• 検索結果がありません。

地域社会の変容と福祉社会実現に向けた課題に関する一考察 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "地域社会の変容と福祉社会実現に向けた課題に関する一考察 利用統計を見る"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

る一考察

著者名(日)

加山 弾

雑誌名

福祉社会開発研究

1

ページ

37-42

発行年

2008-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004868/

(2)

はじめに

今日、あらゆる人にとって生活の基盤である地域の ありようについて検討しようとするとき、現代におけ る地域社会の変容を前提としていかないわけにはいか ない。 生活圏(概ね町内会・自治会の単位会から中学校区 程度の範囲であろう)におけるコミュニティの脆弱化、 ないし崩壊・衰退などは数多指摘される事象であるが、 社会福祉の立場からは、当然ながらその事象がもたら す福祉的問題性に着眼点を置き、その克服をどうデザ インするか、あるいはいかに未然に防ぎうるかといっ たことが現実的な課題となる。 では、その問題性とは何か。具体的には、従来繋が り合っていた住民の間での相互の無関心、孤独、排除 (いじめ、虐待、DV、仲間外れなど)がある。また、従 来はあまり問題とされなかったようなリストラ、不安 定就労、ニート、ネットカフェ難民、外国人労働者な どの新たな貧困層の急増も、今日的な問題群としてク ローズアップされてきている。このような今日的状況 を背景として、本稿では、地域社会の変容と脆弱化お よびその意味する問題性、それに反立する福祉社会像、 それをふまえたまちづくりの方向性や課題について、 論考していくこととしたい。

1.「コミュニティ」およびその「脆弱化」が意味

するもの

1.1 「地縁」中心から「職縁」「知縁」中心へ 「コミュニティ脆弱化」ということをわれわれは頻 繁に耳にするのであるが、では、脆弱化する以前のコ ミュニティはどうだったのか。あるいは、どう変化し、 それがどういう問題性を有しており、どうであればよ いのか。 われわれが今日、「コミュニティ」として概念化する ものが、古典的にはテンニース(F. Tonnies)やマッキ ーバー(R.M. MacIver)によるコミュニティ認識に底礎 され、またシカゴ学派による理論的展開のうえで形成 されてきたものとするならば、少なくとも、今日の地 域社会が惹起させる諸問題についても、それらの社会 学的なフレームを起点として紐解いていく必要がある だろう。 マッキーバーは、コミュニティを「地域性」と「共 同性」に基礎づけられたものとして概念規定している。 また、ヒラリー(G.A. Hillerry)は、「地域性」「共通の 紐帯」「社会的相互関係」を挙げた。このように、われ われの地域社会におけるコミュニティが、このような 一定の地理的範囲と、そこにおいて「近隣」を形成しう る親近感を土台にして、そこでの共同労働や相互扶助 的な生活を営むことを前提とされてきたと考えられる。 しかし、工業化、グローバル化、情報化の進展、個 人の私化などに付随して、「地域性」という範域や、 「地縁」に基づく相互関係は、多くの都市生活者にとっ て意味をなさないものへとなりつつあるし、仕事や趣 味活動中心のライフスタイルとなれば、いわゆる「職 縁コミュニティ」や「知縁コミュニティ」が、より重 要な位置を占めるものとなっている。したがって、単 純化すれば、ここでいう脆弱化とは、地域性およびそ れに基づく共同意識・共同行動などの無意味化であり、 またその帰結としての絆の弱体化・消滅にほかならな いものである。 1.2 地域社会変容の要因 こうしたコミュニティの変質によって、現実に地域 社会のしくみや行動体系などが姿を変えていったもの ととらえられるのであるが、それはマクロレベルにお ける公共経済の動向や政策展開と、つねに影響しあい ながら、軌を一にしてきたのであり、そうしたさまざ まな要因間の相互作用をとらえる視点がなくてはなら ない。

地域社会の変容と福祉社会実現に向けた課題に関する一考察

福祉社会開発研究センタープロジェクト1研究員

東洋大学社会学部社会福祉学科

講 師 

加山  弾

(3)

