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文書提出命令 : 貸出稟議書に関する一連の決定を素材として (平成16年度 退職記念号 浅野 裕司 教授 水野 勝 教授) 利用統計を見る

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(1)

文書提出命令 : 貸出稟議書に関する一連の決定を

素材として (平成16年度 退職記念号 浅野 裕司 教

授 水野 勝 教授)

著者名(日)

櫻本 正樹

雑誌名

東洋法学

48

2

ページ

157-196

発行年

2005-03-25

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000570/

(2)

文書提出命令

       貸出稟議書に関する一連の決定を素材として

はじめに

東洋法学

 平成八年に公布された新しい民事訴訟法︵以下、民訴法︶の主要な改正点のなかに証拠収集手続の拡充がある。 新民訴法は文書提出命令の対象となる文書の拡充を図るべく二二〇条四号で文書提出義務を一般化して、同号イ ないしホ︵平成一三年法律第九六号による改正後︶に該当しない限り文書の所持者は提出義務を負うこととした。  旧民訴法三一二条は、提出を要する文書をその一号ないし三号に列挙する形で、どのような場合に文書を提出       ︵−︶ しなければならないかは限定義務とされていた。特に、三号のいわゆる﹁法律関係文書﹂の範囲には疑義が多く、 昭和四〇年ごろから提起されることが多くなったといわれている現代型紛争事件、労働事件、行政事件などにお        ︵2︶ いて、法律関係文書の解釈を拡大すべきとの見解が強く主張され始めた。改正により旧法三一二条一号ないし三 157

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文書提出命令 号は、現行二二〇条一号ないし三号に引き継がれ、これとは別に一般義務を規定する四号が置かれ、同号のイな いしホの提出義務除外規定に該当しない限り文書の所持者は提出義務を負うものとされ、文書提出義務を一般義 務化した。  しかし、この四号新設の趣旨ははっきりしていない。すなわち、文書提出命令を一般義務化する案と従前の列 挙主義を維持したうえで適用範囲を広げようとする案が対立し、折衷案のような形で改正法が成立したとされて  ︵3︶ いる。しかも前述のような形式の二二〇条に関して、一号ないし三号と四号の関係、さらに四号がイないしホを 除外しているはっきりとした理由などがうやむやなままで立法がなされてしまったために、当該条文をいかよう       ︵4︶ にも捉えることができ新法制定によりむしろ解釈上の間題点が多く発生した。  金融機関の貸出稟議書は文書提出命令の対象となるか、というテーマもそのひとつである。旧法下における稟 議書に対する取扱いは稟議書の内部文書性を理由として旧三一二条三号後段の﹁法律関係文﹂に基づく文書提出       ︵5︶ 義務を否定するのが判例の態度であり、また改正作業に関与した立法担当官によっても二二〇条四号ハ︵平成一 三年法律第九六号による改正前︶の例として、個人的な日記、備忘録とともに稟議書を挙げて﹁専ら団体の内部 における事務処理上の便宜のために作成され⋮およそ外部のものに開示することを予定していないもの﹂は四号       ︵6︶ から除外されると説明されていた。にもかかわらず、現行法施行直後から、貸出稟議書は文書提出命令の対象と なるかが裁判上間題とされ、これを認める決定と否定する決定が下級審において相次いで出された結果、裁判実 務においても、また、学説においても、この間題が注目されることとなった。すなわち、貸出稟議書は二二〇条

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三号のいわゆる法律関係文書に該当するか否か、さらに該当しないとしても新設された四号の一般義務化された 文書提出命令の対象となるか否かという間題であり、特に後者において、貸出稟議書が二二〇条四号二の﹁専ら       ︵7︶ 文書の所持者の利用に供するための文書﹂︵以下、自己利用文書︶に該当するか否かという観点から論じられてい る。  本稿は、文書提出命令に関する民訴法二二〇条がもたらす間題のなかで、新法施行後下された一連の下級審決 定及ぴ平成二年、一二年、一三年と立て続けに最高裁が下してきた決定を素材としながら、特に金融機関の貸    ︵8︶      ︵9︶ 出稟議書が﹁自己利用文書﹂として文書提出命令の対象となるか否かという間題に関して、最高裁の示した要件 について﹁特段の事情﹂の機能、位置づけを中心に取り上げて論じることにする。

東洋法学

︵1︶

パハパ

432

)))

︵5︶ ︵6︶  旧法下の議論として詳しくは、松山恒昭﹁文書提出命令﹂鈴木正裕古希﹃民事訴訟法の史的展開﹄五二五頁︵有斐 閣 二〇〇二年︶。  小野憲一・最判解民平成一一年度︵下︶七七九頁︵二〇〇二年︶。  小野・前掲注︵2︶七九八頁。  この論点を整理したものとして、平野哲郎﹁新民事訴訟法二二〇条をめぐる論点の整理と考察ー貸出菓議書に対 する文書提出命令を契機としてー﹂判タ一〇〇四号四三頁︵一九九九年︶。  大西武士﹁新民事訴訟法における文書提出命令と稟議書﹂金法一五六一号四頁︵一九九九年︶、平野・前掲注︵4︶ 四四頁。  法務省民事局参事官室編﹃一問一答新民事訴訟法﹄二五一頁︵商事法務研究会 一九九六年︶、この他青山他﹁新 159

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文書提出命令 ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ 民事訴訟法をめぐって﹂ジュリニニ五号一〇九頁︵一九九七年︶。  二二〇条四号二の文書の呼称は、自己使用文書、専自己利用文書、新自己使用文書等学者によりさまざまである。 詳しくは、高橋宏志﹁自己専利用文書﹂石川明古希﹃現代社会における民事手続法の展開下﹄五五頁︵商事法務 二 〇〇二年︶。  裁判例に現れたものでは文書提出命令で対象とされるのは稟議書のみならず、その付随する書類︵本部認可書、付 属書類一切、業務日誌等︶も対象とされることが多く見受けられるが︵これを指摘するものとして、並木茂﹁銀行の 融資稟議書は文書提出命令の対象となるか﹂金法一五六一号四五頁の注︵3︶︵一九九九年︶︶、ここでは金融機関の貸 出稟議書のみを対象として論ずる。また、貸出稟議書はその名称いかんに関わらずその作成目的や記載内容等の実質 で判断されるべきである︵同旨小野・前掲注︵2︶七九二頁V。  これに関してこれまで多くの文献︵判例研究は後掲︶があるが、さしあたり、高橋・前掲注︵7︶五四頁、奥博司﹁金 融機関の所持する稟議書に対する文書提出命令﹂吉村重徳古希﹃弁論と証拠調べの理論と実践﹄三七九頁︵法律文化 社 二〇〇二年︶、村松和徳﹁文書提出義務の一般化に関する若干の考察﹂石川明古希﹃現代社会における民事手続 法の展開下﹄七八頁︵商事法務 二〇〇二年︶、川嶋四郎﹁文書提出義務論に対する一視角﹂吉村徳重古希﹃弁論と 証拠調べの理論と実践﹄三五二頁︵法律文化社 二〇〇二年︶、長谷部由起子﹁内部文書の提出義務﹂新堂幸司古希 ﹃民事訴訟法理論の新たな構築下巻﹄三〇一頁︵有斐閣 二〇〇一年︶、伊達聡子﹁稟議書の提出に関する決定をめぐ って﹂新堂幸司古希﹃民事訴訟法理論の新たな構築下巻﹄二四三頁︵有斐閣 二〇〇一年︶、村上正子﹁裁判例から みた文書提出拒絶権﹂筑波五七頁︵二〇〇一年︶、伊藤眞﹁自己使用文書としての訴訟等準備文書と文書提出義務﹂ 佐々木吉男﹃民事紛争の解決と手続﹄四一五頁︵信山社 二〇〇〇年︶、同﹁文書提出義務と自己使用文書の意義﹂ 法協一一四巻二一号一四四四頁︵一九九七年︶、上野泰男﹁新民事訴訟法における文書提出義務の一局面﹂原田龍一 郎古希﹃改革期の民事手続法﹄九六頁︵法律文化社 二〇〇〇年︶、山本克己﹁銀行の貸出稟議書と﹃専ら文書の所 持者の利用に供するための文書﹄﹂金法一五八八号一三頁︵二〇〇〇年︶、小林秀之﹁貸出稟議書文書提出命令最高裁 決定の意義﹂判タ一〇二七号一五頁︵二〇〇〇年︶、山本和彦﹁稟議書に対する文書提出命令︵上︶﹂NBL六六一号

