go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou2.pdf) 8 ) 均衡が男女平等へシフトする考え方は、川口(2008) から示唆を得た。 参考文献 足立泰美『雇用と結婚・出産・子育て支援の経済学 女 性のワーク・ライフ・バランス』大阪大学出版会、 2017 年 中央法規出版編集部『保育所運営ハンドブック 令和元 年版』中央法規出版、2019 年

Eisenhardt, K. M. “Building Theories from Case Study Research”, Academy of Management Review, Vol.14, No.4, 1989, pp.532-550 樋口美雄・坂本和靖・萩原里紗「結婚・出産後の継続就 業 家計パネル調査による分析」阿部正浩・山本勲編 著『多様化する日本人の働き方 非正規・女性・高齢 者の活躍の場を探る』慶應義塾大学出版会、2018 年、 pp.93-115 平澤克彦・中村艶子編著『ワーク・ライフ・バランスと 経営学 男女共同参画に向けた人間的な働き方改革』 ミネルヴァ書房、2017 年 川口章『ジェンダー経済格差 なぜ格差が生まれるのか、 克服の手がかりはどこにあるのか』勁草書房、2008 年 川口章「昇進意欲の男女比較」『日本労働研究雑誌』第 620 号、2012 年、pp.42-57 国立社会保障・人口問題研究所「第 15 回出生動向基本 調査(結婚と出産に関する全国調査)」、2017 年 厚生労働省「中小企業の優秀な人材確保のために 女性 活躍推進の取組好事例集」、2018 年 厚生労働省「雇用均等基本調査」、2020 年 森田陽子・金子能宏「育児休業制度の普及と女性雇用者 の勤続年数」『日本労働研究雑誌』第 459 号、1998 年、 pp.50-62 内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」、2019 年 中野あい「夫の家事・育児参加と妻の就業行動 同時決 定バイアスを考慮した分析」『日本統計学会誌』第 39 巻第1号、2009 年、pp.121-135 『日本経済新聞』2017 年 9 月 29 日付(地方経済面) 大槻奈巳「女性管理職の声から考える」大沢真知子編著 『なぜ女性管理職は少ないのか 女性の昇進を妨げる 要因を考える』青弓社、2019 年、pp.65-112 労働政策研究・研修機構「中小企業におけるワーク・ラ イフ・バランスの現状と課題」労働政策研究報告書第 135 号、2011 年 佐藤博樹・武石恵美子編著『ワーク・ライフ・バランス 支援の課題 人材多様化時代における企業の対応』東 京大学出版会、2014 年 滋野由紀子・大日康史「育児休業制度の女性の結婚と就 業 継 続 へ の 影 響 」『 日 本 労 働 研 究 雑 誌 』 第 459 号、 1998 年、pp.39-49 清水谷諭・野口晴子「保育サービスの利用は女性労働供 給をどの程度刺激するか? ミクロデータによる検 証」ESRI Discussion Paper Series 第 89 号、2004 年 静岡県「静岡県の女性の職業生活における活躍の推進に 関する計画」、2017 年 静岡県「静岡県の男女共同参画に関する県民意識調査報 告書」、2019 年 『静岡新聞』2016 年 11 月 19 日付(朝刊) 総務省「労働力調査年報」、2019 年 総務省「労働力調査(基本集計)2020 年6月分」、2020 年 駿河輝和・張建華「育児休業制度が女性の出産と継続就 業に与える影響について パネルデータによる計量分 析」『家計経済研究』第 59 号、2003 年、pp.56-63 武石恵美子「女性の昇進意欲を高める職場の要因」『日 本労働研究雑誌』第 648 号、2014 年、pp.33-47 冨田安信「女性が働き続けることのできる職場環境 育 児休業制度と労働時間制度の役割」『大阪府立大學經 濟研究』第 40 巻第 1 号、1994 年、pp.43-56 鶴光太郎・久米功一「夫の家事・育児参加と妻の就業決 定 夫の働き方と役割分担意識を考慮した実証分析」 RIETI Discussion Paper Series 16-J-010、2016 年 脇坂明「育児休業制度が職場で利用されるための条件と 課題」『日本労働研究雑誌』第 503 号,2002 年、pp.4-14 脇坂明『女性労働に関する基礎的研究 女性の働き方が 示す日本企業の現状と将来』日本評論社、2018 年 山本勲「企業における女性活躍の推進」阿部正浩・山本 勲編著『多様化する日本人の働き方 非正規・女性・ 高齢者の活躍の場を探る』慶應義塾大学出版会、2018 年、pp.141-162 山口一男『ワークライフバランス 実証と政策提言』日 本経済新聞出版社、2009 年

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33 女性が活躍する職場

山口一男『働き方の男女不平等 理論と実証分析』日本 経済新聞出版社、2017 年

Yin, R. K. Case Study Research: Design and Methods. Thousand Oaks, CA: Sage, 1984

参考ウェブサイト HR 総研「HR 総研 人事白書 2015」

(https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_ no=111、2020 年 8 月 19 日閲覧)

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参照

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