「親睦・交流」は「個別化・孤立化」によって、「安 心・安全の源」は「ストレス源」によって、取って代 わられてきたというのが今日のコミュニティの典型的 な姿であり、地域社会における不安・悩みの根源とい える。このような「互いに分かり合えない人間関係」 は、見方によっては、「誰にも干渉されず、自由気まま」 という側面を、当然ながら持っている。個人情報保護 に関しても、個々が自己のプライバシーを「知られた くない権利」を擁護する観点からは、厳密化していく 必要がある。しかしながら、緊急災害時や、虐待、DV、 孤独死などが起きたときに、被害住民に一番に気づく 存在が、本来的に近隣の住民だということから明らか なように、不利な状況に追い込まれた人が生来有する、 自らの存在を「知ってもらう権利」までもかき消して しまうほどの強引なロジックが、個人情報保護法をめ ぐる制度運用に際してみられるのではないか。また、 過度の個人主義や権利意識は、社会的ストレスや摩擦 の誘因となり、あらゆる人を被害者にも加害者にもし うるものだし、そのようななかで弱い立場に陥った人 に対しては、自己責任論を楯にして安易に排除するよ うな論理を導きやすいのである。 先の「検討会」による2000年の報告書では、こうし た社会の変化が、従来の社会福祉が対象視してきたも のとは異なる、新たな貧困を生むものであったとして、 ①心身の障害・不安(社会的ストレス問題、アルコー ル依存など)、②社会的排除や摩擦(路上死、中国残留 孤児、外国人の排除や摩擦など)、③社会的孤立や孤独 (孤独死、自殺、家庭内の虐待・暴力など)を指摘し、 これらが重複・複合化しているとした。またそのうえ で、社会福祉の基礎構造改革で積み残された新たな対 象者層を規定する視点の必要性を提起している(図1)。 1.4 今日的なつながりと福祉社会 では、そのような観点から望ましい地域社会とはど のようなものであり、どうすれば推進していけるのか。 万能薬を探すことはきわめて困難であるが、少なくと も以下のことは言えるのではないか。 経済・社会の変容、あるいは人々の行動様式や価値 規範の変容が不可逆的であるのと同様に、地域社会に おける変化についても、その不可逆性は否定しようが ない。地域活動の維持に尽力する人々の間でも、言説 的には懐古主義的な立場がとられることがあるが、上 のことから、(温故知新をめざすことはよいとしても) いわゆる原点回帰を図ることは現実的でない。 しかしその一方で、今日の地域においても、個人単 位では顔見知り同士のつながりや支えあいが維持され ることが珍しいことではないし(地域全体としてのつ ながり・連帯感の希薄さや、誰ともつながらず孤立化 戦後の経済成長を牽引した国家主導の大規模開発プ ロジェクトは、一連の地域開発政策によって、拡大路 線にのって誘導されてきたものである。その成果とし ての高度成長を否定するものではないが、その一方で 過疎化・過密化の影響としてコミュニティを危機に晒 したことはもとより、公害問題、環境破壊など大きな 爪痕を各地に残したことも事実である。実際、その後 の全国総合開発計画(1962年の「一全総」から1998年 の「五全総」まで)において、右肩上がりの拡大政策 が軌道修正され、低成長経済、国土資源・エネルギー の有限性、少子高齢化、高度情報化、グローバリゼー ションなどを鑑みた、縮小高密化(生活圏重視、定住 構想)や持続可能性(サステイナビリティ)に基づく 政策へと路線変更が図られてきた。 厚生労働省も、このようなマクロ的な環境の変化が 地域社会にもたらす弊害に対する強い懸念を表明して いる。厚生省(当時)による「社会的な援護を要する 人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」の報 告書(2000)では、今日の地域社会を変容させた社 会・経済的な背景が、次の4点として指摘された。す なわち、①経済環境の急速な変化(産業構造の変貌と グローバリゼーション、成長型社会の終焉、終身雇用 など雇用慣行の崩れ、企業のリストラの進行、企業福 祉の縮小∼競争と自己責任の強調)、②家族の縮小(世 帯規模の縮小、家族による扶養機能のますますの縮小、 非婚・パラサイトシングルなどの現象)、③都市環境の 変化(都市機能の整備、高層住宅・ワンルームマンシ ョンなど住宅の変化、消費社会化、都市の無関心と個 人主義)、④価値観のゆらぎ(技術革新や社会経済変化 の中で、人間や生活、労働をめぐる基本的価値観の動 揺)である。 1.3 分かり合えない近隣、排他的な近隣 グローバリゼーションがますます進み、政治・経済 においては新自由主義的な考えが支配的になるにつれ、 市場原理主義やマネタリズムを指針とした経済の合理 化や規制緩和が推し進められた。これらは、非正規雇 用や失業の問題を増幅させ、格差社会化の進行をもた らした。地域社会に視点を移してみても、やはり合理 化が進行しているようである。個人主義への偏重や過 剰な自己の権利意識によって近隣の紐帯は切り捨てら れつつあるし(町内会・自治会などの地縁型団体の機 能不全として如実に表れている)、同じ構成員のはずの 高齢者、障害者、問題を抱えた子ども、外国人住民な どに対する排他主義・排外主義的態度がますます深刻 化している。 つまり、かつての「地域的な密着」は「行動範囲の 拡大」によって、「共同性」は「個の重視」によって、