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六頁︵一九九九年︶、同下NBL六六二号三〇頁︵一九九九年︶、 七九号六頁︵一九九九年︶等。 同﹁銀行の稟議書に対する文書提出命令﹂NBL六 二 裁判例の傾向  下級審の裁判例は新法が施行されてからまだ日が浅かったため平成一 己利用文書﹂該当性の要件が示されるまで文書提出命令に対する結論、 が、この決定によりそれまでの判例傾向が一変したと考えられるので、       ︵−o︶ 例と、それ以降の裁判例とに分けることにする。 一年二月一二日最高裁決定により﹁自 理由付けに少し混乱があったようである ここではその決定が下される以前の裁判

東洋法学

 1平成二年一一月=一日最高裁決定以前の傾向

 平成八年新民訴法、すなわち現行法施行後、前記最高裁の決定以前の裁判例として、 とができる。       ︵n︶  ① 束京地裁平成一〇年六月三〇日決定︵②の原審、消極︶       ︵12︶  ②東京高裁平成一〇年一〇月五日決定︵積極︶        ︵13︶  ③束京高裁平成一〇年二月二四日決定︵⑰︵後掲︶の原審、積極︶ 以下の一六件を挙げるこ 161

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文書提出命令

⑯⑮⑭⑬⑫⑪⑩⑨⑧⑦⑥⑤④

東京高裁平成一 東京地裁平成一 東京高裁平成一 東京地裁平成一 福岡高裁平成一 東京地裁平成一 札幌地裁平成一 東京地裁平成一 東京地裁平成一 東京高裁平成一 福岡地裁平成一 大阪高裁平成一 東京地裁八王子支部平成一〇年一二月一  これらの決定で文書提出命令の申立を認めたものが六件 その内訳として地裁において認めたもの二件、 三件となっている。高裁で文書提出命令の申立てを認める決定をしたものが多い。        ︵14︶       一日決定︵⑳︵後掲︶の原々審、消極︶        ︵15︶ 一年二月二六日決定︵⑱︵後掲︶の原審、積極︶        ︵16︶ 一年三月一五日決定︵⑲︵後掲︶の原々審、消極︶        ︵17︶ 一年四月一六日決定︵消極︶        ︵18︶ 一年四月一九日決定︵消極︶        ︵19︶ 一年六月一〇日決定︵⑭の原審、消極︶        ︵20︶ 一年六月一〇日決定︵積極︶        ︵21︶ 一年六月二一日決定︵消極︶        ︵22V 一年六月二一二日決定︵⑲︵後掲︶の原審、消極︶       ︵23︶ 一年七月五日決定︵積極︶        ︵24︶ 一年七月一四日決定︵消極︶        ︵25︶ 一年八月一六日決定︵消極︶       ︵26V 一年九月八日決定︵⑳︵後掲︶の原審、決定④を取消・差戻︶       ︵決定⑯含む︶、却下したものが一〇件となっており、       却下したもの七件、高裁において認めたもの四件、却下したもの

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 また、これらの決定の多くは、申立人が稟議書が民訴法二二〇条三号後段所定の法律関係文書に該当するとし て、仮にそうでないとしても同条四号︵平成二二年法律第九六号による改正前︶のイ、ロ、ハのいずれにも該当       ︵27︶ しないとして当該文書を裁判所に提出することを求めているので、決定で稟議書が法律関係文書に該当性するか       ︵28︶ 否かという判断と自己利用文書該当性の判断が同時に議論されているものが多い。  まず、貸出稟議書の法律関係文書該当性に関しては、多くの決定が、稟議書は法律関係文書には該当しないと する。たとえば、決定①を例に取れば、法律関係文書とは﹁挙証者と相手方との間の法律関係それ自体を記載し        ︵29V た文書及びその法律関係に関連のある事項を記載した文書を指﹂し、﹁専ら自己使用の目的で作成した文書はこれ に当たらないと解するのが相当である﹂と解し、稟議書は﹁融資を行う際の意思決定において専らその意思決定 を円滑に行うために作成された文書で﹂、﹁相手方内部の文書であり、かつ法令によって作成を義務づけられてい るものではないと認められる﹂ため、﹁専ら自己使用の目的で作成した文書であって、法律関係文書ではないとい       ︵30×31︶ うべきである﹂としている︵決定④も次に述べる自己利用文書該当性も含め①とほぼ同旨︶。  次に、自己利用文書該当性についてであるが、法律関係文書該当性を否定した決定は同時に自己利用文書であ        ︵32︶ ることを肯定する。右に説明したのと同様に決定①を例に取れば、その理由としては、稟議書が﹁融資するか否 かの意思決定を行うために作成された文書﹂であり、﹁本来的に第三者に対する開示を予定する文書﹂ではないと する。また、この趣旨に加えて決定⑨、⑪は、人は沈黙の自由、あるいは意思決定の過程の公開を強いられない 自由を保障されており、このような文書までが提出の対象となるとこの自由が侵害され、意思決定が萎縮させら 163

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文書提出命令 れ、その者の意思の自由自体が危うくされるというような事態を回避することが必要であるから、と述べる。決 定⑮は、稟議書の自己利用文書該当性は肯定するが、取調べの必要性がないことを主な理由として文書提出命令 の対象とならないとする。さらにまた、決定⑥、⑦、⑧、⑫、⑭などのように、特に理由を付さずに自己利用文 書に該当するとしたものもある。        ︵33︶︵34︶  これに対して、この時期に特徴的なのは稟議書を公式文書として捉えて、一方で法律関係文書該当性を肯定す ることにより︵決定②︶、あるいは他方で、自己利用文書該当性を否定すること︵決定③、⑩、⑬、⑯、但し⑯は 稟議書は本来対外的利用を予定していない文書であるとしつつも、会員代表訴訟の訴訟資料として使用されるこ とがその属性として内在的に予定されており内部文書︵自己利用文書︶である旨主張することは許されないとす る︶により、さらにその両者を理由として︵決定⑤︶文書提出を命じている決定が存することである。  まず、公式文書として法律関係文書該当性を肯定するものとして、たとえば、その先駆けとなった決定②は﹁こ の法律関係文書は前記趣旨をも考慮すると、右法律そのものについて作成されている文書⋮にとどまらず、右法 律関係の成立又は効力について裁判所が適正な事実認定をするために必要な文書をも含む⋮﹂との解釈を示した 後、﹁当事者双方又は一方が組織体⋮であって、複数の人がその意思決定に関与している場合において、当事者間 の法律関係を形成する過程で、その担当者がどのような情報︵判断根拠︶に基づいてどのように関与したかを明 らかにする文書は、いわば組織内の公式文書であ﹂るとして、法律関係文書該当性を肯定し、﹁内部文書であるこ とは、直ちに法律関係文書たることを否定する理由となるものでもない。﹂とする。さらに当該決定は﹁もっとも、

