―109― 滋賀大学環境総合研究センター研究年報 Vol. 10 No. 1 2013
琵琶湖の水質の実態と河川流入水の影響に関する研究
1 .プロジェクトメンバー氏名と所属
石川 俊之 滋賀大学教育学部 三田村 緒佐武 滋賀大学教育学部2 .研究の目的と計画
2 − 1 目的 滋賀大学では、琵琶湖の水質の時空間変動についてこれ まで調査艇による移動観測と自記計による連続観測をおこ なってきたが、他機関、特に他大学による観測結果の整理・ 比較により、今後の滋賀大学の湖沼観測のあり方について 検討する必要がある。さらに、滋賀大学のこれまでの研究 の特色である流入河川水にも焦点を当て、現地調査を行う。 琵琶湖では、さまざまな研究機関が調査艇による観測を おこなってきた。このうち、行政による観測は琵琶湖環境 科学研究センターを中心に過去のデータの比較検討が行わ れてきた。しかし、本学、滋賀県立大学、京都大学による 観測結果は十分に収集・検討が進んでいない。特に、環境 基準が設置されていない項目が大学の調査には多く含まれ ており、湖の環境の総合的に理解に寄与するものといえる。 そこで、これらのデータの所在を明らかにし、整理・比較 することで、学術的・環境行政的にも重要な貢献が期待で きる。 2 − 2 計画 ・本学の観測結果を野帳、PC 上のデータから収集し、可 能な限りデジタルデータとする。 ・滋賀県立大学、京都大学で観測を担当する教員とコンタ クトをとり、データの所在、利用について協議し、利用可 能なデータを解析する。 ・姉川河口域を中心に水温と濁度の観測を実施する。3 .今年度の状況報告
3 − 1 琵琶湖の水質の解析 北湖の最深水域付近において琵琶湖生態系に関わる項目 を滋賀県立大学が実施した 10 年間の観測結果から鉛直、 季節、経年変化ごとに琵琶湖環境の変容との関わりから考 察した。 ここでは、流入河川水の変動影響をほとんど受けない琵 琶湖を代表する水域を選定することを目的とした。その理 由は、琵琶湖の水質形成に大きくかかわる河川河口域の役 割を評価する上で、その対照水域を理解することはきわめ て重要であるからである。 水質の保存性成分としての全イオン現存量は、琵琶湖の 湖水中ではイオンバランスが保たれていると考え、主要カ チオンの総当量をから求めた(図 1)。琵琶湖表面水の各イ オン成分濃度は水域により(集水域の影響により)かなり の分布変動が認められたが、河川流入の影響が小さい本研 究水域の定点においては、時間的にまた鉛直構造において 変化が認められるものの濃度差は小さかった。したがって、 定点は琵琶湖北湖水の代表水質を表す水域と考えてもよい。 図 1 琵琶湖北湖の定点における主要イオン(Na+ ,K+ , Mg2+ ,Ca2+ ,Cl− ,HCO3 2 − イオン)総量の鉛直分布の 季節・経年変化 3 − 2 姉川河川水による濁度成分の広がりの観測 河川からの琵琶湖への物質供給について、琵琶湖に流入 する三大河川のうち野洲川、安曇川にくらべて研究例が限 られている姉川について観測を行った。2012 年 9 月に上陸 した台風 16 号の通過後の 9 月 19 日に姉川河口から北方向 の 36 地点で濁度や水温を測定したところ、河口からおよそ 4㎞離れた地点まで 100 FTU 弱の高い濁度が観測された。 濁度の高い地点は水深 20 ∼ 40m の地点が多く含まれたが、 岸に近い 5m 前後の地点も含まれており、姉川から供給さ れた濁度成分は、いったん沖に出たあと運搬される経路と 岸に沿って運搬される経路があることが示唆された。 図 2 姉川河口域における濁度・水温(括弧内)の分布 2012 年 9 月 19 日の観測結果―110― 滋賀大学環境総合研究センター研究年報 Vol. 10 No. 1 2013
1 .プロジェクトメンバー
阿部 安成 滋賀大学経済学部 石居 人也 一橋大学大学院社会学研究科 西浦 直子 国立ハンセン病資料館 松岡 弘之 大阪市史料調査会2 .研究の目的と計画
国立療養所大島青松園をフィールドとして、そこに生き た人びとの生にかかわる諸相(生環境)について、同園所 蔵の図書と一次史料をふまえた実証研究をおこなうことを 目的とする。 そのための調査・研究、専門研究者を招聘した研究報告 会、フィールドワークにもとづいた調査記録、史料目録、 論文を発表することを計画とした。3 .今年度の情況報告