PR

O

JE

C

T

1

(4)

する人の増加が問題なのである)、地理的範囲に執着せ ずとも、課題別・テーマ別に公益活動に取り組もうと する市民運動や市民活動は、NPOやボランティア団体 などとして(地域)社会を支えている。 したがって、「検討会」報告が「今日的な『つながり』 の再構築」と称して、政策理念としての「ソーシャ ル・インクルージョン」を標榜するように、現代人の 誰もが互いを排除しない社会をめざし、また実際にそ のような視点でまちづくりを推進していけるような社 会をめざすことが肝要である。「排除」とそれを克服す る「つながり(包摂)」という単純化したフレームに管 見されるかぎりにおいてではあるが、ここではそのよ うな当為の社会のありようを福祉社会と称することに したい。もちろん、日本型福祉社会に矮小化される意 味内容を、部分的に含むものではあるものの、本質的 には両者を異なるものとしてとらえたい。

2.福祉社会推進の要因

2.1 「地域性」の狭小化−縮小高密化・持続可能性にね ざしたまちのデザイン 今日、住民一般が地域社会における「近所づきあい」 を求めなくなってきている傾向は、政府による各種統 計資料などが示すとおりである。ことに、要援護者に とっては近所の見守りがより重要なのであるが、たと えば一人暮らし高齢者世帯で近所に親族や互いに行き 来のある知人がいない割合は増加傾向にある。ただ、 一般的な傾向として、6割近くの人が「社会の一員とし て、何か社会のために役立ちたいと思っている」こと も報告されている(1) このことから導かれることとして、次のことがある。 まず、近所づきあいは、要援護者ほど必要であるし、 全体的な住民の意識としても、依然としてそれを求め ている。しかし、一般的な傾向として、人づきあいの 範囲は(都市生活者の感覚からして)必要以上に広げ ようとされない。 図1 現代社会の社会福祉の諸問題 社会的排除や摩擦 路上死 ホームレス問題 外国人・残留孤児等の問題 カード破産等の問題 アルコール依存等の問題       心身の障害・不安      貧  困  社会的ストレス問題      中高年リストラによる生活問題 若年層の不安定問題 フリータ− 低所得 出産育児 低所得者問題 特に単身高齢世帯 虐待・暴力 孤独死・自殺 社会的孤立や孤独(個別的沈澱) (厚生省「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書2000)

(5)

