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日本人による発音を韓国人はどう知覚するか:無声破裂音と有声破裂音について [ PDF

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日本人による発音を韓国人はどう知覚するか:無声破裂音と有声破裂音について

キーワード:無声破裂音(日本語),有声破裂音(日本語),平音(韓国語),文字情報,VOT,F0 行動システム専攻 成 儒彬 背景 韓国語の破裂音の平音は基本的に無声音 (/k,t,p/) であるが,語中に位置すると文字 (ㄱ,ㄷ,ㅂ) は変化 せず有声音 (/g,d,b/) で発音される。また,このよう な音声的変化は単語の意味変化に影響を与えない。2000 年,韓国では文化体育観光部 (部は日本の省に相当) 所 属の国立国語院によりローマ字表記法が改定され,語頭 の破裂音の平音 (以下平音) の表記は語中と同様に有声 音で表記するように統一された (国立国語院,2005)。そ の結果,平音は,日本では無声音でありながら,韓国で は有声音であるという表記上の乖離が生じるようになっ た。例えば,キムチとgimchi,プサンと Busan である。 日本人 (日本語話者) が韓国語を話す場合,/キムチ/と/ プサン/の/キ/と/プ/は韓国人 (韓国語話者) に平音として 聴こえるのだろうか。韓国人が日本語の破裂音の区分が 困難であることは報告されているが (e.g., 中東, 1998),日本人が韓国語の発音を適切に行うための表記 法という観点から,韓国人は無声破裂音を平音として知 覚するかについては十分な検討がなされてこなかった。 本研究では,音声知覚における視覚的手がかりと聴覚 的手がかりに関する先行研究の知見から2 つの仮説を立 てて検討を行った。Borowsky et al. (1999) は文字情報が 音声知覚を促進する効果を示している。仮説1 では,韓 国人は無声破裂音と有声破裂音の区分が困難であり,文 字情報による音声知覚の促進効果が生じるため,無声破 裂音も有声破裂音も平音として知覚すると予想した。一 方,韓国人は母語の破裂音の区分にVOT (声帯振動開始 時間と破裂開始時間の差) や F0 (基本周波数) などの聴 覚的手がかりを用いている可能性が考えられている (e.g., 鏑木,2012)。仮説 2 では,韓国人は無声破裂音と 有声破裂音の区分が困難であるが,韓国人が破裂音を区 分する要因であると考えられるVOT や F0 などの聴覚的 手がかりを用いるため,無声破裂音と有声破裂音のうち のどちらかを平音として知覚しやすくなると予想した。 実験 1 韓国人は無声破裂音または有声破裂音を平音に対応づ ける際,文字情報による音声知覚の促進効果が見られる のかを検討することが目的であった。 方法 音声刺激 発話者は韓国での居住経験のない日本人男 女4 名であった。予備実験から選定された語頭に平音が 含まれる韓国語単語24 個 (子音種 3×単語 8) が語頭無 声音と語頭有声音になるようにカタカナ表記したもの (e.g., コギ,ゴギ) と 8 個のダミー問題の単語 (e.g., ナ イ,マイ) の音声を録音した。録音には SONY ICD-SX850 ステレオ IC レコーダーを使用し,音声刺激の切 り取りや音声刺激間の音量の正規化にはAudacity 2.1.0 を使用した。 実験参加者 本実験はオンラインで行う実験であった ため,参加者が積極的に課題に取り組んでいたかを調べ るダミー問題が含まれていた。ダミー問題は,日本語音 声に対する韓国人の知覚上の困難点を全般的に調べた研 究 (e.g., 中東,1998) から困難さが報告されていないも のであり,/n/と/m/を区分するものであった。本実験で は全8 問中 7 問以上 (87%) 正解した人を参加者として カウントし,機材環境を可能な限り統制する目的で,最 後の質問紙でイヤホンを装着したと回答した人を参加者 としてカウントした。これらのカウント基準により韓国 人男女95 名が参加した (男性 26 名,女性 69 名,平均 年齢23.41 歳)。日本での居住経験があると回答した参加 者はいなかった。

