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営業秘密と営業制限--営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限 利用統計を見る

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(1)

営業秘密と営業制限--営業譲渡における営業制限と

雇傭における営業制限

著者

盛岡 一夫

著者別名

K. Morioka

雑誌名

東洋法学

19

2

ページ

p15-53

発行年

1976-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00006067/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

営業秘密と営業制限

 ー営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限ー

盛 岡

 一 はしがき  二 営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限     1 営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限との差異     2 営業譲渡の意義     3 営業譲渡人の競業避止義務の根拠     4 制限の合理性  三 雇傭における営業制限特約の効力要件     工 営業秘密の存在     2 制限の合理性  四 結  論     一 はしがき 営業制限の特約は、営業の秘密の譲渡において、営業の譲渡人が譲渡後は譲受人とその営業秘密を使用しない旨を   営業秘密と営業制限      一五

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   東洋法学      一六 約する場合や.被傭者が雇傭終了後に使用者の営業秘密を使用して競業しない旨を約する場合などにおいて締結され る。  この場合に.その特約が有効か否かについては両者を区別して老えなければならないが.これを区別することな く.たとえば.営業の得意先の問題に関して.牛乳販売店が店員を雇う際に.約二〇年間この地域で牛乳販売店を開 かないことの特約について.判例は.この特約は公序良俗に反しないから有効であるとし.また学説においても.制 限は.期間.場所または営業の種類のいずれかについて限定されておれば有効だとして.この判例を肯定的に紹介し ている。鵯れは商法第二五条の規定を参考にして判断したものとおもわれる。  しかし.営業譲渡人の競業避止義務は.商法が原則的に認めたものであり.例外的に特約で排除できるものであ る。多数説は.この譲渡人の競業避止義務を営業譲渡の当然の効果として生じると解しているくらいである。これに 対して.雇傭終了後における被傭者の競業避止義務は.原則としては生じないのであり.例外として生じるのであ る。雇傭における営業制限が合理的であるか否かは.使用者の営業秘密の保護と被傭者の生計維持との両面から考慮 しなければならない。  企業には.いろいろな営業秘密があるが.被傭者が.雇傭終了後.競業会社に就職して、この営業の秘密を使用す ることのないように使用者を保護しなければならない。他方.営業秘密保持のために.被傭者に対して.雇傭中に修 得した一般的知識、技能および経験の使用までを禁じて、競業会社への転職を制限することは、被傭者の生計の道を 奪うとともに職業選択の制限をすることになる。

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 この場合に、制限の特約が有効であるためには、保護に値する営業秘密が存すること、これに関連して、被傭者がこ の営業秘密を知ることのできる地位にあったこと、および、被傭者の競業制限の範囲が合理的であることを要する。 制限が合理的であるか否かは、その制限の場所的・期間的範囲、営業の種類、代償の有無等あらゆる事情を老慮しな ければならない。  そこで、まずはじめに、営業譲渡の場合の譲渡人の競業避止義務と被傭者の雇傭終了後における競業避止義務との 差異について述べ、次に雇傭における場合の競業制限の特約が有効であるための要件を検討することにする。

二 営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限

 1 営業譲渡における営業制限と雇傭における営業制限との差異  営業制限の契約︵8添窪鋤gの汐暦霧符蝕馨亀欝幾・︶は、営業秘密︵欝&Φ器貸象の︶の譲渡において、譲渡人が譲渡 後はその営業秘密を使用して譲渡人と競業しない旨を約する場合や、雇傭終了後、被傭者が使用者の営業秘密を使用 して競業しない旨を約する場合等において締結される。  営業制限の特約が、どの程度ならば合理的︵器霧8魯8︶であるといえるか否かは、営業譲渡の場合と、雇傭の場 合とは区別して考えなければならないが、両者を同視している判決もある。たとえば営業の得意先関係に関する事件 において、牛乳販売会社が、配達人に解雇後においても会社の営業区域で牛乳販売業を営まない旨の特約について、 ﹁一定ノ営業ヲ為ササルヘキ義務ヲ負ハシムル契約ト錐其程度ニョリ必スシモ公序良俗二反スルモノニ非ス、而シテ    営業秘密と営業制限       一七

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   東洋法学       一八

本件契約ハ原審ノ認定スル牛乳販売ヲ営業スル被上告会社力大正二年二月一七日上告人ヲ牛乳配達入トシテ雇入 レタル際上告人ヲシテ解雇後二於テモ会社ノ営業区域タル静岡市及其ノ隣接町村二於テ会社ノ存立時期ノ満了スル昭 和壬二年一二月一五日迄牛乳販売ヲ営マサルコトヲ約束セシメタルモノニシテ斯ル期間区域ヲ以テスル競業禁止ノ特 約ハ上告人ノ営業ノ自由ヲ過当二制限スルモノトハ認メ難ク此程度ノ制限ハ之ヲ約定スルモ未タ以テ公序良俗二反セ       ︵i︶ サルモノト解スルヲ相当トス﹂と判示している.  また.学説も判例の態度に肯定的である.我妻博士は.大体において制限が時期.場所または営業の種類のいずれ        ︵2︶ かについて限定されておれば有効だ払臨して肯定的に紹介きれ.川島教授は.営業の自由.労働の自密は個人の墓本的 人権の重要なものであり.露らこれを制限するにもある限界を超えることは許されないとして.右判例を紹介してお   ︵3︶ られる。しかし.営業の制限が合理的であるか否かを決める場合には.営業の譲渡の場合と.雇傭の場合とは区別し なければならない。前者は営業譲渡人の競業を制限しようとするものであり.後者は雇傭契約終了後における被傭者 の競業を制限しようとするものであるからである。右判例や学説は.これを区別することなく.営業譲渡人の競業避       ︵姦︶ 止義務と.雇傭終了後の被傭者の競業避止義務とを同様に解しているから妥当でない。雇傭における営業制限が期間        ︵5︶ と場所を制限する特約を有効と解する立場は.商法第二五条の規定によって判断したものと考えられる。  イギリスにおいても古い判例は.営業譲渡の場合における営業制限の合理性と.雇傭関係の場合における営業制限 の合理性とを区別していなかったのであるが、客鱒8おぼ黛卿は、窯餌敏導−鴬鶏留鉱簿○鎧阿一ωき餌︾露露雛鉱江窪09        ︵6﹀ <●20鑓①鼠簿事件において.両者を区別すべきであると指摘した。すなわち.徒弟の場合と.営業の譲渡または組

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合の解散の場合とは、異なった老慮を要するとする。人は技術を修得して営業を営むために徒弟となるのであり、入 は営業の苦労にたえられなくなったり、営業から隠退したい場合などに営業を譲渡するのである。したがって、営業 の譲渡人と譲受人との問には、使用者と被傭者との間におけるよりも、より広い契約の自由が存在することは明確で あると述べている。       ︵7︶  その後、この区別は、 国Rぽ慧ζ○霧審訟轟&<。ω舞巴ξ事件において、≧録湧9卿がグッドウィル︵碧o令 惹εの買売の場合と、主人と使用人︵導器けR節&。 陰震惹馨︶または使用者と被傭者︵の露覧2象鋤&①琶覧身8︶の 場合とは異なることを述べ、また、同事件において、評詩醇卿は、グッドウィルの売買の場合は、譲渡人は競業を 禁止する契約を締結することにより、譲渡人は有利な条件で売ることができるのであるから、使用者が被傭者に競業 禁止の約束をきせる場合とは全く異なるとし、 ﹁彼の営業のグッドウィルは、われわれが現に生活している条件のも とにおいては、同様な営業に従事しようとするすべての人︵使用人や徒弟を含めて︶の競争をやむをえずうけなけれ ばならない。そのような場合における使用者は、彼のもっているもの︵グッドウィル︶の保護に努力しているのでは なく、他の方法では安全にすることができない特別な利益をうるためである。わたしは、使用人や徒弟の競業禁止の 契約がただそれだけで裁判所によって支持された例をみない。これが支持されたのは、使用人や徒弟がその就業や訓 練︵窪もざ旨お纂〇二鼠類ぎ鵬︶によって彼を営業において可能な競争者として備えるだけの技能と知識とを獲得した という理由によるものではなく、そのような知識が使用者の顧客に影響力をもっているとか、使用者の営業上の秘密 を知っているとかの事情によって、もし競業が許されるならば、使用者の得意先関係を利用したり、機密の惜報を利    営業秘密と営業鰯限       一九