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明文の規定はないが、企業秘密その他の秘密やプライバシーに関わる事項が含まれているときなど、裁判所がそ の法律関係文書を提出させ、適正な事実認定をすることによって得られる法益に優先する法益を保護することが 必要な場合には、当該文書の所持人は、文書提出義務を負わないと解するのが相当である。﹂として、企業側の不 利益事情も考慮に入れてバランスを考るが、本件にはそのような事情はないとしている。この決定は、他の決定 の多くが採っている法律関係文書の定義を広げ、﹁争いのある事実について証拠に基づく適正な認定ができるよう にする﹂ことが重要である旨を述べる。次に、自己利用文書該当性を否定する決定⑬は﹁稟議書は、当該貸出に 関する意思決定の合理性を担保するために作成された銀行内の基本的な公式文書であり、現に貸出がなされた場 合には、様々な公的な局面で、銀行が貸出の合理性、正当性を外部に対し主張する場合、あるいは外部の者がこ れらを確認する場合に、基本的かつ最重要の資料となるものということができる。したがって、これは、作成者 が第三者に開示されることを予定しないで個人的に記載した日記帳や備忘録の類とは性質が異なるものというべ きである。﹂として当該稟議書の提出を命じている。さらに、決定⑤は、稟議書は挙証者と文書所持者との間の法 律関係について銀行の組織内において、いわば公式に作成された文書であるとして法律文書該当性を肯定し、仮 にそうでないとしても意思決定が適正な手続を経て妥当に行われたことを説明するために、求められればこれを 提示すべき文書であり自己利用文書には該当しないとする。  以上を小括すれば、文書提出を命じたものは、法律関係文書の該当性を理由にしたもの、あるいは、自己利用 文書に該当しないことを理由にしたもの、両方を理由としたもののいずれかであり、結果として文書提出の必要 165

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文書提出命令 性を肯定する結論を導き出したことになるが、これら以外の大半の決定が、貸出稟議書は法律関係文書ではなく、 かつ、自己利用文書に該当するとして文書の提出を認めないとする結論をとった。後述する最高裁平成二年決 定は自己利用文書への該当性を中心に述べ、自己利用文書であれば、当然法律関係文書に該当しないことはいう までもないと示して、法律関係文書該当性については言及されていない。これは、自己利用文書該当性を肯定す ることと法律関係文書該当性を否定することが表裏一体であるということについて右の多くの決定においてほぽ        ︵35︶ 一致が見られたと考えられた結果ではないかと思われる。 ︵10︶ ︵11︶ ︵12︶ ︵13︶ ハ  ハ

1514

)  ) ︵16︶  これら下級審の決定を詳細に検討するものとして並木・前掲注︵8︶三八頁、奥・前掲注︵9︶三七九頁、伊達・前掲 注︵9︶二四三頁。  金法一五二六号六九頁、金商一〇五三号八頁等。また、本決定に対する判例研究として長谷川俊明・金法一五二八 号六頁︵一九九八年︶。  判タ九八八号二八八頁、金法一五三〇号三九頁、金商一〇五三号三頁等。また、本決定に対する判例研究として新 堂幸司・金法一五三八号一八頁︵一九九九年︶、西尾信一・銀法二一四三巻一号六〇頁︵一九九九年︶。  民集五三巻八号一八四八頁、金法一五三八号七二頁、金商一〇五八号三頁等。また、本決定に対する判例研究とし て鈴木正裕・リマークス一九号二三ハ頁︵一九九九年︶。  民集五四巻九号二七二八頁、金商一〇七六号七頁等。  金法一五四六号一一七頁、金商一〇六五号三頁。また、本決定に対する判例研究として西尾信一・銀法二一四三巻 七号七三頁︵一九九九年︶、並木・前掲注︵8︶三九頁︵一九九九年︶、並木・金法一五六二号三六頁︵一九九九年︶。  金法一五五七号七五頁。

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パ    パ    パ    パ   パ    ハ   パ    ハ    パ    パ    27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 )    )    )    )    )    )    )    )    )    )    ) ハ  ハ

2928

V  ) ︵30V  判時一六八八号一四〇頁。  金法一五四六号一二三頁、金商一〇六六号一二頁。  金法一五五〇号三六頁、金商一〇六九号三頁。  金商一〇七一号七頁。  金法一五五四号八六頁。  金法一五五七号七五頁。  金法一五五四号八二頁、金商一〇七一号三頁。  金法一五五四号八O頁、金商一〇七二号三頁。また、本決定に対する判例研究として並木・前掲注︵8︶四〇頁。  金法一五五七号七六頁。  民集五四巻九号二七三一頁、金商一〇七六号三頁等。  これに該当するのは、決定①、③、④、⑤、⑨、⑩、⑪、⑬、⑮である。反対に⑫、⑭は不明であるが、決定理由 で両者に関して判断されているので申立はなされたものと思われる。⑥、⑦、⑧は法律文書としての該当性だけを申 立てた︵⑥は決定理由からそれが推測できる︶。それぞれ②は①、⑯は④の抗告審であるので原審と同様の主張がな されたものと思われる。  これに該当するのは、決定①、④、⑤、⑥、⑦、⑧、⑨、⑪、⑫、⑭である。  決定⑨、⑪等は﹁法律関係に関連のある事項﹂という部分を﹁文書の所持人又は作成者が法律関係の構成要素の一 部分を記載した文書﹂と表現する。  決定⑦は、改正の趣旨にまで言及して、稟議書が法律関係文書に当たらない理由を明らかにしようとする。現行法 二二〇条一号ないし三号が旧法三一二条一号ないし三号をただそのまま踏襲したのに対し、同四号ハ文書︵平成一三 年法律第九六号による改正前︶の提出義務を一般化することで文書の範囲をいっそう拡大することを図ったもので あって、この両者は性格を異にしているとして、二二〇条一号ないし三号の解釈に文書提出義務の一般化という観点 を持ち込むことはできないとする。 167

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文書提出命令 ︵3 1︶ ハ  パ  パ

343332

V  )  ) ︵3 5︶  決定⑯も⑦と同様に二二〇条一号ないし三号の解釈に文書提出義務の一般化という観点を持ち込むことはできな いとし、﹁⋮民事訴訟法二二〇条一号ないし三号には同条四号イ、ロ、ハ︵平成二二年改正前 カッコ筆者︶のよう な除外規定が置かれていないが、同条の立法経緯に照らすと同条一号ないし三号は同条四号イ、ロ、ハの事由による 除外をすべて否定する趣旨ではないから、現行法の解釈としても前記のとおり専ら所持者の利用に供するために作 成された文書は法律関係文書に含まれないと解すべきである。また、文書提出命令制度が設けられた趣旨、目的は前 記のとおりではあるが、裁判所が適正な事実認定をするために必要と認められる文書であればすべてその対象とな るというものではないことは勿論であって、民事訴訟法二二〇条の定める要件の下に提出義務が課せられるにすぎ ない。したがって、裁判所が適正な事実認定をするために必要と認めるすべての文書が法律関係文書に含まれるとの 解釈を採ることはできない。﹂とする。  これに該当するのは、決定①、④、⑥、⑦、⑧、⑨、⑪、⑫、⑭である。  並木・前掲注︵15︶四四頁の注︵19︶は用語として適切でないとする。  決定①及び⑥は申立人において稟議書は公式文書であるとの申立をしたが裁判所はその主張を採用せず、さらに ⑦も申立人は前記と同様の主張をしたが裁判所はこれに答えなかった。  新民訴法の立法担当官は、二二〇条四号二の﹁自己利用文書﹂と旧三一二条三号後段の法律関係文書に該当しない として提出義務の対象とならない﹁自己使用文書﹂は基本的に同一であると考えていたようである︵竹下守夫ほか﹃研 究会新民事訴訟法−立法・解釈・運用﹄ジュリ増刊二八六頁︹柳田発言、但し両方とも﹃自己使用文書﹄と表現して いる︺︵一九九九年︶︶。  2平成一剛年一︸月一二日最高裁決定以降の傾向       ︵36︶ 平成一一年一一月一二日最高裁決定により﹁自己利用文書﹂該当性の要件が示され、 いう概念がはいった。ここではこれ以降の判例について紹介する。 さらに﹁特段の事情﹂