研究成果:01 阿部安成「自治のレッスン−国立療養所大 島青松園関係史料の保存と公開と活用にむけて」(滋賀大 学経済学部 Working Paper Series No.168、2012 年 8 月)、 02 同「自治のデッサン−同前」(同前 No.169、2012 年 9 月)、 03 同「自治の研鑽−同前」(同前 No.170、2012 年 9 月)、 04 同「自治のモーション−同前」(同前 No.171、2012 年 9 月)、05 阿部、石居人也、松岡弘之「自治のオリジン−瀬 戸内海の大島における自治活動の手書き日誌」(同前 172、 2012 年 9 月)、06 阿部「自治のアトラクション−大島の自 治は踊る大演幕」(同前 No.175、2012 年 10 月)、07 同「展 示の捻挫−国立ハンセン病資料館 2012 年度秋季企画展「癩 院記録」展への批評」(同前 No.183、2013 年 1 月)、08 同「わ たしの知らないあのひとの姿−ドキュメンタリー・フィル ム『61ha 絆』批評」(同前 No.184、2013 年 1 月)、09 同「抗 う生−国立ハンセン病資料館 2011 年度秋季企画展「たた か い つ づ け た か ら、 今 が あ る 」 展 へ の 批 評 」( 同 前 No.186、2013 年 2 月)、10 同「選集を解く−国立療養所大 島青松園で結ばれたキリスト教霊交会の歴史記述」(同前 No.187、2013 年 3 月)、11 同「物語を解す−国立療養所大 島青松園で結ばれたキリスト教霊交会の歴史記述」(『国立 ハンセン病資料館研究紀要』第 4 号、2013 年)、12 阿部、 石居「香川県大島の療養所に展開した自治の痕跡」(『滋賀 大 学 環 境 総 合 研 究 セ ン タ ー 研 究 紀 要 』 第 10 巻 第 1 号、 2013 年)。 活動概況:2012 年 9 月大島青松園にてフィールドワーク 実施、[同年 10 月大島青松園にてフィールドワーク実施]、 [同年 11 月大島青松園にてフィールドワーク実施]、2013 年 2 月東京にて史料調査実施、[同年 3 月大島青松園にて フィールドワーク実施] 活動内容:まず特筆すべきは本プロジェクトに関連して国 立療養所大島青松園の委託により受託研究の契約を同園と 滋賀大学とのあいだで結んだことである。それは本プロ ジェクトへの評価の一斑であり、プロジェクト実施をいっ そう進展させる基盤となった(前項「活動概況」の[ ] 内はこの契約による作業をあらわす)。 今年度のプロジェクトのようすについては、前項「研究 成果」にあげた各稿により公開発信している(滋賀大学経 済学部 Working Paper Series は滋賀大学経済経営研究所 のホームページなどから WEB 閲覧できる)。かんたんに 今年度の成果を列挙すると、①大島青松園協和会(自治会) が所蔵する 1930 年代の自治組織結成直前から現在までの 「自治日誌」370 点の目録を作成、公開し、あわせてその 日誌全点のデジタル撮影をおこなった。②同会の倉庫調査 をおこない、1920 年代以降の史料を整理しつつ目録を作 成し、その公開の準備を整えた(仮称「倉庫史料」)。「自 治日誌」と「倉庫史料」の目録作成は、これまでおこなわ れず、本プロジェクトにおいて初めて実施、公開されるこ ととなる。③かつて療養所の自治活動と療養者の全国組織 の活動を担った療養者からの聞き取りとディスカッション をおこなった。こうした作業をとおして、④療養所におけ る生の継続の 1 つの手立てとしての自治の諸相が明らかに なりつつある。療養所空間における〈生環境〉をめぐる実証研究
―111― プロジェクト研究 活動報告
1 .プロジェクトメンバー
久保 加織 教育学部教授 堀越 昌子 教育学部名誉教授、京都華頂大学教授 串岡 慶子 滋賀短期大学元教授 中平 真由巳 滋賀短期大学教授 高橋 ひとみ 滋賀短期大学特任助手2 .研究の目的と計画