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   東洋法学       二〇

用したりするおそれがある場合である︵㍍8鵠需葺陣露墾Φ器毘o名&︸ε鑓ぎ&惹筥おΦ無窯も Qo讐祉β段、ω嘗鑑0 8鋒器象○欝鶏纂帥蔚Φ鞍晦霧ヨ象幽婁8欝訟留簿難嘗o嘗鉱蓉山︶﹂と述べることにより明確にきれた。  O蝕簿霧⇒は.契約には二つのタイプがあるとして次のように述べている。契約には現実の状態から生じる権利義 務を解決しまたは明らかにするもの︵陣纂講嘆薄R焦舞岡嫁瞬轄誘墜伽瓢鎌蟹巽製轟o簿鼠8窪aる 。響一舞ご塁︶と. 新しい権利義務を創造するものとがある、被傭者または独立の契約者が.ある営業秘密を尊重するという約束および 営業のグッドウ層ルの譲渡人が.従前の顧客を誘引しないという約東は.第一のカテ.灘りーに属する、すなわち.営 業秘密が正規に特別の司法権によって保護される場合や営業のグッドウィルが譲渡された場合には.競業避止義務は 黙示に確立しているものであり.この場合の契約は.救済をうける権利を強化するのみである。これに対して.制限 に合意すること.たとえば. 一定の場所または期間に同一または類似の営業を営まないというのは.第二のカテゴリ       ︵8︶ ーである新しい権利義務を創造するものである.と。  営業秘密を保護するために.契約によってその使用を制限しようとすると.そこには営業の自由の原則︵汐一鷺創⑦       ︵9︶ o隔ゆΦ&o鷺9窪鑑Φ︶と.契約の自由の原則︵噂江9覧⑲無津の&o簿無8漆霞霧瞥︶とが対立する。 営業制限の特約 が有効であるか否かは.その特約が合理的であるか否かによって決まるのであり.また.営業譲渡における営業制限 と雇傭における営業制限とは区別して考えなければならない。そこで.まず営業譲渡における営業制限︵譲渡人の競 業避止義務︶について述べ、次に雇傭における営業制限の有効性について老察してみたいとおもう。

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註 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶  大判昭和七年一〇月二九檬民集二巻一九号一九四七頁。  我妻栄﹁新訂民法総則﹂二八○頁は、法律行為の目的の社会的妥当性のところで述べておられる。  川島武宜﹁民法総則﹂二三七頁以下。  後藤清﹁転職の自由と企業秘密の防衛﹂八三頁以下は、右判決が営業譲渡のさいにおける競業禁止と、使用者・被傭者 間の競業禁止とを同視しているとされ、ひとしく競業禁止契約といっても支配従属関係のない営業譲渡人・譲受人の関係 と支配従属関係にたつ使用者・被傭者の関係との問には大いに事情を異にするものがあるから、前者に関する規定をもっ て後者を律すべきではないといわれる。  後藤﹁前掲﹂八二頁は、時間的・場所的制眼があれば営業の自由を不当に制限するものでないとする立場は、営業譲渡 人の競業避止に関する商法第二五条の規定と符節が合致しているのであるが、実は商法の右の規定が裁判官の判断を支配 したのであって、このことは原審の判決理由から見取ることができると述べられる。  ︵お置︶︸ρ蟹9これよりも以前に、公益︵蜜鼠o℃&昌︶に関して、両者の区別を指摘したのはい鍵警貧Ω○簿 Oo。︿。導誘○塁 娼塑函鱒・ 。齢事件における︸弩器の判事の意見であるとして、小野昌延﹁営業秘密の保護﹂二〇 五頁は、次のように紹介きれる﹁公序は、すべての者が露由に働けること、および、かれが締結したいかなる契約によっ ても、その労働、熟練もしくは才能︵一魯象ぴω鉱瓢段鐙冨馨︶について、かれみずから、またはその状態より、ひきは なされるべきでないことを要求している。他方、公序は、人が熟練または他の手段によってかれが売ろうと欲している何 ものかを獲得したとき、それを市場においてもっとも有利な方法で売る自由を有すべきことを要求している。そして、市 場において、それをもっとも有利に売るためには、かれみづからが、競争することをさまたげられぬことが必要である﹂ とo  ︵お5︶一>●ρ①○ 。o o  O巴一簿曽P囲&○ヌ9︸鼠マOo影冨馨一〇財鋤一る↓獲伽?竃貝一塗鱒の貸一。8︵慧島お⑦q讐署一Φ琶㊤一け︶℃.お一  ↓q議段︾臣ひ念ρ醸,げΦ冨≦○騰↓欝号ωo窪馨9目O①炉塑鼠㎝ 営業秘密と営業制限 二一

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   東洋法学      

二二  2 営業譲渡の意義  営業の譲渡人が競業避止義務を負うのは.営業譲渡を実効あらしめるために商法が認めた義務であるが、営業譲渡 の意義および性質については.学説が分かれている。すなわち.ω 営業譲渡をもって営業財産の譲渡と解し.この       ︵1︶ 場合の営業財産を物または権利だけでなく事実関係をも包含した組織的一体としてとらえる営業財産譲渡説.図 営       ︵2︶ 業を一種の有機体と解し.この有機体の譲渡をもって営業譲渡と解する営業有機体譲渡説.纈 営業譲渡の本質は経        ︵3︶ 営者たる地位の交替ないし譲渡であると解する地位交替説.働      経営者たる地位の引継と営業財産の譲        ︵凄︶ 渡との二つの要素から構成されると解する地位財産譲渡説などがある。  このように営業譲渡の意義については.学説が対立しているのであるが.これは.その前提となる営業をいかに解       ︵5︶ するかにより結論が異なる。従来.営業の意義については.主観的意義と客観的意義とに区剴されているが. 渡において問題となるのは、客観的意義における営業である。  客観的意義における営業とは.商人が一定の営業目的により組織化きれた機能的財産を意昧するから.営業の譲渡 は.このような組織的機能的財産の譲渡であると解する。この組織的機能的財産は、積極財産と消極財産とにより構        ︵6﹀ 成され.積極財産とは.動産.不動産.債権.無体財産権︵特許権・実用新案権・ノウ・ハウ・商標権など︶などの        ︵7︶ ほか.のれん︵得意先関係・仕入先関係・営業上の秘訣・経営の組織など︶を含み.消極財産とは.営業に関して生       ︵8︶ じた債務を含む。  前述のように.営業譲渡の本質は.経営者たる地位の交替ないし譲渡であると解する説や.営業譲渡は.経営者た