図2 まちづくり活動の要因スケッチ (牧里 2003, p.157) うな条件整備、換言すれば地域組織化の課題がある。 たとえば、公−私、フォーマル−インフォーマルの主 体をどう調整し、ネットワークし、主体形成を図るか、 要援護者の声をいかにして吸い上げ、まちの施策にど う反映させるか、またそれらの折り合いを財政的にど のようにつけるのか、といったことである。 こうした過程を通じてまちづくりを進めるために、 牧里毎治は、地域福祉の視点から6つの要因を挙げて いる。つまり①外生的要因(生活環境の悪化・劣化、 家族の育児力・介護力などの低下・劣化、行政対応の 立ち遅れなど)、②契機的要因(事故や事件、学習会、 モデル地区の指定など)、③住民の主体的要因(利害関 心の有無、問題の認知、価値の内面化など)、④住民の 属性的要因(居住年数の長さ、住民生活の均質性、近 隣関係の密度など)、⑤組織的要因(住民組織のサイズ、 住民参加の豊富な機会、民主的リーダーの存在など)、 ⑥手段的要因(集会所の有無、財源の豊かさ、コミュ ニティワーカーの援助など)、である(図2)(3) つまり、福祉社会をめざした取り組みには、住民の 意識をいかに喚起し、公私専門職との有機的なネット ワークを強化していけるかが鍵を握っている。この枠 組みに立脚すれば、6つのまちづくり要因は、各々が 活動の「契機」にほかならないのであり、専門的な取 り組みによって、適切なタイミングに、適切なアプロ ーチでそれらを刺激していくことの必要性がここから 導出される。 さて、高度成長期以降のまちづくりの方向として、 縮小高密化や持続可能性が要件となることを、前節で 述べた。これに沿ったまちづくりの具現化の仕方とし て、「コンパクトシティ概念」を参考にすることができ る。コンパクトシティは、職・住・学・遊などの諸機 能を都市の中心部に集め、地域活性化を図ろうとする ものである(2)。この概念が由来する欧米の都市開発・ 再生とは異なり、日本では地方都市の中心市街地にお ける「シャッター通り問題」などに対する地域活性化 策として、狭義的に用いられる傾向はあるものの、今 日的な地域社会レベルでの「つながり」の仕方を模索 するうえでは実践的示唆に富んだ発想であろう。旧来 のような連帯を地域の成員間で取り結ぶことが好まれ ず、必要最低限の範囲の中での密な関係が求められる 以上、住民間で「ほどほどの付き合い」や「着かず離 れずの距離感」を保つことができ、かつ、生活に必要 な諸機能が近隣に配置され、不測の事態が生じた時に は助け合えるようにまちをデザインしていこうとする ことであるから、コンパクトシティが今日注目される ことも頷けよう。 2.2 「共同的意識・行動」の分化・拡散−地域の多様な アクターを動かす要因 一方、コンパクトシティが空間的・物理的に都市機 能の効率的配置に主眼を置いているのに対し、そこを 舞台とするアクター(演者)たちが力を発揮できるよ

PR

O

JE

C

T

1

生活環境の悪化・劣化 家族育児力・家事力・介護力・ 福祉力の低下・劣化 住民組織の形骸化 行政対応の立ち遅れ 利害関心の有無 問題の認知 価値の内面化 活動知識や技能の程度 世間体やイデオロギーへの抵抗 居住年数の長さ 住民生活の均質性 近隣関係の密度 生活の協同化の程度 職住接近の度合い 集会所の有無 財源の豊かさ コミュニティワーカーの援助 その他の専門家の支援 マスコミの評価 他の地区の評価 住民組織のサイズ 住民参加の豊富な機会 民主的リーダーの存在 役員の役割分担と協働 住民の結束力 具体的事故や事件 住民の学習会 マスコミの紹介 モデル地区の指定

まちづくり活動

外性的要因 契機的要因 組織的要因 手段的要因 住民属性の要因 住民の主体的要因

(6)