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      ︵37︶  平成一一年一一月二百最高裁決定︵⑰︶以降の裁判例として、平成一一年一一月二六日最高裁決定︵⑱︶、平成        ︵3 8︶       ︵39︶ 一一年一二月一七日最高裁決定︵⑲︶、平成一二年三月二八日大阪地裁決定︵⑳︶、平成二一年一二月一四日最高裁  ︵40︶       ︵41︶       ︵42︶ 決定︵⑳︶、平成一三年二月一五日大阪高裁決定︵⑳︶、平成一三年一二月七日最高裁決定︵⑳︶の七件を挙げること ができる。そのうち貸出稟議書の提出を認めたものは⑳、⑳、⑳の三決定であるがすべて同一の事案であるため、 まず提出を認めなかった決定を概観した後に一括して紹介する。

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 ⑰目璽尚裁平成一一年一一月一二日第二小法廷決定︵以下、平成一一年決定︶ ︻事  実︼  亡AはY銀行から六億五〇〇〇万円の融資を受け、右資金で株式等の有価証券取引を行ったところ、多額の損 害を被った。Aの承継人であるXは、Y銀行の支店長がAの経済状態からそれは貸付金の利息は有価証券取引か ら生ずる利益から支払う以外はないことを知りながら、過剰な融資を実行したもので、金融機関が顧客に対して 負っている安全配慮義務に違反する行為であるとして、Y銀行に対して損害賠償を求めた。  本案の第心審判決では、Aは豊富な投資経験を有しており自らの判断で本件融資を受け、有価証券取引を行っ たものと認定し、Y銀行の本件融資における注意義務違反はなかったとして、Xの請求を棄却した。それに対し て、Xが控訴。控訴審において、Xは、Y銀行の作成した貸出稟議書および本部認可書が相手方の過失を立証す るために不可欠の証拠であるとして文書提出命令を申立て、原決定︵③︶は、提出命令の申立てを理由ありとして、 169

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文書提出命令 認容。それに対して、Y銀行が許可抗告を申立てたのが本件である。 ︻決定要旨︼決定破棄、申立却下。  ﹁1 ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持人が所持するに至るまでの経緯、その他の事 情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文 書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思決定が阻害されたり するなど、開示によって所持人の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事 情がない限り、当該文書は民訴法二二〇条四号ハ︵平成二二年改正前 カッコ筆者︶所定の﹃専ら文書の所持人 の利用に供するための文書﹄に当たると解するのが相当である。  2 ⋮記録によれば、銀行の貸出稟議書とは、支店長等の決裁限度を超える規模、内容の融資案件について、 本部の決裁を求めるために作成されるものであって、通常は、融資の相手方、融資金額、資金使途、担保・保証、 返済方法といった融資の内容に加え、銀行にとっての収益の見込み、融資の相手方の信用状況、融資の相手方に 対する評価、融資についての担当者の意見などが記載され、それを受けて審査を行った本部の担当者、次長、部 長など所定の決裁権者が当該貸出しを認めるか否かについて表明した意見が記載される文書であること、本件文 書は、貸出稟議書及びこれと一体を成す本部認可書であって、いずれも抗告人がAに対する融資を決定する意思 を形成する過程で、右のような点を確認、検討、審査するために作成されたものであることが明らかである。  3 右に述べた文書作成の目的や記載内容等からすると、銀行の貸出稟議書は、銀行内部において、融資案件

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についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文書であって、法令によってその作成が義務付けられ たものでもなく、融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌たんのない評価や意見も記載 されることが予定されているものである。したがって、貸出稟議書は、専ら銀行内部の利用に供する目的で作成 され、外部に開示することが予定されていない文書であって、開示されると銀行内部における自由な意見の表明 に支障を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとして、特段の事情がない限り、﹃専ら文書の 所持者の利用に供するための文書﹄に当たると解するべきである。そして、本件文書は、前記のとおり、右のよ うな貸出稟議書及びこれと一体を成す本部認可書であり、本件において特段の事情の存在はうかがわれないから、 いずれも﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たるというべきであり、本件文書につき、抗告人 に対し民訴法二二〇条四号に基づく提出義務を認めることはできない。  また、本件文書が﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると解される以上、民訴法二二〇条 三号後段の文書に該当しないことはいうまでもないことである。﹂とした。

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 ⑱最高裁平成二年こ月二六日第二小法廷決定

︻事  実︼  相手方が、抗告人の銀行副支店長らに勧誘されて抗告人から四億三〇〇〇万円の融資を受け、相続税対策のた めに保険会社との間で変額保険契約を締結した。しかし当該副支店長らによる変額保険の危険性の説明をしなか 171

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文書提出命令 った説明義務違反等の違法な行為があったために、多額の損害を被ったとして、抗告人に対し、損害賠償を求め、 右貸付金の使途や返済の見込みに関する抗告人の認識等を証明するためであるとして、抗告人が所持する融資稟 議書等につき、文書提出命令の申立てをした事件である。 ︻決定要旨︼決定破棄、申立却下。  ﹁本件稟議書は、抗告人が相手方に対する融資を決定する過程で作成した貸出稟議書であることが認められる ところ、銀行の貸出稟議書は、特段の事情がない限り、民訴法二二〇条四号ハ︵平成一三年改正前 カッコ筆者︶ 所定の﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると解すべきである。  そして、本件において特段の事情の存在はうかがわれないから、本件稟議書は、﹃専ら文書の所持者の利用に供 するための文書﹄に当たるというべきであり、本件文書につき、抗告人に対し民訴法二二〇条四号に基づく提出 義務を認めることはできない。また、本件稟議書が、﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると 解される以上、民訴法二二〇条三号後段の文書に該当しないことはいうまでもないところである。﹂とした。

 ⑲最高裁平成二年一二月一七日第二小法廷決定

 詳しい事実内容は不明であるが、申立人が、相手方銀行の申立人に対する合計三〇億円の貸付稟議書の提出を 求めたのに対して、以下のように示して文書提出命令の申立ては理由がないものと判断した。 ︻決定要旨︼申立人︵抗告人Vの抗告棄却。