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る地位の引継と営業財産の譲渡との二つの要素から構成されると解する説などがあるが、営業の譲渡は、法律的にみ れば、一定の営業目的により組織化された機能的財産の譲渡であるから、その結果として、譲受人と同様の状態にお       ︵9︶ いて営業を営むことができるのであり、経営者たる地位につくことができるのである。これを社会的経済的にみれ        ︵憩︶ ば、経営者たる地位の交替として現像することとなる。 註︵1︶ 松本蒸治﹁商法総論﹂一六九頁は、客観的意義における営業は一団の財産を成し取引上一個の契約の目的として譲渡さ    れることがあり、これを営業の譲渡と解される。竹田省﹁商法総則﹂九二頁以下は、営業の譲渡は営業の譲渡を目的とす    る契約であり、組織財産としての譲渡であることを要すると解される。大隅健一郎﹁商法総則﹂三二一頁は、営業譲渡と    は、一定の営業目的により組織化された有機的一体としての機能的財産の移転を目的とする債権契約をいうと解される。    鈴木竹雄﹁営業譲渡と総会の決議﹂商法演習−会社ω二二五頁は、﹁営業譲渡とは営業を営業として譲渡することである。    営業は、一定の営業活動の目的により組織化された機能的財産であって、各個の財産物権がこのように統合組織化されて    いるため社会的活力を有し、従ってこれを構成する各個の財産物件の価値の単なる総計を超える価値を有するところにそ    の特質がみとめられる。そして、このような営業を営業として譲渡することは、かかる機能的財産を一体として移転する    ことを意味し、そのため営業譲渡は社会的経済的には単なる財産の移転たる以上に営業者たる地位の交替として現象する    こととなる﹂と解される。服部栄三﹁商法総則﹂四〇三頁は、営業譲渡は企業財産の一括移転を目的とする債権契約であ    るとされ、移転の対象たる企業財産は、物および権利のみならず、事実関係をも含んだ組織的財産であるが、かかる財産    を移転することによって、その事実上の結果として、譲受人はこれを利用して企業活動を営むことができ、かくしてまた    当該企業につき譲渡人と同様の企業者ないし経営者たる地位につくことができると解される。  ︵2︶ 野津務﹁商法総則︵第二部営業論︶﹂二八頁以下・三四八頁以下は、営業は外部的な物または関係が共同の経済的目    的の下に統一的に紐織された有機体であり、営業の譲渡はその異体化された営業組織の譲渡にほかならないと解される。   営業秘密と営業制限      三二

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 東洋法学      

二四   石井照久・鴻常夫﹁商法総則︵商法王︶﹂一〇〇頁は、営業の譲渡とは、社会的活力がある有機的一体としての営業︵単   なる営業財産ではなく、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産︶を債権契約によって移転す   ることであると解される。 ︵3﹀ この見解は次のように分れる。輯営業活動交替契約説⋮高窪喜八郎﹁改訂商法総論﹂二四九頁は、営業譲渡とは.営   業活動の交替すなわち譲渡人がその譲渡した営業の営業者たる地位を退き.譲受人に代わらせることを主要目的とし.こ   れに伴って営業瀬動の手段たる営業財産を移転する義務を負う契約であると解される。回企業主体地位譲渡説ー升本璽   夫﹁企業譲渡に就て﹂法学新報環六巻二号三〇頁は・営業譲渡とは・企業の存続を前提とする企業者地位の譲渡であると   される。すなわち.譲渡入が契約によむ.その企業主体たる地位誉退き.これに代わって.譲受人を瀞曳の地位に就かし   め.臨って譲受人をしてぞの名において当該企業の企業活動をなし.藪たその企業収益を取得せしめる轍とであると解さ   れる.麟企業者地位承継説ー−西原寛一     三九五頁以下は.企業者地位を次の四つに分析される。その第一は   企業化財産特に閲定資産の所有者たる人格者.第二は企業活動の権利義務の帰属者たる入格者.すなわち.企業動態の法   約統一点.第三は企業収益の第一次的帰属者たる人格者.第鰯は直接たると機関を通ずるとを問わず.企業経営の衝に当   たる首脳者たる人格者であるとされる。そしてこの四つの意義の企業者地位が共に承継される法律関係が営業譲渡である   と解される。 ︵4︶ 照中耕太郎﹁商法総則概論﹂三二六頁は、営業譲渡は、譲渡人が営業の譲受人をして自君に代わって営業の経営者たる   地位に就かしめる約東をもって.営業財産が一括して譲受人に譲渡されることをいうとされ.営業譲渡の重点は.営業財   産の譲渡にあるのみならず.営業の経営者たる地位の引継にも存すると解される。小町谷操三﹁商法講義︵総則︶﹂六五   頁は.営業譲渡とは.営業財産および商人の地位を譲渡することをいうと解される。大森忠夫﹁新版商法総則講義﹂二四   七頁は、鴬業の譲渡は、組織的一体としての営業財産の移転を通じて、営業者としての地位を移転させることであると解   される。田申誠二﹁商法総則詳論﹂二〇七頁は、営業譲渡は、経営者である地位の引継ぎのあることと、営業財産を一括   して譲渡することを約する債権契約であるとされ.営業譲渡に伴う競業避止義務および得意先の事実関係の引継ぎをよく

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  説明するためには、経営者たる地位の引継ぎを伴うと解するのが適当であるとされる。 ︵5︶ 主観的意義における営業は、商人の営業上の活動の全体を意昧し、客観的意義における営業は、商人が一定の営業の目   的のために結合した組織的財産の全体を意味するとしている︵松本﹁前掲﹂一六一頁以下、竹田﹁前掲﹂八二頁、石井・   鴻﹁前掲﹂七七頁︶。 ︵6︶ ノウ・ハウの意義については拙稿﹁ノウ・ハウの現物出資﹂東洋法学一八巻二号六七頁以下、なお﹁ノウ・ハウの法的   性質﹂東洋法学一六巻一号七七頁以下、同一八巻一号七一鵯頁以下を参照されたい。 ︵7︶ 田申︵誠︶ ﹁前掲﹂二〇〇頁および田中誠二・喜多了祐﹁コンメンタール商法総則﹂二六三頁は、ノウ・ハウは工業技   術上の秘訣であり、財産的価値はあるが権利でないものをいうから、営業上の秘訣の一種であるといわれる。 ︵8︶ 石井・鴻﹁前掲﹂一〇〇頁は、積極財産として物︵物品・機械・土地・建物・工場などの動産および不動産など︶と、   権利︵物権・債権・有価証券・商標権・特許権など︶のほか、財産的価値ある事実関係︵営業上の秘訣・得意先・創業の   年代・名声などののれん︶をも含み、営業は社会的活力をもつ有機的統一体として、単なる物の集合以上の価値をもつこ   とになり、消極財産としては営業の債務があるといわれる。 ︵9︶大隅健一郎﹁営業の譲渡及び出資﹂会社法の諸問題再増補版七四頁以下は、営業の譲渡は社会的経済的にみれば営業者   たる地位の交替であり、譲渡人がその経営者たる地位を退き、自aに代わり譲受人をしてその地位に就かせ、もって譲渡   人と同じ状態においてその営業を経営し、営業上の収益を収めしめる行為にほかならないが、法律的には一定の営業活動   の目的により組織化された一体としての機能的財産の譲渡として把握されるべきものと解される。 ︵10︶ ω営業有機体譲渡説に対して、西原﹁前掲﹂三九二頁は、企業を有機体とみる以上は、その人的要素・活動的契機をも   眼中におかなければならないが、これを除外して単に非人的なる権利客体として論ずることは、たとえ法律概念の独自性   のためにもせよ、実は企業の有機体性を破壊に導くおそれがあると批判され、また、田中︵誠︶﹁前掲﹂二〇六頁は、社   会的活力がある有機的一体の移転ということは営業経営者の地位の交替を意昧すると批判される。   回地位交替に対し、田中︵誠︶ ﹁前掲﹂二〇六頁は、企業経営者の地位というものは株主の地位などのように法律上明白  営業秘密と営業制限       二五

