(東京女医大編出27巻第2号頁81−87昭和32年2月)
ラツ5の精細胞の電子顕微鏡熱型究
東京女子医科大学解剖学教室(主任久保田くら教授)串田つゆ香・阿部秀世・野村淑子
クシダ ヵアベヒデヨノムラヨシコ
(受付 昭和31年12月20日)
1 緒 言 ラットの造精現象に関する電子顕微鏡的研究は Watsoni9・20),南野11・12)(1955)等によりかなり詳 細になされている。しかし未だ多くの疑義がもた れ,必ずしも意見の一致を見ない状態である。私 は成熟ラットについて電子顕微鏡的観察を行っ た。それにより得られた知見について報告したい と思う。 H 材料及実験方法 実験動物は主として体重1509前後の成熟ラットで あり,何れも新鮮なる睾:丸組織をpH 7.4の1%オス ミウム酸燐酸緩衝液15vで30一一60分固定後,メタアタリ ル樹脂包埋(正ブチルメタアクリル70部とメチルメタ アクリル30部との共重合体)を行い,=・・Yグ型二三式 ミクPトームを使用し超薄切片を作製した。切片はす べて脱包埋することなく観察した。 皿 観 察 ラットの各精細胞の段階を区別することは光学 顕微鏡下においても容易であるが,此等を電子顕 微鏡的に観察した浪合には,各細胞を一層明瞭に 特徴づけることが可能である。 工)Sertoli氏細胞。核は大体楕円形であり, その大いさは前述の如き条件下で固定した揚合約 9∼6μである。核膜には大部分のものが1∼3 個処位に搬襲を有している。核質は均質性で一般 に精細胞に比較し明調である。細胞質内には好オ スミウム性頴粒,空胞状穎粒,ミトコンドリア頼 粒等が認められる。ミトコンドリアは本細胞では 長桿状叉は円形であり,他の精細胞に比較して大 きく0.8∼0.9μ程度の直径を有している。限界膜 により明廓に境された内部には,より厚い櫛構造 が認められる。好オスミウム性旧情はオスミウム 酸により黒染され,無構造であり,0.7∼O・ 3,te程 度の大いさを有している。此等は光学顕微鏡下に おけるLev1氏液固定の黒染頼粒及びCiaccio陽 性物質の所在部位と一致するようであり,いわゆ る脂質雨粒である。空胞状穎粒と思われる部分は 0.5∼1・5μ程度の大いさであり,その壁は不規則 である。内部はオスミウム酸をとらないため明調 であり,脱包埋しない写真においても繊細な構造 を認めることが出来る。此等の二巴は造精機能状 態により多くの変化を認めるようである。一般に Serto1i氏細胞質内にはミトコンドリア顯粒を多 く認める揚合が多いが,幼若なるラット叉は精細 管の退化をおこしているようなもののSertoli氏 細胞質内には,1、・わゆる脂質頴粒が多いようであ る。 2) 精原細胞。本細胞が1型及びH型を区別さ れることは既に報告されているが8),電子顕微鏡 下で1型と称する細胞はSertoli氏細胞に類イ了し ているが,核はより小さく6∼7μ程度である。 H型は核が他の精細胞に比較し強くオスミウム酸 により黒雨されるため,核質の構造を認めるため には固定時間を短縮する必要がある(15∼20分で 充分である)。核質は均質性である。原形質内に はミトコンドリアが小義粒状を呈し,散在してい る。精細胞の原形質内に認められるミトコンドリ アは,大体0.7μ程度の一定しアこ大きさであり, 円形である。内部には概ね櫛構造を認めることが できる。ミトコンドリア櫛(Cristae Mitochon− driales)は各段階の精細胞において,その厚さが 変動するようであり,精原細胞では比較的うす く,30mμ程度である。 3)精母細胞。細胞核は縞原細胞に比較し明調 Tsuyuka KUSHIDA, Hideyo ABE and Yoshiko NOMURA (Dept. of Anatomy, Tokyo Women’sMed. Coll.) : Electron microscppic studies on the germ cells of the rats.