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 本決定および原審の決定も原々審の決定理由を是認するという判断のしかたで、原々審は﹁民訴法二二〇条三 号後段の法律関係文書とは、挙証者と相手方との間の法律関係それ自体を記載した文書及びその法律関係に関連 のある事項を記載した文書をいうのであって、文書の所持者又は作成者が専ら自己使用の目的で作成した文書は これに当たらないものというべきである。そして、申立人が提出を求める本件稟議書は、銀行である相手方が融 資を行う際の意思形成過程における文書で私企業内部の文書であり、法令によって作成が義務づけられているも のではなく、これを作成するか否か、外部に開示するか否かを含め、作成後の処分も当該銀行の自由意思に委ね られている文書であり、文書の作成者又は所持者が専ら自己使用の目的で作成した文書であると考えられる。そ うすると、本件稟議書は、同号後段の法律関係文書に当たるということはできない。﹂、そして﹁同条四号ハ︵平 成二二年改正前 カッコ筆者︶は、専ら文書の所持者の利用に供するための文書を提出義務の対象文書から除外 しているから、本件稟議書は、同号に基づいても提出義務を負うものではない。﹂とした。

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 ⑳最高裁平成一二年一二月一四日第一小法廷決定︵以下、平成一二年決定︶ ︻事  実︼  A信用金庫の会員であるXがA信用金庫の理事であったYらに対し、理事としての善管注意義務ないし忠実義 務に違反し、十分な担保を徴しないで融資を行い、A信用金庫に損害を与えたとして、信用金庫法三九条で準用 する商法二六七条に基づき損害賠償を求める会員代表訴訟を提起した︵本件本案事件︶。本件は、Xが、理事らの 173

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文書提出命令 善管注意義務違反ないし忠実義務違反を証明するためであるとして、抗告人が所持する本件各融資に際して作成 された一切の稟議書等につき文書提出命令を申立てた事件である。  原々決定︵④︶は、本件各文書は二二〇条三号後段の法律関係文書には該当しないが、二二〇条四号ハ︵平成一 三年改正前 カッコ筆者︶に該当するとして申立てを却下した。これに対して、原決定︵⑯︶は﹁信用金庫が所持 する稟議書は、⋮本来対外的利用を予定していないものであるとしても、事務処理の経過と理事等関与者の責任 の所在を明らかにすることがその作成目的に含まれている以上、信用金庫自信が理事の責任を追及する資料とし て利用すること及び会員代表訴訟の訴訟資料として使用されることはその属性として内在的に予定されていると いうことができ、また信用金庫自らが理事の責任追及の訴訟を提起するときには稟議書を証拠として利用するの に会員が信用金庫のために会員代表訴訟を提起するときにはその利用を認めないというのは自己矛盾に帰すると いわなければならない⋮本件文書中本件訴訟の追行に必要な文書については同条四号により文書提出義務を認め ることが考えられる。そうすると、本件文書については個々の文書ごとに訴訟資料としての必要性や重要性を検 討して民訴法二二〇条各号所定の文書といえるか否かを判断すべきところ、これをせず全体として本件文書の提 出義務を否定して申立てを却下した原決定は不当であり取消しを免れない。﹂として、原決定の取り消しと原審へ の差戻しを決定した。 ︻決定要旨︼原決定破棄、原々決定に対する抗告棄却。  ﹁信用金庫の貸出稟議書は、特段の事情がない限り、民訴法二二〇条四号ハ︵平成二二年改正前 カッコ筆者︶

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東洋法学

所定の﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると解するべきであり、右にいう特段の事情とは、 文書提出命令の申立人がその対象である貸出稟議書の利用関係において所持者である信用金庫と同一視すること ができる立場に立つものをいうと解される。信用金庫の会員は、理事に対し⋮会計の帳簿・書類の閲覧又は謄写 を求めることはできないのであり、会員に対する信用金庫の書類の開示範囲は限定されている。そして、信用金 庫の会員は、所定の要件を満たし所定の手続を経たときは、会員代表訴訟を提起することができるが︵信用金庫 法三九条、商法二六七条︶、会員代表訴訟は、会員が会員としての地位に基づいて理事の信用金庫に対する責任を 追及することを許容するものにすぎず、会員として閲覧、謄写することができない書類を信用金庫と同一の立場 で利用する地位を付与するものではないから、会員代表訴訟を提起した会員は、信用金庫が所持する文書の利用 関係において信用金庫と同一視することができる立場に立つものではない。そうすると、会員代表訴訟において 会員から信用金庫の所持する貸出稟議書につき文書提出命令の申立てがされたからといって、特段の事情がある ということはできないものと解するのが相当である。したがって、本件各文書は、﹃専ら文書の所持者の利用に供 するための文書﹄に当たるというべきであり、本件各文書につき抗告人に対し民訴法二二〇条四号に基づく提出 義務を認めることはできない。また、本件各文書が、﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると 解される以上、民訴法二二〇条三号後段の文書に該当しないことはいうまでもないところである。﹂とした。       ︵43︶  また、本決定には町田顯裁判官の反対意見がある。 175

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文書提出命令  ⑳大阪地裁平成一二年三月二八日決定︵⑳の原々審︶  ⑳ 大阪高裁平成二二年二月一五日決定︵⑳の原審︶  ⑳ 最高裁平成一三年一二月七日第二小法廷決定︵以下、平成二二年決定︶ ︻事  実︼  本件の本案訴訟では五つの事件が併合されているが、単純化すれば、A信用組合は貸金債権、求償債権を磧株 式会社︵本件申立人、本案訴訟の被告︶及び連帯保証人脇︵本件申立人、本案訴訟の被告︶に対して有していた が、経営が破たんしてX︵相手方、本案訴訟の原告﹁株式会社整理回収機構﹂︶がA信用組合の経営全部を譲り受 けた。本件の本案訴訟において、Xは貸付債権、求償債権等に基づき、磧株式会社及び脇に対し金員の支払い等 を求めたものである。また、その余の事件は、Xが、磧又は脇の所有する不動産について、亀︵本件申立人、本 案訴訟の被告︶、乳︵本件申立人、本案訴訟の被告︶又は込︵本件申立人、本案訴訟の被告︶に対し、前記各債権 を被保全債権とする債権者代位権に基づき所有権移転登記手続等を求めたものである。  これに対する抗弁として名及び協は、A信用組合が有する貸金債権、求償債権等を本件不動産の売却代金によ って弁済しようとしたところ、A信用組合は、本件不動産についてされた根抵当権設定登記等を抹消することを 不当に拒絶して本件不動産の売却を妨害し、また、磧及び亀に対し、貸付残高を雪だるま式に増大させた上、自 己の利益を図る目的で、前記昭及び脇の支払利息相当分の金額を新たに融資し、これを支払利息に充当する、い わゆる﹁利貸し﹂を行ったと主張し、これらの不法行為に基づく損害賠償債権とXの前記各債権とを対等額で相

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殺する旨の抗弁を主張した。  本件は、この抗弁に係る事実を証明するためにヱ及び亀は、Xが所持する稟議書等について文書提出命令を申 立てた事件である。  原々決定︵⑳︶では、まずコ般に、銀行、信用組合等の金融機関において作成される貸出稟議書は、専ら金融 機関内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていない文書であって、開示されると 当該金融機関の内部における自由な意見の表明に支障を来し、右金融機関の自由な意思形成が阻害されるおそれ があるものであるから、右貸出稟議書は、特段の事情がない限り、﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄ に当たるというべきである。﹂としたうえで﹁各文書は、いずれもA信用組合において作成された貸出稟議書であ り、いずれも専らA信用組合の内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていなかっ た文書であるということはできるものの、右文書が開示されたとしても、所持者であるXの内部における自由な 意見の表明に支障を来し、又はXの自由な意思形成が阻害されるおそれはないというべきであるし、A信用組合 は現在においては清算手続中であることが認められることからすると、現時点においては、A信用組合について も同様であるというべきである﹂から専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当しない特段の事情があ るというべきであるとして、文書提出を認めた。原決定︵⑳︶においても﹁本件文書については開示によって、所 持者であるXに看過し難い不利益が生ずるおそれがあるとは認められないから、民訴法二二〇条四号ハ︵平成一 三年改正前 カッコ筆者︶に規定する自己使用文書に当たらないということができる。﹂等原々決定とほぼ同様の 177