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東洋法学      

二六 に定められておらず、その法的性質が関確を欠き、したがって企業経営者の地位の譲渡ということの法的性質ならびにこ れにより営業財産の譲渡の効力を生ずることについては疑問が多いといわれ、また、大隅﹁商法総則﹂三ご二頁は、この 説は法律論と経済論とを混同するものであり、企業経営における人的要素を抹殺され.営業がその主体からはなれた客観 的存在としての性格をあらわにし、それ自体一個の経済的価値物として法律取引の対象とされている現実に即しない見解 といわなければならないと批判される。 囚地位財産譲渡説に対し.喜多川篤典﹁営業譲渡の性質﹂ジュリスト三〇〇号一八六頁は.営業譲渡という一欄の債権契 約の効果として機能的全財産の譲渡がなされ.それに伴い営業財産の譲渡と事実関係の引継ぎがなされるのを、 の譲渡と経営者地位の承継契約という二つの要素に分析してみる必要もなく.事実関係の引継ぎを全体としてみれば、そ れが経営者地位の承継ということになるというだけのことであると批判され.また、服部﹁前掲﹂四〇三頁以下は.この 説は企業者ないし経営者たる地位の承継移転を璽視しているが.これは企業財産の移転の繕果にすぎないのみならず.聡 の地位は結局のところ企業財産の主体たる地位に還元されるようにおもわれると批判される。  3 営業譲渡人の競業避止義務の根拠        ︵i︶  営業の譲渡とは.一定の営業目的のために組織化された機能的財産を移転するものであるから.営業譲渡の効果と して.譲渡人は譲受人に対して.契約の定めるところにしたがって営業に属する各種の財産を移転する義務を負う が.これを履行するには財産の種類にしたがって各別の移転行為を要する。たとえば、譲渡人は譲受人にノウ・ハウ を移転する場合には.技術を伝授しなければならないし.のれんの場合には.仕入先や得意先を紹介したり、推薦し        ︵2︶ なければならない。  このように営業譲渡は.譲受人をして譲渡人の営業をそのまま継続させ.従来の得意先や仕入先関係その他の事実

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関係を利用せしめることに主たる意義をもつものであるから、譲渡人は同種の営業を再開して譲受人と競業すること        ︵3︶ は特約がないかぎりできない。譲渡人の競業避止義務の根拠については、 ω 営業譲渡の当然の効果とする説と、 鋤 法定義務とする説とに分れる。  ω 営業譲渡の当然の効果とする説  地位財産譲渡説をとる立場は、営業譲渡が経営者の地位の引継ぎを伴う結果、その当然の効果として競業避止義務 を生ずるとする。すなわち、営業譲渡契約は一定の作為または不作為を内容とする債権債務の関係となるとし、譲渡        ︵4︶ 入は、その履行行為として譲受人に営業を継続するに必要な地位に就かせなければならないとする。たとえば、譲渡 人は譲受人に得意先へ紹介する作為義務とともに不利な行為をしない不作為義務を負うから、競業避止義務はその一 つのあらわれであるとする。すなわち、競業避止義務は、営業譲渡契約の当然の効果であり、商法第二五条はその範          ︵5︶ 囲にのみ関するとする。地位交替説をとる立場は、企業収益の帰属者としての地位の引継ぎに伴う当然の結果である    ︵6︶ とする。  営業有機体譲渡説をとる立場は、営業の譲渡は社会的活力を有する有機体を、そのような価値のあるものとして移       ︵7︶ 転するのであるから、譲渡人に競業避止義務が生じるのは当然であるとする。また、営業財産譲渡説をとる立場は、 譲渡人の競業避止義務は法律の規定または当事者間の約定によって空に負担する独立の義務ではなく、狭義のΩ舅㌣       ︵8︶ 。窪移転によって生ずる当然の効果にほかならないとする。  判例は、 ﹁商法二四五条一項一号によって特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法二四条以下にい     営業秘密と営業制限      二七

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   東洋法学       二八

う営業の譲渡と同一意義であって、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること.詳言すれば.一定の営業 目的のため組織化され.有機的一体として機能する財産︵得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。︶の全 部または重要な一部を譲渡し.これによって.譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要 な一部を譲受人に受け継がせ.譲渡会社がその譲渡の限定に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止義務を負        ︵9︶ う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。﹂とする、  鱒法定義務とする説  営業財産譲渡説をとる立場は.営業の譲渡は組織財産の移転にすぎないのであるから.その財産の移転がな零れた 以上.別に譲渡人は同種の営業をなしえないとする当然の理論はないが.営業の譲渡後にも譲渡人が同種の営業を営 むときは.営業の同一につき誤認混同を生じ営業譲渡の効果を空しくする危険があるから.法律によって競業避止義          ︵麺︶ 務を定めているとし.あるいは.競業避止義務は営業譲渡をして実効あらしめるために.法律によって政策的に定め られた義務であるが.第二五条第二項を超えない範囲内では意思表示にもとづく義務と認められる。このように競業 避止義務は営業譲渡に伴う本質的義務をなすものではないから.かかる義務を伴っているか否かによって営業譲渡か        ︵難︶ 否かを区別するのは妥当でないとし.あるいは、競業避止義務は.営業譲渡契約上の当然の効果として導き出される ものではなく.その実質的根拠は契約にあり.契約によってのれんが移転きれる事実にもとづくものであるけれど も、譲渡人に一種の協力義務を法定したものと解するほかないとし、ただこの義務を信義誠実原則を基調とする法定       ︵翅︶ 義務とだけ解し、その実質的根拠となっているのれん移転の事実を看過するのは適当でないとしている。

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 また、競業避止義務に関する規定は、譲受人を保護し正に破壊されようとする企業価値の維持のための譲渡︵資本 集中︶を容易にし、譲渡人の信義︵商人道徳︶を要求する上などから法定義務を課すことが適当であるとみた法政策          ︵紹︶ 的補充的特別規定とし、さらに、元来競業避止義務は特約によって排除しうるものであり、この場合にも営業譲渡で        ︵猛︶ あることに変わりはないから、営業譲渡の不可欠の要件とすることは妥当でないとする。  ㈹ 多数説は、営業譲渡の当然の効果として、譲渡人の競業避止義務が生じると解しているが、特約で競業避止義務 を排除することも有効であるから、競業避止義務を負わない場合でも営業譲渡であるといえる。営業譲渡は、譲渡人の       ︵絡︶ 営業をそのまま譲受人に継続させ、従来の営業秘密や得意先関係を利用きせることに主たる意義をもつものであり、 譲渡人が同一の営業を再び開始すれば、譲受人は営業をおびやかされるおそれがあるから、譲渡人はその営業を妨害 しない義務を負うのである。しかし、競業避止義務は営業譲渡に伴う本質的義務ではなく、営業譲渡を実効あらしめ るために、商法は譲渡人に競業避止義務を負わせているのである。 註︵1︶竹内昭夫﹁商法二四五条一項一号の﹃営業の全部又は重要なる一部の譲渡﹄の意義−重要な営業用財産の譲渡には総    会の特別決議が必要か﹂法学協会雑誌八三巻四号六二八頁以下・同﹁営業譲渡の意義﹂商法︵総則・商行為︶判例百選﹂    五九頁および蓮井良憲﹁営業譲渡﹂判例展望ジュリスト五〇〇号二七〇頁は、総則の営業譲渡の意昧と第二四五条の営業    譲渡の意味との関係について述べられている。  ︵2︶ 松本﹁前掲﹂一八四頁、竹田﹁前掲﹂九五頁、大隅﹁商法総則﹂三二三頁、石井・鴻﹁前掲﹂一〇二頁、服部﹁前掲﹂    四一四頁は、 ﹁のれんまたは事実関係に関しては、譲受人をしてその利用または享受を可能ならしめる手続をとることを    要する。たとえば、譲渡人は譲受人を得意先や仕入元に紹介・推薦したり、営業上の秘訣を譲受人に伝授したりする必要    営業秘密と営業制限      二九