であり,核膜は明廓に2層を区別することが出来 る。核膜の処々に連続を欠いた部分が認められ る。本細胞においては各時期の状態にある核を観 察することができる。併し分裂像における染色休 像は,いわゆる断片として認められるのみであっ た。精母細胞内のミトコンドリア穎粒は,原形質 全域にわたり密集して存在する揚合が多いようで ある。此等のミトコンドリア顯粒の分布状態は細 胞分裂の時期によっても変化するようである9)。 又本細胞では精細管腔側に円形のidiosomeを認 めることがある。このものは内外2層よりなり, 必ずGolgi玉体に接して存在するように思われ る。 4)精子細胞においては核の変態を基とした各 部分の変化を認めることができる。第二分裂を終 った直後の精子細胞の核は球形を呈し,細胞質の 略中央に位している。原形質内のミトコンドリア 頴粒は此の揚合,細胞膜に接して比較的規則的に 配列している。このように細胞の辺縁部に存在す るミトコンドリア頼粒でもいわゆる櫛構造を認め ることができる。しかし櫛の厚きは非常にうす く,5mμ程度である。漸次核は楕円形となり, 細胞の偏側に位するようになる。核のクロマチン 物質は集団を形成する傾向を示してくる。かかる 時期に細胞質の一側に直径1.5μ程度の空胞を認 める。これは恐らくacrosomal vesicleに相当す るものであろうと思われる。やがて同一部位と思 われる部分に不規則なる楕円形を呈した構造物を 認める。この内部は紐状を呈している。このもの はGolgi氏体と思われる。かかるGolgi実体は 最:初核膜より離れて存在しているが,頭布形成が 近づいてくると漸次核膜に接してくる。このよう な時期となると,Golgi四体は外側は紐状構造物 で,これに囲まれた内部は小時粒状を呈する2層 を区別し得るようになる。頭布が形成せられると Golgi氏体は著しく量を減じ,頭布に接して偏側 に位するようになる(第1図∼第4図)。四布は 内外2層よりなり,外層には表面に多くの髪を有 し,内部は微小なる頴粒よりなる。内層は電子密 度大なる物質よりなり頴粒構造をなしている(第 5図)。漸次細胞質の偏側に位しts核は,やがて細 胞質外に突出してくる。この揚合細胞質外に位せ る核の部分は頭布に被われ厚くなっている。更に 変態が進むと核はより小さく,細長くなり,電子 密度も大となってくる。かかる時期に至ると核膜 の外層の方は下部に円錐形にのび,尾部を形成す るようになる。変態の進んだ精子細胞の尾部と結 合部との移行部に電子密度大なる2個の穎粒体を 認める。 これがCentrosomeに相当するものと 思われる。この部分より軸糸が出ている状態が観 察きれる(第6図)。精子頭部は外側よりSerto Ii氏細胞膜及び精子細胞膜より由来せる2層の原 形質膜,acrosomeの2層(下部では頭布),核 膜の5層に被われている(第7図)。 精子細胞の軸糸を形成する時期に至るとミトコ ンドリアは細胞の周辺に移動し,長軸に沿って配 列してくる。即ち軸糸の周辺に縦断面では軸糸に 平行し,横断面では周辺をとりかこむミトコンド リア穎粒を認める。このように軸糸形成にあっふ るミトコンドリア穎粒め櫛は特に厚く,70mμに もたっするものがある(第8図,第9図)。 軸糸横断像は何れも1本の中心性軸原繊維と, これを車軸状にとり巻く9本の周辺性軸原繊維か らなる。夏に中心性軸原繊維は2本の繊維iよりな る。周辺性出原繊維の太さ及び形状は,部分によ り著しい差を示している。即ち結合部では最:も太 く,尖端を中心にむけた身状を呈している。尾主 部に至ると前者に比し細く球形である。此の部分 では:更に周辺性軸原繊維をとりまいて環状構造物 を認め,その外側に一個つつの小結節を認める。 更に遠位に至ると漸次周辺性軸原繊維は細くな り,終部においては殆ど点状をなし,小結節は認 められなくなる。併し中心性軸原繊維は末梢に室 るに従い太くなる傾向を示しているようである。 尾部には魚尾鞘を認めることが出来る。 IV 考 察 ラットの精子形成過程に関しては古くは石沢 (1922)等の研究がある。これによると各精細胞 についてその変態の状態をかなり詳細に記載して いる。しかし光学顕微鏡下の像では認め難い微細 なる構造については,いわゆる仮説的であった。 最近電子顕微鏡の発達に伴いWatson19・20)(1952) がラットの精子形成過程の電子顕微鏡的研究を行 い,独立した立揚でこれを記載した。次いで安澄 21・22),南野エa・ユ2)等により,伺貴重なる研究が行わ れて来た。併しなお幾多不明の点があるように思 われる。 南野11)(1952)は精子細胞の変態の時期には,