現在、食育は国をあげて取り組まれている事業の一つで ある。食事バランスガイドは、食育のためのわかりやすい 説明ツールとして厚生労働省と農林水産省によって 2005 年に提案された。さらに、地域の特徴を取り入れた地域版 食事バランスガイドの作成が奨励されている。これは、地 産地消をすすめる国の施策の一つでもあり、地域色豊かな 食事バランスガイドを用いて実践活動を行うことは、食文 化の継承にもつながると期待されている。滋賀県には、琵 琶湖を中心とした暮らしに根ざした古くからの特徴のある 食文化が発達している。我々は昨年度までの研究により、 「滋賀の伝統的な料理を活用した食事バランスガイド」を 提案し、その内容を紹介する冊子を作成した1) 。 地域に根ざした伝統的な食文化は、地域の環境の中で自 然のサイクルを活かして生産された食材に依拠し、その食 材に保存性だけでなく、嗜好性や機能性など様々な面から の付加価値をつけるよう工夫されている。滋賀の食文化を 継承することは、人々の環境への関心を高め、環境の維持 改善に貢献することになると考えている。 本研究では、昨年度までの研究によって作成した「滋賀 の伝統的な料理を活用した食事バランスガイド」を用いた 食育活動を実践し、その効果を検証しながら、効果的な食 育活動とはいかなるものであるかについて検討を行った。3.今年度の状況報告
(1)第 42 回公開研究会「滋賀の特産品と食事バランスガ イド」の開催 平成 24 年 4 月 28 日に滋賀大学大津サテライトプラザに おいて、表記の公開研究会を開催した。内容は、プロジェ クトメンバーによる「滋賀の伝統的な料理を活用した食事 バランスガイド」の作成の趣旨とその内容、使い方につい て説明した後、滋賀の特産品と食事バランスガイドに関す る講演を 3 名の方にお願いした。 講演の 1 件目は、近畿農政局大津地域センターの北川治 郎右衛門氏による「地域版食事バランスガイドの作成と普 及」で、現代の食に関する様々な課題についてのわかりや すい解説と、課題解決のための食育ツールの一つとしての 食事バランスガイドについて説明をいただいた。講演の 2 件目は、前滋賀県農政水産部食のブランド推進課の臼居仁 司氏による「滋賀の伝統野菜のブランド化に向けて」で、 滋賀県の特産品の生産拡大と県民への広報を目的に滋賀県 が 実 施 し た「 県 産 農 水 産 物『 魅 力 』 向 上 事 業 」(2009、 2010)や「『地元食材』みんなでマーケティング事業」(2011) についてその成果である滋賀県の特産品を用いた新メ ニューの紹介も合わせてお話しいただいた。講演の 3 件目 は、滋賀の食事文化研究会の長朔男氏による「滋賀県の郷 土の野菜」で、滋賀県の伝統野菜について詳細な紹介をい ただいた。 本公開研究会の参加者は 53 名にのぼり、講演後には活 発な意見交換も行われた。滋賀県の伝統野菜や特産品につ いての理解を深めるとともに、伝統食の継承と適切な食生 活について参加者と共に考えるよい機会となった。 (2)「滋賀の伝統的な料理を活用した食事バランスガイド レシピ集」の作成 食育活動のための解説書として、「滋賀の伝統的な料理 を活用した食事バランスガイド レシピ集」(A 4 版 34 ペー ジ)を作成した。滋賀の伝統食材を活用した主食料理 21 品、 副菜料理 44 品、主菜料理 24 品の材料と作り方を示したも のとした。各料理の材料は、食事バランスガイドで用いる 単位 SV(つ)に合わせた 1 人分の g 数と 4 人分の慨量を 計算し、全料理の栄養価計算を行ったうえで、エネルギー 量、タンパク質量、脂質量、塩分量を記載した。また、料 理の簡単な説明や調理の基礎的な知識も掲載し、初心者に もこの解説書を利用して掲載した料理を作ることができる ように工夫した。 解説書は、初版 1000 部を印刷した。今後、滋賀大学学生、 滋賀短期大学学生、および一般市民に本解説書を配布し、 滋賀の特徴ある食材や料理の理解と継承、適切な食生活の 実践につなげたいと考えている。 1) 久保加織・串岡慶子:滋賀の伝統的な料理を活用した食 事バランスガイドの提案、滋賀の食事文化 21 号、p.35-41、2012.滋賀の食文化の継承に関する研究
∼滋賀の伝統食をとりいれた食事バランスガイドを用いて∼
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