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東 洋 法学 ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ 三〇 がある。営業譲渡が単純なる営業財産の譲渡と異なるゆえんは、主としてこの事実関係の移転にあるから、事実関係の移 転が現実に行なわれるかどうかは、きわめて重要な意義を有する﹂と述べられる。  譲渡人に競業避止義務を認める必要性について、長谷頬雄一﹁営業譲渡﹂演習商法︵総則・商行為︶一三六頁は・ ﹁製 法上の秘訣ないしノウ・ハウによる暖簾が営業譲渡に包含きれて移転された場合に、譲渡人が近くで再び同種の営業を開 始したのでは.譲受入に移転された暖簾が再び譲渡人によって侵奪されることになる。けだし.譲渡人が自己の熟知する 秘訣やノウ・パウによって営業を営むことを阻止することができず.これによって従来の顧客を吸引する結果になるから である瞭鑑の場合.譲渡人の瞬種の営業を営むぐと欝体をも喋て.蔵ちに営業譲渡契約の債務不履行とはいえない、 入が譲受人の承諾なくしてみだ参にその秘訣ないしノウ・ハウを他人に公開伝授するのは.債務不履行とみることができ る、けだし.秘訣ないしノウ・ハウによる暖簾の移転はその秘密性を本質として成む立つからである、したがって. 人に移転された暖簾が再び譲渡人によって侵奪されないためには.譲渡人に競業避止義務をみとめる必要がある﹂と述べ られる。  田申︵耕︶ ﹁前掲﹂三二七頁は.競業避止義務の根拠については.営業護渡に関し.営業者の地位の引継ぎに関する譲 渡人の義務が存在することを認めることによって、初めて理解できるといわれる。  田中︵誠︶ ﹁前掲﹂二一四頁は.営業譲渡が企業者の地位の引継ぎと解するかぎり.営業譲渡契約の申には.当然に競 業避止義務が含まれるので、商法はただその範囲を注意的に明定したと解するのが合理的であり、かつこれが当事者の合 理的意思に合すると述べるれる。すなわち.第二五条の﹁当事者ガ別段ノ意思ヲ表示セザリシトキハ﹂というのは競業避 止義務の存否自体に関するものではなく.その範囲のみに関すると解される。  西原﹁前掲﹂四〇三頁。  石井・鴻﹁前掲﹂一〇二頁以下。  鈴木﹁営業譲渡と総会の決議﹂前掲一三八頁、同﹁流通の対象たる企業と侵害の対象たる企業﹂法学協会雑誌第五九巻 九号一四二四頁。なお﹁流通の対象たる企業と侵害の対象たる企業﹂前掲一四二五頁註︵四︶は. フ七の実質的根拠を探

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︵9︶ ︵⑳︶ ︵n︶ ︵12︶ ︵欝︶ ︵廻︶ ︵巧︶ 求する点においては田申博士と同様であるが、これを企業者の主観的活動と結びつけず、客観的な勢力圏ともいうべき Ω鄭蓉雲の移転の効果として説明すべきではないかと考える。尤もかく当然の事理と認めると、商法が一定の義務を法定 し又当事者がこれを拡大縮小し得ることが不合理の如く見えぬではないが、Ω一霧8”の支配権は具体的の企業によって広 狭常なく、しかもそれが明瞭でないから、通常の場合を法律が定め、特別の場合を当事者の約定に委ねたに過ぎないも の﹂と解される。また、喜多川﹁前掲﹂一八七頁は、営業財産譲渡説の立場をとれば、譲渡人の競業避止義務は、事実関 係ないし9翠8診の移転に伴う効果と解すべきこととなるであろうといわれる。  最判・昭和四〇年九月二二日民集第一九巻第六号一六〇〇頁。  竹田﹁前掲﹂九六頁以下。大隅﹁商法総則﹂三二四頁以下は、営業譲渡契約から譲受人が従前の状態において営業を継 続するのを妨害してはならない譲渡人の義務が生ずるものであるが、このことから直ちに譲渡入が一切同種の営業をなし えないということにはならない。そこで、商法は営業譲渡の実効を一層完全ならしめるために、譲渡人をして一定範囲の 競業避止義務を負わせているといわれる。  服部﹁前掲﹂四一五頁以下。  長谷川﹁営業譲渡﹂前掲一三六頁。  品川登﹁営業譲渡と競業避止義務︵二︶﹂民商法雑誌四三巻三号六四頁。  竹内﹁営業譲渡の意義﹂前掲五九頁。  大隅﹁商法総則﹂三二四頁。  4 制限の合理性  営業の制限が合理的であるといえるか否かを決めるには、営業譲渡の場合と、 場合には、譲渡人と譲受人とは支配従属関係になく両者は対等の立場にあるが、     営業秘密と営業制限 雇傭の場合とは異なる。営業譲渡の 雇傭の場合には、使用者と被傭者と         三一

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   東洋法学      

三二 は支配従属関係にあり対等の立場にないからである。また、営業を譲渡した後、譲渡人が譲受人と同一の営業を再開 しないことを契約することによって高い格価で譲渡することができることなどもあるから.営業譲渡の場合における 営業制限の特約は.雇傭における場合よりも容易に合理的であるとすべきである。  商法は.営業の譲渡人が譲受人と同一の営業をしないように次のような競業避止義務を負わせている。競業避止に 関し当事者聞に別段の定めのない場合は.譲渡人は同市町村および隣接市町村内において二〇年聞同一の営業をする ことができない︵縣、藪榮︶.譲渡入が同一営業をしない旨の特約をした場合には.同一府県および隣接県内において三 〇年を超えない範囲においてのみ効力を有する︵鵜⋮灘条︶、特約がこの範囲を超えで、いる場合には.その全部が無効レ島       ︵蓋︶ なるのではなく.法定の範囲を超えた限度で無効となる。これは無制限に譲渡人の営業の自由を制限する.鬼とは.公        ︵2︶ 益上許すべきではないからである。また.特約によって競業避止義務を排除することも有効と解する。  商法第二五条は.営業の制眼を長期にわたって制限しているのであるから.この規定を雇傭の場合に準用すべきで    ︵3︶ はない。営業譲渡における競業避止義務と雇傭における場合とを同視して、牛乳配達人に長期間にわたる競業避止義 務を負わせた前掲判例は不当である。 註︵ユ︶ ︵2︶ ︵3︶ 松本﹁前掲﹂一八七頁、竹田﹁前掲﹂九八頁、田中︵耕︶﹁前掲﹂三二八頁.大隅﹁商法総則﹂三二六頁.服部﹁前掲﹂ 四一五頁、藤井昭治﹁営業の譲渡﹂契約法大系豆二六八頁。  服部﹁前掲﹂四一六頁、竹内﹁営業譲渡の意義﹂前掲五九頁。  原茂太一﹁理髪業の譲渡と競業避止義務﹂商法︵総則・商行為︶判例百選六〇頁は、法が二〇年もの長期間にわたって

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営業の自由を拘東制限することは、むしろ現代の経済社会において異例と考えられ、 易に拡大適用や類推適用をなすべきではないと述べられる。 この制限を定めた商法第二五条を安

三 雇傭における営業制限特約の効力要件

 前述のように、営業譲渡における場合の譲渡人の競業避止義務は、商法が原則的に認めた義務であり、例外的に特 約で排除できるものである。多数説は、この譲渡人の競業避止義務を営業譲渡の当然の効果として生じると解してい るくらいである。これに対して、雇傭関係終了後における被傭者の競業避止義務は、原則としては生じないのであ        ︵1︶ り、例外として生じるのである。  したがって、雇傭における営業制限は、営業譲渡における営業制限よりも、労働の自由がより優位におかれるので ある。雇傭における営業制限の特約が効力を生ずるか否かは、使用者側の保護と被傭者側の保護との両面から老慮し なければならない。  この利害関係の対立について、被傭者が雇傭中に得た惰報の使用および開示︵蕊①餌&鎌豊8畦Φo口駄貧欝毘霞︶ を制限することは、被傭者の雇傭の機会を制限し、特定の使用者に束縛され、使用者に対して交渉力︵訂茜鉱巳お 冒壌R︶を弱くする。このような制限は、被傭者が自分の技能を最も有効的に使用することのできる仕事への転職を 妨害し、また産業全体におけるアイディアおよび技能の伝播を防害する。  他方、使用者の率先と投資︵巨膏響①餌&ぼく。の薮①旨︶の結果開発きれ、かつ被傭者を信頼しておしえた情報の    営業秘密と営業制限       三三