3.福祉社会づくりに向けての実践課題

3.1 つながりの装置としてのコンパクトなまちづくり 以上のことから、実践を導くいくつかの点について 検討してみたい。なお、まちづくりというストーリー に登場するアクターを挙げれば際限がないが、ここで は福祉社会をめざしていくという目的から、社会福祉 協議会のコミュニティワーカーのような側面的援助者 を実践主体として想定する。 第一に、コンパクトシティ概念に依拠してまちづく りを検討していく場合に注意したいことである。今日 の近所づきあいが、「顔の見える」程度の範囲の中で、 相互に交流・支援が可能となる関係であることを前提 とすると、コンパクトシティを実現するうえで、自治 体の支所、学校、病院、図書館などの諸機能を、駅前 などに集中させるだけでなく、住宅地のコモン(共用) スペースやクルドサックなどで「井戸端会議」を自然 と始めたくなるような仕掛けがあるとよいだろう。た とえば、屋外のコモンスペースの場合は簡単な東屋と ベンチだけでも、あるとないとでは違うだろう。屋内 の集会所などの場合でも、たとえば週に一度、趣味の サークルで利用する人が、世代を超えて交流をひろげ られるよう、集会所そのものを別の施設(学校など) の敷地内につくる例も、実際にみられる。こうした付 加価値をもたらす仕掛けが、住民に見えるところ、見 え な い と こ ろ に 設 け ら れ て い る こ と が 大 切 で あ る 。 色々な場面を通して、「気がつけば知り合いが増えてい た」という、いわば漸進的な連帯感の醸成が、今日的 なコミュニティづくりに実効性をもつものといえる。 言うまでもなく、孤独死のおそれのある人、家族から の暴力・虐待に耐えている人、家に引きこもって、外 への一歩が踏み出せない人のSOSに気づき、住民同士あ るいは民生委員や専門職との連携によって収束を図る ため、あるいはそのような人々の問題を未然に防ぐた めである。 なお、ここにおいては、当然ながら要援護者への配 慮を起点にしていかなければならない(4)。大多数の住 民から見て機能的だと思えるまちのデザインや、地元 の産業の振興のみをめざしたまちづくりでも、ともす れば社会的に不利な人にとっての利便性が切り捨てら れがちである。彼らの参加機会を保障して、年齢や心 身の疾患などあらゆる障害があろうとも、自らの思い を述べることができ、まちづくりに勘案されることが できてこそ、福祉社会を企図していけるのではないか。 3.2 多様なアクターの組織化 第二に、まちづくりの推進主体としての住民の組織 化や主体形成に関わる課題である。一見すると無関心 に見える住民層のなかにも、契機が与えられることに よって、コミュニティ活動の担い手になる素地を潜在 的にもっている人はいるし、反対に、無意識的である にせよ、要援護者など社会的に不利な立場の人々に対 して排他的態度をとる人もいる。抽象的な表現になる が、人々の「問題はないが、良くもない」態度をベー スラインとし、「±0」だとすると、「−(マイナス)」 の状態は「±0」に、「±0」の状態は「+(プラス)」 に、近づけていくことが実践レベルの課題であろう。 つまり、「排他的な人」は「無関心な人」に、「無関心 な人」は「理解者・活動者」に段階的に成長できるよ う、目標を複合的に設定し、長期的視野に立って広 報・啓発活動や福祉教育などを繰り返していくことが 求められるだろう。 ただ、現実的には、図2の「組織的要因」や「手段 的要因」がむしろ阻害要因となりがちなのであり、こ れらをいかにして促進要因にしていくかが問われよう。 これについては、以下のような論点を立て、今後さら に実践と知見を蓄積していくことが必要である。 まず、町内会・自治会に代表される地縁型の団体の 空洞化の問題がある。全戸加入を原則とし、行政補助 を客観的な存在理由の一つとしてきた地縁団体は、戦 後、GHQから「封建的半官組織」とみなされ、かつ政 令により廃止を命じられようとも、今日まで存続して きた。つまり、われわれの生活に欠かせない存在であ り続けたのである。その理由には、単一の地域におい て、長年にわたり住民生活全般を支えてきたという総 合性や歴史性などがあるだろう。しかし今日では、組 織原理や運営における前近代性や非民主性が批判の対 象となり、加入率低下や役員の後継者不足に頭を抱え るものが多い。また、旧態依然とした全体主義的思考 フレームを通して地域をみようとするのであれば、ニ ートやネットカフェ難民、引きこもり、外国人労働者 など今日的な貧困状況に置かれた人びとを安易に排除 する発想を導きやすい。繰り返しになるが、地域社会 が単なる個々バラバラの人間の寄せ集めになりつつあ る今日にあって、このような地縁団体の果たす役割は 大きい。緊急災害時の救助活動から日常的な防犯・防 災、ゴミ捨て場のルール決めにいたるまで、「無ければ どういうことになるか」を非加入層に訴えていくよう な後方支援や、今日的問題の内面化を促すための学習 会などの対策を根気強く講じて、活動者を支援してい くことが必要だろう。 次に、課題型・テーマ型団体の問題がある。NPOな どの団体は、特定の問題分野に対して、専門職者・学 識経験者などとの協働によって、きわめて高い専門性 をもって取り組める強みがある反面、周知のように関 心のバラつき(特定の対象に対して団体設立が相次ぐ 一方で、敬遠されがちな問題には、当事者(被害者)・