材料 質問紙フォームはNaver form (NAVER 社) を使 用した。Naver form を用いた理由は IP アドレスで回答 者を識別し,重複回答を防止する機能があるためであっ た。課題はjsPsych (de Leeuw, 2015) を用いて作成され, 実験全体の流れは,注意事項→準備画面→教示を含む練 習試行2→準備画面→本試行 32 (子音種 3×単語 8+ダミ ー問題8) →正解率表示→コード表示であった。子音種 や単語の順番はランダムであり,音声の選択肢の呈示場 所はカウンターバランスを取った。4 名の発話者の音声 は同じ回数呈示されるようにした。 手続き 参加者はNaver form で教示を受け,課題の URL へアクセスした。課題は二つの選択音声のうち, ターゲットの文字単語の発音として適切だと考えられる

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ものを選択することであった (図 1)。課題終了後は Naver form に戻り,イヤホンの装着有無,コード,年齢 などの質問に回答した。謝礼は約150 円相当のお菓子の 引換券であり,ダミー問題の正解率が87%以上の人のみ 受け取ることができ,その内容は最初に明示されてい た。 図1. 課題の画面 (実際は韓国語,括弧内表記無し) 結果と考察 各参加者が語頭無声音と語頭有声音を選んだ割合を算 出し,すべての参加者の平均値と標準誤差を求めた。そ の結果,参加者が語頭有声音を選んだ割合は55.31%で あった (図 2)。語頭有声音を選んだ割合とチャンスレベ ル (50%) との差を参加者内で調べる t 検定 (両側検定) では,韓国人は有意に語頭有声音を平音として選択する ことが示された (t(94)=2.36, p= .02)。 データサンプルにおける語頭有声音の選択率は 55.31%と語頭無声音と比べ圧倒的に選択されるものでは なかった。これは,韓国人は日本語の破裂音の区分が困 難であるという先行研究 (e.g., 中東,1998) を支持する 結果であると考えられる。しかしながら,有意に有声破 裂音が選択されたことは,文字情報により無声破裂音で も有声破裂音でも平音として聴こえるという促進効果は 有効でないことを示唆する。 図2. 韓国人参加者が語頭無声音または語頭有声音を 平音として選択した割合 実験 2 聴覚依存度の高い条件でも実験1 と同様の結果が得ら れるのかを検討することが目的であった。 方法 音声刺激 発話者は韓国での居住経験のない日本人男 女4 名と日本での居住経験のない韓国人男女 4 名であっ た。使用単語は実験1 の単語から作成された無意味単語 であり,予備実験により韓国語話者に親密でない単語で あることを確認した。無意味単語24 個 (子音種 3×単語 8) を語頭無声音と語頭有声音になるようにカタカナで 表記したもの (e.g., コディ,ゴディ) と 8 個のダミー問 題の単語 (e.g., ナピ,マピ) の音声を録音した。録音に はSONY ICD-SX850 ステレオ IC レコーダーを使用し, 音声の切り取りはPraat 6.0.36 を使用した。音声間の音 量の正規化はAudacity 2.2.0 を使用した。 実験参加者 実験1 と同様にオンラインで参加者を募 集し,同じカウント基準により韓国人男女81 名が参加 した (男性 18 名,女性 63 名,平均年齢 20.75 歳)。日本 での居住経験があると回答した参加者はいなかった。 材料 実験1 と同様であり,実験全体の流れは,注意 事項→準備画面→教示を含む練習試行 4→準備画面→本 試行32 (子音種 3×単語 8+ダミー問題 8) →正解率表示 →コード表示であった。 手続き 課題と謝礼以外は,実験1 と同様であった。 課題はターゲット音声と2 つの選択音声を聴き,ターゲ ット音声とより一致すると考えられる選択音声を選ぶこ とであった (図 3)。謝礼は,約 100 円相当のお菓子の引 換券であった。 図3. 課題の画面 (実際は韓国語,括弧内表記無し) 結果と考察 各参加者が語頭無声音と語頭有声音を選んだ割合を算 出し,すべての参加者の平均値と標準誤差を求めた。そ の結果,参加者が語頭有声音を選んだ割合は64.25%で あった (図 4)。語頭有声音を選んだ割合とチャンスレベ ル (50%) との差を参加者内で調べる t 検定 (両側検定) では,韓国人は有意に語頭有声音を平音として選択する ことが示された (t(80)=10.23, p= .001)。 音声のVOT と F0 が平音と有声破裂音を対応づける聴 覚的手がかりとなるかについて検討するため,全288 個 の音声刺激のVOT と F0 を Praat 6.0.36 で分析した。発 話者ごとに子音別のVOT の平均値,最小値,最大値を 一文字目の発音のみが異なる二つの音声のうち、以下の単語 の発音として適切な音声をお選びください。 고기 (kogi,ターゲット単語) 選択音声 1 (コギ,日本人音声) 選択音声 2 (ゴギ,日本人音声) 一文字目の発音のみが異なる二つの音声のうち、以下のターゲ ット音声の発音と最も一致する音声をお選びください。 ターゲット音声 (kodi,韓国人音声) 選択音声 1 (コディ,日本人音声) 選択音声 2 (ゴディ,日本人音声)