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文書提出命令 理由によりXの抗告を棄却した。  Xは、原決定は最高裁決定⑰及び⑳と相反する判断をしたものであり、各決定にいう﹁特段の事情﹂の解釈を 誤り、ひいては﹁専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹂の解釈を誤ったものであるとの理由で許可抗告 を申立てた。 ︻決定要旨︼抗告棄却。  ﹁本件文書は、A信用金庫がYらへの融資を決定する過程で作成した稟議書とその付属書類であるところ、A 信用金庫の貸出稟議書は、専ら信用組合内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されて いない文章であって、開示されると信用組合内部における自由な意思の表明に支障を来し信用組合の自由な意思 形成が阻害されたりするなど看過し難い不利益を生ずるおそれがあるものとして、特段の事情がない限り、民訴 法二二〇条四号ハ︵平成一三年改正前 カッコ筆者︶所定の﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に 当たると解すべきである。  そこで、本件文書について、上記の特別の事情があるかどうかについて検証すると、記録により認められる事 実関係等は、次のとおりである。  ω 本件文書の所持人であるXは、預金保険法一条に定める目的を達成するために同法によって設立された預   金保険機構から委託を受け、同機構に代わって、破たんした金融機関等からその資産を買い取り、その管理   及び処分を行うことを主な業務とする株式会社である。

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 ⑧ Xは、A信用組合の経営が破たんしたため、その営業全部を譲り受けたことに伴い、A信用組合の貸付債   権等に係る本件文書を所持するに至った。  ⑥ 本件文書の作成者であるA信用組合は、営業の全部をXに譲り渡し、清算中であって、将来においても、   貸付業務を自ら行うことはない。  ㈲ Xは、前記のとおり、法律の規定に基づいて、A信用組合の貸し付けた債権等の回収に当たっているもの   であって、本件文書の提出を命じられることにより、Xにおいて、自由な意思の表明に支障を来しその自由   な意思形成が阻害されるおそれがあるものとは考えられない。  上記事実関係の下では、本件文書につき、上記の特段の事情があることを肯定すべきである。このような結論 を採ることによって、現に営業活動をしている金融機関において、作成時には専ら内部の利用に供する目的で作 成された貸出稟議書が、いったん経営が破たんしてXによる回収が行われることになったときには、開示される 可能性があることを危ぐして、その文書による自由な意見の表明を控えたり、自由な意思形成が阻害されたりす るおそれがないか、という点が間題となり得る。しかし、このような危ぐに基づく影響は、上記の結論を左右す るに足りる程のものとは考えられない。﹂として原審の判断を是認した。  新民訴法施行以後、最高裁として初めて金融機関の貸出稟議書が﹁自己利用文書﹂として文書提出命令の対象 に該当するか否かに関する判断を示したものが、平成一一年決定である。本決定において自己利用文書に該当す 179

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文書提出命令 る場合として以下の三要件が示された。  第一の要件として﹁専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていな い文章﹂であることが、第二の要件として﹁開示によって所持人の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがある と認められる場合﹂がそれぞれ挙げられている。加えて第一の要件は﹁その文書の作成目的、記載内容、これを 現在の所持人が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断﹂するとし、第二の要件は﹁開示により個人 のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思決定が阻害されたりする場合など﹂を不利益が生ず る場合の例として挙げている。さらに、第三の要件として﹁特段の事情﹂の不存在が挙げられている。貸出稟議 書は常に自己利用文書として文書提出命令の対象とならないというわけではなく、特段の事情が認められる場合 には例外的に文書提出命令の対象となる。言い換えれば貸出稟議書は、原則として自己利用文書として提出の対 象とはならないが例外的に特段の事情が認められる場合に提出の対象となるとした。本決定は最高裁の見解を示 すリーディングケースであり﹁新民訴法二二〇条四号ハ︵平成一三年改正前 カッコ筆者︶所定の自己使用文書       ︵44︶ の意義及び該当性判断基準を打ち出したものとして規範的意義がある﹂。しかし、ここでは特段の事情に関する 内容等にはなんら触れられておらず、いかなる事情がこの特段の事情に該当するかは明らかでなく今後の判例の 蓄積を待つこととなった。また﹁本件文書が﹃専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹄に当たると解され る以上、民訴法二二〇条三号後段の文書に該当しないことはいうまでもないところである。﹂と示して、法律関係 文書該当性あるいは自己利用文書該当性判断のため、法律関係文書該当性との順番を限定することなく貸出稟議

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東洋法学

書の自己利用文書該当性を否定した。  平成一一年決定と同時期に同様のテーマに関する決定⑱、⑲と引続いて下されたが、決定⑱は、銀行の貸出稟 議書は自己利用文書であり、特段の事情もないとして特に特段の事情について論ずることもなく民訴法二二〇条 四号の提出義務を否定し、さらに自己利用文書であるがゆえに民訴法二二〇条三号後段の法律関係文書にも該当 しないと判示し、決定⑲も⑱と同様に銀行の貸出稟議書の法律関係文書該当性を否定した。またここでは二二〇 条四号ハ︵平成二二年改正前 カッコ筆者︶の﹁専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹂への該当性も認 めているが、特段の事情にはまったく言及がなされず平成一一年決定となんら状況が変わることはなく特段の事 情に関する具体的な糸口は見出されなかった。  さらに平成一二年決定は、平成一一年決定で基本的な枠組みが示されたものの、右に述べたように⑱、⑲両決 定において﹁特段の事情の存在はうかがわれない﹂とするか、特段の事情自体にまったく言及されなかったため、 その内容はいかなるものであるのかが不明であったところ、特段の事情の内容として﹁文書提出命令の申立人が その対象である貸出稟議書の利用関係において所持者である信用金庫と同一視することができる立場に立つもの をいう﹂と判示して最高裁としてその具体的な内容に初めて踏み込んで判断したものであり、具体的には本件の ような会員代表訴訟を申立てた会員からの貸出稟議書に対する文書提出命令を求める場合においても特段の事情          ︵45︶ には該当しないとした。また、民訴法二二〇条三号後段の法律関係文書該当性に関しては平成一一年決定とまっ たく同様に判断し、民訴法二二〇条四号との該当性判断のための順番を限定することなく貸出稟議書の自己利用 181

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文書提出命令 文書該当性を否定した。  しかし平成二二年決定は、最高裁としてはじめて特段の事情を認めて貸出稟議書の自己利用文書該当性を否定  ︵妬︶ した。特段の事情ありと判断された要因として、ア文書所持者に対するもの、イ文書所持への経緯、ウ文書作成        ︵47V 者に対するもの、工文書提出による不利益を挙げ、特段の事情を肯定した。特に平成一二年決定における特段の 事情に関しては、貸出稟議書の具体的な記載内容が間題とされずに判断されたため、最高裁のいう特段の事情は きわめて限定されたものであると解されていたが、これにより平成一二年決定により具体的に示された特段の事 情は一般的、制限的なものではなく具体的、例示的なものであることが明らかになった。平成二二年決定はこの        ︵48︶ ように﹁特段の事情の要件を実質化・具体化し、考慮されるファクターを挙げた点で、大きな意義が﹂あるとい える。なお、原々審の文書提出命令申立書においては﹁本件各文書には、⋮貸付の経緯、売却申し出の際の経緯 等が記載されているのであり、⋮法律関係に関連する重要な事項が記載されているから、民訴法二二〇条三号後 段の法律関係文書に該当する。﹂との主張がなされているが、どの審級における決定理由においてもこの法律関係 文書該当性に関しては言及されていない。 ︵36︶ 民集五三巻八号一七八七頁、裁時二五五号二四頁、判時一六九五号四九頁、判タ一〇一七号一〇二頁、金法一五   六七号二一二頁、金商一〇八一号四一頁、金商一〇七九号八頁等。また、本決定に対する判例研究として小野・前掲注   ︵2︶七七二頁、田原睦夫・民商一二四巻四・五号二三一二頁︵二〇〇一年︶、岩田眞・平成一二年度主判解二四六頁︵二

