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暑中環境で施工される床スラブコンクリートの養生に関する研究
原 康隆 1.はじめに 暑中期におけるコンクリート工事では,高い外気 温によりコンクリート温度や材料温度が上昇し,様々 な弊害を引き起こす。そのため,暑中期のコンクリー ト工事では品質の維持に適切な管理が必要であること が JASS5 などで規定されている。特に床スラブコンク リートでは,他の構造部材と比較して,直接外気に触 れる面積が非常に大きいため,日射や高い外気温の影 響を強く受けると考えられ,初期の養生が非常に重要 である。しかし,これらの検討は実験室規模での実験 によるものがほとんどであり,実大のサイズでの検証 はあまり行われてこなかった。そこで本研究では実大 サイズでの試験体を作製し,床スラブの養生の及ぼす 効果を検討した。 これまで,これらの懸念される弊害への対策とし て,試験体表面への給水やシートなどの養生を,養生 開始時期,養生期間およびコンクリートの水分移動に 着目して検討を行い,床スラブコンクリートにおいて 初期の養生が非常に重要であることを明らかにしてき た1)2)3)。本研究ではこれまでの実験の結果を踏まえ て,養生開始時期や養生期間を水分移動から検討する とともに,新たに適宜水を撒く散水養生を追加した 5 種類の養生方法にて検討を行った。 2.実験概要 表 1 に実験概要を示す。試験体は 756×756×200 ㎜ の寸法で実大の床スラブを模擬して作成した試験体 (図1参照:以下床試験体)と,強度管理用に作成した 直径 100mm×高さ 200mm の円柱形試験体を使用した。養 生は表 1 に示すように無養生,給水養生,シート養生, 膜養生,散水養生の 5 種類を所定の養生開始時期およ び養生期間(図2参照)で行い,15 種類を設定した。 散水養生は,所定の養生開始時間から一日2回,一回に つきおよそ 1.2 ㎏の水を試験体表面に散水した。養生 の開始時期,養生期間,散水する水分量に関しては,こ れまでの実験にて行ってきた水分移動に関する実験を 踏まえて,打込みから12時間までの蒸発量と吸い込 み量分の水とした。散水養生のなかでも霧吹きにて噴 霧して散水した試験体では,30 分に 1 回のペースで霧 吹きにて 200g/㎡試験体表面に満遍なく水を撒いた。噴 霧1では1日目と2日目で合計 21 回,噴霧2では2日 目のみに 13 回噴霧を行った。コンクリートは練上がり 時及び荷卸し時に,温度,スランプ,空気量,単位容積 質量を測定した。また荷卸し後のコンクリートでブリ ーディング及び凝結と水分蒸発量,打込み後の床スラ ブ試験体で内部温度を測定した。以降は所定の材齢で 圧縮強度試験やトレント法による透気試験を実施した 図 1 試験体概要 図 2 養生開始時期および養生期間55-2 材齢13週で圧縮強度試験と中性化試験用に床試験体 コアを採取した。採取は図1に記載の箇所で行った。な お,噴霧 1,噴霧 2 の試験体に関しては,一つの試験体 を仕切りで2つに分けて試験体を養生したため,圧縮 強度試験に供した試験体の採取位置が異なる。 表2に今回使用したコンクリートの材料,また表3 に今回使用したコンクリートの調合を示す。いずれも 福岡地域で一般的に用いられる範囲のものである。コ ンクリートは福岡市内のコンクリート工場で練混ぜを 行い,同工場に隣接する屋根付きの実験場にて打設,養 生を行った。 3.実験結果 図3にコンクリート温度の経時変化を示す。図は各 試験体の表面から深さ 15 ㎝の箇所に熱電対を設置し, 内部の温度を測定したものを示している。4つの試験 体の中でシート養生の試験体の最高温度が一番高くな っている。これはシートが一種の断熱効果をもたらし ていると考えられる。給水養生では,最高温度が無養生 のものと比べて若干高くなっているが,以降は試験体 表面に水が給水されているため,温度は無養生のもの より低くなっている。散水養生では,散水を行っている 材齢2日までの期間では給水養生に近い値を示してお り,無養生の試験体と比べて内部温度が低くなってい るが,散水を終了した後の材齢2日目以降では無養生 の試験体と近い値となっており,給水養生を行った試 験体と比較すると内部温度は高くなっている。このこ 20 25 30 35 40 45 50 55 60 0 1 2 3 4 5 コンク リー ト温度( ℃ ) 材齢(日) 無養生 給水 シート 散水 図 3 コンクリート温度 10 12 14 16 18 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
表面含水率(%)
ブリーデ ィング及び水分蒸発 量 ( cm 3/ cm 2)打込みからの経過時間(h)