(7)

ことも少なくない。 以上のような点のバランスを保ちつつ取り組んでい くことで、地域に山積する問題の解消に近づけること になるし、地域社会の紐帯を強化していくことにもな るものと思われる。逆にいうと、本稿でみてきたよう なさまざまな要因を整えていかなければ、福祉社会の 実現はないのではないだろうか。 【参考・引用文献】 古川孝順編,2007『生活支援の社会福祉学』有斐閣. 岩崎信彦ほか編,1989『町内会の研究』御茶ノ水書房. 厚生省社会・援護局,2000『「社会的な援護を要する人々に対  する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書』. MacIver, R.M., 1917, Community A Sociological Study; Being an

Attempt to Set Out the Nature and Fundamental Laws of Social Life, Macmillan and Co., Limited.(=1975,中久郎・松本通 晴ほか訳『コミュニティ 社会学的研究:社会生活の性質 と基本法則に関する一試論』ミネルヴァ書房) 牧里毎治編,2003『地域福祉論―住民自治と地域ケア・サービ スのシステム化―』放送大学教育振興会. 松永安光『まちづくりの新潮流 コンパクトシティ/ニューア ーバニズム/アーバンビレッジ』彰国社.

McGuigan, J., 1999, Modernity and Postmodern Culture.(=2000, 村上恭子訳『モダニティとポストモダン文化―カルチュラ ル・スタディーズ入門』彩流社)

宮崎牧子,2006「現代社会と地域福祉」,井村圭壯・谷川和昭 編『地域福祉の基本体系』勁草書房,pp.1-11.

Salamon, Lester M., Partners in Public Service: Government-Nonprofit Relations in the Modern Welfare State, The John's Hopkins University Press, 1995.

