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マネジメント・エキスパート・システム構築の
可能性についての一考察
野 本 明 成
1.はじめに
これまでに,企業経営のためのエキスパート・システム(以後,マネジメン ト・エキスパート・システムあるいはMESと呼ぶ)が数多く構築されてきたが,そ の例として栗田[5],石川[4],千田[8]によれば,企業経営診断・財務 診断等の金融エキスパート・システム,株式ポートフォリオ・資金運用等の証 券エキスパート・システム,契約査定・火災リスク評価等の保険エキスパー ト・システム,運輸ルートプランニング等の運輸エキスパート・システムなど があげられる。また,日経AI別冊[6]によれば,最近,流通業において POSデータを利用した販売計画立案システム,店舗人員管理システム等が開発 され実用化されつつあり,広告業界においても,テレビのスポット広告見積作 成支援のためのエキスパート・システムが構築され,一部実用化されているよ うである。 Clifford et al.[1]の企業活動および意思決定のレベルの分類に従えば,上記の各エキスパート・システムは,(1)企業活動上の個々の取引
(individual transaction)に関わるオペレーション・レベルの活動を支援するた めのエキスパート・システム,(2)企業の各部門の経営に影響を与える意思決 定を支援するために企業活動についてのより集約された情報を必要とするミド ル・レベルの活動を支援するためのエキスパート・システム,(3)戦略計画と 政策立案からなるトップ・レベルの活動を支援するためのエキスパート・シス162 吉田貞夫教授追悼号(彦根論叢第260,261号) テムのいずれかに属するであろう。しかし,それらのエキスパート・システムは, いずれもルーチン化された企業活動,すなわち構造づけられた(structured)活 動を支援するためのエキスパート・システムであると推察される。 そこで,本論においては,Clifford et al.[1]で示される3つの企業活動 の各レベルのうち,いずれのレベルにおいても存在しうるルーチン化されてい ない活動,すなわち非構造(unstructured)の活動を支援するためのエキスパー ト・システムについてClifford et al.[1], Hale[3], Demetrius[2]の 議論を検討しっっ,その可能性を模索する。 2.マネジメント・エキスパート・システム構築への定性推論の適用について Clifford et al.[1]においては,経営活動の各レベルにおいて,複雑な活 動すなわち非構造をもつ活動以外の活動については,ほぼ従来のエキスパー ト・システムあるいは意思決定支援システムの技術で対応可能としており,非 構造をもつ活動については,より強力な技術を持った従来のエキスパート・シ ステムに依存しなければならないとされている。 また,Demetrius[2]においても,トップ・マネジメントにおける意思決 定のうち,販売部門のような非構造な性質をもつ部門においては,エキズパー ト・システムの取り扱える性質の問題からかけ離れていることが示されている。 さらに,Hale[3]によれば,経営の意思決定のうちの非手続き的活動 (non−procedural activities)については,新しい問題を解決したり,操作可能な 手法ではたやすく記述され得ない複雑状況に取り組むべき意思決定の定式化を 必要とすると述べられており,それらはしばしば非構造であり,経験を持った 意思決定者の注目を必要とすると述べられている。 そこで,ルーチン化された問題を解決するために有効である専門家の知識に 基ずいた従来のエキスパート・システムを,非構造の問題解決のために使用す ることは困難であろうと考えられる。 経験に基ずいたノウハウを基礎に構築されたエキスパート・システムを使用 する場合には,経験によりある程度ルーチン化された問題解決方法とならざる
マネジメント・エキスパート・システム構築の可能性についての一考察 163 を得ないのでルーチン化されていない問題の解決には適さないと考えられる。 そのような問題を解決するための1つの方法として定性推論(Qualitative Reasoning)が考えられる。つまり,深い知識を使用する方法であり,対象をモ デル化することにより,その領域の基本的知識すなわち構造・機能・物理的法 則を使用し,そこから診断ルールを生成するような方法である。この定性推論 を使用すれば,知識の漏れがなくなり:不測の事態にも対応することが可能と考 えられ,時間・空間・因果関係・信念修正など異なる分野に共通する知識や推 論能力を備えることにより常識的なチェック機構を備えることが可能となると の 考えられている。 ここでは,その具体的な例としてマーケティング予測を取り上げ,深い知識 を用いた問題解決方法を考える。例えば,ある産業において各社がマーケティ ング・ミックスを採用している場合,各社のマーケット。シェアの増減に依存 して各社は従来のマーケティング部門の専門家の経験による判断に基ずき,新 しいマーケティング・ミックスを採用すればよいと考えられる。しかし,新規 参入が行われた場合にどの様に反応すればよいかは,マーケティング・ミック スの専門家の経験的知識の範囲外であろうと思われる。このような場合には, 現在の市場の状態および新規参入の形態すなわちその産業における製品のポ ジショニング,マーケティング・ミックスの内容等に論ずいた新しい市場モデ ルを構築し,その上でシミュレーションに基ずいた分析により,製品のポジ ショニング,マーケティング・ミックス等の解決策を求める必要があると考え られる。 3.結 語 マネジメント・エキスパート・システムは現在数多く構築され,その勢いは 増加するばかりである。しかし,現在のところ,それらはトップ・マネジメン ト以外の経営レベルにとどまっているようである。その原因は,それらのエキ スパート・システムが非手続的な問題解決に適応できていないからにほかなら 1)詳細については,山口[9],西田[7]を参照。
164 吉田貞夫教授追悼号(彦根論叢 第260,261号) ない。 ここでは,その解決策として定性推論が取り上げられ,その適用可能な具体 例としてマーケティング予測が用いられ,非手続的な問題解決の方法が示され たが,未だ実現されていないので近い将来の課題として残されている。 [参照文献] [1] Clifford, J. Jarhe, M., and Lucas, Jr. H. C. “Designing Expert Systems in a Business Environment”, Artificial lntelligence in Economics and Management, L. F. Pau (ed.), Elsevier Science Pub., 1986, pp.221−231. [2] Demetrius, D. G., “Expert Systems and Board Level Decisions”, Artificial Intelligence in Economics and Management, L. F. Pau (ed.), Elsevier Science Pub., 1986, pp.233−240. [3] Hale, J. A. G. “Goal Oriented Decision Support”, Computer Assisted Decision Making, G. Mitra (ed.), Elsevier Science Pub., 1986, pp. 35−48. [4] 石川昭,「ビジネス・エキスパート・システムの欧米における実用化」,『コン ピュートピア』,1988, 6,pp.100−104. [5]栗田昭平,「ビジネス用エキスパート・システム実用化の動向」,『事務と経営』, 1988, 12, pp.6−22. [6] 日経AI別冊,「登場し始めた「エギスパート・システム製品」」,『日経AI別冊』, 1989, pp. 38 一 60. [7]西田豊明,「本格的な応用期が近ずく定性推論」,『日経AI別冊」,1989, pp.190− 207. [8]千田淳,「エキスパート・システムの実用化に入った大手金融機関」,『NIKKEI COMPUTERi, 1986, 10. 27, pp.63−78. [9コ 山口高平,「深い推論と故障診断」,大阪大学知識科学研究会 第9回研究会資料集, 1988,12月,pp. 20 一 35.