JISブリーディング(蓋あり) JISブリーディング(蓋無) 蒸発 表面含水率 図 3 コンクリート温度の経時変化 図 4 ブリーディング,水分蒸発量,表面含水率 表 1 実験概要 試験体 寸法 養生方法 I.D 開始時期 期間 室内無養生 室外無養生 ブリ0-2d 2日間 ブリ0-5d 5日間 ブリ4-5d ブリーディング水消失4時間後 5日間 24h-5d 材齢24時間 5日間 ブリ0-2d 2日間 ブリ0-5d 5日間 ブリ4-5d ブリーディング水消失4時間後 5日間 24h-5d 材齢24時間 5日間 散水1-2d 2日間、2回/日 散水1-5d 5日間、2回/日 散水2-5d 材齢24時間 5日間、2回/日 噴霧1 プロクター貫入抵抗値3.5N/mm2 2日間、数回/日 噴霧2 材齢24時間 1日間、数回/日 膜養生 膜養生 ブリーディング水消失直後 -管理用 φ 100×200 標準水中養生(標水) 床スラ ブコア 756× 756× 200 (㎜) 測定項目 フ レ ッ シ ュ 硬 化 後 給水 シート 散水 無養生 ・内部温度 ・水分蒸発量 ・スランプ,空気量 単位容積質量 ・JISブリーディング ・円筒ブリーディング ・プロクター貫入試験 ・N式貫入試験 ・表面含水率 ・圧縮強度 ・透気性状 ・促進中性化 ・ポロシメータ ブリーディング水消失 直後 ブリーディング水消失 直後 プロクター貫入抵 抗値3.5N/mm2 - -表 2 使用材料 種類 物性等 セメント 普通ポルトランドセメント 密度3.15g/㎤ 水 地下水,上澄水 -細骨材 玄界灘産海砂 表乾密度2.57 g/㎤ 粗粒率2.55 粗骨材 福岡県古賀産砕石 表乾密度2.72 g/㎤ 実積率59.0 混和剤 AE減水剤 遅延型Ⅰ種 表 3 調合表 C W S G 混和剤 1 8 ±2 . 5 5 3 4 5 3 5 0 1 8 5 7 6 3 9 8 5 4 . 5 5 単位量( ㎏/ ㎥) 目標スラン プ( ㎝) W/ C (% ) S/ a (% ) 表 4 フレッシュ性状 スランプ (cm) 空気量 (%) コンクリー ト温度(℃) 外気温 (℃) 練上がり 18.5 4.1 35 35 荷卸し 15.5 3.7 35 3555-3 とから給水や散水等の試験体表面に行う養生でも,コ ンクリートの内部の比較的深い部分の内部温度に若干 影響が出ていることがわかる。 図4にブリーディング,水分蒸発量,表面含水率の試 験結果を示す。打込みから2時間の時点でブリーディ ングが終了し,以降表面含水率が大きく低下している。 また,ブリーディング試験では,蓋の有無によるブリー ディング量の差が水分蒸発量の値とほぼ一致している。 このことからブリーディング終了までの期間で試験体 表面から失われる水分は,蒸発で失われるものが主で あり,その後の期間においては,水和と蒸発により水分 が大きく失われる。 図5にプロクター貫入試験およびN式貫入試験の結 果を示す。練混ぜから約3時間,打込みから約2時間 の時点で凝結が始まっており,表面含水率が低下して いく時間と一致している。以上の結果より,表面から の蒸発と水和により多くの水が失われるため,このタ イミングで養生を開始するのが好ましいと考えられ る。 図 6 に圧縮強度試験の結果を示す。養生を行ったす べての試験体において,無養生の試験体と比べて圧縮 強度が高くなっている。給水養生が養生開始時期や期 間に関わらず強度が高くなる傾向にある。シート養生 では給水養生ほどではないが圧縮強度が無養生のもの よりも大きくなっていることが確認できるが,材齢 24 時間が経過してから養生を開始した試験体は,無養生 と値が近くなっており,材齢 24 時間が経過してからシ ート養生を開始しても効果が薄いことがわかる。給水 養生とシート養生の両方の養生で養生の開始時期が 同じ場合,養生期間が長いほど圧縮強度が大きくなっ ている。散水養生では,噴霧して散水した試験体二つを 除く3つの試験体では,給水養生に近い結果が得られ ていることがわかる。今回は与える水の量を水分蒸発 量と吸い込み量を実験により測定して決定したが,給 水養生に近い強度が得られていることからも,給水養 生による給水は過剰であり,少なくとも今回の実験で 散水した水量程度でも十分に養生の効果が得られるこ とが分かった。一方で,噴霧して水を散布した試験体で は,シート養生の試験体と近い値となった。噴霧器によ る今回程度での水量でも無養生のものに比べると圧縮 強度が高くなっていることから,少なくとも水を表面 に撒く程度でも無養生のものと比べると,コンクリー トの品質改善が望めることがわかる。 図6にトレント法による透気試験の結果にトレント 法のグレーディングによる評価 4)を併記したものを示 す。すべての養生方法において無養生のものと比べる と透気係数が小さくなっている。しかし,材齢 24 時間 で養生を開始したシート養生ではそれほど大きな効果 は見られず,無養生に近い値となった。これは圧縮強度 と同様の傾向であり,シート養生を行う場合はできる だけ早く養生を開始するのが望ましいと言える。養生 ごとの比較としては,給水養生と散水養生の2種類が 40.6 37.7 25.8 37.838.7 39.7 36.5 28.9 31.2 29.4 27.8 39.5 37.9 35.3 29.930.129.