鈴木浩,2007『日本版コンパクトシティ 地域循環型都市の構 築』学陽書房. 友寄英隆,2006『「新自由主義」とは何か』新日本出版社. 渡邉洋一,2000『コミュニティケア−知的障害をめぐるコミュ ニティケアからコミュニティ・ソーシャルワークの展 望−』相川書房. 山本恭逸編,2006『コンパクトシティ―青森市の挑戦―』ぎょ うせい. 全国社会福祉協議会,2007『NORMA(No.209)』. ─────────────── (1)内閣府「社会意識に関する世論調査(平成16年調査)」お よび「平成17年度世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に 関する意識調査」より。 (2)矢ヶ埼(2004),p.342. (3) 牧里(2003),pp.155-157. (4)鈴木は、コンパクトシティの原則として、①社会的な公平 さ、②日常生活上の自足性、③地域運営の自律性を挙げて いる。①には、「年齢、所得、性別、社会階層、人種、自 動車利用、身体機能などいろいろな特徴を持った人々が、 公平に生活できる条件が確保される」ことが述べられてい る。鈴木(2007),p.27. (5)Salamon(1995). (6)全社協「NORMA(No.209)」(2007),p.4. (7)一般的には、順に「人材」「物資・設備・建物など物理的 な資源」「資金」「時間」「情報」とされる。 関係者以外に支援しようとする者が表れないなど)、採 算を度外視することによる経営の停滞、ボランティア への依存が強いことにより運営が素人的になること、 資源調達の非充足性などが指摘される(5)。加えて、福 祉の市場化が進むなかで、民間非営利という独自性を 保持しつつ、営利企業などとの競合という問題にも対 峙しなければならない。これらに対する財政的支援 (単なる事業委託などによる、いわゆる「安上がりの下 請け」ではなく、自発性を喚起していく内容のもの) をはじめ、情報・経営ノウハウの提供、物品の提供な ど、総合的なバックアップが必要である。当然、その 過程には、地元の一般企業や住民一般への働きかけが 不可欠であるし、むしろそれ自体をキャンペーンとし て、副次的に意識醸成に繋げていくことが求められよ う。 さらに、上の両タイプの住民組織間では、対立の解 消が課題である。地縁型の団体とNPOなどとは、その 行動原理や価値規範(そもそも、土着性に存在価値を 見出すか、むしろそれを打破しようとするか、という 正反対のとらえ方がある)、平均的な世代のギャップな どから、相互に反発しあう傾向があることが指摘され ている(6)。しかし、要援護者の立場からすれば、様々 な主体がそれぞれのよさを活かしあいながら、多元的 に福祉資源となることが好ましいことは自明であり、 すでに先進事例として全国でみられるように、両者の 相補的な連携が期待されている。ここでも、仕掛けと しては、行事の実行委員会などで毎年「何となく顔を 合わせる」関係から徐々に両者の距離を縮め、既成事 実としての連携が自然に生まれるよう、前項で述べた 漸進的な連帯感醸成の手段が実効性をもちうるだろう。 最後に、集会所などのハードや財源の制約の問題が ある。地域の活動者は、何かの取り組みの構想を前に して、よく口癖のように「場所がない」「お金がない」 「人がいない」と言うのであるが、ヒト・モノ・カネ・ トキ・シラセ(7)という社会資源をひろく柔軟に活用し ようという発想を欠いていることが多い。場所や物資 といったハードが不足する問題については、常套手段 的ではあるが商店街や学校との連携による空き店舗・ 空き教室などの再活用が考えられるし、地元企業・施 設の遊休スペースの活用も検討に値する。財源につい ても、行政の予算編成期に、規制の利害に縛られない 見直し(スクラップ・アンド・ビルド)を要求したり、 あるいは助成財団に新たに助成金を申請するなど、費 用を捻出する工夫はあってよい。人材に関しても、民 生委員や町内会役員など、知らず知らずのうちに固定 メンバーだけで地域の諸事万端を処理するのが慣例化 している場合が多いが、新しい年代、新しい人脈を掘 り起こすための、新しいアプローチを工夫していない

PR

O

JE

C

T

1

参照

関連したドキュメント

このような状況のもと、昨年改正された社会福祉法においては、全て

「社会福祉法の一部改正」の中身を確認し、H29年度の法施行に向けた準備の一環として新

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化

「養子縁組の実践:子どもの権利と福祉を向上させるために」という

今年度第3期最終年である合志市地域福祉計画・活動計画の方針に基づき、地域共生社会の実現、及び

(1) As a regional characteristic of Alvesta, because of its strong community foundation based on its small size, a high level of consciousness regarding establishing a welfare living

 工学の目的は社会における課題の解決で す。現代社会の課題は複雑化し、柔軟、再構

重点経営方針は、働く環境づくり 地域福祉 家族支援 財務の安定 を掲げ、社会福