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   東洋法学      

三四 開示について被傭者に課した制限は.実業界における適正な道徳の水準を維持するために必要である。使用者の同意 なしには被傭者が営業秘密を開示することができないようにしなければ.使用者と被傭者の関係の道徳は頽廃する。 使用者は被傭者とのコミュニケーシ.ンを制限しなければならなくなる結果.能率が低下することになるといわれて   ︵2︶ いる。  企業は.競争関係にある他の企業よりも優位な地位を占めるためには.多額の費用.時間および労力をかけて優秀 な技術を開発することが必要である。この開発きれた技術は秘密のまま使用きれることもある.企業には.いろいろ の秘密があるが.被傭者が競業会社に転職して.前の会社の営業秘密を使用した場禽に.それを開示された企業にと っては非常に大きな影響があるから.このようなことがないように保護しなければならない.営業の秘密は.公開さ れないで秘密のまま保持きれることを生命とし.公知公用となったときにはその経済的価値は無になるものである。 また.営業秘密保持のために.被傭者に対して雇傭申に修得した一般的知識の使用を禁じ.競業会社への転職を制限 することは.被傭者の生計の道を奪うとともに職業選択の制限をすることになる。  この場合に営業制限の特約が有効であるためには.保護に値する営業秘密︵利益︶が存在し.これに関連して.被 傭者がこの営業秘密を知ることのできる地位にいたこと.および.被傭者の競業制限の範囲が合理的であることを要 する。制限が合理的であるか否かは、その制限の場所的・期闇的範囲.営業の種類.代償の有無等あらゆる事情を考          ︵3︶ 慮しなければならない。そこでこれらについて順次検討してみよう。

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註︵!︶ ((

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)) 清水金三郎﹁英米法に於ける雇傭契約と営業制限の法理﹂法学論叢三二巻三号六二六頁以下は、契約の合理性を決する  竃営冨ωo鼠竃ぽぎ磯窪傷窯巷焦8け麩ぎ臓○ρ︿.≦貯馨窪即①器麩900愚’ω㎝○男鱒α一謹︵お①㎝︶ ることにしなければならない﹂と述べられる。 雇傭関係終了後の競業避止義務については、雇傭契約に伴って特約された場合にのみ、しかも合理的な範囲でこれを認め 然し、この義務をあまりに広く認めると、労務者であった者の経済的・社会的活動を不当に妨げることになる。従って、 上の秘密を不当に利用してはならないという義務は、雇傭関係の終了後にも、信義則上の義務として存続するといえる。  我妻﹁債権各論中巻二﹂五九五頁は、 ﹁一般的にいえば、労務者が雇傭関係の継続申に知りえた使用者の業務上や技術 諸要素として、ω使用者の業務上の性質、回被傭者の占める地位、囚制限される場所と期間、目特殊の諸事漕、その他の 点を注意しなければならないとされる。  1 保護に値する営業秘密の存在  保護に値する利益には、営業秘密︵窪鑑①器。匡︶と得意先関係︵訂巴器器8臣①&窪︶とがある。使用者は、被 傭者によって、営業秘密を洩らすことを制限する権利と、古い顧客を奪われないように制限する権利を有するが、こ れ以外には保護を受ける権利はない。  ω 一般的知識と特殊的知識の区別  ○巴ぎ9 。嘗は、一般的知識︵αq臼①猛=窪o註&αqΦ︶と特殊的知識︵巷a巴ざo註&鴨︶とに区別し、被傭者が雇傭 申に修得した一般的知識、経験、記憶、技能︵αQΦま鎚=鴇o註①凝ρ①巷鉱臼8︸謹①露○昌§儀舞白︶は雇傭終了後、       ︵1︶ 自由に使用することができるが、特殊的知識である営業の秘密︵嘗銭Φ器R①醗︶は使用することができないという。     営業秘密と営業制限       三五

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   東洋法学      

三六 また穆霞器触は.個人の技能.知識.経験︵需誘○惹一路箕ζ・記①凝Φ鋤&Φ巷豊窪8︶の使用は制限することが       ︵2︶ できないという。  国R訂慧鷺霞旨訟雛紬a<6簿蓉一ξ事件において.欝○譲卿は.営業の秘密.顧客の名称すなわち哲学的言語に よって表現すれば︵騨辱 ・鐘注嘗陣圃80讐圃鶏二慧α鳴鑓αqΦ︶客観的知識といわれるすべてのもの  これは被傭者にょっ て持ち去られてはならないものであり.主人のものである。これが主人の意に反しザ丸移転されることを制限する場合 に.これを妨げる公益の法則はない。これに対して.ある人の才能.技能、器用き.肉体的・精神的能力︵磐簿識鉾 許鐸繕鱗嚢綜ざ灘蕪難黙離欝憲鵠欝圃塾鎌蔓﹀⋮哲学的書語によひて表現すれば.客観的でなく主観的撫いわれる嬬 れらのすべてのもの  これらは使用入︵被傭者︶からはなきれるべきではない。これらは主入の財産ではない。これ        ︵3︶ らは使用人自身の財産であり.彼自身である。といっている。また勘篠器露卿は.被傭者自身の勤勉.観察および 知能によって獲得した機械的技術的技能および知識︵馨の魯欝欝巴麟&富魯鉱鎚ご籔一毯伽ζ○叢aαQΦ︶をイギリス のすべての地方で長期間行使できないようにし、かくて彼をして新生活をはじめしめ.いわば彼から彼自身と彼の家 族との生活を維持する手段をうばうという理由で.雇傭終了後イギリスにおいて七年間同種営業に従事しないとした        ︵魂︶ 契約を不法とした。  また、被傭者は.雇傭申に修得した経験、知識.記憶および技能を.雇傭関係終了後は持ち去ることができる。あ る人の適性︵巷馨&Φ︶.技能、機智.肉体的精神能力および雇傭中に修得したその他の主観的知識は、使用者の財 産ではなく・使用者との間で締結した制限的約東︵嘆霧鼠&話8器鑓濤︶によって制限されないかぎり.これを使用

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      ︵5︶ し拡大する権利︵巳αQ霞8霧⑦鋤&Φ巻窪︵一︶は、相変わらず被傭者の財産であるといわれている。  一般的知識と特殊的知識に関するわが国の判例をみると、 ﹁競業禁止の特約は経済的弱者である被用者から生計の 道を奪い、その生存をおびやかす虞れがあると同時に被用者の職業選択の自由を制限し、又競争の制限による不当な 独占の発生する虞れ等を伴うからその特約締結につき合理的な事情の存在することの立証がないときは一応営業の自 由に対する干渉とみなされ、特にその特約が単に競争者の排除、抑制を目的とする場合には、公序良俗に反し無効で あることは明らかである。従って被用者は、雇用中、様々の経験にょり、多くの知識・技能を修得することがある が、これらが当時の同一業種の営業において普遍的なものである場合、即ち、被用者が他の使用者のもとにあっても 同様に修得できるであろう一般的知識・技能を獲得したに止まる場合には、それらは被用者の一種の主観的財産を構 成するのであってそのような知識・技能は被用者は雇用終了後大いにこれを活用して差しつかえなく、これを禁ずる ことは単純な競争の制限に外ならず被用者の職業選択の自由を不当に制限するものであって公序良俗に反するという べきである。しかしながら、当該使用者のみが有する特殊な知識は使用者にとり一種の客観的財産であり、他人に譲 渡しうる価値を有する点において右に述べた一般的知識・技能と全く性質を異にするものであり、これらはいわゆる 営業上の秘密として営業の自由とならんで共に保護さるべき法益というべく、そのため一定の範囲において被用者の 競業を禁ずる特約を結ぶことは十分合理性があると言うべきである。このような営業上の秘密としては、顧客等の人 的関係、製品製造上の材料、製法等に関する技術的秘密が考えられ、企業の性質により重点の置かれ方が異なるが、 現代社会のように高度に工業化した社会においては、技術的秘密の財産的価値は極めて大きいものがあり従って保護    営業秘密と営業制限      三七