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 標水 1 標水 2 ブリ 0 -2d ブリ 0 -5d ブリ 4 -5d 24h -5d ブリ 0 -2d ブリ 0 -5d ブリ 4 -5d 24h -5d 散水 1 -2d 散水 1 -5d 散水 2 -5d 噴霧 1 噴霧 2 無 養 生 給水 シート 散水 膜 養 生 圧縮強度 (N/ ㎟ ) 0 100 200 300 400 500 600 0 5 10 15 20 25 30 0 2 4 6 N 式貫入量( ㎜) 貫入 抵抗値 (N/ mm2 ) 練混ぜからの経過時間(h) プロクター貫入試 験(0.5h) N式貫入試験 図 5 貫入試験 図6 圧縮強度
55-4 近い値となっており,良好な透気性状を示した。これも 圧縮試験の結果と同じであり,散水養生が給水養生と 同程度に有効であることが圧縮強度試験と透気試験の 両方で確認できた。シート養生ではブリーディング終 了後に養生を開始し,2日間と5日間それぞれ養生し た試験体についてはグレーディングでも「普通」の範囲 内に収まっており,比較的良好な値を示した。しかし, ブリーディング終了から4時間で養生を開始した試験 体では透気係数が 1.24 となり,「悪い」という評価とな っている。このことからもシート養生の開始時期はブ リーディング終了後できるだけ早い時期が良いことが わかる。噴霧しての散水養生を行った試験体は「悪い」 という評価の範囲に収まっており,シート養生の材齢 24 時間で養生を開始したものに値が近くなっている。 無養生の試験体よりも透気係数自体は小さくなっては いるが,その効果はあまり大きくなく,給水や他の散水 養生ほど十分な養生効果があるとは言えない。噴霧に よ る 散 水 を 行 っ た 試 験 体 で は 噴 霧 一 回 の 養 生 で 約 0.02g/㎠散水を行っているため,噴霧1と噴霧2でそ れぞれ合計 0.42 g/㎠と 0.26 g/㎠の水を試験体に加え たことになる。シートブリ 4-5dの打ち込みから養生終 了までの期間で蒸発によって失われる水量が 0.426 g/ ㎠である。噴霧1で蒸発分と同じ程度の水量,噴霧2で 蒸発量より若干少ない程度の水量を与えたことになる。 このことからシート養生は本来蒸発していくはずだっ た水量分の水を与える場合と同程度の養生効果であり, 十分な水和に必要な水を保有することができておらず, 給水および散水養生ほどは圧縮強度と透気性状の両 面で大きな改善は見込めないことがわかった。 圧縮強度と透気性状の両試験の結果より,散水養生 は今回散水した打ち込みから12時間までの蒸発量 と吸い込み量の合計分の水量を半日に1回散水する 程度でも,十分これまでの給水養生と同程度の結果が 得られることがわかった。これまでの給水養生だと常 に試験体表面に水を張る必要があり,実際の施工現場 だと現実的な養生方法とは言えなかったが,散水であ れば散水の回数や水の量次第ではあるが,幾分現実的 である。一方でシート養生は,あくまでコンクリート が有する水分の蒸発を防ぐ程度の養生効果であり,十 分な水和に必要な水を確保するための養生としては 不十分であり,次善の策でしかないと考える。 散水養生に必要となる水の量と適切な散水の回数を 把握できれば,より効率良く現場での適用を考えた養 生方法とすることが可能である。 4.まとめ ・シート,給水,散水等すべての養生で,無養生のもの と比べて圧縮強度と透気性状の両方で改善が見られ た。しかし,シート養生では水和に十分な水を供給で きておらず,次善の策である。 ・養生を開始するタイミングは,水和と蒸発によって大 きく水分が失われる,ブリーディングが終了するタ イミングが望ましい。 ・養生として水を与える場合は,少なくとも半日に一回 所定の水量(0.21g/㎠)を供給するだけでも十分な養 生の効果が得られることがわかった。 〈参考文献〉 1)小山智幸,湯浅昇,伊藤是清,大谷俊浩,前田禎夫,中島草太, 暑中環境下で施工される床スラブコンクリートの品質管理に関 する研究 その1研究の概要と速報,日本建築学会九州支部研 究報告,第53 号,pp.21-24, 2) 申相澈,小山智幸,湯浅昇,伊藤是清,小山田英弘,前田禎夫, 原康隆,暑中環境下で施工される床スラブコンクリートの品質 管理に関する研究 その2 養生方法及び期間の影響,日本建築 学会九州支部研究報告,第54 号,pp37-40, 3)原康隆,小山智幸,湯浅昇,伊藤是清,小山田英弘,前田禎夫, 申相澈 暑中環境下で施工される床スラブコンクリートの品質 管理に関する研究 その3 養生方法及び期間の影響Ⅱ,日本建 築学会九州支部研究報告,第55 号, 4)井上翔,秋山仁志,岸利治,魚本健人,現場簡易透気試験によ る実構造物コンクリート表層の透気性状とその相互比較,第35 回土木学会関東支部技術研究発表会 図 7 透気性状