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東洋法学

ハ  パ  パ

393837

)  )  ) ︵40︶ パ  ハ

4241

)  ) 山本克己・金法一五八八号一三頁︵二〇〇〇年︶、小林秀之・判評四九九号二〇五頁︵二〇〇〇年︶、松井秀樹・金法 OO一年︶、加藤新太郎・NBL六八二号七一頁︵二〇〇〇年︶、高橋俊樹・金法一五七五号二六頁︵二〇〇〇年︶、 一五八一号二二二頁︵二〇〇〇年︶、上野泰男・リマークス一二号二一一〇頁︵二〇〇〇年︶、川嶋四郎・法セ四五巻四 号一一〇頁︵二〇〇〇年︶、大村雅彦・平成二年度重判解一二三頁︵二〇〇〇年︶、大内義三・金商一〇八二号五三 頁︵二〇〇〇年︶、中村直人・商事一五四五号二二頁︵一九九九年︶等。  金商一〇八一号五四頁。  金商一〇八三号九頁。  民集五五巻七号一四二四頁、判時一七二六号二二七頁、判タ一〇五八号二六九頁、金法一六〇八号四九頁、金商一 〇九一号二二頁。また、本決定に対する判例研究として並木茂・判評五〇九号二三一頁︵二〇〇一年︶、川嶋四郎・ 法セ四六巻四号一一一頁︵二〇〇一年︶。  民集五四巻九号二七〇九頁、裁時一二八二号一頁、判時一七三七号二八頁、判タ一〇五三号九五頁、金法一六〇五 号三二頁、金商一一〇九号六頁等。また、本決定に対する判例研究として福井章代・曹時五四巻一一号一五一頁︵二 〇〇二年︶、高地茂世・法教二五〇号一一四頁︵二〇〇一年︶、三木浩一・平成一二年度重判解一一八頁︵二〇〇一年︶、 山本弘・リマークスニ四号一一八頁︵二〇〇二年︶、山本和彦・金法一六一三号一四頁︵二〇〇一年︶、川嶋四郎・法 セ四六巻六号一一二頁︵二〇〇一年︶等。  民集五五巻七号一四四一頁、金商一一四一号三二頁。  民集五五巻七号一四一一頁、裁時二二〇五号二頁、判時一七七一号八六頁、判タ一〇八○号九一頁、金法一六三六 号五一頁、金商一一四一号二六頁。また、本決定に対する判例研究として、上野泰男・リマークスニ六号一三〇頁︵二 〇〇三年︶、大内義三・金商一一五七号六二頁︵二〇〇三年︶、渡辺森児・法研七六巻七号一〇四頁︵二〇〇三年︶、 杉原則彦・曹時五四巻一二号二二二頁︵二〇〇二年︶、加藤新太郎・NBL七三九号七二頁︵二〇〇二年︶、山本和彦・ 平成二二年度重判解二一四頁︵二〇〇二年︶、川嶋四郎・法教二六〇号二二二頁︵二〇〇二年︶、同・法セ四七巻六号 一二頁︵二〇〇二年︶、長谷部由起子・民商一二七巻一号七五頁︵二〇〇二年︶等。 183

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文書提出命令 ︵43︶ パ  パ

4544

)  ) 46 ) ︵47︶ ︵4 8︶  反対意見を要約すれば、信用金庫における会員代表訴訟の性質を協同組織体内部の監視、監督機能の発動であると 解し、貸出稟議書の役割を当該組織体内において、後に当該貸出しの適否が間題となり、その責任が間われる場合に は、それを検証する基本的資料として利用されることが予定されているものと捉えたうえで、信用金庫の貸出稟議書 は、会員代表訴訟において利用されることが当然に予定されているものというべきであり、本件のように理事の貸出 行為の適否が問題とされる信用金庫の会員代表訴訟においては、特段の事情に該当するとする。  加藤新太郎﹁貸出稟議書の自己使用文書該当性﹂銀法五七〇号九頁︵一九九九年︶。  山本・前掲注︵40︶二〇頁は銀行、保険会社の株主代表訴訟にも本決定の射程は及ぶが、それ以外の会社の株主代表 訴訟には当然には及ばないとする。  長谷部・前掲注︵4 2︶七八頁は本決定を﹁平成一一年決定と全く同一の裁判官による判断である点において、平成一 一年決定の射程を確認するうえでも重要な意義を有する。﹂とする。  これに関して、﹁1所持者の立場・性格、2文書所持に至った経緯、3作成者の現状、4所持者において開示によ る不利益﹂と分けるものとして、加藤・前掲注︵42︶七五頁、﹁文書所持者の特殊性、文書作成者の特殊事情、所持者 交代の特殊性等﹂と分けるものとして、杉原・前掲注︵4 2︶二一四頁。  渡辺・前掲注︵4 2︶一〇六頁。 三 自己利用文書の要件 ここではまず、﹁貸出稟議書の自己利用文書該当性の要件﹂について、次に、﹁特段の事情﹂について論ずるこ とにする。

1

貸出稟議書の自己利用文書該当性の要件

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東洋法学

 旧法下の判例に関しては、貸出稟議書が文書提出命令の対象となるかに関しては、提出義務を否定するのがそ の態度であったということは既に述べた。しかし、旧法三一二条は現行二二〇条四号のような文書提出を一般義 務化する規定はまだ存しなかったため旧法三一二条三号後段の、いわゆる法律関係文書との兼合いで否定されて いたにすぎない。現行法の下で貸出稟議書は二二〇条四号二に規定されている、いわゆる自己利用文書に該当す るかに関してもすでに述べたが簡単に要約すれば、平成一一年決定以前は決定③、⑩、⑬が貸出稟議書は﹁組織 内における公式文書﹂であり﹁専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、およそ外部の者に開示することを 予定していない文書﹂ではないとして自己利用文書該当性が認められないとして文書提出の申立てを認めている ︵49︶ が、多数はその該当性を肯定し文書提出を認めなかった。        ︵50︶      ︵5 1︶  旧法下の学説に関しては、十分な展開がなされていなかった。現行法の下ではほとんどの学説は、自己利用文          ︵5 2︶ 書該当性に関する学説であり、新法が制定された当初から議論の対象となり、ほぼ無条件でこれに該当するとす    ︵53︶      ︵5 4︶ る肯定説、反対に無条件でこれに該当しないという否定説を両極として、折衷的見解として、原則として該当す るが﹁証拠偏在型の訴訟等においてこれらの文書を完全に提出義務の対象外とすることによって真実発見を過度 に犠牲にする場合﹂は﹁そのような例外的な解釈については慎重であるべきである﹂としたうえで該当しないと   ︵5 5︶ する説、原則として該当しないが﹁そこに銀行の査定する企業秘密や第三者の企業秘密が記載されていたり、提        ︵5 6︶ 出が銀行の業務に著しい支障を生じたりするような﹂場合を例外とする説、﹁個々の事案に応じ、争点判断のため        ︵5 7︶ の不可欠性や代替証拠の有無等の諸点の比較衡量による微調整を加昧して決せられる﹂とする利益考量説が主張 185