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求めた結果,平音は無声破裂音とVOT が類似してい た。日本人発話者と韓国人発話者のそれぞれの全体の傾 向をよく表す発話者の例を図5,6 に示す。F0 は,韓国 人発話者は平音しか発話しておらず相対性を調べる破裂 音種が本実験ではないため,日本人発話者についてのみ 平均値,最小値,最大値を求めた。全発話者において平 均値は有声破裂音の方が無声破裂音より低い傾向にあっ た (図 7 は例)。そこで無声破裂音と有声破裂音の全ペア (24 ペア×4 発話者=96 ペア) について有声破裂音の方 が低いF0 を示すペアの割合を求めた結果,96 ペア中 88 ペア (91.67%) において有声破裂音の F0 が低かった。 実験2 の結果は,実験 1 の結果が聴覚的手がかりによ るものであることを明らかにするものであった。韓国人 は無声破裂音と有声破裂音の区分が困難であるが,母語 の破裂音を区分するVOT や F0 などの聴覚的手がかりを 用いるため,無声破裂音と有声破裂音のうちのどちらか を平音として知覚しやすくなるという仮説2 は支持され た。また,VOT が類似する無声破裂音ではなく有声破 裂音を選択することから,韓国人は無声破裂音と有声破 裂音の相対的なVOT の差を用いる可能性が考えられ る。 図4. 韓国人参加者が語頭無声音または語頭有声音を 平音として選択した割合 図5. 日本人発話者 (女性,24 歳,佐賀県出身) の子音 ごとのVOT の平均値,最小値,最大値 図6. 韓国人発話者 (女性,22 歳,仁川出身) の子音ご とのVOT の平均値,最小値,最大値 図7. 日本人発話者 (女性,24 歳,佐賀県出身) の子音 ごとのF0 の平均値,最小値,最大値 実験 3 日本人参加者に実験2 と同様の課題を行い,日本人と 韓国人で用いる聴覚的手がかりが異なるかを調べること が目的であった。 方法 実験参加者 実験2 と同様にオンラインで参加者を募 集し,同じカウント基準により日本人男女83 名が参加 した (男性 26 名,女性 57 名,平均年齢 25.36 歳)。韓国 での居住経験があると回答した参加者は6 名であった。 材料 実験2 の材料を日本語に訳して使用した。 手続き 実験2 と同様であった。ただし,選択音声 (日本人音声) が一文字目のみ異なっていることは日本人 参加者には明らかであると判断し,一文字目の発音のみ が異なるという教示は含まなかった。 結果と考察 各参加者が語頭無声音と語頭有声音を選んだ割合を算 出し,すべての参加者の平均値と標準誤差を求めた。そ の結果,参加者が語頭有声音を選んだ割合は5.97%であ