核膜2層の中,内層は頭布形成に役立ち,外層は Caudal tubeの形態に役立つという興味ある報告 を行った。私共の所見においても核膜は明かに2 層を区別出来,此等の生理学的意義を有すること は認められる。爾核膜外層は有細心であり,内層 の出頭層の像を観察した(Bairati&Lehmann) 2)。併し変態の或時期においては,内外を貫通す る有孔部を処々に認める。このような核膜の所見 は,核の機能状態により,かなり著明なる変化を 示すようである◎ 精細胞を通じてミトコンドリア穎粒が,その機 能状態によりその形状,内部構造,分布状態を異 にすることは既に私共が報告したが9)(1952),精 子形成過程におけるミトコンドリアの最:も重要な る使命は,軸糸形成との関連性と思われる。軸糸 中段形成とミトコンドリアとの関係については古 くから報告されているが1),最:近中西(1955)10)は 位相差顕微鏡を用い,生きている状態でこれを観 察し,実証した。筒電子顕微鏡的には安澄(1956) 22)の中断形成についての詳細なる報告がある。即 ちミトコンドリアは精子中片形成に重要なる開係 を有するとなし,それについての意義ある写真を 公にしている。 ミトコンドリアの内部構造についてPaladei5・
i4・i6一“i1952, 1953), Sj6strandiZ i8)(1953) thS{1¥*M
に報告しているが,精細胞におけるかなり厚い櫛 構造は,中島形成にあっかるミトコンドリア顯粒 では殊に著しく,70mμにも達するものがある。 精子細胞の当布形成とGolgi氏体との関係につ いて’:’Burgos&Fawcett4・5)(1955)等が猫に於 いて詳細に報告した。ラットの場合もGolgi此体 は,頭布形成の時期にその形状,量,所在部位が 三明に変化すると云うことが判った。 軸糸横断像についてはFawcett&Porter7)が 卵管繊毛上皮で観察した所見と一致している。叉 最:近Rhodin&Dalhamn(1956)は気管上皮の 冠毛について電子顕微鏡的に観察した結果,同様 に中心性軸原繊維をとりまいて9本の周辺性軸原 繊維より成り立っていることが判った。即ち運動 に役立つ便利な構造であろうかと思われる。中心 性軸心繊維は:更に2本より成る。爾此等の島原繊 維は部位によりその構造,太さ等に著しい差を示 している。 V 結 論 成熟ラットの精細胞について電子顕微鏡的観察 を行い,次の成績を得た。 1)精子細胞の頭布形成に際し,Golgi氏体は その形状,量,存在部位に著しい変動を示す。 2)精子細胞のミトコンドリアは,精子中片形 成に対し密接なる関連を有する。 3)精子軸糸の軸原繊維は,その横断像に於い て部位的に太さ,形状に著しい差を示す。 4)Sertoli氏細胞核は電子顕微鏡下で観察し た揚合には,大部分のものが核膜に雛襲を有して いる。尚原形質内の穎粒は,電子顕微面的にも各 々特徴を示している。 稿を終るに際し御指導御校閲を賜った久保田教授並 びに多大の御助力を頂いた慶応大学電子顕微鏡研究室 に対し深謝致します。 なお本論:文要旨は第13細目本解剖学会関東地方会に おいて発表した。 文 献
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臨灘
賎ん鴨i
慧響’澱横、
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附図醗明 第1図 第2図 第3図 第4図 第5図 第6図 録7図 第8図 第9懲 懲10図
精子細胞。Acrosomal Vesicle(AC Ves)を認む。 ×8000
× 8000 精子細胞の二布形成の際にGolgi三体(Go C)はその形状量所在部位に変動を示す。×8000 × 2800 精子細胞。頭布(Cap)の精造。 精子細胞に於いて核の変態が進むと尾部と結合部との間にCentrosome(C)を認む。 精子細胞核(SPN)Nuclearing(Ri). ×]5000×12500 精子細胞。精子頭部被膜を示す。Sertoli氏細胞質内のミトコンドリア(M)を多く認む。×9600 軸糸及びこの形成にあっかるミトコンドリア(M)縦断像。 ×12500 同上。斜断像。 ×12600 結合部及尾主部の横断像。 ×10000 一 87