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文書提出命令 されていた。  このような状況のなかで平成二年決定が下され、A専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者 に開示することが予定されていない文書で︵以下、A要件︶、B開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生 ずるおそれがあると認められる場合に︵以下、B要件︶、C特段の事情︵以下、C要件︶がない限り、二二〇条四 号二所定の﹁専ら文書の所持者の利用に供するための文書﹂に該当するとして、自己利用文書該当性の要件を示 した。C要件の特段の事情については後述するとして、このA要件へ該当するか否かを判断する事項として、 a−1作成目的、a−2記載内容、a−3現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、a−4その他の事情を挙げ、B 要件に該当するか否かを判断する事項として、b−1開示されると個人のプライバシーが侵害される場合、b−2 開示されると個人ないし団体の自由な意思形成が阻害される場合を挙げている。特に後者は﹁など﹂と述べられ ているところからb−1、b−2は例示であることが推測でき、従って、今後b−3、b−4等も問題となる可能性 が含まれていると考えられる。さらに決定文からはb−1、b−2は選択的でありそのうちのどれかに該当すれば B要件を満たすことになるのに対して、前者はa−1、a−2、a−3、a−4を加算的、あるいは総合的に判断す ることによりA要件を満たすかどうかが判断される。次に、貸出稟議書の自己利用文書該当性に関しての具体的 な当てはめは、a−1は銀行内部において、融資案件についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文 書、a−2は融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌渾のない評価や意見も記載されるこ とが予定されていること、a−4は法令によってその作成が義務付けられていないとしてA要件︵a−3はこの事

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東洋法学

案では間題とならない︶を肯定し、B要件に関しては、開示されると銀行内部における自由な意見の表明に支障 を来し銀行の自由な意思形成が阻害されるおそれがあるとしてb−2への該当性を認めてこの要件を肯定した。し かしここで注意しなければならないことは、最高裁の認めたa−1、a−2、a−4、b−2はすべて﹁稟議書一般﹂ に共通することであり、本案の実質的な内容、事情等からは離れて判断しているということである。このことは、 平成一二年決定、平成二二年決定でより鮮明になっている。両決定も具体的なa−1、a−2、a−3、a−4、 b−1、b−2の事項を、従って、実質的にA要件、B要件を判断することなく貸出稟議書は、特段の事情がない 限り、自己利用文書に該当すると解すべきであるとして、平成一一年決定同様に事案の稟議書の実質的な内容、 事情等に踏み込むことなく判断しているということである。  この一連の最高裁決定は、A要件、B要件に関しては実質的な稟議書等の内容に入ることなく﹁文書の客観的       ︵58︶ 性質、所持者の類型的不利益に着目﹂して形式的、一般的にその該当性を判断し、その後にC要件を考慮してい るものの、この平成一一年決定が示した自己利用文書該当性の判断基準自体は、学界からは好意的に迎えられて  ︵59︶ いる。A要件は、条文から導き出されうるものであり、改正作業に関与した立法担当官の説明とも一致するもの   ︵60V である。問題はB要件である。この要件は最高裁によりこれまでの議論とは別に新たに加えられたものであり、 A要件だけの場合に比べてより絞りがかけられているということである。これは文書提出義務が一般義務化され       ︵磁︶ 文書提出の範囲を広げようとする法改正の趣旨に沿うことになる。しかし、これは唐突に出されたわけではない。       ︵62︶ 既に下級審においてこのような要件に関して判断したものがある。まず、b−1に関する決定として平成二年決 187

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文書提出命令 定に最も近い決定⑬においては、自己利用文書とは﹁専ら内部の者に利用に供する目的で作成され、およそ外部 の者に開示することを予定していない文書を指す﹂と示して、右一一年決定のA要件と同一のことを述べ、さら に続けて﹁文書に企業秘密その他の秘密や第三者のプライバシーに関わる事項が含まれる場合には、当該文書の 所持者は当該文書の提出義務を負わないと解する余地もある﹂とした。この決定は自己利用文書該当性の要件と してAだけを挙げるが、Aに該当した場合でもb−1のような場合は、特段の事情︵このような表現はなされてい ないが︶として提出義務を負わないとしている︵この決定では貸出稟議書はそもそもA要件を満たしておらず、 またb−1のような状況もないとして文書提出が認められた︶。次に、b−2に関するものとして決定⑭は、⑨︵決 定⑭の原審︶の決定理由をそのまま引用して、自己利用文書を文書提出義務の除外事由と考えたのは﹁自然人であ れ法人であれ、人は、沈黙の自由、あるいはその意思決定の過程の公開を強いられない自由を保障されるべきと ころ、右のような文書までが一般的提出義務の対象となるとすると、右の自由が侵害されるのみならず、ひいて は文書を作成すべき者の意思決定が萎縮させられ、その者の意思の自由自体が危うくされるおそれがあることを 考慮し、そのような事態を回避することを趣旨とする﹂とした。平成一一年決定が示したB要件の該当性判断の 事項は、現実に裁判で間題となった事柄を並列しており、これらの決定をべースにb−1、b−2は導き出された ものと思われる。  さきほど、自己利用文書該当性の判断基準自体は、好意的に迎えられたと述べたが、平成一一年決定が示した 自己利用文書該当性に関する要件は肯定的なものがほとんどである。しかし、平成一一年決定の具体的な事案へ

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東洋法学

の当てはめにおいて﹁稟議書に評価・意見を記載するからといって、それが相手方に開示されると、自由な意見       ︵63V 表明は本当にできなくなるのであろうか﹂として、b−2への当てはめの妥当性や結論に関して疑間を提示するも のもある。もちろん、この見解もB要件該当性を判断するb−2事項自体を否定するものではない。       ︵64︶  ところが、近時b−2を否定する見解もあらわれている。この見解は、b−2自体をB要件の該当性判断のため には必要としないとするものである。すなわち、自己利用文書概念で保護されているのは個人のプライバシーだ けであり、団体の意思形成の自由は保護されていないとするものである︵もっとも団体の意思形成の自由それ自 体の保護を否定するものではない︶。その理由とするところは二つに分かれ、一つは、個人のプライバシーと団体       ︵65︶ の自由な意思形成を単純に同列に論ずる基礎がない、あるいは団体の意思形成の自由の保護は﹁稟議書等の自己       ︵66︶ 使用文書該当性︵原則として︶を肯定する以外の方途によるのが適切である﹂として個人のプライバシーと団体 の自由な意思形成を同列に論ずることを批判するもので、もう一つは個人のプライバシーに加えて保護されてい るのは、個人または団体の経済的利益、さらに場合によっては団体内部の自由な意見交換の保障であり、文書の        ︵67︶ 記載の証拠力が高いかどうか等の事情を利益考量により決めるとするものである。  確かに、b−1とb−2は同列に論じうるものか、という観点からは両者は異なるものかもしれないが、しかし、 これらはB要件の看過し難い不利益が生ずるおそれがあるかどうかという観点から示されたものであり、個人の プライバシーとは別に、法人等の団体も保護の対象とされること自体に異論はなく、団体の自由な意思形成、た とえば意思の形成過程、その内容等の団体の活動の自由についてみだりに文書を公開されないという観点からの 189

参照

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