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った (図 8)。語頭無声音を選んだ割合とチャンスレベル (50%) との差を参加者内で調べる t 検定 (両側検定) で は,日本人は有意に語頭無声音を平音として選択するこ とが示された (t(82)=48.1, p= .001)。また,韓国での居住 経験があると回答した参加者の傾向は,語頭無声音を選 ぶという全体の傾向と変わりはなかった。 実験3 の結果は,日本人と韓国人では平音を知覚する 際に用いる聴覚的手がかりが異なることを示すものであ った。日本人は韓国人と異なり,聴覚的手がかりとして VOT の類似性を用いるため,VOT が類似する平音を無 声破裂音として知覚したのであると考えられる。 図8. 日本人参加者が平音を語頭無声音または語頭有声 音として選択した割合の平均値 総合考察 本研究は,日本人が韓国語の発音を適切に行うための 表記法という観点から,韓国人は無声破裂音を平音とし て知覚するかについて検討することを目的として行われ た。韓国人が無声破裂音または有声破裂音を平音に対応 づける場面においてもBorowsky et al. (1999) が示してい る文字情報による促進効果が有効に働くなら,韓国人は 無声破裂音と有声破裂音の区分が困難ではあるため (e.g., 中東,1998),無声破裂音も有声破裂音も平音とし て知覚しやすくなり,無声破裂音と有声破裂音とで選択 率の有意差は見られないと予想されていた。しかし,本 研究では,韓国人は無声破裂音と有声破裂音の区分が困 難ではあるが,無声破裂音と有声破裂音の区分には母語 の破裂音を区分する際の聴覚的手がかりが有効に働くた め,無声破裂音より有声破裂音の方を平音として知覚す ることが示された。さらに,より選択されたものが日本 において平音の表記として用いられている無声破裂音で はなく,有声破裂音の方であったことは日本人と韓国人 では平音を知覚する際に用いる聴覚的手がかりに差があ ることを示唆し,実験3 でその差が明らかとなった。 日本人と韓国人で用いる聴覚的手がかりに相違が見ら れた理由は,日本語における無声破裂音の特徴と韓国語 における平音の特徴にあると考えられる。日本語の場 合,無声破裂音は有声破裂音よりVOT が長く,無声破 裂音よりVOT が長い破裂音は存在しない (Shimizu, 1989;鏑木,2012)。したがって,日本人に有声破裂音 よりVOT が長い破裂音 (e.g., 平音) はすべて無声破裂 音に知覚されるのであると考えられる。一方,韓国語の 場合,VOT は濃音≦平音<激音の傾向が見られ (Lisker & Abramson,1964;Shimizu,1989;鏑木,2012),F0 で は平音<濃音≦激音の傾向にある (Shimizu,1989;鏑 木,2012)。すなわち,平音は韓国語において VOT は短 く,F0 は低いという特徴を持つ。したがって,VOT が 短く,F0 が低い破裂音 (e.g., 有声破裂音) は韓国人に平 音として知覚されやすいのであると考えられる。 本研究の結果は,現在の日本における表記は韓国語教 育現場において補足が必要なものであることを示唆す る。「語頭の破裂音の平音は日本人の耳には濁らずに聴 こえても,それを韓国人に対して発音するときは濁らし た方が伝わりやすい」と補足を加えることは,日本人と 韓国人のコミュニケーションの円滑さを向上させられる ものであろうと考えられる。 引用文献

Borowsky, R., Owen, W.J., & Fonos, N. (1999). Reading speech and hearing print: constraining models of visual word recognition by exploring connections with speech perception. Canadian Journal of Experimental

Psychology, 53, 294-305.

de Leeuw, J. R. (2015). jsPsych: A JavaScript library for creating behavioral experiments in a web browser. Behavior Research Methods, 47, 1-12.

doi:10.3758/s13428-014-0458-y. 鏑木 時彦 (2012). 日本語,中国語,朝鮮語における破 裂子音生成の特徴分析 日本音響学会報, 68,213-223. 국립국어원 (2005). 로마자 표기법 개정 및 보급 (国立国語院 (2005). ローマ字表記法の改定及び普及)

Lisker, L., & Abramson, A. S. (1964). A cross-language study of voicing in initial stops: Acoustical measurements. Word, 20, 384-422.

中東 靖恵 (1998). 韓国語母語話者の英語音声と日本語 音声―聞き取り・発音調査の結果から― 音声研 究,2,72-82.

Shimizu, K. (1989). A cross-language study of voicing contrasts of stops. Studia Phonologica, 23, 1-12.

参照

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