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   東洋法学       三八

の必要性も大きいと老えられる。即ち技術的進歩.改革は一つには特許権・実用新案権等の無体財産権として保護さ れるが、これらの権利の周辺には特許権等の権利の内容にまではとり入れられない様々の技術的秘密  ノウ・ハウ などーが存在し.現実には両者相俊って活用されているというのが実情である。従ってこのような技術的秘密の開 発・改良にも企業は大きな努力をもっているものであって.右のような技術的秘密は当該企業の重要な財産を構成す        ︵§︶ るのである、﹂としている.  このように英米法においても、わが国においても、被傭者が雇傭申に修得た一般的知識は.被傭者の主観的財産を構 成するものであり.これは被傭者の生活を維持するために必要なものであるから.雇傭終了後使用する鑑とができる     ︵?︶ としている。これに対して.使用者のみが有する特殊的知識は.使用者の客観的財産であり.これは営業秘密とし        ︵8︶ て.被傭者は雇傭終了後使用することができないとしている。  被傭者の競業を契約によって制限できるのは.使用者に営業の秘密が存在する場合であると解されているが.営業 秘密とは何かということが問題となる。そこで次に営業の秘密について述べることにする。  営業秘密について.アメリヵの不法行為法リステイトメント︵閃霧鍍欝縫露酔鉱締常ζ壌窺帰霧芭第七五七条 は.事業に用いるあらゆるフォーミュラ.パターン隔考案または情報の集合︵︷欝露巳欝饗欝讐︸留蕊8鶏8密鷲− 一蝕SO漆艮窪欝薮霊︶よりなるものであり.その使用者に、それを知らずにまたはそれを用いない競業者︵8貫︶? 簿o誘︶よりも、優位な地位を占めることができるものである。それは化合物のフォーミュラ、物の製造、処理もし くは保存のプロセス.機械もしくはその他の老案のパターンまたは顧客リストなどであると定義している。

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 B弩器購は、営業秘密として保護をうけることのできる対象物としては、 ﹁秘密の機械、プロセス、フォーミユ ラ、または工業的ノウ・ハウ︵非常に重要性がましてきた特許発明の従属物︶でもよい。これはいかなる種類の惜報 でもよい。これは科学的性質のアイディアでも、文学的性質のアイディア︵物語のプ・ットやテレビのシリーズの主 題のような︶でもよく、また宜伝方法のスローガンまたは示唆でもよい。最後に、対象物は、作業、金銭の出費また はトライアル・アンド・エラーもしくは時間の消費の産物︵嘆・身9鉱乏霞ぎ身賃℃の&一9器鉱彰oまざ 黛亀 貫芭欝山段8び霞讐。。巷窪象け講。象樽冒①︶であってもよい。秘密は保護されるための対象物の構成要素ではな い。しかし、そうであるときは、異なった事情において程度の異なった不完全な秘密が対象物の保護をうけるために       ︵9︶ 十分なものとする﹂という。  また、営業秘密とは、営業に関する秘密であり、その対象は、工業的なものと、商業的なもの、あるいは、ある企 業と独立して存在しうるものと、ある企業と関連してはじめて価値あるものを問わず、すべて営業に関するものが含 まれ、営業に関し一定の制限された範囲の者にのみ知られ、そしてそれを知りまたは用いようと欲する者にただちに 知りまたは用いることができない状態的事業を意味し、それはその秘密を保持することに競業上の利益があるもので         ︵組︶ あると解されている。       ︵亘︶      ︵鴛︶  営業秘密とノウ・ハウ︵ぎo≦ひo名︶とは区別されないで混同して用いられているので、ここで両者の関係につい て述べることにする。ノウ・ハウを広義に解し、商業的、金融的なものまで含めて、営業秘密と同様に解する説もあ ︵調︶      ︵M︶ るが、ノウ・ハウは、営業秘密の対象物の一つであると解する。ノウ・ハウは技術的なものに限定し、営業秘密は、    営業秘密と営業制限      三九

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   東洋法学      四〇 技術上の知識.経験のほかに商業上の知識.顧客リストなどをも含んだ広い意昧に解すべきであろう。  企業間の競争の激烈な今鷺において、競争関係にある他の企業より優位な地位を占めるためにも.また.国際間の 技術競争に対処していくためにも.優秀な技術を開発することが必要であり.そのために多額の費用をかけて研究し ているのである。多額の研究費.時間および労力をかけて技術を開発しても.特許出願をすると技術が公開きれるか ら︵購贈磁噸ハ︶.技術の内容を競争関係にある他の企業に無償で教える鑑も㍍になり.他の企業によって.それよりもきら に優秀な技術を開発される轍とにより.その技術の財産的備値は喪失してしまうし.また.特許権を取得するまで長 期間を要するのが現状であるから.技術を秘密のまま利用することもある。ノウ・ハウは.高い技術的桶値および経 済的価値を有するものであるから.雛れを知らない競争関係にある他の企業よりも優位な地位を占めることができる   ︵癒︶ のである。技術が秘密であるから価値があるのであり.これが公知のものになったら.その稲値は無になる。ノウ・ ハウは.公開されないで秘密のまま保持されることを生命とし.その秘密の期間のみ存続し、公知公用となったとき に消滅するから.被傭者に雇傭終了後これらのノウ・ハウの使用を認めるべきではない。優秀な技術を開発するため に企業は.多額の研究費.時間および労力をかけているのであるから.ノウ・ハウは企業の重要な財産であり.保護 されなければならないから.被傭者に雇傭終了後一定期間.競業避止義務を負わせることが必要である。また.同じ       ︵照︶ ことが営業秘密のうちの商業的なものについてもいいうる。  ③ 被傭者の地位  特別の知識.技術、経験を必要としない婦人洋服生地販売の手伝人が一軒おいた隣の婦人服地販売店に就職した事

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件において、﹁被控訴人等は被傭者としては控訴会社の営業の主流にはない全くの手伝人であり、その地位も低く、 しかも解雇されれば容易に就職口を見出せないで直ちに生活に困難をきたす最も弱い立場にあり、仮りに他に就職し ても所謂営業防害になるような地位にないことも明白である。かかる弱者に対して就職の制限を約束きせることは、 たとい場所的に広島百貨店内の服生地部に限定しても、被傭者の生活権を脅かし、個人の自由を拘束する虞が十分 で、傭主の利益を保護する必要につき特別の事情の認められない本件においては公序良俗に反し無効であると解する のが相当である。このことは憲法第二二条に職業選択の自由の保障、同第二七条に勤労の権利を規定しており、旧憲 法時代と異り個人尊重の観念が遥かに進んでいる現在、国民の権利の最大の尊重を要求している憲法第一三条の趣旨       ︵π︶ からも首肯されるところである﹂とした判決がある。  会社の研究部に属し技術的秘密に関与していた被傭者が、退社後まもなく、競業関係にある会社の取締役に就任し た事件において、 ﹁技術的秘密を保護するために当該使用者の営業の秘密を知り得る立場にある者、たとえば技術の 中枢部にタッチする職員に秘密保持義務を負わせ、右秘密保持義務を実質的に担保するために退職後における一定期       ︵爲﹀ 間、競業避止義務を負わせることは適法・有効と解するのを相当とする﹂としたものがある。  単なる手伝人にすぎないような場合には、競業禁止の特約は無効とすべきであるが、使用者の営業秘密を知りうる 地位にあった者には雇傭終了後、一定期間競業避止義務を負わせて、使用者の財産である営業秘密を保護すべきであ ︵鴛︶ る。  なお、雇傭終了後に競業禁止の特約がない場合について、判例は、 ﹁被告会社退職後の競業避止ないし秘密保持の    営業秘密と営業制限       四一

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   東洋法学      顯二

灘務に関し、原被告問に特別の合意事項が存しないかぎり、原告が被告会社を退職して.自営たると雇用たるを問わ ず.右経験及び技能を活かし被告と同種の製造業務に従事することは、これによって被告のいわゆる製法上の秘密が 洩れるからといって、毫も妨げられるものでないし.したがって.原告が右経験及び技能を活かして被告と同種の製 造業務に従事する意図をもって原被告間の雇用関係を終了きせるため意思表示をおこなうことは.右意図において被 告のいわゆる製法上の秘密の洩れることが予測きれるからといって妨げられるのではないのはもとより.もはやこれ        ︵20︶ に対し就業規則上の懲戒規定をもって律すべき事項に属しないといわなければならない﹂覧礁する.  しかし.契約によって緊密な関係に立った者は.その終了後においても、相手方がその契約関係にあったことのた        ︵黙︶ めに不当な不利益を蒙らないようにしてやる義務があるといわれているように.     特約がなくても雇傭終了 後において.営業秘密を使用することはできないと解すべきであろう。 註︵三︶ O餌鵠露糞 5誉P蓼箆こ℃。c c濾  ︵2︶ 飼.麟履雛段ぎ箆①濁 麟㎝  ︵3︶ Q oぴoを︶じ8嘗鷺○欝齢Ogや︵おS︶一︾“ρOc oOO︸讃野  ︵基︶ ︾藻導零圃ど賛曾鑓鼠○霧置09 38v︵お蕊︶騨勘ρOG 。G o矯8G o  ︵5︶ く鯨訪℃8血g9ωOO●︿。の窪醇巴≦①箆鞍αq鱒欝儀司餌驚陣8け汐αqOρ蝉δ自力帥煩圏鷲ら o︾浅蕊㊤︵お段︶  ︵6︶ 奈良地判昭和四五年一〇月⋮二日、下級民集∼二巻九二〇号一三六九頁。  ︵7︶ 山肖俊夫﹁労働者の競業避止義務﹂労働法の諸問題・石井照久先生追悼論集四三二頁は﹁労働者が雇用期間中に取得す    る一般的知識たる技緬・経験は、現在および将来にわたる彼の生活手段であり、それが害されないことはなにものにも優

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  先する。それはまさに、社会における有用な一員としての労働者の存在意義そのものにほかならない。労働者の正当な利   益は、その知識をもって生計を維持し、その職業的能力の発揮を妨げられることなく活用しうるところにある。労働契約   終了後の競業避止義務を定めるにあたって、雇用期間申にえた知識・技能を用いることを一般に禁じ、その生計を妨げる   のは不合理であり、労働の自由に対する侵害である﹂と述べられる。 ︵8︶ 山隣﹁前掲﹂四壬二頁は、 ﹁新しい使用者のもとで、前の使用者の損失において、その企業の固有利益をなす知識を用   いることが労働者の生計維持にとって不可決のことでもなく、またこうした特殊的知識を用いなければ彼の職業的能力の   発揮ができないわけでもない。まさにここに、労働の自由に対する制約を許容しうるいわば余自であり、したがつてまた、   競業避止条項が有効に成立しうる許容範囲が認められる。労働の自由は、労働者の習得した一般的知識の活用を保障する   が、しかし、企業固有の特殊的知識の盗用まで許容する絶対的なものではない﹂と述べられる。 ︵9︶6畦冨吋一び藁こ−群 ︵鉛︶ 小野﹁前掲し五五五頁。 ︵n︶ 国際商業会議所︵ぽ富騒鋤鉱o器ズ︶富彗げ段99導彗霧8︶が作成した﹁ノウ・ハウ保護のための標準条項革案︵U養登   ω欝猛簿箆ギ○︿羅8馬霞夢o汐98怠89内8嶺−霞o類︶﹂の第一条は、ノウ・ハウとは、単独でまたは結合して工業目   的に役だつある種の技術を完成し、またはそれを実際に応用するのに必要な秘密の技術的知識および経験またはそれらの   集積をいうとする。﹁ノウ・ハウ保護に関する決議︵幻窃・ξぎPギ・$&・ロ鼠閤き≦出o≦︶﹂の第一条は、工業的ノ   ウ・ハウとは、工業目的に役だつ技術を完成し、またはそれを実際に適用するのに必要な応用技術知識、方法および資料   をいうと定めている。知的財産保護国際合同事務局︵瀬器窪図ぎ8讐蝕・鍔轟誌琶一ω唇霞鼠蜜○冨&象号衝鷲?   賞一ひ継汐琶冨9器頴︶が作成した﹁発明に関する発展途上国のための模範法︵窯&巴9≦剛霞U零色8ぎびqO霊旨ユ霧   呂ぎく魯賦畠︶﹂は、技術的ノウ・ハウとは、生産工程または工業技術の使用および適用に関する知識であるとする。 ︵12︶ 土井輝生﹁ノウ・ハウ﹂二頁、小野﹁前掲﹂五四八頁。 ︵B︶紋谷暢男﹁溶き類−悶○妻およびその保護﹂ジュリスト五〇〇号五七二頁は、工業的ノウ・ハウは商業的・金融的ノウ・  営業秘密と営業制限      四三

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 東洋法学       四四   ハウと合してはじめてその最大の価値を実現しうるものであり、またすでに技術導入の対象とされた汚物処理法、植物裁   培法などをもノゥ・ハウの概念から除外する必要もないとされる。したがつて、ノウ・ハウの保護一般を考察するにあた   っては商業的・金融的なものまでも含めて、広く企業秘密一般と定義づける方が望ましい態度であり、またそれがわが国   企業の要講ともおもわれると述べられる。 ︵M︶ ↓遜霧び量塾︸拶に畿は、営業秘密保護の対象として.プロセス︵ギ8霧紛霧︶.機械︵羅霧﹃鑓$︶、.アイディア   ︵回驚霧︶.秘密情報︵も o霧讐糞凶鉱農貸舞陣自︶、費用、時闘または労力をつかった利益︵瀬器簿獅窺鱒麟聴鑑帥欝蒜幾霞謬Φざ   鹸、欝濾隷罎鍵瞠︶とともにノウ・ハウをとりあげている、 ︵慧︶ 拙稿﹁ノク・ハウの法的性質口﹂前掲九〇頁以下.および﹁ノウ・ハウの現物出資し前掲八○頁以下を参照されたい. ︵憩︶ 末延三次﹁雇傭に於ける営業制眼の特約⋮英米法における響鶴薫醜濤駄嘆哩監櫛の一閥題ー﹂法学協会雑誌五二   巻二号二〇六八頁以下は.営業上の得意先も窟た営業上の秘密を構成する鵡とがありうるとされ.営業が特に圃定し鴬   得意先をその基礎とし.その氏名を知った被傭者によって将来これを奪取されるおそれがある場合は.同種の営業に従事   すべき権利を一定の範囲.一定の期闘内において制限することは.使用者の自衛上やむをえないことであろうといわれ   る○ ︵茸︶ 広嵩寓判昭和三二年八月二八旦愚裁民集一〇巻六号三六六頁。 ︵綿︶ 前掲奈良地判昭和四五年一〇月二三鼠。 ︵欝︶紋谷﹁座談会企業秘密の防衛﹂ジ講リスト羅二八号七八頁は.外国では.競業会社に就職してはいけないという条項   も.認められた事例がある。ところが、わが国の労働法上の問題としてみると.競業会社に就職してはいけないという条   項をもしいれ、それが実際事件になった場合に間題が生じてくるから.せいぜい秘密保持義務という形でのみ考.托るべき   であるといわれる。 ︵20︶ 東京地判昭和四七年一一月一騒労働判例一九七三年二月一日号六一頁。 ︵飢︶ 我妻﹁債権各論上巻﹂三七頁。

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